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94-2

神も魔王も逃げ出してしまうのではと思えるほどの力が溢れ出す。


さて・・・・ここで問題がある。


これほどの力を前にして、戦意を既に失った少女たちが反応できるか? 


いや・・・それ以前に・・・・



「ぎにゃああああああああああああああああああああ!?!?!?」



「あ・・・うああA▲○×A□B~~~!?!?!?」



正気を保つことすら無理だろう・・・・


二人はシモンたちが技を繰り出す前に、涙を流しながら口から泡を吹いて倒れてしまったのだった。


パタンと驚愕の表情のまま気絶した二人を見おろしながら、シモンたちは出した力を消す。


これぞ正に史上最強のハッタリだった。


「気を失ったか。・・・まっ、お仕置きはこのぐらいでいいかな?」


「まあ、一応敵みたいだし、少しぐらいはお灸を据えないとね~」


「かっかっか、トラウマにならなきゃいいがよ~。しっかし冗談とはいえ、まさか気絶までするとはよ~~」



「「「「・・・・・・・・・・鬼だ・・・・・・」」」」



一応三人ともハッタリだったらしいので、当然その力で暦と環に攻撃するつもりは無かった。

だが、演技とはいえこの三人の力で目の前で凄まれれば、誰だってこうなっただろう。


「か、カワイソすぎるえ・・・・・・・」


「あ、悪夢ですわ・・・あんなものを目の前で見せられれば・・・・」


「ま、まあ・・・・パパたちが本当に使ってたら、アイツら細胞も残らず消し飛んでただろうからな・・・・」


「つうか・・・・三人揃って俺っちたちの敵じゃなくって・・・・本当に良かったな・・・・・」


木乃香たちは気絶している二人に心の底から同情し、カモの呟きに誰もが心の底から頷いたのだった。


何はともあれ、暦、環の二人はリタイアと同時にしばらくドリルと筋肉とタバコの悪夢にうなされることになるのだった。


「さ~て、予定よりあのバカ共が時間を掛けちまったが・・・果たしてこの後はどうなるのやら・・・・・シモンの知り合いのところに間に合うのかね~」


新たなタバコに火をつけて、ハルカは冷静に騒ぎが起こっているであろう街の中心の方角を見ながら呟いた。











「暦? ・・・・・・・環?」


二人の部下の泣き叫ぶ声が風に乗って聞こえた気がした。


(なんだ? ・・・・気のせいか? だが・・・・何か嫌な予感が・・・・)


ただならぬ気配が感じる方角を眺めるフェイトだが、余所見をしている暇は無い。


「余所見をするな、フェイト! 君の相手はここに居る!」


「むっ!?」


「獄炎崩山托天掌!!」


接近したネギのゼロ距離からの掌底がフェイトの腹部に直撃する。そしてこの機を逃すことは無い。ネギの攻撃はまだまだ続いた。


「右腕解放(デクストラーエミッタム)  白雷掌(びゃくらいしょう)!!」


フェイトの開いた腹部を思いっきり掴み電流を流し込む。その一瞬で動きが止まったフェイトにすかさずネギは拳を叩き込む。


「雷華崩拳!!」


嵐のような攻撃をフェイトは防ぐことが出来ずに宙を舞う。その姿を見て、ネギは心の中で勝機を見出した。


(勝てる! 今・・・・今ここでアイツを倒す!!)


しかしそれはまだ早かった。


「ヴィシュタル・リシュタル・ヴァンゲイト・・・・」


「詠唱!?」


一瞬チラついた勝機に焦ったネギはフェイトをこの場で仕留めようと、宙へ飛ぶが、吹っ飛ばされたフェイトがその瞬間に目を光らせ、空中で体勢を立て直してネギを迎え撃つ。


「小さき王(バーシリスケ・ガリオーテ) 八つ足の蜥蜴(メタ・コークトー・ポドーン・カイ) 邪眼の主よ(カコイン・オンマトイン) その光(ト・フォース) 我が手に宿し(エメーイ・ケイリ・カティアース) 災いなる(トーイ・カコーイ・デルグマティ) 眼差しで射よ(トクセウサトー)」


「――ッ!?」


「石化の邪眼(カコン・オンマ・ペトローセオース)」


右手の指からレーザー光線のような攻撃がネギに向ってくる。


「く、間に合え!」


ネギは慌てて空中を虚空瞬動で方向転換し、フェイトのレーザーから逃れるが、逃れた空の上には、回避場所を予測して既にフェイトが待ち構えていた。


「何でも一気にやろうとするからこうなるのさ」


「し、しま・・・・・」


「コツコツと地道にいくのもいいんじゃないかな?」


ネギを空中から叩き落すようにフェイトは拳に渾身の力を込めて殴りつける。遠目から見たら流れ星のような勢いでネギは地上の建物を貫通しながら街の中にある大きな川へと落下する。


「それで・・・終わりじゃないよね?」


巨大な水しぶきを上げて落下したネギに追撃すべく、フェイトもそのまま後を追って、川へと頭から迫ってくる。

しかし落下した際にあげた水しぶきの直後、川で再び大きな水がはねて、中から何かが飛び出した。


「当然だ!」


飛び出したのはネギだ。

フェイトの一撃にひるむ事無く、戦う意思を捨てていない。


「だろうね。ヴィシュタル・リシュタル・ヴァンゲイト!! 障壁突破!! 石の槍(ト・テイコス・ディエルクサストー ドリュ・ペトラス)!!」


「ラス・テル マ・スキル マギステル! 来れ(ケノテートス・) 虚空の雷(アストラプサトー) 薙ぎ払え(デ・テメトー) 雷の斧(ディオス・テュコス)!!!」


両者の呪文が交錯しあう。

互いに譲ることも無く巨大な魔力がぶつかり合い、衝撃波で起きた煙と水しぶきが両者の姿を隠したが、二人は既に相手が見えない状態でも動いていた。


「ここで君を終わらせる!!」


「無理だね! 結局何も掴んでいない君の拳は・・・・」


「なっ!?」


闇の魔法で強化したネギの拳をフェイトは軽々と片手で掴み取った。

一瞬驚きの余り硬直するネギだが、その隙にフェイトは拳を強く握り、ネギの腹部へと叩き込んだ。


術式兵装状態のネギを軽々殴り飛ばし、ネギは数回水の上を跳ねながらぶっ飛ばされる。


「君の拳は・・・・まだ軽いね・・・・」


これほど激しい戦闘を繰り広げながらも、息を一切乱さず、未だに涼しい顔のフェイト。

彼もまた、ランクが桁違いの者だった。

だが・・・


「ではあなたの拳には、何が握られているのです?」


「!?」


「ちなみに私の握った拳には気合があると私のライバルは言っています! ドリルロケットパンチ!!」


フェイトが声のした方向へ顔を向けると、自分に目掛けてドリルが飛んできた。

フェイトは間一髪で交わして、攻撃が飛んできた方角へ目を向けると、一体のロボット・・・いや、一人の少女が続け様に蹴りの連打でフェイトを攻撃する。

茶々丸だった。

彼女は単身でネギの援護のために、この場に参上したのだ。


「君か・・・・、先ほどといい、見かけによらず好戦的だね」


「当然です。ネギ先生を傷つけるものは許しはしない」


「くだらないな・・・・・・・木偶人形の分際で・・・・。所詮作られた存在である君の想いなど・・・・」


「たとえこの身が人とは違う仮初めの物であっても・・・・気合があるならそれで構いません!!」


フェイトの皮肉に茶々丸は一歩も引かない。たとえ自分の正体が何であれ、今の自分の想いを否定せず、その想いのまま根性を見せる。

そして・・・・


「断罪の剣(インペルフェクトゥス・エンシス)!!」


「むっ!?」


「余所見をするなと言った筈だぞ、フェイト!!」


手を包み込む魔力の光を剣と変え、ネギが再び舞い戻ってきた。


「あれを食らって立ち上がるか・・・・・」


「当たり前だ! いくら君の拳が重くても・・・・僕は以前、もっと重い拳で殴られたことがある!」


「ふっ、そうこなくては」


「ネギ先生! この場でこの男を!」


「はい!」


「おもしろい・・・かかって来たまえ!」


あくまで向ってくるネギと茶々丸の姿に熱を移されたのか、フェイトも少しずつ戦いに心が躍るような感覚に襲われた。自分自身にそんな感情があったのを知らなかったのか、少し戸惑いもしたが、今は目の前のネギと茶々丸だけを見ることにした。













「く、・・・・・ネギ先生・・・茶々丸さん」


「センパイ・・・・余所見ですか~? ウチと一緒に居るのに、他の人見るなんて酷すぎますえ~」


「ぐっ・・・・月詠・・・・」


吹っ飛ばされたネギを横目で見るが、刹那自身も手が離せない状況に居た。

十名近くの人数が揃ったネギたちだったが、フェイトの魔法と、突如乱入したフェイト側の戦士たちにバラけさせられた。

その一人が今刹那の目の前に居る月詠である。


「ふん・・・キサマまでここに居るとは・・・・」


「ふふふふ~、センパイ~、今のウチは乱暴な男に汚されて心に深い傷を負ってるんです~」


「知ったことか! そこをどけ!」


「どきません~。センパイに慰めてもらうまでここにいますえ~」


刹那の気迫の込もった実戦と修練により積み重ねられた見事な剣捌き。剣士のレベルとしては間違いなく上位クラスだろう。しかしその剣を月詠は不気味な笑みと言葉をはき捨てながら、全てを捌いていく。


「くっ、・・・これほどとはな・・・ん? キサマ・・・剣を変えたのか?」


月詠の想像以上の技量に焦りを覚える刹那だが、その時、月詠の振るっている二本の剣が以前戦った時とは違うことに気づいた。

すると月詠は不気味さが更に上乗せされた顔の締まらない顔で体をクネクネさせながら、涙と喘ぎ声を交えながら告げる。


「あん♪ それを気づいてしまいましたか~。ん♪ それは~センパイを私から奪った憎たらしい、あの男の仕業ですえ~」


「キ、キサマ・・・シモンさんに会ったのか!? いや・・・フェイトもそういえばそんなことを・・・・」


「ん・・・あの男は・・・汚らわしく・・・太くて大きく醜いドリルで・・・ウチの・・・ウチの大切なものを無理やり奪って・・・・・」


「・・・・・・へっ?」


普通に戦いで剣を折られた・・・そう言えば全て収まったのだが、月詠はよりにもよって、顔を赤らめて、体を火照らせながら、実に艶っぽい声で面倒くさい言い回しをしてしまった。

当然この妙な言い回しには、最近壊れ気味の刹那は顔を真っ赤にして過剰な反応をしてしまった。


「ふ・・・ふ・・ふざけるなァァァァァァァァァァ!! シシシ・・・シモンさんが無理やり・・・・そんな酷いことをするものかァァ!!」


「本当ですえ~・・・うん・・・あん♪ あ~、思い出しただけでも鳥肌が立ちますえ~。刹那センパイのために大事にしていたウチの大切なものを、・・・あの男は・・・他の女と合体したりと、本当に節操の無い汚いドリルで・・・ウチをメチャクチャに・・・・」


「がががが、合体!? シシシ、シモンさんが・・・・き、キサマ・・・一体何を!? いや・・・一体ナニを!? 私たちですらまだなのに、何故キサマがそんなうらやま・・・・ではなく! ええ~~い、シモンさんが女性の気持ちを無視して無理やりしたりなどするものかァ!?」


「本当ですえ! 毎日磨いていたウチの愛刀を・・・・刹那センパイと再び戦うために磨いていた剣を粉々にしたんです~」


「な、何いィ!? 愛刀をだとォ!? ・・・・・・・・・・って・・・・へっ? ・・・・愛刀? ・・・・・・・・刀・・・・・・か?」


「そうですえ~! 刀は剣士の命。それを何の躊躇いも無くドリルで粉々に砕いたんですえ~。センパイ、あんな男は絶対にアキませんえ~」


「む、無理やり・・・・剣を・・・月詠の大切な・・・・シモンさんのドリルで・・・・・・・ああ~~~」


刹那はようやく答えに辿り着き、ポンと手の平を叩いた。その様子に何か話しが噛み合っていないことに疑問を持った月詠が首を傾げるが、刹那は顔を真っ赤にしながら慌てて首を横に振った。


「センパイ?」


「な、なんでもない! 私は最初から分かっていたさ!」


「・・・・・何がです?」


「い、いや・・・・とにかく! キサマの剣も歪んだ愛も私には必要ない! 私は愛されることよりも愛する道を選んだのだ! 気合と魂・・・・そして愛を纏った私の剣は、キサマと違って決して折れたりなどはしない!」


剣を天に掲げて叫びながら、刹那は猛烈に誤魔化した。しかし刹那の一挙一動全てを愛する月詠にはそれで十分だった。非常に興奮した様子でうっとりしていた。


「カッコいいですな~~、けどその愛の矛先が、あの汚らわしい蛆虫のような男だとしたら、意地でもあの男を消し去りたいですね~」


「させるものか! キサマも曲がりなりにも愛を語るというのなら、それを真っ向から断ってやる! この・・・・剣でな!」


「望むところです~!」


最後は熱く語ってカッコつけ、再び両者の剣が交じり合った。その美しき剣と剣の攻防に街の者たちが息を呑み、月詠をさらに刺激した。

この時、先ほどまでの出来事が自然に忘れられたことを、刹那はチョッピりホッとしていたのだった。










「うりゃああ!! 無極而太極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)!!」


空に浮かぶ巨大な無数の石柱。

フェイトが魔法で作り出した物である。その巨大な物体に街中の者たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、一人の少女の剣が状況を一変させる。


「す、すごいな・・・アスナ殿・・・うむ! アスナ殿の力があれば、魔法は何とかなりそうでござるな」


「任せてよ!」


完全魔法無効化能力をフルに発揮し、アスナが一瞬でフェイトの作り出した天からの脅威を消し去った。


「私はこのままネギを追うわ! 楓ちゃんは・・・本屋ちゃんたちを!」


「いや、あちらには小太郎と古も居る。ならば拙者もネギ坊主のところへ・・・」


「でも小太郎君に女の子は殴れないと思うわ! それに向こうには朝倉や千雨ちゃんみたいに、戦闘に向かない子たちもいるし!」


「う・・・う~む」


「ネギの方は、私と茶々丸さんに任せて!」


楓は少し唸って、このままアスナを向わせていいのかどうか少し考えた。しかしたしかに小太郎、古が居るものの、のどかやハルナ、朝倉や千雨のように戦いに特化した能力を持っていないもの達も居る。

ネギの言う、全てを守るという言葉を貫き通すなら、アスナの言うことに間違いは無かった。


「仕方ない・・・だが、アスナ殿。いかに魔法が通用しないといっても・・・・」


「油断するな♪ でしょ? 行ってくるわ!!」


互いにグッと親指を立てて誓い合い、二人はそれぞれの戦地へと赴いた。

しかしこの場では最良の選択だと思い、アスナを単独で動かしたこの判断が、後に面倒な事態を巻き起こすことを、楓もアスナも気づいていなかった。

















「祭囃子が激しくなってきたね・・・・」


「ああ・・・・それにあの白髪頭やネギはどうなってるかな?」


暦と環を倒した瀬田たちは、オスティアの街の市民の騒ぐ声を聞いて呟いた。


「だが、急いで行かねえと皆がやべえ! おっさんたちも早く来てくれ!」


カモが非常に焦った表情で訴えかける。しかしそこで瀬田が一つ問題点を口にした。


「その前に・・・僕は魔法に疎いから、感知という力は使えないんだが、ラカン君、シモン君のお友達はどこにいるんだい?」


「あん? う~ん、所々に散らばってやがる。恐らく移動したり転移しながら戦ってんだろーな。面倒だな・・・・」


ラカンが少し唸りながらネギたちを探り始めたが、元々考えるのが苦手なラカンには適当な言葉しか出てこなかった。

瀬田自身、大して期待していたわけではないが、実はこの質問には大きな意味があった。それを逸早く察知したのはシモンだった。

シモンが不意に空を見上げた。


「どうやら・・・・こっちもまだ面倒みたいだぞ?」


「えっ? シモンさん・・・・どうゆうことなん・・・・って・・・えっ!?」


「げげげーーっ!? ホントかよ!?」


シモンにつられて木乃香やサラたちも空を見上げ、その目に映る物に驚きの声を上げた。

突如空の光を覆うように自分たちの真上に現れた物体。

それは飛行船だった。

その飛行船を見てエミリィが声を上げる。


「なっ!? 首都の巡洋艦!?」


「なっ!? それは本当かよ、エミリィの姉さん!? まさか・・・アニキたちを捕まえに来たんじゃ・・・」


「それもあるだろうね・・・・でも、あれは先ほど僕たちと追いかけっこをしていた艦の一つだ。どうやら僕たちのことも追ってきたようだね」


「だろうな・・・・それにカモミールの言うとおり、ボーズや嬢ちゃんどもは、今はまだテロリストとして手配されている。恐らくまとめて逮捕に乗り出そうとしてんだろうな・・・・・」


「そうか・・・騒ぎがデカくなり過ぎて、エミリィやベアトリクスやコレットみたいに新入り共に任せられる範疇を超えたんだろうな・・・・」


「そんな・・・それじゃあどうすればいいん? ラカンさんのコネで何とか出来ないん?」


「う~ん・・・ぶっちゃけ無理すりゃあ出来なくもねえが、俺のコネはデカ過ぎる。国のトップレベルだからよお。それをここまで大事になって、この犯罪者を見逃してくれって・・・・平和の式典で仲の悪い北と南が揃っている状態でやるのは、ちっとな・・・。無実を証明できれば別だろうが・・・今はそんな時間もねえ・・・」


「じゃーどーすんだよ!? シモンの友達を助けるってことは、白髪頭だけじゃなく、アイツ等も相手にするって事かよ!?」


サラが興奮しながら真上を飛ぶ飛行船にビシッと指を指す。その答えに誰も直ぐには回答できず、全員が必死に答えを探していた。

そしてそんな中、一番早くに答えを出したのは瀬田だった。


「・・・エミリィちゃん・・・・今すぐ君はアリアドネーの部隊に戻って。仲間に連絡してくれないかい?」


「瀬田さん?」


「冒険王一家はここに居るって・・・・」


「「「「「!?」」」」」


瀬田の辿り着いた答えは二面作戦の囮だった。


「そう・・・・これなら全部とまではいかなくても多くの警備兵たちの目をこちらに向けることが出来る」


「しかし!?」


「上の連中は僕の責任でもある。ならば僕がまとめて相手をしよう」


「せやけどそれやったら瀬田さんが!?」


「だいじょ~ぶ♪ ・・・・ねっ♪」


木乃香が瀬田たちを囮にするような作戦を簡単に受け入れられなかったが、瀬田は笑って木乃香にウインクをした。

そしてその後に溜息をつきながらも、柔軟を始めて少し笑っているハルカとサラが口を開いた。


「やれやれ・・・・面倒くさいな」


「まっ、それがパパだしな~」


「手伝ってくれるかい? ハルカ、サラ?」


「何年パパと一緒に居ると思ってるんだよ~♪」


「お前の所為じゃない。私の所為だ」


「ハルカ?」


「こんなクソメンドクサイ男を見捨てられずに、一緒になっちまった私自身の責任だよ」


「ふふ・・・・愛してるよ♪」


「ハイハイ、私もだよ」


「も~、パパ~! ハルカだけじゃないだろ~! まっ、でもせっかくの機会だし、ファミリーの力を見せてやるぜ~~~ッ!」


この事態にこの三人は恐れるどころか、むしろ気合を入れていた。

ハルカも口では面倒くさいと言っていても、その表情は楽しそうで、むしろこんな展開を望んでいたのでは? と思えるような表情に見えた。

その様子に木乃香とエミリィは不謹慎かもしれないが、この家族の絆、そして瀬田とハルカが見ているだけでは計り知れないほど、心の奥底ではとても強く繋がっていることに気づき、少しうらやましいと思った。


「どうして・・・・すごく危険やのに・・・・どうしてハルカさんは・・・・」


「ん? 何言っているんだい? その理由はアンタが最も理解しなくちゃダメさ」


「えっ?」


「仕方ないさ。私がコイツを選んで・・・コイツがそれを望んで・・・私もそれを望んでいるんだからさ」


「・・・・ハルカ・・・さん・・・・」


ハルカはニカーッと笑いながら木乃香の肩に手を回し、ボソッと周りに聞こえないように小声で木乃香に伝える。


「お姉さんからのアドバイスだ。生まれ変わったら、アンタも二度とメンドくさい男には惚れるなよ」


「・・・・もう・・・手遅れやけどな~」


木乃香も少しテレながら笑い、どこかハルカの姿にヨーコを重ねた。

それが何だかおかしくて、首を傾げて此方を見ているシモンを見て、また笑ってしまった。


「ったく、時間がないんだろ? まあいいや、それじゃあラカン・・・俺はここで瀬田さんたちに手を貸す。お前は木乃香とカモと一緒に、ネギたちの所へ行ってくれ」


「「「「えっ?」」」」


これには瀬田たちも驚いて、シモンの発言に首を傾げた。


「いいのかい、シモン君?」


「おいおい、それなら嬢ちゃんと行くのはお前だろ?」


「シ、・・・シモンさん・・・・」


戸惑う木乃香と、疑問を口にするラカンだが、シモン自身にも考えがあった。


「そうしてやりたいけど、俺はオスティアの地理に詳しくないし、瀬田さんと同じで魔力を探ったりして相手の場所を特定できない! だから俺はここで瀬田さんたちと一緒に囮になる!」


「そんな・・・・嫌や! ウチは・・・」


「それにラカンが賞金首の瀬田さんたちと政府と戦うわけにもいかないだろ? だからって瀬田さんとハルカさんとサラだけじゃ危ない。だから俺もここに残る!」


話しのスジは通っていた。

たしかに瀬田たちだけを残すのは危ない。だからと言ってラカンをこの場には残せないだろう。それこそこの平和を祝う祭典ではあってはならないことだろう。

この世界を救った英雄と犯罪者が手を組んでいるという事を知られるわけにはいかない。

だから警備隊や騎士団の目をネギたち側から全てを請け負うということは、自然にラカンにネギたちの助っ人に行ってもらわねばならないのである。


「シモンさん・・・・」


しかし頭では分かっていても、それを中々受け入れられない木乃香に、今度はシモンが微笑みかける。


「いいから俺を信じろ! また直ぐに会えるから!」


「・・・せやけど・・・」


「俺を好きなら・・・俺の女になりたいんだったら、まずは俺を信じてくれ! 誰よりも全力で俺を信じろ!」


「!?」


木乃香はその言葉にハッとなった。

先ほどハルカとヨーコを重ねて、自分も将来そうありたいなと思ったのだが、シモンの今の言葉で、ある一人の女の名前を思い出した。「誰よりも全力でシモンを信じる」きっとそれがニアだったのだろうと確信した。

だからこそ、それを言われていつまでも駄々を捏ねている場合ではないことに気づき、木乃香は笑顔で頷いた。


「・・・・・・うん!! 行くで、ラカンはん!!」


「かっかっか、大したオトシ文句だぜ!」


「はっはっは、シモン君らしいね~」


「シモンさんを全力で信じる・・・ですか・・・・覚えておきましょう・・・」


「まったく、女を泣かせる男だね~。サラ・・・お前もあんな男でいいのか?」


「な、なんでそこで私に聞くんだよ~」


シモンの言葉に全員に笑顔が戻り、場の空気が和み、そしてより一層心に熱が宿った。


「では私も一度、隊に戻ります。ですが皆さん・・・くれぐれも無茶をするな・・・と言っても無駄ですから・・・頑張って無茶を乗り越えてください!」


「じゃあ、俺と嬢ちゃんも行くぜ! こっちは心配すんな!」


「気をつけてな、シモンさん!」


「旦那、また後で落ち合おうぜ~!」


エミリィ、ラカン、木乃香、カモは互いのやるべきことを確認しあい、振り返らずその場を立ち去った。

後に残ったのは瀬田、ハルカ、サラ、そしてシモン・・・そして・・・


「さて・・・・・また四人になったな」


「ぶむ!」


「うおっ!?」


「あれ~? ・・・ブータ君いつの間に・・・・」


「ブータ・・・お前って本当に不思議な奴だな~。でも、流石シモンの相棒だな♪」


そう、ブータが居た。

ブータが「自分もここに居る!」と叫びながら、シモンのコートの中から顔を出した。

胸を張って自分の存在をアピールするブータの姿に、シモンたちは苦笑した。


「やれやれ、あまり強そうではないが、シモン以外にも私たちにはうれしい味方がいるじゃないか」


ハルカの言葉にシモンはうれしそうに頷いて、ブータを見る。


「ブータ・・・そうだよな、お前が居たよな! 流石は俺の相棒だ!」


「ぶーむ!」


ブータが力強く鳴いた。

その鳴き声と同時にこの場に近づいてくる多くの足音や、徐々に集まってくる幾つかの飛行船に皆が目を向ける。


「ふっ、・・・・それじゃあ・・・囮らしく・・・」


「仕方ねーなー」


「うん、四人と一匹・・・」


「派手に暴れるとするか!」


迎えるのはアリアドネー、メガロメセンブリア、そしてもう一つ、飛行船の中にある国旗のマークを見つける。それは魔法世界でも大国であるヘラス帝国の国旗だった。

エミリィの話しでは、この式典の最中に武装許可をされているのはアリアドネーの警備隊のみのはずだったのだが、どうやら敵も冒険王の実力に甘い考えを捨てているようだ。

しかし誰が相手でも、四人と一匹の目に恐れも不安もまったく宿っていない。実にワクワクとした目で、この場に集まる者たちを待ち構えていた。







そしてこの四人と一匹に戦いを挑むのは・・・・


「殿下!? 殿下じきじきに出られる必要はありません! 賞金首共の討伐はアリアドネーの警備隊やメガロメセンブリアの騎士団に!」


瀬田たちの真上を飛ぶヘラス帝国の飛行船の中で、侍女らしき女性が懸命に一人の女に訴えかけていた。

その言葉に首を振る、亜人の女性。

彼女は実に穏やかで気品のある声で侍女に告げる。


「良いのです。兵士たちの力は信じています。しかしこの平和の祭典を乱すものたちを、
いつまでも野放しにしておくわけにはいきません。必ず取り押さえて騒ぎを収める必要があります。・・・・平和を・・・心から祝うためにも」


「それは殿下の仕事ではありません! あなたはあなたの仕事をなさって下さい!」


「ならば・・・これが私の仕事です。皇女の仕事ではなく・・・皆が・・・そして友人の守った世界を守ること・・・」


「しっ・・・しかし・・・」


窓の外を見つめて、見るからに高級そうな衣服から、動きやすい戦闘用の服に身を包んでいく女がいた。


「で、殿下・・・・しかし・・・首都も動いています・・・これは明らかに彼等の任務に対する妨害だと非難されれば・・・北と南の友好が・・・それに姫様にもしものことがあれば・・・」


「いいえ、むしろ両国が協力し合うことにより、それを国民に伝えることが出来れば、この20周年記念の祭典に大きな効果をもたらすでしょう。既にこの考えはリカード元老院議員に通してあります。いわゆるこれも政治の一環です」


彼女こそ超大国であるヘラス帝国の第三皇女、テオドラである。


「紅き翼たちはもう居ません。しかし残された我々が、彼等の守った平和を維持していかねばなりません。それを祝う式典を汚してはならないのです・・・」


「テオドラ殿下・・・・うう~~」


言っても曲げない強い意志。そしてその想いを知り、侍女の女は涙目になりながら頭を垂れた。


「み、・・・・御心のままに! 私はどこまでもお供します!」


「・・・礼を言います」


「はっ!!」


姫の想いに感銘を受けた侍女は涙を拭いて、どこまでも付き従うことを誓った。

その姿に小さくテオドラは礼を言いながら、背を向け、その瞬間侍女には見えない位置で、顔をニカ~っと皇女らしからぬ笑みを浮かべた。


(くっくっく、なーんてな♪ つまらん打ち合わせや、頭の固いジジイ共との挨拶ばかりで、いい加減退屈だったからの~。ここらでパーッとストレス解消したいと思うとったところじゃ♪)


姫の本音を侍女は見抜くことは出来なかった。


(ふふ~ん、幾多の戦士たちを退けた旧世界の冒険王か~、楽しみじゃの~。ここらで妾が少し世界の広さを教えておくのも一興じゃな♪ それに妾が自ら動くこの共同作戦で北と南の仲がもっと良くなれば一石二鳥じゃ♪)


これが気品ある皇女の真の姿。

かつて、紅き翼たちと共に、世界を救い、現在魔法世界でもトップクラスの超VIP的存在の彼女は、お転婆じゃじゃ馬姫だった。

そんな彼女がついに動き出した・・・・



そしてそれは彼女だけではない。









「元老院!? リカード元老院!?」


「まあ、いいじゃねえか。どっちにしろ騎士団レベルじゃあ手に負えねえんだろ?」


ヘラス帝国の艦の近くに待機して、瀬田たちの逮捕にこの男も動き出した。

メガロメセンブリアの元老院議員リカードが、スーツのネクタイを緩めて指の関節をならしてニヤニヤしていた。

その様子に騎士団の団員が困った顔をする。


「しかし・・・」


本来、リカードが戦場に出るなど、今ではありえないのだが、自分たちが今まで瀬田たちを捕まえられなかったのは事実である。

そして紅き翼の戦友でもあり、この世界の英雄の一人でもあるリカードの強さを誰もが知っているため、断ることが出来ない状態だった。


「本来ならおもしろい奴等だなって感心するぐらいだが、この祭りを乱す奴は許せねえからな。俺の・・・ダチ共の残した世界だからよ~」


「・・・・元老院」


「それに利点もある。テオドラ皇女も動く今回の作戦が見事成功すれば、この祭りの最大のパフォーマンスになるじゃねえか。ついでにアリアドネーの魔法騎士団、セラス総長にも動くように頼んだ。このメンツに万が一なんてありえるかよ?」


団員の者は、あまりにも豪華なメンバーに度肝を抜かれた。

ヘラス帝国皇女のテオドラ。

メガロメセンブリア元老院議員のリカード。

アリアドネー魔法騎士団総長のセラス。

一国と喧嘩出来るほどの力を持つ豪華な面々、おそらく二十年前の大戦以来の英雄たちの会合である。

本来国のトップが動くことは、返って国民に不安を煽る出来事かもしれない。しかしこのメンバーなら冒険王達がいかに実力者とはいえ、億に一つも不安は無いだろう。

何より団員の男は一人の戦士として、このメンバーが式典以外の場所でそろい踏みになる光景をとても見たいと思ってしまった。

だからこそ・・・


「分かりました。その力をこの目で見れることを、私は心から光栄に思います」


「礼を言う!」


頭を垂れた団員に一言礼を告げ、リカードは背中を向けた。

そしてここからはテオドラと同じように、ニカ~ッと笑って心の中でガッツポーズをした。


(かっかっか、なーんてな♪ 最近、会議会議ばかりで鈍ってたからな~。たまには昔みたいに熱い戦いがしてみたかったからな! あのお転婆姫も実におもしれえ計画をおもいつくぜ! しかもこれが成功すりゃあ、いい宣伝になるしな。本当にチャッカリしてるぜ!)


気の毒なのは上司の本音を決して探ることが出来ない部下たちだった。


(冒険王か・・・そういや~、ラカンが捕まえられなかった奴も居るんだよな・・・たしか・・・シモ・・・シモ・・・忘れた・・・・まっ、行ってみりゃあ分かるか! 最近調子に乗っているようだが、部下も居るし、ここらで俺が本当の力ってもんを見せてやるか!)


昔の自分を思い出すかのように、リカードは鈍っていると自分で言った自身の体に魔力を流す。

昔の感覚を思い出そうと流した力だが、それだけで団員の男は汗が流れた。


(すごい・・・これがかつて大戦期に名を馳せた者の力・・・・再び見ることが出来るとは・・・・)


リカードの力を見れることにワクワクしながら、団員の男は準備に取り掛かった。







そして最後に動くのはこの女。


「まったく、リカードもあのお姫様も困ったものね。まあ、黒い猟犬(カニス・ニゲル)の動きが無い以上、構わないけど・・・・でも・・・・少し不謹慎だけど昔に戻ったみたいで楽しみね」


少し顔を綻ばせながら、セラスが独り言を言う。そして、その時が来たことを、戦乙女の戦士が告げに来た。


「総長(グランドマスター)! 準備が整いました! そして例の広場の喧嘩には新人を向わせています」


「ええ、それで良いわ。では・・・我々も動くとしましょうか」


「はっ!!」


ネギたちの知らないところで、大きな戦いが始まろうとしていた。

ラカンもシモンも瀬田もネギもフェイトですらまったくの予想外に過去の英雄たちが動き出した。


「では・・・行きましょうか」


その言葉に戦士は頷き、後につき従った。そしてこの戦士はこれから始まる戦いの証人ともなるのである。


そしてこの日がキッカケで、冒険王一家だけでなく、その場にいる一人の男の存在を魔法世界のトップたちは知ることになる。



そしてこの戦いで、テオドラ、リカード、そしてシモンを名前と顔だけは知っているが、詳しくは知らないセラス。


この三人が度肝を抜かれることになる。
最終更新:2011年05月12日 14:46
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