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114-2

龍宮の放った銃声は一発分しか聞こえなかった。


そして飛んでくる弾丸も一発しか見えない。


こんなものユウサに傷つけるどころか、貫通すらしないはずだ。


だが、実際には違う。



「なっ!?」



「知恵と武器こそ人類の進化の証さ」



何と一発だと思っていた弾丸の背後には綺麗に数ミリのズレもなく一直線に並んで複数の弾丸が続いていたのである。


銃声が一発に聞こえたのは、龍宮の神業的な早撃ちゆえのことである。


そして先頭の弾丸がユウサの体に着弾した瞬間、後続に続く弾丸が先頭の弾丸を後ろから押し込むように、そして三番目の弾丸が二発目の弾丸を押し込むように、その次も、またその次もとそれが続き、後押しされた弾丸がついにはユウサの強靭な肉体を貫通した。




「がっ!? 弾丸が一列に並んで!?」




「人間を甘く見るな!」




龍宮の神業が鬼の心臓を射抜いた。


だが、一撃で倒せるシルバーブレッドというわけにはいかない。


地獄を住処とする鬼の生命力は途切れない。


だが、そこに・・・・




「神鳴流奥義! 斬岩剣!!」




怯んだ鬼を断ち切らんと、魔を調伏する剣が振り下ろされた。


しかし、鬼は片腕一本だけ出し、何と剣を腕力だけで受け止めた。



「ひははははははは、なるほど一理ある。人間ほど謎が多くて舐めたら痛い目見ることは20年前から承知している」



「ッ!? き、筋力で!?」



「鬼族・鬼化!! 状態2!!」



「ッ!?」



「神の領域の力を持つ種族すら、シモン君たち人類に駆逐されたことだしな」



刃を通さぬ強靭な腕が、刹那の剣を表皮で止め、両断に至らなかった。

そしてユウサはそのまま空いている左腕を振りかぶり、刹那を容赦なく叩き潰さんと、拳を繰り出した。

剣が筋肉で受け止められ、刹那は動けない。

だが、刹那は一人ではない。

ピンチならピンチで救ってくれる仲間がいる。



「デイライト!!」



「アン?」



電光石火の如く、ユウサへの恐れを捨てた美空が刹那をユウサから無理やり引き剥がし・・・



「魔法の射手・戒めの風矢(サギタ・マギカ・アエール・カプトゥーラエ)!!」



シャークティが詠唱し、ユウサの周りから風の戒めが無数に現れて、ユウサの体に巻きつかせる捕獲用の呪文を発動。


龍宮と刹那と美空がユウサの意識を引き付けたからこそ出来る流れ。



「さあ、後は頼みます!」



恐らく捕獲は数秒しか持たないだろう。


だがその数秒さえあれば、十分だ。



「楓忍法・縛鎖爆炎陣!!」



「狗音噛鹿尖乱撃!!」



手加減も容赦も全て無用。

惜しみなく繰り出した技が大爆発を起こし、ユウサを爆炎に包み込んだ。

確実に手ごたえは感じた。

相手が死んでいなくとも、これほどの攻撃を正面から叩き込めば無事ではないはずである。

しかし・・・



「ひははははははははは!! 足掻くじゃねえの! ならばその足場を崩してやらア!」



鬼の心には微塵も傷は与えられていなかったのだった。

そして立ち込める爆炎が鬼の姿を隠し、目で見ることが出来ない。

それを利用して鬼が何かを始めようとする。

すると・・・



「み、皆さん! その場から離れてください! その人は、大地を沼に変えて皆さんを落とそうとしています!!」



「「「「「!?」」」」」



「泥濘大地獄! って・・・なに~~!?」



ユウサが技を発動する寸前に聞こえた声に従い、刹那たちはその場から飛びのいた。


するとその瞬間、自分たちが今居た場所は沼地に変わり、一歩遅ければ地中に引き込まれていた。


ユウサが技を発動する前に? そんなことが出来るのは一人しか居ない。



「のどかの姉ちゃん!」



「宮崎!」



のどかだ。


ユウサの思考を読み取ろうとした所為で錯乱してしまった彼女が、涙目になりながら必死に堪えて、いどの絵日記を開いていた。



「私だって・・・私だって・・・やって・・・みせる!!」



「ひははは、いつの間に」



「ぐっ・・・うう・・・あなたなんか・・・・あなたなんか・・・・・・・・・・・怖くないです!」



気合に突き動かされた少女もここに居た。


これは本当に予想外だった。


そして想像以上の展開だった。




「なるほど、ウゼーな。少々レベルを上げる必要がありそうだな。ひははははははははははは」




この展開にはユウサも少々警戒心を見せた。


「ちっ、この程度じゃまだ駄目か」


「龍宮、油断するな。神鳴流宗家の歴代最強たちですら仕留められなかった相手だ」


「だけど、私たちだってやれる!」


「ええ、・・・このまま続ければ」


「うむ、確実に・・・」


「でっけー穴をぶち開けられるはずや!」


彼女たちのこの恐れぬ心の強さはどうだ?

瀬田やシモンですらユウサの禍々しさに恐怖した。

それを仲間がいる。ただそれだけで、彼女たちは恐れを勇ましさに変えて一歩も引かなかったのだった。

その光景を見て、ユウサはため息をつきながら頭をかいた。



「あ~あ、アーウェルンクスの捨て駒が余計なことした所為で、面倒なことになったじゃね~の」



「・・・うう・・・・す・・・捨て駒?」



「ん? 使い捨ての下僕だろ? あのつまらねえガラクタのやりそうなことさ」



ルーナの行動から全ては変わった。

そのことにユウサがつまらなそうに呟くと、ルーナは体を起こして激情した。



「フェ、フェイト様はそんな人じゃない!! あなたのような狂った男に、フェイト様のような崇高な大義を果たそうとする人の何が分かるというんですか!?」



「あ~? 崇高? 大義~? 随分とあの人形の肩を持つじゃねえの。ひはははは、大方テメエも奴に拾われた戦災孤児ってところか? ひょっとしてあの人形に慰められて抱かれでもしたのか?」



「ッ、なんと下賎な!? ではフェイト様の大義も分からないあなたは、父を知らずに飢えていく少女を! 母を知らずに武器を手に、戦場へ送られる少年を! あなたは見捨てるというのですか!」



「ああ、見捨てる♪」



「ふ・・・・ふざけるな! 私たちのやることこそが、弱きもの、神に祝福されぬものの魂を救う唯一の方法! 私たちの背中にはその数千、数万倍の魂を背負っている! 私たちのような子供が二度と生まれない世界を作るため、その意味があなたに分からないのですか!!」



ルーナは傷ついた腹部を押さえながらも、ユウサに怒りを露にしながら賢明に叫ぶ。自分の思いを。自分の痛みを。

その痛み、ルーナの歩んできた道は、なんとなくネギたちに理解できた。

だが、今回は相手が悪い。



「ひははははははは、くだらねえ弱者の夢想だな!」



「なっ!?」



いくら叫んだところで、この鬼の心は動かない。



「弱者の淘汰は世の常だ。この世界だろうと地球だろうと、テメエらの味わった辛苦なんざ、いつの時代でもそこら辺に転がっているさ。命懸けの世界に身の上話なんざ、何の意味もねえ。強い奴が強い。それが弱肉強食の世界に与えられた唯一にして平等な権利なのさ」



「うっ・・・・」



「大義を達成するのに必要なのは、どうやって事を成すか以外に心を囚われることはねえ。だが、テメエは私情に走りながら大義をほざいた。ひははははははは、これぞまさしく、反吐が出るってやつだな」



心が動かないどころか、鬼は命懸けの想いをもあざ笑って罵倒した。



「ひはははは、だから・・・その想いとやらが自分を支えているというのなら・・・お前らの心を是非ともへし折りたくなってきた♪」



「な、・・・・・なにを・・・・・」



「何をするつもりだ!?」



「ちっ、こいつ、なんやしらんがムカつくわ!」



その時、震え上がるような悪意が再びユウサからあふれ出した。



「俺はな、マジでぶっ殺したくなった奴は、むしろあまり殺さないようにしてるんだ。だって、死んじまったら反応が分からねえじゃん。俺はな、ムカつく奴が目の前で心を折って取り乱したり、懇願したり、這い蹲ったり、泣き叫んでる姿を見る方がスカッとするんだよ」



「・・・ふん、下衆め・・・・」



「下衆じゃねえ、鬼だ♪ 教えてやる。生きていることこそ地獄だと思うものがある。だから世界に自殺は絶えねえんだよ」



これほどの状況下でも背筋の凍る笑みに変化がない。

百戦錬磨の龍宮ですら、額から流れる冷や汗を止めることができない。


「うっ、・・・・・・ッ!?」


「本屋!? もう、無理しなくていいよ。あんな奴の心なんかもう読まなくていいよ。私たちは大丈夫っすよ!」


のどかが再び頭を抱えて苦しみだした。

ユウサの悪意が直接また伝わったからだ。



「見せてやるぜ・・・・・秘術・生き地獄・・・生きることすら放棄したくなる地獄を体感させてやる」



底知れぬ悪意。

深すぎる悪意。

落ちれば二度と帰れなくなるほど深く黒い世界が、この特殊空間に満ちようとしている。



「く・・・来るぞ!」



「へっ、・・・・来やがれや!」



態度は勇ましく。

だが、皆気づいているだろうか。



「な、なにをする気ですか・・・・・・」



全身に鳥肌が立って、顔が引きつっているのである。

そう、誰もが本能で察知していたのだ。

技の破壊力や強さ、速さ、才能だとか、そういうものじゃない。

ただただ悪意の塊だけが自分たちの心に浸食しようとしていた。

このままではまずい。そう誰もが気付いた。しかし声がうまく出せない。

しかし、ニタリと笑うユウサが、動けぬ龍宮たちに手を向けたその時だった。



「待ってください!!」



「ア゛?」



「ネギ先生!?」



「ネギ坊主!?」



ネギがその場を制し、ユウサも思わず手を止めてしまった。



「どうした・・・・・・・助けてほしくなったのか? ひはははは、もしそうだとしたら、是が非でも助けたくないんだが~」



「あなたに・・・・聞きたいことがあるんです」



「ん~?」



とびかかるかと思いきや、今のネギはもう冷静だ。

自分の闇や憎悪に囚われず、ただまっすぐユウサを見据えていた。



「戦いが楽しいと思うことはあるのかもしれません・・・僕もラカンさんやシモンさんとの戦いのときは胸が高鳴りましたから」



「あん?」



「怒りや・・・・相手に殺意や憎悪を抱くことも・・・・誰にだってあるのかもしれません」



戦場に歩み寄るネギは、狂った鬼の胸のうちに問いかける。



「でもあなたは違う。悪意しかない。戦いというものを相手を打倒するためではなく、まるで踏みにじる手段としてしか捉えられない。だからあなたの力に信念も魂も何も感じられない」



「ひはは・・・何が・・・言いたい?」



「どうしてそんな風に・・・・人の心を踏みにじることしか出来ないんですか?」



子供だからだろう。純粋にそう思った。


そんなネギに対して、ユウサは腕を組んで少し真剣にその問いの答えを考えるそぶりを見せた。



「ん~~~~、何で? 何でだろ~ね~、・・・・楽しいからじゃないか? まあ、しいて言えば好きなんだよ。そういうのがよ」



「・・・・・好き?・・・・」



「それによ~、人の本心もそうだろ? 映画や小説など架空の世界で銃乱射しまくって人を殺しまくるアクションが人気だろ? 人間だって心の底では考えたり望んでいる。俺はただ考えたことを実行しているだけだ。外面気にして腹のうちでは何を考えているのか分からねえ野郎より、開き直った奴のほうがよっぽどいいだろ~?」



そこに答えなどなかった。


理由などは特にない。



「まあ、何でって言われても・・・生まれたときからそうだったとしか言えね~な~。それとも俺をエヴァちゃんやその捨て駒の娘みたいに過去の所為にしてひねくれるアホに見えたかい?」



だから理解など出来るはずもなかった。



「舐めんじゃねえぞ、ガキ。俺はただやりたいことをやりたいだけなんだよ」



そしてその時、これまでケラケラと笑うだけだったユウサが、初めてドスの利いた声を出した。



「いいか、そもそも俺もテメエも皮引ん剥けば同じなんだよ。触れるものを傷つけ近寄った者たちを不幸にする。ネギ君、テメエの村だって結局はテメエが居たから滅んだんだろうが。テメエの生徒だって、テメエさえ居なければこの俺と出会って不幸になることもなかった」



「!!」



「なのにだ! そっちだけが正義ヅラしてんじゃねえよ。皆を救うとかホザいておいて、実際やってることは暴力と破壊。俺とどれだけの差があるってんだ?」



「・・・違う・・・」



「言い訳はさせねえ。さっき俺をブチ殺そうとしていた姿がテメエの本性だ。血に飢えたケモノの姿を見て怯えたテメエの生徒どもがそれを証明してんだよ。だからよ、無理すんじゃねえ。俺がテメエの大事にしてきた理性をぶち壊してやる。心の奥底にしまいこんだケモノを引きずり出してやる。その時始めてなれるぜ。真の自由にな。殺す、踏みにじる、奪う、裏切る、それを躊躇わずむしろ当たり前だと思う領域にな。そしてその時こそテメエは最強の心の強さを手に入れられる」



「・・・違う!」



「もうすぐなれるぜ? 遠慮するなよ。なあ、ダチ公♪」



最後は再び笑みを浮かべ、ユウサはまるで迎え入れるかのように両腕を広げた。


この男は何を言っている。


そう叫びたくなるほど全員腸が既に煮えくり返っていた。


だがネギはもう取り乱さない。


ユウサの誘いを冷静に受け流すどころか・・・



「あなたは・・・・かわいそうな人です」



「・・・はっ?」



それどころか、ユウサを哀れに思い涙を流した。



「無限に広がる道はどこまでも続いています。いずれ僕たちも大人になります。僕たちは何にでもなれる。父さんのような人、シモンさんのような人、ラカンさんのような人、当然あなたのような人にもなれます。でも、僕たちはあなたのような人には絶対ならない」



「・・・はあ?」



「自分の欲望のために生き、誰も理解しないから、誰からも理解されない。誰も愛さないから、誰からも愛されない。自分自身を抑えることも出来ない・・・あなたはそんなかわいそうな人です」



自分には仲間がいる。



「僕には仲間がいます。僕一人ならとっくに心が折れ、自分自身の心の闇に負けていました。でもそこから僕を命懸けで救い出してくれる仲間います。だから僕は皆を信じています。皆と一緒だったら、どんな厚い壁も困難も乗り越えられると」



自分には自分を理解してくれる者たちが居る。


もし間違ったら、そんな自分を殴ってくれる人がいる。


とても大事な人たちも居る。


目指すべき背中、そして誰でもない自分自身で居られる居場所がある。


だが、ユウサにはない。



「それを持たないあなたを僕はうらやましいと思わない。不自由な人だとしか思えない。ケモノになりかけても、それがあなたと同じというのならケモノにはなりたくありません。僕は・・・例えこの身が化け物となっても・・・・・心は人でありたいです」



それがネギを同情させた。



「かわいそう? ひはははははは!! 心は人? ひははははははははははは!! 人の心が綺麗だと思ってんのか?」



これが笑わずに居られるか? 


本当に甘ったれだと言わんばかりにユウサは笑い転げた。



「ひはははは、ガキ~・・・これまで呪いの言葉や罵倒、非難、いくらでも言われてきた。俺はむしろそれが快感だった。だがよ~、哀れまれたのは初めてだぜ。しかも人の心か~、バカだね~、人は醜いからこそ世界の問題は何も解決しないんじゃねえか」



「もう挑発や脅しなどのあなたの戦法には乗りません。冷静さを欠いてペースを握られたまま勝てる相手だと思ってはいませんから」



「ん~?」



「僕はあなたの言葉にはもう惑わされない! 自分の闇にも屈しない! 自分自身の心に負けて、何が偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)ですか!!」



ネギは真っ直ぐだ。


途中色々と寄り道をしたりもしているかもしないが、本当に目指しているものへは真っ直ぐだった。


「ひははははは、そうくるか。だが勘違いするな。俺は真剣な顔してる奴とか、小難しいことゴチャゴチャ言う奴を見るとついつい小ばかにしたくなるんでな。挑発が戦法の一つだとは考えたこともなかったぜ。しかし・・・・ひははははは」


その信念は、目の前の鬼の恐怖を断ち切るほどのものだった。


だが、鬼の目は光った。



「ひははははははははは、面白い。こうなったら俺が直々に分からせるよりも、マジで現実を見せてヘコませてみたくなった」



「な、・・・・・なに?」



「君にシモン君と同じことができるのか・・・・ひははは、出来なければ愉快、出来たらそれもそれで楽しくなりそうだ」



「シ、シモンさん!? 何であなたがシモンさんを!?」



「知ってるよ~。つうかぶっちゃけた話、多分今この宇宙でシモン君について一番知っているのは俺だろうからな~」



「な、ど、・・・どういう意味ですか!?」



シモンの話題は予想外だった。


このことにはネギどころか龍宮や刹那など、他の生徒たちも表情を変えた。


するとユウサはネギたちに背を向け歩き出した。



「ま、待て!?」



「逃がすと思っとんのかい!!」



もうユウサは振り向かない。そして手を天にかざし・・・



「まっ、待て!!」



「ま・た・ね♪」



姿を消した。


だが、危険だ。


外にはまだ生徒たちが大勢居る。


戦えない連中はいくらでも居る。


ネギたちは全員慌ててダイオラマ球から外へと出た。


「えっ・・・ネギ先生!? それに皆さん?」


「茶々丸さん!?」


「それよりネギ先生、今妙な男がダイオラマ球から・・・・」


「どこに!?」


「外へ」


まず最初に出会ったのは茶々丸。

しかし茶々丸に外傷は無い。だが、それでも安心など出来ない。

ネギたちは全員慌てて飛行船外へと飛び出した。

すると甲板の手すりの上にユウサが立っていた。

慌しいネギたちが気になって、他の者たちも次々と甲板へ集まった。



「どーしたのーネギ君」



「坊主共、何かあったのか?」



「み、皆さん!?」



「危ないです! 下がってください!」



気づけば全員がこの場に集まっていた。


白き翼と新生大グレン団。


肝心なシモンこそ居ないが、中々の粒ぞろいである。



「ひははははは、爽快だな。これが君の愉快な仲間たちか」



そんな連中を見渡して、ユウサはネギにもう一度向く。



「ところで、ネギ君。君は全てを救えるかい?」



「なんですか?」



「今・・・っていうかこの飛行船に忍び込んでからもそうだけど、俺は殺そうと思えばこの子達をいつでも皆殺しに出来たんだ。つうかこの飛行船打ち落とすのも容易い。そんなことをも躊躇わずに出来る奴・・・ネギ君、全てを救うとはそういう奴らも数に入っているのかい? 他にも、自分の母親を陥れた奴らも・・・君は助けるのかい?」



「なっ・・・」



「君はクルトの坊やにほざいたんだろ? 全てを救うとかよ、しかも全部だ。救うのかい? それすら仲間とやらで乗り越えるとかほざくのかい?」



それは意思確認のようなものだった。



「言っとくが、シモン君はそうやってアニキを、仲間を失ったぜ? 最愛の女も死んだぜ? 無敵の大グレン団にも襲った悲劇・・・君たち全員それを受け入れる覚悟があるのか~?」



まるでネギを試すかのような質問だった。


全てを救う。父と母の意志を受け継ぎ全てを救うのだとしたら、それは善も悪も救うということである。


するとネギはほんの少しだけ目を瞑った。


自分の考えをもう一度だけ心の中で呟き、そしてそれは今も変わらないと思うや否や、即座に頷いた。



「ユウサ。僕には分からない。誰が善で悪かなんて裁く権利は無い。僕がやるのは救うこと。だから救います。善も悪もひっくるめて、全てを救う道を探してみせます」



「ひはははは、大口だな」



「大口ではありません。僕を誰だと・・・いえ・・・このセリフはまだ僕には早いですね。でも、僕は僕の目指した人たちなら、例え同じ状況でも諦めずに希望を探すと信じているから、僕も諦めない! そして誰一人仲間も失わない!」



「ふん、傲慢で甘ったれで吐き気がする解答だぜ。やはり計画性のない希望的意見ばかりだな・・・だが・・・」



ユウサには気に食わない解答。


しかしネギの仲間たちには満足のいく回答なのか、全員がネギと同じ表情でユウサと向き合っていた。



「だが、アリカ姫は・・・確かオスティア崩壊の時に監獄にいた犯罪者も助けたっけな~、血は争えねえ。ナギもゴチャゴチャ小難しいこと考えていたわけでもねえ。それにシモン君も・・・たしかアンチスパイラルが襲来した時、そんなこと言ってたっけな~」



「えっ? ・・・アンチスパイラル?」



「おっと、これはもう少し先のお楽しみだ。ロージェノムの遺言、100万匹の猿が地に満ちた時、月が地獄の使者となりて、螺旋の星を滅ぼす・・・いずれ教えてやろう。俺が繰り広げる新時代の戦いでな」



「なっ、なに!? どういうことだ!?」



「テメエら全員をこの場で殺すのは容易いが・・・もしネギ君が勝ち残ったら、シモン君やジェノム、他にもゲジョウたちなど多くの豪傑どもの起こす戦いに君たちも参加してもらう。そうすればもっと場が盛り上がりそうだ♪」



「な、何のことを言っている!」



「ひははははははははははははははははははははははははは!!」



最後にユウサは盛大に笑い、謎をネギたちに残したままブリッジの手すりから飛び降りて、オスティアの雲海の中に消えた。


おぞましい笑みだけを最後に見せ、ネギたちに鳥肌を立たせた。



「・・・・ユウサ・メイゴク・・・あいつは一体・・・」



ネギはその名を胸に刻んだ。


今取り逃がしたこの男は、近い将来再びまた現われるだろう。


そしてその時は、先ほどまでとは比べ物にならないほどの激しさが巻き起こるだろうと心の中で予感した。



「・・・・ネギ君・・・」



「先生・・・」



裕奈たちが去ったユウサに対して、少し怯えながらネギに尋ねてきた。


無理も無い。彼女たちにとっては今までで会ったことの無い種類の男だろう。


だが、そんな不安そうな彼女たちに、そして全員に向けてネギは笑顔を見せた。



「みなさん。大丈夫です」



そう告げた。



「僕たちは、僕たちが今できることをやりましょう」



不安はある。


だが、大丈夫だと言ってくれたのなら、自分たちも無理に不安がるのではなく、そうだと信じればいい。


そう思って彼女たちももう何も聞かなかった。


雲海へ飛び降りたユウサ、まず死んではいないだろう。


前へと進む飛行船の上から広がる雲海を眺めながら、龍宮と楓は並んで立っていた。


そして少女たちに囲まれるネギを少し離れた場所で見ながら・・・



「真名よ・・・おぬしはどう考える?」



「何がだ?」



「全てを救うと言ったネギ坊主をどう思う?」



「・・・先生には悪いが、甘ったれた子供の戯言だな。とても可愛らしい答えではあるが、何も変わらない。計画性も具体性も根拠もない。ユウサの言う通りなのは癪だが、確かに先生はまだ世界の複雑さや現実を良く知らない。世界も人もそんなに甘いものではないさ」



「・・・人の心は?」



「それこそお前も一番よくわかっているはずだ。人の心の醜さもな・・・」



「そうでござるな。だからこそ、多少なりとも現実を知る拙者らは最初から見切りをつけたり、ネギ坊主のような答えを甘ったれだと言い捨てる。・・・しかし・・・」



「しかし?」



「しかし真名・・・拙者・・・少し勘違いをしていた。多分ネギ坊主も多少なりとも本当は分かっているのかもしれん。現実というものを。しかし分かっていてあえてああいうことを言い、それに向かって突き進んでいる」



「・・・何故?」



「そうやって突き進む男たちの背中を、ネギ坊主も追いかけているからでござるよ」



「・・・・・・・」



「結果的にあの怪物を相手にして誰一人死んではいない。ハンパな覚悟では、奴の前に立つことすら出来ぬというのに・・・」



楓の言葉を聞いて龍宮はネギを見る。


クラスメートに囲まれて、今ではもみくちゃにされたり、困った表情を浮かべている。


とてもではないが、先ほどまで世界に轟く悪党と戦っていたとは思えない。


だが、それもまたネギの魅力なのかもしれない。



「いいかもしれんな。拙者・・・仮ではなく本当にネギ坊主の忍として仕えてみたくなったでござるよ・・・ネギ坊主には心があるでござるからな」



その魅力が自分たちはネギと共に戦うことを望み、今もこうしてここに居るのである。



「そうか・・・まあ、それはお前の自由だがな」



「おぬしはどうするのだ? 金が無ければ戦わないのでござるか?」



「・・・さあな・・・」



脅威が去っていつもの空気に戻ったクラスメートたちの輪から離れ、龍宮は船内へと戻っていく。


そしてもう一度、ネギたちを振り返り・・・



「あなたは・・・無茶言うバカを見ているときはどんな気持ちだったんだい、ヨーコさん? 現実知らないバカと罵るか・・・自分も一緒にバカになったか・・・」



かつて共に銃弾を交わした年上の女を思い出し、小さく笑った。



「早く来い、シモンさん。先生が目指すべきバカの姿を見せて欲しいね」



そして一同が再び世界の果てを目指す。


無茶で無謀と罵られようとも、己の決めた信念に従い、真っ直ぐ目指すべき場所へと進路をとった。


だが、目指すべき場所へ向かうこの飛行船に、今シモンは居ない。


むしろシモンがどこに居るかすら、今誰も知らない。


ラカンですら消えたのだ。一人ぐらいひょっとしたらシモンもと思うものもいるかもしれない。


だが、誰も口にしない。


シモンは必ず来る。


いつものように自信に満ち溢れた大馬鹿野郎は、必ず来てくれると信じているからだ。


そう・・・・


あの大馬鹿は・・・



「なあ、アムグ・・・・」



「なんじゃ?」



「アムグ・・・やっぱり・・・どんなに悩んでも、俺には結局これしかないよ・・・・」


「ほう・・・・つまり?」



どこまで行っても大グレン団。



「俺は・・・・・」



その答えは聴くまでも無い。


少年と少女たちが世界を救うために羽ばたいた今、この男もまた地の底からようやく立ち上がるのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:10
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