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111-教えてくれ、この世界の真実を

第百十一話 教えてくれ、この世界の真実を 投稿者:兄貴 投稿日:10/06/12-09:12 No.4349
その者は、地獄の鬼と螺旋の男の衝突に突如割って入った。


鬼の狂気と男の魂のぶつかり合いに、倦怠の滲み出た表情でいとも簡単に止めてしまった。


この事態に驚くよりも、むしろ愉快に笑うユウサ。


「ひはは、こいつはとんだ大物だ・・・魔法界に轟く首都の参謀にて大将軍・・・不動のアムグ・・・」


這いつくばりながら、現れた小さな獣人を見上げるシモン。


「アムグ・・・・だと? 確かその名前は・・・・」


両者の思いはそれぞれだが、現れた獣人はようやく口を開いた。


「さて・・・ほう・・・・騒がしい小僧どもだが、それに見合うだけの物は持っているようじゃな。少なくとも半端者ではなかったか。じゃが、場の空気を読み切れんようではまだまだじゃな」


シモンとユウサを品定めするかのように見つめてくる、獣人アムグ。

この事態にシモンはまだ頭がついていかない。現れた獣人は敵なのか? それとも味方なのか、判断がつかなかった。


「ひはははは、もう会えねえかと思っていたが、アムグじいさん。引退してチコちゃんの祭りにも来なかったアンタが、こんなところに何しに来た~?」


まだ思考が追いつかないシモンに変わり、ユウサが先に口を開いた。


「ふん、・・・そうか・・・爆乱の小僧のバカな祭りには貴様も絡んでおったか。だが残念じゃったな。そんなものに参加する元気など既にないわ。それに引退したと言ってもワシはちゃんと仕事を持っておる。現在のワシの肩書は、首都大監獄の署長じゃよ」


「へっ、灯台下暗しだな。まさか地獄の門番になってやがるとは予想外だ。紅き翼の所為でアリカ姫処刑失敗の責任を取らされて将軍をクビになったとは聞いたが、くっくっく、天下りはよくね~ぞ~? 現実世界でも問題になってるからな」


他愛のない雑談を交わす二人は顔見知りなのだろう。


「グワハハハハ、文句を言うのはいつも何もやらぬ者たちじゃ。自分が同じ立場ならするというのに、人間とは身勝手なものじゃて」


「なんだよつまらねえな~。チコちゃんのような懐かしいものを期待したが、所詮は野心の無くしたジジイか・・・ガッカリさせてくれやがる」


しかし、間柄が良好である様子でもない。


「それで・・・・ジジイ・・・・くくく・・・何しに来た~? 新たな時代に、やる気のねえ旧時代の遺物が出てくるんじゃねえよ。踏み潰すぞ~?」


その時、シモンは張り詰めた空気に鳥肌を立てた。

それは、先ほどまで自分に向けられていた強烈な悪意の篭った殺意。この場に居ることすら苦痛に感じる禍々しい空気。

だが、それほどの殺気を正面から受けても・・・・。


「な~に、終幕の場ぐらい立ち会おうかとな。そして・・・・ちょっと気になることがあってのう。少なくとも貴様に用はないぞ。のう・・・小鬼よ?」


アムグは軽く受け流した。

そしてその一言が、更に場の緊張感を高めた。


「へっ、余裕じゃねえか~! だが、テメエごときがこの俺と対等ぶるのはいただけないね~」


「・・・・む・・・・」


「ッ!?」


ヘラヘラしていたユウサから突き刺さるような殺意の篭った覇気と笑みに、身動きの取れないシモンは意識を正常に保つだけで精一杯だった。


「正直俺はテメエをある程度は認めていたのだ。大戦期は紅き翼どもに圧倒されていたかも知れないが、それでもテメエだけは奴らと何とか対抗できていた。正義の味方共の演出を盛り上げる脇役としてな! だから随分と楽しませてくれた礼だ! せめてこの俺の手で引導を渡してやろうか?」


地獄の瘴気が再び漏れ出した。「やる気だ」シモンは即座に感じ取った。

だが何も出来ない。ユウサはいつの間にかシモンを忘れ、現れた獣人しか視界に入っていない。


しかし・・・


「ふん、言うではないか・・・青山家だけでなく、・・・テンジョウ家からも尻尾を巻いて逃げ回っている小鬼が生意気言いおる」


その地獄の瘴気を正面から受けても、アムグは物怖じ一つしなかった。

突き刺さるユウサから漏れる空気に対して・・・・


「まったく、反吐が出るわい。昔から変わらぬということは成長しておらんということじゃ。貴様は所詮幼稚で程度の低い小悪党のままじゃ。」


「ア゛?」


アムグから漏れ出す空気は、まるで場を包み込むような大きさを感じた。

この小さき獣人から感じる大きな存在感が、場を埋め尽くそうとした瞬間、アムグは咥えた煙管を手に持ち、ユウサに向けた。


「その気なら構わんぞ? じゃが、・・・・それなりに抵抗させてもらうぞい」


「・・・・・・・・」


お互い一歩も引かぬ論争に、一瞬の間が開いた。

その一瞬にユウサが動き出す・・・・と思ったのだが・・・


「ふん、・・・・やめとくぜ。戦争以外でテメエと戦っても血が滾らねえ。野心を無くしたジジイの引退試合なんかに付き合ってられるか。そこで黙って終焉を見ておくことだな」


状況は一転してユウサは急に肩の力を抜き、殺気を抑えて両肩をすくめて笑い出した。


「ほう、賢明じゃな。まあワシも至極の歴史の幕引きの相手が貴様というのは耐えられんからのう」


場の空気が一転して普通の状態に戻った。てっきり戦闘が始まると身構えていたシモンは少し意外に感じていた。


(何なんだよこいつら・・・)


そして、気に食わないものは躊躇なく殺すであろうユウサが相手の挑発に乗らずに戦闘を回避した。

それは本当に興味が失せたからなのか、それとも戦闘を避けたかったためなのかは分からない。

だが少なくとも、このやりとりにおいてシモンはアムグが只者でないことを再認識したのだった。


「さて、ようやく本題に入れるのう」


一言はさみ、僅かな間を置きアムグはゆっくりと口を開き、視線をユウサから別に向ける。


「終焉を見送るためとはいえ、何故こうしてワザワザ姿を現したのかというと、・・・・・そこにいる若造に少し用があってな」


「・・・えっ?」


視線を流すアムグの瞳には、床に倒れているシモンが居た。

アムグの視線につられてユウサもシモンに視線を向ける。だが急に振られて少しシモンも戸惑ってしまった。

すると、そんなシモンを見ながらアムグがその口を開く。


「こうして会うのは初めてじゃが、ワシは例の映画も拳闘大会も見た。・・・・貴様が噂のシモンじゃな?」


「・・・・・ああ・・・・・」


確認するかのような問いかけに、シモンはただ頷くだけしか出来なかった。

だがそれだけでアムグは小さく「そうか」と呟き、少し遠くを見つめるような、そして何か懐かしいものを思い出しているかのような瞳でシモンに語りかけていく。


「そうか、貴様か・・・なるほどのう・・・・こうして間近に接するとたしかに身に纏う空気・・・いや・・・雰囲気・・・違うのう・・・何か内に秘める根本的なようなものが・・・あの男と同じ感じがするのう」


「あの男? 根本的?」


「ふっ、根本的にあの男と同じ・・・それは即ち根本的なものが普通の人間とは違うということじゃ。・・・懐かしいのう・・・」


小さく笑うアムグにわけが分からぬシモン。だが、その態度をユウサだけは理解した。「なるほど」と小さく呟きながらほくそ笑んだ。


「・・・・初めに言っておく、ジジイ。そいつとあの男は面識がねえ」


戸惑うシモンに代わり、ある意味この場で全てを知っているユウサが口を開いた。


「なんじゃと?」


意外だったのか、アムグは少し驚きながら、真実を知るユウサに振り返った。


「その男のペンダント・・・・正式名称はコアドリルって言うらしいが、テメエもあの映画を見て気になった口だろ? 残念ながら、そいつとジェノムの野郎・・・そして・・・あの根暗で無表情なジェノムの娘は赤の他人だ。面識もねえ・・・・まあ、・・・・・あの二人に流れる遺伝子だけは同じかもしれねえがな。根本的なもの・・・・流石にジジイの勘は鋭いな」


「どういうことじゃ?」


「ひはは、知る必要もねえ。これから世界と共に消えさるジジイには過ぎた話だ。まあ、テンジョウ家・・・そしてシモン君たちが何者でどこから来たのかを知りたければ、もう少し消えずにいることだな。いずれこの俺が世界中に教えてやるつもりだからよ! もっとも出来ればの話だがな。ひははははははははは!」


ユウサはまるでアムグをあざ笑うかのように、嘲笑した。

その言葉に不快な表情を見せて、アムグは眉を顰める。そしてしばらくシモンを見つめ、残念そうにため息を吐いた。


「そうか。新人類の秘密を消える前に知れると思ったんじゃが、そうはいかなかったか」


「新人類?」


「ワシがかつて唯一敬意を表した人間。覇王の器を持ち、圧倒的力の前に多くのものをひれ伏せさせ、その強大なカリスマで多くのものを引き寄せた。魔法は一切使えぬが・・・・ただの野蛮な人間ではない。そう・・・貴様と似た螺旋の光を発していたのう。名は・・・ジェノム・テンジョウ・・・」


「コ、コアドリル・・・・俺と同じ・・・螺旋の光・・・・・・・・!?」


そのとき、一つの言葉が頭を過ぎった。


「・・・まさか・・・・・!?」


螺旋族・・・

シモンの頭の中で不意にその言葉が流れた。

先ほどのユウサの話、そして今のアムグの話。それが真実だとしたら、自分の考えは間違っていない。

自分以外の螺旋族がこの宇宙の地球に居たのか? 


「おい・・・・・・お前・・・・・」


「・・・ユウサだ・・・俺の名はな~」


全てを知るこの男の名を今はじめて聞き、シモンは痛んだ体をゆっくりと起こしていく。

話が長かったこともあり、少しは体が回復してきた。ソルバーニアを杖代わりに無理やり体を引き起こし、シモンは問わずにはいられぬ疑問をぶつける。


「そのジェノムって男は・・・まさか・・・」


シモンの問いに、ユウサは「にや~」とうれしそうに笑みを浮かべた。


「さ~? だが・・・今は奴の娘が管理しているが・・・・たしかにテンジョウ家にはコアドリルがあったぜ!!」


「バ、バカなッ!? 俺以外の螺旋族が居るわけ・・・・・いや・・・・でも・・・」


自分以外に居るはずが無い・・・とは言い切れなかった。

それは顔神遺跡にあったラガンが証明している。


「その通り、お前の宇宙にはかつて多くの螺旋族がいた。そしてかつて螺旋王の率いた銀河螺旋軍の戦士たちの大半は宇宙の海に沈んだ・・・・だが・・・例外も居た。お前さんの存在と顔神遺跡がそれを証明した」


ユウサの言う通りだ。

かつての螺旋族とアンチスパイラルとの戦いから逃れようとした螺旋族たちが、他にも別次元の宇宙へ跳んでもおかしくは無い。

ラガンの無いシモンが生身で出来たのだ。

ラガンを保有していたかつての螺旋族が自分より以前に、この次元の宇宙に来ていたとしても不思議ではない。


「まあ、顔神遺跡のラガンが何故この世界・・・というよりも火星に現れたのかを考えると、1000年続くテンジョウ家の真相も見えてくるってものだ」


テンジョウ家というものをシモンは知らない。しかしユウサの話は筋が通っている。


「なんてことだ・・・・アンチスパイラルから逃れた螺旋族がこの宇宙に流れていたなんて・・・・・」


自分は新たな世界を掘り当てたと思っていた。しかし真相は違った。自分よりも遥か昔より螺旋族はこの異なる次元の宇宙に訪れていたのだった。

そして・・・




「・・・ん? ・・・・・火星?」




そこにはもう一つの真実も隠されていた。


「ん~? なんだ~今更。それとも気づいていなかったのか? 冒険王は既に感づいていたと思うぞ~」


ユウサが先ほどサラッと口に出した言葉。その言葉が今になってシモンの意識を引き止めた。


「火星? いや、・・・でも確かに顔神遺跡の中にあったラガンには・・・銀河螺旋軍の・・・火星・・・戦士って・・・・」


顔神遺跡でラガンを見つけたとき、コクピットの中で眠っていた骸の傍に刻まれていた遺言のような言葉。


「ふっ、ありえねえことなんて、ありえねえ・・・・君の想像通りだよ、シモン君」


ラガンの中の亡骸とコクピットに刻まれた文字、あの時は記憶喪失だったこともあり、意味は理解できなかった。

だが、今なら出来る。


「・・・・・そういうことか・・・・・・・多元宇宙の母星の地下に螺旋の力封じ、ここに眠る・・・か・・・・そうか・・・アンチスパイラル・・・いや、あの時暴走したロージェノムから逃れるために・・・・」


螺旋界認識転移システムでかつての惨劇から故郷へ逃げようとした。しかし、当時の銀河での戦いの波動により空間や次元の壁が歪められ、この星に来たのだろう。

火星戦士が記した多元宇宙の母星・・・・つまり・・・・


「魔法世界なんていうから誤魔化されていた・・・・・ここは火星なんだな?」


火星・・・・

そういうことになるのだ。

ようやくその答えにたどり着いたユウサは、人をバカにしたかのように笑った。


「お利口さん。よく出来ました♪ しっかし、ある程度予想はしていたが、このラガンの中に1000年前の螺旋族の遺体があったとはな。さっさと開けて引きずり出してやりたいものだな~」


「無理だ、お前に開けられるものか! ラガンは他のガンメンとは違う! 螺旋力を使えなかった時は、俺にも使えなかったんだ!」


「出来るさ! 螺旋力に反応するんだったら、ジェノムをうまい具合に利用すれば何とかなりそうだ。玩具で遊ぶのはその後だな」


「ッ!?」


不可能ではない。

コアドリルが無ければラガンは動かせないであろうし、仮にコアドリルがあったとしても螺旋力が無ければ使いこなすことは出来ない。

だが・・・・・


「確かに俺にはラガンを動かせない・・・・だがな・・・・アテはあるんだよ。ラガンを動かせる人間のアテはな」


もしコアドリルがあり・・・・


「まあ、そいつと俺は仲が良いわけではないがな。だが、俺がこだわるのは俺がラガンを使うことじゃない。俺が創り出す地球史上最大の戦争を盛り上げる要因として、そこにラガンが居るかどうかだからな」


螺旋力を持っているものが自分以外に居たとしたら・・・・

そしてユウサの計画通りに世界に自分たちの物語が流されてしまえば・・・


「ふっふっふっふっ、地球の表の世界は君たちの世界ほどではないにしろ科学の力で埋め尽くされている。・・・・ひははははははは、ラガンと相性バッチリのメカだってある。君だってモルモル王国の兵器と合体したことあるだろ~?」 


確かにこの世界でモルモル王国の科学技術の結晶とも言えるメカタマとシモンは合体した。ブータも螺旋力を駆使して、サラと共にメカタマをパワーアップさせた。

つまり螺旋の力とこの宇宙の科学の力は十分に相性が良いのである。

それを思い出した瞬間、ユウサが企んでいそうな考えたくも無い最低な道がシモンの頭の中に浮かんだ。


「ジェノムの野郎に使わせるのは腹立たしいが~・・・それはそれで面白そうだ。倦怠の海に沈んだ螺旋王とは違う。超攻撃的で勇猛果敢な覇王が天へと駆け上がる! そしてその姿を見て世界が変わる! それに対抗するのは残された魔法使いたち! しかしここで乗り出してくるのが野心を持った魔界の住人共! 戦の渦中にラガンが居れば、テメエも参加せずにはいられまい! くくく、見えてきたぜシナリオが!」


ユウサには螺旋力が無いから、仮にラガンを奪ったとしても使用することは出来ない。だが、螺旋力を使えるものなら話が別だ。

そしてこの男は、ラガンを戦いを盛る上げるために使えさえすれば、誰が使うことも厭わないのだ。

ただ、誰が使ったとしても楽しければいい。そういう男だからこそ、最初はシモンに話を持ちかけたのだ。


「ッ、こ・・・・このッ!!」


ただ楽しむだけ。

たったそれだけのために多くの者の未来と世界の命運を賭けるのだ。ある意味、これほど見過ごせぬ純粋な悪意は無い。

シモンにも見えてきた。


「それだけのためにお前はラガンを!?」


「ひはははははは、全ては楽しき世界のためだ! シモン君、家族とのんびり過ごしているときのお前さんより、命懸けの道を歩んでいるときのお前さんのほうがよっぽど輝いていたぜ! 俺が再び取り戻させてやるよ!」


見えたのはあまりにもくだらない・・・・


「そんなことのために・・・・・」


バカみたいなこと・・・・


「そうさ。そんなことがこの世で一番重要なのさ! かつて無い規模で巻き起こる地球大戦争! 地球史に残る舞台をこの手で創れるなんてゾクゾクするじゃねえの!!」


「ッ!? ふざけんじゃねえ!!」


「オッ!?」


軋む体の痛みに堪えながら、ドリルを突き出しユウサへ衝撃波を放つシモン。


「ほっ! やりおるのう」


振り絞る螺旋力に怒りを込めた一撃にユウサはその身を弾き飛ばされた。

変身により肉体を大幅に強化させたユウサにはそれほどのダメージは無いだろう。

しかしここまで追い詰められても、未だにこれほど力を残していたシモンに多少は驚いたようだ。

いや、残された力だけではない。

むしろ少しずつ回復してまた漲ってきているようにも見える。


「この宇宙はたしかに俺には関係なかったもしれない。でもな、もう関係しちまった!! この世界にも地球にも、厚い繋がりを俺はもう持っちまったんだよ! そして何より、ネギの親父さんやラカンたちが・・・命懸けでネギたちのために残した道をお前なんかが壊すっていうんなら、あいつらのダチとして見過ごすことなんて出来るわけがねえんだよ!!」


舞い散る埃を爪で引き裂き、鬼は牙をむき出した。だが、対するシモンも今更牙の一つや二つで怯みはしない。その手のドリルは真っ直ぐとユウサを射抜いている。


「やっ・・・りやがったな~、コラ♪」


「そしてラガンもだ! お前なんかがそいつを使って、俺と超の居る未来へと続く道の間に立つんじゃない!」


「・・・ひははは・・・なら・・・変えたければ、俺に勝ってみやがれい!」 


「当たり前だア!!」


上等だと言わんばかりに、シモンはソルバーニアを構えてユウサへと飛び掛る。

血を噴出しながら、血まみれとなった衣服を身にまといながらだ。

しかしその背中のグレン団のマークはどれだけ血が染み込もうとも、輝きを失わずに、今のシモンの気持ちを表すかのように熱く滾っている。

その滾りを狂喜乱舞しながら迎えるユウサ・・・だが・・・



「ふう・・・・・・・・重力領域(グラビディ・ゾーン)!! 10倍!!」



「「ッ!?」」



真っ向からぶつかり合おうとした両者の気迫が、突如上空から降り注ぐ、押しつぶすようなプレッシャーにかき消された。


「ちッ!」


「これは!?」


それは大げさなどではない。気づいたときには、自分たちの体が強烈な重さに押さえつけられていた。


「な、・・・なん・・・!!」


「ひっ・・・は・・・・ジジイ・・・てめえ・・・・」


自分の体が地面にめり込むぐらいの重さで押さえつけられ、途端にシモンも、そしてユウサもその場で一歩も動けなくなってしまった。


「うるさいガギどもじゃ。少しは口と手を押さえよ」


すでにボロボロのシモンは体に感じる負担に苦痛の表情を浮かべ、そして常にヘラヘラとしていたユウサからは笑みが消え、代わりに舌打ちが漏れた。


「ふふん、ワシの能力を忘れたか? 重力魔法を操るのは貴様やアルビレオ・イマだけではないぞ?」


「・・・のやろう・・・・・・・」


「う、・・・動け・・・・」


動けない。


「この領域内はワシ以外のものは、強力な重力によって押し潰される。不動のアムグ・・・・相手を不動にさせる・・・グハハハハハハ、少しは堪能したかのう?」


少しでも気を抜けば簡単に地面に倒れて押しつぶされてしまうかのような感覚が、両者に襲い掛かっていた・・・・が・・・・



「・・・ぐう・・・お・・・くっそーーーーー・・・・・って、ひはははははは! なんちゃって♪」



「うおおおおおおおおおおおおッ!!」



なんと押し潰されるかと思っていた両者がその場から軽々と飛び上がった。


「!?」


ユウサもシモンも強力な重力領域の中とは思えぬほどの動きだ。


「ひはははははは、たかが10倍なんざ俺に効くかア!!」


ユウサにはそもそもこの程度の重力変化に押し潰されるほど弱くなく・・・


「ソルバーニアがあれば・・・・これぐらいなら・・・・少しはッ!!」


そしてソルバーニアはシモンへの体の負担を最小限にするよう重力制御のようなものが備わっているのがネギとの戦いのときに分かっていた。

いずれにせよ、これで押し潰される二人ではなかった。

だが・・・・


「まったく、これだから鬼も人間も野蛮じゃというのに・・・・なら・・・重力100倍!!」


「「ッ!?」」


今度は更に強力な重力場を展開させ、強烈な重みが二人に襲い掛かり、二人の重みにより地面に亀裂が走った。


「!?」


「―――――――――ッ!?」


態度は余裕だが、今度は素直に動くのをやめ、ユウサはその場で立ち尽くす。

そしてシモンはついに方膝を地面に付け、アムグの強力な重力攻撃に押さえつけられてしまったのだった。


「やれやれ、じゃからやめろと言うとるではないか」


呆れたように煙管の煙を吐き出しながら、アムグは重力を弱める気は無い。


「ぐっ・・ぬぬぬぬ・・・懐かしいね~。これで相手を動けなくしてジワジワと甚振ったり押し潰したりするセコイジジイだったなッ!」


「お、おも・・・・・く、動けない!?」


「まあ、落ち着け。貴様らの喧嘩は規模が大きく邪魔になる。これからこの世界は歴史の分岐点に差し掛かる。つまらぬ喧嘩は帰ってからすることじゃな。もう・・・・時間じゃ・・・見よ、とうとうこの時が来たようじゃ」


アムグはまるで聞かん坊の二人をあやすかのように、二人をなだめようとする。

しかも相手はシモンとユウサの二人だ。

二人まとめて大人しくさせるこの獣人もまた、脅威的な存在と言えた。


「あ~あ、邪魔してくれちゃってま~。だが、夢中になっていて気づかなかったな。たしかにそろそろのようだな。懐かしい奴が・・・・コソコソ動いてるな・・・・」


これほどの重力場の中だというのに、ユウサは軽口で両肩を竦めた。その視線の先にある何かを見つめながら・・・


「な、・・・・なんだ?」


その視線を追ってシモンもその方角を見ると、そこには・・・・



「な、・・・なんだ・・・・あの化物は!?」



その視線の先には巨大な黒い・・・・怪物? ・・・・化物? 

形容の仕方が思いつかないほど、しかし誰の目からも伝わってくる巨大な闇を纏った怪物が、数多の触手と巨大な腕を広げて、オスティア総督府全土を包み込んでいた。


「どっ・・・どこから・・・な、なんであんなものに気づかなかったんだ!?」


あまりにも巨大で、あまりにも突然に現れた怪物にシモンは驚きを隠せないのだが、アムグとユウサは大して驚いた様子は無い。


「ほう、何やら懐かしいものじゃのう。まだしぶとく生きておったか」


「へっ、しかも・・・・既に『鍵』は持っているようだな。ジジイ・・・・あれほどのレベルの奴が裏技使うんだ・・・・今奴と戦ったら・・・・消えるぜ?」


「・・・ふん、言われんでも承知しとるわい。しかし『鍵』を持っているということは黄昏の姫巫女は手の内ということじゃ・・・・・・どうやらガトーが命を賭けたのも今となっては無意味じゃッたな。元老院共がアリカ姫を謀略の罠に嵌めてまで手に入れようとした姫巫女・・・ガトーや千の呪文たちが命を賭けた娘・・・一度見ておきたかったがのう」


「ガトー? ・・・・・・っていうか・・・・ひははははは、どうでもいいがこの重力場を解いてくれねえか? もう喧嘩しねえからよ、ひはははは!」


現れた巨人を悠然と眺めながら呟く二人。

その巨人は今にもその巨大な腕を持って、多くの人や自分の家族に仲間たちがいる総督府を押し潰そうとしている。

だがシモンも、自分を抑える重力場の所為と、あまりにも急展開過ぎる状況にまだ頭がついていけなかった。


「もう、・・・・何が・・・・どうなってるんだ!? くそッ! 美空! ココネ! シャークティ! ・・・・・・みんな!・・・・・」


こうしている間にも世界は確実に終わりが始まっていた。


「ぐっ・・・うぐぐぐぐ・・・・動け・・・動けよ・・・」


「おっ!」


「!」


だが、例え世界が滅びに向かおうとも・・・・


「こんなプレッシャーがどうした! 俺が背負ってきた物の重さは・・・・・」


それでも足掻くのが・・・・


「ひはッ♪ サスガ!」


「なんと!?」


この男だ!


「こんなもんじゃねえんだよォ!!」


100倍を超える超重力の圧力に抑えられようとも、決してシモンは押し潰されずに少しずつだか膝を伸ばし、立ち上がっていく。

ユウサにやられた傷や、強くかみ締めた唇から血が噴出しても、拳とソルバーニアを握り締め、立ち上がる。

だが・・・・


「やれやれ・・・では・・・重力場・・・・解除・・・・」


「―――ッ・・・・ッッッ!!??」


「ッと・・・解けたか・・・だが、エゲツないね~、人間のシモン君には耐えられまい」


アムグがポツリと一言漏らした瞬間、場を覆い、シモンとユウサを押さえつけていたはずの高重力場が一瞬で消えた。


「こ、・・・・がはっ!」


だが、その瞬間シモンは自然と口に手を当てた。そしてその手に、真っ赤な塊を吐き出した。

      • 血だった。


「無駄じゃ、貴様ら人間はデリケートに出来ておる。急激な重力の変化に内臓が耐えられんのじゃ」


外部の傷だけでなく、内部にも多く負荷をかけ過ぎた。ついにはそれが内臓を傷つけるまで至ったのだ。


「残念ながら気合の話ではない。人体の構造上避けられぬことじゃ」


意識が遠のく。

沸きあがった螺旋力の全てを停止させ、まるでエネルギーの失ったメカのように身動き一つ取らずに倒れてしまった。


「しばし待て。その時には全てが終わっておる」


倒れたシモンへ言葉を投げかけるアムグ。


「ひはははは、おやすみシモン君。中々楽しかったぜ」


そして、重力場から開放され、シモンとは違い強力な肉体を誇っているために急激な重力変化にも何ともないユウサは、ニヤニヤと笑いながら倒れたシモンの横を通り過ぎ、転がっているラガンをポンポンと叩きながら、シモンに振り返る。


「まあ、・・・ラガンは・・・俺が有効に利用してやるよーーーッ!! ひは・・・ひはははは・・・・ひはははははははははは!!」


この笑い声はシモンには届かない。



「そして映像もな! 天元突破グレンラガン、地球全土同時公開はもう少しだけ待っていてくれよな! ひはははははははははははははは!」



だが、この男との因縁は今この瞬間を持ってハッキリと結ばれたのだ。

この場で決着を付けられなかったシモンとユウサ。それが果たして良かったのかどうかは、次に二人が再会するまで分からなかった。


「ひはははは、さて、俺は行かせてもらうぜ。最後に軽く挨拶してから現実世界に帰らせてもらう」


「・・・現実・・・のう・・・」


「ああ。ジェノムの野郎に会ったらテメエのことは言っといてやるよ」


終始笑みの耐えなかったユウサ。

その底を見せぬまま彼はこの場から消え去る。


「それじゃあ、アバヨ、ジジイ!」


アムグは何も答えない。

例えこれが今生の別れとなったとしても、何の名残も感じさせず、この男にはさっさとこの場から消えろというような態度でソッポ向いた。

その態度に嘲笑しながらユウサは闇の中へと消えて行ったのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:01
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