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116-3

英雄の息子ネギ・スプリングフィールドの存在や、世界の敵を前にすれば、使命感の強い首都や帝国の戦士たちは心を熱くする。

だが、使命感も無く、ネギたちやこの世界のために命を賭ける義理も無い連中にとってはどうでもいい話だった。

そのため、アムグも諦めようとしていたのだが・・・・


「グラァァ、ジジイ、時間の無駄だ。そんな腰抜けのカス共は放っておきやがれ!」


「ん、チコ☆タン・・・・・そうかのう?」


「「「「「「「「「「こ、腰抜けだとッ!?」」」」」」」」」」


ウジウジとしている囚人たちをまるで小ばかにするかのように、ニヤニヤとしてチコ☆タンが口を挟んだ。


「ああ~そうだ、腰抜け共に用はねえ」


「「「「「「「「「「ぐっ・・・・・・・・」」」」」」」」」」


「ほら、早く牢屋に逃げ込んで縮こまってねえと、またさっきの奴らに襲われちまうぜ? ガハハハハハハハハハハハハハハ!!」


「「「「「「「「「「うぐっ・・・・・グぬ・・・・・・」」」」」」」」」」


チコ☆タンは容赦ない罵倒を浴びせて、囚人たちに背を向けた。

だが、するとどうだ?

囚人たちの額に青筋が浮かび、拳と唇を怒りで強く締めている。

そして・・・


「「「「「「「「「「まっ、待てコラァァァァァ!!」」」」」」」」」」


背を向けたチコ☆タンを追いかけるように、彼らは駆け出した。


「んだ、カス共がァ? 失せろ。腰抜けは目障りだ」


「うるせえ、爆弾野郎!! テメエに用は無くても俺たちにはあるんだよッ!!」


「誰がうるせえだ、このカス共がァァ!!」


「テメエに言ってんだよ、コラァ!!」


チコ☆タンの発言に怒り狂った囚人たちがチコ☆タンに詰め寄る。

チコ☆タンも囚人たちの発言にカチンと来て、彼らの胸倉を掴むが、彼らはチコ☆タンに胸倉を掴まれているというのに、恐れるどころか、怒りで睨み返した。


「いいか~・・・世界のためとか、正義のためとか・・・サウザンドマスターの息子がどうしようが俺たちには関係ねえ」


「ああ。一銭にもならねえのに、そんなもんなんかで俺たちの心は動きはしねえ・・・」


「でもな・・・・・」


そして怒りと同時に、湧き上がった思いのたけを叫んだ。



「「「「「「「「「「腰抜けと言われて引き下がれるかァ!!!!」」」」」」」」」」



その言葉を聞いてチコ☆タンはニヤリと笑った。


「そうだ・・・・それがカスの意地だ!! ガハハハハハハハ!!」


「ふむ、まとまったようじゃのう~」


引くに引けない想いを掲げて、多くのものが参戦を決意した。


「クソがァ! やってやんぞコラァ!」


「うっしゃあ・・・完全なる世界なんざ、皆殺しだァ!」


「がんばろうね、ラオ」


「おうよ、ラン!」


「もう逃げることは許されんぞ、ゲッコよ」


「ちっ、分かったよ・・・・マンドラ隊長よ~」


いやいや・・・ちょっとまて・・・


「アムグ、ちょっと待てよ! いくら戦力が必要だからって、そんなに囚人を出すこと無いだろ!?」


「な~に、ディーネと同じで、あの祭りの参加者というだけで大した罪ではない。今連れて行っても問題あるまい。それにその分キッチリ働かせる、これも立派な裏取引じゃよ! それに出すのは、昨日の祭りに参加した拳闘士と賞金稼ぎのみで、テロリストや重要犯罪者などは出さんので安心しろ」


「で、でも・・・・・」


「ぐわはははは、いい加減、この世界に住むワシらを抜きに、崩壊だ、永遠の園だとガタガタ騒がれるのは面倒なのでな。ましてや、白き翼などという小僧共や、この世界の関係者ではない貴様に守ってもらった世界に、住ませてもらうのは耐えられん。それに星の崩壊に手は出せても、内政に干渉することはタブーじゃよ、シモンよ」


いくらなんでもまずいだろうというシモンの意見をアムグはニヤニヤ笑いながら却下した。




*1))




もはや狡猾な首都の大参謀も務めた、不動のアムグ爺さん大全開だった。


「それに言い訳は既に考えておる。こやつらは元々オスティア襲撃ではなく、犯罪者の白き翼を捕らえるために構成された賞金稼ぎ連合として集った。要するに騙されただけじゃよ。ならば、それほど重い罪にもできまい」


「じゃあ、その首謀者のチコ☆タンを出していいのか!?」


「ぐわはははは、何を言うシモンよ! 祭りの首謀者の名前はアレクサンドル・ザイツェフという男じゃ。チコ☆タンなどという名ではないわ! これぞ正に超弩級法規的措置じゃ! 司法取引とはいい制度じゃな! 責任はこのジジイが取ってやるわい! ぐわはははははははははははは!!」


「「「「「「「「「「さ・・・・最悪だこのジジイ・・・・」」」」」」」」」」


ある意味、チコ☆タンを超えるこの監獄最悪の悪はこの男だったのかもしれない。


「ふん、これから全世界の危機に立ち向かうというのじゃろ? 細かいことを気にしてはいられまい? グウェハハハハハハハハ」


非常に品のない笑い声を上げるアムグを見て、とんでもない奴を仲間に引き入れてしまったなと、シモンの顔は引きつったままだ。


「シモン・・・・なんか・・・とんでもないことになってるぞ?」


「お、俺はサラたちとアムグが一緒に居ればそれで良かったのに・・・・・アムグの奴・・・とんでもない奴だな。仲間にしないほうが良かったかも・・・・」


もはやリーダーのはずのシモンが置いてきぼりをくらい、アムグの独断で人種の壁どころか、囚人も政府関係者の壁もぶち壊された空間が広がっていた。


「おいおいおいおい、いいのか~? 私知らねえぞ~」


「・・・・無事に私たちも帰れるんだろうね?」


「ぶ、ぶ~む」


「お、俺もここまでしろだなんて・・・言ってないよな・・・」


「アムグ君・・・チコ☆タン君ですら危ういのに、これ以上囚人を外に出していいのかい?」


「首輪もあることじゃし、どうせ明日世界が滅ぶかもしれんのじゃ。たまには、自分たちの世界は自分たちの力で守らせるのも良かろう。それに囚人という点では、貴様らもワシから見れば同じじゃよ」


首輪があるからどうせ逃げられない。

どうせ明日世界が滅ぶのなら、どこに居ても変わらない。

ならば、荒くれ者でも腕が立ち、戦う意思があるのならリスクを冒しても連れだしてみるのも面白い。

アムグは完全に開き直って、職権乱用、職場放棄でニヤリと笑った。

勿論首輪があるとはいえ、危険なことには変わらないために、ミルフたちの判断が重要になる。

するとこの事態に・・・



「ま・・・待て・・・・」



「お前はさっきの・・・・」



「メガロメセンブリア・ドウカツ隊隊長のドウカツだ」



ドウカツは複雑な顔を浮かべてシモンに問いかけた。



「教えろ・・・・私は・・・・先ほどお前を助けた・・・それは・・・正しかったのか?」



「えっ?」



「アムグ殿の暴走も・・・元を辿れば全て貴様から始まった・・・・全ては貴様が根源だ」



シモンの真上に落ちてきた瓦礫を破壊して、シモンの命を助けたドウカツ。

彼は苦悶に満ちた表情で、シモンの胸ぐらをつかんだ。



「平和を乱すものはすべて敵。しかし貴様も白き翼たちも我々より遥かに強い力を持ち、それどころか散々やりたい放題した挙句に世界を救うと言っている・・・・」



「・・・・ああ・・・」



「そのために、首輪があるとはいえ、これまで世界の平和を乱した犯罪者たちまで監獄から出し・・・・そんな奴らと一緒に戦おうというのか?」



「・・・まあ、・・・この際そうなるんだろうな。俺の意思ではないけど、これもみんなの意思なんだろ」



怒りに満ちた表情、しかしそんな表情のままドウカツは涙を流しながらシモンの胸ぐらを掴み揺らした。



「ふざ・・・・ぐっ・・・」



ふざけるなと叫びたい。



「な、何を・・・・・うう・・・」



何を考えているんだと言ってやりたい。


しかし言うことが出来ない。どうしても口を閉ざしてしまう。


真っ直ぐなシモンの瞳が、自分に文句すら言わせなかったのだ。


そして、それらの言葉を飲み込んで、ドウカツの口から出た言葉は・・・



「本当に・・・本当にお前たちを信じていいのか?」 



「えっ?」



「本当に・・・託していいのか?」 



涙を流しながら告げるその言葉に、ミルフや瀬田たちも動きを止め、黙ってみていた。

すると、ドウカツは涙を混ぜた激しい口調でシモンを揺らし、己の思いを全て曝け出した。



「本当にお前たちを信じていいのか!? 本当に託していいのか!? 私たちではどうしようもできない危機をお前らに託して、お前たちはこの世界を救ってくれるというのか!? 私たちのこれまで守ってきたものを! 家族を! 友を! 世界を救ってくれるのかッ!?」



ドウカツは悔しさを交えながら涙を流し、シモンに叫ぶ。

そんな問いかけに、シモンはなんと答える?



「お前も戦うんだ」



「・・・・えっ?」



「世界の危機なら何をしても良いってわけじゃない。でも、何もしなければここで終わる」



そしてシモンは手を差し出した。



「来い、心強い奴らは一人でも多く必要だ」



「ぬっ・・・・・」



「というか、来てくれ。こんなに囚人まで連れてこられたら、俺も心配だよ」



信じられるのか信じられないかではない。

ドウカツが信じるのか信じないのかだ。

だからドウカツは信じることにした。



「・・・い・・・いいだろう・・・・」



今目の前に居る男に自分のこれまでを捨ててでも信じることにした。



「私も連れて行け。役に立たんのは百も承知だ。しかしそれでも私は現場に行くぞ! そして反乱やよからぬ事を囚人共が企んだら、容赦なく俺が叩きのめしてやる! もう、本部の命令などクソ食らえだ!! 私も自分の意思で動く!!」



「ドウカツ隊長・・・・なれば・・・」



「「「「「我らも隊長と共に!!」」」」」



この場で関係あるのは、運命を黙って受け入れぬこと。



「ああ、一緒に行くぞ! 奴らを止めなきゃ、この世界に明日は無い!」



今日滅ぶことを受け入れぬものたちが、明日を手にするために立ち上がった。

この世界に住む獣人も亜人も魔界の魔人も現実世界の人間も、そして次元の異なる宇宙に住む男。

彼らが共通の想いを掲げて立ち上がった。



「さて、僕たちも気合入れるか!」



「やれやれ・・・・なんか、すごいメンツになったな」



「ハルカ・・・こいつら全然信用できないのに・・・なんか・・・負ける気もしなくなってきた・・・」



「ジジイ、アムグ、マンドラ、腕は鈍ってないだろうね?」



「ほう、試してみるかのう?」



「後で存分に証明するわい」



「貴様も油断せぬことだな~」



「グワハハハハハハハ、力押しで皆殺しにしてやらァ!!」



「では、世界の乳のためにいくネ!」



「「「「「「「「「「おっしゃァァァァァァァァァァァッ!!!!」」」」」」」」」」



かくして、シモン、瀬田一家、チコ☆タン、そして獣人四天王。

さらに、ミルフ隊にドウカツ隊やマンドラの神速部隊。黒い猟犬(カニス・ニゲル)。 ディーネの引き入る賞金稼ぎ集団。

世間に名をはせた賞金稼ぎや拳闘士たち。

アムグの大暴走により、数にして約200人規模の大組織となってしまった。

だが、ここで一つ問題がある。


「しかしどうやって行く? この人数で移動するには相当大きな飛行船とかないと・・・」


「な~に、格納庫にある飛行船を使えば・・・・」


そう、いくら人数が増えたところで、移動手段が無ければ意味が無い。


「大変です、アムグ署長! 格納庫にある我々職員用の飛行船が、先ほどの傀儡たちの攻撃を受けて、ずべて使用不能になっています!」


「な、なんじゃと~?」


「ならば本部に連絡を取って・・・・・・」


「ダメです、先ほどの爆発の影響で、全ての通信機器がイカれてしまい、修復にはまだ時間が・・・・・」


「んだ~? クソ共がァ、爆発で通信機器が全部壊れるとかどういう事態だ~?」


「「「「「「「「「「爆発はお前の仕業だろッ!!」」」」」」」」」」


なんと、翼が無いという致命的な事態に陥ってしまった。

強力な戦力引き連れて、さあ、行くぞと決意した瞬間につまずいてしまった。

だが・・・



「む・・・・むう~~~・・・・う~む・・・・」



「アムグよ・・・どうした?」



「仕方あるまい・・・・・こうなったらもうヤケじゃ。奥の手を使うしかないの~」



「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」



なんと奥の手が残っていたのだ。

流石は、かつては首都の大参謀をも務めた不動のアムグだと、誰もが期待のまなざしを向けた。



「心配するなシモンよ。心当たりはある」



「えっ?」



「覚悟がある奴だけワシについてこい。未来は保障せんがな」



「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」



何か、意地の悪い笑みを浮かべてアムグはニヤリとした。

何か嫌な予感が漂うが、この際グズグズしてはいられない。

皆が黙ってアムグの後に続くと、そこには複数ある壊れた飛行船の中で、一際目立つ超巨大な戦艦があった。

しかも、どうやら目立った外傷は無い。



「ぐわはははは、流石にこれは壊れておらんかったか」



「・・・・・アムグ・・・この飛行船・・・いいのか?」



シモンはかなり複雑な顔をして尋ねると、アムグはニヤニヤと笑いながら首を横に振る



「シモンよ。ハッキリと教えてやろう。良くないことじゃよ」



アムグが用意した戦艦。

それは地下大監獄の巨大搬入港にある。荒くれ者たちの翼。



「おい・・・・・これ・・・・・」



「アムグ・・・テメエ! これは俺のだぞ!!」



搬入港に着き、彼らがこれから使用すると思われる巨大な飛行船に全員が口を開けて呆然とし、チコ☆タンだけは怒っていた。


「アムグ署長!」


「むっ、すまんがこれは・・・・・・」


「どうぞお使いください! 本部に始末書は我々が大量に書いておきます!!」


「ご武運をお祈りします!」


「ここは我々にお任せください!」


「何じゃ堅物ばかりじゃと思っとったが、話が分かるのう」


「何を言っておられます! 我々は男でございますよ!」 


「そうです、大戦期の英傑、不動のアムグ様がようやく動かれたのです。感激で言葉もありません! この場の守護は我々にお任せください!」


「世界を滅亡からお救い下さい!!」


搬入港の警備たちが敬礼をしながらアムグ達を迎えた。そして既に彼らは準備までしていた。



「「「「「「「「「「大丈夫か、この監獄は!?」」」」」」」」」」



もはや、今日は驚きとツッコミに誰もが疲れた。

本当はまずいことである。

しかしこれまでの監獄内での出来事や世界の危機を前に、責任ある役職に居るはずの彼らの目はワクワクとしていた。


「いや、しかしアムグよ、いくらなんでもこの飛行船は証拠物件・・・・」


「ふん、ミルフよ。細かいことをガタガタ言うでない」


「いや・・・しかしこれは・・・・」


「さあ、今すぐ全員、この超弩級要塞型戦艦・ケルベロス乗り込むのじゃ! これには強力な対抗呪文処理が施されている。これならば、やすやすとやられんじゃろう。調べたら都合のよいことに、鬼神兵も搬入されとる! ぐわはははははは、総力戦じゃな! もっとも、敵どころか、政府の連中にまで攻撃をされん保障はどこにも無いがの~」


「「「「「このジジイ・・・・さっきまで白けてたのに、ノリノリだな・・・・」」」」」


そう、アムグの用意した飛行船。それは何と黒い猟犬が使用した、超弩級要塞型戦艦・ケルベロスであった。

チコ☆タンたちを逮捕した時に押収したこの超弩級戦艦を使おうというのだ。

流石にミルフやマンドラ、ドウカツ達政府側の人間は顔が引きつっていた。


「もはや地位も名誉も惜しくはない。落ちるならば、一度トコトン落ちたいと思っておったところじゃ」


アムグももはや開き直り、むしろ清々しい表情でニヤリとしていた。

そんなノリノリな状況でシモンは何と言うか? 決まっている。

シモンも腹をくくった。



「そうだな。今重要なのは正しいか正しくないかじゃない。抗うのか抗わないのかだ。いい奴も悪い奴もひっくるめて、この世界に住んでいるんだ。抗うなら、全員まとめて抗おうじゃないか!」



要するに細かいとは気にするな。それだけだ。

決して細かいことではないために、ドウカツなど涙目で今すぐ辞表を震えた手で書く動作をしていた。

だが、どんな明日になろうと、その明日が来なければ何の意味もない。

とにかく今は明日を手にするために彼らは行く。


「エンジン出力40パーセント、いつでもいけるネ!」


黒い猟犬ゆえに、ケルベロスの扱いの経験を買われ、メインブリッジにて操舵手として任されたパイオツウが叫び、ケルベロスが音を立てて起動した。


「了解、エンジン動力異常なし!」


「こちらも異常ないよ~!」


パイオツウと同じく、ブリッジにてケルベロスのような巨大な艦には欠かせないオペレーターやモニターなどの役割として、黒い猟犬(カニス・ニゲル)のトカゲの獣人ラゾと、全身骨の魔族のモルボルグランが叫んだ。


『メインブリッジ、応答せよ。こちら神速部隊。ケルベロスの格納庫に我らの神速部隊の魔道戦闘機、20機・・・いや、ゲッコを合わせて21機の搬入完了した』


「うむ、では作戦開始まで待機せよ」


『了解』


メインブリッジに入ったマンドラからの通信に、艦長席に居るアムグが答えた。


「もふふ、ではアムグ艦長指示を!」


「うむ・・・ケルベロス、エンジン出力40パーセント、機体上昇じゃ!」


「了解、エンジン出力40パーセント、機体上昇ネ!!」


アムグの指示にパイオツウが復唱し、ゆっくりと巨艦が動き出した。


「ふん・・・将軍をクビになって以来、まさか再びこのような座に座るとは思うとらんかったわい。しかも何のしがらみも無い。ふん、開き直りとは恐ろしいものじゃな」


つい数時間前まで、倦怠と諦めの中に居たアムグはここには居ない。

今の彼は、彼が最も恐れられ、輝いていた時代の武人としての自分を取り戻し、この巨艦の指揮を取っていた。


「もふふふふ・・・」


「どうしたんだよ、パイオツウ」


「いやいや・・・こんな形でケルベロスを動かすことになるとは思わなかったネ。一度は世界の大悪党になるつもりが、下手したら世界の英雄になってしまうヨ」


「へへ、これも隊長の無茶苦茶のおかげかもな。セコイ賞金稼ぎだったのにな~」


「あばば、僕も緊張して心臓が破裂しそうだよ~、心臓・・・無いんだけどね~、骨だから」


アムグと同じように黒い猟犬(カニス・ニゲル)の三人も活き活きしていた。

以前は、この巨艦を使って世界に宣戦布告をして、恐らくは歴史上に名を残す悪になるはずだったのだが、今ではこの力を使って、世界の危機に立ち向かおうというのだ。

状況や想いがまったく違うというのに、ゾクゾクとした感覚が抑えきれていなかった。

いや、彼らだけではない。

この世界最大の危機に、恐れを抱くどころか、ほとんどのものがゾクゾクとした感覚に見舞われていた。


「堅物のお前が本部の指示も無視してここにおるとはのう、ドウカツよ」


「ミルフ・・・私はどうすれば正しいことが出来た?」


「正義であれ、悪であれ、己の心に従えば、それは己にとっての正しいことじゃよ」


「・・・だが、私の失態はもはや明確。ならば、少しでも挽回できるよう、精々暴れさせてもらおう」


首都の騎士でありながら、首都の騎士としてではなく、一人の戦士としてこの巨艦に乗り込んだ彼らも・・・


「ふふん・・・・たまらないね~、ザイツェフ・・・いや、チコ☆タンかい?」


「ああ~~ん? 何ガだよ、サソリ女!」


「へっ、最初は姫さんの借りを返すために、ネギ・スプリングフィールドに力を貸せればと思ってきたが、何か今はそれよりも暴れることのほうが楽しみになってきたよ」


「知るかよ。つうか、俺の間合いに入って巻き添えくらって死んでも知らねえからよ!」


「はん、やるってのかい、この、どさんぴんがァ!!」


元々野蛮な彼らもなおのこと、この興奮は抑えられない。


「へへ、カオラの依頼を受けたとき、いや・・・アリアドネーで私がシモンと会ったときは、まさかこんな風になるとは思わなかったよ」


「サラの言うとおりだね。ただの不法入国者で済めばよかったのに、いつの間にか世界の命運を賭けた戦いになるとはね~」


「僕も歴史を解き明かす側ではなく、歴史を創る側になるとは思わなかったよ」


瀬田一家も同じこと。

そう、これから世界の命運を賭けた戦いに赴くと分かっているというのに、この艦に居る全員がワクワクしていたのだ。

それも全てはシモンから始まったのだ。


「俺がこの世界に来たとき・・・・・・・コレットとのあの事故からここまで来るなんてな」


「ぶ~む」


「この世界に来たときは、記憶すらなかった俺が、今ではこんなデッカイ物とデッカイ奴らと一緒に、デッカイ壁をぶち破ろうとしている。これも、コアドリルが導いてくれたのかな?」


「ぶ~みゅ」


巨艦の最先端の端に一人立つシモン。そしてその肩にはブータが胸を張って座っていた。

ようやく座ったブータの特等席であるシモンの肩。ここでいつも自分はシモンと同じ視点、同じ感覚を持って、色々な困難を乗り越えてきた。

シモンの肩こそが、ブータの特等席。ブータがもっともブータで居られる場所だ。


「みんなと別れて、俺たち二人の旅・・・・・・・美空、ココネ、シャークティと会い、エヴァと茶々丸、そしてネギ、アスナ、刹那や木乃香、多くのネギの生徒たち、そしてフェイトや超。いつの間にか俺たち大グレン団が新生グレン団になり、薫たちも加わって、新生大グレン団になった」


「ぶ~む」


シモンと共にブータも体験してきた異世界での出会いや戦い。

大グレン団の仲間と別れてまだ一年しか経っていないのに、これほどの旅をしてきた。


「この世界でも、コレットやエミリィ、ベアトリクスから始まり、サラ、瀬田さん、ハルカさん、ラカン、トサカ、エマ、チコ☆タンやユウサに獣人四天王とか、すごい奴らばかりだった。でも、そんなやつらと出会っても、何があっても、俺とお前はグレン団としてここまで来た」


「ぶむ」


「だったら最後の最後までグレン団として、見せてやろうぜ、ブータ。この世界に、俺たちの気合と魂をな」


「ぶみゅううう!!」


ブータは「当たり前だ」と言わんばかりに気合の入った声で鳴いた。

シモンも、「ああ」と頷いて、二人の覚悟も想いも準備完了だ。



『もふふ、リーダー、ケルベロスの準備完了ネ。何か最後に言っておくことは無いか?』



「リーダーって・・・アムグの奴・・・散々自分でメンバーを集めて、全部俺に押し付けるのか? まったく・・・・なら・・・・」



パイオツウの声が、艦のスピーカーを伝わって聞こえてきた。その声にシモンは振り返り、拡声器を使わずに、艦全体に向けて大声で叫んだ。




「ケルベロスじゃない! 今からこの艦の名前は魔道大グレンだ!!!!」




『魔道・・・・』




「大・・・・・・・」




「グレン・・・・・・?」




その叫びは巨艦のいたるところに配置されている、兵士や囚人たちにも聞こえた。

魔法世界を舞台に喧嘩を仕掛けるグレン団には相応しき名前だ。



「って、グラァ! 俺様の艦にヘンテコな名前を付けんじゃねええええええええ!!」



「なるほどのう・・・・」



「まあ、私は構わないね」



「シモン君らしい命名だね」



魔法世界で出会った彼らは、本家の大グレン団と違って、これまで多くの困難を越えたり、熱い絆で結ばれたりしていたわけではない。


ある意味、急増で寄せ集めのチームかもしれない。


しかし、シモンの表情は不敵にほころんだ。


負ける気がしないと、いつものような頼もしさと、自信に満ち溢れていた。


すると、シモンの叫びを聞いた戦士たちが、魔道大グレンの艦橋の窓という窓から全員顔を出したり、甲板に姿を見せたりした。


騎士の物々しい見事な甲冑を纏っている戦士も居れば、拳闘士や賞金稼ぎなど、人間、獣人、亜人、問わずに様々な者たちがシモンの視界に入る。それだけで頼もしさを感じる。



「みんな・・・・・・聞いてくれ。今から俺たちは、魔法世界最大規模の戦いに突入することになる」



彼らに向けてシモンが口を開く。



「みんなの中には俺と何かあった奴らも居るだろう。みんなも今隣に居るやつに言いたいことの一つや二つがあるかもしれない。それは俺も分かっているつもりだ」



ザワザワと騒ぎ出し、自分の隣に居る騎士や逮捕された賞金稼ぎたちを見て、皆が互いに互いを警戒するような表情になった。

それもそうだ。元々は相容れる中ではないのだから。

しかし、



「だから、俺を好きになれとは言わない! 俺の言うとおりにしろとも言わない! 互いを好きになれとも言わない! 過去を水に流せとも言わない! でも、これだけは覚えておいてくれ!」 



シモンは歩き出した。

ざわつき出した戦士たちは、歩み寄るシモンを避けるように、道が真っ二つに割れた。



「ここで俺たちが一つにならなければ、世界と一緒に俺たちも終わる! これはそういう戦いだ!」



そして戦士たちはシモンを囲むようにグルッと輪になり、シモンはその輪の中心で天に向かって指を指す。



「ここまで来たら、王だろうと将軍だろうと騎士だろうと賞金稼ぎだろうと拳闘士だろうとチンピラだろうと、そんな些細なことは関係ない! 俺たちが一つのでっかいドリルになって、でっかい壁をぶち破るだけだ!」



輪の真ん中でシモンが声の限り問いかけた。シモンの内から沸きあがる螺旋の光が、周囲に拡散する。



「それとも黙って運命に飲み込まれるのかッ!?」



するとそれに負けじと、政府の騎士たちも囚人たちも応じた。



「「「「「「「「「「んなわけあるかァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」」」」」」」」



「ならば勝つぞ、この戦い! 自分に! 敵に! 運命にな!!」



「「「「「「「「「しゃあああああああああああああああああああああッ!!!!」」」」」」」」」」



シモンの号令に応えて、皆が決意の声を上げる。

するとシモンを囲んだ戦士たちの輪が収縮と拡張を繰り返し、全員が飛び跳ねて指を天に向かって指し、次第にぐるぐると回りだした。

それはまるで、全員が一緒になった一つの生命体のように見え、魔法世界の天空に広がる渦巻銀河だった。


「へっ、ビビるんじゃねえぞ、坊ちゃんどもがァ!!」


「お前らこそ、逃げるなよ、チンピラ共!!」


「へっ、やってやろうじゃねえかよッ!!」


「ああ! 我らの足を引っ張るなよな!!」


一人の囚人が、騎士の頭を軽く叩いてニヤリと笑う。すると叩かれた騎士もニヤリと笑って、囚人を軽く叩き返した。

あるところでは、肩を組み。あるところでは、手を叩いて互いの健闘を誓い合っている。




「さあ、魔道大グレンの出撃だ!! いくぞ、明日を賭けて戦うぞ!」




「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」」」」」




超強力な助っ人たちに、超強力な翼を手にしたシモン。

アリアドネー、ヘラス、メガロメセンブリア、この三国と紅き翼が力を合わせて、20年前の危機を乗り越えたのは、誰もが知っている。

しかし今、魔法世界史上例の無いほどのドリームチームが結成された。

世界の果で響き渡る決意の声と共に、超弩級要塞型戦艦・ケルベロス改め、魔道大グレンに炎の髑髏マークを掲げて、シモンたちは魔法世界を左右する最後の決戦に赴くのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:15
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*1 ((こいつが将軍クビになったの分かる気がする・・・・