第百三話 俺を誰だと思っている! 投稿者:兄貴 投稿日:09/11/25-21:41 No.4217
誰もが最早彼に見切りをつけていた。
『ダメだよ・・・俺は・・・アニキにはなれない・・・・』
ネギたちですら知らず、見たこともないシモンの表情。
どこまでも虚ろで、身動きせずに目の焦点も定まっていないまま、シモンは部屋に閉じこもっていた。
ずっと一緒に居たブータにすらもはや心を開かない。
『あいつは、もうダメだろ』
時折周りから、シモンに対してあきらめた声が聞こえてくる。だが、シモンはその言葉にくらいつくこともしない。そんな気力もない。
『自分の面倒を見れない奴に居場所なんかないのよ』
ヨーコがきびしい口調で、そして彼女の言葉の中にもあきらめが含まれていた。
彼女自身も自分自身の問題から立ち直ったとは言えない。だからこそ、シモンに対しても深く干渉することが出来なかった。
そんなシモンの部屋の扉が開く。
誰もが立ち寄ろうとしない薄暗く、泥でカミナの人形を無心で掘っている、見るに耐えないシモンの部屋にだ。
だが、シモンはふり返らない。
誰が来ても興味がなかったからだ。
だが、入ってきた人物は直ぐに踵を返して部屋の外に出るかと思いきや、ゆっくりとシモンに近づき、腰を下ろしてきた。
その時、部屋の中で土塗れになっているシモンに、とてもやさしく心地よい香がした。
『この人がアニキなんですね?』
腰を下ろしたニアがシモンに尋ねると、シモンはゴーグルを掛けたまま、ドリルを回す手は止めずに、ニアに関心を示さず短く頷いた。
人から見たら変な・・・いや、異常な光景だろう。
男が土や石を薄暗い部屋で削って死んだ男の人形を作っているのだ。
変だ。
気持ち悪い。
そんな評価は当たり前のはず。
シモンだって自分をそう思っているし、今更構うことはない。・・・・・・しかし・・・・
『すごく上手・・・・』
ニアはお世辞でも何でもない、本心の言葉を、人形を手に取りながら告げた。これがシモンのアニキなんだと、ニヤリと笑うカミナの人形に微笑み返した。
ニアはシモンを軽蔑していない。
むしろシモンの大好きなものを形に残してくれて、自分でもカミナの事を知ることが出来ることにとてもうれしそうに、そして間近で見ればドリル一つでここまで見事な造形を作る、シモンの職人技にも目を輝かせ・・・・
『もう、少しここで見ていていい?』
同情でもなく、シモンの傍に居るのだった。
ニアは知識が豊富ではない。
世間知らずなお嬢様として、そして人間と関わりのない生活をしてきたのだ。
螺旋王がどうしてニアをそういうふうに育てたかは知らないが、だからこそニアはウソを決してつかず、思ったことをハッキリと言う。
だからこそヨーコをイラつかせる時などあった、しかしそれが彼女の他人を寄付ける魅力でもあった。
僅か一日で、彼女は螺旋王の娘でありながら、大グレン団の仲間として迎えられていた。
そんな彼女のシモンへの微笑みは安い同情などは混じっていない。だからシモンも少しだけ心地よく、ドリルを部屋で回していた。
痛々しく見るに耐えない光景が、切なさは変わらないが自然と温かい光景へと変わった。
気づけば皆もシモンとニアの並んだ光景を見ていた。
そう、ニアの凄さは場の空気を一瞬で変えてしまうことなのかもしれない。それが天然で出来るからこそ、彼女は凄いのかもしれない。
只の可愛くて世間知らずのお姫様というイメージが、ネギたちの中でも少し変わっていった。
何とも心の温かい人なんだと認識を改めていた。
だが、その温かい光景も直ぐに一変する。
『!?』
それは突然のことだった。
ずっと部屋に篭っていたシモンとニアには直ぐに異変に気づくことは出来なかった。
『動くなっ!!』
突如、シモンの部屋の扉が乱暴に蹴破られ、武装した獣人が侵入してきた。
咄嗟に立ち上がったシモンだが、獣人は容赦なく武器を乱射させ、シモンとニアは伏せて交わすことが出来たが、これまで作った石の人形が全て粉々にされた。
『あっ・・・うわ・・・あああ・・・・』
それだけで完全にシモンは腰を抜かしてしまった。
完全に相手の威嚇に恐怖し、怯えてしまった。
そんな中、獣人がシモンではなくニアを見る。どうやら敵の目的はニアのようだ。
敵は武器で威嚇しながらニアについてくるように命令する。
するとニアはなんと言った?
『分かりました。だからこの人には手を出さないで』
一切の怯えを表情に出さずに、シモンを庇ったのだ。
その時、シモンが勇気を振り絞って立ち上がろうとするが、相手の武器に押さえられ身動きが出来ない。
するとニアは敵に連れられて部屋から出て行くとき、ふり返ってシモンに微笑んだ。
『シモン・・・・シモンはアニキじゃない。シモンはシモンでいいと思います』
シモンは必死でニアに手を伸ばすが届かない。その瞬間、シモンは獣人に無理やり捕まれ、抵抗も出来ないまま連行される。
連行された場所は地下深く巨大で頑丈そうな扉で固く閉められている。
そこには、既に手錠を嵌められているヨーコや仲間たちが捕らえられていた。
自由を求めて地上へ飛び出した大グレン団が、再び地下深くへと戻された瞬間である。
だが、牢獄の中でも彼らは必死に抗おうとする。
『地下育ちの俺たちをナメんじゃねえ!!』
キタンを中心に、多くの大グレン団のメンバーが、閉じ込められた広い牢獄の中を手当たり次第に殴り、蹴り、掘り、ぶつかっては、噛み付き、そこから脱出しようと試みた。
だが、牢獄の壁は大グレン団の予想を遥かに超えるほど頑強である。
それでも彼らはあきらめず、大グレン団総勢、素手で壁に穴を空けようと挑戦し続ける。
しかし・・・
『な、なんて硬い岩盤なの!?』
怪我人が増えるだけで何も意味を成さなかった。
あきらめずに壁にぶつかっていった大グレン団たちは、壁に僅かな穴すら開けられずに、僅か数分で体の節々を襲う痛みに叫んでいた。
もはや打つ手は無しだ。
誰もが壁に穴を空けようとするのを止め、顔を俯かせている。
これで自分たちは終わりなのかと、その表情に希望はない。
ヨーコも悔しそうに壁を殴って俯いた。
そう、彼女ももうどうしようもないのだと、半分諦めていたのだ。
だが・・・・
誰もが意気消沈してやがて沈黙が訪れようかという時に・・・
何かが削れる音が・・・何かを掘る音が聞こえた。
『えっ?』
ヨーコは不思議そうに音のするほうへ視線を向ける。
するとそこには、壁に向って座り、汚れたその手にコアドリルを握り、壁を掘り続けるシモンの背中がそこにあった。
黙々と・・・
無言で掘り続けるシモンの真下の床には徐々に小さな砂粒の破片が溜まっていく。
目を凝らすと、シモンの掘り続ける壁は窪みになり、あれだけヨーコたちが殴っても傷一つつかなかった壁に穴が出来ていた。
「・・・・・・・・シモンさん?」
ただ見つめた。
「シモンさん・・・・・」
「・・・・シモン・・・・・・」
「アイツ・・・・・・・・・」
その後姿を、皆は呆けるように見つめた。
彼らだけではない、大グレン団たちもシモンに注目している。
『そうゆうことか・・・・・・』
シモンの後姿に、ヨーコはポツリと呟いた。
『前にカミナが言っていた・・・・・いつも俺を救ってくれるのはあいつだ。最後まであきらめないのは、あいつなんだって・・・・』
その言葉を誰もが信じられなかった。
『カミナがッ!?』
シモンが? カミナを救う? そんなことがあるのかと、皆が疑問を浮かべる。
「シモンさんが・・・・・・カミナさんを・・・・」
「いつだって?」
しかしそれは・・・・事実だった。
ヨーコもそのことを正に今知った瞬間だった。
『アイツがシモンと一緒に村から飛び出そうとした時、穴を掘っている途中に地震で閉じ込められた時があったの・・・』
それは・・・どこかで聞いたことがあった。
「あれ?」
「ねっ、ねえ・・・それって・・・・」
そうだ、シモンがニアとヨーコに話したカミナとの思い出だ。
あきらめそうになった時、最後まであきらめなかったカミナが居たからこそ自分たちは助かったのだとシモンは言っていた。
しかし・・・
『あいつ・・・自信はなかったって・・・間違った方向に来てると思って焦ったんだって・・・・前へ進めって皆に言ったけど・・・正直強がりだったんだって・・・・』
それは・・・シモンの知らないカミナの本当の気持ちだった。
『みんな弱音をはいて穴を掘るのをやめたんだって・・・でも、シモンは黙々と掘りつづけた。アイツの強がりを支えてくれた。最後には大岩を砕いて村に帰れたそうよ。そう・・・・運がよかったのよ・・・二人とも・・・でも・・・』
ヨーコは短く切って、もう一度、黙々と穴を掘るシモンの背中を見る。
カミナが見て、信じて、そして救った男の背中だ。
『カミナはその運と、それを導きだしてくれたシモンを信じた。・・・弱気になりそうになったとき・・・自信が無くなりそうになった時・・・コツコツと穴を掘るシモンの背中を思い出す・・・あの背中に笑われない男になる・・・・カミナは・・・そう思っていたそうよ?』
ヨーコの言葉を聞いて、誰もが今のシモンの背中を見る。
ヨーコの話を信じるのなら・・・・今のシモンの背中・・・・それがカミナを救ったシモンの背中だ。
今、自分たちがもっとも見なければならない背中だ。
気づけばシモンの足元には先ほどの何倍もの砂粒が山を作り、穴は比べ物にならないほど大きくなっていく。
その小さな背中が・・・誰もがあきらめていた壁に徐々に穴を空けていく。絶望に風穴開けていく。
その時、シモンはようやく自分が誰なのかを思い出していく。
『お前が信じる・・・お前を信じろ!』
穴の中で力強く言うシモン。
その時、シモンの持っているコアドリルが光り輝き、そのドリルはとんでもないものを掘り当てたのだ。
「うぐっ・・・・ぐ・・・・・」
チコ☆タンは腕を伸ばして苦痛に喘ぐシモンを睨みつける。
「見やがれこの光景! クソミソ共が挙って押しつぶされる光景をよォ! テメエの仲間も妹も、全員ブチ殺して空から捨ててやる!! その後でようやくオスティアを打ち落とす! 分かるか? テメエには何にも救えねえ!」
絶望を見ろ。
チコ☆タンはそう叫んでいた。
しかしそれでもシモンはようやく僅かに腕を動かして、自分の胸倉を掴むチコ☆タンの腕を掴んだ。
強がりでもない。まだ、あきらめていない。
「俺の・・・い、・・・もうと・・・・返し・・・やが・・・れ」
その言葉にチコ☆タンの頭に血管が浮かび上がった。
「アアッ!! テメエの直ぐ後に落としてやるよォ!! あの世で再会しやがれ!!!」
「ふっ・・・ざ・・・けっ・・・・」
力が入らない。
強がりでも何でもいい。
何をやっている。
こんなところで死んでいる場合ではない!
シモンは何度も頭の中で叫ぶが、その声は届かない。
「アバヨ!! このクソッタレ野郎がアア!!」
そして想いは届かず・・・・・
チコ☆タンはシモンを掴んだ手を離し・・・・
チコ☆タンはどこまでも広がる雲海へ、・・・地上へ・・・・天の上からシモンを落とした。
「―――あっ」
「「アアッ!!??」」
もう・・・・その声は・・・・
「「あ・・・・・兄貴ィーーーーーー!!??」」
届くことはない。
彼の家族は只・・・・無常に投げ捨てられた兄へ向って、涙を流しながら叫んだ。
「ガァッハッハッハッハ! どうだ! テメエらのクソ兄貴とやらをぶっ殺してやったぜッ!!」
魔人が笑う。
その瞬間、シモンの・・・・
いや、新生大グレン団の敗北が・・・・・
決まった・・・・・・・
「くそ・・・くそ・・・・待ってるんだ・・・あいつらが・・・・あいつらが俺を・・・待ってるんだ! なのに・・・俺は・・・俺は・・・何を!」
投げ捨てられ、地上へと真っ逆さまに落ちる中、シモンは叫んだ。
体を宙で必死にバタつかせながら、自分は一体何をやっているんだと叫んだ。
「待っているんだ!! ・・・なのに・・・俺は・・・・・」
まるでスローモーションだ。
自分が落ちるのをゆっくり感じた。
その間にシモンは己の不甲斐なさに叫ぶことしか出来ない。
(俺は・・・・・一体何なんだ・・・・・誰も・・・・また、助けられないのか!?)
涙も直ぐに飛んでしまう速度で、空からシモンが落下していく。
(また・・・また俺は助けられないのかッ!?)
しかし・・・その時・・・・
(・・・・・また?・・・・)
不意に何かを思い出した。
(また? ・・・・いつだ? ・・・・・俺は・・・・・いつ助けられなかった? ・・・・誰を?)
何かが急に頭の中を包んだ。
高速で落ちるシモンだが、体感速度は非常にゆっくりに感じる。
そうだ・・・何かが頭の中で靄が掛かっている。
それがこの絶体絶命のシモンに変化を与えた。
(そうだ・・・俺はいつも助けられた・・・・だから俺は・・・なれないんだ・・・アニキに・・・・・・・・・・アニキ?)
そう、それはシモンにとっては大切な・・・
(えっ? ・・・・アニキになれないって・・・・何言ってるんだ? えっ? だって俺は・・・・アニキじゃなくて・・・・・)
その時、風になびかされた胸元のコアドリルと、指輪がシモンの視界に入った。
その瞬間、何か、大切な言葉を思い出した。
―――シモンはアニキじゃない。シモンはシモンでいいと思います
そうだ・・・自分は・・・・
(俺はシモン・・・・・・・・じゃあ・・・・俺は・・・・・誰だ? ここに居る俺は一体誰なんだ?)
シモンはシモンだ。
それは変わらない。
しかし分からない。
思い出せない。
シモンとは一体誰なのかを。
「ッ!?」
その時、ようやくシモンは正気に戻った。
艦橋から落とされた自分の体が、落下し、甲板の横を通り過ぎようとする。
シモンは必死に手を伸ばす。
ここで掴まなければ、死んでしまうからだ。
だが、シモンの手は無情にもケルベロスの機体には届かず、シモンは落下する・・・・・・
「何やってやがる、クソ野郎!!!!」
力強く、自分の伸ばした手を掴んでくれた人物が居た。
その男はシモンが伸ばした手をギリギリで掴みとって、シモンを助けた。
その人物は・・・・
「テメエが始めた戦いで、テメエが先に脱落してんじゃねえよ!!」
シモンは自分を掴んで叫ぶ男を見上げる。
その男はトサカだ。
ケルベロスの甲板から身を乗り出して、あと一瞬遅れていたらシモンは落ちていたという、正に間一髪のところでシモンを掴んだ。
「トサカッ!?」
「うるせええ!!」
トサカは掴んだシモンの腕を力づくで引き上げて、シモンを勢いよく甲板へと投げる。その時、シモンは背中を強く打ち付けた。
今の体にはこれもツライ。
礼を言う間もなく背中の痛みで顔を歪めるシモンに、トサカは間髪いれずに胸倉を掴んだ。
「何をやってんのかって、聞いてんだよ! テメエは何だ? こんなアッサリ死ぬ普通の役が、今更許されると思ってのかア!?」
「ト、・・・・トサ・・・・」
問答無用で怒鳴りつけ、シモンの頭を揺らしながら、とうとうトサカはその拳を握り締め、大きく振りかぶった。
その時・・・・・
「えっ?」
その姿が誰かと重なった。
―――シモォォン!!
「クソッタレ野郎がアア!!」
何時の日か・・・弱い自分をこうやって殴ってきた人が・・・・・
―――歯ァ・・・
「歯ァ・・・・」
自分を・・・・・
「食いしばれええええ!!」
奮い立たせてくれた!!
「ッ!?」
トサカの拳は痛かった・・・・
拳闘士でもあるトサカの拳の威力はシモンの予想を遥かに超え、自身の体を二転三転させた。
トサカの熱く握り締められた拳はシモンの芯まで響き・・・・・
その痛みは、一瞬でシモンを意識の海へ投げ飛ばし・・・・・
「あっ・・・・あっ・・・・」
そして一瞬で・・・
―――いいかシモン・・・・忘れるな・・・・
「・・・・あっ・・・・・」
―――お前を信じろ! 俺が信じるお前でもない、お前が信じる俺でもない、お前が信じる―――
「・・・俺が信じる・・・・・・俺を・・・・」
―――シモンがアニキさんを信じたように、私もシモンを信じます!
「!?」
――シモンを信じる力がシモンの力になるのなら、私はあなたを信じます! 全力であなたを信じます!
「俺は・・・・・」
――そうだな、それがグレン団のやり方だぜ、リーダー!
「そうだ・・・俺は・・・・」
――俺・・・どこまで行けた?
――シモン・・・絶対に・・・ニアを!
――シモン、待っている女を泣かせるんじゃないぞ!
――貸しだ貸しだーー!
――そうだ貸しだー! すぐ返せ!
――かあちゃんの船に手を出させるものか!
「・・・・・・みんな・・・・・・」
――シモオオオオン!! 受け取れええ!!
「・・・お・・・俺は・・・・・」
――そう。人間にだって、もっともっと大きな奴が居たわ! その人のためにも私たちは前に進む!
――人の心の大きさは無限。その大きさに私は賭けた!
「俺は・・・・・俺は!?」
―――シモンさんッ!!
「俺はッ!」
―――私は、あなたを・・・グレン団を誇りに思います
―――兄貴、いってらっしゃい!
―――アニキ・・・・
―――楽しかったです!! また会いましょう!!
―――必ず帰って来い! お前の世界を破壊されたくなければな?
―――ウチ・・・シモンさんのこと本気で好きや!
―――好きです!
―――ありがとうございます。・・・受け取りました、十倍返し。・・・また明日から・・・気合を入れ直してがんばります
―――シモンさん! 私は逃げずに明日に立ち向かうヨ! でも、私もサヨナラは言わないヨ! いつの日か・・・いつかまた・・・
「そうだ・・・・俺はッ!!」
―――三度目は次に持ち越しだ・・・それじゃあシモン、また会おう
今までたまりに溜まったものが溢れ出す。
―――行って来い、ハダカザル!!
正直頭が痛い。
―――行けよ、兄弟!!
だが・・・・悪い気はしなかった。
―――愛してるわ、シモン
この痛み・・・このくらい・・・・いくらでも受け入れるつもりである。
「何ボケッとしてやがるんだよ! さっさと目ェ覚ましやがれッ!」
呆けるシモンにトサカが胸倉を掴んで無理やり起こす。
「俺のムカつくテメエは・・・・ムカつくことに、こんな状況をひっくり返す野郎なんだろうが! だったら最後までムカつくところを見せやがれェ!!」
「・・・トサカ・・・俺は・・・」
「根性見せろ! 気合入れろ! 俺にはできねえことをやるのが、テメエなんだろうがッ!!」
そう、その通りだ。
―――お前が信じる・・・
「・・・お前を信じろ!」
そういうことだ。もう、十分だった。
迷子になるのはこれで十分だった。
するとどうだ?
この絶対的ピンチで、とことん追い込まれているこの状況でどうだ?
湧き上がってくる・・・
後からどんどん湧き上がる想いを抑えきれず、シモンは殴られた頬の痛みに懐かしさを感じながら笑った。
「トサカ・・・効いたぜ・・・目ェ覚めた・・・これ以上ないぐらいハッキリと・・・・」
「あっ・・・ああ~? テメエ、頭打ったのか? 何笑ってやがる?」
「ああ、打った!! ・・・・全てを思い出せるほどにな!!」
「?」
トサカは怪訝な顔をするが、彼は分かっていない。
今、自分がどれほどすごいことをやってのけたのかを理解していない。
「大分・・・状況が悪くなってきたな・・・・」
シモンが甲板を見渡して、追い込まれていく仲間たちを見渡す。
「逃げ場も無い・・・全滅寸前・・・・正直絶体絶命だな・・・・」
「お、おい・・・テメエ何を・・・「でもっ!」 ・・・・あん?」
シモンはニヤッと笑って・・・
「でも・・・こうゆう絶対的なピンチを何とかするのが、俺たちグレン団だ!!」
その言葉は、トサカにはいつものシモンのメチャクチャな言葉に聞こえなかった。
まるで自信と経験に裏打ちされた力強い言葉に聞こえた。
そしてシモンは歩き出す。
「お、おいテメエ・・・怪我が・・・・」
そしてシモンは艦橋を見上げてニヤリと笑う。
胸元の指輪とコアドリルを指で弾いて、みるみると漲ってきた。高ぶってきた。
「問題ない・・・・それに・・・・あの化物に教えてやらないとな」
「・・・何をだ?」
何を? 決まっている。
「ここに誰がいるかをな!!」
傷だらけのシモンに気合が戻った。怪我も疲労もお構い無しに螺旋力が漲っている。
当たり前だ。この状況で漲らなければどうするというのだ。
シモンの手には、力強く輝くドリルが出現した。
そしてシモンは走り出す。
大切なものを取り戻した今、大事なものを奪い返すために。
「トサカ、ありがとなァ!!」
「うるせえ! さっさと行きやがれェ!」
最終更新:2011年05月13日 20:42