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104-2

「くそ・・・クソ・・・・グゾがァァ・・・・・・・」


「はあ・・・・はあ・・・・やるじゃないか・・・・」


お互い一歩も譲らず向かい合うシモンとチコ☆タン。

チコ☆タンはこの状況に胸の怒りが収まらないで居た。


「クソ・・・クソッ・・・クソガァ・・・・ムカつくぜ・・・ムカつくんだよッ!!」


何度も何度も立ち上がり、自分を信じきった自信に満ち溢れたシモンを見るたびに、チコ☆タンは脳裏に浮かぶ誰かに苛立ちを隠せないで居た。


「クソ・・・ムカつきやがる・・・・その目・・・・似てやがる・・・・あいつ等に・・」


「ん?」


「クソ野郎・・・・」


シモンには分からないことだ。関係のないことだ。

しかしチコ☆タンは脳裏に浮かぶ人物と、目の前に居るシモンを重ねた。

遥か昔に、自分を打ち倒した、思い出すことも癇に障る男と、シモンを重ねてしまった。



(あの男たちと・・・・あの男と同じような目をして・・・・それで・・・・)



―――へへ・・・テメエ強えじゃねえか・・・・流石は魔人ってだけありやがるな。無敵の俺を相手にここまでやるとはな・・・・



「・・・サウザンド・・・・・・」



――テメエはしばらくオスティアの監獄で反省してろ。でも・・・反省して出所したら、また喧嘩しようぜ!



「サウザンドマスター・・・・・・・」



        • それが無敵の魔法使いを見た最後だった。


正直監獄の中に捕らえられたチコ☆タンは、外の世界に興味を無くした。


紅き翼や各国の連合、黄昏の姫御子、そして完全なる世界。


牢獄に居るだけで情報が何故か色々と入ってきたが、ほとんど興味も無かった。


サウザンドマスターとの戦いで、深く傷ついた体もあったが、脱獄する気も失せていた。


そんな中、サウザンドマスターが世界の破滅を救い、英雄となったという情報が入った。


薄暗い監獄の奥底まで聞こえるほどの市民の大歓声だ。


祝辞を述べる気にはならない。しかし、自分を倒した者が世界最強というのは、少しだけ心が安らいだ。




だが、救われたはずの世界に崩壊が突然訪れたのだ。




『な・・・なんだァ!? どうなってんだゴラアア!! この揺れは何だァ!?』


――オスティア崩壊




全ての悲劇の始まりだった。


戦争も終わり、ついこの間まで大歓声と平和の喜びの声が監獄の奥底まで聞こえたというのに、再び人々の悲鳴が世界に響き渡った。



『ちっ・・・看守の野郎共も逃げやがって・・・・』



チコ☆タンは強固な監獄の中、四肢を厳重に繋がれ身動きが取れなかった。


騒いでも誰の声も返ってこない。どうやら、看守も全員逃げ出したようだ。


いや、超危険な魔人を檻から解放するなど、どちらにせよありえない話だ。



『クソがァ・・・・ここまでか・・・・・』



死を受け入れた。


あれだけ大暴れをして、非常に短気なチコ☆タンにしてはやけに素直な最後だった。


だが、構わなかった。唯一の心残りといえば、せいぜいサウザンドマスターに雪辱できないことぐらいだった。


彼は小さく舌打ちをして、崩落してくる建物の瓦礫の中、目を瞑り、死を受け入れた。



しかし・・・



『無事か!? 今開放してやる!』



気づかなかった。


自分の囚われた監獄を開け、自分の四肢に巻かれた枷を断ち切り、自分を自由にしようとする女が目の前に現れた。



『テ、テメエは!? ど・・・・・どういうことだコラァ!』



地獄に女神とはこのことかもしれない。


なんと死を目前にした魔人を救うために、一人の女が危険を顧みずに崩壊する監獄の中に現れたのだ。


だが、その女神の行動をチコ☆タンは当然受け入れられなかった。


しかし、女神は厳しい口調で、少し疲弊した表情でチコ☆タンに告げた。



『別にどうもせん・・・ただ頼むだけじゃ・・・・生きよ』



『アア゛?』



『モタモタするでない! 妾は直ぐに行かねばならん! 貴様もさっさと逃げよ!』



彼女はチコ☆タンを自由にし、そして彼ならばこの崩壊する建物の中でも、自由になれば生きられると判断し、直ぐに背を向け走り出した。



『ま・・・・待ちやがれ!!』



その背中をチコ☆タンは思わず止めてしまった。

神々しいオーラを放っていた女かと思いきや、懸命に走り回るその姿は普通の女にしか見えなかった。



『なんじゃ!? 妾はこれより、貧民外に赴かねばならぬ! 貴様とこうして会話をしている間にも、島が崩落してしまうかも知れぬ!』



女はチコ☆タンの言葉に振り返り、焦った表情で聞き返した


それほど状況が切羽詰っているのだ。


それが一瞬で理解できる。


しかし、だからこそ目の前の女がやった事をチコ☆タンは理解できなかった。



『だったら・・・・何故助けた・・・・・罪を犯したクソどもを逃がすぐらいなら、ハナから見捨てたらよかっただろうがァ!!』



するとどうだ? 


目の前の女は震えだした。


そしてギリギリと唇をかみ締めながら、その怒りを口から吐き出した。



『バカ者ッ!!!』



『なッ!? バ、バカだと・・・この・・俺に向かってこのクソ女がァァァ!!』



『貴様なぞバカで十分じゃ!! 先ほど助けた流麗もそうであったが・・・・何故そんなことを言う! 捨ててよい命なぞ何も無い! 市民も! 貧民も! 犯罪者も! 魔人も同じじゃ! この国に居る以上、捨てよい命なぞ・・・・選ぶ命なぞ無い!! 全てを救って見せる!』



『ア・・・アア゛?』



『・・・・・頼む・・・生きるのだ・・・これ以上・・・・これ以上、悲しみを増やすな!!』



チコ☆タンは以前一度だけ、遠目からだが、目の前の女を見たことがある。


威厳に満ちて、近寄りがたい空気を醸し出す王家の血筋。その冷たい表情と、人を見下したような目が気に食わないと思ったことがあった。


しかし今目の前に居る女は何だ?


高価なドレスを汚し、その美しい指先は、あかぎれだらけで汚れ、一人でも多くの命を救おうと必死に駆け回り、魔人に「生きろ」と告げるこの女は一体何なんだ?



『お、俺は・・・・この世界を破壊するぞォ! 改心なんざクソ食らえだッ!! 今ブチ殺さなければ後悔すんぞォ!! その時は、テメエは俺を脱獄させた大犯罪者だ! テメエも終わりだ!!』



この女は何だ?


チコ☆タンの皮肉に、小さく笑みを浮かべた。


だが、女は少し俯きながら・・・・



『そうか・・・・じゃが・・・・妾が罰せられるのは・・・・もっと早いかもしれぬがな・・・』



『な、・・・なにィ?』



その表情から読み取れたのは、・・・寂しさ。


だが、直ぐに表情を元に戻し、鋭い瞳でチコ☆タンを射抜いた。



『ふん、問題など無い。・・・その時は・・・・無敵を誇るあのバカが・・・妾の騎士が・・・もう一度貴様を捕らえよう!』



それが生で彼女を見た最後の姿だった。



『さらばじゃ、勇猛なる魔人よ!』



最後に自身に満ちた表情で告げた言葉に、女の強さを垣間見た。


その背中を見送りながらチコ☆タンはギリギリのところで王都の監獄から脱出し、外界へと逃げ出すことができた。


崩落する島々を眺めながら、千塔の都と称えられた、空中王都オスティアの最後を見届けたのだった。


結局この歴史に残る大事件の犠牲者数は全人口の3パーセント以下と奇跡的な数値だそうだ。


もっとも魔人を一つの命として助けるほどの女が、その数値で納得するはずは無いのだが、救われた命が多いというのは確かなようだ。


その事実を知り、どういうわけか自由になってもチコ☆タンは暴れる気にはならなかった。


別に改心したわけではない。しかしどういうわけか、自分の力の源でもある怒りが湧き上がらず、ただ普通に暮らしていた。


強力な魔力を封印し、名前も変えて、堅気とは言えないが就職活動の末、賞金稼ぎ結社に入った。


不安定な自分自身を押さえ込み、新たに生まれ変わった気がした。



だが、その2年後・・・・・



何も知らないチコ☆タンに・・・いや、チコ☆タン改めザイツェフに衝撃のニュースが舞い込んだ。



『なんだとォ!? あの女が処刑だとォ!? どういうことだ!?』



『落ち着けザイツフ・・・・・仕方ねえことだ。あの女には様々な罪状がある。戦争責任者だそうだ』



『バ、バカ言ってんじゃねえ・・・・あの姫は泥だらけになって人を救う大ばか者だぞ?』



『そんなもの関係ないんだよ。まあ、俺らには関係ないが・・・・役人には役人の事情があるんじゃねえか?』



それは、魔法世界全土に衝撃をもたらした出来事だった。


自分の命を救い出し、それだけでなく多くの市民を必死に救い出し、世界を救おうとした女の処刑が決まったことだった。



『・・・・政治家どもが・・・・随分と下らない真似をしたものだ・・・・・』



舞い込んだニュースに最初驚いたものの、ザイツェフはしばらくしてから冷静に流すことができた。

それは刑の執行はまず無理だと思ったからだ。



『ふん・・・だが・・・・・こうなってしまったら、あの男が黙っているはずがないが・・・・』



そう、あの女が告げた騎士が、必ず救い出すと自分には分かっていたからだ。


その騎士は自分も良く知る男だ。だからこそ、無駄なことだと思っていた。





しかし・・・・・・処刑は決行された。





世界を救おうとした女は、災厄の魔女として処断され、その事実が魔法世界全土に知れ渡った。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



チコ☆タンに怒りは何も無かった。


あるのは失望だった。


何に対しても、怒りではなく失望だけに満たされ、彼はその後抜け殻のように人生を送った。


そして更に数年後。


その時入った衝撃のニュースが、チコ☆タンを完全に怒りの抜けた只の魔物に変えてしまった。




―――ナギ・スプリングフィールド死亡



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」




それからチコ☆タンは何事もどうでも良くなった。


自分は一体誰に負けたのか?


世界を救うとは何か?


あの女の信じた騎士は何をやっていたのか?


何故無敵の男が死んだのか?


もうどうでも良くなった。



「・・・・・・・・・・・・ヌ゛ウ・・・・・・・」



そしてその十年後。


いつもと同じように上っ面で適当に仕事をし、久々大物の首を取ろうと部下たちとくだらなく盛り上がっていたとき、二人の少女が自分の目の前に現れた。


『待ってくんない、おっちゃんたち?』


現れた少女は強かった。


瞬く間に部下たちを蹴散らしていった。


いや、強い連中ならこの世界にいくらでも居る。しかしザイツェフは少女のあり方に刺激された。


気合だ何だと喚いて熱苦しく戦う姿に、かつての戦乱を思い出し、久しぶりに自分の力を解放した。


しかしその力は二十年ぶりというのもあり、うまくコントロールできず、最後は部下に止められるという始末だった。


そしてしばらく不安定な状態が続き、そこに捕らえた少女たちの身元が分かった。


サウザンドマスターの息子、ネギ・スプリングフィールドの生徒。


そして白き翼の存在と、ゲートポートのテロ事件。


この事実が、不安定な状態だったチコ☆タンに、忘れかけていた何かを思い出させた。


それが・・・・どん底から20年間溜め込んで燻らせていた怒りだった。




「ウガアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」



「うおっ!?」



「クソむかつく目だ・・・・テメエ・・・・その目・・・・その目が気に食わねえ!!」



猛りながらシモンを睨みつけるチコ☆タンの瞳には、シモンではない誰かが写っている。

しかしそんなことはシモンに分かるはずも、そしてシモンにも関係ないことだった。

だが・・・・


「同じ目だ・・・あのクソ野郎と・・・・世界を救った英雄とかホザかれ・・・無敵とかヌカしてたくせに・・・・・結局女の一人も救えねえカス野郎に負けるなんざ、・・・勝手に死んだあのクソ野郎なんざ・・・・俺は絶対に認めねえぞ、ゴラアアアアアア!!!」


「!?」


別に女が処刑されたことにチコ☆タンは吠えているわけではない。

ただ、自分がそんな小さな男に負けたというのが我慢ならなかった。


「殺してやる・・・・殺しまくってやる! テメエも、あのカス野郎の息子も、クソ共が呑気に集った祭りも、政府も、世界も、この俺がブチ壊しまくってやらァァ!!! くだらねえカス共の策略も政治もはさむ隙もねえ、弱肉強食の世界が俺たちの世界だ! 法も制度もクソ食らえだ! 紅き翼のカス共が作った世界なんかに、従ってたまるかよォ!!」


もうダメだった。


「もういい加減、吹き飛べってんだよォォ!!!」


それだけしか思いつかなかった。

とにかく怒り任せに手当たり次第に破壊することしか出来ない。世界でもっとも危険な八つ当たりだ。

言っていることも周りからすれば支離滅裂な言葉だ。

恐らくチコ☆タン自身も自分で何を言っているのか分かっていないだろう。それほどまでに怒り狂っていた。


だが・・・その言葉は・・・・


「世界を救えても・・・・女の一人も救えない・・・・か・・・・」


まったく関係の無いはずが・・・・偶然に・・・・


「・・・・・痛いところ突いてくるな・・・・・・」


シモンの心に突き刺さったのだった。


「もし・・・もし・・・俺が記憶を思い出していなかったら・・・・・ニアのことを思い出していなかったら・・・・・ヴィラルとの誓いを・・・・学園祭でヨーコに殴られたことを思い出さなければ・・・・・その言葉に押しつぶされていたかもしれない・・・・でも・・・」


自分は英雄と呼ばれていた。

しかし、この宇宙でもっとも愛した女はこの世には居ない。

そう、分かっているのだ。

だからその言葉はシモンには深く突き刺さる。


「・・・でもッ!!」


しかし・・・・



―――シモン、あなたはあなたの成すべきことをするためにここまで来た。そうでしょう?



そうだ・・・・


「そうだ・・・その通りだとも! 今の俺は違う!」


押しつぶされることはもう無いのだ。


「お前が何に怒りを覚えているかは知らないが・・・・それを人の所為にしてんじゃねえよ! そう簡単に世の中思い通りにいかないから・・・・みんながんばるんだろうが! そんなにムカつくなら・・・・テメエは今まで何をしてきた! その拳で何を掴んできた!」


「な・・・なにィ!?」


このドリルがそれを証明する。


「見せてやる。因果も運命(さだめ)も突破する・・・・俺の・・・俺たちの命の叫びを聞きやがれ!!」


「こ・・・・・この野郎がア! 身の程知りやがれッ!!」


「そんなもん、知ったことかアア!!」


これは戦争か?


それは大袈裟ではない。


大量のドリルのミサイルに、止むことなく鳴り響く爆音に、爆炎と命の叫びが、たった一人の人間と魔人によって作り出されているなど、誰にも分からないだろう。



一つ分かるとすれば・・・・




「超魔爆炎覇!!!!」




「ギガドリル・マキシマム!!!!」




シモンもチコ☆タンも、決して一歩も引かないということだった。


「ひゃっひゃっひゃっひゃっ。たまや~~ってか♪ ふっふっふ、楽しみにしていたオスティアの花火とは違うが、これはこれで大したものじゃねえか」


そんな二人のぶつかり合いを、戦いを止めて、一人酒の肴にするかのように、ユウサは天上の戦いを楽しんでいた。


「ふっふっふ、それにしても・・・・、チコちゃんは知らねえのかね~? っていうか、俺はちゃんと言ったじゃねえか。ネギ・スプリングフィールドは、あのお姫様の息子かもしれないってな。それはつまり、そういうことだろう? ・・・ん? 言ってなかったか? ひゃっはっはっは」


全てが彼の暇つぶし。

シモンとチコ☆タンの命を磨り減らす戦いも、瀬田一家との戦いも、千人と新生大グレン団の戦いも、彼にはどちらに転ぼうとも、楽しければ構わなかった。


「まあ、・・・おかげで、噂のシモン君は面白くなったから別に構わねえが、・・・・しっかし、チコちゃんには、拍子抜けしたというのもあるな~。魔人が暴れまわるのに理由を付けるとは・・・アリカ姫? 紅き翼? 腐った世界? 復讐? 怒り? んな理由どうでもいいだろうが。理由は建前にだけ利用して、楽しめばいい! 暴れることに理由はいらねえ・・・くはははは、それが自由だ! それが本能だ! それが楽しい人生だ! それが祭りだ! 弱肉強食が無法の中の法律だろ?」


生き方を曲げないこの男とシモンがどうやって対峙するのかは、今はまだ分からない。


「それなのに、ディーネの嬢ちゃんといい、困ったもんだぜ。ひゃはははは、知らぬが仏、真実を知らないほうが幸せとか言われているが、こいつは知らなかったゆえの不幸だな♪ 俺と違って地獄耳を持っていない奴らは大変だね~」


ただ、一つだけ分かるのは。どれだけシモンが叫ぼうと、この男の心も生き方も変わらないということぐらいだろう。


「二十年前・・・・リアル戦争を楽しみたいだけに、連合側と完全なる世界の両陣営に強力な武器を売ったりと、戦争の盛り上がりを楽しんでいたが・・・・まさか、まだその戦を根に持っている奴らが居たとはね~。ひゃはははは、この世界はもう楽しむものはねえと思っていたが、昔の宝箱を空けたら、まだまだ残っていたって事か! 映画と違ってリアルの戦国時代に終わりはねえってことには、チコちゃんに同意だな」


その生き方で多くの者たちの心を揺さぶり、影響を与えてきたシモンの力も、この男には通用しない。


「まあ、最後まで両方とも楽しませてくれよ。どうせいずれ滅び行く世界なんだ。この祭りにド派手な花火をもっと連発させてくれよ! 最後の一発まで派手になァ! さあ、運命の女神様! どうかこの世界に平等な判決を下してくれよ! ひゃはははははははは!!」


いつの日か、シモンがユウサと相対した時、お互いが命以外に何を懸ける事になるのかは、その日が来るまで、誰にもまだ分からないのだった。
最終更新:2011年05月13日 20:46
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