攻防は互角。
だが、本来互角というのはありえない。
創造主の力を運用出来るフェイトに、アムグが勝てる道理はない。
しかしその道理が見事に蹴飛ばされてしまった。
(攻撃の威力は多少打ち消している・・・・だが・・・・完全には打ち消されていない。僕のグランドマスターキーを持ってしても、造物主の掟を100パーセント使用できていない)
自身の体の傷跡が、フェイトに現実を語っていた。
「あいつ・・・あんなに強かったのか・・・・ぐっ・・・はあ・・・はあ・・・」
アムグとフェイトの攻防に目を奪われていたシモン。
だが、疲労と消耗は容赦なく襲い掛かる。
元々痛んだ体から、これ以上力を吸収され続ければ、そして少しで気を緩めれば、この反撃できる空間が崩れてしまう。
いかに自分が動けなくとも、それだけはさせまいと、シモンは意識だけは強く保った。
だが、襲い掛かるのは疲労や消耗だけではない。
「おのれ、貴様!」
「うっ!?」
「よもやこれほどの力を眠らせているとは思いもよらなかった!」
デュナミスがシモンの目の前に立った。
「貴様はやはり危険だ! この場で葬ってくれよう」
そして、瞳の奥を光らせ、その力をシモンに振り下ろそうとする。
「む、待つんだ。彼は消すな。彼は僕の相手だ」
「生温いことを言うな、テルティウムよ! この男も永遠の園へと送るだけのこと!」
「ぐっ!?」
まだまともに動けぬシモンに狙いを定め、デュナミスが動き出す。
「い、いかん!!」
「へっ・・・あの鍵のほうが強力なんだろ?」
「へへへへへ、だったらあれを奪ってやらあ!」
「うるさい木偶人形どもだ。私が所有するものを一緒にするな」
「!!」
狙われたシモンに滲みよろうとするデュナミスの背後から、複数の囚人たちが鍵を奪おうと飛び掛ったが、デュナミス相手にそれは不可能。
デュナミスは何の躊躇いもなく囚人たちを消し去った。
どうやら確率を変動させたといってもそれもまた完全ではない。
デュナミスクラスのものが、元々レベル差のある相手に使えば、その力は有効であった。
「テ・・・テメエ!?」
「ふっ、案ずるな。貴様も奴らと同じ永遠の園へと送ってやる」
シモンの眼前でデュナミスがグランドマスターキーを光らせ、シモンにその光をぶつけようとする。
「シモン君!! くっ、しまった!?」
乱戦の中に居た瀬田がシモンの危機に気づくが、僅かに遅く、距離が遠い。
「くっ、まずいぞい!」
「いかん、シモンを守るのじゃ!」
「くっ、ダメだ。間に合わん!」
叫ぶ瀬田やアムグ、ミルフやマンドラたち。
そしてフェイトもだ。
「シモン!」
だが、デュナミスは止まらない。
その光をもってシモンを消し去ろうとした。
だが・・・
「メカタマインパクトォォーーーーーーー!!」
「ヌッ!?」
「えっ!?」
巨大なカメのメカが、ドリル片手にデュナミスに襲い掛かり、シモンは間一髪のところで助かった。
シモンを助けた物体。それは・・・
「おっす、シモン! パパ! 迎えに来たぞ!」
「ぶーーーむ!」
「サラ!! ブータ!!」
メカタマだ。
そしてメカタマのスピーカから聞こえたのはサラとブータの声だ。
さらに・・・
「私も居るよ」
「えっ!?」
「浦島流・竜牙!!」
このピンチに出現したのはサラだけではない。
「おおーーー! ハルカーーーー!!」
「よお、バカ旦那、シモン! 良く分からんがまた無茶か?」
ハルカまでもが現われた。
二人は魔法世界人とは一切関係ないが、どちらも実力者。
この状況、この相手には申し分なく頼もしい助っ人だった。
さらに・・・
「って、シモオオオオン! が、瓦礫が上からーーーーッ!」
「っ・・・えっ?」
「いかん、間に合わない!!」
崩れ落ちる監獄の巨大な天井の破片がシモンの真上に落ちてきた。
シモンは気づかない。
このままではシモンが死ぬという時に・・・
「紅き焔(フラグランティア・ルビカンス)!!」
炎が瓦礫を砕きシモンを救った。
呪文の詠唱の聞こえた方角を見ると・・・・
「ぬ・・・ドウカツ!?」
ミルフが叫んだ。
そうドウカツ隊がこの監獄まで赴いて、シモンを助けたのである。
「ぬう、冒険王一家に頼まれて思わずゲートを使いここまで来てしまったが・・・・・・奴はあの時の・・・それに冒険王まで・・・・おのれ・・・」
何故自分がこんな奴らを助けねばならないといった苦虫をつぶしたような顔をしている。
だが、それでもこの場は割り切って・・・
「ドウカツ隊よ、ミルフ隊の援護をしろ!!」
共に闘うことを誓った。
「ぬう・・・何故だ・・・何故だ!?」
この状況下にデュナミスが叫んだ。
「たかが攻撃が僅かに有効になっただけ・・・・少し確率を覆した程度で何故こうなる!?」
反撃を続けるこの監獄のものたちに、こんなはずではなかったと叫ぶデュナミス。
だが、デュナミスは分かっていない。
「それは違う・・・」
そしてフェイトにはなんとなく分かっていた。
「・・・どういうことだ?」
「シモンが・・・彼が覆したのは確率ではない・・・彼が覆したのは運命だ」
そうだ、地べたを這い蹲っても、足掻いて足掻いてジタバタした男が、絶対的絶望の運命を覆したのだ。
これがシモンの力。
これがグレン団の絶望に打ち勝つ奇跡の力なのだ。
そしてその力は・・・
「ふん、随分と楽しそうだねえ」
「ぬっ!?」
「ブラッディフラッパー」
「ぬぬ、ディーネ!?」
「よう、ミルフ。急に監獄がぶっ壊れたかと思えば、何だいこれは?」
「ほう・・・なんじゃ、ヌシも出てきたのか?」
「アムグ~・・・このクソジジイが・・・・しかし、アムグ・・・ミルフ・・・そしてマンドラに私・・・へっ、まさかこんな所で私たち四人が揃うとはね~」
その力は、その気合は、伝染する。
「くわはははははは、面白いではないか。本来大罪人の貴様だが、この場合はそうも言ってはいられないであろう。ディーネよ、死にたくなければ、私たちに力を貸すんだな」
「相変わらずムカつくね~、マンドラ。だが・・・・まあ、たまには・・・・昔を懐かしむのもいいね」
「では、ゆくぞ。アムグもよいな?」
「うむ、では久々ゆくぞい」
ディーネが参戦した。
そう、昨日の空中大喧嘩祭りで逮捕されたディーネは、この監獄の中に収容されていた。
そしてフェイトたちの出現により監獄が破壊され、こうして牢から出られた彼女は、蠢く傀儡たちを蹴散らして、昔の戦友と全員揃って再会し、今その力を振るう。
「「「「獣人四天王復活だ!!」」」」
シモンから始まったこの戦況。
「ぎはははは、懐かしい四天王がそろい踏みじゃねえか!」
「けっ、敵の時は恐ろしかったが、これほど頼もしい味方も居ねえ!」
「我々も隊長に負けるな! 続け! 囚人どもにも遅れを取るな!」
「このジギタリ様が相手をしてやろう! 援護しろティトリ!」
「がってんがってん承ー知ッ♪」
「クケー! このゲッコ様も忘れるな!」
「しゃああああ!! 王狼の鉤爪(フェンリル・クロウ)!!」
「虎砲!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」」
ディーネに続いて、昨日逮捕された他の選手たちも次々と参戦しだした。
もはやこの流れはそう簡単に止めることができない。
いや・・・
「へへ、シモン下がってな! 私たちが大暴れしてやるからさ。なっ、ブータ!」
「ぶみゅう!」
「じゃあ、私たちも・・・」
「そうだね。瀬田一家にブータ君。やってやろうじゃないか!!」
とどまることを知らない。
次々と消されていく傀儡たち。
この事態に、どう対処していくべきかと考えるが、流石のフェイトもデュナミスも簡単に答えが出ない。
そしてこのとどまることの無い流れは・・・・
「ぐわあ!?」
更なる展開を生み出した。
「うっ・・・うぐう・・・・」
逃げ回っていた囚人の一人が傀儡の光線を喰らい、フェイトたちの目の前で倒れた。
「・・・・・・・・・・・」
だが、その囚人の肉体は崩れていない。
その無事な姿を見てフェイトはため息をついた。
「やれやれ・・・本当に確率が変動している。厄介な能力だよ。シモン」
足元の囚人を見下ろしながら、フェイトが呟いた。
すると足元の囚人が、小さく唸りながら、震えた声で口を開いた。
「うう・・・な、なんなんだ一体・・・き、貴様らは一体何者だ?」
非常に怯えているのか、フルフルと震えた囚人の声には、今目に写る他の勇ましく戦うものたちとはかけ離れた様子だった。
その様子を見て、再びフェイトは呟いた。
「やれやれ、ネギ君たちやこの状況を見た後だからかな? こういう醜い者には雰囲気を台無しにさせられるね」
倒れこみ、全身を震わせている囚人に対して冷たい瞳でフェイトは見降ろした。
そして囚人は悪党だった故の強がりなのか、ハッタリなのか、震えた声でフェイトに叫んだ。
「テ、テメエ・・・なんだかよくわからないが、あ、謝れば今なら・・・ゆ、許してやる・・・」
だが、その言葉はフェイトを、そしてその場に歩み寄ってきたデュナミスに大きなため息をつかせた。
「やれやれ、中にはやはりこのようなクズもいるのだな。醜いものだな・・・・・・白き翼とやらはまだ少年、少女の身ながら、勇気を武器に立ち向かい、私に新たな時代を感じさせた。だが、こうして無様なものを見せられると滾った血も冷めるものだ」
熱く運命に抗うものたちの中で、ガッカリするものを見たなと、戦いの最中でデュナミスもフェイトもつまらなそうな顔をしている。
だが、その分躊躇いがないようだ。
「今すぐ貴様は消してやろう。この距離で放てば流石に消えるだろう」
デュナミスは自身のグランドマスターキーを光らせて、近距離から一人の囚人に対して造物主の掟を強いようとしていた。
間近で、さらに傀儡たちのマスターキーよりも遥かに上の力を持つグランドマスターキーの力ならば、間違いなく囚人の一人ぐらい消せるだろうとデュナミスは確信していた。
だが・・・
事態は・・・
シモンも・・・
瀬田一家も・・・
獣人四天王も・・・
囚人も・・・
看守も・・・
首都の兵士たちも・・・
ブータも・・・
フェイトも・・・
デュナミスにも・・・
思いもよらない事態へとなってしまった。
「み・・・・醜い?」
「「?」」
「ぶ、無様?」
フェイトたちの目の前で這いつくばっている先ほどの囚人が呟いた。
「わ、私が・・・か?」
震えた声でそう呟いた。
フェイトの横に居るデュナミスは小さくため息をついた。
「無論だ。無様・・・それは己の愚かさを気づかぬものを言う。立ち向かいもせず、このような場所で生き恥を晒している貴様のような小さき者を他に何と呼ぶのだ?」
デュナミスのトドメの一撃・・・
それがスイッチとなった。
「ぶ、無様・・・・このわた・・しが・・・・俺が・・・・無様?」
「「ん?」」
「・・・・・あれ?」
「シモン君、何をやっているんだい!?」
「い、いや・・・あれ?・・・あいつ・・・・まさか・・・・」
シモンも気づかなかったが、倒れた囚人をよ~く見てみると、どこかで見たことある気がした。
思わず顔を青ざめさせ、「まさか・・・」と呟いた時にはもう遅かった。
急にゴゴゴゴゴと倒れている囚人から威圧感が漏れ出し、囚人の肉体の表皮に亀裂が走っていく。
「む?」
「なんだい?」
急に変化した場の空気から、フェイトもデュミナスも少々戸惑ってしまった。
だが、もう遅い・・・
「無様だと・・・・・」
人に見下され、言いたい放題言われたこの男には、もはや我慢の限界だった!
「無様だとォォォォォォォォォォーーーー!!!!」
「「!?」」
「テメエら・・・・・誰に向かって、んな口聞いてやがんだゴラァァァァーーーーーー!!!!」
囚人の表皮を突き破り、中から筋肉隆々の怪物が出現した。
大きな角を額から伸ばし、正に怒髪天を突く!
「チ・・・・チコ☆タン!?」
チコ☆タンだった・・・・
「テ~メ~エ~」
「ぬぬ、貴様は・・・!?」
「この俺様に言いたい放題言ってくれたじゃねえかゴラァァーーー!!」
「!!??」
強烈な爆音が響き渡る。
念のため言うが、断じて魔法の力ではない。
殴った拳の音がそれほどの衝撃音を生みだしたのだ。
シモンを震え上がらせ、魔法世界に轟くチコ☆タンの爆裂拳。
「――ッ!?」
それが炸裂し、デュナミスを大監獄の端から端までぶっとばした。
「チコ☆タン!? ・・・な、・・・なんであいつがここに!?」
「う、うわ・・・・そういえばここには昨日の喧嘩で逮捕された人たちも居たんだね・・・」
「忘れておったわい・・・そうか・・・あやつの監獄も壊れたのか・・・」
フェイトたちの強襲で既にまさかの事態だったのに、更にその上を行く事態となってしまった。
「ウガアアアアアアアアアアアアアア!! 何なんだよォ!! 何で俺はここ数日だけでこんなにキレなきゃいけねんだよォ!!」
「チコ☆タンだと・・・まさか・・・魔界を追放されたシルチス亜大陸の魔人・・・爆乱のチコ☆タン!?」
「テメエも何スカしてんだゴラァ!!」
「!!??」
再び響く大爆音・・・・
フェイトが殴られた・・・
フェイトが殴り飛ばされた・・・
フェイトがチコ☆タンの怒りの拳でぶっとばされてしまった・・・・
「ええええーーー!? フェ、フェイトォ!?」
「お、おいおい・・・サラ・・・あれ・・・」
「う、うんハルカ・・・あの化物・・・あれってやっぱ・・・・・」
「え・・・え~~っと・・・僕も何と言えばいいのか・・・・」
「ぶ・・・ぶ~みゅ・・・」
「い、意外な展開じゃな・・・」
「ちょっ、ザイツェフの奴何したんだい!?」
「そうか・・・ディーネ・・・知らなかったのか」
「くけええええ! この状況、これはまずいのではないのか!?」
まさかまさかの事態にシモンも瀬田一家も四天王も口を半開きにして呆然としてしまった。
「あああーーーー! 隊長を見つけたよーーー!」
「もふふ、なんだか知らないけど、これで怖いものなしネ!」
チコ☆タンの部隊の部下たちも集まりだした。
何はともあれ、事態は急展開。
魔法世界の果ての地の奥底。
今ここに、世界の運命に抗う、魔法世界最大規模にして史上最強の荒くれた反逆者たちが集結した。
最終更新:2011年05月13日 21:13