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102-3

「くっ、・・・・・おのれ、流石にやるじゃないかいミルフ!」


「ふう・・・・ヌシこそ相変わらずじゃのう」


お互い全身に生傷を負いながらも、ミルフとディーネの戦いは続いていた。


「ブラッディフラッパー!!」


「破軍の刀鎗(アルカイド・グレイブ)!!」


シモンたちの戦いからすれば、多少の見劣りはするものの、彼らもその異名に恥じぬ武人だった。

二人の交錯する技の応酬は、明らかに千の烏合の集達の中でも抜き出ていた。


「ぐぬぬ・・・これでも決着は着かぬか・・・・」


「へん、いい加減テメエのほうがくたばりなッ!!」


力の拮抗が動かず、中々両者の戦いに終わりが見えない。

メガロメセンブリアの名高い英雄であるミルフと、悪名轟くディーネは、お互い一歩も譲らなかった。


「何故じゃ・・・・・・何故これほどの力を持ちながら正しき道のために使わぬ」


均衡状態の中、ミルフが耐え切れずにその想いをディーネに言う。するとディーネは舌打ちしながら形相を変えた。


「へん・・・・正しいこと~? ウザってえんだよ! じゃあ、聞くがよ~、アンタの言う正しいことってのは18年前の事件も正しいことだって言いてえのか?」


振るうディーネの尻尾の攻撃は、更に力が篭った。

それは・・・・憤怒・・・・


「ぐぬぬぬ・・・・18年前・・・・じゃと?」


「そうさ、あの事件が私を失望させ、アリアドネーも政府も敵になった!!」


ディーネの力強い尻尾を槍で受け止めながら、ミルフは考える。すると一つの答えに行き着いた。


「・・・18年前とは・・・・・・アリカ姫のことか・・・・・」


「ふんッ!」


尻尾と槍の鍔迫り合いから、お互いの武器を弾き、ディーネは舌打ちしながら唾を吐き捨てた。

そして攻撃の手を止め、その場で叫んだ。


「アンタこそ、知ってんだろ? ・・・オスティア崩壊の際に・・・・いや、大戦の時からどれだけ民のため、国のため、あの姫様が尽力を尽くしたかっていうのをな・・・・・・・私は別にオスティア育ちじゃないが良く知ってんだよ・・・・それが災厄の魔女? 冗談じゃねえっての! それがあんたの言う正義かい? アリアドネーもセラスのババアも何も言わねえ! テメエもマンドラもノコノコと政府で働いて、アムグのジジイにいたっては興味も無さそうに、姿を消した! それが私を失望させたんじゃないかい!」


その姿は先ほどまでの邪悪な笑みを浮かべて戦ったディーネではなかった。悔しさに顔を歪ませた一人の女に見えた。


「あの姫様には昔ちょっとだけ借りがあった・・・・・死なれちまったらそれを返すことすら出来やしない・・・・おまけにサウザンドマスターは10年前に息子を作ったとか・・・ナメてるとしか言いようがないね! そんなふざけた平和の象徴なんざブチ壊してやんよ!!」


ディーネはもう一度構えてミルフと向き合う。するとミルフも軽く溜息をついて、少し悲しそうな表情をしながら、槍を構える。


「ワシとて何度も苦悩したわい・・・・その名を呼ぶことすら憚られるようになったアリカ様・・・・じゃが・・・・じゃからこそ、アリカ様の受けた裁きを無駄にはされたくはないのじゃ! ワシが戦うのは政府のためではない! 少しでも平和であろうと願う者達のためじゃ!」


「だから・・・・それが私には耐えられないつってんだよォ! ウゼェんだよミルフ~、今すぐ死にやがれ!」


再び交差する二人の刃。

各々の想いを抱きながら、戦いはまだ終わらない。






「くっそ~、敵が止まらねえ!」


「ミルフ隊長は!?」


「ダメだ、流麗のディーネに捕まってる! 他の連中もマズイ! あの人たちが俺たちの主力だって言うのに!」


ここまで気合で持ち堪えてきたメガロメセンブリアの戦士たちも尽きない相手の戦力を前に、ここに来て徐々に弱音が漏れ始めてきた。


「何を! シモンさんたちが敵の大将を倒せば我々の勝ちですわ!」


「そーだよ! ここで負けるわけにはいかないよ!」


「ですが・・・私たちの魔力もそろそろ限界が近いです」


「・・・・ユエさんの言うとおりです・・・・このままでは・・・・」


何とか堪えるアリアドネーの少女たちも、いい加減に限界が近づいてきた。激しく肩で息をしながら、何とか戦乙女の装剣だけは手放さず、堪えているが、徐々に数に押しつぶされそうになる。



「弱音は許さん! 持ちこたえよ!」



だが、最後まで誇り高く戦おうと、彼らは抗い続けるしかないのだ。



「エマ団長!!」


「捕縛結界弾(グロブス・カブタンス)!!」


飛び出してきたエマが、捕縛用の弾丸を大剣から放出し、群がる者たちの動きを一斉に押さえつける。

戦乙女の輝く鎧は戦いの傷跡を残し、彼女自身も多少の怪我を負っているが、むしろその姿が戦場に舞い降りた戦乙女を髣髴させる美しさを醸し出した。


「ぐげええ!? 戦乙女のエマじゃねえか!?」


「ジギタリの野郎負けたのか!?」


「けっ、怯むんじゃねえよ! 一人二人ぐらい変わらねえよ!」


銀髪の戦乙女の登場に多少怯んだものの彼らは群がってくる。だが、それでもエマはしり込み気味の仲間に向って、剣を掲げながら鼓舞する。


「いいか! ここが正念場だ! 死んでも闘志を折らずに前進せよ!! ここで死するが汝等の正義か!!」


腹を括るしかないようだ。

これが現実である以上、最後まで足掻き続けるしかなさそうである。エミリィたちもミルフの部下たちも、最後まで足掻き続ける覚悟を決めて。エマの後へと続いた。


「堪えますよ、・・・愛衣・・・・」


「はい、・・・・きっと・・・きっとシモンさんが・・・・・」


愛衣も高音も信じている。

学園祭では敵だったが、あの非常識を常識に塗り替える男たちが戦っているのだ。

あの時起こった奇跡を思えば、力が湧き出てくる。

例え魔力がギリギリまでになろうとも、希望と気合で足りないものを補って彼女たちも踏ん張り続ける。

だが、気力のみで動く以上、その気力も切れたら終わりだろう。

今は騙し騙しでやっているが、これが最後まで続くとは思えない。


「おのれ・・・・・何をやっている、シモン!・・・・・・・さっさとケリを着けろ!」


エマが噛み締めながら艦橋を見上げる。

何度も大爆音を起こした艦橋は今どうなっているのか? 

敵は? シモンは? 人質は?

まったく入らない情報に苛立ちながらも、彼女はシモンが勝利を告げる瞬間を待った。





だが・・・・・




現実はどこまでも残酷だった。



「手間・・・・とらせやがって・・・・どうしてくれんだ、おい?」


「ぐっ・・・・・・がはっ・・・・・」


「お陰で祭りが台無しになっちまったじゃねえかよ。全部・・・・テメエの所為だ!!」


シモンの頭を掴みながら、チコ☆タンは言った。


「うぐっ・・・・・シモン・・・・さん・・・・・」


信じられない光景だった。

シモンが虫の息で反撃することも出来ず、チコ☆タンに掴まれていた。


「ウソだ・・・・・アニキが・・・アニキが・・・・」


美空とココネも倒れながら、瞳に映る光景を信じたくなかった。

どんな強敵も突き破ったギガドリルブレイクを真っ向から競り勝ったチコ☆タンの力は、自分たちの想像を遥かに超えた。

その屈強な肉体に大きめの削り取った傷跡が残っているが、勝ったのはチコ☆タンだった。

声も出ない。

夢だと疑いたかった。

しかし美空達の身を襲う痛覚が現実だと告げていた。


「・・・苦労して・・・・我慢までして・・・・ようやくこの日を迎えたってのによお・・・・・無名の野郎が・・・・台無しにしやがって・・・・・」


動かぬシモンに告げるチコ☆タン。対してシモンはその動かぬ体を懸命に動かそうとするが、まるで力が入らない。

ドリルが出ない。


(・・・何でだ・・・・くそ・・・・まだやれる・・・・まだやれるはずなのに・・・・・体が動かねえ・・・・・くそっ、気合が足りない・・・・)


気合が振り絞れない。

粉々に砕かれたギガドリルを最後に、シモンの螺旋力がどうしても湧き上がってこなかった。


「あきらめろ・・・・そう言ってもテメエには無駄みてえだからな・・・・テメエにはさっさと死んでもらうぜ」


「ぐっ、・・・な・・・にを・・・・」


チコ☆タンはシモンを掴みながらずるずると引きずりながら、艦橋の端まで到達してシモンを掴んだ腕を前へ伸ばした。

その下には・・・・大空が広がっている。


「ちょっ・・・なっ、・・・何を・・・・」


「ヤダ・・・・ア、・・・アニキ・・・・」


何をやろうとしているのかは一瞬で分かった。

慌てて立ち上がろうとするが、美空たちは動けない。


「テ、テメエ・・・・・・・ぐっ・・・・くそっ・・・・」


辛うじて動く口だけでもそれしか出ない。

閉じそうになる瞼の隙間からも僅かに睨むことしかできない。

シモンは何も出来なかった。


「地上まで数十秒だ・・・・・せいぜい死の恐怖に怯えて死にやがれ! テメエを粉々に砕いてもいいが、一瞬で終わらすことはガマンならねえ・・・・・安心しろ・・・・テメエのクソ妹やあの女も直ぐに落としてやるよ!」


「ッ!?」


「泣け! 騒げ! 怯えやがれ! そしてミンチになって二度と俺の前に姿を出すんじゃねえ、ザコ野郎!!」


ダメだ・・・

どうすることも出来ない・・・・

正に絶体絶命の大ピンチだ・・・・




そしてこちらもそうである・・・


「くっくっく、おい、生きてるだろ~? 辛うじて生かしてとことん苦しめるのが鬼の美学だからな~」


床を這いずる瀬田を見下ろしながら、ユウサはケタケタと笑う。


「つ・・・・つ・・・・う・・・くっ・・・」


「ふっふっふ、不死身の瀬田と噂をされてるが、所詮はお前も人間だな。老いもすれば、ちゃんと死にそうなツラもしてやがる。どうしてこう、世間は他人に大げさな異名を付けたがるのかね~」


「ふっ・・・・まいったね・・・・どうも・・・・(おまけにこれで手加減か・・・やれやれ・・・・)」


「まあ、骨はあったぜ。魔法も気も使えない人間にしちゃあな」


負け惜しみも言う気になれない圧倒的な力差に瀬田は小さく苦笑するしかなかった。


「くっ、・・・・まずい・・・アイツでも敵わないとはね・・・・」


「ウソだ・・・・パパが手も足も出ないなんて・・・・・」


グレン団の大戦力が予想を上回る力の前に敗れ、絶望が場に押し寄せてきた。






「ママ!」


「バルガス!? 無事だったんだね!」


「ああ、・・・ウルフ王子はぶっとばしたが・・・・・それよりトサカは?」


激しい戦闘で服をボロボロにしながらも駆けつけたバルガスが辺りを見渡すと、トサカだけが居なかった。

そのことに奴隷長も今になって気づき、思わず唇をかみ締める。


「なんてこったい・・・・・この大乱戦だ、はぐれちまったよ・・・・」


バルガスが慌てて周りを見るが、敵がズラリと囲むだけでどうしようもない。

ラオとランも奴隷長に関しても、健在ではあるが、明らかに疲弊しきっている。その目に力がない。


「くそ・・・俺達のほうもピンチだぜ。そろそろ俺も疲れてきた・・・」


「ねえ、シモンとか言うやつは? ザイツェフをまだ倒せないの?」


ランがすがる様に艦橋を見上げるが、どうしてもここからでは戦いの状況が把握できない。

今のシモンとザイツェフの状況を見ることが出来ないのは幸運なのかもしれないが、どちらにしろ彼らも既にいつ負けてもおかしくない状況である。


「くっ、・・・トサカ・・・・・・それに冒険王・・・・どうなったかね・・・メガロやアリアドネー・・・・ヘラスはマンドラ中心にやってるが・・・・だがまずいよ・・・勢いが止まってきたよ・・・・・・・・」


歴戦の戦士でもある奴隷長自身も弱音を吐くものに叱咤するほどの力も無くなってきている。

誰もが快進撃から徐々に足掻きへと移行し、その心にヒビが入っていく。


もはやこれまでか?


誰も口にしない。


しかし一度口にしたら連鎖してしまうほどその言葉は重い。


だが、その言葉が口から出るのも時間の問題だった。
















『ヒトって、いったい何ですか?』


普通真顔で聞くか?

思わずシモンと同じように観客は噴出してしまった。

見るからに世間とはかけ離れたお嬢様は、本当に全くと言っていい程何も知らない、典型的な世間知らずのお嬢様そのものだった。

だが、誰もが馬鹿にしたような冷めた目で彼女を見なかった。

それだけの魅力というのか空気というのか、何か人とは違う何かを見た目だけで感じたからだ。

只言えることはとても可愛くて・・・・


『私はお父様を怒らせてしまいました。私は尋ねたんです。何故私は生まれてきたのかと。その途端お父様は心を閉ざしました』


やっぱりどこか変わっているというところだ。

画面に映るシモンも大グレン団の面々も反応に困って頭を掻いている。無理も無い、こんな変わった女は誰もが初めてだった。


「あれが・・・・・ニアさん? なんか・・・・ヨーコさんとは全然違うタイプよね・・・・」


「「「「「「「うん」」」」」」」」


アスナも同じように頭を掻きながら呟いた言葉に全員が同意した。


ニア・・・・それはシモンがこの世で最も愛した女性。どこまでも、誰よりもシモンを信じ、強い意志を持っていた女性だと思っていたのだが実際はどうだ?


「うう~~~ん、・・・ニアさんってちょっと天然なんかな~?」


「ん? 木乃香? アンタもいい勝負だと思うわよ?」


「しかし・・・・う~む・・・・現時点ではよく分かりませんね」


ある意味もっとも知りたかった人かもしれない。

少なくともシモンに恋をした少女たちにとってはそうだった。未だにシモンが愛を貫くほどの女性はどんな女性だったのかと思えば、ヨーコとは真逆のか弱い少女に見えた。

皆が唸ってニアを見定めようとするが、どうも判断が出来ずに居た。

すると画面に映るダイガンザン・・・改名して大グレンとなった彼らの家が、大きく揺れ始めた。

全員の表情が緊迫した表情になる。それは敵の襲来を意味していた。

皆が慌てて戦闘準備に取り掛かる。

しかしシモンは動かなかった。

今の彼の心は完全に折れたままだったのだから。

それに大グレン団のメンバーも、今のシモンには何も期待していない。彼が何もしようとしなくても構わずにそれぞれのガンメンに乗り込んで、甲板に現れた敵を追い払おう。

      • と思ったら・・・・


『・・・えっ?』


シモンが顔を上げた。

なんと最初に飛び出したのは大グレン団のガンメン部隊ではない。部屋から飛び出して甲板を最初に駆け出したのは・・・


『ニア?』


ニアだった。

敵のガンメンの目前に生身で駆け出すというカミナ並みの自殺行為を彼女はやった。

誰もが慌てて、ただ驚いた。

ようやく目を覚ましたシモンが慌てて駆け出すが、甲板に飛び出したニアは現れたガンメンに対して両手を広げて叫んだ。




『よしなさい! 螺旋王ロージェノムの第一王女ニアの命令です。下がりなさい。私を誰と心得ますか!!』




そんなこと・・・・聞いていなかった。


「・・・・へっ?」


「い、今・・・なんて言ったん?」


「あの・・・僕の聞き間違いでしょうか?」


「い、いえ・・・わ、私も・・・・その・・・」


皆が画面のシモンやヨーコ、大グレン団たちと同じ顔で呆けていた。

今、ニアはなんと言った?

螺旋王の娘?

螺旋王? それはシモンたちを地下へと追いやった獣人たちのボスのことだ。あの、カミナを殺した連中の親玉だ。

その娘がニア?

シモンが最も愛した女性?



「「「「「「「「「「ええええええええーーーーーーーーーッ!!!???」」」」」」」」」」



まったく知らなかった衝撃の事実に誰もが呆然とするしかなかったのだ。

だがそれはつまり・・・・


『お前は螺旋王の娘。つまり俺たちの敵だ』


当然そういうことになる。

大グレン団がニアを尋問するのは自然流れである。


「そ、そうですよ・・・・・・・それじゃあニアさんは・・・・・カミナさんを殺した人たちの・・・・・」


「ど、どうなってのよ・・・・・・何でそんな人をシモンさんは・・・・・」


カミナを殺した親玉の娘だ。


「おいおい・・・あいつはカミナを殺した親玉の娘か? あんなに可愛いのに?」


「どうなってんだよ・・・・・つうかもう、わけが分かんねえ!!」


「何かあるのよ、この女には!」


そうだ・・・・この女には何かがあるのかもしれない。


「おい・・・ちょっと静かに・・・・何かしゃべるぞ・・・・」


大グレン団総勢数十人でニアをグルリと囲み、緊迫した表情で誰もが固唾を呑んでニアの言葉を待つ。


ネギたちも・・・魔法世界の重鎮も・・・いや・・・


世界がニアの言葉を待つ。


しかし・・・・・



『テキって何ですか?』



世界中の視聴者が画面の前で一斉にズッコケた。



『て、敵ってのはよお! ・・・その・・・・ブッ倒す相手だ!!』



ヨロヨロとズッコケた連中が立ち上がって画面をもう一度見る。

すると・・・・



『ブッタオスって何ですか?』



またズッコケた。


『ブッ倒すってのは・・・・こう・・・拳骨で殴ったり・・・』


『ゲンコツって何ですか?』


『拳骨ってのは・・・・よお・・・』


『何故そんなことをするのですか?』


『ム、・・・ムカつくからだ!』


『ムカつくって何ですか?』


とにかく・・・やはり只者ではなかった。

ガンメンかっぱらって勇猛に戦う大グレン団たちも、ニアの前に完敗だったのだ。


「・・・・・ど、どんな国じゃ? 聞いたことも無い王と王女の名じゃが・・・・アリなのか?」


同じ姫として引きつった笑みでテオドラがツッコミを入れた。

会場中も一気に空気が変わり、緊迫かと思った事態は、あまりにもほのぼのとした事態へと変わり、思わず皆が苦笑を漏らした。

中にはニアが可愛いと言っている観客の声も聞こえてきた。


「うわ~~~、なんつうか・・・・凄いわね~、ニアさんって・・・・」


「う~む、予想外でござるな。シモン殿はああいう女性が好みなのでござるか?」


「僕も驚きました・・・・とにかくスゴイ人ではあるみたいですね・・・・」


思わず苦笑するしかないネギたち。しかしここで皆はまだ気づいていなかった。

形はどうあれ、苦笑とはいえ、カミナの死から重かった空気の中、ようやく皆が笑みを浮かべたのだった。



だが・・・、その苦笑も一瞬で変わる。

今は誰もがソッとしておくことしか出来ないシモンに向って、ニアは何も知らずに尋ねてしまった。


『シモン・・・アニキっていったい誰ですか?』


その話題だけは聞いてはならないと、誰もがまずそうな表情で顔をしかめた。

するとシモンは不貞腐れながら、カミナのことを語り始めた。


『アニキは、憎しみで戦っていたのとは違う気がする。うまく言えないけど、アニキはどんなに大変な目にあったっていつも笑ってた。俺が戦えたのは、アニキがいたからだ。俺を信じてくれる、アニキがいたからだ』


カミナを語ろうと思っても直ぐには語りつくせない。


『ヨーコと会うずっと前・・・ジーハ村からアニキと逃げ出そうとしたとき、穴を掘っていたら地震が起きて閉じ込められた・・・・怖かった・・・俺も父さんや母さんのように、死ぬんだって・・・そう思った・・・でもアニキは違った。笑いながら言った。前に進めって。その声を聞いたら・・・・震えが止まった・・・・そして・・・あきらめずに掘り続けて・・・俺は助かったんだ』


しかしシモンは語る。

ニアは一言一言を真剣に、一緒に居るヨーコも切なそうにシモンの言葉を聞く。

だがいつしか・・・・


『アニキが最後まであきらめなかったから、俺は頑張れたんだ』


それはカミナのことを話すというより、まるでシモンは自分自身を責めているように聞こえてきた。


『アニキのおかげだよ。いつもそうだったんだ。アニキがいなきゃ俺はなんにもできないんだ』


誰かが違うと言ってやりたかった。

自身を責めるシモンに違うと言ってあげたかった。だが、誰もが言うことは出来ずに痛々しいシモンの姿に再び目を背けそうになった。


『だから俺が、アニキのぶんもアニキになって、アニキをやんなきゃいけないんだ』


ヨーコも何も言わない。

いや、彼女自身も言えないのだ。彼女自身もまだ自分自身で精一杯だったのだ。

だが、そんな中、誰もが違うと言えない中で一人の少女はアッサリとその言葉を言った。



『それは違います』



ニアだった。


『シモンは一人でも私を助けてくれたではないですか。シモンは一人でも大丈夫です。何故そんなにアニキというヒトにこだわるのですか?』


言ってしまった。

よりにもよって、カミナのことを何も知らないニアが当たり前のことのようにシモンに告げた。


『いない人を知ることはできません。でもシモンだって、いない人に頼ることはできないはずです』


まるで他人事のように、しかしそれが真実だからこそ・・・シモンは余計につらかった。

だからこそヨーコが激怒した。

ここまで怒ったヨーコを見たのは初めてだ。

それほど彼女はニアの言葉にガマンならなかったのだ。

カミナのことを何も知らないニアに、シモンの気持ちが分かるはずはないと。

だが、ニアは引かない。


『アニキさんのことを知らなくてもシモンのことはわかります。シモンは何もできないヒトじゃない。なのに、いつまでもいないヒトにこだわっていては・・・・・』


誰だってそんなことは分かっている。

ヨーコだって、シモンだって本心では分かっている。

カミナは死んだのだ。もう二度と帰ってこないし、頼ることなど出来ないことは分かっている。

だが、それほど人の心は簡単ではない。

だからこそ、簡単に忘れられるはずはないのだと叫ぶしかなかった。


「ヨーコさん・・・・」


初めて見せたヨーコの弱音をネギは切なそうに眺める。

皆同じだ。

結局どちらも間違っているとは言えないのだ。

ニアの言っていることは正しい。

しかしヨーコとシモンの気持ちはどうだ? そんなに簡単に割り切ることが出来たら、誰だって涙を流すことは無い。

そう、それが「人」なのかもしれない。

だが、何も知らなかったニアはこの瞬間いろいろ知った。だからこそもっと知りたいと思ったのだ。



シモンを、シモンたちを・・・そして人間をもっと知りたいと・・・



そんな決意の表情をしていた。










そして・・・・遠く離れた空の向こうでは、最悪の決着がつこうとしていた。


「テメエが誰だか聞いてなかったが・・・・・・・まあ、どうでもいい。せいぜいデケー叫び声で死んでくれよなア!!」



「うぐっ・・・・ぐっ・・・・・・・」


誰にもどうすることも出来ないまま、その瞬間は近づいていく。

シモンは動けない。

シャークティも、美空もココネも立ち上がることが出来ない。

瀬田たちも・・・・

奴隷長たちも・・・・

アリアドネーも・・・・

へラスも・・・・

メガロメセンブリアも・・・・

そして仲間たちも敵の前に追い詰められていく。

誰にもどうすることは出来ない。

正義の味方も英雄も現れない。

そう・・・これが・・・敗北・・・・


「これで終わりだ!! テメエらの負けだ!!」


チコ☆タンはシモンに告げるが、シモンは口も動かせず、只悔しそうに顔を歪める。


      • こんなものではない。


自分はこの程度ではないと心の中で叫びながら顔を歪ませるが、もうどうしようもない。


そう・・・・これが・・・敗北・・・・・だが・・・・



「ふざけんじゃねえぞ・・・・あの野郎・・・・」



だが・・・・まだ終わってはいなかった。



「あのバカ野郎・・・・・・・・何やってやがんだよ・・・・クソッタレが・・・テメエは・・・こんなもんじゃねえだろうが・・・」



この局面を変えるキッカケをこの男が作った。


決して主役になれなかった男が・・・・・


英雄にもなれないはずだった男が・・・・


地べたを這いずって穴の中に篭った男が・・・・


殻を破って穴の外へと飛び出すのである。


この男が絶望の中で動き出し、この戦場を大きく変えるのである。


そのことを、まだ誰も知らなかった。
最終更新:2011年05月13日 20:41
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