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107-2

東洋の島国では・・・


「はあ~? 浦島はんのおば~さんが、ウチに何の用かえ~?」


「それはまだ・・・しかし、会って直接話がしたいと・・・・少し真面目な話のようです」


「既に引退したウチに用事~・・・ケータローはんと素子のことではなさそうどすな~」


「どうなさいます、鶴子様」


「まあ、大方の話は読めているんやけどな。・・・・それほどの大物がウチに個人的な用事やと・・・ユウサについて・・・ほんに困ったことになりそうどすな~」






そして麻帆良学園でも・・・・


「エヴァンジェリン、久しぶりですね」


「ん? 詠春!? なぜ貴様が麻帆良に!?」


木乃香の父でもあり、かつてはナギやラカンたちとともに世界を駆けた英雄の一人である詠春が麻帆良に降り立った。

事前連絡を何も受けていなかったエヴァも驚きを隠せなかった。


「いや~、出張でこちらに来たんですが、なんとアルからお呼びがかかりましてね」


「何? お前もか?」


そう、かつての名だたる豪傑たちが集結し、他の場所と同じようにこちらでも動きがあった。


「ふん、あのエロナスビめ。何を企んでいるんだ?」


「・・・ところでエヴァンジェリン。なんで大人の姿をしているんですか?」


「・・・・・・・・・」


「ケケケ。男ガイツ帰ッテキテモ良イヨウニダ」



まるでシンクロニシティだ。


まもなく迎える運命の日に、誰も彼もがタイミングを見計らったかのように動き出した。


いや、本当はタイミングを計っているのかもしれない。しかし、全部が全部そうではない。


なぜなら、タイミングを計るどころか、まったく魔法世界やこの地球とかかわりの無い世界でも、動きが見られたからだ。


そう、それはこちらの世界。




      • 地球は地球でも・・・・




「しっかし・・・ヴィラルに言われたときは驚いたけど、コアドリルっていっぱいあったんだな~、ダリー」


こちらの地球では、一つのきっかけが生まれようとしていた。


「うん、でもアンチスパイラルと戦った時ラガンと同じ機体がたくさんあったんだからコアドリルも複数あってもおかしくないんだけどね。世界・・・ううん、銀河全土に螺旋族がいたんだもの。・・・でも、ギミーは当然、大グレン団のコアドリル以外は使わないんだよね?」


ダリーがギミーの胸元を指差しながら微笑むと、ギミーは胸を張って即座に頷いた。


「当たり前じゃないか! シモンさんから受け継いだ大グレン団のコアドリル以外でグレンラガンを動かせるかってんだ!」


ダリーが指差したのは、ギミーの胸元にある大グレン団のコアドリル。

ここは、カミナシティの議事堂の中。二人の若き螺旋の戦士であるギミーとダリーがコアドリルを弄くりながら話していた。

それはヴィラルがシモンを見送って議事堂に帰ってきたときのことだった。

ヴィラルは不敵に笑いながら、久しぶりに会ったシモンのことを話してくれた。

ヨーコのこともあり、二人ともシモンと直ぐにでも会いたいという気持ちになったが、既にシモンは旅立ったことを聞かされた。

そしてその時、ヴィラルがシモンに餞別に渡したというテッペリンの地下を漁っていた時に見つけたコアドリルの話になった。

かつての螺旋族たちが使用したと思われるコアドリルが複数発見されたと聞いたギミーとダリーは、さっそく発見されたコアドリルを弄くって話をしていたのだ。


「ふ~ん、グレンラガンのワープが使えなかったとき、すごく落ち込んでいたのに、もう大丈夫なの?」


ダリーが笑みを浮かべながら疑り深い目で下から覗いてきて、ギミーも若干ビクッと体が震えた。


「うっ、・・・ま、まあ・・・で、でももう大丈夫だ! 俺を誰だと思ってるんだ!」


「はいはい。ちゃんとしなきゃダメだよ? 今度行われる初めての惑星間の会合にグレンラガンも持っていくんでしょ? 演習とかは無いけど、私たち大グレン団の、地球の、人類の、銀河の希望の象徴を他の惑星の人たちに初見せするんだからね?」


ダリーがギミーに活を入れるように言うと、ギミーも若干顔つきが変わった。


「ああ、ロシウ総司令官、ヴィラル艦長、そしてグレンラガンのパイロットである俺が同行しての他惑星との初の会談だ。もっとも1000年以上前はあったらしいけどな。でも、シモンさんたち大グレン団がその止まった1000年の時間を動かして、そしてロシウ総司令官も必死に調整してくれてるんだ。俺がミスするわけにはいかないよな」


「そうだね、ロージェノムが居た1000年前は当たり前のように他の惑星とも交流していたみたいだけど、私たちにとっては初めてのこと。つまり私たちは1000年ぶりの地球代表ってことだよね?」


「ああ、格好悪いところは見せられないよな!」


「うん! がんばろうね、ギミー」


拳に力をギュッと入れて笑うギミーにダリーも頷いた。

自分たちの役目、背負っているもの、使命、それらをまだ若いながらも認識しているからこそであった。


「それで、いつ行くって? ・・・火星に」


「ああ、ギンブレーが日程調整をしてる。それが終わってからだな」


「そっか、少し楽しみだね」


「そうだな。まっ、俺たちは超銀河大グレンに乗せてもらうだけだけどな。流石にまだワープで火星までは行けないからな」


こればかりは気合でどうにかなるものではなかった。お手上げのポーズをしながらギミーが苦笑した。


「そういえば、ギミーがワープを使えなかったのって、グレンラガンの質量が大きすぎて、未熟なギミーじゃダメだったからなんだよね・・・・」


「うっ、未熟って・・・まあ、そうなんだけどな。地球の中ならまだしも、惑星間とかシモンさんの居る他の世界とかは、まだシモンさん以外には出来ないんだよ」


「でも、ヨーコさんは使えた・・・・それは、人一人分の質量なら螺旋力さえあれば出来るってこと・・・・つまり・・・・」


ダリーはヴィラルが見つけた過去の螺旋族たちのコアドリルの一つを握り締めて、何かを考え出した。

その表情が少し真剣で、ギミーが首を傾げて話しかけようとする。

しかし・・・


「あら~~ん♪ あんたたちこんなところに居たの~? 探しちゃったじゃな~い」


「げっ、リーロン長官!?」


この男? 女? に邪魔された。


「いや~ね~、長官なんて固い言葉は言・わ・な・い・の! 漢女(おとめ)心か傷つくわ~」


「う゛・・・」


相変わらず苦手なのが、ギミーは鳥肌が立っていた。


「な、何か用すか?」


「も~、せっかちね~、今度の地球・火星間の会談に向けてあんたたちと打ち合わせをしよって思っただけよ。もう、みんな来てるわよ?」


「えっ、そ・・・そうですか・・・じゃあ、ダリーも早く行こうぜ」


ギミーがダリーに振り返るが、ダリーは話を聞いていないのか、黙って顎に手を当てて、何かを考えていた。


「あら、どうしたのダリー?」


「えっ? あ、あれ?」


「おいおいおい、何ボーっとしてんだよ。話し聞いてたか?」


「えっ? あっ、ゴメンね。直ぐ行くから」


ギミーとリーロンに言われてハッとしたダリーは慌てて二人に向き直り、コアドリルを急いでポケットにしまった。

二人はその様子に少し「?」を浮かべているが、大して気にせず会議室へと向った。

この時のダリーの一種の想いに気づいていなかったのだ。

まさかダリーが・・・・



(・・・・私もこれを使えば・・・・シモンさんに会いに行くことが出来るのかな?)



などと考えていたなど、微塵も気づかなかったのだった。


だが、ネギやシモンたちが気づかぬ中で、同時に新たな流れが動き出していたのは間違いない。


運命という名の糸が絡まり始め、螺旋の渦のように多くの人々を巻き込んでいく。


絡まり始めた糸を解きほぐそうとしても、余計にからみつき、やがて手がつけられなくなる。


ネギ、シモン、フェイト、そしてアスナたちは、今まさにその中心でもがくのだ。









「何~、美空とココネだけじゃなくって、薫たちも爆睡しているのか?」


朝起きて、支度が終えたシモンに、苦笑しながらシャークティが告げる。


「ええ。やはり昨日の疲れが全員たまっているようです。そういう私も・・・むしろあなたが起きていることが不思議ですよ」


「それはまあ・・・木乃香のお陰かな?」


「ですが、とりあえずまだ皆さん起きる気配がありません。多分今日は昼か夕方頃まで起きないと思います。疲れているのに夜更かしするからですね」


シャークティは半ば呆れ顔。いや、そういう彼女も少し瞼が重そうだ。どうやら新生大グレン団のメンバーは昨日の大喧嘩の疲れを癒すために、全員が爆睡中のようである。

せっかくの祭りの朝を寝過ごすのは感心しないが、一日中ぶっ通した喧嘩祭りを考えると、仕方ないなという気持ちが勝った。


「そっか、美空やココネたちと一緒に祭りを回ってやりたかったんだけど・・・・」


「大丈夫です。二人とも夜には起きていると思いますし、私や薫さんたちは、シモンさんと瀬田さんたちと合流するまでに既に祭りで楽しんでいましたから・・・」


「そういえばお前たちとはオスティアで会ったんだったな」


「ええ、・・・・早いですね・・・あなたに会うまでは凄く長く感じていたのですが、あなたに会ってしまうと、この世界に来たのがついこの間のように感じてしまいます。少し名残りを感じますね」


名残り・・・それはシモンも感じていた。

シャークティもシャークティで、シモンを見つけるまでは豪徳寺たちと困難な道を乗り越えてシモンたちと再会したのだ。その時までのことが頭の中に蘇ってきていた。


「・・・事実は小説より奇なりですね・・・まさか20年前の怪物と戦うことになるとは思っていませんでした」


「チコ☆タンのことか?」


「・・・それもあります・・・・しかし・・・・」


「?」


シャークティが少し言いよどんだ。何かを迷っているような表情だ。

だが、少ししてから周りの気配を探り、この部屋に自分とシモンしかいないのを確認してから、口を開く。


「クマの奴隷長さん・・・そして、昨日オスティアへ向う飛行船で瀬田さんと総督が二人で話しているところを聞いたんです」


「何をだ?」


「あの祭りには、もう一人化け物が居た。瀬田さん、そしてサラさんもハルカさんもその人物に殺されそうになったそうです」


「なっ、瀬田さんたちが!?」


「この世界ではチコ☆タンほど有名ではないのですが、現実世で・・・特に裏の世界と精通しているものは知らぬもの無しの怪物・・・ユウサ・メイゴクと呼ばれる男です」


「・・・ユウサ?」


聞いたことも無い名にシモンが首を傾げた。無理も無い。仮にこの世界だろうと、現実世界でどれほど名を馳せようと、シモンには知らぬ世界の話である。

だが、男の名を告げるシャークティの表情を見れば只事ではないことは伝わってきた。


「ネギ先生たちは例のアーウェルンクスで手一杯でしょうから、昨日は内緒にしておきましたが、シモンさん・・・この男には気をつけるべきです。今だろうと、いずれであろうと、この男が絡めば最悪の事態だと思ってもいいです」


「・・・そんなにか?」


「ええ。学園に帰るまでは警戒心を怠らない方がいいでしょう。ですから皆には私が付いています。シモンさんはネギ先生たちに付いてあげてください。一応あの子達はまだ賞金首のままのようですし・・・いくらネギ先生がついているとはいえ、生徒の数も多いですからね・・・」


「・・・そうだな・・・・」


自分はいいからとシャークティはシモンに促した。

フェイト・・・そして今言われたユウサと言う男。どうやら厄介ごとは尽きそうにない。

それにネギたちが賞金首であることや、今後のことも考えて一緒に居てやる方がいいだろうと考えた。


「そう・・・だな・・・ゆっくりまだ話もしてないしな。じゃあ、シャークティ。適当にネギたちと見て回っているから、皆のことはまかせていいか?」


「ええ、シモンさんも。皆さんを守ってあげてくださいね」


「ああ。まかせろよ。俺を誰だと思ってる」


分かっているんだか、分かっていないんだか、こうゆうところは相変わらずだなとシャークティは感じた。


「・・・・・因みにシモンさん・・・一つ聞きたいことが・・・・」


「何だ?」


「・・・・戦闘は極力・・・・」


「ああ、絶対に負けないよ!」


「・・・・・・・・・・・・目的は?」


「決まってる、フェイトたちをぶっとばすことだよ! このまま帰るなんて、逃げたみたいだからな」


やっぱりとばかりにシャークティはため息をついた。


「・・・・・聞いた私が馬鹿でした。お願いですから、戦闘は極力避けて、行動の目的は全員無事に帰還するということを優先させてください。グレン団ではない方に・・・ましてや戦えない生徒が混ざっているのです。こちらから争いを起こすことは極力避けるように」


シャークティの念押しの迫力に、強制的に頷かされたシモンは、眠り姫たちをシャークティにまかせ、ネギたちの部屋へと向ったのだった。

相変わらずの迫力のシャークティに苦笑しながら・・・


「まっ、極力って言っても、アイツがこのまま避けて通れる相手だとも思えないけどな」


現実的な意見をボヤいていたのだった。

そうだ、平和的に? 争いごとを避けて? 

それがまかり通る相手なら・・・

自分がそういう体質の人間なら・・・

恐らく苦労はしないだろう。

フェイトという男は底が知れない。その分揺るがない信念のようなものを持っている。だからこそ、自分も強敵だと認めたし、彼も自分のプライドに賭けていずれは戦う運命になるだろう。

本来なら、むしろこちらから攻め込んでやりたいところだ。しかし、現在のグレン団の疲労度やネギたちの中には戦えない生徒も居るというのはシャークティの言うとおり、たしかにネックだろう。

ここはやはりシャークティの言うことが正しいのだと判断し、自分を押さえることにした。

すると、ネギたちの溜まっている部屋の前にたどり着くと、案の定同じ内容の話をしていた。



「いいですか! フェイトとはいずれやりあう運命です。しかし、彼らの目的でもある世界の破滅が今日明日に行われるものでなければ、・・・戦闘は極力回避! これを基本方針とし、奴らのアジトへ潜入してアーニャたちを救出、遺跡内のゲートポートを使用して、現実世界へ帰還します、それで全て終了です!」



よく通る声でネギが作戦について述べていた。


「作戦は30時間後! それまで各自体を休めて、皆で懐かしの学園に帰りましょう!」


「「「「「「「「おおおおおおおォォォォォーーーー!!」」」」」」」」


どうやら彼らも基本方針は決まったようだ。後はその作戦がうまくいくかどうかに掛かっているが、まあ今のところはこれでいいのかもしれない。


「ねえ、ところでフェイトって誰?」


「ああ、裕奈たちは知らなかったわね。世界征服みたいなのを企む悪の秘密結社よ」


「ええ~~!? そんなのがいんの?」


「ネギのお父さんたちの世代から続いている戦いらしくてっさ~」


基本方針が決まったところで、フェイト一味のことをまったく知らない裕奈たちがキョトンとした顔をしている。まあ、無理も無いだろう。いきなり世界征服などという漫画のような言葉はなじみが無い。


「っか~、そんなのがいるとはね~。まっ、世界の英雄の息子なら、そういうこともあるのかな?」


「そっか~、ウチらそんなこと全然知らなかった・・・・」


少し不安そうな表情になる裕奈や亜子たちだが、そんな彼女たちの不安を払拭するかのように、今のネギは強かった。


「安心してください、皆さん。何があろうと、僕たちが必ず何とかして見せます!!」


命に代えても・・・

教師として・・・・

そういった単語を使用しないのは成長の現われなのかもしれない。案の定、アスナたちも頷いている。

そんなネギと彼女たちの自信に安心感を持ったのか、裕奈たちも信じて頷いた。


「・・・相変わらずだな・・・あいつら・・・」


扉のドアノブに手をかけようとしたまま、シモンは中から聞こえてくる頼もしい声に笑みを浮かべた。

何度も思ったが、「大したものだ」と心からネギたちに思った。


「この分だったら、俺は必要ないかな?」


今の彼らなら本当に問題なくフェイトたちを倒せるのではないかと思ってしまった。ただの力勝負なら今のネギに勝てるものは、そんなにいないだろう。

いつの間にか子供だと思っていた子が、上へと駆け上がったことを、シモンは実感した。

だが、それが危うくもある。

力が強くてもやはりまだ子供だ。僅かな出来事で心が揺らぎ、道が逸れる事もあるだろう。

シャークティもラカンも、そう考えてネギたちを自分に任せたのだろう。

だが、シモンは中々ドアノブを回せないでいた。その躊躇いの理由は・・・


「ねえねえ、木乃香~」


「なんなん、ハルナ?」


「ふふ~ん、ねえ~、シモンさんを誘いに行かないの?」


「ッ!?」


「ブッ!?」


「「「「「☆!?」」」」」


いやらしい表情をしたハルナの発言に、木乃香は一瞬で顔を赤らめ、刹那は噴出し、クラスメイトたちはキラ~ンと目を光らせた。


「そうそう! 昨日は結局宴会で大騒ぎしてたから、シモンさんとはゆっくり話してないんでしょ? もう今日で最後だし、思い切って誘っちゃえば? いっその事、刹那さんも♪」


「ア、 アスナさん!?」


「わ~、デートですか~、でもシモンさんが一緒でしたら大丈夫ですね。僕が呼んで来ましょうか?」


「わ~・・・いいな~、木乃香も刹那さんも・・・私もネギ先生と・・・」


「な~に言ってんのよ、のどか! ヨーコさんが居ない今こそ、あんたもチャンスでしょ! 一発合体ぐらいしてきなさい!」


「が、合体!? のどかはネギ坊主と合体出来るアルか? それは何合体?」


「さ~? 純情合体じゃない?」


「・・・裕奈・・・それ・・・洒落になってないかもよ?」


中で勝手に話が進んでいく。

当のシモンは今正に部屋の前で、少し苦笑した状態で固まっているのだが、それをネギたちが気づくことは無く、皆がキャーキャー言って盛り上がっていたのだが・・・・


「・・・・・・・」


「ん? 木乃香?」


「木乃香さん?」


「お嬢様?」


話題の中心となるはずだった木乃香は一人だけ無言で、しかも少し俯いていた。


「ちょ、・・・木乃香・・・どうしたのよ? 何かあったの?」


「ううん・・・なんでもないんや、アスナ。そう・・・なんでもないから・・・ちょっと迷っとるんよ」


「「「「「「?」」」」」」


「昨日は久しぶりやったし、宴会ゆうこともあったから気にせんかったんやけど・・・・落ち着いたら、少し弱気になってもうて・・・・」


意外な展開だった。


「は~~? 何言ってんのよ、あんたらしくないわね~」


「そーそー、いつもなら滅多にないチャンスに飛びついてるんじゃない?」


天然オトボケ、恋愛一直線の少女が、何に恐れているのか、行動を起こすことに躊躇していた。

これには扉の前でシモンも少し驚いていた。どういう訳かと聞き耳を立てると・・・


「昨日の映像や試合を見とったら・・・シモンさん・・・ウチとか、せっちゃんとかエヴァちゃんとかまったく関係なく・・・・今後誰にも振り向かないんやないかって・・・」


(・・・・えっ、・・・俺?)


「ちょ、はあ~? ちょっと、木乃香! 何言ってんのよ!」


「そ、そうですよお嬢様! いきなりどうしたというのですか?」


突然の木乃香の弱気な発言に、シモンだけでなく室内は騒然とした。それもそのはずだ。振られようが、相手にされなかろうが、関係なく想いをぶつけていた少女が、いきなりこんな発言をするのだ。

アスナたちが身を乗り出すのも無理は無い。

だが・・・


「ウチかてそんな風には思いたない・・・せやけど・・・」


だからかもしれない。


「昨日・・・ウチには少し見えてもうたんや・・・・・」


木乃香だからこそ、分かったのかもしれない。

見えたのかもしれない。


「・・・今はまだ違うんやないかって・・・距離が・・・心の距離が違うんやって・・・・。ニアさんはこの世におらんでも、心は今でもシモンさんの傍におる。それは一生変わらないんやって・・・」


二人の間に割って入ることなど出来るはずがない。

断ち切れないのだ。今でも共にあるのだ。そんな二人の強固な絆を見せられて、自分の想いがいかにちっぽけで、幼稚なものかを思い知らされた日でもあった。

そんな木乃香には、アスナたちも暗い顔で見合って、何も言うことはできなかった。


「・・・・ねえ・・・・・・・ニアさんがこの世にいないって・・・・どういうこと?」


そんな時、少し言いにくそうに裕奈が口を挟んだ。

それもそうだ。何故なら彼女たちは昨日初めて、大グレン団やニアのことを知ったのだ。そのニアが、実は既に他界しているなど、彼女たちは信じられなかった。

しかし、アスナたちが暗い顔をしながらコクリと頷き、彼女たちは血相を変えた。


「う、うそ・・・え? ニアさんって・・・・亡くなってるの?」


「そ、そんな・・・だ、だって・・・シモンさんと同じ年ぐらいの人ならまだ若いんじゃ・・・・」


「そうだよ・・・テレビじゃあんなに元気だったのに・・・・」


「なんでなん? なんでニアさんは亡くなったん?」


まき絵もアキラも夏美も亜子も、知らなかった衝撃の事実に呆然としてしまった。

あれほど映像越しでも伝わってきた、とても魅力的なニアという少女が、既にこの世には居ないなどとは考えもしなかった。

いや、だからこそ木乃香たちはシモンにアプローチをしていたのかもしれない。だが、やはりそれでも信じられなかった。


「どうしてって・・・・・・・・」


アスナが質問に答えようとする。しかし・・・


「・・・・あれ?」


答えられなかった。


「そ、そういえば・・・・ニアさんってまだ若かったんでしょ? 何で亡くなったの?」


「・・・僕もそういえば知りません」


「わ、私もです・・・・」


そう、よくよく考えれば皆知らなかったのだ。何故ニアが既に死んでいるかなど、シモンからは聞いていなかったのだ。

それはアスナはおろか、ネギや刹那、木乃香ですらまったく知らないことである。


「えっ!? あれ? そういえば、どうして? やっば・・・知らなかったわよ」


「今まで避けてましたからね・・・僕もあまり聞かないようにしてましたけど・・・・事故・・・もしくは病気でしょうか?」


気づいた疑問に、中がガヤガヤと騒ぎ出した。

そこが潮時だろうとシモンも観念し、仕方なく扉を開けて、中に居るネギたちに告げる。



「成すべきことをするため・・・・そのために、あいつは文字通り命を賭けた」



「「「「「!?」」」」」



「それでもあいつは笑っていた。最後の最後まで笑っていた。涙も流さず、死を恐れることも無く生き抜いた。だからあいつは・・・俺たちは・・・幸せだった。だからそれでいいんだよ、俺たちは」



ピタリと誰もが話をやめ、微笑むシモンに振り返った。


「シ、・・・シモンさん?」


だが、その笑顔はシモンの強がりでもない本当の笑顔のはずなのに、何故か皆は涙が零れそうになった。


「・・・・シモンさん・・・・体は?」


「心配するな、ネギ。もう今は何とも無いよ」


ポンと軽くネギの頭に手を置いて、心配ないと諭すシモン。そして気まずそうな表情をしている少女たちに告げる。


「どうして昨日は俺の映像が流れたのかは知らないけど、実はあれはまだ・・・・続きがあるんだ。俺たち大グレン団最後の・・・真の戦いがな・・・」


「・・・えっ?」


「・・・・真の・・・戦い?」


「ああ。命がけの信念を通した戦いだ。その戦いの後にあいつは消えた・・・俺の心の中に想いを残して・・・・」


少し遠くを見つめるような表情となったが、シモンはすぐに首を横に振った。こんなしんみりとするために話しているわけではない。


「それでも俺たちは二人とも笑ってた。互いに満たされた。あいつも満たされたんだ。だったらそれでいいじゃないか。それに、詳しい話は時間が出来たらまたゆっくりしてやるよ。話す暇が無かっただけで、別にお前たちに隠しているわけじゃないんだからさ」


だからネギや目の前の少女たちにはしんみりとして欲しくは無かった。

同情など必要ないほど、今のシモンは満たされているからだ。


「まあ、その話はまた今度だ。フェイトたちのこともあるし・・・そうだな、学園に帰ってからでもいいんじゃないか? エヴァにも話してやらないと暴れそうだ。なあ、ネギ? それが成すべきことなんだろ?」


その言葉に、言いよどむわけにはいかない。

問われた言葉に、ネギは先ほどまでの表情を変え、まっすぐな瞳で頷いた。


「はい!」


「よしっ!」


そうだ、今はこれでいい。あの戦いに関しては、簡単に口で説明できるものではない。自分たちの宇宙の真実や、アンチスパイラルの覚悟、自分たちの掴んだ道、流石に今は語りつくせない。

そして、シモンの言葉にアスナたちも表情に笑顔が戻ってきて、ようやく先ほどまでの空気を取り戻した。


「そうね、そうよね! 辛気臭いままなんて、私たちじゃないわよね! それじゃあ、シモンさんの言うとおり、祭りを堪能して、フェイトたちもぶっ飛ばして、皆で麻帆良に帰るわよ!」


アスナの号令で、ようやく元の皆に戻った。


皆で再び「オーッ!」と叫んで、気合を入れたのだった。


これで一安心だろう。まだ完全にとはいわないが、どちらにしろこれから連中と戦うかもしれないのなら、前向きのほうがいい。


多少楽観的な考えだが、前向きな彼女たちこそ一番なのだから。





その後は各グループに分かれた。




ネギとアスナとのどかは闘技場へ行って世話になった人たちにお礼を言いに行き、ハルナとカモは、もう少し詳しい事情を亜子や裕奈たちに教えるそうだ。その時、ハルナが何か企んでいそうな顔をしていたが、あえて見なかったことにした。



そしてシモンはというと・・・



とある事情で、ある二人の少女を待たなければいけないことになり、その待っている間にオスティアから周りの雲海を見渡せる島の断崖の手すりに、久しぶりに会ったライバルと二人並んで腰を下ろしていた。



「僅か数ヶ月ですが、こうして二人で話すのは本当に久しぶりに感じます」



「ああ。学園祭以来だな」



シモンと茶々丸。

時にはライバル、時には戦友として様々な舞台で魂をぶつけ合った二人。

エヴァやネギたち抜きで、こうして二人きりで話すのは本当に久しぶりに感じた。


「昨日は見せてもらいました。あなたとニアさん。大グレン団。カミナさん。螺旋王。獣人。ガンメン。そしてグレンラガン。どれもが私の中に刻まれました」


「そうか。俺も会場に来てから正直驚いたけどな。ラカンが言うには、間違えて放映されたのを結局夢中になってそのまま放映したらしいからな。まさかこんな形で俺たちのことがこの世界に流されるとはな」


「ええ。誰もが見入り、誰もが心を熱くしました。そして、だからこそあなたという人が何故このような人なのか、皆が理解できたと思います」


「興奮してくれたのか?」


「血が滾りました。流れていませんけど」


茶々丸はスラスラと正直な感想を述べてくれ、シモンもそれはそれで満更でもなかった。


「まあ、命がけの戦いをそうやって言ってくれるんなら別にいいさ。少し恥ずかしい気もするけど、誇れるものだからな」


「そう・・・ですね・・・・」


「ん?」


だが、それとは別に、シモンは茶々丸に何か引っかかりのあるような違和感を感じた。


「・・・・・・・」


「茶々丸?」


案の定、その表情からは良く見ないと分からないかもしれないが、たしかに茶々丸は何かを言おうか言うまいか悩んでいるような表情だった。


「何か、分からないところでもあるのか?」


「えっ?」


「ハカセの仕業か、それともネギの所為か、数ヶ月前よりお前は感情が豊かになっているって言うのかな、とにかく読みやすいよ。何か気になることがあるって顔に書いているぞ?」


「ッ・・・・・」


改造か、魔力と科学の融合か、恋か気合かは分からないが、たしかにシモンの知っている以前の茶々丸よりも、更に感情が豊かになっていると感じた。まるで人間の少女のように戸惑っている茶々丸の成長に、少しうれしく感じていると・・・


「100万匹の猿・・・・」


「!?」


「100万匹の猿が地に満ちたとき・・・それはどういう意味ですか?」


予想もしない質問が飛んできた。

茶々丸の疑問はシモンにとっては予想していなかったものだった。まさかそんなことを聞かれるとは思わず、シモンは少々驚いてしまった。


「茶々丸・・・・」


「ネギ先生たちは気にしていませんでしたが、私は覚えています。螺旋王が最後に告げた言葉。ひょっとして、あなたの言う真の戦いに何か関係しているのですか?」


茶々丸のロボットとしての記憶力が、その言葉を記録していた。

誰もが興奮し、熱気冷めやまぬ映像を見せられながらも、茶々丸はただ一人ロージェノムの最後の言葉をちゃんと覚えていたのだった。


「100万匹の猿か・・・・」


アンチスパイラルをシモンは不意に思い出した。

別にシモンは隠しているわけではない。しかしどう説明していいのかまだ整理ができてなかった。

そんな時・・・・


「茶々丸は学園祭のとき・・・あいつに・・・超に何か聞いていないのか?」


「えっ、超ですか?」


シモンが口にしたのはロージェノムでもアンチスパイラルでもない。あの超鈴音の名前だった。


「聞いていません。ハカセも同じです。私たちは仕事内容を聞いただけで、あなたと超の二人の間に何があったのかはよく知りません。ただ分かったのは・・・超はグレンラガンと大グレン団を憎み・・・・どこまでも憧れていたということです」


「そうか・・・・」


超鈴音。

シモンが大グレン団としてこだわりを持って戦った少女だ。そして、もうこの時代にはいない少女の名だ。

何気なく口にしたその名前、しかしそれが少しシモンには切なく感じた。


「超か・・・たった数ヶ月前なのに懐かしく感じるな。あいつは笑って未来へ帰ったのか?」


「はい。誰が見ても満たされた笑顔で」


「そうか・・・なんか・・・あいつにも会いたいな」


誰の目から見ても超鈴音は満たされたと言えるほどの笑顔で彼女は未来へと帰った。

大グレン団を、そして本物のグレンラガンに乗りシモンと共に戦った彼女に心残りなどあるはずは無いと、茶々丸は胸を張って断言した。


「やはり超にとってもそうだったように、あなたにとっても超は特別だったのですか?」


「・・・そうだな・・・。ただ倒すだけじゃない。あれほど俺がグレン団であることにこだわって戦った相手はこれまでいなかった。そして俺を誰だか知りながら、それでも正面から向かってきた奴もいなかったからな」


「そうですか。やはり超が好意度ランキング一位だったのはミスではなかったようですね」


「えっ? 好意度ランキング?」


「いえ、お気になさらず」


茶々丸がサラッと言った言葉が少し気になったが、シモンはため息をつきながら茶々丸に告げる。


「昨日・・・・ラカンが言うには俺の記憶映像は間違って放映されたものらしい。でも、テッペリンを落した時の映像で終わった。俺が途中で現れたしキリも良かったからな。でも・・・」


「・・・まだ続きがあるのですね」


「ああ・・・そして・・・その続きの内容を、あいつだけは知っていた」


そう、続きがあるのだ。それこそがシモンとニア、大グレン団の真の戦いである。そしてそれを知るものはまだ誰もいない。

ただ・・・


「超の奴は全部知っていた。俺たちの戦いも・・・何故・・・何故ニアが死んだのかも・・・あいつは知っていた。それはつまり、あの続きの物語が未来では語られている。それも、超や世界を左右させるほどの影響を与えて」


そう、超だけは知っていた。

シモンやヨーコやブータでもない。自分たちとは次元の異なる世界で出会った彼女だけは知っていたのだ。

だが、超はこの時代の者ではない。だからこそ超のいた時代にシモンは居ない。

にもかかわらず超はシモンの物語を知っていたということは、いずれ世界がアンチスパイラルとの戦いのことも知ってしまうということにもなる。


(盗んだ奴が俺の記憶映像をどうするかは知らない。でも・・・何か少し嫌な予感がする)


そう、だからこそシモンは気が気でなかった。盗まれた自分の記憶映像を、盗んだ者は何をしようとしているのか、いやな予感がしてならなかった。


「シモンさん?」


そして、それが確実に起こる未来だとしたら・・・

既に確定してしまっている未来だとしたら・・・


「どうしたのですか?」


本当にどうしたものか分かったものではない。だが、そこでシモンは考えるのをやめた。


「そうだな・・・・これからどうにかするしかないんだよな」


「?」


超が過去を変える行為を許さなかったが、未来をそのまま受け入れることも大グレン団としては許せるものではない。


「結局俺は今この世界で、この時代でできることを精一杯やるだけなんだよな。未来にいるあいつに伝わるように、俺は成すべきことをするだけさ」


そう、今はできることをすればいい。それだけだ。その結果、超の未来にどのような影響を与えるかは知らないが、少なくとも今生きているこの時代で、望まぬ未来を受け入れる行為はできないのだった。




さて・・・ちなみに何故、超鈴音がシモンにとって特別だったのか?



それは自分を誰だか知るものの居ない世界でただ一人、彼女はシモンのことを知っていたからだ。



たとえ世界が違えども、シモンを知り、大グレン団を知り、グレンラガンを彼女は知っていたからこそシモンにとって特別だった。



だが、当然それだけではない。



彼女の想い。もっと言葉では語ることのできないような物が、シモンと超鈴音の間にはあったからこそ、彼女は特別だったのだ。



だから、『知っている』だけではだめなのだ。



もしそうだとしたら・・・



「3・・・2・・・1・・・0」



知っているだけで良いのだとしたら・・・・



「ふふふ・・・・も~い~か~い?」



この男もたった今からシモンにとっては特別な存在となってしまう。



「見つけに行くよ~?」



超鈴音もヨーコも居ない今、この宇宙で、地球と魔法世界を含めてシモンの全てを知る存在となった者はただ一人だけだ。



「どこに居るのかな~? ふっふっふっ・・・ひひひ・・・ひはははははは」



盗まれたシモンの記憶映像。


それにより、シモンたち大グレン団の物語の続きを誰一人として見れなくなった。


だが、例外がある。それは盗んだ張本人だ。記憶映像を盗んだ張本人だけは、続きを知ることができたのだ。



「顔神遺跡か。大して興味も無かったが・・・ひははは、とんでもないお宝だったようだな。大グレン団? 螺旋王? ・・・・ふふふ、アンチスパイラル? だからどうした?」



そしてその者は、誰も居ない薄暗い遺跡の中に足を踏み入れ、まるでかくれんぼの鬼のように探し物へと近づいていた。


そして見つけた。



「おっ! ふふふ、あったあった」



古ぼけた、しかし間違いなくシモンの記憶映像に映っていた物体と同じものを目の前にして、男は・・・いや・・・鬼は笑った。



「ラガンちゃん見~~つけた♪」



ネギでも、アスナでも木乃香たちでも、ましてや美空たちや新生大グレン団たちでもない。


この世界で、この時代で、シモンを除いて一番最初に螺旋族とアンチスパイラルの戦いを知る存在となったのは、なんと狂った鬼だった。


そして今、その鬼が決して手にしてはいけないものを見つけてしまった。



そのことをまだ誰も知らなかった。
最終更新:2011年05月13日 20:53
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