リカードがこれまでの敵とは桁違いなことは見抜いていたが、予想以上の実力に自分が押されている現状に、瀬田は珍しく動揺しているのか、いつものような柔らかな笑みが表情から消えていた。
(さっきの僕のパンチを受け流した技・・・あれはシステマに似ている・・・それに僕の『剃』の動きに瞬動術で対抗している・・・・。大雑把で強烈な攻撃だけでなく、格闘技の中でも高等な技術をも体得している・・・・厄介だな・・・・)
それはこの世界に来て初めての強敵、そして初めての苦戦だった。
リカードはこれまでの烏合の衆たちとは強さの質がまったく違う。そして只強いだけではなく、身に纏う風格は紛れも無く歴戦の猛者だった。
しかし・・・
(強敵だ・・・そう・・・それは間違いないのに・・・なんだろう・・・この気持ち)
瀬田は笑った。
(何だろうな・・・この高揚感・・・・。やはり僕も男だったって事かな?)
間違事なき強敵を前に、自然と笑みがこぼれた。
「オラオラ、どうした冒険王! これで終いじゃねえだろう!」
「まったく・・・・熱くて怖いね~~~。しかし、ようやく魔法世界の強さに触れられたね」
魔法世界の戦士とはいえ、リカードは炎や雷などの魔法は使用しない。どちらかというと魔力を強化に使用させ、その身を武器として戦う男である。
そしてその体術は強力さと技術を兼ね備え、超人クラスの瀬田が息を呑むほどである。だが、それが逆に瀬田の心の奥底にある闘争心に刺激した。
本来争いは好まない瀬田だが、一人の男として、真正面からの向ってくるリカードとの戦いを不意に楽しく感じ、体のキレが徐々に上がっていく。
「がっはっは!! 中々楽しませてくれるじゃねえか!!」
そしてリカードもこの瞬間、瀬田を賞金首だとか犯罪者だとか、そういう経歴が頭から抜け、この戦いをただの喧嘩のように楽しんだ。
「いつも肩の凝る会議ばっかで退屈してたところだ! 思う存分やらせてもらうぜ!」
「ならば、受けて立とう!」
二人の男が交差する。互いが互いに真距離から技を惜しみ無く出す。
「指銃連弾!! 嵐脚突風!! 鉄塊の硬度で打ち出す指銃の拳の一撃・・・・」
瀬田が銃のような攻撃の連射と突風を巻き起こせば・・・・
「クイック・ブレットスリップス!! アーンド・・・・・・」
リカードの体を滑りながら攻撃は避けていき・・・
「爆壊弾!!」
瀬田が一撃に力を込めて放てば・・・・
「鬼王悶絶破砕拳!!」
リカードも同等の破壊力を持つ拳で応戦する。
「ご、互角だ・・・・流石リカード元老院・・・あの冒険王と互角に・・・・」
「バ、バカ言うな・・・互角であってたまるか。ぽっと出の賞金首ごときが・・・・リカード様と互角であっていいはずが無い」
もしこの場に瀬田の力を知るものが居れば、瀬田と互角に戦うリカードに驚いていただろう。しかしこの場は逆に、リカードと互角に戦う瀬田に対して皆が驚いていた。
この世界の英雄の一人であるリカードと互角に戦う瀬田。それだけで瀬田がただの密入国者だとは誰も思わなくなった。
そしてこちらも激しい戦いが繰り広げられていた。
「ほれほれ、どうしたのじゃ? まだまだこんなものでは無いであろう!」
「ちっくしょ~~! ふっ飛んじまえェ! カオラン砲発射!!」
「皇女に手を上げたから死刑とか言うなよな? 浦島流柔術・竜連牙!!」
「はっはっは、やるの~」
相手が魔法世界の姫だろうと、法律という常識そのものを悉く破ってきたサラたちに遠慮は要らない。力の限りをテオドラに向ける。
しかし相手も魔法世界の皇族の血筋。
「こうやってバカ騒ぎをするのも久しぶりじゃ。じゃが、手加減はせん。大人しく牢の中で反省して貰おうぞ」
「それだけ潔ければ、ここまでやらねーっての!」
「同感だね」
「はっはっは、では痛い目を見てもらおうか」
常識破りの男の家族を二人も相手に彼女は一歩も引けをとらないどころかむしろ楽しんで戦っていた。
普段は完璧に猫被って気品漂う姫を演じていただけに、少々彼女の部下たちは首を傾げているが、それでもサラたちを手玉に取るその力に感動しているのか、誰も何も言わなかった。
そして一方でこちらは対照的に、一歩も動かずにらみ合いが続いていた。
「相手をすると言ったものの、まず初めに・・・・・あなたは誰? 手配書には載っていないのなら・・・これ以上罪を重ねる前に降伏していただければ良いのだけど・・・・」
三人の中で最も冷静なセラスは、未だに動かず対峙するシモンに語りかける。しかし今更聞くまでも無いことなので、シモンは迷わず答える。
「降伏か・・・・俺がそういう男だったら良いんだけどな・・・・」
苦笑しながら言うその言葉にセラスは軽く溜息をつく。
「反逆・・・抵抗・・・・見苦しい行動を取るのが、あなたなの? 潔くなるのも男だと思うわ?」
「潔く・・・か・・・・俺の気合と魂・・・そして話しを聞く限り、この背中に背負ったマークに誓って、そいつは出来ない相談だな」
完全に囲まれたこの状況下でもシモンは構わずに笑った。
その笑顔にセラスは、シモンと誰かを重ねているのか少し複雑そうな表情になり黙った。
(・・・・真っ直ぐな目・・・・・紅き翼と・・・・彼等と非常に仲良く慣れそうな人ね・・・・)
しばらく無言のにらみ合いが続いたが、リカードやテオドラたちの戦いが激しくなるにつれ、ようやくセラスも観念して動いた。
「では・・・・・・手は抜かないわ」
「・・・・女が相手だと、少しやりずらいが・・・・」
「遠慮なく」
「確かに、そうも言ってられねえな!」
先に動いたのはシモンだった。まずはいつも通りに小細工なしの正面衝突。ドリルを回転させて、セラスへ突っ込む。
対するセラスは長い魔法の杖をシモンに向けて、呪文を放つ。
「紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!!」
戦乙女たちも使用し、それなりに威力を秘めた炎の魔法をセラスは放つ。その威力はこれまでの誰よりも威力を纏い熱量のある炎である。
しかし今更この程度の呪文で驚くシモンではない。
「んなもん、効くかよォォ!!」
激しい炎をヘタに交わそうともせず、ドリルの回転で炎を風で吹き飛ばそうとする。
しかしやはりセラスの魔法も生半可な熱ではなく、その熱さがドリルを持つシモンの手にも伝わる。だが、その程度のことで音を上げるシモンではない。熱く火傷しそうな手で、歯を食いしばりながらドリルを持つ手に力を込めて、セラスの炎を吹き飛ばす。
しかしそれに対してセラスは驚く素振りは一切見せず、それどころか既に次の魔法を放っていた。
「氷爆(ニウィス・カースス)!!」
「なっ!?」
炎をかき消したシモンの目の前に、今度は目の前に大量の氷の塊が出現し、気づいたときには破裂し、凍気と爆風がまるで吹雪のように襲い掛かる。
「ぐうううう・・・だが・・・こんな寒さァ!!」
氷の吹雪がシモンの体温を下げるが、シモンは悴む手を強く握り堪えきる。しかしそれも全てはセラスの戦術の中の一つ。
セラスは堪えたシモンに対して、息もつかせず魔法を続ける。
「ならば、この一撃はどうですか?」
「なっ!? あれは確か・・・エミリィが・・・・」
セラスは上空に氷の破片を集結させ、巨大な氷の塊を出現させた。
シモンは以前これと同じ魔法を、アリアドネーでエミリィが使用したのを見たことがあり、セラスの次の行動が分かり、背中に汗をかいた。
「ま、まずい!?」
「遅いわ! 氷神の戦鎚(マレウス・アクィローニス)!!」
大気中の温度が一気に下がった。
それほどまでに魔力の質が高く凝縮された氷の塊がシモンに振り下ろされる。
「くっ、だが・・・・風穴開ければ良い事だ!! 必殺ゥ! ギガドリルブレイク!!」
「・・・ほう・・・・だけど甘いわね」
シモンは氷の鉄槌目掛けてギガドリルブレイクで突っ込んだ。寒さなど吹き飛ばすほどの気合を込めて雄叫びを上げながら。
だが・・・・
――ビキ
金属にひびが入る音がした。
「な、なんだと!?」
シモンは自分の目を疑った。
しかしそれは現実だった。
なんとシモンのドリルが氷塊にぶつけた瞬間、大きなひびが入ったのである。
「バ、バカな!? なんでこの程度でドリルが!?」
森の竜種やラカン、そしてフェイトの魔法など、激しい戦いを共に乗り越えてきたシモンの螺旋力で出したドリルにいとも容易く亀裂が走った。
しかしシモンにとってそれは考えられないことだった。何故ならセラスの魔法は確かに大きいが、ラカンとの戦いをも乗り越えたドリルがそれほど柔なはずが無かった。
だがその原因をセラスは当然のように述べる。
「温度差よ」
「・・・なっ・・・」
「冷たい食器に急に熱湯を注いでで砕けるように、炎と吹雪の急激な温度差が、あなたのドリルを脆くしているのよ」
「!?」
「覚えておきなさい。魔法とはこんな使い方もあるのよ」
シモンのギガドリルブレイクは氷塊に大きな穴を空けて粉々に砕いた。しかしそれと引き換えにシモンのドリルも砕けた。
だが、それに気をとられる隙すら与えずに、セラスの攻撃は続く。
「今、あなたが砕いて溶けた氷の水をそのまま使えばこんなことも簡単なのよ。水精大瀑布(マグナ・カタラクタ)!!」
今度はあたり一面がセラスの放った二つの氷系呪文により満たされたこの場の大量の水分を空中に集め、その水圧でシモンを押しつぶそうとする。
「くそっ・・・・次から次へと・・・・だが・・・」
休む間もなく魔法が放たれ防戦一方でドリルまで砕かれたシモン。しかしシモンはその目も、その言葉にも一切の弱気や弱音を込めずに、押しつぶそうとする大量の水に向って叫んだ。
「それで押しつぶされる俺じゃない!!」
シモンは気合と共に体中に螺旋力を流す。するとシモンの周りに一本のドリルの形をしたエネルギーの塊が姿を見せる。
そしてシモンはそのドリルを上空の水の塊に向けて射出する。
「穿孔ドリル弾!」
ドリルの形をしたシモンの螺旋力を秘めたドリルのミサイルは、空中で爆発し、セラスの魔法を破った。
大量の水の塊は砕け散り、雨のように上空からシモンに降り注ぐ。
「やるじゃない・・・・・でもね・・・・」
しかし、それすらもセラスの手のひらの上だった。
「来れ(ケノテートス・) 虚空の雷(アストラプサトー) 薙ぎ払え(デ・テメトー)!!」
「・・・・・えっ?」
水の魔法を砕いてほっとしたと思ったら、セラスは既に高速で次の呪文を唱えていく。詠唱と共にセラスの手の光が目に見えるほどに輝きだした。
シモンにはセラスの詠唱の意味は分からない。しかしセラスの手に収束していくその光を見ただけで、その魔法がどんな魔法なのかを瞬時に理解した。
「か、・・・雷・・・」
そう、雷である。そしてそれはただの雷ではない。
「ええ。濡れた体に耐えられるかしら?」
「ッ!? ら、螺旋フィー――――」
水に濡れた状態で雷を受ければどれだけ危険かは子供でも分かる。そんな状態のシモンにセラスの雷をぶつければ、破壊力は想像もできない。
シモンが慌てて螺旋フィールドを展開しようとするが、セラスの方が一歩早い。
「遅いわ! 雷の斧(ディオス・テュコス)!!!」
「ぐわああああああああああっ!!!」
全身を駆け巡る衝撃に耐え切れずシモンは叫んだ。
「な、大丈夫か!?」
「よそ見してんじゃねえ!!」
「ぐうっ!?」
シモンの叫びを聞いた瀬田が声を上げるが、こちらも手が離せる状態ではない。
「ほれほれ、人を心配している場合ではなかろう」
「くっそ~~! どけってんだよお!」
シモンの危機を知り、それでも目の前のテオドラに阻まれサラもハルカも、ブータも歯噛みする。
だが、その阻んだ壁を簡単にはどかすことは出来なかった。
「くそ・・・・ぐっ・・・・体が・・・」
雷の斧をモロに食らい、シモンはヨロヨロに倒れて両手膝を地面に突いた。その光景を囲んでいる戦士たちは打ち震えていた。
「す、素晴らしい・・・・なんという息もつかせぬ魔法・・・戦術・・・お見事です・・・」
「まるで魔法の精霊たちが次々と総長(グランドマスター)の前に降り立ち、跪いているようだ」
炎も氷も水も雷も、不得手なく次から次へと繰り出し、自分たちを蹴散らしたシモンに一撃も入れられずに追い込んだセラスに、戦乙女は感動で打ち震えていた。
「極大魔法は時間が掛かります。一対一では中々難しいわ。でもね、やり方しだいで十分対抗できるのよ。仮にあなたが未知の能力を持っていてもね」
「・・・そうか・・・・だが・・・次はッ! ・・・っう・・・か、体が・・・」
勇んで立ち上がろうとしたが、シモンは直ぐに膝をよろつかせて地面に両手をついた。
(ちっ、油断した・・・・威力も力も圧倒的にラカンのほうが強いけど。・・・魔法の使い方が凄く上手い・・・・。こうも簡単に・・・・)
どうやら今の一撃で全身に力が行き渡らなくなったようだ。シモンは唯一動く首だけを動かし歩み寄るセラスを見上げながら精一杯睨んだ。
「痙攣して思うように動かないでしょう? でもそう睨まないでほしいわね。雷の斧を食らって意識を保てるほうがむしろ考えられないのよ。何かの能力で威力を和らげたのかしら?」
セラスはこのような状態でも、感心しながらシモンを見下ろす。
そして膝を付いて顔を近づけ、周りに聞こえないような小声でシモンに語りかける。
「それにしてもあなた・・・・、先ほどエミリィの名を・・・・。そしてドリル・・・・・ひょっとして、あなたがアリアドネーで噂になっていたシモンという男かしら?」
「俺のことを知っているのか!?」
シモンが驚きながら顔を上げると、セラスは「やっぱり」という表情で溜息をつく。
「ええ。エミリィ、ベアトリクス、コレット、・・・・以前あなたに世話になった・・・そして行方不明になったと悲しんでいたわ」
「・・・・そっか・・・あんたはアリアドネーの人間だったんだな・・・」
「ええ、あなたの噂は聞いていたわ。記憶喪失のこともね・・・・・でも・・・・行方不明になってこんな事になっているとは思わなかったわ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「一度あなたに会って、生徒たちを助けてくれたお礼を言わなければと思っていたけど、こんな形で会うことになるとは思って居なかったわ」
その言葉にシモンは少しばつの悪そうな表情で、残念そうに溜息をつくセラスを見た。
「まあ・・・・俺もあの時から一ヶ月程度でこんなことになるなんて思って無かったよ。何も知らない世界で忘れた自分の記憶を探し出すのも一苦労だ・・・」
僅か一ヶ月の旅路だが、シモンは懐かしむように目を閉じて思い出していく。
アリアドネーから始まり、エミリィやコレット、ベアトリクスたちと出会い、アリアドネーに忍び込んだサラを追いかけ、途中でラカンと戦った。次に目を覚ましたらグラニクスでトサカと戦い、フェイトと月詠と戦い、その後はサラに同行して瀬田とハルカに出会う。そして今はオスティアの大地にたち、自分を知るネギたちと会った。
シモン自身と魔法世界はそれほど関係なかったのだが、この世界で過ごした僅かな月日でいろいろな事があった。
「それで・・・・見つかったの? あなたの記憶は」
「・・・・この世界自体に関係なくても、俺の記憶のヒントは色んなところにあった。そしてその旅の途中で・・・・俺は・・・・分かったことがある」
僅か一ヶ月の旅路でシモンが気づいたこと。そして昨日誓ったこと。
「俺は・・・・誓ったんだ・・・」
「誓った? 何を?」
シモンが痺れた腕に懸命に力を込め、歯を食いしばりながらゆっくりと立ち上がる。
「明日へと続く道を掘ることを・・・・友に!! そして・・・・」
「!? なっ、・・・・雷の斧をくらって!?」
「俺自身の魂にだッ!!」
体に力が入らなくとも、言葉と心に目一杯の力を込めてシモンは立ち上がった。その光景にセラスだけでなく、周りの戦士たちも驚いている。
「たっ、立ち上がった!?」
「バ、バカな!? 総長(グランドマスター)の魔法を完全に食らって、立ち上がったというのか!?」
あり得ない事だとどよめき出す戦士たち。シモンは彼等に対して胸を張って答える。
「気合だ! この程度でくたばる俺だと思ったのかよ! 男ならやせ我慢だ!!」
「まだやると言うの!? その体ではもう無理だわ!」
「それがどうしたってんだ! まだ・・・・まだやれるッ!! テメエら全員、その耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ!」
その時、シモンの頭の中に一つの言葉が過ぎった。
シモンは笑った。
頼もしく頭の中で過ぎった誰かの言葉に力を貰い、唖然とする戦士たち、そしてセラスに向けて啖呵を切る。
「無理を通して道理を蹴っ飛ばす!! それが俺の生き様だァ!!」
セラスは初めての経験だった。その言葉が耳に届いたリカードもテオドラも思わず手を止めた。
大戦から二十年がたち、自分で言うのもなんだが、自分たちは魔法世界でも指折りの存在として知れ渡っている。
そんな自分たちに、そしてこれほどの大軍を前にして堂々と啖呵を切られたのは始めての経験だった。
「だァーーーはっはっはっはっはっはっは!! 何だアイツ! だはははは! おもしれえーーーッ!!」
「なはははははははは!! バカじゃ! バカがおるぞ! ナギやジャックにも負けず劣らずの大バカじゃ! 妾たち全員に啖呵を切るとは、前代未聞の大バカじゃ!!」
部下の前だというのに、リカードもセラスも腹を抱えて大笑いした。その隙に、瀬田、ハルカ、サラ、ブータはすかさずヨロヨロのシモンの下へと集まった。
「まったく・・・大丈夫かい、シモン君?」
「ああ・・・・これぐらい・・・・何ともない」
「何とも無い分けないだろ。木乃香と約束したんだろ? あんま無理すんじゃないよ」
シモンの強がりにハルカが少し怒った表情で戒めるが、メカタマの中に居るサラからは少しうれしそうな声が聞こえてきた。
「でもさー、こんな時に言うのも何だけど、よーやくシモンらしいじゃん?」
「ぶーむ!」
「やっぱお前の本領発揮はズタボロになった後だからな~。だから、私はなーんも、心配してねーからなー」
この状況下で・・・・周りは囲まれ、三人の強敵が立ちはだかり、シモンもボロボロだというのに、何故かサラは不安が消え、むしろ陽気な声が漏れた。
それは恐らくこれまでメチャクチャを繰り返してきたシモンがメチャクチャをする時は、いつだってこのようにボロボロの時だったからだ。
本当に驚くことはこれからだと、むしろサラは楽しそうにしていた。
そんな娘の様子を察して、瀬田もハルカも苦笑しながら溜息をついた。
「やれやれ、それじゃあこれからどんな常識破りが起こるんだろうね~?」
「状況が最悪になってこそ、本領発揮か。それじゃあシモン。お膳立ても済んだことだし、そろそろ私にも見せてもらおうか?」
先ほどまでの切羽詰った状況を瀬田とハルカも忘れ、笑いながらシモンに告げる。
「でも、奇跡は起こらないわ」
和やかな空気が漂う中、セラスは現実をシモンたちに告げる。その隣にはリカードとテオドラも居る。
「まっ、嫌いじゃねーがな」
「うむ、勇ましいのが啖呵だけでは覆せぬ。妾らもそれほど甘くはないのでのー。残りの生き様は、監獄の中で叫ぶのじゃな」
そう、状況は何も変わらない。むしろ悪化しているのである。
追い詰められてシモンがボロボロになった、それだけである。
シモンの言葉に気分を良くしたリカードとテオドラだが、それで見逃すほどの者たちではない。
そんなことは誰もが分かっていた。
そう、分かっていた。しかし囲まれたシモン、瀬田、ハルカ、サラ、そしてブータの目はまったく曇っていなかった。
「舐めんじゃね! 俺の魂は・・・俺のドリルは天と地と明日を貫くドリルなんだよ! 一回ドリルを砕いたぐらいで勝った気になってんじゃねえ! 俺の本当のドリルはここにあるドリルだ!」
そしてシモンは何も無い自分の胸を指差した。
「何度砕けても、俺の掘る道は、天の向こうまで続くんだ! 待ってる奴等が居るのにいつまでもモタモタしていられねえんだよ! 俺の無茶に中身があるかどうか見せてやるぜッ!」
その時、皆の笑みが止まった。
リカードとテオドラ、そしてセラスも、そしてこの場に居る誰もがその男の姿に目を奪われた。
それは「本気」を感じ取ったからだ。
目の前の男はボロボロでも死んでいない。本気で無茶を通すつもりだと感じ取ったのだ。
この絶望の状況下で、奇跡を起こすつもりなのだろう。
そしてソレは起こった。
奇跡に等しい出来事が起こったのだ!
「その通ォォォーーーーり!!!!」
「「「「「「「「「―――――ッ!?」」」」」」」」」
「それがグレン団のやり方だぜ、リーダァーーッ!!!!」
その言葉に敵味方問わず、当然シモンも含めて固まった。
「な、何だ貴様ら!?」
「一体どこから!? と、止まれーーッ!」
「関係ないものは――――」
声の主は周りの兵士たちが壁となって、シモンたちには姿が見えない。
しかし制止する戦士たちを振り切り、人ごみを掻き分けて男は・・・・漢達は現れた。
「極漢魂ァァァーーーーーーーッ!!!!」
「ダブル・疾空掌!!」
「3D式ドラゴンスクリュー!!」
「百華崩拳突き!!」
シモンたちに皆が見入っていたため、突如現れた者たちの乱入を誰もが止めることができなかった。
そして声の主たちは大勢の戦士たちの壁をすり抜け、シモンたちの前に現れた。
「な、何だァ!?」
「何じゃ、キサマら!!」
「一体何なの!?」
予想外の出来事に戸惑うリカードたち。すると現れた漢達はこの場に居る全員に聞こえるほどの大きな声で叫んだ。
「「「「ダチだァァ!!!!」」」」
現れたのは4人の漢達。
その4人の名前をシモンは思い出せない。
しかしシモンはこの4人を知っている。
そして現れたのは彼等だけではない。
「イナズマパンチ!!」
「エンキカッター!!」
今度は別の方角から声が聞こえた。
「今度は一体何なんじゃ!?」
全員が慌ててそちらへ振り向くと、今度はサングラスを掛けた一人の男と、背中に背負っている機械のような部分から出ているアーム部分で電撃のパンチを繰り出して、壁を掻き分けて、眼鏡を掛けた少女が現れた。
そして現れた二人は、先に現れた四人と同じように、大きな声で同時に叫ぶ、
「「仲間です(デス)!!」」
そして・・・・
一人残らず戸惑いを隠せないこの状況下、その状況下に追い討ちを掛けるかのごとく、空が急に光り輝いた。
「な、何じゃ何じゃ!?」
「空が・・・・」
「こ、これは・・・・」
急に光り輝いた空を見上げると、上空に神々しく輝く光の柱がセラスたちを照らす。
その数は七つ・・・
「七つの星に裁かれよ・・・・」
今度はまた別の声が聞こえた。そしてその瞬間、最初に反応したのはセラスだった。
「この呪文・・・・・ま、まずいわ!? 全員下がって!」
しかし時は既に遅い。
魔法世界の法を犯した瀬田たちにではなく、彼等を捕らえようとしたものたちに裁きの光が打ち下ろされた。
「七星剣(グラン・シャリオ)!!」
「くっ、最強防護(クラティステー・アイギス)!!」
打ち下ろされる七つの光の裁き。最初に反応したセラスは、避けることはせず、10以上の魔法陣を展開させ、持てる最強の防御呪文で、攻撃の全てを受け止めた。
セラスの機転もあり、被害は無くすんだが、それでもセラスたちの動揺も驚きも止らない。
「一体・・・一体何なの、あなたたちは!?」
するとセラスの防御魔法と光の魔法の衝突により粉塵が巻き上がる中、一人の女がシモンたちの前に、そしてセラスたちの前に現れた。
褐色肌のシスター服を身に纏った女。彼女はセラスたちに向けて告げる。
「そして・・・・家族です!!」
全員合わせて七名の男女がこの争いの中に乱入した。
「えっ・・・お前は・・・・・シャ・・・・・シャー・・・・・・ク・・・ティ・・・・」
シモンが固まったまま、記憶が無くとも、その口が不意に自然と動いた。
そして皆が呆ける中、一人の男が叫んだ。
「よっしゃああ! リーダーを守るぞ! 囲めェ!!」
その言葉に従って全員がシモンの周りに円を描くように並び、魔法世界の戦士たちに向って構える。
「副リーダー、豪徳寺薫!」
「中村達也だァ!」
「ふっ、山下慶一!」
「大豪院ポチ・・・・」
「田中エンキデス」
「新入りの葉加瀬聡美です!」
「そして、シャークティです!」
そして七名が己の名を叫ぶ。そしてそれぞれの背中には、シモンと同じサングラスを掛けたドクロマークが描かれていた。
そして七名は叫ぶ。
あの言葉を・・・・
「「「「「「「俺たちをォ誰だと思っていやがるゥッ!!!!」」」」」」」
たかが数名の叫びが嵐のように全ての者に響き渡る。
誰もが呆然としている中で、瀬田は同じくポカンとしているシモンに尋ねる。
「シ・・・・シモン君? か、・・・・彼等は?」
「さあ、・・・分からないや・・・・でも・・・」
シモンには答えられない。
しかし伝わってくる。
「でも・・・これだけは言える。・・・・・・・祭りの騒ぎに誘われて・・・・」
自分は間違いなく目の前の者たちを知っている。
多分ではない、確実に確信している。
その証拠に胸が熱くなる。
先ほどよりもずっと心の熱さが・・・いや、心のマグマが炎と燃えた。
シモンはニヤリと笑う。
「頼もしい奴等が現れたッ!!」
新生大グレン団参戦!!
最終更新:2011年05月12日 14:47