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98-2

まるで修学旅行のように恋バナに盛り上がる少女たちとは打って変わって、こちらの男湯では少し真面目な話が展開されていた。


「アリカ姫?」


「はい」


少し複雑な表情でネギはその名を口にする。


「どこかで聞いたような・・・」


「ほらシモン君、さっきクマのメイドさんが言っていたじゃないか」


「ああ・・・・そういえば・・・言っていたような・・・・」


ネギが口にした名を瀬田に言われて、ようやく少しだけ思い出したシモン。

しかし瀬田は少しばつの悪そうな顔で警告する。


「でもねシモン君、それに・・・ネギ君だったかな?」


「えっ? は・・・はい・・・」


「その名前はあまり無闇に口にしないほうがいいよ」


「えっ!?」


瀬田の言葉にネギは思わず湯船から立ち上がってしまった。


「ど、どういうことですか!?」


「う~ん、実はオスティアで少し調査していた時に知ったんだけど、その人を快く思っていない人もいるらしいよ」


「えっ・・・・え?」


戸惑い、明らかに動揺するネギ。予想をしていなかった事態なのか、その戸惑い振りは、尋常ではなかった。


しかし・・・


「うん、聞いた話によると――」


「おっと、それまでだ」


「ん?」


「ラカンさん!?」


瀬田が語りだす前に、ラカンが口を挟んで邪魔をした。


「真実を語るには、半人前の小僧には早すぎるぜ!」


「どういうことですか!? まだ何かあるんですか!? その・・・ラカンさんの映像記録に出てきたアリカ姫・・・あの人は・・・あの人はやはり・・・僕の・・・」


「だーかーら、半人前の小僧が何でもかんでも知れると思うなっつーの。知りたいことがあったら、教えてもらわないで冒険王みたいに自力で知るんだな。ある意味それでこそ一人前よ!」


「僕は未熟でも男です!!」


「あ~ん? まだオ・ト・ナの漢じゃねえだろ~が!」


ネギはむ~っと頬を膨らませながらラカンにせがむが、ラカンは子供のわがままだと、まるで相手にしなかった。


「それにしても、急にどうしたんだ? 何かあったのか?」


「あっ・・・それは・・・その・・・実は・・・実はラカンさんからお父さんのこと・・・・そして二十年前の大戦の話しを教えてもらいました。その中に・・・その中に一人だけ気になる人が居て・・・」


「それが・・・・そのお姫様か?」


ネギはシュンとなりながら頷いた。

その表情は、まるで親とはぐれて迷子になっている子供そのもののように見えた。

そのアリカという人物に、ネギが何を気にして、ラカンが何を隠しているかはシモンにも瀬田にも読み取ることは出来ないが、少なくともどうすればいいのかは示すことは出来た。


「だったら・・・早いところ、一人前になることだな」


「うんうん、シモン君の言うとおりだね。一人前の漢になることだよ」


半人前でダメなら一人前になる。

実に簡単なことだった。


「そ、それはそうですけど・・・・じゃあ、ラカンさん。どうすれば一人前に認めてもらえますか?」


「ん? そーだな・・・・まあ、拳闘大会で優勝すれば、一人前だと認めてやるよ


するとラカンは大して考えもせず条件を提示した。


「ほ、本当ですね!?」


その言葉に目の色を変えて確認するネギ。

すると小太郎とカモもネギに駆け寄った。


「やったな、ネギ! しかしそーなるとや・・・・一番厄介なんは・・・・」


「ああ・・・・・・・旦那~・・・・どうにかならねえかい?」


カモが少し情けない言葉でシモンに訴えかける。


そう優勝・・・・そうなると最大の難関は、今目の前に居る男だった。


「ネギ・・・言っておくけど漢なら・・・」


するとシモンの言葉に間髪要れずにネギが頷いた。


「はい! 必ず通して見せます! 立ちはだかる壁がシモンさんでも!」


どうやらそれに異論はまったくないようだ。

むしろ望むところだという表情で、ネギはシモンにギラついた目を見せた。

それに男として、そして大人として、何だか子供の頼もしさを感じる親や兄弟のような心境を感じ、シモンもニッと笑って頷いたのだった。


「ほう、随分と盛り上がってるじゃね~か。・・・・そういや、お前らは戦ったことあるのか?


何気なく、少し気になったラカンが尋ねるが、シモンは覚えていない。だからこそ、自然と目はネギへと移った。


「どうなんだ?」


「はい、戦ったことありますよ。学園祭の時に二回ほど。結果だけで言えば一勝一敗です」


「ほう! シモンに一勝か! そいつはやるじゃねえか!」


ネギの言葉に、ラカンは「へえ」と興味深そうにした。しかしネギは慌てて両手をバタバタさせた。


「あっ、でも違います! 僕が勝ったといっても、武道大会でドリル無しのルールでシモンさんが咄嗟にドリルを使っちゃって、反則負けになっただけで、実際僕はシモンさんには負けっぱなしです!!」


「なんだ、ドリル無しかよ。そいつは、つまらねえな」


急にブーブーと唇を突き出して文句を言うラカン。その様子はとてもではないが、伝説の戦士になど見えなかった。


「ったく~、それじゃあ優勝は超難関だな~」


「うっ・・・で、でも・・・・僕は・・・引き下がりません!」


「ああ、そうじゃねえよ。実はさっき拳闘大会の組み合わせ表が発表されたんだが、シモンとお前は順当に勝ちあがれば、決勝で当たることになっている」


「うっ・・・決勝・・・・」


ラカンの言葉にネギはグッと息を飲み込んだ。

そう、決勝戦でシモンと当たるということは、まるで学園祭での麻帆良武道大会の再現のような気がした。

自然と胸も高鳴り、握った拳に力も入る。

気づけば笑みが零れていた。


「へへ・・・今度はネギだけやないで~。俺もいるんやからな」


小太郎も好戦的な目でニヤリと笑った。

シモンも二人の少年の挑戦的な表情に、自身も闘争心が刺激され、笑みを浮かべながら頷いた。


しかし・・・・彼らの笑みはこの男の一言で一瞬で消え去るのだった。




「ちなみにボーズは準決勝で俺と当たるがな♪」




「はい・・・・・・・・・・へっ?」




普通に耳を疑ってしまった。


「「「「へっ?」」」」


ネギだけでなく全員だった。


「あ、・・・あの~ラカンさん? 今・・・僕が準決勝でラカンさんと戦うとかどうとか・・・・」


「は・・・はは・・・俺耳が悪くなったんやろか?」


「はっはっはっ、ラカンのおっさんも冗談がきついぜ~」


三人は汗をダラダラと掻きながら、引きつった笑みで自身の耳がおかしくなったのではと感じて耳の穴に指を入れて確認していた。

しかし・・・


「ラ・・・ラカン?」


「ふふん、実はよ~、おもしろそうだから俺もエントリーしちまったんだよ♪」


「「「「・・・・・・・・・・」」」」


「だからよ~、ボーズに勝ったらシモンとは決勝で当たるかもな♪」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」





この後どれほどデカイ驚愕の叫び声が聞こえたかは・・・・この場に居たものにしか分からなかったのだった。






そしてその直ぐ後・・・・・さっそく緊急作戦会議が行われた・・・・・


そこで彼等は己の心に問うた。



合言葉は何だ?



いきなりそう言われても分からないだろう。


だが、こう言われればすぐに分かる。




「無理を通して道理を・・・・」




そうグレン団の合言葉は!

これだけで何も疑わずに突き進めた言葉!

しかし・・・・



「「蹴っ飛ばせねえええええええええええ!!?」」



今回はいつもより状況が困難だった。


「あのおっさん、なんてことを~~~~!!」


「ぬわああああ、ただでさえフェイトとか悪の組織でメンドクサイってのによ~~~!!」


「お、落ち着いてよ、カモ君に千雨さん・・・・」


「落ち着けるかよこのバカがァ! いいか? ただでさえ、学園祭ではボコボコにやられたドリル有りの熱血野郎と戦わなきゃいけないってのに、その前にあのおっさんと戦うんだろうが!! 優勝なんて、グレンラガン使ったって100パーセント無理だ!!」


風呂上りで早速だが、白き翼参謀メンバーの千雨とカモは、頭を抱えて突如入った問題に唸り悩んでいた。


「あ、・・・あの・・・100パーセント無理でしょうか?」


「当ったり前だ!! くそ~~、何が優勝は楽勝だ♪ だよ、あのおっさん! 自分でハードルメチャクチャ上げてんじゃねえかよ!!」


「だな・・・シモンの旦那はこのさい置いといて、準決勝で当たるラカンの旦那だけでも無理くせえ。ちょいと調べただけでも、大戦期に沈めた艦の数や、鬼神兵を倒した数やら、はたまたは神クラスの化物との決闘やら、歩く伝説帳だぜ」


「は~~~・・・・こら~夏美姉ちゃんたちはあきらめるしかないか?」


「あきらめんなと言いたいが、この際言うなァ! しかし・・・どうすりゃいい!!」


「う~ん」


しかし参謀メンバーといっても、その正体は頭の回転が速いわけではない。只単純にパーティーの中でもっとも冷静に現実的な判断が出来るというだけである。

だが、だからこそこの困難のレベルを理解しすぎてしまった。

もはや参謀とは思えないほどの取り乱しっぷりだった。

ネギ、小太郎、そして付き添いのシモンはただ苦笑するしかなかった。


(ここで俺がラカンと戦って引き分けたって言ったら・・・・もっと混乱しそうだし、言わないほうがいいかな?)


千雨とカモ、そしてネギの取り乱しっぷりを見て、思わず気を使ってしまったシモン。

何よりも、自分自身も人のことを言えないことに気づいた。


(さて・・・俺もどうしよう・・・・この前は何か良く分からないうちに勝ったからな・・・・・・)


頭の中でラカンとの戦いを思い浮かべる。

あの時は、アンチスパイラルやロージェノムとスパイラルネメシスの影響で暴走したが、ブータの機転とニアの存在が、暴走したエネルギーを全て変換し、強力な力を身に纏うことができた。


(あれ以上の力を・・・・あれ以上の気合を身につければ・・・・・・)


しかし、そうも簡単にはいかない。

そもそも自分の力はネギたちと違って訓練のしようも無いものである。その時々のモチベーションや状況によりいくらでも上下する自分の力は、修行してどうこうの力ではないのである。

シモンも別に優勝する義務は無いのだが、ラカンともう一度戦う可能性や今後のことも考え、自分はどうするべきなのかを考えた。

すると、ネギが頭を抱えて悩むメンバーの中で、少し自信無さげに口を挟んだ。


「あの・・・皆さん・・・・ちょっと見て欲しいものがあるんですけど」


「「「「?」」」」


ネギが何か思いついたのか、皆を引き連れてオスティアから少し離れた場所へと移動を始めた。





シモン、小太郎、千雨はネギの意図が分からないまま、後へと続くと、ネギはオスティア周辺に並ぶ岩礁地帯へと皆を連れて行った。

四方八方に浮かぶ巨大な岩。

比較物も無く分かりづらいが、一つだけでも直径100メートルを軽く超えている。

するとネギは、足元に巨大な魔方陣を描き、巨大な岩に目掛けて詠唱を始めた。


「契約により我に従え(ト・シュンポライオン・ディアコネートー)高殿の王(モイ・バシレク・ウーラニオーノーン)来れ巨神を滅ぼす(エピゲネーテートー・アイタルース)燃ゆる立つ雷霆(ケラウネ・ホス・ティテーナス・フテイレイン)遠隔補助(ヤクトゥム・エクステンデンテース) 魔法陣展開(キルクリ・エクシスタント)!」


「おっ!」


「うおお、兄貴!?」


ネギの足元から広がる魔方陣、そして魔力が源となって生じる雷がネギの体を包み込んだ。

激しい魔力の流れがスパークし、この場に居るだけでも大気に入り混じった電気のようなものがシモンたちの体にも伝わっていく。

この波動にシモンや小太郎はまだしも、一般人の千雨は思わず身を竦めてしまった。

まだ詠唱は終わらない。

しかしそれでいて、この時点で既に今からネギが発しようとする魔法の威力が伝わってきた気がした。



「全力解放(フォルティッシメー・エーミッタム)!! 百重千重と(ヘカトンタキス・カイ)重なりて(キーリアキス)走れよ(アストラ) 稲妻(プサトー)!!」



そして長い長い詠唱と共に、最高潮にまで溜め込んだ、人智を遥かに超えた大魔法を、ネギは開放した。




「千の雷(キーリプル・アストラペー)!!!!」





―――――!!?




ネギの咆哮と共に放出された神々しい雷の光が視界を埋め尽くし、大岩を中心に大爆発を起こした。


「こ、・・・こいつは・・・・」


あまりにも規格外な威力と轟音に思わず、目を一瞬背けてしまったが、次に視線を戻した瞬間、先ほどまで目の前にあった100メートルほどの大岩が粉々に砕けていた。



「うおお・・・・なんつー威力や!」


「うん・・・まだ未完成なんだけどね」


「なにい!?」


これほどまでの威力を誇る魔法を使っても、ネギはケロッとして言った。その様子に思わず小太郎も千雨もカモも冷や汗ものだった。



「まったく・・・・大したボーズだな」



シモンも、自分の半分以下の年齢の子供の末恐ろしさに思わず身震いした。そしてこれでもまるで満足していないネギの貪欲さにも脱帽だった。



「すげえじゃねえか、兄貴! これをぶつければ無敵のラカンも・・・・」


「・・・まあ・・・無理やな・・・こんな長すぎる呪文は黙って喰らわんやろ・・・」


「いや・・・まて・・・これを攻撃じゃなく、アンタの闇の魔法で・・・」


「・・・・・闇?」



千雨の呟いた言葉の中の聞きなれない単語にシモンが反応した。

するとネギは千雨の言葉に苦笑しながら頷いた。


「はい! 闇の魔法(マギア・エレベア)・術式兵装です。僕のこれまでの最強魔法、『雷の暴風』の10倍の威力を誇るこの魔法を装填すればあるいは・・・」


「そうか!! その手があったじゃねえか! ひょっとしたらその手でいけるんじゃねえか、兄貴!!」


「おお、確かにいけるかもしれんなあ! フェイト用に編み出しとった技やろ? これなら流石のおっさんでも・・・」


「おっ、いけるのか? 私には良く分からんが、それなら・・・・」


「なあ、どういうことだ?」


ここでようやく、シモンが知らないことに気づいたネギは、対ラカンやフェイト戦用のキリフダとも言うべき力を語りだした。

それこそ、シモンやアスナ達と合流する前に、ネギ自身が多大なリスクと引き換えに選んだネギの力だった。


「あっ、そういえばシモンさんには教えていませんでしたね。闇の魔法・術式兵装は僕がこの世界に来て身に付けた魔法です」


「へえ、どういう魔法なんだ?」


「えっと・・・簡単に説明すると・・・本来放出するはずの魔力の塊を固定して、掌握することにより自分自身に取り込んで自身の能力を何倍にも高める魔法です。その分リスクもあるようですが・・・・」


「・・・・放出するはずの力を・・・・取り込む・・・か・・・へ~~」


ネギの説明を受けて、全てとまでは行かないが、シモンは何か考え付いたのか真剣な眼差しで両拳と、己の胸元にあるコアドリルを見た。


「・・・力を取り込む・・・・放出するはずの力を・・・・・」


「あの~・・・シモンさん?」


「ん? あ、いや・・・ちょっと俺も今のがヒントに・・・・」


答えは出ないが、シモンは頭の中に何かが思い浮かんだ。

それは未だに靄が掛かった状態で、鮮明ではないが、少なくとも僅かな光が今のネギの説明で見えた気がした。

そんなシモンに、少しネギが首を傾げるが、興奮した小太郎やカモがネギの周りで騒ぎ出し、シモンから気が逸れてしまった。


「これならいけるぜ、兄貴! 10倍の魔力を込めりゃァ出力だって大幅アップだ! さすがのラカンのおっさんもこれならいけるぜ!」


「俺もそう思うで? まあ・・・確実とは言えんけどな」


「まあでも、これで少しは無理じゃないってことなのか?」


絶望と不可能の二つの言葉で埋め尽くされた状況に、光が差し込みカモも千雨、そして小太郎も笑みが浮かんだ。


しかし対するネギは、どこか物足りなさそうにしながらも苦笑しながら頷こうとした・・・・・その時だった!





「無理だな!」





その一言で希望を台無しにする声が横から聞こえてきた。


「だ、誰でい! せっかくの兄貴のナイスアイデアにケチをつけるとは・・・・って・・・」


「うおっ!?」


「あっ、あなたは!?」


「げっ!?」


「・・・・・・?」


無粋な輩だとカモが文句を言おうとふり返ると、そこには・・・・


「そんなことでは勝てない・・・顔に書いてあるぞ? 自身を信じられないことを仲間に賛同してもらって安心を得るつもりか? ククク卑屈だな。もっともそんな行動も嫌いではない。まあ、あのラカンが相手では仕方ない。存在自体が反則のようなものだからな」


ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべた幼い魔女。

見慣れた長い金色の髪を靡かせて、彼女はそこに現れた。


「マ、マスター!?」


「エ、エヴァンジェリンさん!? 何でここに居るんや!?」


「・・・・誰だ?」


そう、エヴァンジェリンがそこに居た。


いや・・・正確には本物ではない。


目の前に居るエヴァは麻帆良学園でネギたちと過ごしたエヴァではない。


エヴァの劣化コピー、または人造霊を具現化したような存在である。


だが、エヴァのコピーなだけあって、ひねた言葉が容赦なくネギに投げ掛けられた。


「くっくっく、あんなバカを相手にするほうが間違っている。今回ばかりは諦めるか? 私は軽蔑せんぞ?」


まるでネギの反応を楽しむかのように口元に笑みを浮かべて厭らしく笑う偽エヴァ。

ネギもぐっと唇をかみ締めながら、意地の言葉を返そうとする・・・


      • だがその前に・・・


「おい、お前。今更そんな事を言ってなんになりやがる。別にネギは自分を信じられないわけじゃない。勝てる可能性を必死に探しているだけだ」


「ん?」


「あきらめる? そんなつまらない言葉で、男の戦いに横槍入れるなよな」


その時、ようやく偽エヴァはシモンを見た。

今まで興味が無かったのか、ネギにしか興味がなかったためか、まるで視界に入れず、そこに人が居たことにすら偽エヴァは気づいていなかったようだ。

そして急に、言われた言葉に対して目に見えるほどの不快感が偽エヴァの顔を埋め尽くした。



「おい、・・・誰だ? このダサい男は?」



「ダ、ダサ!? お、お前・・・・」



「生意気な。気安くこの私に話しかけるな。童貞がうつる」



「~~~ッ」



ある意味では再会とも呼べるが、ある意味では初対面。

ようやく遭遇したエヴァとシモン。それは感動とは程遠いものだった。


「おい、・・・一体何だよ~こいつは?」


「ええ~っとシモンさん落ち着いて・・・え~っとその~・・・。とにかくマスター!」


「ん?」


「とにかく・・・シモンさんの言うとおりです。あきらめるなんて論外です」


「・・・ほう」


「逃げてちゃ何にも掴めない。この人が教えてくれた言葉です」


偽エヴァの態度に腹を立てそうになったシモンを制して、ネギは偽エヴァの言葉に一歩も引き下がらず返した。


「父さんのライバルが、そしていろんな人が僕を見てくれているんです。無茶で無謀と笑われても、意地でも立ち向かってやりますよ」


それは強がりかもしれない。その証拠に、ネギの笑みは少し引きつっている。

だが、強がりを言えるだけでも、今のネギは自分に自信が無いわけではないようだ。


「ふん、そうか」


その言葉に満足したのか、偽エヴァも不敵に笑った。


「ところで、何でエヴァンジェリンさんが居るんや?」


「そうそう、こいつは一体誰なんだ? 見覚えが・・・無くは無いんだが・・・」


「さっきから失礼な奴だ。ボーヤ、こいつは誰だ? 殺していいか?」


「え~っと、その人はシモンさんっていって、マスターの好きな人で・・・・」


「はあ? 何だその笑えない冗談は? そんなことは万回死んでも絶対にありえん」


「あっ、でも本当のことで・・・その・・・いや、その前に何で本当にマスターがここに?」


どう説明するべきなのか。

しかも互いにである。

ネギはシモンにエヴァを、そして偽エヴァにはシモンをどういう風に教えるのが得策なのかをネギは考えた。

不機嫌そうな偽エヴァに、少し困った顔をするシモン。

ネギが、悩みに悩んで二人の関係を言おうとした時・・・・




「主等の修行を手伝いに来たのじゃ」





「誰や!?」




「主がネギか・・・メンコイの」




新たなる人物がそこに居た。

さらに・・・


「おお~~い、ネギ君!」


「やっほおーー!」


「わあ~~、エヴァちゃんや~。それにシモンさんもおる~~!」


「やっぱり無事だったわね!」


現れた女性の後ろから、ゾロゾロと人が現れた。

木乃香、アスナ、のどか、そしてこの世界に無断でついてきてしまって、逸れてしまった生徒の裕奈にまき絵が居た。


「裕奈さん! まき絵さん!」


ネギも二人と以前と変わらぬ無事な姿で再会できたことに、心の底からうれしそうに二人の下へと駆けた。

その際、二人に揉みくちゃにされたり、興奮状態の二人から魔法やナギのことを追及されたりと、先ほどまでの空気から一変して微笑ましい光景に見えた。


「シモンさん、無事やったんやな~」


「ほんとーよ、心配させてさ~。それに~、聞いたわよ~、何時の間にハカセちゃんをグレン団にしちゃったのよ~」


「ははは。まあ、お前たちも無事で良かったよ。俺も体を張った甲斐が・・・・・・・って・・・あれ?」


「どうしたん? シモンさん?」


木乃香やアスナもようやく合流できたシモンにうれしそうに駆け寄り、笑顔で言葉を交し合う。

しかし、シモンは途中でその笑みが固まってしまった。

その様子が分からず、木乃香たちがシモンに話しかけるが、シモンの耳には入っていない。

今のシモンは、木乃香たちと共に現れた一人の女に視線が向けられていた。


「それより、この姉ちゃんは誰なんでい?」


カモが、現れた女について尋ねると、裕奈が待っていましたとばかりに、答えた。


「おう! そうそう、なんとこのお方は・・・ヘラス帝国第三皇女のテオドラ様だよ!!」


どどーんと効果音つきで紹介されたのは、そう・・・テオドラだった・・・・


「なっ!? ヘラス帝国って、あの超大国の!?」


「ラカンさんが教えてくれたじゃじゃ馬姫の!?」


「じゃじゃ馬・・・まったくあの筋肉達磨は・・・・まあよい、少年よ。妾はナギやアリカの友人じゃ。テオで良いぞ♪」


驚く千雨や小太郎、そしてネギの反応に笑みを浮かべながら、テオドラは二カッと王女らしからぬ笑みでネギたちに挨拶をした。

若干一名無言で冷や汗を流しているとは知らずに・・・・・


そして・・・・



「おうおうおうおう! お前がネギかーーーッ!!」



「今度は誰だー!?」



「この声・・・・あ・・・・あれも・・・もしかして・・・・」



テオドラの登場でネギたちが驚いたのも束の間、今度は上空から暑苦しい男の声が響いた。

上空を見上げると一人乗りの飛行船が夜空を旋回し、中から一人の男が高らかに笑いながら飛び降りてきた。


「あっ・・・やっぱり・・・・・」


シモンは思わず泣きたくなった・・・・

さらに・・・



「まったく、少しは静かに登場できないのかしら?」



「更に誰!?」



これでもかと、今度は箒に乗った女性が優雅にこの場に参上した。



「はっ・・・はは・・・・」


驚いているのは、ネギたちだけだった。そしてシモンは一人で苦笑してしまった。

余りにも予想外すぎて早すぎる再会に、もはや笑うことしか出来なかった。



「俺がメガロメセンブリア元老院議員のリカードだ! ナギのアホもラカンのバカも腐れ縁の仲間よ!」



「私はアリアドネー騎士団総長のセラス。初めましてネギ君。昔はあなたのお父さんたちにとてもお世話になったのよ」



いきなり登場した二人、いや、三人の自己紹介とその中身にはネギはもはや何も言うことが出来ず、ただ呆然とするだけだった。


「で、どーなんだボーズ?」


「・・・えっ?」


「本気で挑むつもりか? あの生けるバグキャラ、ジャック・ラカンによ。勝ち目は100パーセント無いぜ?」


ネギの傍まで歩み寄り、呆然とするネギの肩を叩きながらリカードは尋ねる。すると問われた言葉に、ハッとなり、ネギは迷わずに頷いた。


「はい!」


それだけでリカードは豪快に笑った。見るからにうれしそうに、真っ直ぐなネギに笑った。

後ろのテオドラやセラスもクスクスと笑っている。どうやら、今のネギの態度が気に入ったらしい。


「よーし、よし! いい度胸だ! 気に入った! 俺たちがお前の修行を見てやる! 光栄に思え! 魔法世界のトップクラスの教官の下で修行できるんだからよ!!」


「えっ、えええ!?」


「いいのか!? こいつら、超VIP何だろ?」


「だーっはっはっは! どうだどうだ! ちったあやる気が出てきたか!?」


「まったく、暑苦しくて御免なさいね」


話しは瞬く間に進んでいった。

突如現れたテオドラ、リカード、セラスがネギの下へと現れ、何と全員が力を貸してくれるというのである。

もはや、なんとも言いがたい超高待遇ぶりのネギに千雨たちは「いいのか?」と呟くほどだった。

だが、それでも気にするなと言わんばかりのリカードの豪快ぶりに押されて、ネギの修行や方針がどんどん進もうとした・・・・・のだが・・・・



「シモンさん、何で顔俯いてるん?」



「しっ、・・・・木乃香! ちょっ・・・今は・・・・」



先ほどからずっと下を向いて目を合わさないように顔を逸らしていたシモン。

幸いネギだけにしかテオドラたちは注目していなかったため、気づかれないかもしれないと思っていたのだが・・・・



「「「ん?」」」



三人はピタリと止まってこちらを見てきたのだった。



「・・・あっ・・・・・」



「「「・・・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・」」」



そして完全に目が合った。



「テ、・・・テメエは・・・・・・」



「ぬぬ・・・主は・・・・・」



「あ・・・あなたは・・・・・・」



シモンはゴーグルをしていない。

だが、最前線で戦ったこの三人がそれだけで気づかないはずは無かった。




「「「何ァーーーーんでここにいやがるッ(るのじゃ)(るの)!!?」」」




リカードもテオドラもセラスも、先ほどのネギ以上に驚愕の表情で固まりながら、シモンを震える手で指差した。


「えっ? えっ? えっ?」


「どど、どうしたん?」


「いきなり何なのよ!?」


突如シモンを見て叫びだす三人に、いきなりどうしたのだとネギたちは戸惑った。

しかしネギたちの戸惑いに答えず、「やれやれ」といった態度のシモンと、いきなり三人は武装してシモンに構えた。


「ここで会ったが100年目ェ! 冒険王の野郎はどこだァ!!」


「よくもさっきはやってくれたのう! 雪辱は直ぐに晴らしてやろうぞ!」


「どうしてここに居るかは知らないけど、大人しくなさい!」


完全戦闘態勢の三人だった。


「ちょっ、どういうことです!? シモンさん、この人たちと何かあったんですか?」


「ああ・・・・瀬田さんたちと一緒に、昼間にこの人たちと戦って・・・・・」


「「「「ええええええええええーーーーーーーッ!!?」」」」


魔法世界超VIPな存在に修行を見てもらえるネギ・・・・・


魔法世界超VIPな存在と大喧嘩を繰り広げたシモン・・・・・


果たしてどちらの方が凄いのかは分からない・・・・・


しかしどっちに驚いたかといえば、やはりシモンの方が上だった。・・・・別の意味で・・・


「ちょちょちょ、何やってるんですかシモンさんはァァ!?」


「もう・・・頭痛い・・・この男は相変わらず・・・・・・なあ、私は早退していいか?」


「千雨ちゃんの言う通りよ・・・・もう・・・どんな理由でも、驚きすぎて疲れたわ・・・」


「やるなあ、流石シモンの兄ちゃんや!」


この後、ネギの必死の説得と弁解がリカードたちに伝わるまで相当な時間を要した。

明日から拳闘大会が始まるとなると、一秒でも無駄に出来ない修行もいきなり出遅れる形となりながら、長い長い一日が終わりを告げるのだった。



「・・・ふん、あんなバカにこの私が惚れる? くだらんな・・・そんなことがあるはずなかろう」



そう言って、偽エヴァはシモンを興味から外し、プイッと背を向けたのだった。











だが、同時刻の麻帆良学園では・・・・


深い森の中にあるメルヘンチックなエヴァの家の中で、現在エヴァは大きな鏡に等身大の自分を映していた。


「ふ・・・・ふふふふふ・・・・」


不敵に笑うエヴァはいつもと同じ小さい子供の姿ではない。

誰もが見惚れるようなナイスバディの姿に、いつものゴスロリではなく、黒いパーティードレスを身に纏っていた。


「ふふ・・・・ふふふ・・・どうだ・・・・これなら・・・・・勝てる!」


そして鏡の前で様々なポーズをしながら、ニヤける顔を抑えきれず、ついに盛大に笑った。


「わはははははははははは!! どうだ! これが夏休みを費やして完成させた、最新版の年齢詐称薬だ! これでヨーコだろうとニアとやらも敵ではないわァ!」


鏡を前にしてポーズを決める大人バージョンのエヴァ。

気のせいか、偽者が不気味さを孕んだ黒いオーラを纏っていたのに対して、本物の彼女の周りにはキラキラと輝くオーラのようなものが見えた。


「くっくっく、バスト、ウエスト、ヒップ・三大要素に死角無し!! これぞ超怒涛級の完全無欠の天元突破! アダルト・エヴァンジェリン様だ!! シモンめ、私の美しさを毛穴の奥まで思い知るがいい!!」


己の美しさに酔いながら、高らかに笑うエヴァンジェリン。


「はっーはっはっはっは!! 早く帰ってくるがいい、シモン!! そしてその時こそお前の操の最後だ! はっーはっはっはっは!!」


その姿は現在魔法世界に居る偽エヴァからは想像もできない姿だった。


要するに自分が将来どうなるかなど、自分でも分からないということが証明された瞬間だった。


「ナンカ・・・・見テイテ痛イナ・・・御主人・・・」


そして茶々ゼロのツッコミだけがエヴァハウスに響き渡った。


魔法世界の事情も知らず、こちらの世界は変わらず平和そのものだった。





だが、その平和と相対して、大きな混乱を招く祭りの準備が、魔法世界では着実に進んでいた。
最終更新:2011年05月12日 14:50
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