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100-2

その言葉を合図にケルベロスが動き出す。

無数にある砲台から魔砲弾が次々と撃ちだされていく。

問答無用の先制攻撃だった。


『野郎! 何の容赦もなく撃ってきやがった! だが、神速部隊を舐めるな!』


『マンドラ様! 前方の艦隊から砲撃! どうします!』


休み無く打ち続けられる魔砲弾を、空を縦横無尽に駆け巡り交わしていく神速部隊の戦闘機。

そして一人の隊員がマンドラに指示を求めた。


『おい・・・・・敵のシールドは?』


『シールドは・・・・・張られていません!』


どうやら動き出して間もないケルベロスは、未だに戦闘準備が出来ていなかった、もしくは魔力が完全に溜まっていなかったのかもしれない。超怒涛級の戦艦のシールドが未だに張られていなかったのは不幸中の幸いだった。


だからこそ・・・



「さっそく向こうから攻撃しかけてきたか・・・どうやら話し合いってわけにはいかないな。なら・・・・・ならこのまま突っ込むぞ!」



相手は問答無用で砲撃をかましてきた。つまり戦闘する気満々である。

ならばこちらも交渉も手順も何も必要ない!

やることは単純でいい!

飛行船の中から、前方を睨むシモンが答えた。


「こ、コラァ! これは俺たちの船だぞ! 突っ込んだらぶっ壊れるだろうがァ!?」


腕組して指示を出すシモンに、トサカが焦りながら文句を言うが、シモンはニッと笑った。


「トサカ・・・・この船もいいけど、あの船もよくないか?」


「・・・・・・・・・・・・・・はっ?」


まるで子供が玩具を見つけたかのような表情で、シモンは前方のケルベロスを眺めながら。口を開く。


「助けてくれたお礼に、奴等をぶっとばしたらあれをお前にやるよ!」


「は・・・・ハアアァァァァァァァァ!!??」


トサカは顎が外れそうになるくらいの大声で叫ぶ。他のメンツも、まるで当たり前のように言うシモンに若干引いている。

だが、その隙にシモンの指示を受けて、神速部隊が砲弾を惹き付けている間に、シモンたちの乗った飛行船が一直線にケルベロスの甲板目掛けて突っ込んでいく!!





「「「「「「「「「「ちょ・・・・冗談だろォォォォーーーーーーーッ!!!???」」」」」」」」」」





そこに敵も味方も無かった。


「ぎゃァアア!?」


「うおおおおい!? 本当かよ!?」


「特攻かァ!?」


「訳が分かんねえええええ!?」


逃げ惑う集った戦士たち。

少し甲高い声で叫ぶ現れた戦士たち。

威風堂々とするのは一部の不撓不屈の者たちだけだ。


「バ・・・・バカな!?」


「撃て撃てェェ!!」


神速部隊に狙いを定めていた艦の砲撃が一斉に向ってくる。

魔力の篭った弾丸は真っ向から向ってくるが、途端に落下する飛行船の周りに緑色に輝くフィールドが展開されて、砲撃を防いだ。


「ちょっ・・・あれって!?」


「・・・・感ジル・・・・・・懐かシイ・・・感じスル・・・」


弾幕の雨を全く怯む事無く突っ込んでくる飛行船から感じる懐かしい光。

中から聞こえてくるのは、聞いているだけで胸が熱くなるほどの雄叫び。

美空とココネは、打ち震えずに入られなかった。

まだ確認したわけではない。

しかし・・・・


気持ちが我慢できずに・・・・



二人の頬に・・・・



一筋の涙がこぼれた・・・・



「「「「「「「「いっけええええええええええええええ!!!!」」」」」」」」



二人の涙が地面に零れ落ちると同時に、速度を増した飛行船が甲板に直撃し集まっていた祭りの参加者たちを盛大に吹き飛ばした。

そして飛行船もまた、着地を失敗して甲板の上を二転三転しながら転がり、ようやく止まった時には真っ逆さまで機体をボロボロにさせて停止した。


「・・・おい・・・・」


ボロボロの飛行船の残骸を取り囲むように、気づけば砲撃も止み、戦士たちは呆然と立ち尽くしていた。

しかし・・・・


「いてて・・・・クッソがァ!! 俺たちの飛行船ボロボロにしやがって!!」


「うぐっ・・・おの・・・・おのれ・・・・シモン・・・・絶対に貴様は帰ったら監獄に・・・エミリィ・・・そして他の見習い共も帰ったら長時間の説教をしてやる!」


「お、お姉さま・・・ぶ・・・無事ですか?」


「う・・・いつッ・・・う~、正義の味方の登場には締まりませんね」


「まったく・・・・こんなメチャクチャは二十年ぶりじゃわい」


「でも、何とか着いたさね」


「とにかく早く出ましょう!!」


ボロボロとなった飛行船の中から声が聞こえてきた。

すると、中からガヤガヤと騒ぎ出し、ようやく飛行船の扉が乱暴に蹴破られ、中からゾロゾロと何十人もの集団が現れた。


そして・・・・



「ふう・・・・だが・・・・着いたぜ!!」



シモンが埃を払いながら、中から現れた。

既に外に出た面々は、誰かが言い出したわけでもなく、自然とシモンが歩く通り道を開けて、シモンはその道をゆっくりと進み、前へ出る。

正面に見えるのはだだっ広い甲板を四方に埋め尽くす武装した獣人、魔族、亜人、賞金稼ぎ、拳闘士の群れ。

だが、その数に圧倒されることも無く、シモンはゆっくりと辺りを見渡した後、天高々と聳え立つ艦橋の頂点に立つ、コートを羽織った男と、その傍らで膝を突いて、両手を縛られている二人の少女を見た。


そして彼らはようやく目が合った。


「・・・・・あの子達か・・・・・・・」


呟くシモンは自然と胸が温かくなった。


(ああ・・・泣いている・・・・・・俺を見て・・・・そうか・・・・そうだな・・・・バカな兄貴でゴメンな・・・・でも・・・・すぐに・・・・)


自分と目が合い、これだけ離れた距離からでも二人の少女が泣き顔でこちらを見ているのが分かる。

ああ、間違いない・・・あの子達こそ自分にとっては掛け替えの無い存在なんだと心の底から理解した。


そして・・・・


「ァ・・・・・ア・・・・う・・・うう・・・ひっぐ・・・ア・・・アニ・・・・・」


美空も・・・


「・・・・・・ひっぐ・・・・うっ・・・うう・・・・・ア・・・二・・・・」


普段は無表情のココネも幼児のようにどんどん顔が崩れていく。

まるで迷子になって寂しさと不安で押しつぶされそうになっている子供が、ようやく自分の家族を見つけた時と同じ表情である。


そして・・・・


「そして・・・アイツだな?」


シモンが温かい眼差しから一変して鋭い目つきで美空とココネの傍らに居る男を睨みつける。


「おい・・・・テメエがザイツェフだな?」


拳を強く握り締め、その瞬間に巨大な螺旋槍が現れ、シモンはその螺旋の頂点を、男に向って指した。


「・・・何だ? こいつらは・・・・・何者だァ!!」


チコ☆タンはこちらを睨みつけるシモン、そして更にゾロゾロと飛行船から出てくる集団に判断できないで居た。

するとシモンは輝かしいオーラを身に纏う。離れたところからでも確認できるその光は、飛行船が張っていたフィールドと同じ色だった。

自分たちの砲撃を防いだのは、あの妙な男なんだと認識した瞬間、シモンは天高らかに叫んだ。




「俺たちは新生大グレン団だァ!! テメエ、俺の妹をォ返しやがれェーーーーーーッ!!!!」




美空とココネは声を上手く出せないで居た。


「あ・・・・あう・・・・う・・・うあ・・・・・」



「・・・・・・ア・・・・・・アレ・・・・・・・・・・コレ・・・・夢? ウウン・・・夢・・・違ウ!」



夢かと疑うが、無理も無いだろう。両手を繋がれて居なければ、頬を抓ってでも確かめただろう。


特攻してきた飛行船の船内から、ゾロゾロと現れだした謎の集団。


その一番先頭に居る男。


その最も近い場所でこちらを見上げる者たちを、本物なのか、幻なのか、頭の中で思わずに入られなかった。

しかしシモンの今の叫びだけで全てのことを理解した。


そう、これは現実だ。


ずっと自分たちが会いたかった最愛の兄が、最高の仲間たちを引き連れて、最高の登場をしてくれたのだ。


だから、もう我慢する必要はない。


二人はずっと言いたかった言葉をようやく心の底から叫ぶことが出来た。




「「ア゛ニ゛ギィィィーーーーーーーーッ!!! 皆ァァァァ!!!」」




どうして?

何で?

どうやって?

そこに居るのはシモンだけではない。シャークティを始めとするグレン団に、美空のクラスメートのハカセや夕映まで居る。

この世界に一緒に来た高音に愛衣に、アリアドネーで戦ったエミリィ、そしてコレットやベアトリクスまで居る。

ゾロゾロと知らない連中まで引き連れて、自分たちの兄は何をしているのか?

だが、それもどうでもいい。

だって、そうだ。あの兄だ! あのシモンだ! 新生大グレン団だ! だったら細かいことは気にするな!

全ての不安も恐怖も混乱もふっとばし、美空とココネは涙を流しながら叫んだ。


「美空ちゃーーーーん! ココネちゃーーーん!」


「待ってろよな! 今すぐこいつらぶっ倒すからよォ!!」


「来ましたよ! 美空! ココネ! 待ってなさい! すぐに助けます!」


「お二人とも、今すぐ助けて差し上げますわ!」


「美空ァ~! ココネェ~! 絶対助けてあげるからね!」


「あれがシモン君の妹か」


「お前の未来の妹だぞ、サラ」


「ちょっ、こんな場所でソレを言っちゃうかよ!?」


「ぶみゅううう~~~~!!!」


美空の叫びを聞いて豪徳寺やシャークティたちが両手を挙げて美空とココネに向けて頼もしい声を上げ、両手を盛大に振った。

そしてエミリィやコレットたちも、笑みを零して美空とココネに手を振った。


「おい! あれ・・・たしか・・・冒険王じゃねえか!?」


「それだけじゃえねえ! あれは、解放奴隷拳闘士のバルガスじゃねえか!?」


「怒涛のミルフに、神速のマンドラ・・・・・アリアドネーのエマまで居るぞ!!」


「くっくっく・・・・・ミルフゥ~~! マンドラァ~~! それにあれは戦乙女旅団・・・・アリアドネーの可愛い後輩たちもお出ましかい!!」


「何だこいつ等!? 少数だがとんでもねえ面子だぞ!?」


「ひゃっひゃっひゃ! ・・・あれが現実世界の2chで噂になったシモンとグレン団とやらか!!」


存在する数だけのどよめきや驚きが広がっていく。

未知な存在から見知った存在までもが、わけも分からぬ組み合わせで現れたのである。

部隊どころか国も身分も何もかも違うものたちが、何を抱いて同じ戦場に現れたのか?

多分その答えは・・・・単純だ・・・・


「冒険王・・・兄・・・・ふん、そうか・・・そういう繋がりか・・・・・それで・・・・ネギ・スプリングフィールドはどこだ? しかもこの組み合わせは何だ?」


しかしその単純な答えをチコ☆タンは分からないでいた。

いや、こちらを睨みつけ、既に臨戦態勢が整っている連中を見れば一目瞭然なのだが、それでも答えに至らず、この場に居ないネギや白き翼の面々を探そうとしたがやはり居ない。


そして・・・・



「今行くぞ! 美空ァ! ココネェ! だからテメエら、道を開けやがれェ!!」



男は走り出した。

ドリル片手に千を遥かに超える血に飢えた魔獣の群れの中へと突っ込んでいく。

敵も数も知ったことではない。

とにかく行けと、胸の中が叫んでいた。



「「「「「「「っしゃああああ!!!!」」」」」」」



荒ぶる魂と怒号の波が押し寄せる。

我先にと先頭を駆け抜けて、壁を突き破ろうとしているリーダーのドリルに続けとばかりグレン団は走り出した。


「行きますよ、愛衣!!」


「はい、お姉さま!!」


「やるよ、ハルカ、サラ!」


「仕方ないね」


「ジョートーだよ!!」


出遅れるわけにはいかない。

数で上回る相手には、先手必勝! 気合で負けていたら話にならない!


「アリアドネーの戦乙女旅団の力、無法な奴等に思い知らせてやれ!!」


「「「「「はいっ!!」」」」」


「女子供に負けるではない! ワシらの怒涛の咆哮を響かせてやろうではないか!!」


「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」


『天空の戦場とは粋な計らい!! 我等神速部隊にこそ相応しい舞台!! 華麗に舞おうではないかァ!!』


『『『『『『『『『『サー!!』』』』』』』』』』


そう、国も種族も身分も違う彼らが一団となって押し寄せる姿。

それはまるで一つの生命体。

ならば、彼らは何の生命なのか?

それは簡単だ、何もかも違うはずの彼らの唯一の共通点。

闘争心だ。

最初は文句の多かった連中も、気づけば闘争心に火が付いていた。


「お・・・おい、来るぞ!?」


「う・・・うわああああああ!?」


だが・・・


「うろたえるんじゃないよ、ハナタレ共がッ!!」


それは相手も同じだ。


「頭の言うとおりだ!! まずはオスティアの前に、こいつ等を神輿に貼り付けてやろうじゃねえか!!」


「数はこっちが圧倒的に上なんだ! オスティアに着く前の暇つぶしだ! 押しつぶせええ!!」



「「「「「「「「「ウオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーッッ!!!!」」」」」」」」



彼らもまた火がついた。引火した。

燻らせておいた火種に一足早くに火がついた。

ここは天空の戦場。身を切り裂くような荒れ狂う突風や凍てつく空気が攻め立てる。だが、気持ちの燃え滾った彼らには丁度いいくらいだった。



さあ、開戦だ!


伝説の始まりだ!











「ねえねえ、あれってナギ選手じゃない?」


「うん、それにコジローもいない?」


ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦。

昨日の戦いで半壊しかけた闘技場もスッカリ元通り、今日も観客席は立ち見が出るほどの満員で埋め尽くされている。

いや、闘技場の中だけではない。

コロシアムの外に設置されたオーロラビジョンや、中継が入っている酒場などでは誰もがごった返しの人の中で同じ映像を見ようとしている。

彼らの目当ては勿論決まっている。

新たな伝説となったナギ・スプリングフィールドという名の新人拳闘士だった。


「うわ~~、昨日は意識しませんでしたけど、試合開始時間はまだまだだっていうのに、もう席が満杯ですよ」


「ほんまやな~。俺ら、昨日は試合に集中しとったからな~」


変装のためのサングラスを掛けながら、完全に埋め尽くされた観客を見渡しながらネギと小太郎が呟いた。

その途中で、ネギと小太郎の正体を噂するファンたちが居たが、ネギたちは気にせず観客席の周りをウロウロし始めた。


「それだけアンタたちが注目されてんでしょ? この様子だったらシモンさんは完全にアウェーだね」


「たしかに神楽坂の言うとおりだな。ラカンのおっさんのファンも今日は先生の味方になるだろうし、応援に問題は無しだな。まあ、あの熱血野郎は今回はそれほど注目されてないからな」


アスナと千雨の言っていることに間違いはなかった。

会場のほとんどの目当てがネギことナギを一目見ようと訪れたものたちばかりだからである。

シモンもそれなりに活躍はしたものの、無名のシモンとサラが一・二回戦や準決勝を楽々勝ち抜いた程度で、昨日のネギVSラカンの試合に及ぶはずもなかった。

そう、彼らの目的はシモン・メカタマVSナギ・コジローの試合ではない。

彼らの目的はナギとコジローだけが目当てなのである。それが観客を見渡すだけで直ぐに分かった。

ラカンファンだが今日はネギたちを応援しようというガラの悪そうな連中。

最高潮に達した女性たちのみで構成されているファンクラブ。彼女たちの広げる垂れ幕には「NAGI☆LOVE」と書かれているぐらいである。


「う~ん・・・・ネギ君が勝たないと亜子達は開放されへんけど、こんだけネギ君たちの応援されている中でさらにシモンさんやのうてネギ君を応援するんは、少し気が引けるな~」


木乃香が少し難しそうな表情で悩んでいた。


アスナや刹那も、その複雑な気持ちを察して木乃香をあやす様に頭を撫でていた。


「それにしても・・・・・」


そして刹那も改めて会場中を見渡し、一つ疑問に思った。


「それにしても試合開始はお昼だというのに、朝も早くに皆さん来すぎではありませんか?」


「そうよね~。いくら、早く来ないと席がなくなっちゃうとはいえ・・・・・」


するとその疑問に朝倉が答えた。


「何々~? アスナも刹那さんも知らなかったの~?」


「えっ?」


「今日皆が朝から集まったのは、今から特別にイベントがあるからなんだよね~」


「・・・・イベント?」


「そっ、20年続いたナギ・スプリングフィールド祭の決勝を祝して政府が超特別イベントをやるらしいんだよ。それが・・・・」


朝倉がメモ帳を広げながら集めた情報を読み上げていく。
今から行われるもう一つのこと。

試合前に行われる前座イベントに、魔法世界が大注目していた。

すると、そんな中で闘技場の真ん中に一人の亜人の女が現れた。派手な格好をしてこの大会中の審判を任されていた女性だ。

すると彼女の登場で、お祭り騒ぎだった会場中も徐々に静かになっていく。



『満席で埋め尽くされたお客様、そして視聴者の方々おはようございます。観客動員数12万人以上のこの試合、正にナギの名を冠するにふさわしい世界最大規模の大会へとなりました』


会場中の視線を一身に受ける女性。

朝倉も説明を止め、ネギたちも闘技場の真ん中へと視線を移した。


『今日おこなわれる決勝戦。新たな伝説が生まれるのか? おそらく皆が同じ気持ちで心待ちにしているでしょう』


皆が「ウンウン」と頷いている。その様子にネギが少し照れくさそうにした。

だが・・・


『ですが、皆さん。・・・・今日の目的はナギはナギでもそれだけではないでしょう?』


その一言に、黙っていた観客の表情がパアっと晴れた。

そう、これからようやく見られるのである。


『皆さんの期待に応えましょう!! 今から放送するのは、紅き翼(アラルブラ)の協力で作られた大戦記のリアル映像! 英雄たちの伝説を記録した、『紅き翼戦記(アラルブラ・サーガ)!! の初公開です!!』



会場中が一斉になって立ち上がり大歓声を上げた。


「すげえーー! 本当に紅き翼の記録映像を見れるんだ!」


「今まで映画とかで公開されていたのは、作り物だったからよ~。そっか~、ラカンが絡んでるんだったら間違いねえな!」


「く~~、楽しみ~」


誰も彼もがこれから始まる歴史的映像に期待と興奮を隠し切れずに、身を乗り出していた。


「えっ!?」


「紅き翼戦記って・・・・ラカンさんが私たちに見せてくれたやつ?」


「あのおっさん・・・・何が先生のために作っただ。これで放送収入がたんまり入るって仕組みじゃねえか」


ネギたちも聞いていなかったことのため、少し驚いていしまった。

ラカンが自分のためにと見せてくれた映像を、まさか世界中の人たちと一緒にもう一度見ることになるとは思って居なかった。

周りを見れば始まるのを今か今かと待ち焦がれている観客たち。それだけで息子のネギ自身も少し鼻が高い気がした。


「もう一度見れるなんて思ってなかったです」


「そうね~、ホントーにラカンさんってば、ちゃっかりしてるわね~。でもいいの、ネギ?」


「何がです?」


「昼には大一番が待っているってうのに、ここでのんびり映画でも見て。修行や作戦はしなくてもいいの?」


朝早くにはあれほど慌てふためいたネギたち。

特にラカンからシモンのことを聞いたときは全員が騒然としていた。

まさかあれほど苦労してようやく引き分けだったラカン相手に、シモンは一ヶ月も前に戦っていたというのは、ネギやアスナ達にとっては衝撃だった。

本来なら焦ってギリギリまで修行したいところだが、ネギは逆にふっきれたような表情で首を横に振った。


「ええ・・・・いいんです。どのみち今出来ることはラカンさんの試合のときにやり尽くしてしまいましたから。だから今の僕に出来ることは、体調を万全に整えてから・・・・」


「整えてから?」


「当たって突き破れです♪」


そう、もはや最後の修行などという足掻きはしない。

逆にふっきれてしまった。

ラカン戦を乗り越えて、ネギ自身が今の自分がどれほど憧れていた存在とやり合えるのかを試したくなったのだ。

決勝に勝たなければ亜子達は解放されないのは分かっている。

しかし、ラカン戦を終えて一人前だと認められたからこそ、今の自分を真っ向からシモンにぶつけたいと思ったのだ。

だからこそ、ネギは今ここに居る。

今から数時間後に始まるシモン戦に全てを出し切ることを決意したのだ。

その決意がアスナ達にも伝わって、彼女たちも微笑んで頷いた。



『さあ、皆さん! 英雄たちの伝説を、その目でじっくりと堪能してください! では、いきます! せーの、見てえもんは見てえ!!!!』



だから今は肩に力を入れる必要はない。

一度見た映像だからこそ、むしろ気楽に見れるというものだ。

さあ、ようやく超巨大スクリーンに伝説の映像が流れる。


アスナ達も純粋な観客として、もう一度映画を楽しむことにした・・・・・の・・・・だが・・・・





―――毎日毎日掘ることだけが俺の仕事だ







「・・・・・・・・・・・・・・・・」






「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」






―――穴を掘ればそれだけ村も広がる





「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・あれ?」」」」」」」」」」






―――村長は喜んで俺にブタモグラのステーキを食わせてくれる




「「「「「「「「・・・・・ブタモグラのステーキって何?」」」」」」」」」



―――ステーキのために掘るのかって? それは違うよ



「「「「「「「「「別に聞いてねええ!!」」」」」」」」」




―――宝物を掘り当てることだってある。




紅き翼たちが巨大な魔法を駆使して千の戦場を駆け巡る超ド派手な映像が流れる・・・・


かと思っていたら・・・・



「うおおおおおい!! ミルフはいるかァ!?」


「ちょっ、リカード! どういうことなの?」


「何じゃ? 何じゃこの映像は?」


「おい・・・・・どういうことだ?」


来賓席で世界中の誰もが思っている言葉を吐く三人のVIP、リカード、セラス、テオドラにちゃっかり居座っている偽エヴァ。

そして・・・


「おいおいおいおい、俺様のFILMじゃねえぞ?」


特等席で会場の反応を堪能しようとしたが、予想もしていなかった事態に目を丸くするラカンが居た。


「ミルフは!? あいつの仕事・・・・何? アイツが居ない? あん? とにかくこれをもって来た奴は誰だ!? 何でこんな貧相なガキが穴掘ってる映像が流れるんだ!?」


リカードたちが慌てるのも無理はない。

観客たちだって目が点になっていた。


紅き翼の伝説を拝めるかと思っていたのに、朝も早くから楽しみに待っていてようやく映像が流れたと思ったら・・・

流されたのは薄暗い世界、

幼く、顔もパッとしない少年が、

泥まみれになってドリルで穴を掘りながらその途中で僅かに点滅する小さな小さなドリルを掘り当てて、うれしそうに眺めている映像だった。


このFILMは店から取り寄せてからそのまま今日まで厳重に保管してあった。


つまり・・・・・・


「おい・・・・・ウツカ・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・ブクブクブクブク・・・・」


「ウツカァ!? ウツカが泡吹いて倒れたァ!?」


「ふぃ・・・・フィルム間違えた・・・・・・」


つまり超取り返しの付かないミスに気づいたウッカリ騎士ことウツカ・リミスは泡を吹いて倒れてしまった。


「ちょ、おい・・・これが紅き翼の映像だァ!? ふざけんなあ!!」


「全然違うじゃねえか! ちゃんと本物流せェ!!」


「ナギ様の映像を流しなさいよーーー!!」


「どうなってんだよ! 責任者出せえ!!」


会場中が裏切られた展開に憤慨し、持っているものを闘技場に投げつけて大騒動が起きる。

司会の女もマイクで慌てて場を治めようとするが、治まる気配はない。

しかし・・・・・


「ね・・・・・・・ねえ・・・・・ネギ・・・・」


「は・・・・はい・・・・・・・」


そんな中で、誰よりも目を見開いて流れる映像をネギたちは見ていた。


「ウソ・・・・せやけど・・・あれって・・・・・ドリルに・・・・・」


「は・・・はい・・・・コアドリルです」


木乃香も刹那も流れる映像に戸惑いを隠せない。

楓やくーふぇやのどか、ハルナも朝倉も千雨も動揺しまくっている。

何故なら映像に流れる少年が・・・・

少年が見つけて、うれしそうに首にかけている小さなドリルは・・・・

自分たちの良く知る人物に重なったからだ。


「くっそ・・・・とにかく映像をさっさと止めねえと」


リカードが慌ててミスで流した映像を止めようと動き出そうとするが、


「ちょっと・・・・・待て・・・」


「はっ?」


なんとラカンが止めた。

しかもその表情はいつものように気楽な表情ではなく、どこか真剣さを帯びて流れる映像の少年に注目した。


「あのガキ・・・・・それにドリル・・・・・・・・・そういや面影が・・・・・・・・・・まさか・・・・・」


ラカンが唸っている間にも映像が流れている。

すると薄暗い地下で下向きに歩いている少年が、一人の男とぶつかった。

ぶつかった男は少年よりも年が上だろう。背も高く、むき出しになった上半身の肉体もそれなりに鍛え上げられている。

ダブダブのズボンと雪駄履きで、ハダカの上半身にはうねる様な刺青を刻み込み、その瞳にはV字型のサングラスを掛けていた。

そして男は少年に言う。



『上を向いて歩け、シモン!!』



それはいつかの時代・・・・


次元の異なるどこかの銀河の・・・


青き星の地下深く・・・・・


静かにくすぶった二人の漢の魂が、天を目指したのが始まりだった。



『カミナじゃねえ、アニキって呼べ!』



その魂、狭い穴倉には収まらず・・・・


どこまでも大きな背中のその漢を、少年はどこまでも追いかけた。


「おい・・・・今・・・・シモンって言わなかったか?」


「ああ・・・・シモンって・・・たしか・・・・・」


「・・・あの男・・・・じゃねえか?」


観客もシモンの名に反応して、一斉に怒号や物を投げつける手をピタリと止めて、少し周りのものと一緒にざわつきだした。


「どうなってやがる・・・・・」


「これは・・・・シモンさんの?」


「おい・・・まったく分からぬぞ。何がどうなっておるのだ?」


「・・・この間の男か?」


リカードたちですら・・・・


「こりゃまた意外な展開だ・・・・」


ラカンですら戸惑いを隠せないで居た。


「カ・・・・・・カ・・・・・」


ネギは震えが止まらない。

木乃香達ですら自分の心臓の高鳴りが自分で聞き取れるほど、落ち着くことが出来なかった。


「カ・・・・・カミナ・・・・さんや・・・・」


そうだ・・・カミナだ。

学園祭の時、超鈴音の罠と事故に巻き込まれ、時限の狭間に囚われた自分たちの前に現れた男。


「どうしたんや、ネギ?」


「あれって・・・シモンさん?」


小太郎や亜子達が首を傾げているが無理もない。

知っている奴等にしか、今どれほどの事が起きているかは理解できない。

ネギもアスナも木乃香も刹那も、楓、くーふぇ、のどか、ハルナ、そしてカモ。学園祭の奇跡を知っている者達にしか理解できない

シモンを知っている者たちにしか理解できないだろう。

気づけば会場が静まり返っていた。

何の事故かは分からないが、今日の決勝戦に出てくる男の少年時代の映像が流れ、気づけば少しだけ様子を見るように映像を眺め始めた。

リカードたちも中止の指示を忘れて、数日前に自分たちの前に現れた規格外の男の過去の物語を「もう少しだけ」という気持ちで様子を伺っていた。



しかしこの静寂はやがて何倍もの熱気に変わる。




これは廻る銀河のその果ての・・・



青く輝く小さな星の・・・・



小さな男の大きな話し・・・・




語り尽くせば、日はまた昇る




さあ、目に焼き付けろ!



漢が駆ける! 奴等が駆ける! ドリル銀河の漢道!



さあ、またもや伝説が始まった。




いや、ついに伝説を知るときが来た!




もう、この流れは誰にも止めることなど出来はしない!
最終更新:2011年05月12日 14:56
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