総督府を襲った闇の魔素を纏った傀儡たちが出現した。
そして監獄の天井を突き破り、オスティアに出現したあの巨大な怪物までもが姿を現した。
「ちょ、・・・なんだこいつらァ!?」
「う、うわあ!? 助けてくれ!?」
「お、おい! 牢屋が破れたぞ! 今のうち逃げろ!」
「バ、バカ野郎! こんなに化け物が一杯いて、どうやって逃げるって言うんだよ!?」
「お、おい!? 天井が崩れるぞ!?」
地下の監獄の中、現れた傀儡たちが囚人たちに襲いかかる。
先ほどまで静まり返っていたはずの大監獄が、途端に囚人たちの悲鳴で埋め尽くされた。
建物を突き破って、全てを押し潰そうとするデカブツ。
もはや首都大監獄はパニック状態だった。
「なっ、・・・フェイト!? なんてことをしやがる!?」
「こ、これは・・・・」
「ふん、ここまで消すか・・・魔術で作られた影・・・あやつも居るのか」
悲鳴を上げて逃げまどうが、しかし建物が崩れて道がふさがれては逃げ場もない。
収拾のつかないこの事態にシモンも立ち上がり、フェイトに掴みかかろうとする。
しかしフェイトは実に冷めた目で、騒ぐ囚人たちを見つめていた。
「ここは非常に悪臭が漂うね」
「なんだと!?」
「この世界は幻想。しかし幻想の中でも悪行を重ねた者たちがここには集っている。正に魔法世界の悪夢だよ・・・仮に僕が失敗しても、最低でも魔法を使える犯罪者たちを地球に逃げさせるわけにはいかないだろう?」
「ふざけるな!! 何の理由にもならないだろうが! 今すぐやめさせろ!」
オスティアに続いてフェイトが消し去ろうと思った幻想。それが世界の悪が集うこの大監獄だった。
「ちっ、牢屋を出たんだ! 反撃してやらア!!」
「そうだ! ブチ殺してやるぜ!」
「げはははは、このままシャバに出てやるぜ!」
やがて何人かの威勢のいい囚人たちは、対魔力の施された牢屋から出れたために反撃をしようと傀儡たちに立ち向かおうとする。
だが、全てが無意味。
「吐く息も・・・人形とはいえ不快だね」
オスティア総督府と同じ光景が監獄内にも広がった。
「な、何だよ・・・効かねえ!?」
「ど、どうなって・・・うわああああああ!?」
中には悪名と同時に名を上げた使い手も居たであろう。しかしその全てが造物主の掟の前には無力と化したのだった。
「・・・・小僧が・・・・重力100倍!!」
「無駄だ、・・・『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)』・・・」
「!?」
「造物主の掟の前にはジャック・ラカンとて無力となった。いかに君の重力魔法とはいえ、今の僕たちの前には効かない」
アムグの繰り出した超強力な重力場だが、フェイトが大きな鍵形の杖を光らせた瞬間、場を包もうとした重力場そのものを砕いた。
自身に会心の一撃を食らわせたアムグの技がアッサリと破られたことに、シモンも驚きを隠せないで居た。
そして・・・
「ほう、その男が噂のシモンという男か・・・」
「ッ、今度は誰だ!?」
「ふん、やれやれ、同窓会かのう?」
「懐かしいな、不動のアムグよ。まだしぶとく世界にとどまっていたか」
フェイトと並ぶように、一人の黒いローブを羽織った魔術師、デュナミスまでもが現われた。
そう、この傀儡たちも地下大監獄を破壊するデカブツもデュナミスの仕業だった。
現われた彼は、アムグを、そしてシモンを見て、小さく笑った。
「ふん、古き風と新しき風・・・シモンとやら、さしずめ貴様は、全てを巻き込む竜巻の風といったところか? 貴様とも戦ってみたいと思ったが、その状態ではそうもいかんだろうな。」
シモンの状態と傷の深さをデュナミスは瞬時に読み取り、どこか残念そうなため息をついた。
「そうだね。シモン、約束を果たすのならせめて傷が癒えてからだね。後で来るまでに治しておくんだね」
「ふざけるなフェイト。それじゃあまるでこの場を俺が見逃すみたいじゃないか」
「見逃さなくても変わらない。ここは悪いけど潰させてもらう」
「さ、・・・させるかよ!」
だが、いくらフェイトに、そしてデュナミスに怒鳴っても状況は変わらない。
消されていく囚人たち、騒ぎを聞きつけて駆けつける看守たちまでもが造物主の掟によって消されていく。
瀬田ですら珍しくこの光景に動揺し、焦りが表情に出ている。
アムグは無駄なことだと判断し、何もしない。
結局このままではオスティアと同じ悲劇が繰り返されるのである。
何とかしなければならない。
シモンが、力の入らぬ拳でフェイトとデュナミスに殴りかかろうとした・・・
その時だった!
巨大な音を立てて崩れた瓦礫を破壊してこの場まで辿り着いた者たちが居た。
「あのバカ女の聴取のために残っておったが・・・この状況はどう判断すればよいのだ、マンドラ」
「ふん、昨日バカやった二人も居るな。まあ、不気味な傀儡共を先に消せばいいのではないか? ミルフよ」
ミルフとマンドラ。そしてその後ろには武装した看守たちが何十人も控えている。
「ミルフーー!! マンドラーー!!」
「おお、これは頼もしい!」
「・・・無駄じゃと思うがの~」
頼もしき二人の豪傑と援軍に目を輝かせるシモンと瀬田。一方でアムグはどこかため息をついていた。
「ふん、シモンに冒険王か。まったくまた会うとは思わなかったぞ。やはり貴様は飽きさせんな!」
「ふっ、らしいといえばらしいがな!」
二人も武器を構えてこの乱戦に参戦した。少しは状況も変わるはずだ。シモンはそう期待を込めた。
だが、シモンは忘れている。敵の能力を。
「ほう・・・怒涛のミルフに神速のマンドラか・・・懐かしいものだ。だが、所詮は過去の遺産。新時代の前に風化させてやろう」
そう、純粋な人間以外はデュナミスやフェイト、そして傀儡たちには攻撃が一切通用しないのである。
「むむ!? これは!?」
「ばかな! 私の攻撃が弾かれる!?」
「やはりか・・・」
そう、獣人の二人の攻撃はデュナミスどころか、有象無象の傀儡一匹にすら届かないのである。
「な、なんで!?」
「言ったであろうが! あの鍵を持つものには魔法世界人は敵わん。ミルフやマンドラ・・・ワシはおろか、あのジャック・ラカンですらな」
目を凝らしてみると、たしかに傀儡一人一人が巨大な鍵形の杖を所持している。
その杖が輝けば、襲い掛かる魔法を打ち砕き、また自らの攻撃で敵の存在そのものを消滅させる。
「これは・・・魔力のない僕には分からないが、魔力で構成されている魔法世界人には天敵だね。でも、それほど強力なアイテムを一人一人が所持できるのかい?」
「あれは戦闘用の簡易タイプじゃ! グレートグランドマスターキー、グランドマスターキーの下に存在する大量生産型のマスターキーじゃ。しかしそれでも魔法世界人では絶対に敵わん」
簡易タイプですら敵わない。
その杖を持った敵が100体以上ウヨウヨしているのだ。
どう考えても全滅は免れない。
物量の差ではない。
力量の差ではない。
一種の運命によって定められたことなのかもしれない。
しかし・・・
「くそっ・・・フェイト!」
「抗う? 足掻く? 今の君に、何が出来る。現実を知れ。覆せないものがあるのが現実。そしてそれが限界だ」
その運命を捻じ曲げるのがこの男。
「うるせえ! 現実も限界も知ったことか! 俺が何をやる? 決まってるさ! 何だって・・・・何だってやってやるさーーーー!!」
例えこの身が動かなくとも、抗うと決めた。
足掻くと決めた。
運命だかなんだか知らないが、グレン団のしぶとさを見せてやる。
「むっ!?」
「これは・・・・」
咆哮とともに溢れ出すのは、螺旋の力の象徴、螺旋力の光。
声が響き渡れば響き渡るほど、その光は監獄内へ行きわたり、見渡す限りの空間に温かな力が満たされた。
「な、なんと!? これはジェノムと同じじゃ!? ま・・・まさか・・・」
アムグが何かを取り乱している。
シモンの体ではなく、今居る空間に満たしていくシモンの螺旋力。この意味をアムグには何か心当たりがあるようだ。
だが、一方で光を溢れ出したシモン自身には大した変化はない。
むしろ・・・
「うっ・・・ぐううう・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
肉体の疲労がさらに溜まっていくように見える。
シモンの螺旋力で満たされた空間を維持するだけで、シモンは莫大なエネルギーを消費しているようにも見える。
まるで全身の力をゴッソリと持っていかれるような感覚だ。その所為でシモンは声もうまく出せない。
「何をしたいのかは知らないが、シモン。僕たちの邪魔はさせない」
何度も言うが、シモン自身に大して変化はない。
一瞬驚いたが、何てことはない。そう思い、膝を付いたシモンを邪魔だと、フェイトがシモンを弾き飛ばそうとした・・・
その時だった!!
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
人々の雄叫びが響き渡った。
「!?」
「なんだ?」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・?」
「・・・や、・・・やはりか・・・・」
フェイトが手を止め、デュナミスも、シモンも、そしてアムグも声のした方角へ振り返る。
すると・・・
そこには・・・・
「当たったぞおーーーッ!!」
「攻撃が通じたぞ!!」
「なんだ、いきなり効き出したぞ! とにかくなんだかしらねえが、今のうちだ!!」
囚人、看守、兵士。
完全なる世界が召喚した傀儡たちに抗い、抵抗するものたちが反撃に出た。
なんと、彼らの攻撃がようやく通じたのだ。
今までの借りを返すかのごとく、彼らの怒涛の反撃に、みるみる傀儡たちの数が減っていく。
「なっ!?」
「バ、バカな!? どういうことだ!? 何故、木偶人形どもの攻撃が当たる!?」
この絶対にありえぬ事態にフェイトもデュナミスも、初めて見せるほどの取り乱し方だ。
だが、それは無理もない。
現実に存在する人間ならまだしも、この事態は本当にありえないからだ。
この世界の創造主と同じ力を運用することが出来る造物主の理の前に、魔法世界人は絶対に敵わない。
しかし・・・
「断罪の焔(コンデム・ブレイズ)!!」
「マジェスティック・ビッグ・チョッパー!!」
「おおーーッ! ミルフ隊長とマンドラ隊長の攻撃も当たる! これでもう怖いものなしだぜ!」
「いけええええ、反撃だァ!」
「ぶち殺せええ!!」
その絶対的な掟が覆されたのだ。
「ど、どういうことだ!? グランドマスターキーは正常に作動している。本来なら攻撃を無効化しているはず。なのに何故、木偶人形どもの攻撃が無効化できない!?」
デュナミスは自身の持つ鍵を手に持ち、よく調べるが、まったく異変は無い。
自分に異変がないのなら、大量の傀儡たちの簡易版の鍵にも異変は無いはずだ。
だが、攻撃が無効化出来ない。
この異変の原因にいち早く気づいたフェイトは・・・
「シモン・・・君は・・・何をした」
「はあ・・・はあ・・・お、・・・俺は・・・」
「一体何をしたんだ」
未だに激しく呼吸をして、動けぬシモンに問いただした。
そう、異変が起きたのは先ほどのシモンの行動だ。
そして未だにこの空間に満ちているシモンの螺旋力が原因だ。
根拠は無い。
しかしフェイトは、こんな異常事態を引き起こすのはシモンしかいないと思い、シモンを問いただす。
だが、シモンもどうやら自分で何をしたのか分かっていないようだ。
その証拠にシモンですらこの状況に驚いていた。
だが、自分は確かに何かをやった。
運命に抗おうと何かをした。ただその何かが分からない。
すると戸惑うシモンの代わりに、アムグが信じられないような表情のまま、この異変の正体を口にした。
「か、・・・確率変動場じゃ・・・・」
「「「!?」」」
「シモン・・・貴様・・・自分のエネルギーで包み込んだ空間内・・・この空間内において、敵が魔法世界人の攻撃を無効化する確率を・・・・もしくは敵が創造主の力を運用出来る確率を無効化したな!!」
「・・・・えっ?」
「なっ!?」
「か、確率変動だと!?」
シモンは単語の意味が少し分からず首を傾げるが、フェイトもデュナミスも、アムグの言葉に身を乗り出した。
「か、確率を変動だと・・・・バカな、それこそ神の領域! では、この男は生身の人間でありながら、それほどの力を扱ったというのか!? テルティウム、どういうことだ!?」
「僕も知らない。こんな能力を使える人間が・・・いたなんて・・・」
淡々と、粛々と、感情を込めずに己のやるべきことをする。そうやって、何も感じずに魔法世界人を次々とデュナミスもフェイトも消してきた。
だが、この事態は想定外だ。
まさか自分たちの創造主の力を運用出来る確率を無効化されてしまったのだ。
無効化する力を無効化する。
こんな反則など考えてもいなかった。
そんな二人と同じように、この力の正体を知っていたアムグも、やはり驚きは隠せない。
(いや・・・一人だけおった・・・これと同じ能力を使えた男。・・・ジェノム・・・。あやつだけであった。それをこの状況で使うとは・・・シモン、貴様は本当に何者じゃ!?)
分からぬ答え。アムグにとっては深まる謎。
「貴様、どうやったのじゃ!?」
「し、知らないよ。ただ、どうにかして抗おうと無我夢中で・・・」
だが、同時に心が騒いだ。
(無意識で・・・だがこの男・・・)
だが、結局はそれほど小難しいことではない。
「とにかく、分かってんのは気合だ!」
「何!?」
「俺にもよく分からねえが、確率だろうと何だろうと、・・・俺のしぶとさを見くびったな!! 確変決めて大当たりだッ!!」
フェイトは、シモンを見下すように見ているようで、心の中では見くびってなどいない。
侮ってもいない。
だが、その想像の遥か上をシモンが行ったのだ。
そして、今は正に絶好の時。
(いけるかもしれん!!)
倦怠の海の中に居たはずのアムグの瞳に希望が宿った。
「重力100倍!!」
―――!?
アムグの放った重力場が、傀儡たちの群れを押しつぶした。
これでもう間違いない。
シモンの使った力は、アムグの想像通りのものだった。
「やれやれ・・・ワシも現金なものじゃな・・・抗えると分かっとたんに、意志が生まれたわい」
「むっ」
「いくぞい、アーウェルンクス!!」
全てを投げ出したはずの獣人が、全てを投げ出す前の自分を取り戻した。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」
己の両の足で立ち、アムグは唸るように全身に力を漲らせる。
するとアムグの両腕両足、そして胴体が太く、そして長く伸び、人間の膝元ぐらいの大きさしかなかったアムグが巨大化して、ラカンを超えるほどの大きさとなった。
「ふん・・・・ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト・障壁突破(ト・ティコス・ディエルクサストー) 石の槍(ドリュ・ペトラス)!!」
「甘いわあ!!」
「!?」
巨大化したアムグにすかさずフェイトが詠唱し、地中から鋭い石を出現させ、アムグに向けた。
しかしアムグはその石を正面から受け止め、あろうことかへし折った。
「くらえい!!」
そしてアムグは走り出す。
巨大な体をドスドスと走らせ、両腕を大きく広げた。
するとその両腕から数多の棘が飛び出して、その棘だらけの両腕でフェイトを拘束した。
「ゲンバープレス!!」
「くっ!? ・・・・」
「押しつぶしてやるわい!」
「・・・・・・・!」
アムグの力技に、全身に棘が食い込むフェイト。
しかしフェイトは拘束されたまま指先だけを動かし、自分の足元から大量の砂塵を出現させ、アムグに放つ。
「むっ!?」
「僕は『地』のアーウェルンクス。これぐらいの芸当は指先だけでも可能だよ」
超高密度の砂塵が束になってアムグに襲い掛かり、アムグは思わず両手を離してフェイトを開放し、距離をとった。
だが砂は、まるで意志があるかのように唸り、どこまでもアムグを追いかけてくる。
だが、歴戦の猛者のアムグもまた、負けてはいない。
「殺人回転木馬!!」
勢いよく回転して、自身を中心に巨大な竜巻を出現させ、フェイトの砂を全て吹き飛ばした。
「ふん、侮るでないぞ、アーウェルンクス。ワシは不動のアムグじゃ」
「・・・やるね・・・・」
最終更新:2011年05月13日 21:13