113-2

薄暗い空間。悪臭漂いなんとも不気味な部屋。

いくつもの牢屋が並び、体が動かぬシモンは床を引きずられながら空いている牢獄に放り込まれた。

ガチャリと鍵が閉められ、出るに出られない。

牢屋の中には対魔力用の紋様がいくつも描かれ、中から外へ出られぬようになっている。


「ここは・・・・」


牢屋の中から外で見下ろしているアムグに尋ねる。その問いにアムグは煙管の煙を吹かせながら答えた。


「首都メガロメセンブリア・・・そしてメガロメセンブリアの領土でもあるオスティアにはいつ凶悪犯罪者が出ても連行できるように空間転移用のゲートが設置されておる。ゲートを起動できるものは政府の隊長格以上に限られておるが、ワシはそれを使って先ほどオスティアまで行った」


「ここは・・・オスティアじゃないのか?」


全身の痛みも感覚も麻痺し、ただ意識だけを保っているシモン。

だが、自分の意志とは別に動かぬ体を無理やり小さな獣人に引きずられ、気づけばこんなところまで運ばれていた。


「うむ。ようこそ、メガロメセンブリアの誇る不落の地下大監獄に」


メガロメセンブリアの所有する大監獄は地図には描かれていない場所にある。

戦争が終わろうとも犯罪者はなくならない。

大戦期に失脚した兵士や職のない獣人たちが犯罪を犯すのも稀ではない。

盗賊などから犯罪組織、テロリストなど幅広い多くの犯罪者たちを収容し、また彼らの仲間が脱走を企てないように刑務所の正確な位置を軍関係者以外に公表していない。

また、首都メガロメセンブリアは勿論、メガロメセンブリアの領土でもあるオスティアにもこの大監獄と繋がるゲートがある。

このゲートは護送の危険がある重要犯罪者をスムーズに収容することを目的に設置されている。アムグはそれを使い、オスティアへ現われたのだ。

オスティアの美しい夜景や空気から一瞬でこの世界の全ての闇を孕んだかのような空間へと転移してしまい、流石のシモンも表情を強張らせた。薄暗さと不気味さ、囚人たちの小声の話し声だけでも背筋が寒くなる。

囚人たちは対魔力の施された監獄の中に収容されているため、魔法を使った脱走も出来ず、更に囚人たちには奴隷と同じ様に一人一人に首輪が嵌められているために、看守が拘束の呪文を唱えれば全身の力を失い、更にやろうと思えば首輪を爆発させて殺すことも出来る。

ゆえに反逆も不可能。

正に一度落ちたら刑を終えるまで出られぬ地獄の底である。


「こんなところに俺を連れてきて・・・どうする気だ? お前は一体何がしたいんだ?」


「ワシはこの世界は消えてよいと思っておる。じゃから貴様をあの場に置いておくと、動けぬとはいえ、何かと邪魔されると思っての。安心せよ、キリのいいところでメガロメセンブリアから迎えを呼んで、オスティアのゲートに送ってやろう。それまではここで大人しくせよ」


どうやらアムグがシモンをここへ連れてきたのは連行ではない。ただ単にシモンに余計なことをさせないためだったのだ。

そう、アムグはもう諦めているのだ。

何を?

何もかもだ。

襲撃されたオスティア、世界の破滅、そして消滅、これから起こる全てのことを受け入れるつもりのようだ。

だからこそ、フェイトたちに抗うこともしない。無駄な希望を見ないためにも、シモンにも何もさせない。

解決不可能な魔法世界の問題に対してアムグが出した答え、それは諦めることであった。


「それにあの場に居ては貴様の目にも悪かろう。今夜は大勢の魔法世界人が姿を消した。貴様の顔見知りも居たであろう」


「・・・ぐっ・・・・・」


「じゃが、どうせ貴様には何も出来ん。これ以上世界に迷惑を掛けたくなければ、大人しくしておることじゃな。所詮は人形どもの戯れじゃよ」


まただ・・・

この世界の人たちを自分も含めて人形だとアムグは言い切った。


「違う・・・人形なんかじゃない」


「ふん、人形じゃよ。飽きたら捨てられる、所詮その程度の存在よ」


「人形なんかじゃない!! みんな・・・みんな、生きている! 意思がある! 心がある! 笑ったり、怒ったり、誰かが居なくなったら悲しんだりする! 皆は人形なんかじゃない! 造られた存在は人形? それならこの世界じゃなくても俺はそんな奴らに出会って来た。獣人の奴ら・・・ヴィラルも・・・それに茶々丸も・・・あいつらが人形だなんて誰にも言えやしない! それならこの世界だって同じだ!」


どうしてそうやってアムグは自分たちを卑屈に捉えるのか。

どうしてそんな風に言い切るのか。


「だから、もしフェイトがこの世界の人たちが人形だから殺していいと思っているのなら、俺は納得なんてできない」


だが、シモンの言葉に対してアムグは品のない笑みを浮かべながら唾を床に飛ばした。


「か~なるほどのう。吐き気がするほどの綺麗ごとじゃな」


「何ッ!?」


シモンの言葉など届かない。そんな態度だった。


「理想を語るのは結構じゃが、反対するだけなら誰にでもできる。せめて何か代案を思いついてから否定することじゃな。もっとも、そこで這いつくばっている貴様には何も出来んじゃろうがな」


「く・・・・」


「まあ、詳しく言えば消された連中も死んだわけではないがのう」


「な、なんだって!?」


「まあ、これもワシも人づてで聞いた話じゃが、どうやら消されたものたちは死んだのではなく、魂を移動させられるらしい。まあ、眉唾じゃが少なくともこの世界最後の鍵・・・グレート・グランド・マスターキーを使えば戻るとか・・・じゃが、分かっておるな若造?」 


何ともふざけた話だ。

作られた存在というだけで、人一人の存在を消したり出したり出来るというのだ。そんなふざけた話があるか。


「それを使えば・・・皆は元に戻るけど、この世界の問題は何も解決しないって事か?」


「まあ、そうなるのう」


だが、それでも皆の存在が死んでいないのなら、また考え方も変わってくる。

死んだ人間を再生するのではなく、移動させられた人たちを元に戻せるというのなら、話はまったく違ってくる。


「死んだ人間を生き返らそうとするほど、俺だって傲慢じゃない。でも・・・生きているのなら・・・出来ることはやりたい」


だが、それでも魔法世界の崩壊という問題は何も解決しない。

これこそが乗り越えられぬ壁として、多くのものを絶望に叩き落したのだ。

結局アムグもその一人なのだ。


「思い悩むことなど無い。寝ているときに見る夢の中での行動をも、思い悩むのか? 違うじゃろ? ならば考えるでない。夢は夢のまま、目が覚めるまで黙って見ておればそれでいい」


「・・・・・・みんな・・・」


シモンは立ち上がれなかった。

いや、怪我もそうだが心の衝撃も計り知れない。

この世界に来て育んだものの全てが幻想だと思い知らされたのだ。

いかにシモンとはいえ直ぐには気合と叫ぶことなど出来ない。

クルトもフェイトも、そしてユウサもシモンのことを無知と罵った。

その意味がようやく分かった。

だが、今はまだ何も出来ず、ただ行き場をなくした悔しさと悲しさだけがシモンの中で彷徨っていた。

そんな中・・・



「おやおや、せっかく恩赦になったのに、今度は何をしちゃったんだい?」



「えっ?」



隣の監獄から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「その声は・・・まさか・・・」



「まあ、僕もなんだかんだでここにいるからイーブンってところかな♪」



「せ、・・・・瀬田さん!?」



瀬田だった。

何とあの瀬田がここに居たのだ。


「せ、瀬田さんこそどうして? だって事情聴取だけだったんじゃ・・・」


「いや~、それがね~、そうもうまくはいかないってことなんだよ」


「えっ?」


「ヌシと同じじゃよ。知らなくて良いことを知りすぎた。それをどこまで知っているのかを確認せねば、クルトの小僧は外に出さんじゃろ」


「アムグ・・・」


能天気に笑う瀬田に代わり、アムグが答えた。


「人には聞かせられない話を総督の彼とする予定だったんだよ。僕も逃げるつもりは最初から無いけど、それでも一応僕を逃がさないために一時的にここに収容されていたんだよ」


どうやらクルトは瀬田と何か重要な話をする気だったらしい。

だが、王族や貴族、ネギたちを招待したパーティーを疎かに出来ず、瀬田との話を後回しにし、それが終わってから瀬田と話をするつもりだったようだ。

その話の内容が何かは分からない。しかしそのためだけに瀬田を逃がさぬようにこの監獄を利用するあたり、どうやらよほど深刻な話をするつもりだったと読み取ることが出来る。


「やっぱりあの総督は何か企んでいたのか?」


「さ~ね~、でも囚人たちのように首輪は嵌められなかったし、最悪な状況ではないよ」


瀬田も瀬田でその方が逆に情報が入るからなのか「仕方ないね~」といった感じで、大して慌てていなかった。


「それでシモン君は一体どうしたんだい? そんなボロボロになって・・・」


「実は・・・・・」


シモンは事の成り行きを全て瀬田に話した。


瀬田が戦ったユウサについた。


パーティー会場を襲った連中について。


消されていく人々。

その場を見ていながら、何も出来なかった自分自身の悔しさを言葉の端々に滲ませながら、シモンは事情を話した。


「なるほど・・・サラとハルカは無事だと思うけど・・・そうか・・・そんなことが・・・・」


「ああ・・・」


先ほどまで能天気に笑っていた瀬田だが、今は顔を俯かせて複雑な表情をしていた。

彼もまた話だけで、今世界に起こっている深刻な事態を察したようだ。

そして、瀬田は再び顔を上げた。

この世界の危機を知ったからこそ、知らねばならないことがあったからだ。



「シモン君・・・一応聞いておくけど、君はどこまでこの世界の事を掴んだんだい?」



瀬田も隣で一通りのシモンとアムグの話を聞いていた。だからこそ、まずは自分に続いてボロボロの姿で連れてこられたシモンに話を聞くことにした。

だがシモンも答えにくく、言葉が詰まる。

だが・・・


「それは・・・あまりにも大きすぎてどこまで言えばいいのか・・・」


「それはこの世界が実は火星にある人工異界ってところかな? それともこの世界の大半の生命は魔法世界と同じように魔法で造られたってところまでかい?」


「・・・・・・・・・・え゛?」


シモンがアホ面で固まってしまった。


「おやおや、図星か・・・」


シモンの反応を見て瀬田もシモンがどこまで掴んだのかを把握でき、満足そうにニッコリと笑った。

しかしシモンの反応も無理は無い。

自分がつい先ほどようやく知った衝撃の事実を、瀬田は何事も無かったかのようにアッサリと口にする。いや、それ以前にとっくに知っていたのだ。


「どうやって知ったのじゃ、冒険王よ」


固まったシモンの代わりに、アムグが興味深そうに瀬田に尋ねた。

そりゃそうだ。

この世界でも上層部の数えられるほどの人数しか知らない世界の謎。その謎を旧世界の、しかも魔法と関わりの無い人間がアッサリと見破ったのだ。誰だって気になって仕方ない。


「まあ、最初に気になったのは世界の大きさと地図の形だね。僕も天文学はそこまで専門じゃないけど、この世界と火星は瓜二つだ。地名だって似ているしね」


「ほう・・・」


「まあ、確証を得たのは顔神遺跡なんだけどね。まあ、魔法世界が火星にあるというのは結構簡単に気づけたよ」


どうやらシモンが先ほど知ったことを、瀬田は随分前から予想していたようだ。

こういうところは、シモンも瀬田を尊敬せずにはいられない。


「・・・魔法世界人の謎は?」


「造物主(ライフメーカー)・・・」


「ほほう!」


「そして現実世界での情報だ。モルモル王国が魔法協会に送り込んだスパイの情報によると、魔法使いは異界にいくつか国を持っているが、その総人口は6700万人だけだ。魔法を使える人間を魔法使いと呼ぶのなら、この世界に亜人を含めて12億の生命が居ると考えると、いくらなんでも少なすぎる」


「総人口が6700万人・・・そういえば超もそんなことを・・・」


瀬田の話を聞いてシモンも、超鈴音と学園祭でそのような会話をしたことを思い出して納得した。


「なるほどのう。造物主(ライフメーカー)という存在、そしてその誤差を考えれば、おのずと答えが出てくるわけか」


「まあ、造物主(ライフメーカー)なんて現実世界で聞いても怪しい宗教団体の頭首にしか聞こえないけどね。でも彼がラカン君たち紅き翼の面々を震え上がらせるほどの存在でなければ、僕も信じなかったよ」


映画に出てきた完全なる世界の親玉。それはラカンたちを一撃で蹴散らすほどの強大な力を振るっていた。

あの時は、ただの敵の親玉としてしか見ていなかったが、その名の意味を考えれば、確かに分からないでもなかった。

意外とヒントはあちこちに転がっていたんだなと、シモンも少し情けなくなり肩を落とした。


「でもね、一つだけ疑問がある」


「何じゃ?」


「造物主の力を扱うには一人重要な人物が必要となる。これはオスティアや歴史書を調査して分かったことだ」


「うむ・・・・」


「そのための鍵である黄昏の姫巫女・・・アスナ姫・・・これってひょっとして・・・・」


「アスナ? ・・・いや、でもそれって20年前の話だろ? 俺たちの知っているアスナじゃ・・・」


「その少女じゃよ」


「ほらっ・・・ってええええッ!?」


最早シモンの分からないことばかりだった。

シモンの頭の許容量も限界に近いほど、色々なことを知りすぎてしまった。


「ヌシらの知っておる少女で間違いない」


「バカな! アスナは木乃香たちと同じ年だぞ? そんな20年以上も前から居るような奴と何で同一人物なんだよ」


「それはワシの旧友の仕業じゃろう。ガトーやタカミチは命を賭けて姫巫女を普通の少女にしたかったのじゃろう」


「えっ? ん? それじゃあアスナは俺と同じかひょっとして年上なのか!?」


「シモン君。今はそちらよりもっと重要なことがあるはずだ」


「えっ?」


瀬田の声が真剣みを帯びていた。いつもの瀬田とは違う真剣な声に、シモンも若干ビクッとしてしまった。


「アスナちゃんが居ないと使えない力を連中が使ってたんだよ? それがどういう意味か分かるはずだ」


「えっ・・・・・・あっ・・・」


そう、簡単な理屈だ。

しかしありえない。そんなはずはないとシモンは叫んだ。


「バカな、アスナは今もちゃんとネギたちと一緒に居るはずだ! 少なくともパーティー会場では一緒だった!」


だが、その事実をアムグが覆した。


「あれは偽者じゃな。おそらくは変化の魔法かアーティファクト」


「何!?」


「奴らには容易い。潜入や変装で政府機関や王国に進入し、高官や大臣に化けてやりたい放題していたからのう」


そうだ。

完全なる世界は世界の高官や大臣を殺して、そいつらに化けて世界の政治や軍、そして情報を操作していた。

ある意味連中にとっては得意分野のことだ。

紅き翼の映画を深く考えず見ていたシモンにとっては痛恨のミスだった。


「じゃあ・・・今いるアスナは・・・」


「まあ、偽者じゃろうな。本物は既に奴らと共にいると考えて間違いないじゃろう」


何故気づかなかったのだと腹を立てずにはいられない。

状況は何日も前から最悪だったのだ。

今になって、さらに人から教えられて気づく自分の不甲斐なさが悔しくて仕方なかった。

だが、もう遅い。

連中は世界に至る力を手に入れた。

アスナはもう既に何日も前から自分たちの側にはいなかったのだ。

流石にシモンも言葉を噤み、しばらく言葉が出なかった。







遠い地の底で叫ぶシモンの声が聞こえぬまま、今、世界を救うために2隻の船が廃都オスティアへ向けての航路を取っていた。

二隻の船に居合わせるのは二つのチーム。紅き翼とグレン団たちだ。


「パルさん。砲撃の出力をアップさせておきましたよ~」


「オーッ! 流石ハカセ! 頼りになるね~」


「ハカセ・・・茶々丸ハアーティファクトヲ手ニ入レマシタ。私モ新タナ武器ヲ」


「ハカセ、私の出力も上げてください」


「落ち込むんじゃねえぞ、お嬢ちゃんたち! 俺たちもいる!」


「よっしゃあ! まき絵、亜子、アキラ、村上! 私たちも叫ぶわよ! 絶対勝ってやろうじゃない!」


「裕奈・・・うん・・・そうだね」


「ベアトリクス・・・がんばりましょう」


「はい、ユエさん。必ずお嬢様を・・・」


「うん、みんなでがんばろーーッ!!」


やる気と気合に満ちた思いが船外まであふれ出ている。


「騒がしいですわね」


「でも、お姉さま。私たちも・・・」


「・・・そうですわね。エミリィを何としても・・・ね・・・」


「ガンバル」


「はい、お姉さま、ココネちゃん、私たちも頑張りましょう!」


つい先ほどまで近しい人たちを目の前で失い、悲しみに打ち震えていたはずの者たちがどういうことだ?


それは希望が見えたからだ。


のどかが手に入れた敵の情報により、まだ希望があることを知ったからだ。


だからこそ声を張り上げる。


「よっしゃア! 白き翼と新生大グレン団の勝利を目指して、ここは新生大グレン団副リーダーにして麻帆良応援団長のこの豪徳寺薫が勝利へ向けた三三七拍子でエールを送る!!」



「「「「「「「「いえーーーーーーーーい!!!!」」」」」」」



自分たちのためだけではなく、自分たちを守ってくれた人たちのためにも絶対にやってやろうと、誰もが叫び、決意していた。


だが、それとは対照的に少し暗い者たちも居た。


その者達とは、皆が元に戻るという希望以外のことも知ってしまったものたちである。


解決不可能な魔法世界の謎。それを知った者たちは、対照的に静まっていた。


「・・・ハカセ・・・ネギ先生たちは?」


「ん~? ダイオラマ球とか言う時間の流れが違う魔法空間で治療と会議だって。何か私たちの想像を超える何かを知ったのかもね」


ダイオラマ球の中にいるのは、ネギ、千雨、のどか、龍宮、刹那、楓、小太郎、木乃香、シャークティ、美空、カモ、さらに事情を相談するためにネギの修行で使ったエヴァの残留思念体、通称偽エヴァ、そしてアスナがいる。


「・・・・・・・・ん?」


「どうしたの茶々丸?」


何か神妙な顔をしている茶々丸がダイオラマ球を見つめていた。


「いえ・・・何か今・・・・妙な気配を少し感じまして・・・」


「妙な気配?」


「はい・・・感知システムの故障でしょうか。この辺は磁場も来るって様子がおかしいですし」


「うん・・・たしかにね」


強い魔力が収束し、目的地に近づくにつれて光が強くなっていく。恐らくフェイトたちの仕業だろう。

何を企んでいるか分からないが、これから先何が起こってもおかしくはなさそうである。


「気を引き締めないとね」


「はい。気合です」


だが、二人は気づいていなかった。


茶々丸が感じた妙な気配は決して気のせいや機械の不具合などではなかった。


茶々丸が感じたものは正しかった。


唯一の失敗は、そのことを直ぐに気づかなかったことであった。


だが、気づいたところでどうすることも出来ない。


何故なら・・・・








「なるほど・・・ラカンも逝き、多くのものが消され、世界も破滅が近く、シモンも行方不明。さらにぼーやに至っては魔素中毒か。難儀なものだな」



ダイオラマ球の中。

打倒ラカンを目指して研鑽してきた思い出の場所。ついこの間のことなのに、懐かしく感じる。

一見リゾート地にも見える南国の海と森林。その浜辺であぐらをかいて偉そうに座るエヴァの前でネギたちが俯いていた。


「はい。それに魔法世界解決不可能な問題・・・山済みです」


「ったく、あのメガネ総督が歪むわけだな。確かにこりゃあ、あの男の言い分も分かるってものだ」


「ネギ君・・・千雨ちゃん・・・それやったらエマはんやトサカさんたちを戻してもこの世界は消えてまうってことなん?」


「なんや・・・よう分からんが・・・たしかに夏美姉ちゃんたちには言えん内容やな」


「結局兄貴もいないし・・・どーしたもんかね~」


どうしたもこうしたもない。

どれだけ神妙な顔をしたところで、知ってしまった解決不可能な問題を解き明かせるわけでもない。

結局堂々巡りなのだ。


「シャークティ先生はこのことは?」


「いいえ・・・私も。もはやこれは世界規模の問題。あなたたちや私たちだけでは対処しきれない問題です」


問題の深さは想像の遥か上。

総督府では勇ましく、どんな問題苦難も乗り越えてやると意気込んでいたネギたちだが、いきなり躓いてしまった。

あまりの問題の大きさに、まだネギたちは答えを出せないで居た。


「ネギ先生。君の体もそうだが、今はもっと重要な問題があるはずだ」


山済みの問題の中、今最優先に片付けなければならない問題。

龍宮がそれを口にしてネギも頷いた。



「・・・アスナさん」



「・・・・・へっ、私?」



ネギを含めて全員がアスナに注目した。


そう、黄昏の姫巫女の力によって造物主の力を振りまいたフェイトたち。


ならば、今目の前にいるアスナは一体誰なのか。


それを皆確かめねばならない。


「な、なによ、皆してジッと見て・・・」


見れば見るほどアスナにしか見えない。


もしこれが偽者だとしたら、何と恐ろしい能力か。


だが、今すぐにこれは確かめなければならない。


「アスナさん・・・・あなたは本当にアスナさんですか? 一体何者なんですか?」


「は・・・は~~~? 何言ってんのよ!? 私は正真正銘、神楽坂明日菜よ!!」


恐る恐る尋ねるネギに対して、アスナは「お前何言ってんだ?」的な目でネギを睨む。

だが、疑問を抱いているのはネギだけではない。


「アスナさん・・・・」


「神楽坂・・・」


「アスナ~」


「な、・・・・何よ・・・皆して・・・・ちょっ、一体何なのよ!? 何で私が私じゃないのよ!?」


やはりアスナにしか見えない。自分たちの杞憂であればそれがどれほど良い事か。


「のどかの嬢ちゃん、どうだ?」


「ダ、ダメです・・・本物のアスナさんと私のアーティファクトでも確認できます」


「しかしあなたのアーティファクトは多重人格者の別人格を名指しても捉えられるはずです」


「せやったら、この姉ちゃんは自分のことを神楽坂アスナやって認識してるってことかい?」


のどかのアーティファクトでも真偽が明らかに出来ない。


だが、信じられないかもしれないが、状況が全て物語っているのだ。


アスナは既に敵の手に落ちている。


今目の前に居るアスナは影武者なのだと、敵が造物主の力を使ったことで全て証明しているのだ。



「ふん、埒が明かないな」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年05月13日 21:06
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。