第九十七話 うっかりか・・・ 投稿者:兄貴 投稿日:09/10/07-22:33 No.4172
「「「「「「「き、・・・・記憶喪失ゥゥゥゥ!?」」」」」」」
先ほどまで、誰よりも勇ましく、誰よりも荒々しく戦い、その魂と己の未来を賭けて駆けつけてくれた仲間たちが初めて動揺した。
「・・・・・うん、そうなんだよ」
100を超える武装した戦士たちを前に、まったく揺らぐことのなかった彼らも、シモンのたった一言に身を乗り出して驚いた。
「ちょっ、リーダーマジかよ!? 俺、記憶喪失なんて漫画以外で初めて見るぜ!」
「すげえ・・・なんてドラマチックなんだ! 何かあっても、しらばっくれられるな!あ、・・・俺記憶喪失だから覚えてない・・・とかさ~!」
「今回の一軒で僕たちがリーダーを驚かせたと思ったが、流石はリーダー! 僕たちを驚かすネタを用意しているとは」
「おいしいぞ・・・リーダー・・・」
しかし動揺したように見えても、明らかに反応の仕方がネギや木乃香たちとは違った。
ネギ達が悲しみを堪えきれず涙を浮かべていたのに対して、強い絆で結ばれていたであろう目の前の彼らは、どちらかというと物珍しさに目を輝かせていた。
「再会時ニドンデン返シ。計算外ノイベント・・・シカシソレモ、リーダーナラ計算内。・・・アッ、ブータサンモオ久シブリデス」
「ぶーみゅ」
「・・・・・うーむ、私にも予想外、しかしこれはこれで素晴らしいイベント。ですが先ほどの戦いでも、以前とまったく変わらない姿や啖呵だったので、気づきませんでしたね~~」
これはこれでシモンにとっても予想外だった。
先に悲しみを態度に出していたネギたちに会っていたために、豪徳寺たちに自分の記憶がないことを説明したら、ガッカリされるのではないかと少し不安だったのだが・・・・
「まっ、ハカセちゃんの言うとおりで、結局リーダーはリーダーってことだな!」
「そうそう。グレン団用語で、細かい事は気にすんなってか?」
こいつらはこいつらだった。
悲しむそぶりを微塵も見せないどころか、むしろ軽く笑い飛ばした。
そんな彼らの態度に戸惑うシモンや呆気に取られている瀬田やサラたちに、笑いを堪えながらシャークティが口を開く。
そう、彼女が一番重要だ。
仲間でも友情でもない、家族という決して切れない絆で結ばれている彼女はどう思うのか?
しかし、それも要らぬ心配だった。
「まったくあなたは・・・・。まあ・・・・もう今更驚くこともありませんし、薫さん達の言うとおり、記憶のある無しはそれほど重要ではありませんが・・・・」
「「「「「えっ?」」」」」
シモン、瀬田、サラ、そしてハルカですらその言葉に驚いて、思わず咥えていたタバコを落としてしまった。
「え・・・・そ、そうなの?」
「お、おい。お前、シモンと仲良かったんだろ? 本当にそれで良いのかよ?」
ボソッと言ったシャークティの思わぬ爆弾発言にシモンやサラは耳を疑い、聞き返す。
しかし次に発せられた彼女の言葉にシモンは救われ、そしてサラは心を打たれることになる。
「ええ、・・・まあ、少し寂しい気もしますが、一番重要なのは私たちを覚えているかどうかではなく、重要なのはシモンさんがここに居るかどうかです」
「・・・・・シャークティ・・・」
「たとえ私のことを覚えていなくても・・・私の知るあなたがここに居る、今はそれでいいです」
シモンが居ればそれでいい。
そんな事を言われるとは思っていなかった。
シモンは心の奥底まで響いたその言葉に打ち震え、固まってしまった。
逆に瀬田とハルカは「なるほど」と言った表情で納得しているようだった。そんな両親の様子を見て、サラはピンと来た。
シャークティは明らかにシモンと強い絆で結ばれているのだと。
ネギや木乃香たちが、シモンの記憶喪失を知ったとき、自分たちの事を覚えていないことに悲しみ、そして涙を流していた。
だが、シャークティは違う。
記憶がある無しではなく、シモンが目の前に居ることが重要だといっているのである。
(こいつ・・・違う・・・・木乃香とか・・・刹那ってやつとは全然違う。もっと・・・ずっと深いところでシモンと繋がってる・・・。そっか・・・・家族って言うだけはあるかもな・・・)
サラはムッとなってやきもちを妬くよりもむしろ、強い想いを目の当たりにして、逆に清清しい気がした。
そしてシャークティは打ち震えるシモンに対して、ニッコリと微笑みかける。
そこに居るのは先ほどの戦いで見せた勇ましい女性の姿ではない。シモンの女性関係に般若と化して問いただしてきた者でもない・・・
「だからあなたの家族として一言。この世界はあなたの故郷でも、あなたの家でもありませんが、私はあなたの帰る場所・・・・だから一つだけ・・・」
そしてシャークティは一呼吸をおいて、太陽のように眩しく暖かい微笑みをシモンに向ける。
「おかえりなさい、シモンさん」
聖母のような微笑みがそこにはあった。
「シャ・・・シャーク・・・ティ・・・」
思わず涙が出そうになった。
ずっと探していた、自分が何者かという問いの答え。
それすら思い出せなかった自分の帰る場所が目の前にあった。
いや、自分を迎えに来てくれたのだ。
シャークティの微笑みと言葉の全てがシモンの心に突き刺さった。
「シャークティ・・・だったな・・・・」
「・・・ええ・・・」
顔を少し俯かせ、シモンの瞳は前髪で隠れて見えない。その瞳を覗き見ようとはせず、シャークティはシモンの言葉を待つ。
「一ついいかな・・・・。ただいまは・・・・もう少し待ってくれないか? ・・・・・全てを思い出して・・・・お前と・・・そして・・・・」
シモンには分かっている。
自分の帰るべき場所には、まだ足りないものがある。思い出せないが確信している。
だからこそ、今すぐにでもシャークティに言いたい「ただいま」という言葉を必死に飲み込んだ。
そしてシャークティはみなまで聞かずに、シモンの言いたいことを理解して頷いた。
「ええ、分かっています」
するとシャークティは、両手でシモンの両頬を包み、俯いているシモンの顔をゆっくりと上に上げて、正面からシモンに向ってもう一度微笑んだ。
「あなたの愛する妹たちが・・・・家族が皆で揃ったその時に、言ってください!」
これほどうれしいことはなかった。
自分と同じように無茶を通そうとする仲間たち。
そして自分をこれほどまでに理解してくれる人と会えたのだ。自分が彼女のことを覚えていないにもかかわらず。
「ああ、・・・そう言ってくれると助かる」
ようやく見つけた自分の帰る場所。
シモンはうれし涙を抑えるので必死だった。
こぼれそうになる涙を誤魔化すように、シモンは空を見上げる。
「シャークティ・・・・そしてお前たち! ただいまはまだ言えないけど、これだけは言っておく。・・・・ありがとな!!」
そして心の底からの笑顔をシャークティと仲間たちに向ける。
それがあまりにも照れくさく、しかし悪い気もせず、シャークティたちはうれしそうに笑った。
「へへ・・・シモンの奴、うれしそーだなー」
「だな。随分と理解のある仲間と女じゃないか」
「ふふふ、シモン君の安らいだ表情は初めて見るな・・・。ずっと・・・肩に力を入れてたんだね。・・・・よかったね、シモン君」
いつもの頼もしい笑みではない。本当に心を許したものにしか見えない、うれしさと弱さの入り混じったシモンの笑みを見て、瀬田たちも何となくうれしくなったのだった。
「あ、・・・・あれ?」
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」
祭りの中で立ち止まる11人と一匹の集団。そんな一団の近くで、驚いた表情で固まる三人の少女が居た。
みながふり返ると、そこには買い物袋を抱えてメイド服を着た、三名の可愛らしい少女が居た。
メイド服と少女たちの容姿に豪徳寺たちが「逆ナンか?」と少し期待を込めた表情で身を乗り出すが、直ぐに表情を変えた。
それはその三名の少女の顔に見覚えがあったからだ。
「あれ・・・おい・・・この子達・・・」
「ああ、・・・えっと・・・たしか・・・たしか・・・」
豪徳寺たちが唸っていると、傍に居たハカセが一番最初に大声え上げて叫んだ。
「あ・・・・あああああああーーーーッ!?」
ハカセは少女たちに指を指し、まるで信じられないものを見たかのような顔で震えた。
「あ、亜子さん!? 夏美さん!? ・・・・それに・・・アキラさん!?」
ハカセが声を震わせながら唇を動かすと、その言葉を聞いた少女たちはうれしさの篭った涙目でハカセに飛びついた。
「ハ、・・・ハカセーーーーーッ!!」
「ハカセ! そ、・・・それにシモンさん!・・・・それにあなたたちもたしか・・・学園祭で・・・・」
「うんうん、本物だよ~~~!」
ハカセに一斉に飛びついた三名の少女。それがハカセのクラスメートであり、ネギの生徒である亜子、アキラ、夏美の三名だった。
「うわああ! 皆さん、無事だったんですねーー!」
「うん! ハカセ~~! 会えて良かったよ~~!」
祭りが賑わい、奴隷の仕事で忙しい中、偶然に彼女たちとハカセたちは再会できたのだ。
そんな彼女たちのやり取りを見て、ようやく豪徳寺たちも亜子たちのことを思い出した。
「おおーーーっ! お前たちは学園祭でキッド(裕奈)と一緒に居た!」
「君達もこの世界に居たのかい?」
「そうです! そうです!」
「そうか・・・あなたたちはシモンさんの仲間の、何とか団の人たち!・・・学園祭で活躍して、裕奈を勧誘していた・・・シモンさんが居たのはテレビで知りましたが、あなたたちまで居たんですね」
「うわ~~~! すごいよ~~! 最初は不安ばっかりだったのに、どんどん知ってる人に会えちゃうよ~~!」
豪徳寺たちも亜子たちのことを思い出し、そして亜子たちもうれしそうに何度も頷いた。シモンや瀬田たちは事情が分からず、首を傾げていたが、彼女たちとの再会、そして無事を知り、シャークティだけは安堵の息を漏らした。
四人の少女が再会を喜び合い、中学生の少女らしく騒いだ。
その様子を微笑ましいようにシモンたちが見守っていると・・・・
「おいおいおいおい! 何仕事サボって騒いでやがる!」
その光景に口を挟む乱暴な男の声が聞こえた。
「ったく、亜子! アキラ! 夏美! 何ボーっとしてやがる! テメエらは荷物が軽いんだからさっさと行けよ! それともまだ、重くて運べねえとか言うんじゃね・・・・え・・・だ・・・ろう・・・って・・・」
全員がふり返ると、そこには亜子達とは比べ物にならない量の荷物を両腕から下げ、足りない分は両手のひらの上に積み重ねて運んでいる男が居た。
そして男が不機嫌そうな表情で、積み重ねた荷物の上に顎を乗せて亜子達を睨みつけようとする。
「・・・・あっ・・・・」
しかし次の瞬間固まった。
「「・・・・あっ・・・・」」
そしてこちらからも二名の声が漏れた。
声を出した二人に皆がふり返ると、そこには目の前の男と同じような表情で固まるシモンとサラが居た。
「ごめんなさい、トサカさん。重い荷物をたくさん持ってもらっているのに、こんなところで雑談して。でも、この人達は私たちの知り合いで、今偶然再会して・・・」
アキラが大荷物を運んでいる男に会釈をして事情を説明する。
しかし男は・・・トサカはアキラの説明など聞いていなかった。
それどころではなかった。
「テテテ・・・テメエら・・・・」
「・・・お、お前は・・・」
「あれ・・・なあ、シモン・・・アイツって・・・」
震えるトサカ。
驚いた表情をするシモンとサラ。
三人の様子に皆が首を傾げていると、亜子が逸早く気づいた。
「そ、そうや! たしかトサカさんって、シモンさんたちと知り合い―――」
「そうか、お前は、あの時のお前!?」
「そーだよ、あの時のアイツだ!?」
「クッソが~~、そうゆうテメエらは、あの時のテメエら!!」
「ひっ!?」
亜子が全てを言い終わる前にトサカが怒声を上げ、シモンもサラもトサカの顔を見て、驚きの声を上げる。それにびっくりした亜子が後ろによろめいてしまったが、今のトサカは亜子達に気遣う余裕は無い。
「あの時のお前と、あの時のアイツと、あの時のテメエら・・・よくそんな言葉でお互い分かりますね・・・・」
シャークティのツッコミを無視しトサカは荷物を全て放り出して、ズカズカとシモンとサラの前へ出た。
「そ、そんなに怒るなよ、トサカ! せっかくまた会えたんだからさ」
「うわ~~最悪・・・お前も居たのかよ~~。ってゆーか、別に私たちは、お前と会いたかったわけじゃねーよーっだ!」
「ああん!? 上等だア、このクソチビ女がア! 今すぐ警備隊にたたき出してやるよ!!」
「ざんねんでしたーっ! もう、そいつら全員追い返しちゃったもんねーーーっだ!」
「ああ? 何テキトーなことほざいてんだよ? ドタマをカチ割るぞ!」
「なんだよ、やんのかよ? メカタマスパイラルを舐めたら穴あきだぞこのやろー!」
シモンもサラも、トサカに対して恩があるのだが、サラはその前後のトサカとのやり取りが印象的で、怒声を上げるトサカに対して、つい自分も反抗的になってしまい、気がつけばトサカとサラの言い合いが始まってしまった。
「なんだなんだ? また喧嘩かよ?」
「まったく・・・・あなたはどこまで火種をこの世界にバラ撒けばいいのですか?」
「ま、待ってください! えっと・・・トサカさん、前にテレビでシモンさんが出てきた時に言ったように、私たちの知り合いなんです。そしてシモンさん、事情は知りませんけど、トサカさんには私たちはすごくお世話になっているんです。だから争いはやめてください」
「アキラの言う通りや。なっ、とにかく落ち着いて一旦シモンさんたちもお店に来てください。そこで話しをしましょう!」
面白そうに眺める豪徳寺や、呆れて仲裁にも入る気にもなれないシャークティたちの横から、勇敢にもアキラがトサカとサラの間に入り両者を宥めた。
そして亜子も同じ気持ちなのか、少し足が震えながらも怒るトサカや、事情がありそうなシモンたちに提案する。
トサカは精一杯反対したが、シモンたちも一度はどこかで落ち着かねばならなかった。
幸い追っ手の気配は無いため、ここはひとまず亜子たちの店に行ってから今後の対策を取るのがベターだと判断し、トサカの抵抗むなしく彼等は全員、トサカたちの店へと訪問することになったのだった。
「ななななな・・・・なにいいいいいいいいい!? 三国と喧嘩ァァァァ!?」
トサカの店内中どころか店の外にまで響き渡る叫びが聞こえた。
いや、驚いているのはトサカだけではない。亜子やアキラ、夏美、そして奴隷長の女ですら、シモンから告げられた先ほどまでの出来事に驚愕していた。
さらに・・・
「ああ。アリアドネーとメガロとヘラス・・・だったかな? そこの隊長やら団長やらと戦ったり、あとすごく強いのが三人居たな。たしか・・・リカード・・・セラス・・・テオドラ・・・とか呼ばれてたかな」
「「「ぶふうううーーーーーーーーーッ!!? リカード・セラス・テオドラァァーーーッ!!?」」」
今度は噴出した。
噴出したのはトサカ、奴隷長、そして・・・・シャークティだった。
「メメメ、・・・メチャクチャその名前知っとる・・・・・」
「まあ・・・普通は子供でも知っている名前さね・・・・」
「き、気づきませんでした・・・・私としたことが・・・。顔は知らなかったもので・・・」
政府とシモンたちが戦っていたのは知っていたが、リカードたちの名前は知っているものの、顔は知らなかったシャークティは、自分たちがまさかそれほどの大物と戦っていたとは知らず、重たい空気を纏いながら自分の行いをふり返っていた。
「う・・・別に後悔はしていませんが・・・どうやら本当に私は魔法先生をクビになるかもしれませんね・・・・メガロの幹部は麻帆良の上部組織なのに・・・」
「どーしたんだ、シャークティの姐さん?」
「さあ? しかし、シャークティ先生はまだ真面目さが残っているようですね~」
豪徳寺たちやハカセは良く分からないため、首を傾げているが数週間以上もこの世界に滞在している亜子達は、ある程度までのこの世界の知識を身に付けていたため、自分たちでも知っているその名前が出てきたことに驚いていた。
「私たちも少し勉強したから、その人たち知っとる・・・。何でシモンさんやハカセたちが、そんなスゴイことになっとるんや?」
「うわああ・・・おっかな~~」
「本当に、・・・ネギ先生が強い理由は何となく分かりますけど・・・・シモンさん・・・・あなたは一体何者ですか?」
「まあ・・・色々あったけど・・・・細かいことは・・・」
「「「「「「細かくない!!!!」」」」」」
「そ、・・・・そうか・・・・」
トサカ、奴隷長、シャークティ、亜子、夏美、アキラの同時ツッコミに思わずたじろぐシモン。
原因の瀬田たちも助け舟を出そうとしたのだが、どうやら話しは完全にシモンに集中し、亜子達は身を乗り出してシモンに問答していた。
「くそが・・・グラニクスに居た時からメチャクチャだったが・・・お前たち何者なんだよ?」
「たしかにぶっ飛んだことをやったさね~~」
「・・・シモンさん、私も先ほどの相手が政府であるのは何となく理解していましたが、その中に魔法世界でもトップ10に入るほどの有名人が居たのは気づきませんでした」
呆れるを通り越して、言葉がこれ以上思いつかないトサカたちは深い溜息をついた。
しかし、・・・まだ終わらなかった。
「トップ10? そういえばラカンたちと並ぶ英雄とか言っていたからそうなのかな?」
「でもよー、シモンはラカンの筋肉お化けと勝ったとは言えないかもだけど、一応引き分けたじゃん? だったらもう、シモンの強さは魔法世界でも上から数えたほうが早いのかもな~~」
シモンのボソッと呟いた言葉にサラが反応し、サラがシモンを魔法世界最強クラスではないかと問いかけた。
その言葉に少しカチンと来たトサカだが・・・
「けっ、何がトップだ! 調子に乗るんじゃねえ!! ラカンだか何だか知らねえが、その程度で最強なんて・・・・・ん?・・・」
「・・・・・・・・・・・・へっ?」
「・・・・・ラカン?・・・・」
アホヅラで固まったトサカが、もう一度シモンが今言った名前を思い出す。
「「「ラ・・・・ラカンーーーーッ!!!?」」」
そして最早お馴染みの驚き役のトサカと奴隷長とシャークティが驚きの余りにぶっとんでしまった。
「ララララ、ラカンーーーッ!? ババババ、バカなこと言ってんじゃねえ!? テメエ、あの伝説の大英雄、千の刃と戦ったって言うのか!? しかも引き分けただとォ!?」
「シシシシ、シモンさんッ!?」
今のが一番驚いたのか、我慢できずにシモンに詰め寄るトサカとシャークティ。
二人の剣幕に少し押されるシモンだが、少し唸りながら考える。
「あ、ああ・・・サウザンドマスターの仲間だろ? ・・お前と会ったとき、俺ボロボロだっただろ? あれはその時の傷だ。流石に俺も死ぬかと思ったけどな」
「「あっ・・・がっ・・・・」」
「う~ん、・・・でも、俺はしばらく寝込んでたけど、アイツはあれから歩いて帰ったとか言ってるし・・・勝ちというか・・・引き分けというのか・・・・やっぱり俺の負けだったかもしれない・・・。一応アイツの腹にデッカイ風穴を開けたと思うんだけど・・・・」
「・・・・・うそだろ・・・おい・・・あの無敵のラカンを穴あきに・・・」
「あなたなら信じられますけど・・・信じられないという言葉しか思いつきません」
どうしても信じられない。とくにトサカに関しては信じたくないというのが本音だろう。
しかし・・・
「う、・・・嘘言う男ではないさね・・・。以前と今回のメチャクチャぶりからもありえない話ではないね。こりゃまたとんでもない超新星が現れたもんだね」
奴隷長の言葉の通り、シモンならありえない話ではないかもしれないという思いが、トサカ自身の意思に反して強く、ただ口を半開きにしたまま固まるだけだった。
「まっ、俺らのリーダーだからな!」
「ふっ、そういうことだね。僕たちも負けていられないな」
「私モ燃エテキマシタ」
「ほう、シモン君は先ほどのデカイ彼に勝ったのか~。やるね~」
「たしかラカンて・・・そや、ネギ君のお父さんの仲間だった人やろ?」
「本当に・・・シモンさんって何者?」
「小太・・・じゃなくてコジロー君が、シモンさんが来てくれてもの凄く頼もしいみたいなこと言ってたけど、本当なんだね~」
「う~ん、まっ、あの超さんが認めたシモンさんなら、ありえない話しではないですね~」
「いいのかおい!? テメエら、ノンキに言ってるが、このクソッタレ野郎が何やったか分かってんのか!?」
目の前にいる、一見ごく普通の男による僅か数週間の間に成した偉業は、旧世界、魔法世界、人亜機械の全ての物に衝撃を与えるようなものだった。
驚いていいのか、呆れて良いのか分からないこの事実に、皆はもはや事実をそのまま鵜呑みにすることしか出来なかったのだった。
「なあなあ、それでさ~、さっきの話の続きだけど、そのラカンの筋肉お化けに勝ってなくても、互角だったシモンは既に魔法世界でも一番強いのか?」
「い、いや・・・そんなはずは・・・くっ、サウザンドマスターがいくら居ないとはいえ・・・いや・・・ラカンのほかに・・・う~ん・・・」
単純な興味本位からのサラの質問に、先ほど真っ向から否定しようとしたトサカは「ウッ」とつまり、黙ってしまった。
すると代わりに元拳闘士でもある奴隷長があごに手を当てて考えながら口を開く。
「う~~ん最強・・・、さあね~、まあ上から数えたほうが早いのは間違いなさそうだが、まだまだ強いやつらはいっぱい居るさね。メガロのリカードとかは、どちらかというと表舞台で成した偉業を認められた英雄さね」
「表舞台?」
「うむ。強いやつイコール英雄ではない。裏の舞台には戦闘能力のみ強い怪物、怪人、魔王みたいなやつらは山ほどいたよ」
まるで昔を懐かしむかのように奴隷長は遠くを見るような瞳を見せた。
その様子から彼女のその瞳に、その記憶にこびり付いていたのは何も英雄たちの姿だけではないことを物語っていた。
「裏の舞台? 魔法自体が世界の裏側の話しなのにか~?」
「魔法とは僕たちから見たら歴史の裏に隠れた世界だが、そのまた裏の世界の中でも隠れた歴史・・・、やはり世界の歴史は奥が深いね~・・・」
「まあ、・・・・ママが現役のころは情勢がやばかったからな・・・・」
トサカの言葉に頷き、奴隷長は次々と歴戦の猛者たちの名前を口ずさむ。
「うむ・・・・・・まだ紅き翼が現役の頃・・・例えば・・・誰でも知っているやつなら、闇の福音・エヴァンジェリン。戦争では狡猾な戦略家として有名な不動のアムグ、鬼族と人間のハーフ・狂い笑いのユウサ、・・・竜人族の神童・竜剣士ゲジョウ。・・・そしてシルチス亜大陸の魔人、爆乱のチコ☆タンとかね・・・」
「「「エ・・・エヴァンジェリンさん!!?」」」
「ん? 亜子ちゃんたちでも知っているのかい?」
「やはりエヴァンジェリン・・・。それにしても、チコ☆タンとは懐かしいですね。子供のころ聞いたことがあります」
「知ってるのか、シャークティ?」
シャークティが聞き覚えのある名前に口を挟むと、トサカも何かを思い出したかのように苦笑した。
「ああ~、それなら俺も知ってるぜ。よくガキの頃ママに近所の奴等をイジメたりするとチコ☆タンがやってくるとか聞かされてたからよ~。紅き翼に倒されたらしいが、その力は当時の奴等にとっちゃあ小便チビルぐらいだってな」
「うむ・・・だが、サウザンドマスターを筆頭に、チコ☆タンなどの当時戦乱を左右させた猛者たちはほとんど居なくなってしまった・・・・まあ、十年以上も経てばそうなるさね・・・・」
「奴隷長(チーフ)・・・・」
「まっ、しかしアンタが本当に千の刃と引き分けたんなら、十分トップクラスだと思っていい」
呟く亜子達から見た奴隷長の横顔は、時代の移り変わりに対して少し寂しそうな表情を浮かべているように見えた。
「ナギ、ラカン、詠春、アルビレオ、ゼクト、ガトウ、タカミチ、・・・・リカード、セラス、テオドラ・・・・・・・アリカ姫・・・・・そして完全なる世界・・・他にもエヴァンジェリン、チコ☆タン、・・・ユウサ、ゲジョウ・・・・、もはやかつての群雄割拠の時代は終わった・・・それを平和と呼ぶのだが、少し寂しい気もするね。まっ、私は今の暮らしに十分満足だがね。亜子ちゃんたちのような可愛い娘のような子たちも出来たしね♪」
しかし直ぐに首を横に振り、いつもの表情に戻った。その姿は時代の移り変わりを懐かしみながらも受け入れるようにも見えた。
そして奴隷と主人という間柄でありながら、奴隷長の言葉に思わず涙ぐみながらうれしそうにする亜子たち。法律上の間柄は別として、そこには確かな絆を見た気がした。
少し場がしんみりとした。
その空気に「やれやれ」と小さく溜息をついた奴隷長はゆっくりと立ち上がり、亜子たちの肩を叩きながらシモンたちに、提案をする。
「さ~て、堅苦しい話しはここまでにするよ! あんたたちも今日は疲れたんだろ? 亜子ちゃんたちも、もう上がっていいから皆と一緒に温泉にでも行ってきな。今日はもう店じまいさ」
本来なら忙しいこの時期に店の早閉いは普通は無いのだが、奴隷長自身もシモンたちとの会話で、今日はこれ以上働く気をなくしたのか、温泉を提案することにした。
温泉はオスティアの名物の一つ。
遺跡や格闘大会に続く目玉の一つだった。
その証拠に・・・
「「「「「「「「「「温泉!?」」」」」」」」」」」
彼等は、何故かこの日一番の食いつきを見せたのだった・・・・・
最終更新:2011年05月12日 14:49