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110-3

彼らは、どうだった? その時、ネギはカミナが殺された時のシモンの姿を思い出した。


不貞腐れ、自暴自棄になり、仲間に当たり、獣人への憎しみのみで戦っていたシモン。


あの時のシモンにネギは、目を背けそうになった。


それほど見るに堪えなかったからだ。


ならば・・・



「ぐう・・・・あが・・・・ぐううう・・・・」



今の自分はどうだ?


自分でも気付かないほど、心の奥底に封じ込められていた真っ黒い感情。


その感情に支配されそうになっている今の自分は・・・・




「ア゛ア゛―――――――ッ!!!!」




「「「ッ!?」」」




そう思った瞬間、ネギは叫んだ。


全ての鬱憤を吹き飛ばすかのように、とにかく思いっきり叫んだ。



「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」



「せ・・・・せんせ~・・・・」



「ネギ君・・・・」



「おい・・・・どうなんだよ・・・・」



気づけばネギは床に膝をついて激しく肩で息をしている。


だが・・・・



「バ、・・・・・・バカな・・・・・」



先ほどまでの異形の姿から、元の姿に戻っているのだった。



「バカな・・・・バカな・・・・・ネギ君・・・・君は・・・」



ワナワナと震えながら、クルトは信じられないような眼差しでネギを見る。



「大丈夫です、みなさん。僕を誰だと思っているんですか?」



「「「!!」」」



だが、それは現実だ。



「た、耐えた・・・・バカな・・・憎いはずだ・・・殺したいはずだ・・・闇の魔法の影響により、間違いなく堕ちたはずだ・・・・なのに・・・自力で戻っただと!? そんなバカな! 君は憎いはずだ! 我慢する必要などない! 君の復讐の対象は、今目の前に居るのだよ!? ならば立つのだ! 怒りと憎しみを魔力と変え、その力を存分に振舞うのだ!」



「テ、テメエ・・・・まだ!?」



「せんせー! 聞いちゃダメです!」



尚も挑発しようとするクルトに焦るのどかたちだが、その心配はいらない。


副作用を無理やり抑え込んだことにより、かなりの疲労感が見えるものの、ネギに変化はない。



「はあ、はあ・・・・はあ・・・・・・憎しみのため・・・・・・・・・・では・・・・ありません」



「ッ!?」



「この力は・・・・皆を守るため・・・・無理を通して道理を蹴っ飛ばせるようになるため・・・・・」



そして少し疲れた体を起こし、ネギは無理やりにでも、いつものような爽やかにほほ笑んだ。



「ふう、・・・・・・少し見苦しいところをお見せしました。では、お話の続きをお願いします」



「バ、バカな!?」



「僕は全容や事実だけを知りたいのではありません。僕はただ・・・・・真実を知りたいんです」



「!!」



大丈夫だ。


いつものネギだ。


それが分かっただけで、皆涙線に涙が溜まっている。


かつてのトラウマに支配されなかったネギの姿に、心から安堵した。



「ありがとうございました、千雨さん」



「へっ・・・・・細かいこと・・・・・気にしねんだろ?」



「はいッ!!」



溜まった涙を見られぬように、千雨はすぐに顔をソッぽ向くが、ネギには千雨の想いが十分に伝わった。


そんな彼らのやり取りを見ながら、クルトは予想外の事態に震えていた。



(予想外だ・・・突けば揺れる子だと思っていたが・・・人の言葉に惑わされる子だと思っていたが・・・この精神力は・・・・・)



だが同時に、胸が高鳴った。



(いや・・・やることは変わらない・・・しかし・・・・しかしこの想いの強さは・・・・・くっ、何を期待する! 彼がどうだろうと何も変わらない。私は・・・・・私の義務を果たすのだ。そうだ・・・・もっとも多くの者を救える選択を・・・・)



クルトの心の中の葛藤は誰にも分からない。だが、確かにクルトは一瞬だけ胸が高鳴った。


彼だけが知り、彼だけが抱える、どうしようもない絶対的な絶望の中に、僅かな光を見たのだ。


ネギの姿に「この子なら、ひょっとして・・・」と思ってしまったのだった。










そして、晴れた地獄絵図とは打って変わり、こちらの地獄は未だに続いていた。






突然変貌したユウサの姿にシモンは言葉がうまく発せない。


「何だ・・・その腕は・・・・」


「君の世界には鬼という文化がないから分からないのかな? だが、すぐに知ることになる」


警戒するシモンに、ユウサは余裕を絶やさない。

そして・・・


「さあ、・・・続きだァ!!」


「ッ、・・・・!」


「鬼爪大地獄!!」


すると両者それなりの間合いがある中で、ユウサはその場で片腕を無造作に振りぬいた。

その瞬間、先ほどのカマイタチよりも遥かに巨大な切り裂かれた空気の刃が、シモンの目前まで迫ってきた。


「ッ!? さっきよりデカイ!?」


デカイだけではない。速度も速い。


「くっ、超銀河螺旋フィールド!」


「へっ、くだらねえ!」


「・・・・これなら・・・・数秒は・・・・・・ッ!?」


超銀河の螺旋力で張ったフィールドならば、ある程度は持ちこたえられる。その隙に一気に間合いを詰めるのがシモンの咄嗟の考えだった。

しかし・・・


「第二波・・・・」


「なっ、連続!?」


間も置かずに、再び旋風が吹き荒れた。

それだけではない。


「ひははははは、ボヤボヤするなァ! 第三波! 第四波! 第五波!」


「な、・・・・何ィ!?」


空間に隙間なく埋め尽くされるカマイタチは、あらゆる角度から刃を光らせ、逃げ場もない。



「ギ・・・・ギガドリル・マキシマム!!」



本日二度目のギガドリルマキシマム。

全方位をギガドリルで身を隠すしかない。

だが、その衝撃はギガドリルを伝わり、十分にシモンまで届く。


「どうした~、土の中の次はドリルの中に籠るか~!」


(な、なんて衝撃だ・・・一撃でも食らえば、腕や足なんか、簡単に切断される! しかも・・・息つく暇もねえ! ダメだ・・・出て行くわけにはいかない。ここは耐えるしかない・・・・)


引き裂かれる自分の姿を容易に想像してしまった。いかに挑発されようとも、簡単に飛び出すわけにはいかない。



「ふん、挑発には乗らないか・・・・気持ちは熱くしても、頭の中は冷静か~、それなりに場数を踏んでいるだけはありやがる・・・・・だが・・・・」



ユウサはジックリ観察するようにギガドリルマキシマムの中に隠れるシモンを眺める。そしてタイミングを見計らって、ニタリと笑った。

それは・・・・


「・・・・ッ、まずい・・・」


「やはりな! そんな超強力な技を何秒も維持出来るわけねえ! ほら、見~つけた!」


消耗の激しい超強力技を連発した結果だ。

ギガドリルが解除され、シモンが中からむき出しになる。そのシモンに、ユウサはすかさず飛びかかった。

その時、鬼の左腕が形態を変化させ、ユウサの左腕が禍々しい剣へと変わった。


「鬼斬り!!」


「さ、・・・・させるかア!」


「ん? その怪我でもチョロチョロ動ける力はあるようだな!」


剣と化した鬼の斬撃とシモンのソルバーニアが交差する。激しい金属音を響かせ、両者の刃が交錯する。

傍から見るとシモンの動きもユウサに十分に渡り合っているように見える。

ユウサのパワーは格段に上がったが、ソルバーニアの能力によりシモンのスピードも負けていない。

超速戦により二人の刃のぶつかる音が、あちらこちらから聞こえる。

だが、移動しながらの攻防から、二人の得物が鍔迫り合いとなると、余裕のユウサに対して、シモンの表情が強張っている。


「やるね~、だが・・・・」


(お、・・・・おも・・・・・重い・・・・)


鬼の腕力はシモンの螺旋力の想定を遥かに超えていた。


(な、なんて腕力だ・・・・・・・!?)


互角に見える両者の力の押し合いも、気づけばシモンは方膝をついていた。

スピードならば対抗できたのだが、ユウサの一撃一撃により、その攻撃を受け止めていたシモンの腕は完全に痺れてしまっていた。

チコ☆タンやラカンほどではないにしても、徐々にその腕力にシモンは押し潰されていく。

そして完全にシモンが押しつぶされそうになった瞬間、ユウサは空いている左手を力強く握り締め、シモンの腹部目掛けて思いっきり拳を振りぬいた。


「五臓六腑に沁み渡れ・・・・鬼殴り!!」


「しっ、しまっ・・・・・・・・・ッ!?」


怪物、魔人、これまで多くの拳を受けてきたシモン。

だが悔しいかな、下種な鬼の拳の一撃は、それらと遜色無いほどの一撃が込められており、殴り飛ばされたシモンは大量の血を吐き出した。


「ッ!? な、内臓が・・・ふ、ごほっ・・・吹き飛ぶ・・・・・・がはっ・・・このやろう・・・」


内臓が傷ついたのだろう。

白い世界に、シモンの血が流れ落ちる。うまく呼吸すら間々ならぬほどのダメージを受けたシモンだが、ユウサの追撃は止まらない。


「ひははははははッ! 良く意識を保ったァ!!」


「ちっ、・・・ちょっ、・・・超銀河螺旋砲!!」


「ひはッ♪ レーザービームかッ!! ・・・くは~~~~ッ、痛え~~~!」


一直線上に突き進むドリルの先端から飛び出した細いレーザー光線が、ユウサの肉体を貫いた。

そのスピードと込められたエネルギーの密度は、ユウサの脇腹の一部を抉り飛ばした。

完璧なカウンターだったためにユウサも流石に避けられなかったようだ。


「くっくっく、・・・・そんなことも出来るのかい? ちっと痛かったぜ!」


だが・・・己の脇腹を抉られながら、苦痛に歪むどころか、ユウサは更に機嫌良さそうに笑った。


「いいね~ッ! 状態2の俺に傷を付けたのは鶴子ちゃん以来だ! 足掻け足掻けェ! 地獄で足掻く奴らを絶望させるのは、鬼の誇りだァ!!」


徐々に戦局が変わっていく。


いつの間にか、超速戦で一見互角に見えた二人の戦いも、今ではユウサの怒涛の攻撃にシモンが逃げ回っているようにしか見えなかった。


そして徐々にそれすら許されなくなっていく。


「・・・ッ・・・はあ・・・・はあ・・・・」


血が止まらない。


ユウサの爪や竜巻により全身を切り刻まれ、内臓まで傷つけられたシモンは既に大量の血を失っている。


今でも傷口から流れる血が、無限地獄に広がっていく。



「ひははははははははははは」



ユウサもその事にはとっくに気づいている。


しかしあえて時間をかけてシモンをいたぶっている様に見えた。


シモンも意地で弱音も悲鳴も上げずに意識を保っているが、失っていく血が徐々に意識を奪っていこうとする。


そして止まらぬ地獄の猛攻に、超速スピードで対抗していたシモンが、ついにユウサに捕まってしまった。


「ぐっ・・・・・」


「ひはっ、鬼ごっこはもう終わりかァ!」


鬼の右腕に、シモンの首が掴まれる。

何とか逃れようと、ソルバーニアを突き出すが、余った左腕に掴まれてしまった。


「ぐっ、テメエ・・・・離しやがれ!」


このまま首の骨をへし折られるのだけは避けなければならない。シモンは首を掴まれながらも必死にその手を離そうとする。

だが、ユウサの手はビクともせず、そして鬼は・・・・・


「ひはははは、安心しろ。首の骨を折るなんて無粋な真似はしねえ。もっとも・・・・折られたほうがマシかもしれねえがな♪」


「なにッ!?」


伝わってくる、邪悪な妖気。腕を伝わり、シモンに流れて来るユウサの妖力。

それを感じ取った瞬間に、シモンは全身から汗を滲み出した。

自分の命を握られている感覚。

たとえ命を失っても、その後の世界すら握られているかのように感じる、どこまでも呪われてしまっているかのような感覚が、全てを告げていた。

だがもう遅い。

ユウサの言葉を借りるなら、正にシモンの罪がそのまま返ってくる。



「阿鼻地獄!!」



「―――――――・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



痛い? そんな程度のものではない。声を出すことも叫ぶことも出来ない。


ユウサが妖気を放った瞬間、シモンの全身にかつてない衝撃、全身を何かで抉り取られているかのような感覚が襲い掛かった。



(なん・・・・・・だ・・・・・これ・・・・・)



そう・・・衝撃波により内臓が振動する感覚と、ドリルで全身に穴を開けられているかのような感覚だ。



(まるで俺の体が・・・・たくさんのドリルで攻撃されているような・・・・・・・・・・・・)



それ以上は分からない。


痛みを感じるどころか、既に痛みを通り越して全身が麻痺してしまっているかのようになってしまった。


その直後、シモンの全身から爆発したかのように鮮血が飛び散り、その血の上にシモンは痙攣を起こしながら倒れた。



「ひはははは、これぞ正に悪因悪果。テメエの罪の重さって奴よ!」



全身をビクビクと痙攣させながら悶えるシモン。


もはや、自分自身がどうなっているのかもよく分からなかった。



「ひはははははは、阿鼻地獄・・・この技は俺が受けた『痛み』を、まとめてそのまま相手に返す技だ。たいていの敵は俺にそこまでダメージを与えられないからあんまり意味がねえが、お前さんみたいに単純に破壊力だけ飛びぬけたバカにはうってつけの技だ」



もはやシモンにはユウサが何を言っているかも分からない。


それを分かっていながら、倒れるシモンにユウサは尋ねる。


ニヤニヤと・・・不快な笑みを絶やさぬまま・・・・



「地獄・・・それは罪人に自分の犯した罪の重さを、苦しみによって分からせることだ・・・・・どうよ、この地獄? 苦しいだろ? 自分の行いを悔い改めるだろ?」



      • ただ、狂ったように笑った。



「どうだ、痛みを知ったか!! テメエにドリルで傷つけられた連中の痛みを少しは知ったか! ひははははは、ドリルは人に向けてはいけませ~ん! 正しい使い方をしましょ~う! ひははははははははは! 思い知ったか、地獄の深さを! お前さんの気合や魂を持ってしても掘り抜けない! 世界の深さを知らなかったのはお前さんの方だな、シモン君! 千の刃やチコちゃんに勝って勘違いしてんじゃねえか? そもそもあの二人も、大して何も考えずにお前さんの馬鹿デカイ技に付き合っただけだ」



言い返すこともできない。反論することも出来ない。だからこそ、その笑いを止めることは出来なかった。



「シモン君、お前さんこそ知るべきだった! この俺を誰だと思っている! まあ、もう聞こえてもいないだろうがなァ!」



まさかこんなことになるとは思っていなかった。


世界や宇宙の広さは知っていたつもりだ。幾多の壁を掘り抜けて己に自信があったのも事実。


だが、不快な笑みを浮かべる目の前の鬼の言葉を撤回させることも、力ずくで黙らすことも出来ないとは思っても居なかった。


だが・・・・



(ああ・・・・・もう力が入らない・・・・・これが・・・・ドリルで攻撃されるって・・・・・・こんなに痛いんだ・・・・・)



ユウサの声は耳には入らない。しかし、それでもシモンの意識は閉じていない。



(俺の罪・・・・・・これが、俺が当たり前のように今までしてきたこと・・・・・・・・それが今正に俺に返ってきた・・・・・・痛い・・・・・感覚がないのに、すごく痛いって分かる・・・・・・・・・・でも・・・・・・)



気づいたら床に倒れていた。


何でそうなったかはシモンには分からない。感覚がないのだから。


だから・・・・



「・・・・・・・・おっ・・・・」



自分がいつの間にか立ち上がっていたことにも気づいていなかった。


何でそんなことが出来たのかは分からない。感覚がないのだから。



「これは~、少し驚いたね~」



ふざけた様にいつも笑っていたユウサが、ほんの少しだけ引きつった笑みで漏らした言葉には、素直な思いが込められていた。



「まさか立ち上がるとは・・・・・気合や魂やらでは説明できね~な~」



立ち上がったシモンは既に半死半生である。しかしそんな姿にほんの少しだけユウサは手に汗を握った。


するとシモンは、少し押しただけでも倒れそうなぐらいフラフラな状態で、擦れる様な声を絞り出した。



「・・・受けた痛みを返すって事は・・・・要するにお前が耐え切った痛みってことだ・・・・・・・・お前が耐えたものに・・・・・俺が・・・耐え切らないわけないだろ?」



「なるほど・・・・・お前さんの罪は、思いのほか軽い地獄で済んじまったってことか・・・・やるね~」



シモンの言葉に「なるほど」と頷いて納得したユウサ。しかしそれだけではない。



「・・・お前もだ・・・・・」



「ん~?」



「・・・お前も・・・・・何も分かっちゃいない・・・・・」



「ア~?」



「・・・・傷で償えるような罪だったら・・・・大したことは・・・・・ない。本物の償いや痛みは・・・・こんなものじゃ済まされない・・・・」



シモンが痛みを思い知る? そんなものずっと前から知っている。



「だから俺は立てる・・・何度だって・・・・・痛いだけの傷ならな!」



目に見える傷や怪我などとは比べ物にならないほどの傷を心に負ったことがある。


最も親しい人、最も信頼できる仲間たち、最も愛しい人、彼らを失ったときの心の痛みに比べれば・・・・




「そして・・・・・お前こそ・・・・俺を知った気になってんじゃねえ・・・・・」



        • 耐えてみせる。



「ん~?」



「どんな厚い壁も崩れる日は来る・・・そして俺のドリルは天も地も明日をも貫く・・・最初がどんなにダメだったとしても、最後に掘りぬけたなら俺の勝ちだ! お前の言う通りなら、結果が同じなら過程はどうでもいいんだろ!」



まだ終われない。


最後の最後に勝てれば、全て勝ちだ。


今までだってそうだった。


どんなに傷つき失い、ダメだと思ってきても、最後の最後に勝ち抜いた。


そうだ、こういう展開でこそ自分は足掻いて足掻いて乗り越えてきた。



「けっ、しょせんは、へ理屈だ!」



「足掻くのが望みなら・・・・・望み通り、足掻きまくってやる!! 泥だらけになろうと、血だらけになろうと、目に見える傷なんかで俺の心をへし折れると思ったら、大間違いだ!!」



だから足掻く。



「超銀河ギガドリル!!!!」



負けてたまるか。


倒れてたまるか。


自分を、仲間を、誇りを、侮辱されたまま終わってたまるか。


ただその一身で残る全ての螺旋力を注ぎ込んだ。



「ひはははは、やはりそう来たか! それは千の刃を倒した技だな! だが、俺には効かねえ! てめえには掘りぬけられねえよ!」 



体が軋む。血が噴出す。


だが、それでも体は燃え上がり、血が滾る。



「知ったことかァ! 大グレン団の心を! 魂を! へし折れるものならへし折ってみやがれ!」



こんな時にソルバーニアの存在がありがたい。以前までは大技の反動や負担が直接体に与えられていたが、このソルバーニアはシモンの肉体への負担を軽減してくれる。


ニアの想いだ。ニアが自分を守ってくれている。いや、ニアも一緒に戦ってくれているのだ。この世界を突き破るために。


だからこそ、シモンは全ての想いも込めて飛び込んだ。



「いくぜ・・・・・超銀河ギガドリルブレイクゥーーーーーッ!!!!」



天に掲げた超銀河のドリルを回転させ、シモンは飛び込んだ。


痛みも流れる血も吹き飛ばし、最後の特攻を見せる。



「ひは・・・・・・くらったら死ぬな・・・・だが甘え。千の刃のようなバカじゃねんだ、まともに付き合うかよ!!」



だが、そんなシモンの気力をあざ笑うかのように、ユウサは正面から受けようとはしなかった。



「式神・羅生門!!」



自分とシモンが立つ二人の間に境界線を引くかのように、再び地獄の門を間に立たせた。



「ひはははは、地獄に来ることは簡単だが・・・・許可なく入ることは許されねえのさ!!」



シモンの眼前に、先ほど自分の大技を弾いた強力な門が出現した。


だが・・・・



「・・・・俺を知った気になるな。俺が信じる俺はこんなもんじゃねえ。俺を誰だと思っている!」



それでもシモンは構わずに突き進んだ。


そして、次の瞬間、螺旋の回転の渦が世界に響く。


だが、それでもそのドリルの先は届かない。


ユウサの思ったとおり、シモンのギガドリルは羅生門に巨大な振動を響かせたものの、掘りぬけることは出来ずに、門は健在である。


だが・・・・



「・・・・・なにッ!?」



「うおおおおおおお!!」



シモンのドリルの回転は止まらない。


シモンは止まっていない。


それどころか、回転のスピードは上がり、徐々に門から削られていく音が鳴り響いた。



「むっ! こいつは・・・おいおい本当かい?」



そしてついにユウサの目には門にヒビが生まれた瞬間が映った。


いや、それだけではない。



「・・・いや・・・それどころか・・・・・・・」



それどころか、ヒビが入ったのは門だけではない。


この空間全体が揺れだし、世界に亀裂が生まれた。



「ひははははは! マジかい!? 羅生門だけじゃなく、技の衝撃だけで俺の無限地獄そのものをも壊しているっていうのかい?」



シモンの繰り出した超銀河のギガドリルは銀河を貫くドリルである。


いかに地獄の底が奥深くとも、信念と魂も捨てたものではない。


そしてその想いは、ついに地獄の扉を粉々に打ち砕き、世界を砕いた。



「オオオッ! ひはははは、たまげたな!」



世界が崩壊し、次の瞬間には真っ白い無限地獄の世界が一変し、元の美しいオスティアの夜へと戻った。


だが、シモンはそのことを気にしていない。ただユウサだけしか見えていない。


そしてユウサは、門を粉々に砕いて一直線に飛び込んでくるシモンから避けることを一瞬忘れ、素直に感心したように笑っていた。



「羅生門を壊すとは・・・・・・・ひはははは、20年前にジェノムの野郎と戦って以来だ!」



門を破壊したことにより、多少ドリルの威力が落ちたが、それでも問題ない。



「終わりだァ!! 超銀河ギガドリルブレイクゥッ!!」



「・・・ひははは、たまるかよ! 電撃大地獄玉ァ!!」



門を突き破り、次の瞬間にはシモンの目にはユウサしか写っていなかった。


そして何度も心の中で「これで決めてみせる」と叫んだ。


ユウサが苦し紛れに電撃の玉を放出するが構わない。


これ以上どれだけの痛みが襲おうとも、ここでこの男を倒せれば構わないと覚悟した。



「決めてやる! これが俺達の想いだァ!!」



「ひはははははははははははは!! 超最高!!」



唸るドリルに、地獄の電撃。螺旋と球体が力を増して、ぶつかり合おうとした・・・・




その時だった!!















「殺人回転木馬!!」




交錯する寸前の二人の間に、突如小さな影が飛び込んだ。






「「ッ!!??」」






それは二人が予想もしていなかった第三者の声だった。


その小さな影はその場で巨大な光る竜巻を天に向かって巻き起こし、シモンのドリルを弾き、ユウサの電撃を飲み込んだ。



「なにッ!!」



「ど、どういうことだよ!? これは一体・・・・」



この出来事には、シモンだけでなくユウサですら目を見開いている。


突如現れた光る竜巻の巨大なエネルギー防壁のようなものが、ユウサの技によって威力が落ちていたとはいえ、シモンのドリルを簡単に弾き、自分の電撃すら飲み込んでしまったのだ。


だが、ユウサは直ぐにハッとした。




「・・・この技は・・・・ひはは・・・おいおい・・・・」




竜巻を目の前にして戸惑うシモンに、動揺するユウサ。


すると竜巻の中から乱入者の声が聞こえ、その声の主はゆっくりと竜巻の風力を弱め、その姿を現した。




「まったく、どうして小僧どもはこうして騒がしくすることしかできんのだ。終焉ぐらい黙って過ごせんのか?」




夜の闇の下、二人の最強の間に割って入った謎の乱入者。


竜巻の中から姿を現したのは一匹のアルマジロ。




「ひ・・・ひはは・・・マジかよ・・・てめえは・・・ジ・・・・・・・」




「あれ? 誰かと・・・・・・似ているような・・・・・・・・」




近づいてきたアルマジロの獣人にシモンは目を細めて、昔会ったことのある獣人と重ねた。


だがユウサは、別の意味で驚いているようだった。




「ジ、・・・・ジジイ!? 何故、ここにいやがる!?」




ユウサの言葉に、アルマジロは口に咥えた煙管から煙を溜息のように吐き出して、口を開く。




「ふっ、年寄りに対して口のきき方ぐらい注意したらどうじゃ、この鬼小僧」




ニヤリと浮かべる口元の笑みと眼光は、ユウサの知っている者だった。




「だ、誰なんだよ?」




「ふむ、ワシを知らんか。まあ、世代が違うからのう。ワシにとってはあっという間じゃッたが、これも世の流れ。じゃが新たな英雄よ。昔の歴史を知るのも大切だというのに・・・まあ、よかろう・・・・」




そしてシモンの問いに、男はついにその名を明かす。




「ワシの名はアムグ。元首都の大参謀をやっておったわい。かつての通り名は・・・不動のアムグ!」




その者の名はアムグ。




「アムグ・・・・だと?」




「へっ、最高だァ。とんでもねえ奴が来やがった・・・・ひはははは、益々面白くなってきたじゃねえの」




そう、不動の男が動き出し、ついにシモンの前に現れたのだった。


そして次の瞬間、シモンの体は自分の意思とは関係なく、全身から力が抜けて倒れた。


血を流しすぎて力が入らなくなったのだ。


這い蹲るシモンに、ケタケタと同窓会に参加した者のように機嫌よく笑うユウサ、現れたアムグ、そして無限地獄から開放された数対の白骨遺体と傷だらけのラガンが転がり、総督府から少しはなれた建物の屋上には異様な光景が広がっていた。
最終更新:2011年05月13日 20:59
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