第百八話 俺は何も分かっていない・・・か・・・ 投稿者:兄貴 投稿日:10/03/24-15:50 No.4317
現実世界への帰還は30時間後に作戦を開始する。それまでは白き翼も新生大グレン団もない。各々が束の間の息抜きの時間を自由に満喫するのだった。
あるものは愛に悩み、自分の存在に悩み、そしてあるものは出会った人たちとの別れを告げるため、各々の時間を過ごすのである。
そしてシモンはというと、刹那と木乃香と共に居た。
茶々丸と別れ、そして今はボディーガード兼今までのお詫びということで祭りの中を三人で歩き回るのだった。
「ほら二人とも! 今日は思う存分遊ぶんやからな!」
クルクルと足取り軽く前を歩く木乃香は非常に機嫌が良さそうだ。
まったく疲れを知らないのか、幸せそうな笑みを絶やすことなく歩き回った。
「お嬢様、待ってください!」
「ううん、待たん! 今日は記念すべき日なんやから、いっぱい楽しむんや! ほら、シモンさんも! あっ、このおかし美味しそうや~、ほら、二人とも食べてみい」
「ちょっ、落ち着こうよ、木乃香」
「いややも~ん、ウチは今日おもいっきり楽しむって決めたんや!」
露店に並ぶおかしを食べたり、珍しいアンティークに目を輝かせ、可愛らしい服を見つけては何度も自分と刹那に宛がって、シモンに感想を求めた。
平和で満ち足りた光景に、明日には世界を左右させるかもしれない戦いに巻き込まれるかもしれないということをすっかり忘れてしまっていた。
「やれやれ、さっきまでは少し落ち込んでいたのに、元気だな~」
「ふふ、そうですね。シモンさんとニアさんの絆を見せ付けられ、少しお嬢様も弱気になってしまったようですが、今は復活したようにみえますね」
シモンとニア。
二人の絆を見せられて気落ちしていた木乃香だったが、今はそんなことを忘れたかのように、無邪気にはしゃぎまわる。
「ほんとだな。さっきまでは少し木乃香らしくないって思っていたけど、あいつはああやって、ほんわかと笑っているほうが木乃香らしいよ」
「そうですね・・・・・・・・そう・・・本当に和やかで、楽しい一時です。・・・ですが・・・」
「ですが? どうしたんだ? 何か気がかりでもあるのか?」
「・・・・・分かりませんか?」
「?」
その様子にシモンは苦笑するが、刹那は途端に目を細めた。
「お嬢様は・・・・復活したように見えますが・・・・」
「見えるけど?」
「・・・・内心・・・そう簡単ではないと思いますよ?」
「・・・えっ?・・・そうなのか?・・・」
その言葉にシモンは驚いたように目を見開いて、木乃香を見る。しかし一見変わったようなところは見られない。
だが、刹那は見抜いていた。
天真爛漫に祭りと愛おしい男との一時を謳歌しようとしている木乃香。
しかし、元気なように見せているだけで、本当は・・・・
「空元気・・・なのか?」
「私にはそう見えます。昨日は熱く燃え滾るあなたたちの絆に・・・・私ですら妬けてしまいましたから」
「・・・・・・・・」
小さく儚げに微笑む刹那に、シモンは胸が僅かに痛んだ。
「ほら二人とも~、何こそこそ話しとるん? 内緒話はずるいえ」
「いえ、何でもありませんよ、お嬢様。それより、あちらのおかしもおいしそうですよ?」
「あ~ん、ほんまや~、ウチこれもほしー!」
そう、木乃香は見せ掛けだけの元気を振りまいて、内心では少し傷ついているのだろう。
よく見れば確かに少し大げさで、無理やり明るく振舞っているように見えなくもない。
なるほど、それを一目で気づく刹那は流石だということだ。
「・・・・・無理やりに・・・か・・・」
「はい、私には分かります。なぜなら・・・・・・・私も・・・・・・いえ、何でもありません」
刹那は何かブツブツと最後にシモンに呟いたが、聞こえなかった。
そして、木乃香だ。彼女がもし刹那の言うとおり無理やり明るいフリをしているのなら、その原因はシモンも分かっている。
それは木乃香が先ほど言っていた言葉につまっている。
―――シモンさん・・・ウチとか、せっちゃんとかエヴァちゃんとかまったく関係なく・・・・今後誰にも振り向かないんやないかって・・・
そう、確かにあの時の木乃香は、非常につらそうにその言葉を口にした。
初めて見せた弱音・・・
結局あの場はニアの事であやふやになってしまったため、シモンはその言葉に何も応えてやれていない。
(俺が誰にも振り向かない・・・・・まあ、そうなんだと思うけどな・・・・)
その答えは彼女自身の心の傷に追い討ちをかけてしまうことになる。
だが逆に、むしろ以前のようにハッキリと言ってやったほうがいいのかもしれない。
木乃香は以前自分に想いを告げてくれたとき「あきらめない」と決意して、困難な道を進むことを決めた。
その真剣な想いを感じたからこそシモンも無理に拒絶しなかった。
だがしかし、昨日の戦いでニアが自分にとってどれほど大切だったのかを再認識した。
(ニア・・・・お前は何て言うだろうな。でも・・・俺はやっぱりお前のことが・・・・そりゃあ分かっているよ、この子達の気持ちは・・・・でもな・・・)
この想いはやはり一生変わらないのだろうなとシモンは思った。
「刹那・・・俺は学園祭であいつの気持ちに正面から見ると約束したんだ。ニアを関係なく俺があいつをどう思うかってな・・・・」
「・・・・・はい・・・・知っています。・・・しかし・・・・それでもやはりあなたは・・・・」
「ああ・・・やっぱり俺たちは、死んでも切れないよ・・・・」
ニアのことを考えずに、他の女性のことを考える。それは無理な話なのかもしれない。
こと、「愛」の話になって真っ先に思い出すのがニアだからである。その彼女を無視して他の人を考えるなど、つらすぎた。
すると・・・
「シモンさん・・・・以前・・・剣と幸せのどちらを選ぶかという選択に悩んでいた、小さな女が出した答えを覚えていますか?」
「えっ?」
突然問われたシモンだが、ちゃんとそのことは覚えている。
たしか刹那が初めてシモンに告白した日であり、そして自分の進むべき道を決めた日でもあった。
「両方を選ぶ。・・・・あなたも随分と簡単に言ってくれましたね」
「ああ、覚えているよ」
覚えているとも。そう、シモンが微笑んだ。
シモンは、刹那が両方を選ぶと言ったときに「そんなのあたりまえじゃないか」といった感じで、当たり前のように言ってきた。そのことに武道会の会場中がひっくり返り、刹那自身も頭を抱えて「今までの悩みはなんだったんだ・・・」という感じでうな垂れていた。
すると刹那はその時のことを思い出して・・・・
「シモンさん・・・・両方を選んでもいいと思いますよ?」
「?」
「・・・・胸の中に居続ける人の想いと共に生き続けることも・・・・その人以外の人も愛することも・・・・」
「なっ!?」
「両方を選んだ今の私は、以前よりも心も剣も冴えわたり充実しています。将来はどうなるかは分からないんですから、決め付けないでください。それに、愛が宇宙を変えるとか言ったのはあなたですよ? そのあなたが、他の誰ももう愛さないなどと言わないでください」
少々・・・いや、かなり度肝を抜かれてしまった。
まさか一回りも年下の、しかも以前まではかなり頭の固い剣一筋の少女に諭されてしまったのだ。
シモンがあまりのことに呆然としていると、急に刹那もハッとして顔を真っ赤にしてすぐに頭を下げた。
「なっ、って・・・も、申し訳ありません! 私ごときが生意気にも分かりきったようなことを言ってしまい!? あ、あああ~~・・・し、失礼しましたーーーーッ!?」
自分が言った言葉に今更恥ずかしくなったのか、刹那は逃げ出すように走り出した。
(わ、私としたことがーーーッ!? 私なんかがシモンさんに対して将来を諭すような真似を・・・ぬわああああ・・・とんでもない失礼なことをしてしまった~、簡単に割り切れないほど強い想いだからこそ、シモンさんもあんな儚げだというのに・・・)
頭を抱えて変な人の様に体をくねらせて葛藤する刹那。木乃香や街の人たちは皆、突然の刹那の動きに驚いていた。
だが、そんな刹那の後姿を眺めて、シモンは改めて考えさせられた。
「将来・・・・か・・・・」
「シモンさん・・・せっちゃんどうしたん? 何か変や」
「・・・・変じゃないよ。・・・・あいつは・・・変じゃない・・」
身悶える刹那に、目の前で首を傾げる木乃香。
本当に自分はどうしてやるべきなのかと考えて、シモンは少し頭が痛くなったのだった。
「なあ、木乃香・・・・」
だが、その痛む頭でも、どうにかしなければならないことは分かっている。シモンは不意に木乃香の名前を呼んだ。
しかし・・・
「ん~?」
ニッコリと笑って見上げてくる木乃香の表情に胸を痛めた。これが作り笑いなのかと思うと、少し申し訳ない気がした。
「・・・・いや、何でも無いよ」
「え~~、なんなん? 気になるえ~」
「なんでもないよ。ほら、刹那がどこか行っちゃうから、早く追いかけるぞ」
「あ~ん、シモンさんもせっちゃんも置いていかんで~」
子供に気を使われるとは、いよいよ自分もまずいらしい。
そろそろ本当にハッキリしなければならないなという気持ちが湧き出てきたのだった。
だが、そんな想いを抱いたシモンだったのだが・・・・・・
「いたぞォ! グレン団のシモンだァ!!」
「ほんとよーッ! キャーッ! ブータも肩に乗ってるわ! 触らせて~~!」
「俺をグレン団に入れてくれェ!!」
「サインくれーーーッ!」
「しまったな~」
「も~う、シモンさん有名すぎるえ~」
「賞金首である私たちがせっかく変装していても、これでは意味がないではありませんか!」
祭りに行きかう人々が、走るシモンに振り返れば、皆後を追いかけて走り出した。
誰もが一躍有名人となったグレンラガンのパイロット、大グレン団のリーダー、穴掘りシモンを知り、今では偽ナギ並みの注目の的となってしまった。
「テレビの効果って凄いんだな~」
「あ~ん、せっかくシモンさんとのデートやと思っとったのに~!」
「相変わらずシモンさんと一緒に居ると落ち着けませんね!」
追いかける民衆から逃げる三人。
シモンの存在が祭りの客に気づかれてしまい、今に至る。
とにかく、木乃香と刹那が賞金首である以上、囲まれて騒ぎを起こすのだけは避けたくて三人は慌てて今逃げているのだった。
だが、一人が騒げば誰もが振り返る。しかもシモンは、今まさに魔法世界では偽ナギ並みに時の人となった旬の男。
騒ぎが収まることなど容易ではなかったのだった。
群がるファンたちから逃れるため、人ごみ掻き分け逃げ惑い、その情報は直ぐに駆け巡った。
「ええ、そう。分かったわ。でも、総督の命によって既にシモンさんは逮捕できないのでしょ?」
その情報を部下からの念話で聞いたアリアドネーのセラスは頭を抱えていた。
「ええ。あなたも大変ね。怒りたい気持ちも分かるけど、彼に害はないことは、一緒に戦ったあなたが一番良く知っているでしょう? だからここはあなたが大人になりなさい、エマ」
セラスは念話を使って、まるで相手を宥めるような口調で話していた。そして宥められているのはエマ。どうやら再びシモンが騒ぎを起こしたと聞き、一番早くに駆けつけたのがエマだったようだ。
セラスはシモンが逮捕できないこと、そして後はエマに任せるとして念話を切り、軽くため息をついた。
「まったく、また彼なの? どういう星の下で生まれたらこんなことになるのかしら。グレン団の人ってどうなっているのかしら?」
「え~~、しかし総長。我々も生シモンを見たかったです」
「昨日の映像を録画しなかったのが一生の不覚」
「はいはい、大したものね、本当に」
ため息をつくセラスの背後には、武装したエマと同じ戦乙女たちが横に広がってこの祭りの中を歩いていた。
警備、パトロール、と呼ぶには少し仰々しい気もする。
何故ならセラス自らが動いているからだ。本来アリアドネーのトップでもある彼女が自らこのように動くことなど珍しいのだ。
そう、これにはわけがあった。
(さて、今はシモンさんよりネギ君のほうね。エミリィの報告によれば、武装した兵士を引き連れた総督と遭遇したようだけど・・・少し嫌な予感がするわ)
彼女自らが現場に動く理由は、ネギにあった。
「でも、今はシモンさんよりこちらが優先よ。総督殿が我々に連絡もなしに、武装した兵を引き連れているとの連絡があったわ。今すぐ現場に駆けつけるわよ」
そして彼女も何か言い知れぬ嫌な予感を感じながら、部下を引き連れて現場へと急いだ。
そして・・・
逃げ惑っていたシモンたちは・・・
「ほほ~う、つまり最初から騒がせる気はなかったというわけで、後ろの子達も罪ではないと言いたいのか?」
セラスに宥められたばかりなのに堪忍袋が後一歩でブチ切れる寸前の戦乙女のエマに捕まってしまったのだった。
「ふ・・・ふふふふ・・・ふふ」
「・・・・エマ?」
「総督殿の権限により、貴様を逮捕できなくなっただけではなく、なぜか一緒に居るゲートポートテロリスト容疑者である白き翼の二人も、たった今セラス総長の命により逮捕できなくなってしまった。・・・ふふ・・・ははははは・・・」
因縁のシモンを、そして指名手配中の木乃香と刹那を祭りの騒ぎの中から見つけ出し、三人はエマによって捕らえられ、祭りの客にばれぬ様に顔を隠しながら、オープンカフェに腰を下ろして尋問を受けていた。
だが、シモンは先日のこともあり逮捕できない。
そして、木乃香と刹那への尋問をしようとした瞬間、セラスから白き翼たちを逮捕してはいけないと言われてしまった。
「ふふふ、はははははははは」
これを聞いたエマは・・・・・
「ははははって・・・ふざけるなァァーーーーッ!!」
憤りを隠せずに、テーブルを拳で叩き割った。
「ひっ!?」
「お、お嬢様、お下がりください!」
「まあ落ち着いてくれよ。エマ」
粉々になったテーブルにビックリして、刹那が慌てて木乃香を庇うように立つが、シモンは顔を引きつらせながらもエマを宥めようとする。
だが、エマの怒りは収まりそうもない。
「これが落ち着いていられるかァ!! 貴様も、そこの女共も、そして総長も我々を何だと思っているんだァ!! 上層部の勝手な都合で規則や法律を捻じ曲げて! 掟の門番とも言うべき我らがそれを覆したら一体どうなるというのだ! 事件は会議室ではなく現場で起きているというのに!!」
「それを言われると、俺も何も言い返せないよ・・・・」
「大体なんで逮捕できないのだ? 貴様か? 全て貴様の所為か? 全ては貴様から狂った! クビになってもいいから、やはり貴様はこの手で倒さねば気がすまん!!」
身を乗り出してギャーギャーと騒ぐエマ。
今この場にはアリアドネーの戦乙女は団長である彼女だけしか居ない。
ゆえに彼女を止めるものなど誰も居ないため、本当にエマは後一歩間違えればシモンに攻撃を仕掛けてしまうほど怒っていたのだった。
「くっ、なんという殺気。シモンさん・・・いつの間にこんな人とお知り合いに?」
「しかも美人さんやし~」
「ああ。実は昨日すごい世話になってな。その・・・なんて言えばいいのか・・・」
チコ☆タンたちとの戦いは世間に公表されないまま処理された。
それはクルトとの交換条件でもあったため、こればかりはシモンも言葉を濁してそれ以上のことは言えなかった。
「ちっ、しかし貴様らは一体どういう関係なんだ? まさか妹がまだ居たとでもいうのか?」
「えっ? 美空ちゃんのことも知っとるん?」
「ん? ああ、そういえばそんな名前だったな」
「私たちはシモンさんの妹ではありませんが・・・・その、・・・・友達・・・です」
刹那が少し躊躇った後、「友達」という言葉で自分たちの関係を述べた。
するとこの言葉に普段なら真っ先に反論しそうな木乃香も、少し寂しそうに微笑みながらも頷いた。
「うん。ウチらは、シモンさんの・・・友達や・・・」
「・・・・木乃香・・・」
先ほどまでとは打って変わり、見せる木乃香の寂しそうな表情。
その寂しそうな横顔にシモンは何も言ってやれなかった。
しかし・・・・
「・・・・・!」
エマは見抜いてしまった。
木乃香と刹那の寂しさを誤魔化した無理やりの笑顔。
自分たちはただの「友達」だという言葉をあれほどつらそうに言う理由を、エマは同じ女性として一瞬で感づいた。
二人はシモンに恋している。
しかし当のシモン本人は二人を女として見ていない。エマの鋭い洞察力が、三人の関係を一瞬で読み取った。
だからこそ・・・
「貴様・・・・・シモン・・・」
「えっ?」
「貴様はこの世の雄の中で最も迷惑な存在だ!! 今すぐ死滅しろォ!!」
「ええッ!?」
エマが余計に怒りを振りまいて、本気でシモンに斬りかかりそうになるほどの勢いを見せたのだった。
「昨日、僅かながらも胸を熱くさせた自分に腹が立つ! 無法者で、少女を誑かし、幾多の野蛮な連中を先導した貴様はやはり悪の根源だ!! その罪を万回贖えェッ!! 大体、われわれが貴様らの所為でどれだけ忙しい目にあっていると思っている! その貴様が何故女とデートなどしている! ふざけるなァ!!」
聞く耳持たずに暴れるエマ。その一言一々は意外と反論できないものであり、シモンは苦笑せざるを得なかった。
戦乙女の大刀とシモンのソルバーニアが街中で交差して、一瞬にして注目を集めるほどの衝撃波を巻き起こした。
(うう~~、何でこうなるん!? ようやくデートやと思っとったんにーー!)
(ううう~~、今日は幸せでありふれた一日を過ごそうと決めていたのに、いつの間にかドタバタ展開になってしまっている!? 恐るべし、シモンさんのお騒がせ能力!)
想像していた展開とかなり違う。
シモンを真ん中にして両端を自分たちで固め、あわよくば腕を組み、三人並んでイチャイチャとラブラブな展開を期待していなかったといえばうそになる。
しかし現実は違う。
デートかと思えば、周囲の人に追い掛け回され、そして今では・・・
「裂けよ極光(オーロラ)! 忌々しき悪雄に断罪の光槍を今放たん!! 」
「ま、・・・・待てって言ってんのに!!」
自分たちをそっちのけで知らない女と言い争っているのだった。
「「なんでこうなるん(ですか)ッ!?」」
心底泣きたくなり、顔を突っ伏し、悔しそうに叫ぶ二人をよそに、しばらくエマとシモンのレベルの高い攻防が続くのだった。
そしてその間に二人の喧嘩を賭けの対象に野次馬が集まれば、シモンの正体に気づいた者たちがまた騒ぎ出す。
コレが繰り返しで結局木乃香と刹那の望む一日は絶たれてしまうのだった。
「はあ、はあ、・・・・くそ・・・・くそ・・・・」
「はあ、・・・はあ・・・少し落ち着いてくれたか?」
お互い肩で息をしながら、シモンは睨みつけてくるエマを宥めようとする。しかしエマは落ち着くことなく、眼光の鋭さはいっそうに増した。
「くそ・・・何故逮捕できん。それに何故貴様なんかに私は勝てない・・・・」
「ああ・・・・・ごめんな・・・・」
「謝るな!! くそっ・・・・むなしくなる」
そしてエマはカランと音を立てて地面に大剣を置き、不貞腐れるように再び椅子に座った。
「まったく、貴様に総督の息がかかっていなければ、今すぐにでも監獄にぶちこんでやりたいところだ」
「・・・・そうかもな・・・・」
「はあ~~、もう、調子が狂う。一体お前は何なんだ! それに昨日お前の記憶映像が間違って放映されたらしく、隊に帰還したら部下たちが貴様のことでキャーキャー、甲高い声で騒いでいるはでもう、昨日から不愉快で仕方ない!」
「あっ、そうか。エマは皆と一緒に居たから見ていないのか」
一頻りギャーギャー騒いだ後、ようやく少し落ち着いたエマが深くため息をついた。
「ああ。エミリィやコレット、ミルフ殿やマンドラ隊長たちもな。まあ、私はそんなもの見たくもなかったがな」
「ミルフにマンドラか・・・。記憶を取り戻してみると、意外とあいつら顔とか名前も似てたりするんだよな・・・」
「ん? 誰にだ?」
「いや、こっちの話だよ」
あえて、そのことは言うまい。このことはシモンの心の中だけに閉まっておくことにした。
「ミルフやマンドラで思い出した。あいつらにもお礼を言いたいんだけど、今忙しいのかな?」
「ふん、忙しいも何も昨日の処理があって、二人は今オスティアには居ない。政府特別大監獄にて連行したものたちの聴取を行っている。・・・流麗のディーネを含めて、大戦期から活躍した二人の顔見知りも多かったらしくてな」
「えっ? 流麗のディーネ?」
「知っているのか? 私は会ったことはないが、20年前はアリアドネーの学生時代にセラス総長と並ぶほどの実力者であり、ミルフ、マンドラ、ディーネ、そして彼らと何度か行動を共にしていた不動のアムグという首都の元将軍を含めて、伝説の獣戦士四天王とまで呼ばれていた人物の一人だ。もっとも大戦終了時にディーネは問題を起こして退学。アムグは引退して隠居したという風に聞いているが・・・どうしたのだ、俯いて」
「いや・・・偶然って怖いなって思っただけだよ」
世界は広い。
自分の知っている人と似た顔や似た名前、似たような集団も居るものだとシモンは笑うしかなかった。
「な~、シモンさんも、エマはんも何の話してるのか分からん~」
「唯一分かるとすれば、私たちの知らない間にシモンさんは何やらとんでもないことをやっていたということだけですが・・・・」
二人だけの会話に少し置いてきぼりを食らった木乃香と刹那は頬を膨らませて拗ねている。
「ふう・・・・それにしても貴様は・・・・・・・いや、いい。これ以上聞いても仕方のないことだろう」
そんな二人に気をつかってか、エマもまだまだ言いたいことがシモンにあるようだが、大きくため息をついて仕方なさそうに立ち上がった。
「どちらにせよ貴様は逮捕できん。だから私はもう帰らせてもらう。しかし、シモン。逮捕は出来ないが犯した罪はちゃんと償うんだな」
エマが一人立ち上がって、この場を去ろうとする。
「罪か・・・確かにお前たちには本当に迷惑をかけたよ」
少し実感のこもった口調で言うシモン。だが、途端にエマは怪訝な顔になった。
「ふん・・・・何を言っている。人の迷惑を処理するのも我らの仕事だ。そんな我らに償うよりも、お前はもっと身近な人に罪を贖うべきだろう」
「・・・・・身近な人? それじゃあ俺は一体どんな罪になるんだ?」
罪を償えと言われても、罪状がハッキリしない以上どうしようもなかった。
そもそもシモンの罪は何か? 瀬田たちとの共謀。国家反逆罪。大喧嘩。色々ありそうだが、何をどう償えばいいのか答えが思いつかない。
しかし、そんなシモンの考えをエマは鼻で笑った。
「バカめ。貴様は罪状も述べられなければ理解もできないのか? ならば今ここで貴様の有罪判決と罪状を述べてやろうか?」
椅子をしまい、体を反転させて歩き出したエマ。そして彼女は去り際に、たしかにこう言った。
「妹を泣かせた罪だ。もう二度と泣かさぬことだな。・・・・あと・・・・そこの少女たちもな・・・・」
顔を見られたくはない。エマは自分の表情を正面から見られたくないために、足早になってこの場から離れていく。
だが、エマの言葉はシモンの耳にハッキリと届いた。シモンはスッキリとした表情で嬉しそうにしながら、立ち去るエマに向かって叫んだ。
「ああ!! 約束する!!」
「お、大きな声を出すな! この愚か者が・・・」
照れ隠しのつもりなのだろうか、エマはもう振り返らない。
しかしシモンは絶対にその約束だけは違えぬと、自分自身へ、そして矛を収めてくれたエマに向かって誓った。
「はー、台風みたいな人やったな~」
「結局あの人は何だったんですか?」
立ち去るエマの後姿を眺めながら尋ねる木乃香と刹那。シモンはその問いに少し考えて、エマは不服かもしれないが、自分が思った想いを告げる。
「そうだな~。戦友かな?」
「戦友ですか? ・・・・本当にシモンさんは私たちの知らないところで何をやっていたのですか?」
「ほんまや~。しかももう一緒にお祭り回る時間もあらへん~」
もうだいぶ時間が経っていた。今からこの広い祭りを見て回るのは無理な話だろう。
だが、表情は拗ねているように見せて、木乃香もそれほど怒っている様子は無い。ただ、一緒に居る。それだけで今の彼女は満足なのだ。
一緒に居られるだけで良い。今はそう思うことにした。
シモンたちのやり取りを知らぬまま、ネギはこの男とついに出会うのだった。
「おやおやおや、これはどこかで見た顔ですね」
その男は突然ネギの前に現れた。
胡散臭い笑みの裏に、人には言えぬ企みを匂わせて、少年の心を惑わした。
「総督殿。これは一体・・・・あなたは昨日の我々の大喧嘩の後処理があったのでは?」
この場に居たのはネギだけではない。アスナ、のどか、そして街で偶然再会したエミリィ、ベアトリクス、コレット、そして夕映。
街でのどかが偶然夕映を見つけたのが事の発端。既にエミリィたちとは顔見知りだったネギたちは自然に話し合いへと流れた。
だがそこに、思いもよらぬ客が表れた。何の報告も騒ぎも起していないにもかかわらず、武装した兵士たちとそれを率いたオスティア総督のクルトがその場に現れたのだった。
「総督殿。これはどういうことでしょうか? 祭りの最中に武装が許されているのは、我らアリアドネーだけですよ?」
「ふふふ、昨日のこともありましたからね。もう心配はいらないと思いますが、一応祭りの間は守りを強化しようと思いましてね。まあ、これも平和のためというやつですよ」
その表情はワザとらしい笑みを浮かべている。
胡散臭い。それがネギたちの初めて見る総督の印象だった。
「さて、そこの少年」
「!?」
笑みが歪んで、更に不気味さが増した。クルトに睨まれたネギは、背筋を一瞬震わせた。
「少しお話しませんか?」
「は、・・・・話・・・ですか?」
その歪んだ口元から、ネギは想像もしていなかった言葉を聴いた。
「ええ。災厄の女王、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの遺児である君にね!」
張り詰めていた空気が弾け飛んだ。
「ッ!?」
「「「なッ!?」」」
―――!?
クルトの口から発せられた言葉に、アスナとのどかは動揺の色を隠せない。「やはりそうだった・・・」「アリカ姫」「遺児?」この単語が頭の中で駆け回り、彼女たちは声を発せられないでした。
だが・・・
「おや?」
クルトは、ただ一人その言葉を受け止めて真っ直ぐな眼差しで見つめてくるネギに意外そうな表情を見せた。
「驚きましたね。・・・・殴りかかってくるぐらいの野蛮さを見せると思ったのですが、10歳の少年にしては冷静だ」
「・・・・・・・・」
だが、冷静そうに見えても本心ではそこまで落ち着いてはいられない。
ネギはギリギリのところで耐えているだけだ。そのギリギリの寸前まで自分を抑えながら、辛うじて言葉を発する。
「何者ですか、あなたは?」
その問いに、クルトはニコリと笑って答えた。
「真実を知る者ですよ♪」
この数分後に、とてつもない落雷音が、オスティアの中に響き渡るのだった。
最終更新:2011年05月13日 20:54