第百十二話 そんなことあってたまるか! 投稿者:兄貴 投稿日:10/06/16-21:07 No.4354
世界の終わりを告げる怪物の出現に、蒼白した者たちが震え、恐怖が全てを飲み込もうとしていた。
巨大な怪物の登場と同時に、パーティー会場に出現する無数の魔素を纏った魔物たち。
悲鳴と慌しい声だけが会場に響き渡っていた。
「ハルカ・・・あいつら大丈夫かな?」
「まあ仕方ないだろ。こうなったらさっさとズラかった方がいい。アホ亭主には悪いが連れ出して帰還するぞ。カオラの依頼はほとんど終わったしな」
「ぶ~みゅ」
会場の騒ぎを見渡して、パーティーに参加していたサラとハルカはこの状況からいち早く脱出することを心に決めた。
「木乃香たちはどうするんだ? それにこの状況を見捨てんのか?」
「木乃香たちは尚更平気だろ、強い奴らが揃ってるからね。それにもう直ぐここにもゴツイ兵士がたくさん来るだろ。むしろ私たちは邪魔になる。言い換えれば、あいつに対する見張りがユルくなるかもしれない」
「で、でもパパは恩赦になったんだし・・・・」
「・・・あいつは隠された真実を・・・・知らなくていいことを知りすぎた。多分総督は逃がしてくれないだろう。逃げるなら今がチャンスだよ」
知らなくてもいいこと。
瀬田は魔法とはかかわりのない一般人である。しかし、瀬田は本来秘匿とされている魔法を、魔法世界を、そしてこの世界の謎をも知ってしまっているのである。
シモンよりも、ネギよりも早くにこの世界の謎を掴んでいた。
「謎ってどーいうことだよ?」
「さあ? 私にも分からんけど、答えに至ったときのあのバカの表情はいつも見てきたから分かる」
言葉にしなくても、ハルカには分かっていた。そしてそれが重大なことだというのも察していた。だからこそ、彼女は今後のことを考え、この隙に瀬田を連れ出して逃げることを考えたのだ。
「仕方ねえな。・・・それにしても結局シモンの奴は居なくなったままか。・・・どうする、ブータ?」
「ぶ・・・ぶみゅう~・・・・」
「あいつも多分大丈夫だろ。とりあえず、ウチの旦那を助けるまでは一緒に行動しとくぞ!」
慌しく動き出すのはハルカたちだけではない。
会場に集まった多くの貴族たちは、現われた巨大な怪物に、そして会場内に突如現われた無数の闇の兵士たちに悲鳴を上げ、逃げ惑っていた。
すぐに警備の者たちが動き出す。この事態に、アリアドネーや帝国の者たちも率先して動き出す。
しかし、状況は収まらない。むしろこれが始まりだと言わんばかりに悪化していく。
平和の祭典に突如襲い掛かる闇の強襲。
巨大な闇が総督府を、街を、国を、やがては世界全体をも覆い尽くすのだった。
「ッつう・・・何なのよ・・・・あれは・・・」
会場の外では崩れた瓦礫を退けて、打ち付けた箇所を押さえながら、アスナが起き上がる。
先ほどまでいたバルコニーの戦場を舞台ごと破壊され、一同は広い総督府にてバラバラに飛ばされてしまった。
皆で纏まって逃げようとしていただけに、このロスは非常に大きい。
だが、今はバラバラになったことよりも、とにかく現われた巨大な闇の怪物に誰もが目を奪われていた。
「な、何なんだ・・・あれは?」
「た、隊長・・・・あんな召喚獣見たことありません」
先ほどまでメガロメセンブリア、白き翼、新生大グレン団として戦おうとしていた面々たち。
だが、今は敵も味方も無く、自分たちを襲い、今正にその巨大闇で全てを飲み込もうとしている怪物しか目に入らなかった。
「な、なんなのよ、あの化け物は!?」
「あっ、あれは・・・まさか・・・ゲートポートの魔導士!?」
「まさか、フェイトの野郎が来たんかい!?」
それぞれ離れ離れになってしまったが、皆の考えは同じだった。ついに奴らが来たのだと、背筋を震え上がらせた。
戦う覚悟はしていた。
だが、予定していた決戦の時よりも早く、予想もしていなかった事態を飲み込めず、彼女たちはまだ唇をかみ締めたままだった。
そんな中、吹き飛ばされた瓦礫の中に埋もれた者たちが次々と起き上がる。メガロメセンブリアの兵士たちだ。
彼らもまた、未知なる怪物の強襲により部隊に混乱が生じていた。
「な、なんだよアレ!? アレも白き翼たちの仕業か!?」
「いや、あれ・・・どこかで見たことあるぞ。確か・・・・20年前に」
「20年前? ・・・・まさか・・・・・」
「・・・・完全なる世界(コズモエンテレケイア)・・・・」
兵士の一人がボソッと言った言葉。
しかしその言葉は隊全員にまで行き届いていた。
彼らは知っている。「完全なる世界」という組織の存在を。
20年前に世界の破滅を目論み、世界が誇る英雄、紅き翼によって討ち取られた魔法世界最悪の組織。
「嘘だろ・・・・滅んだんじゃないのかよ」
「で、でもあの怪物・・・・記録映像で見たことがある・・・・」
この世界に生まれ育ったものたちは、「完全なる世界」という組織の恐ろしさを知っている。
大戦に参加していたものたちなら尚更だ。
「ど、・・・あんなの・・・どうすれば・・・」
世界最強のサウザンドマスターたちが命を賭して倒した組織。しかしサウザンドマスターたちは、今居ない。
この状況で自分たちはどうすればいいのか?
兵士たちの不安が広がり、恐怖で彼らの心が折れかかっていた。
だが・・・
「おのれ・・・・冒険王といい・・・グレン団といい・・・白き翼といい・・・・あの化物どもといい、どいつもこいつもふざけおってッ!」
「ド、ドウカツ隊長!? ひ、額から血が!?」
「構うな! 瓦礫で少しぶつけただけだ!」
怪我した頭を抑えながら、隊の隊長ドウカツが前へ出た。
そして拳を、唇を力強くかみ締め、怒りに震えた怒号を上げた。
「何の目的のテロかは知らんが・・・国家を・・・軍を・・・我々を舐めるなァ!!」
メガロメセンブリアの軍人にして大戦期を潜り抜けてきた隊長であるこの男は、誰よりも早く立ち上がり、総督府全体に響き渡るかのような号令を発した。
「勇猛なるドウカツ隊の戦士たちよ! この世界は今危機に瀕している!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
闇の怪物出現に呆然としていたものたちが、隊長の一声でハッとなり振り返る。
「我らの責務は何だ! 敵を打ち倒すことか!? 賞金首を捕らえることか!? それだけではない! 罪無き市民たちの明日を守ることだ!!」
それは自分自身に、そして先ほどまで白き翼とグレン団を逮捕しようとしていた者たちに向かって叫んでいた。
賞金首を捕まえるのも勿論仕事だ。ひょっとしたら現われた魔物や巨大な怪物たちと彼らは繋がりがあると疑われてもおかしくない。
だが、アスナたちと強襲してきた敵の関わりが分からないままだというのに、隊長の男とメガロメセンブリアの戦士たちは即座に優先すべきことを理解した。
「さあ、ボヤボヤするな!! 守れ!! 正義を掲げて!! 己の杖に誇りと命を賭けて戦え!! 愚かなカスどもを討伐しろォ!!」
「「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」」」」」」」
「完全なる世界? だからどうした!! 20年前奴らを倒した紅き翼は英雄になった! ならば今ここで奴らを打ち倒したものは魔法世界全土に響き渡る英雄となる! 英雄たちよ、世界のために先陣を切って己の魂を示せ!!」
この事態の把握はまだ出来ない。しかし分かっているのは敵意を持った敵が多数出現し、この総督府には数え切れないほどの民間人や貴族や王族たちも居る。
自分たちの仕事は賞金首を捕まえるだけではない。最も優先しなければならないのは、守ることである。
この世界を、そしてこの平和を生きるものたちを守ることである。
「我々は装備を整えて会場に戻るぞ!! 来場客の避難・誘導、そして大使たちの護衛をしろ!! 本艦との連絡と応援の要請もだ!」
「そこに居る50人は私と共に来い! 対召喚用の魔大砲であのデカブツの足止め、および注意を引き付ける!! 来場客が逃げるまでの時間を稼ぐぞ!!」
「我ら30名は直ぐに他の隊とも合流し、敵の駆除に当たるぞ!!」
アスナたちが敵の出現に呆然と、そしてようやくそこからパニックになって騒ぎ出そうとした瞬間、既にメガロメセンブリアの兵士たちは各々が指示を出し合い、既に己の成すべきことを見極めて動き始めていた。
「・・・・・ス・・・スゴイ・・・」
鳥肌が止まらない。
この緊急事態だというのに、アスナを始め、皆がメガロメセンブリアの兵士たちに見入ってしまった。
パニックになろうとしたアスナたちだが、頼もしい兵士たちの声と行動に再び呆然と眺めてしまった。
ネギやラカン、シモンたちを見てきたアスナたちにとって、いかにプロとはいえ軍人たちはそれほど驚くほどの強さではないと思っていた。
だが、こうしてまだ動けていない自分たちなどに比べて、すぐに行動と状況判断をし、激を飛ばし、巨大な相手に対して己を奮い立たせ、そして自分たちのみを守るためではなく、自分たち以外の人たちのために命を顧みずに戦おうとする戦士たちに少しの間見入ってしまっていた。
「驚いたか?」
「へっ、あ・・・エマはん!? どうして!?」
「総督からお前たちの手配書が来てな。おまけに急に会場が騒がしくなったので来ただけだ。まったく、今度は一体何をしたのだ?」
テラスを破壊されて仲間たちとバラバラになってしまい、皆と逸れてしまった木乃香。その直ぐ後ろにエマが現われた。
どうやらネギがクルトの誘いを拒否したことにより、アスナたちの手配書がメガロメセンブリアだけでなく、他の国々の者たちにまで行き渡ったようだ。
そして手配された途端に、激しい戦闘音が総督府に響き渡った。その原因は一つしかないとエマは判断し、ここまで来たようだ。
「お嬢様ァ!? お嬢様ァ!?」
「あっ、せっちゃん!? ここやーーッ!」
「お嬢様ァ!! ご無事ですかァ!!」
本来なら誰よりも木乃香を護衛しなければならない刹那だったが、裕奈やまき絵のような素人が側にいたために、彼女たちの救出をしていたことにより木乃香と逸れてしまった。
崩れた瓦礫の上から危険を顧みずあわてて叫ぶ刹那だが、木乃香の無事を確認して心の底から安堵した。
「待ってください、お嬢様! 今そちらに・・・・」
しかし崩れた建物などが邪魔で通路が遮られ、木乃香の側へ移動しようとする刹那だが、中々思うように動けず近づけない。
おまけに不気味な敵は皆唐突に現われ、襲い掛かってくる。
そしてその後ろにはこの事態について行けずに少し震えている裕奈とまき絵が居ることをエマは確認した。
「待て、その子達から離れるな!!」
「なっ!? エ、エマさん!? どうしてここに!?」
「そんなことはどうでもいい! それより見る限りその者たちは素人であろう! この状況では警備隊の護衛もままならん。貴様がその子達の側にいろ!」
「し、しかし!?」
「こやつは私がちゃんと送り届ける! どうせお前たちのことだ! 逃げ出す算段は整えているのだろう!」
「え、・・・エマはん・・・うちらを捕まえへんの?」
「確かにそうしたいのも山々だが・・・・ふん、この状況ではそうも言っていられまい。今は誰であろうとここから安全な場所へと避難させることが最優先だ」
勿論刹那は木乃香が誰よりも心配だ。
しかしこの状況下で戦うことの出来ない裕奈たちとはぐれるわけにも行かない。エマは政府の人間であり、自分たちは賞金首だ。しかし、確かにここはエマを信じるしかない。
「しっ・・・しかし・・・」
「せっちゃん! ウチは大丈夫やから! せやから裕奈たちを!」
刹那は己の不甲斐なさと、この状況で最も大切な人の側に居られない悔しさに歯噛みしながらも、全員助かるために何をしなければならないかを見極め、エマに頷いた。
「わ、分かりました! どうかお嬢様をお願いします! 総督府の搬入港に我々の第二集合地点があります!!」
刹那はエマを信じ、自分は戦えぬ二人を引き連れ走り出した。その後姿にエマは呆れたようにため息をついた。
「やれやれ。貴様らは人を簡単に信じすぎる。だからシモンのような馬鹿者なんかに誑かされるのだ」
「うっ、シ・・・シモンさんは絶対に信じられる人やもん!!」
「はあ・・・・・やれやれ」
エマは自分で言い出したこととはいえ、賞金首に賞金首を守るように頼まれるとは思わなかった。まったく妙な巡り会わせと言ったところだ。
しかし・・・・
「まあ、私の誇りに賭けて一度口にしたことは曲げぬ。行くぞ! 敵は謎に包まれている。くれぐれも私から離れるな!」
「は、・・・はいな!! エマはん、ありがとな!!」
「か、勘違いするなよな! 我々はお前たちを見逃そうとしているわけではないのだからな!」
メガロメセンブリアの戦士たちの行動によって目を覚ました白き翼たちは、仲間の安否を確認し、それぞれ今の自分の役目を見つけて離れた仲間たちにも聞こえるように叫んだ。
「わ、私は急いで会場に行くわ! 高音先輩や夕映ちゃんを呼んでくるわ!!」
「ま、待った、アスナ! 私とココネとシスターシャークティも一緒に行くっす!!」
会場に一番近い位置に逃れていたアスナ、美空、ココネ、シャークティは会場に居る者たちを呼びに行く。
「夏美殿と小太郎は拙者についてくるでござる」
「ああ」
「待って! 亜子たちが居ない!?」
「むっ、・・・・・くっ、亜子にアキラが・・・・」
まき絵と裕奈は刹那に、夏美は小太郎と楓が側に居たため、何とか助けられたのだが、同じ非戦闘員である亜子とアキラは見当たらない。
激しく建物が倒壊しているこの惨状を見れば、嫌でも最悪の予感が頭を過ぎる。
建物に押し潰されたか、もしくは遥か地上まで投げ出されたか・・・
だが、その心配も直ぐに払拭された。
「おおーーい! こっちやーーッ!」
「亜子!? アキラ!?」
少し離れているが、自分たちよりも上の位置にある建物の上で元気良く手を振っている亜子とアキラ、その直ぐ後ろでソッポ向いているトサカと数人の舎弟が居た。
「私たちは大丈夫! トサカさんたちが助けてくれたから!!」
「バ、デカイ声出すな!?」
どうやらこの騒ぎを聞きつけたトサカがたまたま通りかかり、亜子とアキラを救出したようだ。
お礼を言われたりするのが恥ずかしいのか、トサカはこちらを見ようとはしないが、それでも二人が無事で居てくれたことに何よりも楓は安堵した。
そして無事なのは白き翼たちだけではない。
「ハカセ・・・山チャンサン、ポチサン、大丈夫デスカ?」
「うん、・・・いたた・・・ちょっと転んじゃったけど、なんとか。山ちゃん、ポチさん、けがは?」
「木乃香ちゃんの魔法で何とか・・・・しかし、とんでもないデカさだ。学園祭のときのデカ物よりも遥かに大きい」
「手強い・・・」
「美空サンタチハ会場ニ向カイマシタ。我々ハ?」
「うん、・・・とにかく今は逃げることを優先しないと。さっき刹那さんが集合場所を叫んでた。私たちもそこに行きましょう。ココネちゃんたちにはシャークティ先生も居るし大丈夫でしょう」
「しかし、こう建物が倒壊して通路が破壊されていると、どうやって行けばいいか・・・」
こちらも仲間たちとは離れてしまったようだが、新生大グレン団のメンバーも無事だった。
しかし激しく倒壊してしまった建物を前に、どうやって目的の場所へ向かえばいいのか分からず頭を抱えていた。
すると・・・
「ぐおおおお、どうなっているのだァ!? 私はまた何かしたか!?」
「何者!?」
「くう~、テロリスト発見という報告をドウカツ隊から聞いて駆けつけたと思ったら、一体何があった!?」
瓦礫の中から、実に騒がしい男が現われた。
甲冑を見る限りメガロメセンブリアの兵士だろう。しかし、ドウカツ隊の人間ではなさそうだ。
「あ、あの~。あなた誰です?」
「むっ、これは失礼お嬢さん。私はメガロメセンブリアのミルフ隊歩兵、ウツカ・リミス。・・・・・・・って貴様らは冒険王たちと共にいたテロリスト!?」
「げっ!? それじゃあ、あの大乱戦の中に居た人ですか!?」
瓦礫の中から現われたのは、ある意味この世界にグレン団を知らせる原因となった男、ウツカ・リミスだった。
どうやら彼は得意のウッカリで、メガロメセンブリアの戦士たちが絶妙な連携で頼もしく動いている中で、一人だけ離れてしまい、混乱の巻き添えになってしまったようだった。
「く~、何と悔しい。貴様らを捕らえたいというのに、貴様らは恩赦になったとミルフ隊長から聞いている。うう~~悔しい」
「・・・まあいいでしょう。それよりウッカリミスさん。搬入港がどこにあるか知ってますか?」
「むっ? 知っているが・・・」
「ならば丁度良い! 騎士殿、案内をしてくれないか? 我々の仲間もきっとそこに集合するはずだ!」
「なっ・・・ふざけるな! 何故私が・・・・」
「私たちもこの事態を何とかしたいのですが、そのためには全員一度集まらなければいけません。お願いです。案内してください! あなただけが頼りなんです!」
「む・・・むむむ・・・頼り・・・この私が・・・」
自分たちを良く思っていないメガロメセンブリアの兵士に対して無理な願いだとは分かっている。だが、今はこの男に頼るしかない。
ハカセたちが懸命に頭を下げる。
すると、効果があったのか、満更でもない表情でウツカは頷いた。
「し・・・し、仕方ない。そそ・・・そこまで言われたなら断るわけには行くまい! 不本意だが、この私は頼まれごとに弱い! 私がお前たちを案内しようではないか!」
普段からミスばかりするゆえに、この男は人から頼まれることが極端に少なく、だからこそ頼まれごとに弱く、頼られるとうれしくなるのだ。
この男が偶然ここに現われたのは非常に幸運だった。他の者ならこうはいかない。
だからこそハカセたちは、まだ自分たちにもツキがあると心の中で思っていた。
「よし、みんなァ!! プランB を発動する!! 第二集合地点に全員集合!!」
「「「「「「「「「「おおおおーーーーッ!!」」」」」」」」」」」
この状況ではパル様号に全員乗り込むのが不可能。そう判断した者たちは既に動いている。
その動きをハルナも察知し、確認するかのように声を上げると、皆が頷いた。
状況はピンチかもしれないが、最悪ではない。それを確信し、悩むより前に全員動いていた。
だが・・・最悪でないのはまだ始まったばかりだからだ。
本当の最悪はこれから来るのだ。
その事にはまだ誰も気づいていない。
気づいているとしたら・・・・
「ふん、勇ましいの~。じゃが、それが全て無意味だというのが悲しいこと。勇気も、魔力も、気合も、全てが無意味。そのことにまだ誰も気づいておらんのが、哀れじゃな」
気づいているものが居るとしたら、全ての真実を知るものだけだった。
「・・・無意味・・・だと?」
「理解できぬのなら己の目で確かめよ。幻想が、真実の前には無力だということをな」
哀れみの篭った表情で煙管を吹かすアムグ。彼は一体何に哀れんでいるのだ?
言われたとおりにシモンは、立ち上がれぬ体で這い蹲りながら、アムグの視線の先にある光景を見る。
そこには勇ましいメガロメセンブリアの兵士たちが雄雄しく戦っている。
幾多の攻撃を巨大な怪物、数多の傀儡たちに向けて放つ。
だが・・・
「えっ!?」
シモンは己の目を疑った。
「な、何で?」
放たれる攻撃や魔法の数は決して少なくはない。
だが、その攻撃を全て浴びながらも怪物は、そして傀儡たちは・・・
「き、効いていない?」
そう、どれほど攻撃や魔法を受けても、敵は倒れるどころかまったく効いていない。
いや、着弾の直前にかき消されているのである。
この異常な光景にシモンは目を丸くするしかなかった。
「ふっ、人形は人形師には逆らえぬ。これが答えじゃ」
その答えの意味などシモンに分かるはずがない。
だが、異常な事態はこれだけではない。
「ほれ、そして目に焼き付けよ。幻がようやく消える」
「ッ!?」
現われた傀儡たちが今度は一斉に攻撃を放つ。
巨大な鍵を側に携え、傀儡たちが放つその光弾は、果敢に傀儡たちに立ち向かう兵士たちを塵のように消し去った。
「なっ・・・・・・えっ?」
先ほどまで目に写っていた兵士たちが、一瞬にして消えた。
悲鳴も断末魔も上げず、まるで最初からそこに居なかったかのように、綺麗にその場から姿を消した。
「・・・あ・・・・えっ?」
死んだのではない。
まるで消滅したかのような最後。
肉片も、衣類も一つも残さず散っていった兵士たちの姿に、流石のシモンも言葉にならなかった。
「な、何だよあれ・・・・どういうことだよ」
シモンとて戦争を過去に潜り抜けてきた。
目の前で多くの人の死も見てきた。だが、それでもこの光景は異常だった。
人が花びらのように消えていく姿。まるで1年前に自分の前から消えたニアのように、人が簡単に消されてしまった。
震えるシモンの傍らでアムグも僅かに冷や汗を流している。
「ふっ、実際にこの目で見たのは初めてじゃ。なるほどのう。こんな簡単に消えるとは・・・・ユウサの小僧がワシらを哀れむわけか」
「どういうことだよ。・・・何で・・・何で人があんな簡単に消えるんだよ!?」
混乱するシモンの叫び。アムグはその問いかけに小さく呟いた。
「人ではないからじゃよ」
「・・・・? ・・・・・・どういうことだ?」
その言葉の意味は分からない。だが、シモンの心に猛烈に嫌な予感が襲った。
聞いてはいけない。
これ以上は聞いてはいけないと、頭の中で警報が鳴っている。
「どういうことなんだよ!?」
だが、知らねばならない。
シモンは、今この場で魔法世界最後にして最大の秘密を知らねばならない。
しかしその答えは非常に重く。
「先ほども言ったようにこの魔法世界は火星を触媒として造られた物・・・・・そして・・・・れっきとした人間であるメガロメセンブリアの市民を除いて・・・それ以外の魔法世界人も同じように―――――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
その真実は、シモンですらしばらく呆然としてしまうほどの強烈なものであった。
だが、その間にも真実の力は容赦なく襲い掛かる。
「エ、・・・・エマはん!?」
「くっ、こいつらいつの間にここまで・・・・」
それはシモンの仲間たちをも巻き込んでいた。
巨大な怪物とは別に、総督府内に次々と現われる傀儡たちは、白き翼やグレン団たちの行く手を阻んでいた。
「ちっ、木乃香・・・先に行け。その扉の奥を真っ直ぐ進めば搬入港に着く。殿は私がやる」
「そ、そんな!? エマはんを置いて行けん!?」
「ふん、侮るな。不気味なやつらではあるが、こんな傀儡共に負ける私では・・・・」
「エマはん、後ろ!?」
「ッ!?」
直線の通路で、扉を背に背後から襲われたエマと木乃香。
エマが木乃香を守るように剣を傀儡たちに向ける。一方で傀儡たちは、巨大な鍵を全員携え、光る光弾を二人に向けて放つ。
そしてそれは他の仲間たちにも同じように襲い掛かっていた。
「ほら、こっちに行けば目的地に着けるさね!」
「ほっ、道案内が居てくれて助かったでござる。かたじけない」
「ありがとうございます、チーフ!」
「な~に、ナツミに何かあったら私の立つ瀬がないからね」
「えへへ、亜子たちもトサカさんに助けられたし、本当にチーフたちには助けられてばっかりですね」
小太郎、楓、夏美は広い総督府の中をウロウロしているのを奴隷長に見つけられ、目的地へと案内されていた。
建物が外に居る怪物に破壊され、通路が入り混じって迷っていただけに、奴隷長の助けはありがたかった。
「でもええんか? 奴隷長もトサカの兄ちゃんも。知っててんねやろ? 俺らがお尋ね者やってこと」
走りながら小太郎が無邪気に笑いながら尋ねる。すると、奴隷長は「ふふ」と小さく笑みを浮かべて、小太郎の背中を力強く叩いた。
「な~に、細かいこと言ってるさね!! もうそんなもん私たちには些細なことさね。まあ、これもあのシモンの所為でもあるんだがね」
「ああ~? シモンの兄ちゃん?」
「・・・そういえばチーフ、拳闘大会の時にシモンさんたちとどっか行っちゃってたんですよね? あれと何か関係が?」
「ふっふっふ・・・・それはね~」
奴隷長は自慢げにニヤニヤ笑いだす。まるで言うのを楽しみにしているような様に見える。
この様子、そしてシモンが絡んでいる以上、ひょっとしたら自分たちの想像を遥かに超えるようなことをやっていたのかもしれない。
奴隷長の言葉を小太郎たちが少し期待しながら待つ。
だが・・・・
「・・・・んッ!?」
奴隷長はその瞬間、表情を変えた。
長年の戦士としての勘。感じた異様な気配に小太郎や楓よりも一瞬だけ早く察知した。
そしてその気配の主は・・・
「「「ッ!?」」」
「・・・・えっ?」
夏美の直ぐ後ろに現われた。
浮かび上がる魔法陣。
唐突に際限なく現われる謎の敵。
効かない攻撃に消える人々。
「おのれ・・・おのれェ・・・何故我々の攻撃が効かん!? それにやつらの攻撃は何だ!?」
「た、隊長、また5名やられました!? 援軍に来た他の隊も壊滅状態です!」
「くっ、殿下や大使たちは?」
「王族の方々は何とか・・・しかし招待客が多く、さらに総督府の至る所に敵が出現し、避難場所が確保できません! 他の隊も混乱しております! 魔法も通用せず、・・・どうすれば!?」
打つ手も打開策も何も見当たらない。
これほどの窮地では、例え百戦錬磨の武人ですら手は見つからない。
だが・・・
「・・・魔法が通じぬなら・・・拳で殴れ!!」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
「拳が効かぬなら足で蹴れ! 噛み付け! 我らがテロリストに降伏するのは世界の敗北と同じと捉えよ!! いざとなったら盾となり一人でも多くの市民を救え!!」
手が無くとも足掻くしかない。
悪あがきであろうと、諦めることの許されぬ彼らは力ずくの理論でこの窮地に挑もうとする。
正直無謀で滅茶苦茶な話である。
だが、その心意気は・・・・
「まったく、メガロメセンブリアの騎士というのは暑苦しいですわね」
「!?」
「旧世界麻帆良学園生徒、高音・D・グッドマン!」
「同じく、佐倉愛衣! お手伝いします!」
他の者たちの心を突き動かした。
「おいしいところ取りは許しませんよ、高音さん?」
「あら、エミリィ。私と張り合うつもりですか?」
「ちょっ、委員長もやめるです」
「そうだよ、今は争っている場合じゃないよ!」
最終更新:2011年05月13日 21:03