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111-2

「クルトさん・・・・・・・敵って一体何ですか?」


確か映像で見たニアも言ったことがあったなと思いながら、ネギは告げる。

その言葉の意味は分かっている。

ネギも別にニアの真似をして言ったわけではない。ただ、不意にその言葉が口から出たのだ。

因みに敵という意味を簡単に説明すると、ぶっ倒す相手のことだ。


「そうですね・・・では最大限ぶっちゃけて簡潔に述べましょう」


ぶっ倒すというのは拳骨で殴ったりすることである。

ネギの敵? ぶっ倒す相手? ネギの知らないネギの本当の敵。その答えをついにクルトは述べる。


「純血の魔法使い市民5000万人と魔法世界最大の軍事力を誇る超巨大魔法都市国家メガロメセンブリア・・・・その最高機関である『MM元老院』これは我々の敵です。・・・そして・・・」


「・・・・・・」


いきなり話がデカ過ぎる。しかしクルトが述べる敵はこれだけではない。


「滅んだとされる『始まりの魔法使い』、これも我々の敵です。そしてその意志を受け継ぐフェイト・アーウェルンクス等も我々の敵です」


「・・・・・フェイト・・・・」


「そして・・・」


朝倉たちが口をあけて驚いている。次から次へと出てくる名前は聞き覚えのあるものばかりである。

そしてそれは・・・


「亜人たちの帝国、ヘラス。これも我々の障害に過ぎません。・・・分かりますか? この全てが我々の打ち倒すべき敵です」


「「「ハアッ!?」」」


「そう、この全てを打ち倒し、この滅び行く世界から全ての人間・・・・6700万人の全同胞を救い出すのが我々の目的です」


開いた口が塞がらないほどの真実だった。


「って・・・・・それって全部じゃねえか!? 要するにこの世界の全てが敵って事かよ!? それでこの世界の人間を救うとか、何言ってやがるんだよ!?」


敵とはぶっ倒す相手だ。

つまりネギがぶっ倒す敵とは、この世界の全てということである。

世界の全てをぶっ倒して、世界を救う。矛盾して、いくらなんでもいきなりすぎる話である。

しかし決してふざけた様子の無いこのクルト。一体どこまで本気なのか・・・いや・・・


「の・・・のどかさん・・・・」


「・・・・はい・・・・全て・・・・真実です」


      • 本気なのだ。

偽証不可能なのどかのアーティファクトがそれを証明していたのだ。


「ほう、いどのえにっき・・・・ですが、これで私が嘘を言っていないことが分かったでしょう?」


クルトに嘘は無い。全てが偽りの無い事実なのであろう。

だが、まだ分からない。


「確かに・・・・嘘ではないようですね。・・・・でも・・・・」


「ん? どうしました、ネギ君?」


クルトが嘘を言っていないからといって、『本当』のことを言っているとは限らない。

その『本当』が何なのかをネギは知らねばならない。

ネギの『敵』の正体ではない。

この世界の『謎』と『真実』という鍵が残っている限り、ネギはまだクルトの言葉を鵜呑みにはしなかったのだった。




そしてその頃・・・・





ネギが疑問の答えにようやく届こうかというときに、こちらも一人の男が一つの疑問を口にしていた。


――人は問う


「あれは・・・・そう、ニアという少女が言っていた・・・・」


――己とは何か


「何がだよ?」


――命とは何か


「ヒト・・・・・・ただそのことについてだよ」


――宇宙とは何か


「ヒト? ・・・・それで? ニアって嬢ちゃんの言葉の何が気になったんだよ?」


――その答えを知らぬまま人は死ぬ


「彼女は興味深いことを言った・・・・人間には心がある。大きな大きな心がある。ゆえに・・・・人形ではないと・・・・」


――それこそが、人の宿命


「ああ・・・・・・言っていたな。敵に捕らわれて、今にも自分が死にそうだという時、人間をゴミのような発言をした連中にそうやって啖呵切ってやがったな」


――人は問う


「そう、そしてそれを証明するために、彼女はシモンと共に自分の父親と戦った・・・・・・・そして打ち勝った」


――何故戦う。


「ああ。自分たちが世界に居ていいと証明したんだよ」


――何故殺す


「・・・・・・・・・・本当にそうかな?」


――何故滅ぶ


「何?」


――その答えを知らぬまま人は死ぬ


「本当に世界はあれで救われたのか・・・・・・・」


―――それこそが人の幸せ


「あ~ん? どうしたんだよ、急によう」


「別に。ただあんなものを見せられたから、少し気になっただけだよ」


そう呟いて、ある一つの信念を持った男は、偶然に生まれた一つの疑問の答えを出せぬまま、成すべきことをするために動いていた。

貫くべき信念。だが、一点の隙も無く固められたはずの心の内に入り込んだ僅かな迷いが、彼にこんな発言をさせたのだった。

そんな彼と相対するものが一人。


「ほ~、テメエもあの映画を見た口か。ならばちっとは考え方が変わったか~?」


そこは一つの幻想空間。

フェイトの従者でもある環のアーティファクトによって創り出された亜空間。外の世界と隔絶されたこの中で、二人の強者が過去の因縁を賭けて戦っていた。


「変わらないさ。でも・・・少し気になったというのも事実だね。だから・・・この戦いを終わらせる前に、少し君にも聞いてみたくなってね」


「・・・何をだ?」


二人の力はほぼ互角の世界最強クラス同士である。


「結局・・・・ヒトとは一体何なんだい?」


だが、規格外の力に歴戦の経験が二人の僅かな差となり、勝負は若干ラカンが優勢に見えた。


「う~・・・フェイト様・・・・」


その様子をハラハラと眺めるフェイトの従者の少女たち。

するとフェイトは突然戦いの手を止め、呟いた。


「シモン・・・カミナ・・・ニア・・・ロージェノム・・・僕たちの知らない世界の裏側でも、人間は戦っていた。・・・・・生き残るために・・・世界に存在する権利を勝ち取るためにだ」


「そうさ・・・・自分たちも存在していいと証明するためにだ。まあ、どこの世界でもああいう奴らも戦いもあるのかもしれねえな」


かつて自分たちも戦った。

ただの圧制や弾圧から逃れるためにではない。世界中の人たちと協力し、この世界に存在し続けるために戦った。


「・・・不毛だね・・・・ヒトとは・・・大極を見極めずに目先のことばかりに感情を優先させて動く」


「だが、楽しいぜ。人形のままでは味わえないものだ。フェイトよ・・・・お前も分かってるんじゃねえのか?」


「くだらない」


「おっ?」


かつて世界を救った「紅き翼」たち。

そして彼らと相対し、世界を滅ぼそうとした「完全なる世界」。

その残党であるフェイト。しかし、「完全なる世界」の意志を継いだ彼も、彼なりに実は世界を救うために動いていた。

だからかもしれない・・・


「その結果・・・世界が滅ぶことになるかもしれないのに。僕も似たようなものだからかな? ロージェノムという男が、ただの世界の独裁者だとはとうてい思えなかった」


「ほ~う」


「ひょっとしたら、彼は彼なりに何かの目的であんなことをした。それは世界を守るためだったかもしれない」


表面で物事を見ようとせず、彼は流された映画の内容を奥深くまで読み取ろうとした。


「なるほどな・・・言われてみればそうかもしれねえ」


シモンがこの場に居れば真偽を確認できたかもしれない。しかし、初見の物語をシモンの解説抜きでそこまで考えているあたり、フェイトも中々の洞察力だとラカンは感じた。

しかし・・・・


「まあ、・・・俺には難しいことは知らねえし、それはシモンに聞けば分かることだ。でも・・・あえて言わせてもらえば、ロージェノムの目的が何だったにせよ、シモンたちは変わらなかったと思うぜ?」


「何故?」


「そりゃ~・・・・シモンたちが、ヒトだったからじゃねえか? 種族としての人間じゃなくて・・・・てめえの言うとおり、感情任せに動く奴らだったからじゃねえか? そう、・・・ヒトには・・・感情があるからだよ」


ラカンは己の感じたまま、己が思ったことをそのまま告げた。


「ナギの野郎もそうだった。例え世界が明日滅ぼうとも、足掻くのがヒトなんだろ」


だが、その言葉にフェイトは首を横に振った。


「おかしなことを言うね。所詮君も僕と同じ人形だというのに」


「~~~・・・あ~・・・ど~して頭のいい奴はそんなことが気になるんだ? シモンたちの話はそんな難しいこと考えて見るもんじゃねえ。素直に感じて見てりゃ良かったんだよ。その方が楽しかったぜ? お前も少しは本能のままに生きてみたらどうだ?」


「その本能とやらも所詮は創りものだよ。残念だけどね」


「か~っ、卑屈だな~。だが、卑屈すぎて逆に人間らしいぜ、フェイト!!」


音を立てて再び戦闘の構えに入るラカン。

結局こうなるのだ。違う意見が交わることは無い。何年経っても強情な意思は曲げることは出来ず、違う両者の思いはぶつかりあう他無い。


「もう十分だ・・・・もう、終わらせよう・・・・・・・」


「・・・・・ん?」


そしてそのぶつかり合いに見切りをつけ、フェイトは決着を告げる。

その手に持つのは、巨大な鍵形の杖。そしてそれこそが、決して抗うことの出来ぬ力。



「どれほど大きな心を持とうと・・・・人形は人形なんだよ・・・・この世界では心すらも幻想なんだよ」



終わりと始まりの力。

造物主の掟がラカンを、そして世界を包み込む。



「ッ!? ・・・・・この感じは・・・・・」



「終わりだ、ジャック・ラカン。真実に焼かれて消えるがいい」



造られた夢の世界に、とうとう現実の鐘が鳴り響く。



そう・・・・




夢が覚めるのだ・・・・


「さて・・・・クルトよ・・・・そしてナギとアリカ姫の忘れ形見よ・・・お主らはどう出るのかのう? 足掻くのか・・・あきらめるのか・・・・それとも限られた数で妥協するのか・・・」


消えた鬼へ一切の関心を示さず、アムグはその視線を総督府唯一つだけを見ていた。


「ネギ・スプリングフィールドか・・・・・言ってみればワシの全てを奪った元凶の息子がこの時になって現れたか・・・グワハハハハ、因果なものじゃ。どうする小僧よ? 世界の崩壊に・・・・真実に・・・・耐え切れるか?」


そこにあるのは、希望か、諦観か、その答えの行く末をただ待っていた。


「ま・・・・・待て・・・・・」


「ほっ?」


消えうせそうな掠れた声。

しかしその声は、確かにアムグの耳に届いていた。

意外そうに振り向くと、そこにはシモンが意識を閉ざさずに、真っ直ぐにアムグを見つめていた。


「今の・・・どういうことだ?」


「これは驚いた。まだ意識があるか。しかし大人しくしておいたほうが良いぞ? ・・・まあ、今更体を労わる男ではないというのは知っているがのう」


未だ意識を失わずに保つシモンに、流石のアムグも少々驚いている。


「・・・・・・・・・世界の崩壊ってどういうことだ?」


そう、今一番気にしなければならないのはそれなのかもしれない。

ラガンやまだ見ぬ未来のことばかりに目が言っていたが、今自分が仲間と共に居るこの世界。

新たな出会いや新たな友を得たこの世界。

その世界が崩壊するとこの男は言った。

それを聞かずには寝てなど居られなかった。


「ふん、自分の体よりこの世界の謎を取るか・・・・酔狂じゃな。貴様には関係ないというのに・・・・」


「それでもだ・・・・・教えてくれ・・・・お前は一体何を知っているんだ」


「ふむ・・・・・」


今すぐにでも治療をしなければならないほど、シモンは傍目から見ても傷を負っている。

瞼を閉じれば少しは楽になるだろう。

逆にこうして話をすることすら傷に響く。

だが、それでもシモンは聞かねばならない。その意志が彼の意識を保っていた。

シモンの姿にアムグは口を開く。


「知って・・・どうするのじゃ? ユウサに手も足も出ない男に何が出来る?」


「俺に出来ることなら、何かをしてみせる。だから教えてくれ、この世界の真実を」


その真っ直ぐな思いが瞳に宿り、その瞳にアムグは何かを感じ取った。


(なるほどのう、確かに気に食わぬ目じゃ・・・ミルフが・・・マンドラが・・・・ディーネが・・・貴様に関心を持ったわけじゃな・・・じゃが・・・)


瞼を閉じて思い出すのはかつての宿敵。

そして盟友たち。

シモンに対して感じ取ったものが、良いものなのか、悪いものなのかは分からない。

しかし、それでも自分の感じ取った何かが、アムグの中でシモンに対して事実を告げるべきなのだろうという気にはなった。


「まあ・・・・しかし・・・・結果は変わらんじゃろうが・・・」


そう、知ったところで・・・


「お主に分かりやすく言うと・・・・魔力による枯渇が原因じゃ。この世界を支える魔力がいずれ尽きる。それは避けられぬことだ。」


「・・・・何?」


「そうなればどうなるか? 簡単じゃ、幻想世界が消えればそこに住む人間は何も無い火星の荒野に投げ出される。人の生存が不可能なな・・・・それで終わりじゃ」


あまりにも簡単な説明だが、その分シモンでも簡単に事態を把握することが出来た。


「そ、それじゃあこの世界の人たちは・・・・!? エミリィやコレット・・・ベアトリクスやトサカたちだって・・・他にも数え切れないぐらいの人たちがこの世界に住んでいるんだろ!? お前だって!?」


「ではどうする? 地球に移民するか? 無理じゃな、ジェノムを筆頭に地球側はそんな大勢の難民は断固拒否するじゃろう。勿論、メガロメセンブリアの6000万近くの人間でもじゃ」


「だ・・・だからって・・・」


シンプルな問題。だが、シンプルゆえにその困難さが十分に分かった。

まるでこれはアンチスパイラルの襲来のときと同じような衝撃だった。

淡々と言われた世界崩壊と人類全滅のシナリオはシモンにかつての戦いの記憶を呼び戻した。

アンチスパイラルによる人類殲滅システム。月の落下。政府が打ち出した限られた人間だけの避難。無限に続く絶望と戦ったあの時と同じような衝撃だった。

そして今回は、別の意味でタチが悪い。

明確な敵がいないのである。

振り上げた拳を誰にも振るえない。確かにこの宇宙の人間ではないシモンが手を出していいレベルを遥かに超えていた。


「アーウェルンクスはその事態を避けるために自らの意志で早急にこの世界を滅ぼそうとしている」


「まさか・・・フェイトが言っていた世界を滅ぼして・・・世界を救う・・・それは魔法世界を滅ぼして、地球に迷惑を掛けないようにするって意味なのか?」


「さあ、そこまではのう。もっともワシはむしろ逆になると思うが・・・・・・まあ、それはいいじゃろう」


僅かな含みを持たせてアムグは続ける。


「重要なのはアーウェルンクス共に理があるということじゃ。60億の人間の住む地球を救うには、12億人の生命には死んでもらえばいい」


「そんなこと出来るか! みんなを見捨てるだなんて!」


「まあ・・・・・確かにそれだけなら一考の余地はあるかも知れんのじゃが、それも無意味じゃ。いや・・・そもそもこの世界で生命倫理を訴えるほうが無意味なのじゃよ・・・どうせ・・・全て・・・・」


だが、その全てを言い終わる前に、オスティアの夜に大勢の人々の悲鳴が聞こえた。


「ッ!?」


それはオスティア総督府からだ。先ほど現れた巨大な黒い影。そして目を凝らせば幾多の黒い影を纏った化物がパーティー会場を埋め尽くしていたのだ。

先ほどまで祭りの余韻に浸っていた紳士淑女たちから悲鳴が漏れ、当たり一体から戦闘音も聞こえだした。


「ふん・・・残党風情が・・・」


「くっ、くそ・・・・みんなァ!!」


頭の中は世界の崩壊と全滅のことで一杯だ。

だが、あの場に居る家族や仲間も気がかりだ。

二つの気がかりが頭の中でせめぎ合い、同時にどうすればいいのかの答えが出なかった。

この状態のままでどうやってエミリィたちに会えばいいのか、それを考えるだけでもつらかった。

しかし幸か不幸か今のシモンは動ける状態ではない。這いつくばりながら、家族のことを叫び、頭の中ではアムグの言葉を思い返していた。


(あの、クルトって男はこの事実を全て知っている! だから・・・あいつがロシウに似ていると思ったんだ・・・)


戦うのが指導者ではなく、決断するのが指導者であると戦友のロシウは述べたことがある。


(エミリィ・・・トサカ・・・みんな・・・・)


彼はアンチスパイラルの襲来のとき、誰よりも事態を重く考え、励み、行動し、全人類のために戦っていた。

人類が僅かでも生存する方法を考え、誰から非難されようと、どれほど苦渋な決断だろうと、涙を堪えて実行してきた。

おそらくクルトはそうなのだろう。

彼もまたこの事実に正面から向き合い、これまで悩み、そして戦ってきたのだろう。


――やはり君は何も分かっていない。


昼間クルトが自分に向かって言った言葉だ。

彼がこの言葉をどんな思いで立ちはだかる自分やネギに向かって言ったのか、その気持ちはロシウを見てきただけに分からないでもなかった。


「クソッ、それにしても何なんだよアレは! フェイトの仕業か!?」


目の前の混乱と、解けない難解、傷で痛む体。問題が山積みのまま、現れた魔物は容赦なく総督府を押し潰そうとしていた。















サウザンドマスターたちの活躍により、『始まりの魔法使い』や『完全なる世界』は滅んだ。世界は確かに一度平和に浮かれた。だが、それも直ぐに変わった。


終戦間もなく、オスティアは崩壊し、大勢の犠牲者と難民を生みだした。


それはこの世界では有名な話。


歴史書にも載り、ラカンからの話も聞いた。世界の混乱を起こした元凶を叩き潰したが、一つの国を守ることが出来なかったと。


もっとも犠牲者といっても数は奇跡的に少なくて済んだ。これは政府の人間や女王でもあるアリカ姫自らが尽力したおかげでもある。


しかし、数字がどうあれ結果は変わらない。


一人でも多くの民を救おうとした女王は、逆に国家を転覆した大犯罪者として、そしてその際に多くの言われない罪をもメガロメセンブリアの元老院に擦り付けられ、結局裁判によりアリカ姫の処刑が確定した。


「つまりこういうこと!? メガロメセンブリアは悪党で、ネギ君のお母さんは嵌められて罪を着せられた?」


「まさか、麻帆良を納めているメガロメセンブリアがそのようなことを・・・」


「えっ? シャークティ先生、そうだったんですか?」


「ぬう~~~、あの美人で勇猛な女王様を陥れるとは、許せん!! これだから頭でっかちは嫌いなんだ!」


「まったく、反吐が出るね」


クルトの口から次々と語られていく真実。その様子は朝倉のアーティファクトを通して、外に居る彼らにも伝わっていた。

グレン団と白き翼たちは総督の部屋で語られる歴史とその裏の非情で悲しき事実に、しかめっ面をしながら聞いていた。


「しかし、結局アリカ姫が救われたのには安心したでござるがな」


「まあ、死んでいたらネギ君は生まれてなかったしね~」


そう、それが唯一の救い。なんと処刑が確定し、決行されたのだがアリカ姫が死ぬことはなかった。

それが隠ぺいされたもう一つの真実。

処刑が決行される直前に駆けつけたナギ率いる紅き翼の面々が乱入し、見事アリカ姫を救出したのだ。

立ちはだかる幾多の兵士や魔導士、軍隊を指揮しているアルマジロの将軍などが居たが、絶対無敵無類の強さを誇る彼らの前には敵わなかった。

その結果、歴史上ではアリカ姫は処刑されたことになってはいたが、その裏では駆けつけた彼女の騎士が見事に捕らわれた姫君を救出したのである。

衝撃の事実ばかりが飛び出す中、この事実だけには皆がホッとしていた。

だが、それでもメガロメセンブリアを始めとする世界がネギの両親を謀略と策略に陥れ、母の名誉を傷つけたのは言うまでもない。両親の名誉を回復し、彼らを打倒してこの世界を救おうというのがクルトのネギに対する提案だった。


「つまり復讐ということでござるか・・・・しかし・・・確かにこのままではアリカ姫は不憫・・・」


「な、何言ってんのよ楓ちゃん!? それじゃあ、ネギは私たちと一緒に帰らないでここに残るってことになるのよ!?」


クルトの言っていることは分からなくもなかった。

しかしアスナの言うように、それがネギとの別れに繋がるのであれば、納得ができない部分がある。

しかし、クルトの提案に乗るということは、父を知り、母を知り、彼らの意思を継ぐというネギの願いも叶うということでもある。それが分かっているだけに、他の者たちはどうしても強く言うことはできなかった。



「さあ、ネギ君。私と仲間になりましょう。共にこの世界を救うのです」



仲間たちが迷っている間にも、クルトはネギに握手を求め、ネギを手に入れようとしている。仲間たちは焦るが、その声が届く事はない。


ネギがどういう答えを出すのか。しかしどういう答えだったとしてもネギ自身の問題となっている以上どうしようもできない。


自分たちと歩むことを選ぶのか? それとも自分が望んでいた己の道のために別れを選ぶのか?


拳を握り、唇を噛みしめて見守る仲間たち。


だが、それはいらない心配だったのかもしれない。





「・・・・答えは・・・・NOです」





「「「ッ!?」」」





何と、仲間たちの心配をよそにネギは迷わずに答えた。




「「「「「「「こ、断ったァ!?」」」」」」」




彼は迷ってはいない。クルトの言葉で色々考えたのだろうが、迷っては居なかった。

クルト以外は望んでいた答えだったとはいえ、アッサリと答えを出したネギに、誰しもが驚きを隠せない。


「なっ!? ネギ君、君は自分が何を言っているのかを理解しているのですか!? 私の仲間にならない、・・・それはすなわち君も君の仲間も無事に帰れないということですよ!?」


クルトの用意した幻想空間。

仕込みに仕込んでネギの心を揺さぶり、そして揺らいだ心の隙間に入り込もうとしたクルト。

だが、その計画は実ることは無かった。

ネギは例え揺らいだとしても、心の隙間に付込まれようとも、クルトの策謀を無理やり跳ね除けたのだった。

ネギを過小評価していなかったとはいえ、心のどこかで所詮は子供と侮っていただけに、この解答にクルトも驚きを隠せなかった。


「仲間も・・・・世界も・・・・救わないと言うのですか? 母の無念も晴らさぬと?」


先ほどまでの胡散臭い笑みも、歪んだ笑みも見せない、眉間にしわを寄せて子供にイラつく彼の素顔がそこにあった。

その眼力にのどかや千雨はゾクリと肩を震わせた。


「仲間も世界も救わない・・・・一言も僕は言っていません。僕はただ、あなたの仲間にはなれないと言っているんです」


だが、ネギは怯むことなく・・・


「・・・ぬ・・・・」


「矛盾しているあなたを僕はまだ信用できないんです」


正面からクルトに向き合ったのだった。


「矛盾? 信用? ひょっとして私がメガロメセンブリアの人間だからですか? それならば先ほどそちらのお嬢さんが証明したでしょう? 弁明するつもりはありませんが、君の村の事件と私は無関係なのですよ?」


「違います。あなたは紅き翼の一員として、父さんやラカンさん、それにタカミチの仲間として世界のために戦っていました。そしてあなたが言う世界の危機・・・それが、この火星に築かれた人工異界の崩壊であるというのも理解できます」


「ッ!?」


シモンが先ほどたどり着いたこの世界の秘密。ネギは既にその答えに辿り着いていたのだった。


「なッ!? な、なぜ君がそれを!? そのことは、世界でもごく少数の人間しか・・・・」


「僕の仲間の助言と独自のルートによる情報です」


「わ~お♪ どうやら本当だったらしいね」


朝倉やのどかも、クルトの反応を見て、どうやらこの仮説が本当であったことに気づいたようだ。

明らかな動揺を見せるクルト。だが、彼も押し切られぬようにと必死に冷静さを保とうとする。

だが・・・


「くっ・・・・ええ・・・その通りです。しかしそこまで分かっているのなら、何が不満なのです?」


「不満です。何故あなたは救う人数を選別しているんですか?」


「!?」


冷静さを取り戻そうとしたクルトは、もはや言い訳不能なほどの動揺に陥った。


「・・・・そこまで・・・・辿り着きましたか」


侮っていた。

心の中で自分の見誤りに顔を歪め、ネギはそんなクルトにさらに追い討ちをかける。


「はい。僕の母や黄昏の姫巫女、そして世界の首脳の黒い話、確かに僕には重要な話です。しかし圧制や弾圧からではない。星の存続の危機から世界を救うというのなら関係あるのは誰が敵か味方ではなく、どうやって全ての命を救うかのはずです!」


「それは・・・・」


「なのに何故あなたはこの世界を敵と味方に色分けするんですか!! そういうことではないはずです!! この世界には12億を超える人たちが住んでいるのに、何故6700万人の方だけを救うと言うのですか!?」


クルトが示した敵。

メガロメセンブリア。ヘラス帝国。アリアドネー。完全なる世界の残党。いわゆる世界の全てをネギに述べた。

たしかに父の敵であり、母を陥れたものたちだ。自分に因縁が無いといえば嘘になる。

だが、今問題なのはネギにとっての敵が誰かではなく、この火星に築かれた魔法世界が崩壊するということだ。

敵から守るのではない。崩壊から生命を救うことである。ならば、クルトの言葉には矛盾が生じる。


「理由があります。救える命を確実に救う。それが私の決断です」


「なら、その理由を答えてください!」


「今は・・・言えません・・・この真実の重さに君をまだ潰したくは無い」
最終更新:2011年05月13日 21:01
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