第九十九話 行くぞ!! これは喧嘩だ!! 大事なものを奪い返しに行くぞ!! 投稿者:兄貴 投稿日:09/10/30-21:37 No.4191
ナギ・スプリングフィールド杯。
オスティアの祭りではパレードなどの見所がいくつもあるが、一番のメインは賭け試合である。
あらゆる場所で、公式非公式の野試合、箒レース、竜騎士の馬上試合も行われる。
そのありとあらゆる種目の頂点に立つのが、ナギ・スプリングフィールド杯である。
各地で勝ち上がった戦士と敗者復活枠から勝ちあがったシモン・メカタマを合わせた計32組で行われる三日がかりのトーナメント大会。
観客動員数も注目度もナンバーワンのこの大会は、初日は一回戦・二回戦を続けて行い、二日目に準決勝、そして三日目に決勝戦という方式である。
しかし魔法世界全土から勝ち上がった猛者たちの中で最強を決めようというトーナメントなのだが、今年の大会は少し様子が違う。
他者を寄せ付けず、圧倒的に勝ち上がる三組の戦士たちがいた。
「メカタマ・フラッシュ!!」
「はあああああああ! 穿孔ドリル弾!」
闘技場にメカタマが放った閃光弾により、目を思わず覆い隠してしまう大観衆と対戦相手の拳闘士たち。
しかしシモンは逸らさない。その瞳に装着したサングラスが、強い光の中でも彼を自由にさせた。
その隙にシモンが相手に向けてドリルを一斉射撃。
相手が魔法障壁を展開させようが、何の意味も無い。
強い光で誰もが目を開けられない中、耳に突き刺さるようだ爆音と硝煙の匂いが立ち込める。
そしてようやく目を見開いたそこには、威風堂々と立つシモンとサラが闘技場の真ん中で立っていた。
『正に圧勝! 敗者復活枠から名乗りを上げたダークホースのシモン・メカタマペア、一回戦・二回戦を難なく突破し、堂々の準決勝進出です!』
大会側からシモンたちの勝利を告げられ、シモンはメカタマのヒレとハイタッチを交わす。
そしてシモンとメカタマの勝利には大観衆は歓声ではなく、息を呑むようなどよめきが走っていた。
「おお・・・・・優勝はラカンで間違いないが、決勝も楽しみかもしれないな」
「ああ。流石に敗者復活枠から大活躍しただけはある。シモンにメカタマか・・・・無名だが、台風の目になるんじゃねえか?」
「くうう~~、さすがシモンさんですわね!」
「ひゃ~、兄貴ってば大活躍だね~」
試合が終わるや否や、本日行われたシモンの一・二回戦をふり返りながらあちらこちらから話題になり、観客たちの中で少しシモンたちに注目が集まった。
だが・・・
「・・・・・、だが高い金払って見に来てるんだからそれぐらいやらなきゃよ~」
「まあな。おっ、次はナギ・コジローペアの試合だぜ! つってもこの試合はこいつらで決まりだがな。明日の準決勝はナギ・コジロー組対ラカン・カゲタロウ組・・・事実上の決勝戦かもな」
だが、次第に関心は直ぐに次の試合、そして明日の準決勝の話題となり、シモンとメカタマの話題は直ぐに消えた。
そう、ここに居る誰もが、ある意味では明日の試合を最も楽しみにしているのである。
伝説の英雄ラカンと、ナギの生まれ変わりと噂されているネギとの奇跡の一戦が決勝戦よりも大きな注目を浴びていたのである。
「ほ~、流石にやるじゃねえか。流石に俺らを撒いただけはあるじゃねえか」
「まっ、この程度のレベルは退けておかんと、妾らの立場がないからの~」
「しかしゴーグルをサングラスにしただけで、どうして皆気づかないのかしらね・・・・彼等が冒険王に加担したのを知っているのはエミリィたちだけね・・・・」
闘技場の真ん中でハイタッチを交わし、退場しようとしているシモンとサラを大会主催者側の超VIP席から見下ろしながら、リカード、テオドラ、セラスはこの試合を一部始終眺めていた。
「まあ、ネギの奴も賞金首じゃ。この大会の後に、冒険王たちとまとめて妾たちが直接事情聴取を行えば問題なかろう」
「まっ、昨日はそれでまとまったがな」
昨晩、ネギの修行を見るためにと集った三人は、そこでシモンと再会し、危うく再び戦闘開始という事態に発展しそうになった。
しかしネギの必死の懇願とラカンとも面識があり、大会期間中は大人しくするという条件付で、少しの間は様子見という決断になった。
その後、深夜にシモンが仲間のところへ帰還し、瀬田に事情を告げると、瀬田もしばらくは余計なことはしないよと、苦笑しながら飲み込んだのだった。
「さて・・・・まあ、ネギ君が言うのだから彼や冒険王は一先ず置いておいて・・・・それでリカード・・・・例の魔人はどうなったのかしら?」
「ああ、実はよ~、俺も色々忙しくてだな~。だからチコ☆タンに関しては別の奴に委託した」
「別の? ・・・・そう、・・・・・総督にね・・・・・・・・何も無ければいいけど」
「なんじゃなんじゃ? 妾に隠れて内緒話か? ほれ、余所見をしていると、妾らの教え子の試合が――――」
――――オオッ!!!
突如観衆のどよめきが広がり、ハッとなって三人は闘技場に目を慌てて向けた。
するとそこには、いつの間にか拳を上に向って突き上げてガッツポーズをしている大人バージョンのネギが居た。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
『おおっーーっと!! なんということだ! 正に秒殺・瞬殺・圧倒的! ナギ・コジローペア、あっさり準決勝進出けってーい!!』
「「「・・・・・・・・・・えっ、もう!?」」」
何と、自分たちが少し談笑している間に勝負が決まっていたようだ。
自分たちの弟子とはいえ、魔法世界の猛者相手に何の苦も無く勝利をもぎ取ったネギに、三人は笑うしかなかった。
「かっかっか、流石は天才ってか?」
「ええ・・・・それでいて、向上心は止まらない・・・・ほら、あの目を見てみなさい」
「うむ、まだまだ物足りない・・・・そう言っている目じゃのう」
闘技場に居るネギがチラッとこちらを見上げてきた。その目は何かを訴えている目だ。
そう、時間を無駄にはしたくない。
少しでも明日までに強くなりたい。
リカードたちにはその気持ちが手に取るように分かった。
そしてネギはその後、インタビューのためにと近寄ってきたアナウンサーに一言「急いでいる」と言って、コジローと一緒に走って会場の外へと走り出した。
「まったく、・・・少しはファンサービスすりゃあ良いってのによ」
「焦っているんじゃろ・・・・なんせ明日が準決勝ということは・・・・すなわち・・・・」
そう、ネギがどうして焦って飛び出したのか。その理由は明らかである。
二回戦を勝ち上がったネギには当然明日は準決勝がある。
そう・・・つまり・・・・・
『さあ~て、続いての登場はこの男! 一回戦は相手が棄権したため、これが初試合! 優勝候補ナンバーワンの南方 ボスボラスのカゲタロウ!! そして・・・・・』
そして・・・・会場中がその登場を待ち、誰もが息を呑んでその時を待つ。
一瞬で静寂が訪れる闘技場。そして次の瞬間、アナウンスの声と共に登場した男に、会場中の熱気が一気にヒートアップした。
「伝説の傭兵剣士!! 自由を掴んだ最強の奴隷拳闘士!! 大戦期平和の立役者!! 紅き翼(アラルブラ)・千の刀のジャック・ラカンの登場です!!」
「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォーーーーーー!!!!」」」」」」」
会場中の熱気を一身に浴びて、堂々と登場するラカン。
魔法世界では知らぬものの居ない英雄と、ネギは明日ぶつかるのである。
「けっ、あの派手好きが・・・・・おい、俺たちも行こうぜ」
「そうね、ネギ君・・・さっき、早く修行の続きがしたいって見上げてきたしね」
そう、明日ラカンと戦うのである。本来ならばネギの才能で10年がかりで追いつくはずの力の領域に、明日には届かなくてはいけないのである。
ネギが一秒たりとも時間を無駄にしたくないのはこれが理由である。
リカードもセラスも、その気持ちを汲み取りラカンの試合がまだ始まっていないというのに、背を向けて来賓席から立ち去ろうとする。
「なんじゃ、見んのか? どーせ直ぐ終わるんじゃから、見ても良いと思うのじゃが」
「かっかっか、違うぜ。相手が気の毒すぎて、見てられねえんだよ」
20年続いたこのナギ・スプリングフィールド杯。この大会も何故か今年だけ別次元の大会へと化していた。
本来なら誰が優勝してもおかしくない、力の均衡した戦いも、あっという間に佳境を迎えていた。
しかし、観客の誰もがそのことに落胆するものは居ない。むしろ、今年の大会を・・・いや、明日の戦いを例年以上の期待と興奮に胸を膨らませながら、楽しみにしているのだった。
「お疲れ様ですシモンさん」
試合を終え、夕暮れ時になり多くのものが帰路へつく中、宿泊先のホテルでシモンとサラとブータを向かえたのは、シャークティ、瀬田夫婦とグレン団の面々だった。
「さっすがリーダーだぜ! サラちゃんも、ブータもやるじゃねえか!」
「魔法世界の猛者相手に圧勝でしたね~。まっ、ネギ先生やラカンという人もそうですがね」
シモンたちの活躍に嬉々としてグレン団は彼等を揉みくちゃにする。サラも多少恥ずかしかったが満更でもなかった。
最初はどうなるかと思えた拳闘大会だったが、注目されるのも悪くない。今ではブータと共にサラもメカタマに乗ってノリノリだった。
「へへん! あったりまえだってーの!」
「その意気だよサラ! こうなったら優勝もしちゃえ!」
「ほ~。それはいい事だな。優勝賞金で私に別荘でも建ててくれよ」
「いいぜ~! 優勝くらい・・・・優勝くらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しかしそこでズーンと再び重い空気を背負ってサラは部屋の隅っこで落ち込んでしまった。
「う~・・・・・・・またあの筋肉ダルマと戦うのか~・・・・・・」
原因はソレだった。
決勝までは何の苦も無いだろうというのが大衆の予想だが、サラにとっては一回戦だろうと二回戦だろうと、ラカンと戦う可能性事態がトラウマだった。
ラカンにはメカタマの攻撃を食らわせてピンピンされていたという過去の記憶から、あれからブータの力が加わりパワーアップしたメカタマといえど、サラ自身のラカンと戦う心が最初から折れていた。
「ぶ・・・ぶみゅう~~~」
「う~~・・・・気合入れろ? ブータ~、そうは言ってもよ~、あれは反則じゃん?」
「ぶみゅ! ぶうみゅ!」
「それでもグレン団かって? でもな~・・・・ってゆうか私がいつ入ったよ!?」
「ぶぶぶぶみゅるぶ!」
「細かいことは気にするな? この~~!」
部屋の隅で体育座りで座っているサラの肩に登り、ブータが叱咤するが、サラは中々受け入れない。
「いや・・・・・・その前に何でブータの言葉をサラちゃんは理解しているんだい?」
「・・・・・・山チャンサン・・・多分気合デス・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
明日は準決勝。
とはいえ、一回戦、二回戦を苦も無く突破したシモンたちには問題は無いだろう。だからこそ、彼等の最大の山場は最後の決勝戦。
すなわち、明日の自分たちの試合の後に行われるもう一つの準決勝の勝者。
ラカンとネギの試合の勝者が自分たちの相手になる。
しかしハナからラカンと戦うことを想定しているサラ、というよりもラカンが負けるところなどまるで想像できないため、既に決勝でラカンと戦うことばかりに苦悩していた。
「・・・・しかしサラさんはラカン氏が勝ち上がることばかりを想像していますが、正直なところ、ネギ先生はどうなのですか?」
そんなサラの様子を気の毒に思いながらも、シャークティは同僚でもあるネギの話題に触れた。
「う~ん・・・・俺も良くは分からないが、昨日からずっと変な魔法の壺の中で修行してるよ。今日も試合が終わって直ぐに行ってたからな~。こりゃあ、明日の試合の直前まで会えそうにないな」
「魔法の・・・・壺?」
「ああ、何でも一日で10日分の修行が出来るとか言ってたぞ?」
シモンの説明を受けてシャークティが「ああ」と小さく頷いた。
「おそらく・・・・ダイオラマ魔法球・・・もしくはそれに近いマジックアイテムですね」
「おいおいおいおい、シャークティの姉さん。そんなことも可能なのかよ?」
「ええ、・・・・まあ、それだけ年を取るのも早くなるので、女性にはあまりお勧めしませんが」
「なーるほど、要するに精神と時の部屋か!」
「よく分かりませんが、多分そうです」
この世界に来る前から、シモンと共に居たためか、多少のファンタジーには免疫が出来ているが、豪徳寺たちもそして瀬田達も、素直に凄いものは凄いと驚いていた。
「ですが10日だとあまり変わらないような気もしますが、男子三日会わずば活目して見よと言いますからね。明日の戦いが楽しみです・・・・・・・それにしても・・・・・」
「ん?」
「シモンさん。サラさんがここまで弱気なのに、何もしなくていいのですか? いくら一度戦った相手とはいえ、落ち着いていますね。何か策が?」
ネギが死に物狂いで修行をしているにしては、随分とシモンは落ち着いていた。
それは決して、余裕があるからという理由ではなさそうだが、何か企みが有ることをシャークティは察した。
「・・・・流石だな・・・よく分かったな」
「当たり前です♪」
シモンが素直に観念して肩を竦めるとシャークティは少し胸を張って「お見通し」とばかりの笑みを見せた。
するとその言葉にサラが真っ先に反応。
「マジかよ! それならそーと、早く言えよな~! も~このやろ~♪」
サラが目を輝かせてシモンの両手を掴んだ。
まるで尻尾を振る子犬の如く息を荒くさせ、目を輝かせながらシモンに飛びついた。
「おお~。まさかシモン君に策とは・・・・・・・・ん? ・・・・策?・・・・シモン君が?」
「シモンに・・・・・・・・策だと?」
しかし瀬田夫婦はどうも疑問に感じた。
短い付き合いとはいえ、これまでずっと気合一直線の行動を取っていたこの男に、何か策を考えるとかそういうことがあるのかと。
すると徐々に疑いの眼差しへと変わった。
「まあ、・・・・・策と言っても・・・・・展開は読めていますけど・・・・」
すると微笑んでいたシャークティの表情も何時の間にか苦笑に変わっていた。どうやら彼女には本当にお見通しのようだ。
「ああ・・・・・色々あるけど・・・・・一番はこれだ!!」
「「「「ッ!?」」」」
するとシモンはコートの中をゴソゴソと漁りだし、一つのFILMを取り出した。
「なっ!? リーダー・・・・・まさかそれが昨日言っていた!?」
「おおっ!?」
豪徳寺たちが震えながら、FILMに指を指す。するとシモンはニカっと笑って頷いた。
「そうだ・・・・昨日は夜遅くに色々とあったから見れなかったが・・・・・・・・これが・・・・・これが俺の記憶のFILMだ!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおォォォォォーーーーーー!!!!」」」」」」」
「これで俺は俺自身を・・・・お前たちを・・・・・全てを思い出す!! お前たちの知る本当の俺になれば、誰にだって絶対に勝てる! そうだろ!」
シモンはFILMをまるで印籠を見せるかのように掲げた。それはまるで神々しい光を放つかのように見え、気づけば豪徳寺たちはひれ伏していた。
「「「「その通りだリーダー!!」」」」
「ふふ、ようやくですね。長かったですけど」
「いや~。私も楽しみですね~。木乃香さんや超さんたちには悪いですけど」
「ふうむ、これはこれは興味深いね~」
「まっ、暇つぶしにはなるかな」
「シッカリ私ノデータフォルダニ保存シテオキマス」
「ぶみゅうう!!」
気づけば大盛り上がりだった。
誰もがようやく見ることの出来るシモンの伝説に、胸の高鳴りを押さえられなかった。
瀬田やハルカですら、期待しながら腰をすっかり降ろして、心待ちにする。
「おおおい! それでどうやってラカンと戦うんだよーー! 全然根拠ないじゃんかよ~」
「・・・・・・サラは見ないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見る・・・・・・・・・・・」
シモンを含めた8人と一匹のグレン団と瀬田ファミリーは、ズラッとテレビを囲みこみ、瞬き一つすることすら、もったいないと感じるほどの緊張でモニターに食い入る。
「本当に・・・・・・美空とココネが居ないのが残念です」
「ああ。・・・・それで何か二人の情報は入ったのか?」
「それがオスティアにはまだ来ていないようです。あの子の足なら十分辿り着いてもおかしくないのですが、やはり何かあったのかもしれません。だから、明日捜索の範囲を広げて情報をもっと集めてみます」
「そうか・・・・・俺も試合をサッサと終わらせて、そっちを手伝いたいが・・・・・・」
「ええ。・・・でも、明日だけはシモンさんはネギ先生を見てあげてください。彼もそう望んでいますよ?」
「まあそうだけど・・・・・・・・・・って、おっ、そろそろだな」
そしてハカセが受け取ったFIKMを上映するセットが完了し、部屋の電気も消して完全に準備完了。
「さあ、行くぜ!! 俺のドリルがどんなドリルか見せてみろ!!」
「「「「「わああああああああああ!!!!」」」」」
シモンの合図と共に映像が流れる。皆が歓声を上げていよいよ鑑賞会が徹夜で始まったのだった。
一応明日も試合があるのだが、そんなものは関係ない。
酒もジュースもおかしも用意して、気分はまるで映画館ゴッコだった。
ネギの現状に対してこちらはこちらでノンキ・・・・ある意味でいつも通りのグレン団。
そして彼等は・・・・・・・・・
正直なところハマった・・・・・・
流れる映像に興奮とドキドキを繰り返しながら・・・・・・・・・
次々と場面か変わる光景。
歴史の流れ。
英雄たちの活躍に、人々の想い。
夜通しで・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・感動した・・・・・・・・」
朝日が部屋に差し込む中、明らかにまぶたが重そうに、目にクマを作りながらシモンは呟いた。
「ああ・・・・・あれが子供先生の親父か・・・・・」
「カッコイイじゃねえか・・・・」
「これぞ正にハッピーエンド」
「めでたしめでたし・・・・・か・・・・」
同じく夜通しでずっとFILMを見続けた豪徳寺たちも、憔悴しきったような表情で頷いていた。
「熱イバトルデシタ」
「これなら、ネギ先生のお父さんがこれほど有名人なのも頷けますね~」
「ぶ~みゅ」
「なるほど・・・・この世界でかつて何があったのか・・・・やはり映像を通してみると分かりやすいね~」
「でもよ~・・・・・・ね・・・眠い・・・・・・」
「く~~~・・・・・く~・・・」
ハルカは完全にダウン。
しかし他の面々は眠い目を擦りながらも満足そうに頷いていた。
そしてシャークティが同じく眠そうな目を擦りながらも言う。
「ええ・・・・とても素晴らしかったです・・・・・この・・・・グレンラガンならぬ、紅き翼戦記は!!!!」
そう・・・・・・紅き翼戦記・・・・・・ナギやラカンをはじめ、魔法世界の英雄たちの20年前の戦の映像を彼らは・・・・・
「どーいうことですか!? シモンさんのシの字もグレンラガンのグの字も出てこなかったではないですか!!」
- 要するに中身の間違っているFILMを徹夜で見ていたのだった。
「どうしよう・・・・・・・FILM・・・・・間違えた・・・・・・」
「間違えたではないでしょう!! 結局朝まで見てしまいましたし! ってゆーか、シモンさん試合でしょ!?」
あまりにも壮大で面白かったサウザンドマスターたちの戦い。特に実話をもとに構成されているというのがヘタな映画の何百倍も楽しめた。
ゆえに彼らは途中で映像をストップすることが出来ず、結局朝まで見てしまったのだった・・・・
「というよりどこで間違えて・・・・いえ・・・・そういえばうっかり騎士さんがあの時・・・・まさか・・・・・ああもう! 結局シモンさんの記憶に何の関係もありませんでしたし・・・・それにこれ、急いで交換しに行かないと大変なことになるのでは?」
「ま~、落ち着こうよ。とらえずさ、今日の試合が終わったら交換しに行けばいいじゃないか。要するに決勝戦より前に交換できればいいんだろ?」
「それは・・・・そうですが・・・・・・・何でそう、楽観的なのですか!? ってゆーか、そろそろ出発しないと、シモンさんは準決勝の第一試合でしょ!」
結局何も得られぬまま・・・・いや・・・この世界の歴史やネギの父親たちのことを知ることが出来ただけでも良かったのかもしれない。
間違ったFILMも、あとで交換すればいい、少なくともそう思っていた。
だが、この時は・・・・その軽はずみな考えが事態をもの凄く妙な方向へと進むことに、まだ誰も気づいていなかった。
朝早くには祭りの騒ぎも徐々に高鳴りだし、人々が目を覚まして祭りの中へと足を踏み入れようという中で一人の男が叫んだ。
「ディ・・・ディーネじゃと!?」
メガロメセンブリアの重装魔道兵部隊隊長のミルフは、部下の報告に机をバンと叩きながら立ち上がった。
「はっ、そのように監視の部隊から報告が・・・・そして流麗のディーネだけでなく、虎口のラオに魔森の妖精・ラン、獣狼のウルフ王子・・・ジギタリやティトリ・・・・脱走兵・鳥獣のゲッコまで・・・どいつもこいつも曲者ぞろいです」
「な・・・なんと・・・・う~む・・・どういうことだ?」
ミルフはひとしきり唸りながら何かを考えているようだが、結局まとまらずにあきらめて溜息をついて、もう一度イスに座った。
「流麗のディーネ・・・たしかミルフ隊長や帝国軍の神速のマンドラ様と随分前に国境付近で争っていた・・・」
「・・・うむ・・・・・・・」
ミルフは目を細めながら、懐かしそうに昔を思い出しながら語る。
「ディーネは昔から気が強く、我を貫き、他人を痛めつけてばかりでの・・・・・美しく力もあるが、その素行からアリアドネーの魔法学院の女番長になったが、結局戦乙女旅団に入団できず、その後は賞金稼ぎになり、幾度も政府のやり方に反発して戦ったが・・・・・・しかし・・・・何故今頃・・・・名だたる賞金稼ぎや拳闘士ばかりが急に?」
「分かりません。もう少し監視の人員を増やすか、もしくは接触を試みるか・・・ここ数日で連中の下に集まる者達が絶えず、先日の大騒動中に更に集まったと聞きますし・・・」
あまりにも普通ではない事態。
ましてや全員が腕利きで一癖も二癖もある連中が集まるなど、どう考えても穏やかな事態ではないだろう。
「・・・・いや、黒い猟犬の頭のザイツェフとやらは意外と曲者じゃと聞いておる・・・おまけにディーネも居ればうかつに手を出さんほうが良い。あやつは政府が相手でも気に入らなければ堂々と向ってくるからのう・・・」
「しかし・・・」
ミルフと部下の男は互いに黙り、沈黙が少し流れた。
平和に迎えられるはずだった二十年目の式典。しかし二十回目を迎えてから、何かがおかしくなった。いや、迎える前からそうだった。
「ううむ・・・最近・・・・妙にこの世界が慌しくないか? いや・・・気のせいだといいのだが・・・冒険王やゲートポート破壊・・・何故・・・ここに来て立て続けに・・・」
ミルフが不意に漏らした言葉。そこには理由も分からない妙な不安が込められていた。
だが、その答えは分からない。その疑問は恐らく一生分からないだろう。
突如動き出した時代の流れに妙な胸騒ぎを感じていたミルフだった。
だがその時・・・・
「し、失礼します! ミルフ様! 監視部隊より報告が!!! 突如大勢の賞金稼ぎ結社や拳闘団の集団が、例の黒い猟犬(カニス・ニゲル)の古城に集結しました!! その数は・・・千を遥かに超えます!!」
彼の元に再び大事件が舞い込んだ。
「な・・・・」
「なんじゃとおおおおォォォォォーーーーーーッ!?」
今度ばかりは流石のミルフも勢いよく立ち上がりバンと力強く机を叩き、思わず机が粉々に砕けてしまった。
しかしそのことに対して気にする余裕はまったく無い。それほどまでに取り乱していた。
「せ・・・・千・・・・じゃと?」
恐る恐るもう一度聞きなおすが、報告に来た男の言葉が変わることは無かった。
「は・・・・はい・・・・・しかも・・・まだ増えているようです」
「バ・・・・バカな・・・・」
「あまりにも急増しているために、監視を続けている部隊もどうすればいいか分からず、指示を求めてきました! さらに、シルチス亜大陸の黒い猟犬(カニス・ニゲル)本社からも多くの部隊が合流し、もはや規模が一国の軍事力にまで匹敵しようとしています!」
ミルフだけではない。報告に来た部下の男も非常に取り乱した様子で、ありのままを報告する。
動揺するのも無理は無い。決して予想もしていなかった事態に・・・いや・・・何かが起こるかもしれないという不安が、ピークに達していたのだ。
「リ・・・リカード元老院議員に・・・いや・・・この件はたしかゲーテル総督に回されたんじゃったな・・・・ただちに総督に連絡を! そして・・・・ワシが信頼の置ける他国の隊長クラスの・・・・そうじゃのう、ヘラスのマンドラ隊長とアリアドネーのエマ団長の耳にも入れておくのじゃ!」
「は・・・はい! 直ちに!」
ミルフの指示を受けて男は慌てて部屋の外へ飛び出した。
そして残されたミルフも、直ぐにはイスに座れず、壊れた机を放置したまま、しばらく呆然と突っ立ったままだった。
「なんだ?・・・・一体・・・何が起ころうとしているのじゃ?」
そう・・・何かが起こり始める。
その予感が既に予感ではすまなくなってきていた。
「くっ・・・・・・」
「ミルフ隊長!? どちらへ行かれるのですか?」
「ワシもジッとはしておれん! いつでも行ける準備だけでもしておく!」
平和を祝う祭りとは真逆の祭囃子が刻一刻と近づいてきている。
それは武人としての勘だった。
(ディーネ・・・お前は何をしようとしている・・・・ワシはお前とまだ戦わねばならんのか?)
ミルフは部下に指示を出した後、自身も戦いの準備を整えて、いつでも動き出せるようにしていた。
最終更新:2011年05月12日 14:51