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108-2

「テルティウム?」


エマが立ち去った後のオープンカフェから、結局シモンたちは移動せず、そしてシモンはこれまでの経緯を刹那から聞いていた。


「はい、フェイトの本当の名前はテルティウム。ラテン語で3番目という意味だそうです。これはのどかさんが体を張って手に入れた情報です。多分間違いないでしょう」


「3番目か。そういえば俺が間違ってラカンフィルムから持ってきた紅き翼の映像。フェイトも出ていたが身長も大きかったし、若干俺の知っているあいつとは違う気がしたな。・・・・3番目か・・・・」


初めて知ったフェイトの本名。そもそもフェイトが何者か、そして目的や考えなどシモンは何も知らない。

ただ、決着をつけなければならない喧嘩相手。

そこには大義も何もあったものではない。

ただの意地と意地のぶつかり合いだ。京都の修学旅行からの因縁の相手。それだけだ。

だからフェイトの素性などは元々それほど気にしていなかった。


「世界の滅亡で世界を救うか・・・わけが分からないな」


そのフェイトの目的を刹那に説明されたシモン。しかし納得も理解も、ましてやちっともピンと来ない話だった。

だが、一つだけ分かったことがある。

それは・・・・


「まあ、世界征服とかそういうのに興味がありそうな奴じゃなさそうだから、その目的が何を意味しているかは分からない。でも、一つだけ言えるとしたら・・・・あいつは揺るがないな。少なくとも話し合いで解決できる相手じゃない。まあ、向こうから先に手を出してきて、ネギもその喧嘩を買ったようだから今更なんだけどな」


そこのことには刹那も同意で頷いた。

争いは避けられない。それが今日明日か当分先の話かは分からないが、それほど遠くない日にぶつかる予感は感じた。


(しかし、滅ぼして救う・・・守る・・・まるでアンチスパイラルみたいな奴だな。なら・・・・)


少し昔を思い出してシモンは旧敵とフェイトを重ねた。すると、尚のことフェイトが一筋縄ではいかないというのが想像できた。


「フェイトは・・・・簡単じゃないな」


「それは我々も理解しています。それに月詠やゲートポートで襲ってきた連中は皆かなりの実力者でした。全面衝突となればこちらもある程度は覚悟が必要でしょう」


「いや・・・そうじゃないよ」


「えっ?」


「相手が強いとか、弱いとか、そういうレベルの話じゃない」


刹那が少し首を傾げた。

だが、シモンには分かる。フェイトをアンチスパイラルと重ねてしまったからこそ、一番厄介なことを理解してしまった。

シモンがアンチスパイラルから感じたこと。それは単純な戦闘力の話ではない。


「決意、覚悟、道理、・・・その圧倒的な想いを持った敵が昔いたんだ。もしフェイトがそういう奴なのだとしたら、・・・・」


そんな相手を崩すには、こちらも覚悟をしなければならない。

口だけではない。

ただカッコいい言葉を並べるだけではない。

本当の覚悟を持っていなければ、立ちはだかることすら許されないのかもしれない。


「・・・・・・・・・・・」


「シモンさん?」


だが、シモンはそれ以上言わなかった。いや、言えなかった。

それほどの事を、刹那や木乃香、そしてネギたちたちに今求めるのは少し無理がある。

それにもう、ネギはラカンにも認められた一人前。自分も認めた男である。

ならば、その答えは・・・・・


「・・・・心を・・・押し潰されないようにしないとな・・・・」


それしか言えない。

アンチスパイラルと戦ったとき、正直何度も心が折れそうになった。

尽きない絶望。

見えない希望。

失う仲間。

失う未来。

答えの出せない迷宮。

敵の決意。

覚悟。

道理。

真っ直ぐ突き進んでいただけでは決して打ち破ることが出来なかった。

だがそれでも自分たちは打ち勝った。失った友、死してなお自分を導いたアニキ、そして・・・


――シモン、あなたはあなたの成すべきことをするためにここまで来た。そうでしょ?


あの言葉が無かったら、あれほどの想いを持った敵には勝てなかっただろう。


「ここがあいつの・・・・分岐点なのかもしれないな」


運命の分岐点。

ネギはひょっとしたらこの戦いで選択を迫られるかもしれない。その時、ちゃんと覚悟を持って自分の答えを貫けるのか・・・・・


「ん~~~、シモンさ~ん。ウチよ~わからん~! も~、今日はそういう話は無しが良かったんに~!」


するとようやく今まで黙っていた木乃香が頬を膨らませて口を挟んできた。


「えっ、ああ・・・・ごめん。いきなりこんな話になっちゃって・・・・」


「も~、ひど過ぎや~、今日はせっかくの日やのに、シモンさんもせっちゃんも真面目な話ばっかしてつまらん~」


「はは、お嬢様、しかし今日明日のことを考えると・・・その・・・」


「も~、せっちゃんも固いこと言ったらアカン~! 二人の親友合体の誓いを忘れたん?」


「え・・・えええ~~!? あれ、やはりまだ生きていたんですか!?」


「当たり前や!」


「・・・・何の話だ?」


つぶやくシモンに業を煮やした木乃香が口を挟み、フェイトの話がどこかへ行ってしまった。

刹那も少し慌てているが、木乃香の少しまずい発言の内容をシモンに追及されるのを避けようと、無理やり話を戻そうとする。


「え、え~っと、そう、先ほどの話ですが、シモンさんは何が気がかりなのですか?」


「えっ・・・あ、ああ・・・そうだな・・・」


だが、シモンは言おうか言うまいか迷ってしまった。


「え~っと、そう。フェイトもあんなツラして気合がある奴かもしれないから、気をつけなきゃなってことだよ。将来ネギがお父さんみたいな魔法使いになるとしたら、ここが将来の分岐点なんじゃないかなってな」


そして結局言わないことにした。

今のネギたちにそのことを伝えることは簡単だ。しかし、それではダメだ。

自分で気づき、自分たちで選んでこそ、その人の進むべき道だ。だからこそ、シモンはそのことを言うことはしなかった。

それに今の流れを壊すわけにはいかない。ネギたちはある意味で楽観主義。しかし言い換えれば常に前向きとも言える。

その心が学園祭で自分たちの前に立ちはだかったのだ。今の流れのままフェイトたちを押し切れるのならば、むしろこのままのほうがいいのではないかと思い、シモンは不安を自分の心の中だけに閉じ込めた。


「は~~、将来の分岐点か~」


「むう・・・将来ですか・・・・」


適当に誤魔化したのだが、二人は深く受け取ってしまったようだ。

真剣に考える二人に少し罪悪感を感じながら、シモンは話題を変えようとする。

そうだ、別にデートというわけでもないが、木乃香の言うとおりせっかくの息抜きだ。

まじめな話で一日をつぶしたら少し申し訳ない気になる。

だからシモンが話題を変えて、立ち上がろうとした・・・のだが・・・・


「将来・・・」


「ん?」


「ネギ君は言っとった。お父さんでもない。シモンさんでもない。自分は誰でもない自分自身になるんやて」


「へ~、あいつがそんなことを」


「うん。シモンさんが帰った後、ネギ君は決意して、そんでもってお父さんのことをこだわるのも自分なら、それでええんやないかって開き直ったんや。せやからネギ君はお父さんを追い求めてここまで来た。誰でもないネギ君自身って考えたら、やっぱこれがネギ君の原点やったそうや」


自分自身のこだわりはあるようだ。

どうやら自分の居ない間にも力だけではなく、心のほうも成長しているのかもしれない。そう考えると、少し不安が軽くなった気がした。

すると・・・


「シモンさんは?」


「へっ?」


考えているシモンの目の前で、木乃香が告げる。


「シモンさんは将来・・・ううん、これからの人生をどうするん?」


「えっ? えええ~~?」


何か意外なことを聞かれた。


(えっ? 俺? 俺の人生って・・・えっ?)


7つも年下の少女に、そんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。

木乃香の思いもよらぬ発言にシモンは若干戸惑ってしまうが、木乃香の方は至って真面目なようだ。

刹那も木乃香に同調して、同じような表情をしている。


「ウチは将来、立派な魔法使い(マギステル・マギ)になる。ネギ君のお父さんやお母さんのような立派な魔法使いに」


そして木乃香目を瞑り、そして自分の胸に手を当てて打ち明ける。自分の今後進むべき道を。


「・・・私は・・・そうですね・・・そんなお嬢様の傍らにいつまでも居たいと思います」


木乃香に続いて刹那も少し顔を赤らめながら自分の素直な気持ちをハッキリと告げる。そしてお互いの顔を見て、ニッコリと笑って頷いた。

そして・・・


「シモンさんはどうするん? 何かやりたいこととかあるん?」


次はシモンの番だとばかりに、二人はシモンを見つめる。


「ウチは、この世界に来て将来への気持ちが固まったんや。幸せになるためにもっともっと強なって、ほんで今幸せやなかったり、何かの理由で大変やったりする人たちのためにも、この道を進むて決めたんや」


「木乃香・・・・」


「ふふ、ほんでそのいつかの時も今と同じように、せっちゃんにはウチのパートナーとして傍に居てほしいて思っとったんやけど、せっちゃんも同じ気持ちでうれしいわ~」


「・・・・お嬢様・・・・」


考えを改めさせられた。

楽観主義で、天然で気が抜けているように見えた木乃香は、本当は誰よりも自分の道をしっかり見据えていたのだった。

その決意が安っぽい憧れなどではなく、ちゃんとした想いが込められていることなど目を見れば分かった。

ならば自分はその問いにどう答えるべきか?


(俺の・・・・進むべき道か・・・)


その答えはもう分かっている。

少し戸惑ったが、答えは出ている。シモンは座りながら空を見上げて自分の道を告げる。


「1年前、俺の戦いは終わったと思っていた。壁に穴を開け、後から続く者たちの道を創った。その道を通るのにふさわしい者たちにその道を託し、俺は離れた場所で世界を見守るのが残された人生だと思っていた」


ならば見守ることだけが自分の役目なのか? いや・・・・違う。


「でも、違った。どうやらまだ俺は楽をするのは許されないらしい。俺がいつか死んだらアニキやニアたちには会える。でも、生きているうちはまだまだやるべきことがあるんだと気づかされたんだよ」


そのやるべきことこそが、今後歩む自分の道だ。その道標となるものを、シモンは首から外して二人に見せた。


「これを見てくれ」


「それは、コアドリルですか?」


コアドリル。それこそが自分の道標だ。地下に居たときからずっとこのドリルの指し示す方角へ自分は進んでいた。


「それってグレンラガンを動かしてた・・・学園祭のときと同じやつなん?」


「いや、違う。これは、グレンラガンを動かした大グレン団のコアドリルじゃないよ。はるか昔、明日を迎えられなかった螺旋族の無念の想いが詰まったコアドリルだ」


見た目は同じ。役目も同じ。しかし込められた想いが違う。


「これをこの世界に来る前に友に託され、そして諭され、俺はようやく自分のやるべきことを理解したんだ」


ようやくそれを思い出した。自分がやるべきことが何なのかを。


「明日に行けなかった者達に明日を見せてやること。遠い過去の想いを未来へと繋げること。それが俺の成すべきことだ」


そう、それがヴィラルとの誓い。

自分自身への誓い。

それが残された自分の人生の歩むべき道なのだ。


「は~、シモンさんらし~な~」


シモンらしい答えに、木乃香と刹那は満足そうに頷いた。

だが、すぐに寂しそうな表情になった。


「つまりシモンさんは・・・その・・・これからも世界を渡り歩くということですか?」


それはその通りだった。

新たな世界、まだ見ぬ世界を渡り歩くシモンは、一つの場所にとどまる男ではない。

今のシモンの言葉は正にその可能性を秘めていた。

少女たちの切ない思い。それは理解している。だが、だからこそシモンははぐらかさずに頷いた。


「そうだな。美空やココネ、シャークティ。あの麻帆良にある教会が俺の家であっても・・・美空も・・・ココネだって、いつまでもあそこに居るわけじゃない。皆いつかはそうやって自分の成すべきことをするために巣立っていく」


そう、家族はいつでも繋がっている。だが、いつまでも一緒に居るわけではない。


「お前たちの学校もそうなんじゃないかな? それにネギだっていつまでも先生なわけじゃない。あいつの将来の目標は別にあるんだ。それこそあいつの力を必要とする人たちは世界中に居るんだ。父親のような魔法使いを目指すためにいつかは世界中を飛び回るんだろうな。それが・・・卒業っていうものなんだろうな」


巣立つ。卒業。その言葉はそういう意味が含まれているのだ。


「そうなんかな~。ウチは将来の進路が見えても、そうやっていつか皆がバラバラになるのはピンとせん」


「そうかもな。でもそれが普通なんだよ。ヨーコがそうだった」


「ヨーコさんが?」


「ああ」


その一例としてシモンは、二人もよく知るヨーコを例に出した。


「俺やロシウ、そしてキタンたち大グレン団の面々が、ロージェノムを倒した後の世界で新政府の幹部になって国を作っていたころ、あいつは水に合わないって言って俺たちから離れた。そしてあいつは人類の明日を担う子供たちに、今日よりましな明日を作りたいと思う意思を伝えていきたいと思って、名前や身分を変えて小学校の教師になったんだ」


今でも思い出す。自分やロシウの制止を振り切って、清々しい表情でカミナシティから旅立ったヨーコ。

自分の道を誰よりも早くに見つけて、その道へと歩んだヨーコ。


「ヨーコさんは、意思を伝えるために・・・そしてシモンさんは、想い未来へ繋げるために・・・・」


「そうだ。だからどれほど強固な絆で結ばれていても、いつまでも一緒に居るわけじゃない。いつかは自分の足で皆自分の道を歩んでいかなくちゃいけないんだよ。お前たちもな?」


だからヨーコはアッサリと自分たちから離れた。別れたのではなく、巣立ったのだ。その時のヨーコの気持ちを、今はハッキリと分かる。


「うん・・・ウチ、シモンさんの言うとること・・・なんとなくやけど分かる」


ヨーコらしさとシモンの想い。二人を知る自分たちだからこそ、なんとなくだが理解できた。

そうだ、シモンは同じ場所に留まる男ではない。

そういえばハルカも同じようなことを言っていた気がした。

シモンも含めて、いつかは家から皆巣立っていくのだろう。

しかし・・・・


「そうか。まあでも、お前たちにはまだ先の話だよな。俺だって直ぐにどこかに行くわけじゃない。俺もエマに言われたばかり・・・」


「せやけど!」


しかし・・・


「木乃香?」


それでも・・・・




「いつかは皆それぞれの道を行くんやとしても・・・ウチは・・・ウチは・・・・せっちゃんと・・・・シモンさんとは・・・」




自分の気持ちは正直だった。




「いつまでも一緒にいたい」




突然の不意打ちのような木乃香の言葉に、シモンも僅かに戸惑ってしまった。


「・・・・・・・俺は・・・・・」


ある意味プロポーズのようなものだ。2回目のプロポーズだ。


「えへへ・・・昨日からず~っとな、考えてたんや。昨日ニアさんのことを知って、ハルカさんとの話も思い出して、ウチはどうするべきなんやろ・・・ウチが入り込む隙間なんか最初から無いんやないかって。でもな、今日一日考えて、ふっきれたんや。やっぱウチはシモンさんが・・・・・」


いや、木乃香の気持ちは知っているのだから、発言の内容自体にはそれほど驚きはしない。だが・・・


「シモンさんのことが、大好きなんや」


「ッ!?」


「だからな、シモンさん。ウチが入り込む隙間は今のところは無いみたいやけど。・・・シモンさんが居なくなるいつかまで・・・・まだしばらくはシモンさんのことを好きでええ?」


だが、以前は木乃香に「ゴメン」と言ったときはサラッと言えたのだが、今は少し違った。


(木乃香・・・・なんだろ・・・少し胸が・・・)


少し・・・いや、かなり胸が痛かった。

いつものように大人の余裕でかわすことが出来なかった。


「俺は・・・・」


どう答えるべきか。どう答えてやるべきか。以前のようにアッサリというのは少し胸が痛む。


「あ~んもう、恥ずかしいえ~。また告白してもうたわ~」


「木乃香・・・俺は・・・・」


木乃香がシモンの返答を切なそうに待っている。

そしてシモンが、何とか言葉を発しようとした瞬間・・・・



――!?

「「「ッ!?」」」



雷鳴のような轟音が突然響き渡った。


「な、なんだ!?」


「わっ、びっくりした~」


突如祭りの中に響き渡った音。それは祭りのパレードや喧噪のような平和的なものではない。


「お嬢様、私の後ろに」


刹那も一瞬で察して、木乃香を音が聞こえた方角から庇うように移動する。

そう、今のは祭りの音ではない。

あきらかに戦闘の音だ。


「・・・・誰か戦っているのか?」


三人は只ならぬ何かを感じながら、音が響いた方角を見つめる。

たしかに祭りの中では野試合や喧嘩は日常茶飯事だが、音から想像できる力のレベルはあきらかに普通ではない。


「・・・これは・・・」


「シモンさん・・・せっちゃん・・・・」


「・・・・ああ・・・」


そしてそれほどのレベルの人物は、この世界でも限られている。そしてそれは自分たちの知っている人物でもある。

三人は互いに顔を見合ってから頷き合い、その場から音のした方角へと駆け出した。


「ネギ先生でしょうか?」


「どうだろうな。でも、もしあいつだとしたら、これほどの力を使わなければならない相手は限られてくるよ」


フェイト・・・・


「・・・・行こう」


「はい!」


真っ先に思い浮かんだ相手だ。

そしてもしそうだとしたら、一国も早く駆けつけてやらねばならない。三人はガヤガヤ騒ぎ出す人ごみの中を掻き分けて、一直線に走る。


「・・・・・・なあ、・・・」


「「?」」


そしてその途中シモンは走りながら、直ぐ後ろを走る二人に呟いた。


「ゴメンよ。直ぐに返事をしてやれなくて・・・・」


「えっ?」


「シモンさん?」


「でも、このまま曖昧にするのは嫌だから・・・・とりあえず言っとくよ・・・・今の俺の気持ちを」


前を走るシモンの表情を見ることは出来ない。しかし二人はシモンからの意外な言葉に思わず顔を上げた。そしてシモンは決して後ろは振り返らず言葉だけを口にする。

そしてその言葉は・・・・


「・・・あれだけダメだって言ったのに。あれだけ俺にはニアしか居ないって言ったのに。でも・・・・・少し・・・・うれしかったよ。お前の気持ち」


今の彼女にとってはこれ以上望むものなどないほどのものだった。


「シモン・・・さん・・・・」


木乃香は心臓が鷲摑みにされたかのように、急激に心臓の音が高まり、顔を真っ赤にした。刹那も若干惚けている。


「まだ揺るげない。だけど少し揺らぎそうになったよ。・・・・怖いな・・・本当に・・・・」


「・・・・えっ?」


今言ったシモンの言葉が空耳なのではないかと疑ってしまうほどだった。

思わず木乃香は聞き返してしまった。もう一度、今の言葉を聞きたかった。

今シモンはなんと言った? 仲間が危機かも知れないこの状況で、ドサクサに紛れてなんと言ったのか?

だが、シモンはもうそれ以上は言わなかった。


「いくぞ。気を引き締めるぞ。もしフェイトだったら他に仲間も居るかもしれない。木乃香は刹那、もしくは俺からあまり離れるなよ」


「えっ? ・・・な、なあ・・・シモンさん? それはそうなんやけど、ちょっと聞きたいことが・・・」


「さあ、行くぞ!」


「ちょ、シモンさん。それは確かに大事なことですが、ちょ、もう少し聞きたい話が・・・あの・・・・あのォ!!」


完全に切り替えたシモンに二人の声は届かない。

もう少しだけさっきの話を聞かせてくれと懇願する二人の言葉に聞こえない振りをしているのか、ただの照れ隠しなのか、シモンはただひたすら前へと走ったのだった。





そしてたどり着く、その先には予想通りの人物がいた。


「ネギ!?」


そう、ネギだ。

いや、ネギがそこに居るのは予想していたことなので驚く事ではない。

むしろ驚くべきことは、そのネギがたった一人の男に剣をあてられ、取り押さえられていることだった。


「ネギ先生!?」


「ネギ君!?」


今のネギほどの実力者が抑え込まれている。この光景にシモンたちは一瞬反応が遅れた。


「シ・・・・シモンさん」


地べたに這いつくばるネギがこちらを見上げている。

どうやら見た目にそれほど深い傷はないようだ。するとそのネギを取り押さえていた男もこちらを見て、声を発した。


「おや、また会いましたね」


「お前は・・・」


その男の顔を見てシモンは驚いた。

その男こそ、昨日自分たちの力になってくれたオスティア総督のクルトだったのだ。


「知り合いですか、シモンさん?」


「あ・・・・ああ・・・・、でもどうなっているんだ。何でこいつとネギが・・・・」


状況を全く把握できないシモン。

その周りには武装したメガロメセンブリアの戦士やアリアドネーの戦乙女にセラスも居る。

さらに・・・・


「シモンさん、来てくれたのですね!」


「兄貴さん!」


エミリィとベアトリクス、夕映にコレットにのどかも居た。


「お前たち! 何でお前ら・・・・・・・ま・・・・・で・・・・」


「実はネギ様たちと街で偶然に再会して。それよりもネギ様が!」


エミリィたちは現れたシモンに安堵する間もなく、すぐに助けを求めてきた。


「あ・・・いや・・・・」


「シモンさん、どうしたのです! 早くしないとネギ様が・・・・」


ネギを助けたいのだろう。エミリィは即座にシモンに詰め寄って、シモンに懇願の眼差しを向ける。

だが、シモンは別のことで頭がいっぱいだった。

今目の前に居るエミリィの状態に頭がショートしてしまいそうだった。

それは何故か?


「・・・・・・なんで裸なんだ?」


「・・・・・・・・・・へっ?」


年齢的には少女なのだが、エミリィは中々の・・・・ではなく、とにかく何故かエミリィは下着すら着けていない裸だった。


「あ・・・・・・」


「お嬢様・・・・」


「エ、エミリィちゃん・・・・何しとるん?」


とにかく裸だった。


「委員長! な、何か羽織るです!」


「ちょっ、ユエも何か着ないとダメでしょ!」


「えっ、夕映さん!? 夕映さん、良かった・・・ご無事だったんです・・・・ねって・・・・何故あなたも裸なのですか!?」


夕映も裸だった。


「いやああああああああああああああ!!!!」


「お、お嬢様・・・・」


「もうお嫁に行けませんわーーーーッ!!」


真っ裸をシモンに見られて羞恥の悲鳴を上げるエミリィ。シモンは黙って顔を逸らしてやるが、ところかまわず泣き叫ぶエミリィは既にこの状況を忘れていた。


「いったい何があったんだよ・・・・」


状況をまったく把握できないシモン。裸の仲間に武装した連中。もはやわけが分からずあたりを見渡すと、ネギの側で血を流している少女を見つけた。

その少女も知っている。


「アスナ!?」


「うっ・・・・・シ・・・シモンさん・・・・」


剣で斬られたのか、肩から血を流しているアスナが倒れていた。シモンは慌ててアスナに駆け寄ろうとしたが・・・


「「「行ってはダメですーーーッ!!!」」」


のどか、ベアトリクス、夕映がシモンを止めた。

だが、こんな時に何を言っている? まさか何か罠があるのか? とシモンが目を凝らして倒れているアスナを見つめた。すると少女たちがシモンを止めた理由が直ぐに分かった。

なんとアスナまで裸だった。


「・・・・・・な・・・・なにがどうなってるんだ?」


「ちょ、シモンさん見ないでェーーー!」


「見たらあかんーー!」


ホントその通りだった。

つい先ほどまでシリアスだと思っていた光景が、一気に壊れた気がした。

少女たちは裸の少女たちに上着をかぶせたり、騒いだりと、収拾がつきそうもない。


「何をやっているのかしら、あの子達は・・・・」


その光景を、目を細めて見つめるセラスや武装した兵たち。

シモンはドッと溜息をつき、話題を変えるべく彼女たちをほったらかしにして、ネギを抑え込むクルトと向き合った。


「まあ、いいや・・・・。とにかくお前とは一度話をしておきたかったんだ」


頭を振って話を切り替えるシモン。するとその言葉に、クルトもニコッと笑って頷いた。


「ええ。私ももう一度君とは話がしたかったのですよ」


「シモンさん・・・・・」


ため息を吐きながらも向かい合うシモンとクルト。


「とりあえず、まずは昨日の礼を言わなくちゃな。お前がいなければ、美空とココネも俺もここには居なかったよ」


「ほう、意外と礼儀正しいですね。しかしそれはお互い様ですよ。あなた方がいなければ、今のこの祭りの光景もなかったかもしれない」


「・・・・瀬田さんたちは?」


「ご心配なく。もう少し取り調べに時間がかかりますが、うまくいけば今夜にでも会えると思いますよ」


「そうか、それならそれでいい」


とりあえず最低限の礼と確認だけはしたかった。そしてそれが済み、いよいよ本題だ。


「さて、・・・じゃあ・・・・この状況を教えてもらうぞ?」


するとその問いかけに不敵な笑みを浮かべるクルト。

動揺して顔を歪ませるネギ。


「ふふふ、なに、私はネギ君に仲間になろうとお誘いをしただけですよ?」


歪んだ瞳でクルトはそうはき捨てた。

仲間? 大の大人が子供を力ずくで押さえつけ、剣で脅しているような光景にしか見えない。


「仲間って・・・そうやってなるものなのかよ?」


「ふふふ、状況に応じてそうなりますね。現にネギ君は今揺らいでいますよ?」


「うそつくんじゃねえ!」


「うそではありません! ねえ、ネギ君?」
最終更新:2011年05月13日 20:55
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