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113-3

本物だ偽者だの水掛け論。

業を煮やした龍宮は拳銃を取り出し、アスナに構えた。


「ま、真名、何をしているでござる!」


「人に化けた魔物を暴く退魔弾だ。偽者なら直撃で分かる」


「ちょっ、龍宮お前!?」


「安心しろ。本物なら魔力無効化で弾くし、別に死にはしない。近衛が治してやるんだな」


「せ、せやけど龍宮はん!?」


「ダ、ダメです! そんなの僕は許しません!」


手っ取り早く済ませようとした龍宮が銃口をアスナに向けようとするが、それを看過できぬとネギがアスナを庇うように前に立った。



「どけ、先生。君が出来ないことは私が請け負ってやる」



「どきません! 龍宮さん」



ネギはそれでもアスナの姿をした者が傷つくことを許さなかった。



「ぼーやよ。そいつのやろうとしていることは間違っていない。仲間の安全確保を最優先事項にしたいのなら、ウダウダやっている暇はないぞ?」



「ネギ先生。気持ちは分かります。しかし状況証拠がこれだけ揃っている以上、私も確認は絶対に必要だと思います」



エヴァンジェリンとシャークティは冷静に状況を見て、龍宮のやり方に賛同する。


だが、それでもネギはどかない。




「それでもです! 例えこの人がアスナさんじゃなくても、僕にとって大切な人には変わりありませんから」




「・・・むっ・・・・」




「ネ・・・ネギ・・・」




「「「「「/////////////」」」」」




ネギの真っ直ぐすぎる思いにアスナも、そして龍宮を含めた皆も真っ赤になった。

随分と恥ずかしいことを堂々と言えるもんだ。しかしこれはこれでネギらしいなと納得して、龍宮もしぶしぶ銃口を下に下ろした。




「しかしどうするんだい、ネギ先生」




「大丈夫です。誰も傷つかずに確認する方法はあります。・・・カモ君」




「ん! おう、そういうことか!」




「ほう、なるほど」




「えっ・・・・何?」




ネギがカモを呼んだ瞬間、ネギの考えが皆分かった。


そう、仮契約ならば簡単だ。


仮契約をして偽者のアスナなら別のカードが出るはずだ。


この簡単な盲点に気づいて龍宮たちもネギに感心したよう頷いた。




「アスナさん・・・少し失礼します」




仮契約のためにネギが顔を真っ赤にさせているアスナに近づいていく。




これで誰も傷つかずに真実を明らかに出来るはずである。




しかし事態は・・・




思わぬ方向・・・




そして最悪の事態へと化してしまった。






「あ~、うぜ~うぜ~、生温ィな~」






「「「「!?」」」」






「一分一秒を争うんだったら・・・」






「えっ?」






「ひははははははは、さっさとしやがれェーーーーッ!!」






誰もが目を見開いて固まってしまった。






「ごふっ・・・・・・・えっ?」






思わず咳き込むアスナ。



その手に血の塊を吐き出していた。




「ア、・・・アスナ・・・・」




震えが止まらない。

気づけばアスナの腹部が貫かれ・・・・




「こうすれば一番手っ取り早いだろ~! ひははははははははははははははは!」




「ア・・・・アス・・・・ナ・・・さん・・・・」




アスナの腹部から血まみれの鬼の手が顔を出していた。




「ア・・・アスナさあああああああああああああああああああん!!!!」




叫びにならないほどの叫び声。

ネギの声が静寂を破り、誰もが一斉に彼女の名を叫んだ。




「いやああああああ! アスナァーーーーー!!」




「アスナさん!?」




「神楽坂―――ッ!!」




腹部を貫かれたままプランプランと体を浮かせている血まみれのアスナ。



全身がビクンビクンと痙攣している。



その後ろで見知らぬ男が狂気の笑みを浮かべていた。



だが、状況が少し変わる。



男に腹を突き破られたアスナに、やがて煙と光が体を包み込み、ポンと音を立てた。



その中には、アスナではない、見知らぬ少女がいた。



「なっ・・・・えっ?」



「・・・やはりか・・・」



アスナではない。




「ネ・・・・・・・・ネギ・・・・・・さん・・・・」




アスナの姿をしていた偽者がようやくその正体を表した。


このような悲惨な形で・・・



「ひはははは、テメエみてえな下僕のガキがお姫様なんて分不相応な役を演じるからこうなるんだよ。身分を偽った罪はちゃんと贖いな♪」



そして男は少女の腹から血まみれの腕を抜き、少女をネギたちの前に投げ捨てた。

まるでゴミのように・・・



「あ・・・・あ・・・あなた・・・は・・・」



ガクガクと全身を震わせながらネギは膝を付いて少女を抱きかかえた。


全身に痙攣を起こして大量の血を流す少女。


突然のこと過ぎて自分の身に何が起こっているかも理解できていないだろう。


彼女はうっすらと目を開けて、ネギに手を伸ばした。



「ネ・・・ネ・・・ギさ・・・」



既に瀕死だ。


このままではまずい。



「こ、木乃香さん、早くこの人を!!」



「は、はいな! い、今ウチが助けたるから、がんばるんや!!」



木乃香が慌てて少女に治癒呪文を掛ける。だが、傷が深すぎる。いかに木乃香とはいえこれほど弱りきった人を治した経験は少ない。

とにかく少女が何者か、男は何者か、余計な雑念を一切取り払い、少女を助けることに集中した。



「ひはっ! おー、おー、愛溢れる光景だ。敵の少女をも救うか。泣けるね~」



「くっ、貴様・・・何者!?」



「・・・あなたは・・・あなたは・・・・」



ゆらゆらと立ち上がるネギ。


異常事態に武器を手に構える刹那、楓、龍宮、小太郎、シャークティ。


そして、男を見て何故か異常なほどに体を震わしている美空に目を見開くエヴァ。



「あなたは何者なんですかッ!? フェイトの仲間ですか!? 何で・・・何でこんな酷いことを!?」



「何で? う~ん・・・・鬼だから? ひはははは」



完全なる世界が口封じをしに来たのかとネギは叫んだ。

だが、男はニタニタと笑うだけでまともに答えない。


「な・・・なんなんだよこいつは!?」


「な、なんやねん・・・フェイトの仲間にこんなのがおったんかい!?」


「ち・・・・・違う・・・こいつは・・・こいつは・・・ュ・・・ユウ・・・サ」


「美空殿?」


「美空、知っているのですか!?」


突然の危険な来訪者に誰もが動揺を隠せない中、美空の取り乱し方だけが尋常ではなかった。

噴出す汗に震える両足。

そんな美空を見て男はニタ~ッと笑った。



「よう、シモン君の妹さんよ。先日はどうも~。だが、また兄貴と離れ離れになって可愛そうにね~」



「!?」



そう、最悪の出会いが訪れた。




「ひははははははははは、お邪魔します! そしてご機嫌麗しゅう世界の希望どもよ!! 初めまして、俺の名はユウサ・メイゴク! 君たちと親睦を深めるために会いに来た!!」




一筋の光に向けて走る彼らの前に、とてつもなく黒く深い悪意が立ちはだかったのだった。



「ユ、ユウサ・メイゴク!?」



「ユウサ!? こいつがあの我ら神鳴流の天敵の!?」



「千草の姉ちゃんが以前言うとった!? つうか何でこんなところに!?」



「おいおいおいおい、どういうことだい楓! こんな奴が居るなんて契約外だよ」



「拙者にもこの事態は・・・・」



「おい・・・何がどうなっている・・・・ぼーや・・・何故こんな奴がここに居る!」



ユウサの名は千雨とのどかに木乃香以外は誰もが知っていた。エヴァンジェリンですら冷や汗をかいている。

その名だけで全員の震えが止まらなかった。


「ユ・・・ユウサ・・・メイゴク・・・よ・・・よし・・・」


ゴクリと唾を飲み込み、のどかは男の名を呟いた。


怖い。


だが、明らかに状況はとんでもない事態だ。


そして目の前の男は明らかに敵だと認識できる。


ならば、自分が今出来ることは何だと、のどかは動いた。



「ユ・・・ユウサ・メイゴクさん! あなたは一体何なんですか!? 何が目的なんですか?」



「のどか!?」



「む、まずい・・・やめるんだ宮崎!」



龍宮が慌てて止めるが、もう既に発動している。


名前さえ分かれば、のどかのアーティファクトは神や悪魔にだって有効である。


『いどの絵日記』を片手にのどかはユウサの全てを看破するために、勇気を振り絞り叫んだ。


しかし・・・



「んん~~~目的? 遊びと挨拶♪ ひはははははははははははは」



歪んだ唇を舌で舐め回しながら、ユウサはのどかに視線を向けた。





「どんな遊びをしようかな~、考えるから読み取ってみろよ」






「―――――――――――!!??」





その瞬間・・・




「い、いやああああああああああああああ!!??」




「の、のどかさん!?」




「な、なに? なにこれ? い、いや・・・なに? いやああああ!!」




「ちょっ、何もなってねえぞ宮崎、落ち着け!?」




「いやあ・・・何で・・・なんでこんなに・・・こ、怖い・・・う・・・うええ・・・・ごほっ・・・」




のどかが頭を抑えて錯乱した。




「ア゛・・・アグ・・・・ア゛ア・・・い、いや・・・・・・」゛




異常なほど体を捩り、耳を塞ぎ、大量の涙を流し、あまつさえ嘔吐までした。

そんなのどかに対して、ユウサは誇らしげに自分の頭を指差しながら笑った。



「俺の思考。底すらない悪意の塊を、テメエみたいな小便臭いガキが、受け入れられるはずね~だろ~が。ひははははははは」



「の・・・のどかさん・・・」



のどかは痙攣したように倒れた。



「み、宮崎・・・おい!?」



「宮崎さん、しっかり! しっかりしてください!」



千雨とシャークティがのどかを抱きかかえる。

だが、そこにはまるで精神が崩壊したように怯えた表情をしているのどかが居た。

目の焦点も合っていない。

少なくとも自分たちの知っている、勇気に満ち溢れた少女は居なかった。



「・・・・こ、この人の頭の中で・・・皆が殺されたり・・・解体されたりしている思考が・・・皆の首が・・・うう・・・うえええ・・・・・」



「宮崎さん!?」



「なんで・・・なんで・・・こんな思考の人がいるの・・・なんでこんなことを平気で考えられるの? 陽気に・・・楽しそうに・・・残酷で・・・残虐な・・・何故? 怖い・・・いや・・・何!? いや!? 聞きたくない!! こんな心の声いや!!」



「のどかさん!?」



のどかは錯乱して、いどの絵日記を放り投げ、さらにアーティファクトのコンボで相手の思考をダイレクトで自分の頭に入れるマジック・アイテムも乱暴に投げ捨てた。


一秒でもユウサの思考を聞きたくないと小さく蹲った。


修行の末、鮮明に相手の心の奥底までも単純な質問で読み取ることが出来るようになった、のどかの才能が災いした。


ユウサが頭の中で描く非道で残虐な悪意の思考を鮮明に読み取ってしまったのだ。



「ひははは、いどの絵日記の弱点は、相手の考えを包み隠さず知れてしまうこと。それゆえ知りたくもない奥底の人の汚さや醜さまで知ってしまう。そのため所有者に求められるのは、どんな思考や真実にも揺るがない、神の領域の精神力。そうじゃねえ奴は人間不信や精神崩壊が起きても不思議じゃねえ」



「・・・・貴様・・・」



「・・・強靭な精神力・・・人が理性で無意識にブレーキを掛けてしまう場面を平気でアクセル全開に出来るぐらいのな・・・そう・・・こんな風にな!!」



「なにッ!?」



「鬼脚・・・鬼ごっこ!」



「「「「「!?」」」」」



再び姿を消した。


そして一瞬で・・・



「はいタッチ、つかまえた~♪」



「ご・・・ふっ・・・・」



今度は背後から偽エヴァの体を貫いていた。



「マ・・・マ・・・・マスターーーッ!?」



「エ、エヴァンジェリンさん!?」



正に一瞬の出来事。



「なっ!?」



「は・・・」



「・・・速い!?」



刹那や楓、龍宮ですら反応できずに汗が噴出した。



「ぐ・・がはっ・・・き、・・・貴様・・・く・・・狂い笑い・・・」



「失せろよ、みみっちい残留思念。所詮は偽者の分際で偉そうにしてんじゃ・ね・え・ぞ♪」



「!?」



「炎熱地獄!!」



その瞬間男の腕が炎に包まれ、その炎は偽エヴァの全身を覆った。



「まあ、この程度は現実世界の異常者や戦争という条件化で暴走して虐殺する兵士などでは珍しくない。要するにそれを正常な状態でいつでも出来るかどうかだがな」



その炎は本来不死身のはずの偽エヴァの肉体どころか思念すら燃やしつくし、後には灰となった巻物が砂浜に転がっていた。



「エ・・・・エヴァンジェリンさん・・・」



「ひははははは、世界大戦や人の醜さも味わってねえ、脳みそお花畑のお嬢ちゃんには堪えたえたかな? だが、世界を左右させる戦いに赴く子達にしちゃあ可愛いくて純粋そうじゃねえの。虐・め・た・く・な・る!」



笑いの止まらぬユウサ。



「次は・・・そうだな。いちいち手当てをされると面倒だから、木乃香ちゃん、君の腹を掻っ捌いてやろうか?」



「ッ!?」



「さ、させるかア!!」



「させぬ!」



何のためらいもなく少女を半殺しにし、思念体とはいえ偽エヴァを一瞬で葬り去った。


この空間が悪意に満ちた物へと変わった。


その悪意に触れ、ネギは・・・



「マ、マスター・・・・・き・・・き・・・」



目の前で血まみれのアスナとエヴァの姿を見せられて・・・



「ん? どうした天才少年。人が名乗ったら自分も名乗るようにパパやママに習わなかったのか? ダメだね~、親の顔が見てみたい。子育てを放棄する親はクソ以下だ! ひははははははは」



「ぐ・・・があ・・・き、・・きさま・・・」



「そんな悪い子にはお仕置きで・・・そうだな~、外に居る子達も殺しちゃおうかな~。ネギせんせー助けてーってな! ひははははは!!」



ブチンと何かが切れた。



「キサマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



「せ、先生!?」



その激昂、もはや制御不能。


これまで何度も闇に飲まれることにはギリギリのところで耐えられた。


だが、今回はもはや限界を遥かに上回った。



「グガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



「お~お~、こりゃまた随分と尻尾が伸びたことで。次は爪でも伸ばしてくれるのかな~?」



憎しみのためではなく皆を助けるために手に入れたはずの闇の力。


その力が純粋なネギの憤怒により増大し、今完全な暴走状態へとなってしまった。


闇が叫ぶ。


目の前の敵を許すな。


殺せ。


打ち滅ぼせと。



「ま、待てネギ坊主!」



「先生、お待ちを!!」



「待つんだ、先生!」



「落ち着かんかい、ネギ!」



「ま、まずい・・・・・・」



どれだけ叫んでももう遅い。


限界を通り越した憤怒の感情がネギをネギではない別の存在へと変えてしまった。



「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



「ひはははは、力の暗闇に魅入られた哀れな少年よ。エヴァンジェリンには教えられない、底知れぬ悪意というものを教えてやるよ。そして、飲み込まれちまいな!!」



「コ・・・コ・・・・・・コロシテヤル!!!!」



今ここに、人一人では抑えきれない、底知れぬ闇と、底知れぬ悪意がぶつかり合う。


ネギはこれまでいくつもの悪党と出会ってきた。


だが、それでもみな各々何かの事情があった。両親が死んだ天ヶ崎千草、雇われた魔族のヘルマン、その身を化物として変えられたエヴァンジェリン。


だが、この男にはない。


ネギすら初めて出会う純粋な悪意が今、ネギを、そして白き翼たちに襲い掛かる。


シモンがユウサを取り逃がしてしまったことにより、出会ってはいけない人物とネギたちは出会ってしまった。
最終更新:2011年05月13日 21:06
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