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108-3

馬鹿なことを言うな。

この状況、アスナもエミリィも夕映もクルトにやられたのだろう。そうでなければこの状況に説明がつかない。

そしてアスナは血を流している。傷つけたのは誰だ? クルトしかいない。そんなクルトの誘いにネギが乗るはずがない。

シモンはそう思っている。

そして・・・・


「・・・ん?」


「ネギ!」


押さえ込められていたネギの体に雷の光が舞い降りて、その光が拡散した瞬間、クルトは一瞬でその場から飛びのいた。


「お断りします!」 


そして光と埃が立ち込める中、拳闘大会のときと同じように雷神と化したネギがそこにいた。


――雷天大壮2(ヘー・アストラペー・ヒューペル・ウーラヌー・メガ・デュナメネー)!!


そしてネギは立ち上がり、間合いを空けたクルトに対して怒りを露にして叫ぶ。


「アスナさんをあのような目にあわせる人と、手を組むなどありえません!!」


そりゃそうだ。


「だってよ。事情は分からないけど、俺はこっちの味方だ」


「ふっ、・・・そう来ますか・・・・」


シモンはネギのその言葉に安心して、隣に並んだ。


「おやおや、せっかく恩赦になったというのに、また罪を犯すのですか? 先に手を出したのはその子ですよ? これは立派な正当防衛ですよ。それとも・・・・そんな正当を捻じ曲げますか?」


政府の人間として、正論を突きつけるクルト。

その場面を見ては居ないが、どうやらネギのほうから手を出したというのは本当だろう。それは随分と珍しいことだ。

だが、そんなことシモンにはどうでも良かった。


「・・・ネギは意味もなく人を殴る奴じゃない。お人よしで・・・礼儀正しいこのガキが、自分から手を出すのは・・・・よっぽど我慢できないときだけだよ・・・・」


「・・・・ほう・・・」


クルトの歪んだ笑みが止まった。そして今度は逆に少し不愉快そうな表情でシモンを睨む。だが、その視線に臆さない。

クルトは恩人だ。これはその恩を仇で返すことになるかもしれない。

しかし・・・


「事情は分からないけど、俺はこいつらを見捨てられないんだよ」


シモンは苦笑しながらネギの隣に立ち、刃を向けてくるクルトに構える。

その瞬間、クルトだけではなく背後に居たメガロメセンブリアやアリアドネーの兵士たちの間にも動揺が走る。


「シモンさん、すみません・・・こんなことに・・・・」


雷を身に纏い、巻き込んでしまったことに申し訳なさそうにするネギ。

戦闘と争いを極力回避とネギ自身から皆に対して放った言葉を自分自身で破ってしまった。

だが、シモンはそのことを責めない。

いつもと同じように・・・・


「細かいことは気にするな! 仕方ないさ。何を言われたかは知らないけど、何をやられたかは理解したさ。大事な人を傷つけられたら、男も教師も関係ないよ。俺だって殴りかかってるさ」


笑ってくれた。

懐かしい・・・


(ああ・・・そうだ・・・これだ・・・ずっとこの人の言葉を聞きたかった)


ネギは改めて理解した。シモンがそばに居てくれるだけで、こうも違うのだと。

つい数ヶ月前のことなのにスッカリ忘れていた。

迷いや戸惑い、そんな状況の中でいつもそばに居たシモンが自分の心を軽くしてくれた。

ネギはこんな状況でそんなことを思ってしまい、つい小さく笑みを零した。


「シモンさん・・・あの人の剣、厄介です」


「俺の心配なんて早いんじゃないか?」


並ぶ二人の姿に周りのものは一瞬だけ息を飲み込んだ。


「ほう・・・素晴らしい・・・・実に壮観ですね。・・・だが・・・」


ただ二人並んでいるだけ。ただそれだけで、クルトは目を見開いた。

だがすぐに、誰にも分からないぐらい小さく不愉快そうな顔つきを見せた。


(・・・この男邪魔ですね。この男の一つの言動で、持ち直された。・・・・チコ☆タンの件で警戒するのは力だけだと思っていましたが、この男のあり方は妨げになるかもしれない・・・やはり消すべきか? いや、それに・・・あの首飾り・・・まさかこの男・・・)


その心の中で、シモンに敵意を抱いた。


「困りましたね。これは流石に勝てる気がしませんね。千の刃と爆乱・・・二つの伝説を打ち破った新時代の申し子を同時に相手にするなんて」


クルトがどれ程の強さなのかをシモンは知らない。

だが、自分とネギがこの場に居れば、この状況はいくらでも覆せるとシモンは確信していた。


「なら、どうする? 俺もできればお前とは戦いたくない」


しかし・・・・


「ははははは、私を侮りすぎではないですか? それにシモン君、やはり君は何も分かっていない」


「・・・・何?」


クルトの余裕は消えない。


「俺が何も分かっていない?」


「ええ。君も・・・ネギ君も・・・何が本当で何が嘘か。感情任せに目の前の敵を倒すだけで、本当の敵が分かっていない。それでは救えません。世界は救えない」


「・・・何?」


「シモンさん、この人の言うことを聞く必要はありません!」


「いえいえ、ネギ君。君たちは理解しなければならない。その力の使い方。そして本当の敵を・・・・。ネギ君だって聞きたいでしょう? 先ほどシモン君が登場してきてあやふやになってしまいましたが・・・」


「!?」


「・・・・どういうことだ?」


「ふふふ・・・かつてネギ君の村を焼き、君の人生を根本から変えた犯人を・・・君は・・・・」


その瞬間、何かが弾けた。


「―――ッ!!」


「なっ!?」


持ち直したはずのネギが、再び冷静さを失い飛び出したのだ。

困惑と迷いを浮かべながら、まるで・・・・


「あなたは・・・・あなたは一体何なんですか!? 何を・・・・何を知っているんですか!?」


ただの子供のように。

いや、ネギは子供だ。だが、シモンはこのように感情をここまでさらけ出して相手に襲い掛かろうとするネギを見たことがない。

一体何を言われたのか? 何があったのか? その思いがシモンの反応を一瞬遅らせた。


「ま、待つんだネギ!! (ネギの村を焼く? 人生を根本から変えた? 何のことだ? でも、これはまずい。ネギのやつ・・・)」


どうやらクルトは、シモンが知らないネギの触れてはいけないポイントを突いたようだ。ネギは止まる様子がなさそうだ。

だが、動揺しているネギなど隙だらけ。案の定、挑発に乗ったと思ったクルトは歪んだ笑みを浮かばせて剣を構える。


「待てっつってんだろォ!!」


「ウッ!?」


「むっ・・・・」


怒鳴ったシモンの声が、二人が交錯する寸前に響き渡り、ネギは後一歩のところで踏みとどまり、シモンに振り返った。


「はあ、はあ、はあ、ぐっ・・・シモンさん・・・でも・・・・」


「良いから一旦戻るんだ、ネギ!」


まるで迷子になった子供のように崩れた表情を見せるネギ。だが、そのネギを無理やりシモンは引き戻した。

自分でもどうすれば良いかも分からないほど動揺しているネギ。そのネギにシモンは軽く頭を叩いて微笑んだ。


「でもも何もない。熱くなるのは良いが焦るな。喧嘩に勝つには熱いハートとクールな頭脳が必要だって、誰かが言ってたぞ?」


      • 知っている。


「うっ・・・・・」


「アスナたちも居るんだ。大事なものを守りたければ、大事なことを一番に考えよう」


その言葉を映像越しとはいえ聞いたことがある。


「・・・・・へへ・・・さすがシモンさんね。あいつの扱いに一番慣れてる」


「うん、そうやな」


「・・・・いえ・・・しかし・・・・・」


その言葉を聞いてネギも頬を二三度叩き、気を引き締めなおそうとする。

落ち着けと、冷静になれと自分に言い聞かす。

しかし・・・


(・・・大事なものか・・・・そうだ・・・でも・・・でも・・・・)


初めてシモンの言葉に、ネギは素直に従えなかった。


(この人は全てを知っている・・・僕の・・・・皆を・・・・アーニャのお母さんを・・・スタンさんを・・・皆・・・皆!!)


一旦足は止めたものの、後から沸いてくる黒い感情を抑えきれず、ネギは葛藤している。そして沸いてくる腕の紋章が、今のネギの高ぶる感情を表していた。


「おい、ネギ。聞いてるのか!? (どうなってるんだ? 何を言われたんだ? ネギがここまで取り乱すなんて・・・・)」


ネギはシモンの言葉を聞こえている。しかし、あまり頭に入っていかない。それほどまでに心を乱されているネギをシモンは初めて見た。

だが、それに対してクルトは少し期待はずれのような表情を見せる。


(ふむ・・・もっと簡単にネギ君は堕とせると思いましたが・・・やはりまだギリギリで理性を保っているのは少女たちの存在か・・・それとも彼の所為か・・・ですが・・・)


      • 後一歩・・・そんな考えを心の中で思い、クルトはシモンを見る。


「ふふふ、無駄ですよシモン君。誰にも譲れないものはあるものです。それはネギ君も同じ。彼の今の根っことなった想いを簡単に崩せるものではありませんよ?」


「・・・ネギの・・・・根っこだって?」


「・・・・人を狂わすことが出来る最大の理由・・・・復讐心!」


「!?」


「そしてネギ君。そのあなたの想いと拳をぶつける相手をもし知りたいというのなら・・・・」


もう止まれない。

あれほど今までシモンの言葉に心を震わせたネギが、今はじめてシモンの言葉を振り切って、飛び出そうとする。

だが、それは後一歩のところで踏みとどまることが出来たのだった。


「む!?」


自分たちの空間に、外から何かが投げ込まれ、その何かが地面に着弾した瞬間、煙が一瞬で当たり一面を覆い隠した。


「なっ」


「えっ?」


突然のことにボサッとするネギとシモン。すると煙の外から聞きなれた声が聞こえてきた。


「こっちだ、ボサッとすんな、ナギ! くそったれ野郎!」


「!?」


トサカの声だ。

そして巻き上がった粉塵の中、刹那も動いた。


「撤退です! シモンさんはお嬢様を! 私はアスナさんを! 先生はのどかさんをお願いします!」


突然の援軍に、一番早くに反応した刹那がネギとシモンへと叫ぶ。しかしネギは複雑な表情を見せてどうするべきかを苦悩している。


「で、・・・でも・・・・」


「急げ、ネギ! とにかく今はこの場から離れるんだ! お前だって何するべきなのか分かってんだろ!」


「・・・・く・・・・分かりました・・・・のどかさん!」


「は、はい、ネギ先生!」


「木乃香! 俺たちもいくぞ!」


「は、はいな!」


悔しそうに歯をギリッと噛み締め、煙幕の中からネギはのどかを両腕に抱きかかえ、その場から脱出する。


「邪魔が入りましたか・・・まあ、いいでしょう。それは次の機会に」


シモンも後に続いて木乃香を抱えてその場から退避しようとする。するとその時、煙の向こうからクルトがシモンにだけ聞こえるようにボソリと呟いた。

その呟きに、シモンは足を止めた。


「・・・・お前は何を企んでいやがる?」


「シモンさん・・・早くいかな・・・」


「お前は、俺たちの知らない何を知っているっていうんだよ?」


徐々に煙が晴れていく。

自分たちも早く逃げねば捕まってしまう。

しかしシモンはギリギリのところまでこの場に留まった。この男は何を考えているのかを、シモンは知らねばならなかった。

だが、その問いに答える前に・・・・


「・・・・その前に一つ・・・」


「何だ?」


クルトの口からは、シモンのまったく知らない言葉が出てきた。


「・・・・・君はテンジョウ家と繋がりが?」


その問いに、シモンは首を傾げることしか出来なかった。


「・・・誰だよ、それは」


「へっ? ・・・テンジョウ家て・・・・」


まったく聞いたこともない名に、シモンが訝しげにクルトを見る。しかし木乃香は何か腑に落ちない顔をして首を捻った。


(あれ? テンジョウ家て・・・・ウチどこかで・・・・いつやろ・・・たしかウチが・・・小さいころにまだ京都におった頃・・・)


心当たりがあるのか、木乃香は何かを思い出そうとする。だが、その途中で頭の中にセラスの声が響いた。


『何をやっているの、二人とも!? 早く逃げなさい! これ以上は、私でも庇えなくなるわ!』


「ッ、セラスはん!? ・・・・・シモンさん・・・早くいかな・・・」


「くっ、・・・・分かった・・・つかまっていろ」


念話で自分たちを早くこの場から遠のくようにとセラスが怒鳴り、その声に従ってシモンと木乃香はその場から離れようとする。

しかしその寸前で何かが投げられた。


「?」


それは一枚の紙だった。その紙には「舞踏会招待状」と書かれていた。


「差し上げます。あなたがあの家と関わりが無いのでしたら、あなたにも真実を教えるべきでしょう。待っていますよ」


「・・・・お前・・・・・」


「シモンさん、早く」


投げられた紙を拾い、煙が晴れる寸前に、シモンは木乃香を抱えて飛び出した。

シモンは途中でクルトを気にして後ろを振り返るが、どうやら追ってくる気配はない。

結局解決されない胸のモヤモヤを抱えながら、彼らは一度仲間の下へと退避するのであった。









トサカやのどかの冒険者仲間でもあるグレイグたちに助けられ、ネギたちは一旦トサカがアジトに使っているボロ宿に匿って貰えるようになった。

宿の中では木乃香によってネギとアスナが治療を受けている。


「・・・・以上が私の知っていることです。それにしてもそんなことが私の居ない間に・・・・・」


そしてその間に事情を聞きつけたシャークティに、ネギの過去を聞くのだった。

宿の外の扉の前に見張りとして立ちながら、シモンはシャークティからネギについて聞いた。


「なるほどな。ネギの過去にそんなことが。そう言えば以前に学園長がそんなことを言っていたな」


6年前の雪の日に、ネギは住んでいた村を魔族に焼かれた。


世話になった人、友達の親、全てのものが石に変えられ、彼の人生を根本から狂わせた事件だ。


「・・・・知らなかったんですか?」


「ああ。あんまりそういう暗い話はしなかったからな。・・・でもそれじゃあ、総督って奴は・・・」


「ええ。その時の事件を例の総督は知っている・・・ということですね。まさかアリカ姫がネギ先生の母親とは。ネギ先生のVIPぶりが納得できます。学園長は知っているんでしょうね。・・・それにしてもあなたが傍に居ながら危なかったですね」


「そうかもな。それに俺も、ああは言ったけど、まさかネギがあんな簡単に挑発に乗って殴りかかるとは思わなかったんだ。あれも闇の魔法とかいうやつの影響なのか。それともよっぽど我慢できないことなのかな・・・・」


「・・・同じなんでしょう。あなたにとってのカミナさんやニアさん。それを侮辱されたり剣で斬られたりすれば、シモンさんも我慢できないでしょう?」


「・・・・たしかにな・・・・」


なるほど。それなら我慢できないのも無理はないかもしれない。

たとえ会ったことはなかったとしても、ネギには侮辱されたくないのだろう。

シモンがラカンフィルムから間違って持ってきたフィルムにナギ、そしてアリカ姫が映っていた。あれがネギの両親なのだとしたら、ネギが心から誇りに思っても無理はない。

さらに自分の大切な仲間でもあるアスナも斬られたうえに、自分の人生の原点ともなった事件の全てを知っている男。

そこまでされて我慢が出来ないのも無理はないのかもしれない。

だが、それはネギのことを知っているのならば分かっていること。

そしてネギの力を知っていれば、それがどれほど危険なことかも理解しているはずである。それを知っていながら、あえて挑発的な態度を取ったクルト。彼が一体何を考えてあのような言動をしたのか、シモンには考えられなかった。


「総督か・・・確かに何かを企んでいるような奴だった。だけどあいつのおかげで美空とココネを救えたのも事実だ」


そして思い返してみる。クルトが現れなければ、自分たちは美空とココネを救出に迎えなかった。

あの時クルトは確かに、何かを企んだ笑みを浮かべていた。信用できそうもない胡散臭い笑みだった。

だが・・・


「でも・・・・あいつ・・・何だろう。憎めないんだよな」


「?」


先ほど見た総督の歪んだ笑みは、不気味な思惑を感じ取れた。しかしシモンは見てしまったのだ。

チコ☆タンを連行する時にチコ☆タンに、そして自分たちの恩赦を伝えたとき瀬田に指摘されたときのことだ。

クルトはある女を庇いたがっていた。ある女の名誉を少しでも守ろうとしていた。その時のクルトの表情に、クルトの本当の素顔を見れた気がした。

そして何より・・・


――あなたは何も分かっていない


「俺は何も分かっていない・・・か・・・」


かつて仲間に言われた言葉だ。

そう、新政府設立後、理想論ばかりを唱えて現実を見ようとしていなかった自分が、いつだって世界と先の先のことを考えていたロシウに言われたこととまったく同じ事を言われた。

ロシウはクルトのように胡散臭い笑みを浮かべたりはしない。

しかし、どうしてかは分からないが、シモンはクルトに言われたときロシウのことを思い出した。


(俺は何も分かっていない・・・・つまりあいつは何か知っているってことか・・・・そしてそれをずっと抱えていた・・・)


信用できるか出来ないかはそれだけではまだ分からない。結局はもっと間近で接触するしかないということになる。

ならばどうするべきかとシモンが考えていると、建物に近づく一人の大男に声をかけられた。


「よお、こんな所にいたのかよ」


「えっ、・・・ラカン?」


「せ、千の刃!?」


「デート中にまた派手にやらかしたらしいな~、もっともやらかしたのは坊主のほうらしいが、嬢ちゃんたちにハッキリ返事してやらなかったのは関心しね~な~」


「ちょっ、ちょっと待てよ、何でお前が木乃香たちとの事を知ってるんだよ!?」


「がっはっは、俺の情報網を甘く見るな♪」


事情を聞きつけたのか、ラカンがこの場まで現れた。


「坊主どもは中か? それよりお前は外で何してんだ?」


「ネギのことを少し聞いてたんだよ。知らなかったからな、あいつの抱えているものをな」


あの純粋な少年が心の中に抱えた感情を今日初めて知ったシモンは、少し複雑そうな表情を見せた。

だが、「そんなことか」とラカンは鼻で笑った。


「はん、どす黒い感情か~。テメエは良いところばっか見ようとして、悪いところには鈍感だからな。まあ、それがテメエの良いところでもあるんだろうがな。だが、覚えておきな。憎しみなんざ珍しいものじゃねえ。お前だって、獣人に恨みをもったことがあるだろうが?」


「・・・・・・ああ・・・そうだな・・・」


確かに、カミナが死んだときの自分は獣人を許せなかった。

気の済むまで相手を破壊しつくそうとした。今でも覚えている吐き気のするような感情で埋め尽くされた日々。それが憎しみで埋め尽くされた時の自分だった。

恐らく今のネギも闇の魔法の影響も受け、その感情がモロに左右されているのだろう。そこに少し危うさを感じる。


「それにしても、千の刃のラカン・・・・初めまして。お会いできて光栄です」


「おう、お前さんがシャークティか。話は聞いてるぜ~、こんな面白い男を家族に持って、退屈しね~だろ~?」


「ええ。大半が命がけですけどね」


お互い話には聞いていたが、初対面のため、二人は軽く言葉を交わした。そしてシャークティは直ぐに真剣な眼差しに戻った。


「あなたが動くということは、それほど大事なのでしょうか?」


ラカンは破天荒で自由奔放な男だという。引退して隠居しているはずのこの男が動くということは、何か大きな意味があるのかもしれないとシャークティは思った。


「まあ、ちょいと呼ばれてな。シモンも会ったみたいだな。クルトに」


するとラカンの口からは、クルトの名前が出てきた。


「お前、知り合いなのか!?」


「まあな、俺たちの古い仲間だ」


「なっ、・・・俺たちのということは・・・・・では紅き翼の仲間ですか!?」


「ああ。もっとも戦後に俺たちと縁を切って何年も会っていなかったから、今は何を考えているのか分からねーがな」


それは意外な事実だった。

まさか昨日、そして今日会ったあの歪んだ笑みと濁った瞳を見せた男が、何とラカンたち紅き翼の一人だというのだ。これには二人とも驚きを隠せなかった。


「今のあいつが果たしてどういう奴なのかは俺もなんとも言えねえ。だがよ、リカードに聞いた話によると冒険王に賞金をかけて、俺をぶつけようとしたのは奴の仕業かもしれねえってよ」


「なんだって?」


数ヶ月前、ラカンは首都の依頼を受けて瀬田を追いかけ、その途中でサラと遭遇した。

その時自分が傍に居て、自分はラカンと戦った。


「実はお前と戦った後にリカードに連絡を入れたら、あいつはそんな依頼はしていないって言ってやがった。だが俺はあいつからの依頼という使者がいたからその言葉に従ったんだよ。つまり、リカードの名前を勝手に使って使者を送った奴が居る。そんな権限を首都でも持っている奴は限られている・・・そしてそれが・・・・」


「あいつかもしれないってことか・・・・」


今まで見えなかった糸が繋がった。どうやら自分たちは、あの総督とは以前から繋がりがあったのかもしれない。そして同時に少し不安になった。


「ならまずい。瀬田さんはあいつと一緒に居る。・・・・心配になってきたな・・・」


「どーだろうな。冒険王ぐらいの奴なら心配いらねえだろ。問題は、何で冒険王をクルトが捕まえようとしたのかだが・・・・何か冒険王の奴、ヤバイ情報でも知っちまったんじゃねえのか?」


「いや・・・俺もそこまでは知らないよ」


瀬田たちとはそれなりに行動を共にしていたが、あまり深い話はしていない。どちらかというと目を輝かせてロマンを語り合ったぐらいだ。

だが、その瀬田が何か大きな真実を知り、そしてそれが公表できないようなものだとしたらと考えると、辻褄が合ってくる。


「つまり・・・・乗るしかないって事か」


「ん? ほう・・・・誘われたのか?」


全ての謎を解くには直接行くしかないようだ。シモンは先ほどクルトに投げられた「舞踏会招待状」の紙を取り出した。


「まあいい、ボーズとは俺が話しておく。お前もパーティーに行くんだったら、仲間をさっさと起こしてきな。何かがあるかもしれないからな」


「ああ、そうするよ。お前はどうするんだ?」


「へっ、乗りかかった船だ。タダで飯も酒も飲めるし、ボーズたちと一緒に行ってやるよ」


それならば尚更心配要らないだろう。


「そうか、それなら大丈夫だな」


「ほう、やけに信頼してくれるじゃね~か」


「お前が誰なのかは、身をもって思い知ったからな。それじゃあ頼んだぜ、ラカン」


「・・・・ふっ・・・ああ」


相手の考えも気になるが、これならば何かが起こっても大丈夫だと思い、シモンはネギたちをラカンに任せて仲間のところへ戻ろうとする。

すると・・・




「シモン!」




不意にラカンに呼び止められた。




「なんだ?」




振り返ると、ラカンはドアの前に立ち、こちらを振り向かずシモンに告げる。




「俺もそうさ。身をもって思い知ったからこそ、お前がやる漢だってのは分かってる。その結果、お前はラカン良い漢検定でも、かなりの成績だ」




「な、なんだよ急になんだよ・・・」




突然褒めるラカンに、不意打ちを食らったかのようにシモンは少し照れる。だが、ラカンは続ける。




「そしてテメエはまだまだ現役だ。だがよ~、いまさらお前も世界を救うとか女を守るとか、そういう力の使い方はしねえだろ? ならばどうする? その力をどうやって使う? 何のために使う?」




唐突なその問いに、一瞬だけ間を空けた。

確かに自分は銀河を守り、女を守ることに命を賭けた時代があった。

だが、今は違うだろう。

ならばどうする? 

それは簡単だ、既に木乃香に問われたことだ。

だからシモンがその答えを迷わず言おうとしたら、ラカンが先に口を挟んだ。




「俺は・・・・「テメエは!」 ・・・?」




するとラカンはようやくこちらに振り返り、二カッと笑った。




「世界のうねりの真ん中に居続けろ。そして駆け抜ける新たな時代の先頭に立ち、その背中を後から続く者たちに見せ続けろ!」




その言葉は重く・・・




「俺や詠春のように引退した奴や、ナギのように今目の前に居ない奴とは違う。今を走るボーズたちの目の前に、確かに存在し続ける目標として居続けろよな」




意味深で・・・




「ラカン・・・・お前・・・・」




「まあ、お前は何があっても大丈夫だろう。だから俺もお前に言うことはそれ以上ねえ」




しかし心に残った。




だが、同時に少し言いようの無い不安がシモンの中から湧き上がった。




「へっ、なんてな! パーティーには来るんだろ? また酒飲もうぜ! 楽しみにしてるぜ♪」




真剣な表情からいつものように冗談交じりの顔に戻り、それだけを言ってラカンは宿の中へと入っていった。

その時、シモンは何かを感じた。


「ラカン・・・・」


「シモンさん、どうしたのですか?」


「えっ、・・・いや・・・・」


この時シモンは、ラカンの背中から感じた感覚を、ありえないことだと直ぐに捨てた。


(バカな・・・ありえないよ・・・俺も何を考えているんだろう)


ありえるはずも無いと決め付け、シモンはシャークティとともに仲間の下へと合流するのだった。


そうだ、ありえないことだ。


(もうラカンとは会えない気がしたなんて・・・・)


だが、シモンは自分でも言ったことをこの時は忘れていた。「ありえないことなど、ありえない」ということを。


だが、その言葉と胸に訪れた僅かな不安を忘れ、シモンはラカンと別れて美空たちの下へと向かったのだった。




さて一方で・・・・


シモンが懸念していた瀬田の存在だが・・・


「ふむ、どうやらクルトという彼は、予想通り全てを知っていそうだ・・・・ここまで来たら・・・予想を確信に変えたいところだね・・・」


彼は無事に健在だった。

そしてその目には何か企みがあった。それは彼がこの世界に来る前から、そして長時間に及ぶ事情聴取により抱いた想いである。


(彼も僕がある程度掴んでいるのを知っている・・・・何とかハルカとサラを逃がしてから、彼とは一対一で話したいものだね・・・世界の謎についてをね・・・)


その目に見据えた想いを、もはや一般の兵たちでは見抜くことは出来なかった。

これまでの、そして上からの命により、瀬田の事情聴取は総督じきじきに行うという異例の展開になっていた。

そして瀬田はその時に、そして万が一に備えての対策を頭の中で練る。



「・・・それにしても・・・・こうも早く真実にたどり着けそうになるとは・・・・だが危険も伴った。やはりあの時の少女の忠告は正しかったようだな・・・・命がけになるというのは・・・」



すると不意に瀬田は天井を見上げ、何かを懐かしむように呟いた。



「ふふふ、そういえばあの時の少女に出会ったのはもう一年ぐらい前になるのかな? こんな時に思い出すとはね。しかし・・・不思議な子だったな。まるで人の未来を見透かすかのような口ぶりだった・・・でも、今にして思えば彼女は、あの時既にこうなることを見抜いていたのかもしれないな・・・・もう少し詳しく話をすればよかったかな?」



そして思い出し・・・・



「たしか・・・スウちゃんの話によると、どこかの大学のロボット工学研究会がモルモル王国の研究室に勉強に来たときに一緒に来た子だったんだっけな? でも、名前を聞くのを忘れちゃったんだよな・・・・何者だったんだろう・・・あの子・・・面白い日本語のしゃべり方で・・・」



よみがえる記憶は・・・



――あなたが冒険王カ?



――ん? そんなあだ名を知っているとは、君は誰だい? 遺跡に興味があるのかい? ならば、大歓迎だ! さあ、一緒に掘ろうじゃないか!



――ふっふっふ、なるほど、これが将来あの組織の・・・・いやいや、なんでもないヨ。残念ながら、私は穴掘り大嫌いヨ。実は私の大嫌いな人がドリルと穴掘りを三度の飯より好きで、私はドリルと穴掘りが大嫌いになたヨ。



――そんな~、穴掘り好きに悪い人は居ないよ~、だからきっとその人もいい人だよ~



――ふふ、そうなることを願っているガ・・・そうネ、いつかその人と会ったら、あなたに見定めて欲しいネ。



――はっはっは、そんなことが本当にあればね。ええ~っと、君の名前は? 



――名乗るほどのものではないヨ。強いて言うなら、近い将来あなたが訪れる星からやってきた・・・・・ただの火星人ネ!!  



――ははははははは! それはすごいな! それなら僕はいつか火星に行っちゃうのかな♪



――はっはっはっは、冗談だと思ってると、命を落とすことになりかねないヨ、気をつけることネ♪



当時の光景を思い出し、瀬田は思わず微笑んだ。



「ふっふっふ、そういえば彼女の言うとおり、穴掘り好きの人にも出会えたな。・・・ふふ・・・本当に不思議な子だったな」



その呟きを聞くものは誰もその場に居なかった。
最終更新:2011年05月13日 20:55
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