第九十八話 早いところ、一人前になることだな 投稿者:兄貴 投稿日:09/10/23-21:21 No.4185
オスティアの地には夢と希望とロマンの眠る聖域を目指した勇猛果敢な漢たちが、立ちはだかる境界線の壁を前に佇んでいた。
「山ちゃん・・・俺たちはどこに来た?」
「勿論、温泉だよ」
聳え立つ巨大で厚い壁を前にして、豪徳寺は腕組をしながら尋ねる。
「そーだ・・・すると、たっちゃん・・・温泉だったらどういうイベントだ?」
「ウフフ・・・な展開があるイベントだ・・・・・」
「そーだ・・・すると、ポチッち・・・・ウフフはどういう展開で無ければならない?」
「・・・・・混浴・・・・・」
「そーだ・・・・だが、エンキ・・・・ここには何が居る?」
「・・・・ヒューマン、獣人、亜人、ロボ・・・・ノ、オスデス」
タオルを腰に巻き、聳え立つ強固な壁の前で佇む男たち。しかし彼等はそこから一歩も動けないで居た。
男たちの夢の世界への道を阻む現実の壁に、豪徳寺たちは己の無力さを嘆いていた。
「そーだ・・・・何で・・・何で虎とか熊とかトカゲとかとのオスと一緒なんだアア!?」
つまりは、期待と興奮で膨らませていた想いが、あまりにもドラマの無い展開によって粉々に打ち壊されたのだった。
「しかも・・・温泉って言えば普通は女子と男子が別れていても、覗いてくださいと言わんばかりの柵があるはず・・・なのに・・・なんで壁なんだァ!」
そして混浴どころか覗く隙もまったくない密閉された空間で、オスの獣人たちと一緒にお風呂に入るというあまりにも残酷な展開だったのだ。
純粋な? 夢を壊されて打ちひしがれる青年達の姿を見て、瀬田とシモンは湯に浸かりながら面白そうに笑っていた。
「ははは、残念だったね~。まあ、仕方ないさ。僕が聞いた話によると、オスティアの風呂は聖域とまで呼ばれているところらしい。貴族やお偉いさんも入る風呂場で簡単に、ウフフな展開は無いようだね~」
「まっ、普通に風呂に入ればいいじゃないか。これはこれで楽しいぞ? それに、覗いたってこっちがそうなんだから、女風呂も獣人とかでいっぱいだろ?」
これが青春に生きる学生と人生経験豊富な大人との決定的な差なのか? 実に二人は余裕のある態度である。
しかし、豪徳寺たちはあきらめない。
大人も学生も関係ない。男であることの意味を、彼等はシモンと瀬田に問いただした。
「甘え!! 甘えぜリーダー! 瀬田の兄さん! 記憶と共にロマンを無くしたか! ヨーコさんが居なくとも・・・いや、そこに待っているのが本当に楽園だと分からなくても、風呂場は命を賭けてロマンへ向った漢たちの魂が流れる場所だぜ!!」
バックに火山が噴火したかのように熱く達也が語りだした。すると続いて豪徳寺も、渋い雰囲気を出しながら、己の想いを正当化する。
「ふっ・・・・硬派な男は覗きなど低俗な真似はしない・・・しかし、イベントをスルーして、漢の成すべきことをしないほど、俺は腰抜けではないぞ!!」
何故か、彼等はこの日一番の熱さを見せていた。
シモンも瀬田も、豪徳寺たちの行為に「やれやれ」と苦笑しながら未だに湯の中から動かないで居ると、壁の向こうから聞きなれた声が聞こえてきた。
「うわ~~、広~~い!!」
壁に阻まれて少し聞き取りづらい。
しかし、風呂場ゆえに声が響くのか。またはどこかで壁の向こうと空気の穴が繋がっているのか分からないが、とにかく女の声が聞こえてきた。
「薫ちん・・・・この声は・・・」
「・・・おお・・・・亜子ちゃんだぜ・・・」
壁の向こうから聞こえてきたのは亜子の声だった。
どうやら自分たちと一緒に来た彼女たちも、巨大テーマパークのプールのように広いこの風呂場を、生まれたままの姿で驚いているのだろうと、頭の中で思い浮かべた。
「ぐっ・・・・何を話してる?」
「しっ、・・・・くっそ・・・向こうはどうなってやがる・・・」
気づけば豪徳寺たちは壁に耳を当てて向こうの声を聞き取ろうと必死になっていた。
傍から見たら怪しい集団なのだが、広い風呂場であり、湯気が立ち込めているため、誰も彼等の行動を咎めはしなかった。
すると・・・
「本当に広いですね~~。これだけでも来て良かったですね~」
「ふふ、ハカセさんもネギ先生の生徒なだけあって、中々肝が据わってますね」
仲間のハカセとシャークティの声も聞こえてきた。
すると・・・・
「うわ~~~、シャークティだっけ?」
「はい? なんです、サラさん?」
「なんつうか・・・お前・・・別に胸がデカイとかそういうんじゃないけど・・・・なんだろ・・・なんつうか上品さがあるっつうか・・・肌がキレイっつうか・・・」
「えっ?」
「あっ、ウチも思う! シャークティ先生ってシスターだし・・・なんやろ・・・水浴びをする女神ってゆうか・・・神々しさがあるってゆうか・・・」
サラと亜子がマジマジとシャークティのハダカを見て、そこに大人としての完成された姿を見た気がした。
「ちょっ・・・あまり見ないでください。恥ずかしいです」
シャークティが少し頬を赤らめて手隠しで体を隠す。
すると・・・・
「別に良いじゃないか。女同士で恥ずかしがることないだろ? スケベな男共が見ているわけじゃあるまいし」
「ハ、ハルカさん・・・しかし・・・」
「うわ・・・シャークティ先生もやけどハルカさんも・・・・」
「うん・・・すごいスポーティというか・・・全然脂肪がないけど、色気は感じるというか・・・」
タオル一枚身に纏わず堂々と現れたハルカ。
アスリートのように引き締まった体かと思いきや、決して硬すぎず、体の柔らかさも感じる適度な肉体に亜子と夏美は目を奪われていた。
「う~ん・・・やっぱハルカもやるな~」
「皆さんも難しいお年頃ですからね~。その点アキラさんは運動やっているだけあって、素晴らしいですね~」
「えっ? あっ・・・やっ・・・その・・・ハカセもあまり見ないで・・・」
「あ~~、アキラの裏切り者~~!!」
「うう~~、なんかずるいよね~」
風呂に入ったらお約束なのか、定番のような会話が聞こえてきた。
互いの肌を見合っての一喜一憂。
しかしまったくその光景が見えなくても、壁の向こうでその光景を頭の中で思い浮かべる者、または心眼で壁の向こうを見ようとする男たちがいることを彼女たちは知らない。
そして、そんな状況の中、現実に打ちひしがれて自信を無くしていく夏美は、とどめの一言を言う。
「しかし・・・・何で魔法世界の人達って美人でスタイルがメチャクチャ良いんだろう・・・しかも、それで猫耳とか獣の尻尾とか反則だよね・・・・」
夏美は辺りを見渡して思わず呟いた。
それは独り言のように小さかったため、本来なら聞こえるはずがない。
しかし、全神経をむき出しにした彼等には、場の雰囲気というか、ノリというか、とにかく聞こえてしまった。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」
そして・・・漢達は立ち上がった・・・・
「「「「行くぜ、ダチ公!!」」」」
これだけのことを聞いて、何を躊躇う必要がある? というノリで彼等は立ち上がった。
「リーダー! リーダーのドリルで、聖域に風穴を開けるんだ!」
「人生、山あり、谷あり、ロマンありだ!! デッカイ山にキワドイ谷・・・冒険してみようじゃねえか!!」
「果たしてヨーコさんを超える神は居るのか・・・・」
「もし居たとしたら・・・それは乳神・・・・か・・・」
「ヨーコサンハドチラカト言ウト・・・・ヘソ神ダト・・・」
「はっはっは、いいね~、男の子はそうでなくっちゃね~!」
「おいおい、瀬田さんまで。ハルカさんやサラに怒られても知らないぞ?」
男たちは心を一つにして、世界を真っ二つにする巨大な壁、赤い土の大陸に(レッドライン)の向こうにある、ひとつなぎの大秘宝を目指して走り出した。
しかし・・・・
「ちょっ、・・・・ちょっとあなたたち、ダメですよォ!!」
「「「「「「「ん?」」」」」」」
空気を読めない無粋な声が男たちの足を止めた。
「エッチなのはダメですよ!」
それは子供の声だった。
まるで風呂場の文化を知らない子供の発言に、男たちは立ち止まりふり返る。
しかし・・・
「「「「「「「あっ・・・・・」」」」」」」
そこに居たのは・・・男たちに常識を投げ掛けた子供は、自分たちのよく知る顔だった。
「おっ・・・お前は!?」
豪徳寺が一番最初に気づいた。それに続いて達也や慶一たちも自分たちを止めた者に気づいた。
「えっ!? シモンさん・・・・それに・・・えっ? あなたたちは・・・・」
「おう! 久しぶりじゃねえか、子供先生!!」
「く~っ、学園祭以来じゃねえか!」
「やあ! また会えてうれしいよ!」
「それに確か・・・小太郎・・・」
「あっ? ちょ・・・何で兄ちゃんたちがここに居るんや!?」
そう、豪徳寺たちの行く手を止めたのはネギだった。
怪しい集団を見かねて、思わず口を出したネギだったが、振り向いた男たちを見て度肝を抜かれてしまった。
ネギにとっても、それだけ予想外の出来事だったのだ。
そして豪徳寺たちも女風呂のことを一瞬で忘れ、うれしそうにネギに、そして後ろから顔を出した小太郎とカモの元へと駆け寄った。
「ちょっ・・・どういうことでい、シモンの旦那!? 無事だったのは安心したが、何でグレン団が集結してるんでい!?」
「ああ。ついでにシャークティ、そしてハカセも今隣に居る。こいつらに危ないところを助けられてな」
「シャ、シャークティ先生まで!? ・・・って・・・ハカセさんも!?」
「ああ! 全員頼もしい奴等だ。それにしても・・・お前も無事だったんだな。良かったよ」
「えっ!? ああ!? もうどうなっとるのかさっぱりや・・・・、ちょ、詳しく教えてや!」
夢への道は阻まれたが、スッカリそのことを忘れてネギ、小太郎、カモ・・・・そして・・・・
「おう、テメエら!! んなとこで固まってどうしたよ?」
「ラカン!」
「お~~、シモンじゃねえか。どーやら、生きてるようだな。・・・ん? なんか・・・・増えてねえか?」
全裸で堂々とギガドリルを股間にぶら下げたラカンまで登場した。
「「「「「「「「デ・・・・・デカッ!!?」」」」」」」」」
あまりの規格外のラカンのドリルに男たちは眼を疑い男としての尊厳を失ったかのようにうな垂れてしまった。
「あん?」
「いや・・・・気にすることじゃないよ・・・」
「おう、冒険王! テメエも無事だったか。聞いたぜ~、リカードの野郎を退けたってな。大したタマじゃねえか!」
「う~む、君に褒められても何もかもが霞んでしまうね~」
「まあ、ネギもラカン・・・・は当たり前だけど無事で何よりだな」
なんやかんやで、風呂場で大集合した男たち。
ネギ、小太郎、ラカン、瀬田、シモン、そしてグレン団・・・・
この光景に同じ空間に居るほかの客たちは・・・・・
「「「「「「・・・・・・・あの湯・・・・半端ねえ!!!」」」」」」
風呂場でありながら、あまりにも近づきがたい面子とオーラを放つ空間に、他の客たちは一切近づこうとはしなかった。
「ん? なんだァ? 今日はすいてやがるな」
超有名人ラカンを始め、超一級のお尋ね者が集いながらも、誰も周囲には近づかなかったために、彼等は堂々と再会の挨拶を交わして湯の中で談笑を始めたのだった。
そして男たちが諦めた聖域・・・即ちすぐ隣の女子風呂では・・・
「「「「「あっ・・・・・・」」」」」
複数の少女たちが、視界に入った女に思わず声を上げてしまった。
そう、ネギがここに居るのならば彼女たちも居る。
そしてネギが驚いたのだから、当然彼女たちにとっても同じだった。
「う・・・うそ・・・・シャ・・・シャークティ・・・先生?」
「な、・・・・何故ここに?」
その言葉にシャークティが振り向くと、木乃香と刹那が驚きの表情を浮かべながら固まっていた。
そしてその後ろには同じ気持ちを持ったアスナやのどか、楓たちが揃っていた。
そんな彼女たちの驚く顔と無事な姿に満足したシャークティはニッコリと笑った。
「あら・・・、どうやらそちらも無事だったようですね!」
するとシャークティの背後からハルカ、サラ、ハカセ、そして亜子、アキラ、夏美の三人も顔を出し、誰も欠けていない状況に素直な賛辞を送った。
「そーみたいだな。強敵に遭遇したと聞いたが、やるじゃないか」
「へへ、良かったな~。まあ、こっちも影でがんばってたんだけどな~」
「いや~~、さすがですね~!」
しかし木乃香たちは素直に流すことは出来なかった。何故ならそこには一番意外な人物が居たからである。
「ちょっ、シャークティ先生だけじゃなくてハカセまで!? 何で!? 何繋がり!? つうか、ウチのクラスだけでこれで何人目!?」
「う~む・・・一番魔法と無縁そうな人物が現れたでござるな・・・」
素直に思ったことを口にするハルナと楓。
すると茶々丸がハカセをジーッと見つめながら、何かを考え出した。
「シャークティ先生がここに・・・そしてハカセまで居るということは・・・・・・・・・ハカセ・・・・まさか・・・・」
茶々丸が咄嗟に導き出した結論。するとハカセは答えを聞く前にニコッと笑って頷いた。
「ふふん♪ ごめんなさいね~、茶々丸。私は今では茶々丸のライバルの一味にお世話になっているのですよ~」
その発言には誰もが驚かずには居られなかった。
茶々丸のライバルの一味・・・・それだけでその意味が簡単に分かってしまった。
この世界では無名でありながらも、その存在と影響は彼女たちにとっては紅き翼並みのチーム。
「「「「「ハカセちゃんがグレン団に!?」」」」」
誰もが予想も出来なかった展開に、ただただ口を開けて固まることしか彼女たちには出来なかったのだった。
「ふふ、やはり驚いていますね」
「ですね~、これを見れただけでも入った甲斐がありましたよ」
「そんなに有名なのかい? シモンとあんたらのチームは?」
「私は聞いたことないけどなー」
「えっと・・・私たちの学園では・・・」
「私たちも良くは知りませんけど・・・」
アスナ達の反応を見て満足そうなハカセだった。
そしていつまでも固まっているアスナ達に苦笑しながら、シャークティは口を開く。
「アスナさんたちも無事ということは、ネギ先生も無事ですか?」
その問い掛けにようやく氷解したアスナ達は慌てて頷いた。
「はい! けっこー、大変だったんですけどね~、ね~? 刹那さん?」
「ほんまやな~。せっちゃんなんて街中でハダカにされてもうたからな~」
「お、お嬢様!? そ、それは言わないで下さい!」
「ふふふ~、シモンさんが居なくて良かったな~」
「うっ・・・そ・・・それはもう・・・・・・思わず油断してしまい・・・・途中までは私もカッコ良かったのですが・・・・」
「そ、そうですか・・・脱げましたか・・・・。何があったかは知りませんけど、大変でしたね」
「皆さん相変わらず脱げますね~」
「で、でも何てことなかったわよ!! もうね、私たちを誰だと思ってやがるって感じだったわよ!」
久しぶりに会った学園の生徒たちは相変わらずの逞しさだった。その頼もしさは自分たちグレン団にも通ずるところがあり、シャークティもうれしそうに一緒になって笑った。
「やれやれ、相変わらず勇ましいな・・・・しかし・・・」
ハルカがアスナ達を見渡して思わず呟いた。
「しっかし・・・噂には聞いていたが、ナギ? ネギ? どっちにしろあんた達の王子様は随分と女を囲っているんだな~」
アスナを始め、木乃香、刹那、のどか、千雨、ハルナ、楓、和美、古、茶々丸、行方不明の夕映やアーニャを除いても、女だらけと言われれば否定できない。
「ホンとだな~、そこらへんがシモンとはエライ違いだったな。シャークティはともかく、全員むさ苦しいにもほどがあったからな~」
サラも華やかなメンバーと、グレン団のメンバーを見比べて、その違いに思わず笑ってしまった。
するとアスナが、少し顔を赤らめて否定した。
「べ、別に私たちは、はべらされているわけじゃないわ! 私たちは、その・・・自分で決めて来ているんだから」
そこはあくまで譲れないポイントなのか、アスナはネギが理由ではなく自分で考えて決めたことだと主張する。すると木乃香やのどかも同じ気持ちだと、同時に頷いた。
「な~」
「へう・・・わ、私もです」
どの程度の気持ちかは現時点では分からないが、ハルカもそれならと苦笑しながら頷いた。
「まあ、自分で後悔無いなら何よりだな」
そして湯に浸かりながら天井を眺めてゆっくりと息を吐いた。
目の前の自分の気持ちに忠実に動く少女たちの若さに、自分が忘れたものを思い出したような気がしたのだった。
「まあ・・・気持ちは分からんでもないがな。しかし若いね~。私はあんたたちみたいに素直にはなれなかったよ・・・」
ハルカが呟くと、意外そうな顔をして少女たちは身を乗り出した。
「何を言っているんですか? ハルカさんと瀬田さんは素敵な夫婦ではないですか」
「せっちゃんの言う通りや! むしろウチらは、夢に生きる男の人を振り向かせる方法を伝授して欲しいぐらいや」
「あっ・・・・へう・・・・その・・・出来れば・・・私も・・・ネネ、ネギせんせ~を・・・・あう・・・・」
「で、では・・・後学のために私も・・・シモンさんは知ったことではありませんが、ネギ先生を・・・いえいえ・・・目標を追いかけ続ける人を振り向かせる必殺は覚えて損はないでしょう・・・」
「茶々丸・・・性格変わったでござるな・・・」
「う~む・・・恋・・・アルか・・・・」
「むむ!? いたるところからラブ臭が!」
自分たちの身近に今まで居なかったのか、夢に生きる瀬田に絶大な信頼を受けて、互いに支えあうハルカは、恋する女たちにとってはヨーコ同様に目標とする女性になっていた。
そんな彼女たちは、これはチャンスだと思い、身を乗り出してハルカに詰め寄るが、その前に瀬田とハルカを長年見てきたサラが少し考えながら口を開く。
「う~~~ん・・・・でもハルカの場合は当てになんねーんじゃね? だってハルカの場合はパパの方がベタ惚れだったからさ~」
それは正に彼女たちにとっては真逆の状況であった。
未だに自分たちからの片思いである彼女たちには、確かに状況が違った。
だが、ここでサラの言葉に、素朴な疑問を感じたものが居た。
「あの・・・・・・そういえば、前々から気になっていたんですけど・・・・何故サラさんはハルカさんを呼び捨てに?」
刹那が思わず尋ねるとアスナ達も思い出したかのように頷いた。
「そーいえば・・・・ってゆーか・・・瀬田さんもハルカさんも日本人だし・・・アレ? ・・・それじゃあ・・・・サラちゃんって・・・」
するとサラはケロッとしながら軽く肯定した。
「ん? そーだよ、つーか気づかなかったのか? 私はハルカと血は繋がってないよ? ま~、名前で呼ぶのになれちまったからな~。まあ、ハルカも私のママだけど、本当のママに悪いし、今更だからな~」
「まっ、私は気にしてなかったが・・・そうか・・・言ってなかったな」
「「「「「えっ?」」」」」
「サラは血の繋がった娘じゃない。サラは私の親友の娘だ」
「「「「「「ええええええええええええええッッ!?」」」」」」
驚いた理由は、たしかにサラの複雑な家庭事情を知ったからというのもあるが、あまりにもあっけらかんと教える二人の態度にむしろ彼女たちは驚いてしまった。
「そんな驚くことか? うん、まあ今言った通り私を生んだママは私が小さい時に死んじゃってさ~。それでしばらく私はパパと一緒に住んでたんだよ。そんで何年かしてパパがハルカにプロポーズしたんだ~」
「へ・・・へえ~~~、・・・・そ・・・そうなんだ・・・へ~~」
「そやったんか~」
反応に困ってしまった。
サラもハルカもそのことについてはたいしたこと無さそうに話すため、アスナ達が逆に対応に困ってしまった。
しかし・・・・次にサラが告げた言葉に、少女たちはこの日一番の反応を見せたのだった。
「パパはハルカもママの事も好きでさ~。30になるまでにどっちかを選ぶって話しだったんだけどな。途中でママが死んじゃってさ~。ま~パパもあれで色々悲しんだりしたし、ハルカだってそーなると素直になれないじゃん? だからパパがプロポーズしてから受け入れられるまで、そーとー時間が掛かったよな~」
「「「「「えっ!!?」」」」」
「こら、サラ。そんなことは言わんでよろしい」
「でもさ~、本当のことじゃん! ママが死んじゃった時、ハルカがもう少し素直になってれば、結婚も早かったんだけどな~。ママだってそれを望んでたのにさ~」
「おいおいおいおい、それを言うかい? ったく・・・まあ、素直じゃなかったのは認めるがな」
意外とヘビーな会話を、面白おかしく話すサラとハルカだった。
そんな二人を逞しいと思いながらも見つめるシャークティやアスナたち。
しかし・・・ごく一部の者たちにとっては違った。
(夢に生きる・・・いえ・・・・自分の想いのままに動く男性を・・・そして愛する女性を失った男性を・・・・・・)
(ハルカさんは・・・・振り向かせた?)
それは最早自分たちにとっての憧れどころの話しではない。
達成すべき野望を達成した人物が目の前に居るのだと分かった瞬間だった。
「「で、弟子にしてください、ハルカさん! いえ・・・・ラブ師匠!」」
気づけば風呂場で木乃香と刹那は並んでハルカに向けて土下座をしていた。
「えっ? ・・・・・ラ、ラブ師匠?」
ポカンと口を開けて引きつるハルカ。
その光景にシャークティやアスナ達も笑いを隠せずにいられなかった。
「どうやら・・・お二人には参考になったようですね・・・・」
「まあ・・・事例がピンポイントだしね~、木乃香と刹那さんには」
「のどかはいいの? 男を落とす伝授は?」
「えっ!? あわわ・・・ハルナ・・・・で、でも・・・私は~~~」
場所は魔法世界。
つい先ほどまで彼女たちは全員、命懸けの戦いを繰り広げたばかりである。
そしてその力も巨大な力や軍事を相手にも真っ向から太刀打ちできるほどのポテンシャルを秘めている。
しかし一度武装を解除してみれば、ただの幼い少女たちでしかなかった。
目を輝かせて恋バナに熱中する彼女たちを、ハルカもシャークティも大人として微笑ましく思った。
「落とす方法ね~・・・・まあ・・・私は別に自分から落としに行ったことはないが・・・・そうだな・・・あえて言うなら・・・」
「「言うなら!」」
「・・・・・・肉体的な・・・・」
「「肉体的な接触ですか!? わかりました!! さっそく・・・・」」
「待て待て待て待て!? 冗談だ! ったく・・・・ボケを真剣に返すんじゃないよ」
「ちょっ、待ちなさァァァーーーーーーーい!!」
一体どこへ何しにいくつもりだったのか、二人は颯爽と風呂から飛び出そうとしたのだが、ハルカやアスナ達が慌てて止めに入った。
「だ・・・だって・・・なあ?」
「・・・はい・・・・シモンさん・・・せっかく会えたのに・・・ちっとも相手にしてくれませんし・・・・そもそも、私たちのこと覚えていませんし・・・・」
「そうかい? でも・・・見た感じ、たとえ覚えていなくてもアイツはアイツなりにあんたたちを気にかけてるんじゃないかい? まあ、愛というよりも仲間みたいな感覚だろうけどな」
「「・・・・仲間・・・・・」」
いきなり「ず~ん」と重い空気を背負って落ち込む木乃香と刹那。
「あら・・・どうやら不満のようですね」
「ったく、随分とわがままなお嬢さんたちだね~。素直なところはウチの娘にも見習わせたいな」
「バッ!? い、いいいい、いきなり振るなよな~~!」
シモンの事情は多少知っているものの、木乃香や刹那にこれほど落ち込まれてはハルカにも二人は不憫に思えてしまった。
「サラ・・・それに今は居ないがエミリィのことはまだ分からんが、どうやらあんたたちは奴に本気みたいだね~。・・・・・・・・だが・・・・」
だからこそ、ハルカは人生の先輩としての意見を言うことにした。
力も魔法も及ばない、男と女の世界の話だった。
「・・・木乃香、刹那・・・・・。今から私が言うのは、私の考えであって、別に強要するわけじゃないが、私の意見として、一つ良いかい?」
ハルカの言葉に少女たちはゴクリと息を飲み込み、真剣な表情で待つ。
「「は・・・はい・・・・・・・・・・・(ゴクッ)」」
あまりの真剣さにより一層微笑ましさを感じたが、笑いを堪えながらも自分も真剣に意見を言うことにした。
ハルカが少し苦笑しながら、少女たちに思ったことを述べ始めた。
「お前たちさ、・・・・・・男にかまいすぎなんだよ」
その時、カコ~ンと風呂場特有の音が響いた気がした。
「「・・・・・・・・へっ?」」
「「「「・・・・・・・・・・・・はっ?」」」」
それは意外な言葉だった。木乃香や刹那だけでなく、思わずアスナ達も目が点になってしまった。
「えっ・・・・え~と・・・ハルカさん? 私もお嬢様も、まったくシモンさんに相手にされない状況を打開したいがために行動をしているわけで・・・え・・・え~っと・・・・」
「せや! ウチらはもっと見て欲しい。構ってほしいて思っとるから、どんどんシモンさんにアピールせなアカンて思って・・・・・・」
「そ・・・そーよねー。好きな人に構って欲しくて構うってのは当たり前じゃない? あっ、べ・・・別に私は違うからね!」
『好きな男に構いすぎ』それがハルカの言葉だったが当然、刹那、木乃香だけでなく、シモンの影響を受けているネギのことも考え、アスナ、のどかは納得できない表情で唸っていた。
ハルカの言葉には他のメンバーも考えながら、違うのでは? という顔をしていた。
「いやいや、とりあえず亡くなったニアって子のことは置いといて、恋愛にはそれなりにタイミングも必要さ。シモンにはシモンで進むべき道や使命や夢があるんだ、今はその道の途中さ。人が前へ進んでいる途中の道やら夢に、正直な話し色恋で他人が間に入ろうとするのはヤボってもんなんだよ」
「えっ・・・ヤ・・・ヤボなん?」
「で、ですが・・・・気持ちは全力でいつもぶつけなければ伝わらないと・・・・」
しかしハルカは首を横に振った。
「だからかまいすぎなんだよ。いいかい? 愛し合うっていうのは、互いを愛玩用品にするってわけじゃないんだよ」
「それは・・・そうやけど・・・」
「それによく考えてみな。シモンの奴は自分の使命や、やることをほったらかしにして女とイチャついてヘラヘラする男かい? 違うだろ? だったら別に不思議なことでもないじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・」
そう、たしかにそういう男ではない。
ニアと一緒にいた時はどうだったかは分からないし、ヨーコの胸などに反応したり、色々な女のアプローチを受けたりもしているが、たしかにそれでヘラヘラするシモンは想像できなかった。
では、自分たちの好きになったシモンは?
思考しているうちにハルカは言葉を続ける。
「私が思うに今のアイツは記憶が有る無しは関係なく、恋愛事を気にしている暇は無いんだよ。少し男の勝手な都合かもしれないが、そういう事情も察して見守ってやるのも大きな意味もあるんだよ」
「見守る・・・それって・・・待つってことなん?」
「そう・・・男を待ってやるのも、女の役目でもあるんだよ。それに面倒くさい男に惚れちまった女は、やっぱそれなりに面倒くさいこともしないといけないんだよ」
そこには「覚悟」という言葉が込められているように感じた。
つまりは今後、シモンが自分たちを思い出し、そして約束どおり自分たちの気持ちと向き合う日が来たとしても、やはりニアと同じようにはいかない。
ましてやシモンにはシモンでやるべきことや、やりたいことがある。
「それで待つだけ待って・・・アイツがアンタたちと向き合って・・・それでも振り向いてもらえなければ、それでもいいじゃないか。そん時は・・・」
「・・・その時は?」
「ビンタ一発かまして、今度はアンタ達がシモンをフッちゃいな♪」
イタズラっ子のように「ニヒヒ」と笑いながらハルカは木乃香と刹那に言う、そしてそれぞれ恋や他に気になる人がいる少女たちの心にも残った。
「・・・かまいすぎ・・・ですか・・・私もお嬢様も・・・」
「どーなんだろうね・・・私は木乃香と刹那さんみたいに、自分からどんどん行くのもいいと思うけど・・・それに、私だって待っているだけの女になるのは嫌だし・・・・」
「でも、私はハルカさんの言っていることも分かると思います。シモンさん・・・それにネギせんせーだって、今は恋愛を気にしている暇は無いっていうのは本当だと思います」
「う~ん・・・・せやけど愛は重要だってシモンさんも言うとったし・・・・ヨーコさんは何て言うんやろ・・・」
「・・・・・・・・こんな時、マスターはどう言うのでしょう・・・・・」
「・・・ん~・・・・ナギさんはどうなんやろ・・・・やっぱ・・・今は告白とかせん方がええのかな?」
ハルカの意見は全てが正しいわけではない。
しかしそういう考え方もあるのかもしれないと、少女たちは考えさせられ、刹那、アスナ、のどか、木乃香、亜子を中心に自分のこれまでの行動やこれからについてを少し頭の中で真剣に思い浮かべていた。
「やれやれ・・・・恋せよ乙女ってか? ガキの癖にそこまで本気なんだね~」
「そうですね・・・あの子達をここまで本気にさせたのは・・・あの人ですけどね」
「う~ん・・・分っかんないな~。私はハルカとは違って、男の事情なんか関係無しにドンドンやっちゃえばいいと思うけど・・・・」
「はっはっは、まあそれも間違っちゃいないんだがな。私はただ、相手がシモンみたいな奴の場合は少し面倒くさいって言いたかっただけさ」
苦悩し考え込む少女たちの姿にシャークティもハルカも苦笑しながら、彼女たちが風呂から上がるまでずっとこの少女たちの作戦会議の光景を眺めていたのだった。
最終更新:2011年05月12日 14:50