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105-2

二人の言葉に、皆が静かになり総督を見つめる。

すると総督は少しため息を吐きながら、二人の言葉に付け足す。


「はい。公式記録では死亡しています。紅き翼に敗れて、オスティア地下の超凶悪犯罪者専用の監獄に閉じ込めていました・・・・オスティア崩壊の時までは・・・・・・・」


その言葉に当時オスティアに居たトサカが一番に反応した。


「ま、まさか脱獄したのか!? いや・・・でも・・・待てよおかしいじゃねえか・・・だって確かあの時・・・」


「トサカの言うとおりさね。たしか、あの施設の監獄は、魔力無効化の鉄格子と手錠で囚人は抑えられていた。どんなに屈強な肉体を誇ろうとも、魔力なしで脱走できるところじゃないさね。大体オスティア崩壊の際は、魔力消失現象で誰も魔法が使えなくなってしまった。どの道こいつが逃げられるはずは無い」


「えっ? ・・・でもこいつここに居るじゃないか・・・」


「「「「「「「?」」」」」」」


全員が分からずに首を傾げた。

処刑されたのか、オスティア崩壊に巻き込まれて死んだのかのどちらかだと思っていたのだが、チコ☆タンは未だに外の世界でこうして生きていた。

だが、いかにチコ☆タンの力が桁外れとはいえ、魔力を放出できない状態で、監獄から逃げ出すのはほとんど不可能だと誰もが思った。

すると・・・


「ふ~ん、な~るほどね~」


「「「「「「「「「「瀬田さん(冒険王)?」」」」」」」」」」


「少し話が読めてきたね~。そして、僕らが特別扱いになる本当の理由が・・・」


今まで黙っていた瀬田が、顎に手を置きながら、全てを見透かしたかのように口を挟んだ。


「中からは逃げられない・・・その話を信じるとしたら、彼が逃げられる方法はただ一つ。外から誰かに逃がしてもらうしかない」


「外から!?」


「まっ、まさか・・・仲間が!?」


「・・・いや・・・犯罪者の仲間が助けに来たとすれば、すぐに指名手配される。だが、それをせずに死んだことになっていたということは・・・・・」


「「「「「「と、いうことは?」」」」」」


「彼を逃がした者は・・・犯罪者では無い・・・・政府にとっては世間に公表したくない人物だった・・・・もしくは、君自身が公表したくない人だった?」


瀬田は自分の推理を確かめるかのような口ぶりでクルトに視線を送る。だが、クルトはあくまで表情を崩さず、冷静に否定する。


「ふふ、残念ながらチコ☆タンを逃がした人物は立派な犯罪者ですよ? それも極めて悪名高い」


だが、それが全てを解く鍵となった。


「・・・ふ~ん、・・・なるほど・・・。つまり、政府はチコ☆タンとやらが生きていたことは知らない・・・いや、知っているのは君を含めた一部の者・・・そしてその犯人はその一部の人たちにとっては、犯罪者とはいえ庇いたい人物だった・・・ということになるね」


「ッ!?」


政府ではない。

この事実を隠したいのはクルトただ一人だということである。

瀬田の指摘にようやくクルトの表情が強張り、苦虫をつぶしたような顔をした。

その瞬間、周りの連中がガヤガヤ騒ぎ出した。


「総督が・・・庇いたい人物・・・・だと?」


「うん、そして・・・・それは20年経っても変わらないほど、大切な人のようだね。職権乱用をするぐらい・・・・」


「・・・ッ」


クルトの表情が更に強張った。

その顔に、いつものように不気味な笑みは無く、変わりに舌打ちが聞こえてきた。


「口を慎みなさい、冒険王。そしてこの件に関しては、・・・Need not to know・・・こう言えば分かりますか?」


「ふっ、知る必要は無い・・・か・・・どうやらそうとう大物らしいね。でも、これ以上は追求はするな・・・他言もするな・・・その代わり、僕たちのことは目に瞑る・・・そういうことでいいんだね?」


「・・・・・・・・・・理由としてはもう一つ。戦勝国以外所持が不可能な、超弩級艦隊を、一組織が保有してテロを行おうとしたなどと世に知られれば、再び世界は恐怖に陥ります。大戦後に回収し切れなかった艦は、ケルベロス以外にもまだありますからね・・・・・・・・」


「なるほどね。僕たちの世界で言う核兵器が、政府の監視を逃れて、テロ組織が保有していたのと同じようなもの・・・それが国民に知られれば大混乱・・・・チコ☆タンの生存とケルベロスの存在・・・二つの口止めで、司法取引ということか」


「ええ。ご理解が早くて助かりますよ」


それ以上は瀬田も追及しなかった。

世界トップクラスの機密が関わっていることを感じ取ったからだ。

少し興味はあるが、自分や家族の罪が問われないというのなら是非もない。

多少の裏を感じるが、この件に関してはこれで手打ちにするべきだろうと、納得した。

だが、一人だけ・・・


「・・・庇うだと・・・・・・・・あの女を・・・・そうか・・・テメエ・・・どこかで見たツラかと思えば・・・・・」


不満の声を出すものが居た。

ずっと横たわって、黙っていたチコ☆タンが首だけをクルトに向けて睨み付けた。


「・・・あのカスどもの後ろでチョロチョロしていた小僧の・・・・片割れか?」


「・・・・小僧?」


「・・・女・・・・」


「・・・・・・あの女を・・・・庇う奴がまだ居たとはな・・・・男にも見捨てられたはずの・・・あのバカな女を・・・・」


その言葉の意味は一部の者にしか分からなかった。


(なるほど・・・そういうことじゃったのか・・・・昔、オスティア内の喧嘩で逮捕されたディーネが監獄に入れられたにも関わらず、大崩壊の後に生きていたときは驚いたが・・・なるほど・・・・そういうことじゃったのか・・・・・20年前から総督殿が少しでも罪を軽くしようと思われる方は・・・あの方しかおるまい・・・・・・姫様・・・・・)


だが、それ以上チコ☆タンが口を割る前に、クルトが遮った。


「それ以上は語るな。過去の罪に加えて、超国家級テロ未遂に超危険物所持・・・・もはや死刑か無期懲役は免れない・・・・・・今度こそ・・・あなたは終わりです」


「・・・・・はん・・・これであの女も・・・・無駄死にか・・・・」


「キ、・・・キサマ!?」


「・・・・まあいい・・・・もう・・・好きにしろ・・・・未練も・・・ねえ・・・・興味もねえ・・・・気分も失せた・・・・・終わらせろ・・・・・」


顔を顰めるクルトに対し、チコ☆タンは完全に脱力したかのように、弱弱しい言葉を吐き出していく。

まるで空っぽになった廃人のように、その瞳は既に何も映してはいなかった。

やがて駆け足の音が近づいてきた。兵士の何名かがこの場に現れ、クルトの前に立ち止まった。


「総督。ほとんどの者を捕らえました。流麗のディーネあたりが多少抵抗しましたが、なんとか抑え込みました」


「むっ、・・・ディーネ・・・・・」


「そうですか・・・彼女も・・・・ミルフ隊長。彼女の件はあなたに一任しますがよろしいですか?」


「了解しました」


その報告を受けてクルトは、チコ☆タンから背を向けて言い放つ。


「ふむ、それでは・・・・・次にこの男を、・・・テロ首謀者、アレクサンドル・ザイツェフをオスティアの監獄に直接連行します」


「えっ? ちょ、直接ですか? 聴取は・・・それに、怪我の治療は・・・・・」


「必要ありません。今すぐこの場から連れ出しなさい」


「りょ、了解しました」


背中から伝わってくる怒気を孕んだ言葉にビクつきながら、兵士たちは身動きしないチコ☆タンを無理やり起こし、数人がかりで運び出そうとする。


「お、おい・・・・」


「シモン君、ご苦労様。君には本当に礼を言いますよ。しかし、後は我々に任せてください」


「で、でも・・・・」


傷つき敗れ、しかしその強烈な衝撃をシモンに叩き込んだ男は、抜け殻の様にこの場を後にする。

もう、二度と会うことは無いかもしれない。

それだけのことをこの男はした。

だが、何故かは分からないが・・・・

この世に興味を無くしたこの男に・・・・



「まてよ、チコ☆タン!」



シモンは叫ばずにはいられなかった。



「・・・・・・・・・・・・」



するとどうだ? 

引きずられるように運ばれていたチコ☆タンが、自分の足で立ち、その場に止まった。

後ろを振り返りはせず、腹にどでかい穴を開けながらも、その場に背中を向けたまま立ち、そして・・・


「・・・ザイツェフだ・・・・・」


「えっ?」


「・・・・・俺の名は・・・・・・・・ザイツェフだ・・・・・・」


チコ☆タンは応えた。

その言葉に誰もが少し驚いた顔になり、押し黙ってしまった。

そして、そんなチコ☆タンにシモンは言葉をぶつける。


「・・・どっちでもいい・・・とにかく、這い上がって来い!」


くたばるんじゃない、と叫んだ。


「俺がこの世に生きている限り・・・・世界に失望したなんて言わせない。簡単に言い切れるほど宇宙はそんなに狭くない・・・人もそこまで愚かじゃない!」


そのために、自分も戦っていたことを思い出したからこそ、シモンは叫んだ。

そのために命を賭けた友がいたことを・・・

命を賭けた、愛おしい人がいたことを・・・

そして、そんな自分たちに最後は道を譲ってくれた者たちがいたことを・・・

だから、シモンは世界に見切りをつけようとしたチコ☆タンに叫ばずにはいられなかった。


「・・・・・・・・・・愚かだ・・・・・人は・・・・」


チコ☆タンは振り返らない。


「愚かじゃない! ただ・・・完璧を求めるには・・・人間はまだ未熟なだけなんだ・・・・」


「・・・バカが・・・・その未熟さが・・・・怒りを生むんだろうが・・・・・」


そして、シモンも引かない。


「でも、その未熟な人間が、この世界を救ったんだろうが!! 道を壊すだけで、創ろうとしないお前が・・・・簡単に吐き捨てるんじゃねえ! 簡単に見切りをつけてるんじゃねえ!」


そして引かないシモンの言葉が、あまりにも的を射ていたからこそ・・・・


「ああ・・・・・・気に食わない・・・・そういう目は本当に気に食わない・・・・・・」


チコ☆タンはようやく振り返った。


「・・・・・・・そんな風に・・・・あの男も・・・・・・・・・」


最後の最後に、もう一度だけその瞳に、シモンを映し、小さく一言呟いて、彼は二度と振り返らなかった。


「何を立ち止まっている! さっさと・・・・・」


「俺にさわるんじゃねえーーーッ!!」


「なっ、・・・キサマ!?」


そしてチコ☆タンは己を掴み連行しようとする兵士たちを振り払った。

突然の抵抗に兵士たちが武器を構えるが、チコ☆タンは口元に笑みを浮かべながら、逃げようとはしなかった。


「安心しろ。逃げやしねえよ。手柄はテメエらのもんだ・・・・・俺は今・・・・気分が良いんだよ、カスども」


「なっ・・・・なに・・・・・」


「・・・はっ、宇宙かよ・・・でけえ口叩きやがって・・・・クソムカつく野郎だ・・・」


伝説の魔人、爆乱のチコ☆タンは未だ硝煙の残る戦場の中、二十年ぶりにその手に枷を嵌められて、最後は静かにその場を後にした。


「本当に・・・・・・ムカつく奴らだ・・・・・」


シモンの言葉がどの程度彼の心に届いたかは知らない。


難敵の背中をシモンは、その姿が見えなくなるまでずっと見届けていたのだった。


「終わったね・・・シモン君」


「・・・・ああ・・・」


少し寂しそうにチコ☆タンの消えた方角を見つめるシモンの肩に瀬田が手を置いた。

シモンも、たしかにそうだなと頷いて、クルトを見る。


「さて、・・・・俺たちはこれからどうすればいいんだ?」


「・・・そうですね~、まあ、恩赦がどうのとはいえ、一応手続き上、瀬田一家には一度聴取を受けてもらいたいので、出来ればこのまま同行してもらいたいのですが・・・・どうです?」


「僕は別に構わないよ」


「ああ、まっ、それぐらいわな」


「ア~良かった。一生賞金首かと思ってヒヤヒヤだったぞ~」


「それでは、このまま向いましょう。シモン君、そして他の方々もご一緒にどうぞ?」


「うお~~、ようやく帰れるのか~」


「まあ、結構楽しかったけどな」


「とりあえず皆無事で良かったですわね」


長い長い喧嘩が終わり、ようやく彼らはこの場を後にすることが出来る。

別に家に帰るわけではないうえに、まだ一日が終わったわけではない。


「なんか、数ヶ月ぐらい戦っていたような気分だな」


「おう、学園祭の時もそうだったからな」


「あ~、さっさとまた温泉に入ろうぜ~」


しかし、たった数時間で身も心も一生分すり減らし続けた彼らも既に限界で、ホッと一息つくのだった。



        • そう・・・つくはずだったのだが・・・・



「・・・う~~ん・・・・」



シモンが途中で唸りだした。


「兄貴~、どったの?」


「お体が悪いのですか? まあ、あの爆乱とあれだけ激しい戦いを繰り広げたのですから無理ありませんけど・・・・」


シモンの顔を心配そうに覗き込むシャークティたちだったが、どうやらシモンは何かを考えているようだ。


「いや・・・・このまま帰るんだけど・・・・なにか忘れているような気がして・・・・」


「忘れているもの?」


「ああ・・・・なんか・・・なんだろう・・・・・」


「記憶喪失は直ったんじゃないのですか?」


「へっ? 記憶喪失? 兄貴、どういうこと?」


また、何かを忘れたのかもしれないとシャークティが尋ねると、知らなかったことに美空とココネが反応した。


「兄貴・・・ココネを忘レタ?」


「はは、大丈夫だよ。今はちゃんと覚えてるから」


「で、でも忘れてたってこと? 何で? 何があったの? しかも何でコレットが若干ビクビクしてんの?」


「えっ・・・と~~~その~~・・・実は・・・・」


「まあ、でも心配するなって。今はちゃんと覚えてるから。お前たちのことも、グレン団も、それにネギたちも・・・・・・・・・・・・・・ん?」


そこでシモンが止まった。


「「「「「・・・・あっ・・・・・・」」」」」


同じくグレン団も止まってしまった。



「「「「「・・・・・・・・・・あ゛・・・・」」」」」



そういえば、激しく忘れていた。



「「「「「「「「「アアアアアアアアアーーーッ!!??」」」」」」」」」」



いや、色々あったから忘れていたというより、気づく暇が無かったというか・・・・・


「わ、忘れた! 今日って決勝戦じゃねえか!?」


美空とココネのことがなければ、今頃オスティアの拳闘大会の決勝戦で戦っているはずだったのだ。

そのことを今頃思い出して、皆も急に慌てだした。

それほど、魔法世界において、今日の決勝戦は大きなイベントなのである。


「まっ、まじかよ・・・って、俺も忘れてたが・・・ママ! 今時間は!?」


「も、もう直ぐ始まるさね・・・・い、いや・・・どちらにしろここからじゃ、どう考えても間に合わないさね!」


「お、おい・・・20周年記念の大決勝戦が対戦相手不在って・・・マズイんじゃねえか?」


「忙しい男じゃのう」


「ふん、だが騒がしすぎる」


「まったく・・・キサマはどちらにせよ、人に迷惑をかける男だったが・・・」


「だ、団長。・・・そんな言い方は・・・・でも、どちらにせよ、シモンさんもその体では流石に無理ですわ。なんせ相手はあの・・・千の刃の・・・」


どちらにせよ、時間的にも体力的にもどうしようもないとエミリィが言おうとしたのだが・・・


「負けましたよ」


「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」


クルトが口を挟んだ。

そしてその口から、彼らにとって衝撃的な言葉を告げる。


「ジャック・ラカンは負けましたよ。ナギ、コジローのコンビにね」


「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」


この世界の住人にとっては信じられない言葉だった。

だが、その言葉がウソではないと分かり、シモンは口元に笑みを浮かべた。


(ネギたちが・・・あのラカンを・・・・・・・・ふっ、やりやがったな・・・あいつら!)


そして、昨日ここに向う直前、ラカンと戦う前のネギと会ったときを思い出した。

ネギは、自分に向ってこう言った。


―――待っていてください!


彼はどうやら約束の舞台へたどり着いたようだ。

そう思うと・・・


「ちょっ、・・・兄貴・・・・」


拳を握り締め・・・

後から沸いてくる想いを抑えきれずに・・・

シモンは決意した。


「俺が行かないわけには・・・・いかないみたいだな・・・・・」


もう、それしかなかった。

するとエミリィやトサカたちが急に騒ぎ出した。

無理だ・・・

間に合うはずが無い・・・・

その怪我でどうするつもりだ?

言い出したらキリが無い。

だが、シモンを良く知るシャークティたちは、もうそれが止めることの出来ないものだと分かり、苦笑するしかなかった。


「美空、ココネ、悪いけどお前たちは後で来てくれ。俺は、ちょっと一足先に行かせてもらうよ。約束が・・・残ってたからな・・・」


「あ~あ~、ったく~、まあ、仕方ねーッすね~、兄貴は皆の兄貴だからね~」


「ム~~~」


「ほら、ココネ。どうせ直ぐまた会えるんですから、後でいっぱい甘えればいいでしょ?」


「ム~~・・・・・ウ~~~・・・・・ワカッタ・・・・」


少し不満気にシモンの裾を引っ張っていたココネも折れて、ようやくシモンから手を離した。

シモンも一回申し訳なさそうにココネの頭を軽く撫で、そしてオスティアのある方角へ向けて、目を瞑った。


「ちょっ、待ってください! 行くってどうやって!?」


今から何をやろうとしているのか分からないエミリィたちに、シモンは自信満々に応えた。


「決まっている。どうにかしてだよ!」


「だからどうやって!? 一体オスティアとどれだけ離れていると思っているんですの!?」


「関係ないさ。場所との距離なんて俺には関係ないんだよ・・・・・ようは・・・・心の距離が離れていなければな」


そう、シモンには場所との距離なんて関係ない。

シモンは胸を指しながら答える。

心の距離さえ離れていなければ、彼は銀河の果てまで飛ぶことが出来るのだから。







そして、・・・・こちらもとうとうクライマックスが近づいて来た。








「アスナさん・・・・あれが多分シモンさんの言っていた・・・そして・・・ニアさんの父親の」


どんなに厚い壁も崩れる日は来るのである。


「ええ、螺旋王って奴ね。ニアさんとは全然似てないわね」


少女は信じる仲間と共に前へ行く。


「でも、この画面からでも伝わるオーラは、本物の証ですね」


「ふむ、威厳に満ちているでござるな」


「あれが、ラスボスっちゅうことやな」


己の父親に言いたいことを言うために。


「これが、シモンさんとニアさんの最後の戦いなんやな・・・・」


自分たちは「ここ」に居ていいのだと・・・・・



『よもや、ここまで来るとは・・・・、ほめてやろう、人間よ』



ネギたちも、この男について、話だけは聞いていた。


王都テッペリンにある王宮の最も高い場所に位置する王の謁見の間。そこにある玉座に深々と腰を下ろした男。

螺旋王と呼ばれたシモンたちの最大の敵である、ロージェノム。

ネギたちは、その男をそう判断した。

モニター越しからでも分かる、男の不気味さ、グレンラガンを目の前にしても眉一つ動かさぬ男に、別格の雰囲気を感じ取った。

ネギたちはシモンと会っているのだから、それほど緊張しなくてもシモンたちはこの男に勝てたのだと冷静に考えれば分かるはずである。

しかし、いつしか・・・いや、最初からかもしれない。

結末を知っていたはずのネギたちですら、このシモンたち大グレン団の物語の戦いの行方に手に汗握っていた。

それはネギたちだけでなく、観客たちも同じである。


「へへ、長かった戦いもようやくこれまでってか?」


「流石に親玉は怖いわね」


「強いんだろうな・・・・果たしてどんな力を使うんだ?」


この流れる映像が、本物か、それとも作り物なのかは知らない。

映し出される世界がどこなのかも知らない。

ひょっとしたら、旧世界の映像なのかもしれないと思っている者も居るぐらいだ。

しかしカミナから始まり、シモンや大グレン団たちの魂を込めた活躍に心を奪われ、今はただ、オーロラビジョンに夢中だった。

そして誰もが理解していた。


「いよいよ、ラストバトルか」


地下から始まったシモンたちの戦いも、ようやくクライマックスなのだと。


『無知とは恐ろしいものよ。お前たちは自分を正義だと思っておるのかもしれんが、この世界を守っているのはわしなのだ。このロージェノムこそが人類の守護者なのだよ。わしの作った世界こそが、人の生き残る唯一の道。そこから外れたお前たちを、これ以上好きにさせておくわけにはいかぬ』


ラスボスは実に相応しい口上と共に黒いガンメンを床から出現させた。

黒いグレンラガンのようなガンメン。


「ちょっ、あれってグレンラガンに似てない!? しかも、なんか結構カッコいいよ!?」


「何言っているんですか、ハルナさん! グレンラガンの方が絶対カッコいいです!」


「アホ・・・今そんなのどうでもいいだろうが・・・・」


ラゼンガンと呼ばれるその黒いガンメンと共に、ロージェノムはシモンとグレンラガン、そして実の娘がそこに居るのに微塵の躊躇いもなく向ってきた。


『人類のために死ぬが良い』


当然だが、もはや話し合いは無理のようだ。

ならば、戦うしかない。

シモンはニアを見ると、ニアも悲しそうに頷いた。

その瞬間、人類の命運を懸けた頂上決戦が始まったのだった。

その行く末を彼らは知ることになる。

ネギも、シモンを慕うものたちも、今日はじめてシモンを知った者たちも・・・

そして・・・



「ふっ・・・・・興味深いね・・・・・」



この男も知る。


「・・・フェイト様・・・」


「・・・何でもない・・・それより君たち、全員ここに居ていいのかい?・・・・お姫様たちは?」


「えっ!? あ、ああ~、そ、それは大丈夫です! 見張っていなくても大丈夫です!」


「あっ、大丈夫です。ですから~~」


「フェ、フェイト様。その~~・・・・せっ、せっかくここまで見たのですから・・・その~~・・・」


「フェイト様・・・どういう経緯かは知りませんが、これはフェイト様の障害となる男の情報を得るいい機会です・・・・で、・・・ですから・・・」


少し顔を赤らめてモジモジとおねだりする様な暦たちに、フェイトは小さくため息をついた。


「・・・いいよ。最後まで見ても・・・・」


「「「「「ほ、本当ですか!?」」」」」


少女たちはキャーキャー騒ぎながら、お言葉に甘えて、テレビの真正面に座布団を引いて、食い入るように画面を見つめた。

どうやらハマッたようである。

少女たちのその様子にフェイトはもう一度ため息をつき、そして彼もまた画面に映る、シモン、ロージェノムそして・・・


(ニア・・・テッペリン・・・か・・・)


何故か彼は世界中がグレンラガンとラゼンガン、シモンとロージェノムの戦いに集中する中で、ニアの存在が気になっていたようだ。

いや、正確には、ニアの存在というよりもニアの言葉である。

彼女は言った。人形として王の暇つぶしに作られた存在であった彼女は言った。


―――人間は確かにちっぽけです。でも、そのちっぽけな人間には大きな大きな心がある。彼らは人形じゃない!


その言葉が、自身を人形と言い捨て、変わらぬ信念と表情で固められていたフェイトの奥底を、僅かに刺激した。


(・・・・人形師に逆らう人形・・・・・心を持っていれば・・・人形じゃない・・・か・・・)


揺れる瞳の奥底に、何を思っているのかは、傍にいる従者の少女たちも気づかないほどのものである。

だが、彼の心には残った。


(この映像の世界は、ここの世界でも旧世界でもない・・・・ならばシモン・・・・君はどこの世界の住人なのか・・・・君の世界はそれとも作られた世界なのかな? この世界と・・・同じように・・・・)


そう、その心に・・・


(世界の守護者・・・・人類を救うため・・・少なくともこの当時の君は螺旋王とやらの言葉に大した反応を見せてはいないが・・・・・今の君はどうだい?
もし、この螺旋王が僕と同じような理由で戦い・・・・・今の君がこの当時の螺旋王の言葉を理解していたとしても・・・・・・それでも君は僕と・・・・)


自分でも気づいていない、何かを求めるかのように・・・


(・・・いや・・・違うか・・・・らしくない・・・こんなこと人形である僕が考えるなんて・・・・・・・・理由は要らない・・・ただの喧嘩・・・それでいい・・・・・・ふっ、らしくない・・・か・・・・そもそも人形である僕にらしさなどいらない・・・・やれやれ・・・・・シモン・・・・・ネギ君が僕の存在する理由の一つだとしたら・・・君は要らないはずの感情を僕に入れていく・・・・本当に・・・・君は・・・・・)


無表情な表情が、どこか切なげに・・・・


「さあ、見せてみろ。かつての君が信じた答えとその行く末を」


そして、映像は流れ続ける。

今は黙って、彼もこの戦いの行く末を見届ける。



『かつて、お前のように戦った男がいた。その行いが人類を滅ぼすことになるとも知らずにな!』
最終更新:2011年05月13日 20:48
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