アットウィキロゴ

101-2

敵の力量を計りそこなった。

まさか打ち返されるとは思わず、回避が間に合わない。

このままではシモン自身にブーメランが突き刺さり大ダメージを免れない。

しかしそう思ったとき、今度は女神様が現れた。


「風花旋風風牢壁(フランス・カルカル・ウェン ティ・ウェルテンティス)!!」


「これは!?」


シモンにブーメランが直撃するかと思った瞬間、シモンを包み込むように竜巻が発生し、渦巻いた気流がブーメランを弾き飛ばした。

その瞬間竜巻は消え、弾かれたドリルがシモンの目の前に落下した時、美しき戦乙女が舞い降りた。


「情けないぞ! 貴様を倒すのはこの私だ! こんなもの共に打ち倒されては、貴様に敗れた私の名が地に堕ちる!」


「エマァ!!」


厳しい表情でシモンに叱咤しながら今度はエマが現れた。

このあまりにも魔法世界では豪華すぎる助っ人に、シモンもシャークティも思わず苦笑した。


「何をやっている、早く行け! 私にここまでさせたのだ! 私が貴様を監獄に叩き込むまでは死ぬことは許さんぞ!」


「さあ、行け!! 後で事情聴取はたっぷり受けてもらうぞい!」


「いいか? これが最初で最後だぞ? この争いが終わったら、もう見逃しはせんぞ!」


「そうじゃ! 少しでも罪を償いに行け!」


シモンたちに背を向けながら言うエマとミルフ。


「「さあ、行って来い!! この道は譲ってやる!!」」


しかし声だけで今二人がどんな顔をしているのかが分かった。


「お前たち・・・・・・ああ・・・・お前らの気持ち、受け取った!」


きっと今の自分と同じ顔をしているだろう。

何故だか分からないが、零れる笑み。


「・・・・行きましょう、シモンさん!」


「ああ! 待ってろよザイツェフゥ!!」


あまりにも頼もし過ぎる援軍たちが自分たちの道を開けてくれた。

走りながらシモンは先ほどの頭の中に響いた声について考えた。


(違う・・・・見捨ててなんかいない・・・・皆は託してくれたんだ・・・・この道を・・・)


そうだ、彼らも初めはどうあれ、今は自分自身の意思で道を開けてくれたのだ。それは見捨てたわけではない、託されたのだ。


(それで突き進むことを罪だと言いたければ勝手にしろ! でも・・・・・俺たちは滅びない! この足が・・・前へと進む限り!)


そう、ただ進め。今はそれだけでいい。



「だからテメエが何と言おうと、この道だけは譲れねえ!!」



少なくとも、己の進む道の果てに自分が来るのを待っている人が居るのなら、とにかく今は進めばいいとシモンは心の中で思った。

そんなシモンとすぐ後ろを駆けるシャークティ。

そして視線変えれば、あちらこちらで響く爆音と戦士たちの雄叫びと血の匂い。

その全てを傍観者として眺めながら、鬼は笑った。


「ふっふっふっふ・・・昔の血が滾り始めた。どうにもこうにも止まれそうもねえじゃねえか。ひゃっはっはっはっは! これじゃあ平和も何もあったもんじゃねえ!! ゾクゾクしてきたぜえ」


誰もが命を賭けて魂を滾らせる中、只一人この光景をまるで酒の肴にでもするようにユウサは眺めていた。



「かっかっかっか、平和が平等? 法は平和のための積み重ねの結晶? ひゃはははは何言ってやがる! 法律は役人どもと弱者を救済するためのシステムじゃねえか! 不平等だ! 強い奴等はどこにいけばいい! 弱くても、強くなれば勝ち残る! 平等じゃねえか! これを違法と呼ぶのなら、違法の中にこそ幸福は眠る! 見ろよ、荒ぶる豪傑たちのイキイキとしたこの姿! この胸の高鳴りを! 俺たちは笑って生きられる! 笑えねえ世界と人生に何の意味がある! ひゃはははははは、無気力なカス共が増える世界に刺激をもたらす、覇気に満ちた世界の幕開けだ!」 



彼に敵は居ない。

味方も居ない。

チコ☆タンは演説で大層な理由を掲げていたが、別にここに居る祭りの参加者たちは何も特別な理由があってこの場に集ったわけでない。

特に明確な理由はないが、派手なことをして今まで溜まった鬱憤を晴らしたい。せいぜいそんなところだろう。

彼もその内の一人だ。しかし彼は何かが違った。

祭りの持つ魔力に当てられてバカをやるために、ここに集まった連中に比べて、彼だけは素のままに見えた。



「ヒャハハハハ! そう、無法が俺たちの法律だ!!」



素のままで狂っているように見えた。

そんな彼もとうとう動き出す。

その目に誰を標的に決めたかは分からない。しかし歪んだ笑いが、とうとう戦場に広がる。

その時は、この激闘がさらなる大混乱を巻き起こすことになる。





魔法世界の歴史を左右させるかもしれないこの日は、あらゆる場所で人々がその局面に関わっていた。





変えようとする者たち。



抗おうとする者たち。



そして、偶然見物者として関わってしまった者たちだ。



彼らは次々と変わる場面やまったく知らない世界の映像に心奪われていた。



戦う! 飛ぶ!走る! 撃て!突き破れ!



見たこともない世界の物語だ。



薄暗い地下の天井が突如崩れ、そこから顔が体で体が顔の巨大な兵器が出現して暴れだしたかと思えば、



『下がってなさい、あなたたち!!』



プロポーション抜群で、その体つきとは裏腹に、未だに少女のあどけなさが残っている女がライフル片手に登場し、



『これかシモン? お前が見せたかったものは、いい面構えじゃねえか!』


『これもガンメンなのかしら?』



瓦礫に埋もれながらも目を閉じて、眠っているかのような金属製の物体をシモンとカミナ、現れたヨーコという名の女が取り囲み、これを使えば現れた巨大な兵器を倒せるのではないかとシモンが言うと、カミナが少し顎に手を置いて考えた後、シモンに向って「お前がやれ!」と言い放った。

言われた少年シモンは直ぐに情けない顔をして首を横に振る。

「無理だ」「自分なんかに出来るわけがない」「俺なんかじゃ・・・」臆病者が服を着て歩いているかのような弱弱しい表情で少年シモンは恐怖のあまりに小刻みに震えた。

だが、それでもカミナはシモンにやれと命じた。

そしてカミナは震えるシモンの肩に手を置いて、言い放つ。



『いいか、シモン! 自分を信じるな! 俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!』



その言葉に隣で聞いていたヨーコは呆れ顔をしている。意味も分からず観客も目が点になっている。

しかし画面に映るシモンは違った。

彼は自問している。自分を信じることは出来ない。だが、カミナは信じられないのか?


        • 違う。


彼はカミナを信じられた。

彼のアニキはそれだけの男だったからだ。その時、震えながらもシモンは小さく頷いて決意した。

ガンメンのコクピットのような場所に入り、自分の首から下げた点滅しているコアドリルを突き刺して、激しい光を放ちながらガンメンは飛び立った。


『動いた・・・・・』


そこから物語はどんどん加速していく。



『はっーはっはっは! ちっとは驚えたか、ガンメン野郎! 貴様の横暴は天が許しても、このラガン様が許さねえ! さあ、あのデカ面に叩き込んでやろうぜ! 俺たちのグレン団のドリルを! 行け、シモン! お前のドリルで天を突けッ!!!!』



小型ガンメンをカミナが勝手にラガンと命名し、シモンと共に雄叫びを上げて巨大なガンメンに向って突き進む。その時、光り輝くラガンが変形し両手と頭にドリルが現れた。


それを見て、観客が息を呑んだ。



あれはドリルだ!



そんな当たり前のことを、皆が思ってしまった。


シモンとカミナ、二人の熱気と気合が光り輝くドリルを回転させ、全ての熱き想いが渦巻いて、彼らは巨大なガンメンを開いた天井へ押し上げていく。

その向こうに見えるのは夕焼けの広がる空。

シモンはその空に本当に風穴を開けるかのごとく、勢いよくガンメンを突き破り天に向って突き進んだ。

その時、初めてシモンは日の光を感じた。

冷静になって周りを見渡すと、壁も天井も見当たらないどこまでも続く広大な世界が広がっていた。

それが、彼らが始めて地上へ出た瞬間だ。


美しい・・・・


ただその一言に尽きた。

その光景には地上と空と夕日に見慣れている魔法世界の住人たちでも心に残るような美しさに感じた。



「す・・・・・・すごい・・・・・」



画面に映る世界に見入って沈黙していた観客の中で、ネギが目を輝かせて呟いた。

その一言が口切りとなり、他の観客やアスナ達もざわつき始めた。

ネギや彼女たちにとっては、シモンに口で簡単に説明されていた程度のガンメン、地下の世界、昔は臆病者だったと言われて半信半疑だったシモンの少年時代、学園祭で見たグレンラガンのラガン、カミナや自分たちと同じぐらいの年齢のヨーコなど、どれもが新鮮さ全快の物語だった。


そして彼女たちだけではない・・・・


「すげ~・・・・」


「ああ・・・すげ~な・・・・」


「うん・・・・すごい・・・・」


断じて語彙力が乏しいわけではない。

しかしカミナとシモンとヨーコとラガンの息もつかせぬ大アクションを見て、まず最初にそれぐらいしか言うことが出来なかったのだ。

それは観客たちだけではない。VIP席で眺めている魔法世界の重鎮たちも同じである。

薄暗い世界で穴を掘り続けた男が天井を突き破った一連の光景は、時間や状況を忘れて惹きつけられた。


「でもよ~、・・・これどこの大陸の話だ?」


「ああ・・・あんな魔獣見たことねえし、あんなマジックアイテムが本当にあるのか?」


「う~ん・・・未だに紛争やっいてるシルチス亜大陸とか・・・あっ、ひょっとして旧世界じゃねえか? あんまあそこ辺りの情報は知らないし、映像のシモンを見る限り結構前の話だろ?」


「う~ん・・・・」


シモンたちの戦いが一旦落ち着いたのをキッカケに、観客も飲み込んだ息をようやく吐き出して、映し出される世界について話しあう。

聞いたこともない地下に住む民族。

見たこともないマジックアイテム。

これだけのことを成し遂げる人物たちなのに、シモンをこの大会で初めて聞いたことなど、疑問を上げれば限がなかった。

だが彼らが映し出された世界を魔法世界や現実世界のどちらかとして考えている以上、答えは出るはずもない。いくら彼らとはいえ、次元の異なるもう一つの地球の話と言っても分からないだろう。


「思い出した・・・・・」


「あん、何がだ?」


顎に手を当ててオーロラビジョンを眺めるテオドラが、映っているラガンを見て呟いた。


「たしか・・・・・セブンシープ家の領土内にある遺跡にあれと似たようなものがあったような・・・・」


「セブンシープ家・・・エミリィの家ね・・・・それって・・・・そう、たしか顔神遺跡かしら?」


「うむ・・・・・・あれ・・・・・・乗れたんじゃな~・・・・」


感心しながら画面に映るラガンを見てしみじみとテオドラは頷いた。


「遺跡か・・・俺はよく知らねえが・・・・ってことはこの映像は帝国やアリアドネー近辺っていうのか? んなわけねえだろ。やっぱシルチス亜大陸か、旧世界じゃねえか?」


リカードも深く考えて場所を特定しようと無駄な努力をしようとするが、正解に辿り着くわけもない。


(異世界・・・・つっても信じねえよな・・・・まっ、もうちっと様子見しとくか? しかしカミナか・・・・・中々のハートを持ってるじゃねえか)


リカードたちに余計なことをラカンは言わないようにして、自分は流れる映像に集中することにした。その時、彼は昔のシモンをあたふたさせるほどの人物でもあるカミナをケラケラと笑いながら注目したのだった。


そう、誰もが見入ってざわつきだすシモンたちの物語。

その光景を見て、シモンたちの凄さが知れ渡っている気がしてネギたちは少しうれしかった。


「ははっ、皆やっぱり驚いてるわね~。でもやっぱすごいね~、カミナさんもヨーコさんも、それに怯えてるシモンさんって新鮮ね♪」


「せやな~アスナの言う通りや。それに昔のシモンさん・・・かわええ~~♡」


「はい・・・あんな・・・無理だよ~と弱音を吐きながら・・・勇ましく精一杯の雄叫びを上げて・・・何とも可愛らしい・・・」


「刹那・・・うっとりしすぎでござるよ・・・・」


「しっかし・・・・あの熱血バカ一直線にこんな時代もあったんだな・・・・いや、この時代にはその役は別に居たようだな・・・・」


「うんうん、千雨ちゃんの言うとおりだね♪ あの時代にカミナさんが居て、シモンさんに受け継がれ、そして今はシモンさんからネギ君にって感じなんだろうね」


「不覚でした・・・・ビクビクと震えて・・・慌てふためくシモンさん・・・・ギャップがありすぎて・・・・も、・・・萌えました・・・・私を燃えさせずに萌えさせるとは・・・やはり侮れません、私のライバルは・・・」


「うう~む、やはり気合は重要アル」


アスナ達はどういう奇跡かカミナと会ったことがあるが、こうして映像で生きている頃の光景を見せられると本当に新鮮だった。

もっとも・・・注目している場所はそれぞれ違うが・・・・・



「・・・・・・ヨーコさん・・・・・・」



「「「「「「「「「「ッ!!!???」」」」」」」」」」



ネギが呟いたその一言に全員が目を見開いた。

なんと、大人バージョンの姿で完璧超人キャラでもある今のネギが、頬を赤らめながら一人の女性を見つめているのである。


「ヨーコさん・・・僕の知っているヨーコさんに比べてまだ幼さが残っていますけど・・・今と同じでカッコよくて・・・・とても可愛らしいです」


今のネギが言うと洒落にならんかった。


「「「「あっ・・・・・あがが・・・・が・・・・」」」」


映像に見入っていた彼女たちも、特にアスナ、のどか、くーふぇ、亜子、まき絵、茶々丸が過剰な反応をしていた。


「ねっ、・・・・どーいうこと?」


ネギの呟きと表情に疑問を感じた裕奈と夏美とアキラが、固まっている亜子達に聞こえないようにコソコソと木乃香に尋ねてくる。


「あっ、知らんかった? 実はネギ君ヨーコさんのこと好きなんよ」


「「「「「えっ!!?」」」」」


その時彼女たちは思い出した。

クラスに突然入ってきたり、学園祭で少し会話をしたぐらいで、彼女たちはそれほどヨーコと関わりが無かったのだが、一時期ネギがヨーコを好きなのではないかという噂が流れていた。

本人にクラスメートが糾弾すると、照れまくって慌てていたが、十中八九そうだった。

その時は、10歳の少年の淡い恋物語だと皆が微笑ましいように見て、文句を言っていたのは委員長とまき絵ぐらいだった。

しかし今はどうだ?

本当に洒落にならなかった。


「まあ、ネギ君の気持ちも分かるわ~。ヨーコさん昔から美じ・・・・・・」


しゃべっている途中で何かに気づいて木乃香も固まった。その親友の変化に刹那も察した。


「なあ・・・・せっちゃん・・・・」


「ええ・・・・・この時のヨーコさんって・・・・私たちと同じぐらいの年齢ですよね・・・・」


「シモンさん・・・・ヨーコさんに照れとるな~・・・・」


「はい・・・目のやり場に困っているというか・・・・・・」


「そういえば・・・・シモンさん・・・・こん時ヨーコさんを好きやったんやな~」


画面に映るシモンは傍に居るヨーコの裸に近い格好に顔を赤らめて逸らしているが、ヨーコを意識しているのが見え見えである。

そしてネギもまた、少し照れながら画面のヨーコをチラチラと見ている。

この時少女たちは思った。

アスナ、のどか、亜子、まき絵、くーふぇ、茶々丸、木乃香、刹那。

自分たちが意識をしている男性二人が意識しているヨーコ。


(そうだったわ・・・・こいつったら・・・・ヨーコさんが・・・・)


(ふええ・・・・忘れてたよ~。どうしよう・・・ヨーコさん昔から強くてカッコよくて・・・おまけに美人だし・・・・)


(そっやったんか・・・ナギさん・・・・ううん、ネギ君はヨーコさんのこと・・・・でも当然やな。ウチみたいな脇役と違ってヨーコさんは誰がどう見ても主人公と一緒に戦うヒロインやもんな)


(うう~~ん・・・・なんかやだな~。亜子とかだったら応援しようとか思えたけど・・・・)


(ヨーコさんアルか・・・・結局一度も戦えなかったアル)


(ハカセに改造してもらって色々と私はバージョンアップしましたが・・・まだ足りないものが・・・)


(シモンさんが一番頼りにする女の人がヨーコさんや・・・)


(我々とヨーコさん・・・・何が違うのでしょう・・・・・)


自分たちとヨーコでは何が違うのか? それが彼女たちの真剣な想いだった。

だが、そのとき画面の中の映像に異変が起こった。

天高らかに飛んだラガンのエネルギーが切れて、突如地上へ落下したのだ。

大きな落下音と土煙を上げて落下してシモンとカミナとヨーコは大地に放り出された。

その時、シモンは偶然にヨーコの上に乗っかって、ヨーコのはち切れんばかりの胸に顔をうずめていたのだった。


「う・・・うわああ!? シ、・・・シモンさんなんてことを・・・・」


顔を真っ赤にして映像に映るシモンとヨーコを見るネギ。



―――!?



この瞬間少女たちは答えに至った。

自分たちのヨーコとの違いは何なのか?

以前からその傾向もあったし、もしやと思った。しかしそれが核心に至った。

自分たちに無くて、ヨーコにあるもの。今のネギと慌てている少年シモンの反応を見て・・・・



「「「「「「「「胸かァ!!!???」」」」」」」」」」



胸だった・・・・・


「・・・・・・・・・・・ふん、・・・・くだらん・・・・・・」


自分のまったくない胸を触りながら偽エヴァは何故か分からないが不機嫌そうにヨーコを見ていたのだった。




そんな少女たちのおっぱい大会惨敗・・・


        • ではなく、オスティアや世界中で徐々に広がるグレン団の伝説をまったく知らずに、オスティアから北へ進んだ空の上では、休むこと無く戦士たちの咆哮が響き渡っていた。




「ったく・・・・次から次へと来るさね・・・本当にバカが多いねまったく」


メイド服を少し汚しながらも、トサカとバルガス、ラオとランと共に次々と来る敵たちを返り討ちにして奴隷長も何とかこの場を凌いでいた。


「おい、奴等を逃がすなよ! この陣形は保つぞ!」


「くっそが・・・だが、こいつら強え・・・」


「ああ・・・・流石に名が通っているだけあるぜ」


いくら引退したとはいえ、元奴隷身分から拳闘で成り上がって自由を掴んだ奴隷長。

そして拳闘界では名の通ったバルガスたちが共に居る以上、そう簡単に並みの賞金稼ぎや拳闘士たちでは仕留めることは出来ない。


「グル・・・・やるじゃねえか・・・・バルガス・・・・」


「ふん・・・・お前はそうでもないな、ウルフ王子。だからナギ・スプリングフィールド杯の予選を落ちたんだ」


「テメエ!! ぶっ殺す! 王狼の牙(フェンリル・ファング)!!」


「受けてやるぜ!!」


狼の獣人は獣のスピードを駆使して、牙と爪を光らせてバルガスに迫るが、バルガスも拳闘家でありながら高位の魔法使いでもある。自身を魔力で強化すれば、相手が獣人といえど十分に渡り合えた。


「ちっ・・・バルガスの兄貴は捕まっちまったか・・・・・くそっ、こいつら雑魚に混じって強敵もいるぜ・・・・マジでバテるぞ?」


「おいおい、そんなこと言うなよなトサカ! それじゃあ味方になった俺たちの立つ瀬がねえだろ!」


「そーそー、ラオの言うとおり!」


「テメエらは勝手に来たんだろうが!?」


ここに来てから相当暴れているはずなのだが、一向に見える景色は変わらない。

シモンたちも自分たちの見えないところで相当敵を倒していると思えるのだが、未だに変化が戦場に感じられない。


「くっそ・・・・アイツ等やられてねえだろうな・・・・」


思わずそう思ってしまうほど、何千という兵力は脅威だった。自分たちだってそれなりに修羅場を通った腕利きとはいえ、天才でも超人でもない。

本来なら逃げるか、とっくにあきらめたいところだった。

しかし、そんなトサカを奴隷長は拳骨一撃で叱咤する。


「バカ言ってんじゃないよ! これであきらめたら、アンタは一生脇役だよ!」


「うっ・・・うるせえなァ、もう。俺はクズなんだからクズらしくしてりゃあ良かったんだよ!」


「あんたは、本当に素直じゃないさね!」


「おい! 喧嘩してる場合じゃねえだろ! どんどん次が来るぞ!」


トサカが殴られた頭を抑えながら、奴隷長と言い合いを始めたが、敵も待っているはずがない。


「おらァァ!!」


「死ねや、ロートル!!」


だが・・・・


「誰がロートルだい! 私はまだ三十代だよ!!」


「ひっ・・・・・」


「ベアズハンマー!!」


正にクマの張り手の一撃は向ってきた賞金稼ぎを一撃で吹き飛ばし、人ごみの中へ叩き込んだ。


「さすがママだぜ・・・・現役顔負けだな・・・奴等まとめて吹っ飛んだぜ・・・・」


引退したとはいえこの威力。

威勢の良かった連中も少し萎縮して来るのを躊躇っているようだ。


「どうしたヒヨッコ共? 来ないのかい?」


笑う奴隷長の威圧感は、正に歴戦の古豪そのものだった。

向ってきた連中も、今の一撃で何人かの者たちは冷静さを取り戻して、少し間合いを保ったまま、奴隷長に武器を向けたまま睨みつける。

強烈な一撃で相手に見せしめにする。それも兵法の一つかもしれない。ともかく、相手も止まり、少しインターバルを挟める・・・・


      • と思ったのも束の間・・・・




「ひゃっはっはっは、いよう! 久しぶりじゃねえか、解放奴隷のクマ子ちゃん! しばらく見ないうちに随分可愛らしい服着てるじゃねえか!」


―――!?



高位の魔法使い? 歴戦の古豪? 拳闘界での強者?

その言葉がどれもが塵に思えるほどの禍々しい威圧感を身に纏った存在が現れた。


「あ・・・・あんたは・・・・・」


先ほどまで勇猛に戦っていた奴隷長とは思えぬほどの恐怖に満ちた表情。

歯もガチガチと震わせて、恐る恐る奴隷長は突如笑いながら現れた男を見て驚愕した。


「俺のこと、お帰りなさいませ、ご主人様と言ってみるかい?」


「ユ・・・・・・・・ユウサ・・・・・」


その男、存在そのものが地獄の匂いで、


「テメエ! 誰だか知らねえが、ママに手え出してんじゃ・・・・・」


「やめろトサカァ!? こいつは・・・・こいつは・・・」


身に纏う雰囲気だけでも自分たちとは明らかに違った。

トサカが何も知らずに短剣を抜いて切りかかる。その行動に慌てて奴隷長が止めようとするが、その必要は無かった。

トサカは足を踏み出した直後に男の威圧感に気おされて止まってしまったのだから。


「あっ・・・・・・あっ・・・・・」


トサカは気づけば震えと汗が止まらなかった。


するとユウサはニヤニヤしながらトサカに手のひらを向ける。その瞬間・・・・


「かっかっかっか、閻魔をすっ飛ばして判決下す! お前ら全員地獄行き♪」


その手に燃え盛るのは灼熱まで上昇した地獄の炎。

敵味方問わずに甲板を燃やして迫り来る炎は一瞬で自分たちを消炭に出来るほどの熱気を纏っている


「炎熱地獄!!」


不思議とアッサリした気がした。

自分は今から死ぬんだということしかトサカは考えられなかった。

奴隷長やラオが何かを叫んでいるが全てがスローモーションに見え、何も声が聞こえなかった。

死の直面に時間の感覚というものは狂うのだとシミジミ感じたその時・・・


「浦島流・・・・」


「メカタマ~~」


トサカの感覚を一瞬で取り戻すかのように颯爽と飛び込んでくる味方が現れた。


「山びこ返し!!」


「スパイラル放水撃!!」


メカタマ・・・いや、サラとブータにハルカが、トサカの窮地に現れた。

気の膜を作ったハルカがユウサの炎の熱気を遮断して、螺旋の渦を描いた放水車のようなメカタマの水攻撃が、勢いよく飛び出して炎を押しつぶした。


「テ、テメエら・・・・・」


「ほ~~、こいつは珍しいね~」


呆けるトサカに、変わらずニヤニヤと笑うユウサ。

しかしハルカとメカタマは構わずに銃口をユウサに向ける。


「くっ、・・・・山びこ返しで防いでこの威力かい? 両手が火傷しちまいそうだよ」


「でも、反撃だァ!!」


「浦島流・龍宮の柱!!」


「スパイラル・カオラン砲発射ア!!」


巨大な柱と螺旋の光の光線がユウサに迫る。一瞬だが空に光が広がるほどの輝きを放っている。

対してユウサは一歩も動かない。

口元の笑みは変えないまま、むしろ余計に釣り上がらせ・・・・


「ひゃははは、浦島流ね~、でも・・・・それじゃあ乙姫様も口説けねえよ!!」


ただ笑いながら伸ばした片手に力を流し、見えない障壁が二つの輝きを防ぎ、消し去った。


「なっ!? おいおい・・・このレベルの技をかき消すかい? 何だいこいつは・・・・」


ハルカが思わずタバコをはき捨てて舌打ちをする。

かっこよく颯爽と登場した気になっていたが、こうして相対するだけでも数々の戦場を潜り抜けたハルカですら冷や汗を掻いた。

当然サラもメカタマの中から操縦桿を握る手が僅かに強張っている。

するとユウサは機嫌良さそうに、メカタマでもトサカでも奴隷長でもなく、ハルカを見た。


「ひゃっはっはっは、しかし珍しい~、ひなたちゃんの浦島流か! レアだね~」


その一言にハルカの顔つきが変わった。


「あんた・・・・ひなたばあさんを知っているのかい?」


「まーな、なんつったって、半世紀前までは近衛近右衛門と並んで東洋最強を争ったのが浦島ひなたちゃんだからな~・・・・それに比べたら、お前は未熟もんだがな~」


不快・・・・ハルカの感情はそれ一つに尽きた。


「ふん、悪かったな。あんな超人婆さんと一緒にしないでくれよ。私はただの茶房の経営者だったっていうのに」


寒気のするような威圧感だけでなく、一つ一つのユウサの言葉や表情がハルカには不快でたまらなく感じた。

互いの覇気が無言でぶつかり合う。

この大混乱の中、何故か彼らの周りだけ徐々に空間が出来、人が自然と遠ざかった。

いや、正確にはユウサ一人だ。

まるでここだけ彼のためだけに与えられたスペースのように余裕の笑みでくつろいでいた。


「・・・・待ちな・・・・・」


「ん? どうしたんだ~、クマ子ちゃん? ひゃひゃひゃひゃ、顔が引きつってるぜ~」


「狂い笑いのユウサ・・・・アンタほどの大物が・・・・なんたってこんなバカ祭りに?」


するとユウサは人を小ばかにしたような笑みで首をワザとらしく傾げた。

まるで、むしろ何故そんな質問を? と言っているかのような態度だ。
最終更新:2011年05月13日 20:37
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。