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117-2

上空では口元を、まるで三日月のような形にさせて狂ったように笑う月詠。

問答せずに、仕留めておくべきだったと龍宮や刹那が舌打ちするが、もう遅い。

この瞬間、天の全てが敵となった。



「クルト総督、大変です!! 艦隊前方に敵影多数!」



「て、敵影総数・・・・計測不能!! 概算で・・・ご・・・・50万を超えています!!」



「バ、バカな! どうやって、どこに隠れていた!」



油断などしていたわけではない。最大限最高レベルでの警戒を誰もがしていた。

しかしそれでも予想を上回る勢力と戦力が出現し、敵は容赦なく奇襲を仕掛けてきた。





「億鬼夜行!!!! ・・・・うふふふふ・・・億千万の血が流れますえ~・・・・・」





この世界の創造主の力が魔物の姿となって津波のように押し寄せてくる。



『こ、これは・・・・信じられぬ。20年前の大戦クラスではないか!?』



『け・・・けっ、上等だぜ。首都の力を思い知らせてやらあ!』



『もはや覚悟を決めたほうがよさそうね』



攻め入るは異形の怪物無量大数。



「クルト、これはやはり造物主の力だ・・・どうやら敵は僕たちの想像を遥かに上回る」



「く、来る・・・・全艦隊戦闘準備!!」



迎え撃つのは結集した魔法世界の戦士たち。



「始まるぞ・・・もはや戦争だ!! 気をつけろ、我々の敗北は・・・・・全世界の消滅だと思うのだ!!!!」



白き翼たちを先頭に、歴史に刻まれる大空中戦が始まった。



「「「「ネギ君!」」」」



「「「「先生!」」」」



「「「「坊主!!」」」」



迫りくる数多の怪物たちを迎えるべく、新生大グレン団の面々、白き翼の戦闘員たちは飛行船の甲板に集合した。



「来る・・・・・・!」



予想をはるかに上回る戦力。さらに創造主の力を考えれば、魔法世界人たちの援軍もそれほど期待できない。

そして何より、先頭を駆け抜ける自分たちが恐れを抱いて引き下がるわけには行かない。



「皆さん! 全てを倒す必要はありません! 僕たちの目的は敵本陣に乗り込むことです! この飛行船を死守しつつ、本丸に一気になだれ込みます!!」



具体的な作戦も案もないがそれしかない。

何より小難しいことをゴチャゴチャ考えるよりはよっぽど分かりやすい。



「へっ、いいじゃんそれで! おっしゃあ、新生大グレン団もリーダー抜きでもやったろうじゃんよーーーッ」



「よっし、とにかく向かってくる敵を手当たり次第にぶちのめして前へ進め!」



「俺たちの気合と根性を奴らに見せ付けてやれ!!」



男も女も関係ない。

戦えるものたちは、それぞれの持ち場へ駆け出して、迫りくる無量大数の敵を迎え撃つ。

白き翼と新生大グレン団の乗る二隻の船から叫び、光、爆音が飛び交い、一気に戦闘が展開された。

その後方からは援護のために魔法世界の軍隊たちが駆けつける。彼らも戦闘開始を確認し、即座に見渡すかぎりの敵に向かって艦隊から魔大砲を発射させる。



「始まりましたえ~・・・これですわ~・・・これがウチの望んだ居場所や~」



「くっ、月詠さん!」



「月詠ッ!」



「どうです~、ネギ君、センパイ~、偽者も本物も関係あらへん。流れる血が滾り、秘めた想いが興奮すれば真実。本物とか偽者とか、正直そんなもんでモメとるあんたたちが滑稽で仕方ありませんえ~。この光景・・・この音・・・匂い・・・求めるリアルはここにありますえ!」



月詠は両手を大きく広げて、自身が開始させたこの戦争を誇らしげに語り、ネギたちを見下ろす。

その不気味な瞳と笑みに寒気がした。

だが、ネギはそんな寒気を一瞬で振り払い、真っ向から相対する。


「・・・・・ッ! 雷天大壮!!」


「ネギ先生!?」


「ほっ、それですかい~」


雷天状態となり、ネギは鋭い眼光で指を真っ直ぐ月詠に向けて指した。


「本物でも偽者でも・・・明日へ続く道を塞ぐのなら抉じ開けます!!」


「は~・・・は~~~は~~~~!! いいですわ~~~! 濡・レ・テ・キ・マ・シ・タ・エ!!」


月詠は体を異常なほど震わせ、涎を垂らし、目の色を変えた。

交錯しようとするネギと月詠。

しかしその間に白い翼を羽ばたかせ、剣を抜いた刹那が割って入った。


「待ってください、ネギ先生!」


「刹那さん!?」


「セ・・・ン・・・パ・・・イ・・・?」


「この女一人に集中していてはやられます。敵の数とこちらの戦力差を見極めてください。この女よりもやるべきことがあるはずです!」


「!?」


ネギは辺りを見渡す。そこには苛烈を極める戦闘が繰り広げられている。


人と召喚魔の空中戦がいたるところで展開し、爆発し、傷つき、消える敵、撃ち落される援軍の艦、どちらにも被害が耐えていない。


造物主の掟(コードオブザライフメイカー)の力を使えぬ召喚魔たちは艦隊の砲撃でも倒せるが、そうでないものたちは違う。砲撃を食らってもびくともしない。


敵の能力に関係なく戦える白き翼と新生大グレン団たちだが、狭い船の上の足場では敵から船を守るので精一杯である。



「ウルア! 男魂百裂拳!! ・・・っち、数が多すぎらア!!」



「くっ・・・・これでは攻守が交代しないでござるな」



空いっぱいに広がる敵。


いや、もはや空そのものが敵と言っても過言ではない。



「獣速瞬動! 疾空黒狼牙!! ・・・だあ~~~、うざった過ぎるわ!!」



「ぬああああ~~~! 足場が少なくて思うように走れん~~! 私がスロウリイ!!」



「うわああああん! ガトリング一斉射撃い~~~!!」



「む・・・まずいな・・・体力と弾丸がこのままじゃ先に尽きるよ」



「しかし真名、手を止めたら一瞬で全滅アルよ! って言ったそばから!? ぬぬぬ・・・伸びろ! 神珍鉄自在棍!!」



「翼の生えた十字架(エアリアルクロス)!! 臆してはなりません! 敗北は己の中にあると思いなさい!」



「聖なる十字架(クリスクロス)!! ココネも・・・・ヤル!」



防戦している。

だが、正に文字通り防戦一方である。



「って・・・ギャアアアアアアアア、何かスゲーデッカイのも居るんですけど!!」



「大型種・・・・コレホド大量ニ・・・・・敵影ニ向ケ射出。エンキ・サンアタック!!」



大量の敵に阻まれ、敵の本丸に一気駆けするつもりが、先ほどから少ししか前に進めてない。

この想像以上の敵の数にネギは歯噛みした。



「ネギ先生! 空を飛べ、大量の敵を葬る火力を誇っているのはネギ先生だけです! ならばその火力を露払いに使ってください! この女は・・・・私が相手します!」



「ッ!? セ、センパイ!? センパイから逆ナンですかえ!? もうええ! もうなんでもエエです!! 早く・・・ウチヲイカセテモライマスエ!!」



月詠はネギの横を通り過ぎて刹那に飛び掛り、刃を交えさせた。

勢いに押されて刹那は飛行船から投げ出される。しかし翼の生えている刹那に心配は要らない。

そして刹那を追いかけるために、月詠も飛行船を飛び降り、回りにいくつも浮かんでいる浮遊石を足場にして追いかけてくる。


「せっちゃん!?」


「刹那さん!?」


「ここは私に任せてくださいネギ先生! お嬢様、心配要りません! 私を信じてください! お嬢様が信じる私を信じてください!!」


ネギの返答を待たずして、刹那は月詠を引き付けて飛行船から離れた。

ネギは一瞬置いていかれる刹那の元へと行こうとしたが、たった今叫ばれた刹那の言葉を思い出す。

自分の生徒を見捨てるのか?

いや、違う。

自分の生徒を信じるのだ。

刹那があんな行動を起こしたのだからこそ、自分には自分のやるべきことがある。



「くっ・・・夕映さん、コレットさん、ベアトリクスさん! 飛行してこの二隻を援護してください! 龍宮さん、小太郎君、楓さん、古老子、そして新生大グレン団の皆さんはこの飛行船を足場に大暴れしてください!」



「りょ、了解です!!」



「任された!」



「ネギ、お前はどうすんのや!」



「僕は・・・・天を足場に大暴れするよ!! 漏らした敵は小太郎君たちに任せるよ! 皆さん、いくら敵が大勢いても必ずどこかにほつれが出るはずです! 朝倉さんと千雨さんはクルトさんたちと通信して協力を!! ハルナさんや茶々丸さんは指示に従い操縦をお願いします!!」



「「了解!!」」



「へっ、ええやないか! 飲み込まれる前に、飲み込んだろうやないか!!」



辺りを見渡して一瞬で指示を送り、味方を鼓舞するネギ。


その指示に従い、そして鼓舞され、連合軍は歯を食いしばりながら耐え抜いてチャンスを待ち続ける。



「いくぞ、雷の速度に回転を加えた突進・・・これが僕の新技・・・・・・・雷天突破だァ!!」



容赦なく行われる敵の攻撃に船が傷つき、連合艦隊も苦戦している。


飛び交う銃声や爆音、そして酷使されることにより悲鳴を上げる自分たちの飛行船。


いつ命が尽きても不思議ではないこの感覚。


これが喧嘩や戦いを超えた、戦争というものである。



「ついに・・・始まったか・・・・」



この光景に表情を引きつらせながら、クルトは小さく呟いた。

前方で奮闘するネギたち。飛び交う連合軍の砲弾の数。一向に減らない敵の大群。

それはプロの軍人たちですらまともな感覚ならのけ反るような戦いだった。



「オラァ! この艦はもっとスピード出せねえのかよ艦長! ガキ共がやってるんだ! 俺たちだって前に行かなきゃなんねえだろうが!」



「リカード元老院・・・しかし敵が・・・」



「敵なんざ関係ねえ。とにかく精霊砲を発射しまくってくれ!!」



そんな彼らが意思を折らぬのは、希望がいまだ潰えていないからである。そしてその希望はまだ子供であるためである。



「妾らが怯えて子供の後ろに隠れてばかりではいられまい! 帝国軍全艦主砲一斉射撃!!」



安いプライドかもしれないが、本来世界の危機ならば率先して戦わねばならない自分たちの前で子供たちが戦っているということが、彼らの心を保たせた。


自分たちも負けていられない。


せめて前を行く彼らの道を少しでも広げようと、滅びを恐れ死に震えながらも彼らは戦った。


「くっ・・・しかしこのままでは・・・・」


アリアドネーの艦隊の指揮を取りながらも冷静にこの戦況を見極めてセラスは呟いた。

そう、敵がこちらの攻撃を無効化する力を持っている奴らには連合艦隊とはいえどうしようもない。


「クルト・・・大型種まで何万も居る・・・大型種まで造物主の掟を所持していたら・・・・」


「くっ・・・・分かっている・・・」


もはや敵の規模もレベルもオスティアに出現した傀儡たちを遥かに上回っている。

中には竜の姿をした大型の傀儡たちも多数存在する。

ただでさえ手こずる大型種に造物主の掟まで装備されていたら手も足も出ない。

希望は潰えていなくても、絶望的な色が埋め尽くされようとしている。

指揮官でもあるクルトの呟き一つで、その雰囲気は軍全体にまで伝わってしまう。

唇をかみ締め、拳を握り締め、クルトはこの状況を乗り越える打開策を必死に巡らせる。

だがその時、ブリッジに声が響いた。


「そ、総督!! こ、これは・・・・」


「どうした、何があった!?」


モニターの前に座るオペレーターが何かを察知して叫んだ。


「そ、それが・・・この反応・・・ど、弩級艦・・・それも・・・超弩級艦が単体で出現し、そのまま止まらず前進しました!! れ、連合軍内には無い艦の種類です!」


「な、・・・・なにぃ!? 登録に無い超弩級艦などあるはずないだろう! ちゃんと調べなさい!」


「は、はい! も、申し訳ありません!」


オペレーターのミスにクルトが激怒した。

こんな忙しいときに変なことを言うなという態度である。

しかし・・・


「な、なあ・・・・クルト・・・・」


「どうした、タカミチ」


「あ・・・・あれ・・・」


「・・・ん?」


タカミチはブリッジに映し出されるモニターを指差した。

するとそこには、一斉射撃の陣形を取っている連合艦隊から一つだけ飛び出して、超弩級艦が激しい爆音と滅茶苦茶な軌道を描きながら、この敵の大群の海を掻き分けて前進している光景だった。


「・・・・超弩級艦だね・・・・・」


「ああ・・・・・・・・・・・超弩級艦だ・・・・」


目が点になった。


『おう、こちらリカード! 陣形勝手に崩してどこの隊だあれは!?』


『こちらテオドラじゃ! 何を言うか! あれは首都の艦ではないのか!?』


『ああ~~? 全然違えぞ、何だよありゃあ!!』


『こちらセラス。・・・帝国でも首都でもないのならあれは?』


どうやらクルトたちだけでなく、連合軍全体もこの事態を認識したようだ。


「が、画面を最大限にアップしろ! 可能な限り我々もあの艦隊に続いて前へ進む! それと前方にいる艦に通信を試みろ!!」


「・・・・何か・・・ただ事ではなさそうだね・・・」


何かいや~な予感がタカミチの中に過ぎった。


自然と汗が頬を伝う。


そしてある事を思い出した。


それは先ほどクルトと一緒にネギたちに通信をとったときだ。


てっきりネギたちの側にいると思っていたはずの、あの男の姿が見当たらなかったことだ。


さらに、前方で戦うネギたちの飛行船に、あの男の姿は見えない。



「まさか・・・・・・・ね・・・・・」



そのまさかが起こり、この難局を一変させるのである。











「はあ・・・ん・・・あん・・・はうっ・・・ん、んん・・・センパイ~~」



「・・・・やるな・・・月詠・・・」



お互い交えた剣の数は最早数えていない。

しかしそれほどの剣閃を掻い潜り、両者未だに衣服を破くだけで、決定的な致命傷は愚か、未だに肌に傷一つつけていない。

月詠のあり方を決して認めないものの、その技量には脱帽せざるを得ない刹那。

対して最早体をクネらせて興奮を抑えられぬ月詠。

決着が中々見えてこない。

ネギたちから離れ、一人獅子奮迅して戦う刹那だが、中々仲間の下へは戻れなさそうだ。


「はあああああ! 神鳴流奥義・斬鉄閃!!」


「あっ、・・・あああーーーーん、神鳴流奥義・雷鳴剣!!」


「はあああああああああああ!!」


「セ、センパイ、そ、そこ、気持ち、いい、くあ、か、感じ過ぎっ、きひぃ!!」


「くっ・・・気持ちの悪い奴め・・・だが疲れるから決してツッコみはいれんぞ!!」


「あ、あん・・・ご、後生や・・・センパイ・・・あの・・・あのウチをズタズタにしたドリル男を忘れられるぐらい・・・もっと突いてくださいえええ!!」


「や~め~ろーーーーー!!」


今すぐにでも叩っ斬りたいのだが、超一流剣士を相手には刹那ですら難しい。

長引く勝負に終わりが中々見えないと思ったその時だった。


「むっ」


「なっ!?」


浮遊石を足場に斬り合う二人の真横に超弩級艦がゆっくりと接近していた。

背後にいる連合艦隊から単体で離れ、真っ直ぐ前方にいるネギたちを目指していた。


「なっ・・・これは・・・・・」


これはおかしいと月詠も刹那も感じた。


何故なら目の前にいる弩級艦は敵の能力に関係なく、放った魔大砲で次々と億鬼夜行を撃ち落しているのである。


だからこそありえない。


造物主の掟を所持している傀儡たちも含めてお構い無しに撃ち落すその弩級艦は紛れも無く異質だった。


そるとそんな呆ける二人に対して・・・・



「よう・・・・二人して・・・・こんなところで何をしているんだ?」



敵を撃ち落しながらゆっくりと通り過ぎる弩級艦の甲板には見たことも無い柄の悪そうな連中から、騎士の格好をした連中たちで溢れかえっていた。

そしてその弩級艦の舳先に立つ男。

腕を組み、見たことのあるロングコートをなびかせて、不敵な笑みを浮かべて刹那と月詠に顔を向けた。



「あ、あなたはッ!!」



「ア・・・ア・ン・タ・はッ!?」



先ほどまで凛々しく、そして雄雄しく戦っていた筈の刹那が、年相応の少女のように涙を浮かべながら喜びの表情を浮かべる。


その逆に月詠は先ほどまでの興奮も妖艶な振る舞いも全てを吹き飛び、憎悪を込めた瞳でその男を睨み付けた。


そう・・・戦いは・・・世界はここから変わる。










「ん~~~よっし、当たったァ!」



「すごいよ裕奈!」



少しでも援護できればと、こっそりネギと仮契約して手に入れた裕奈の拳銃の形をしたアーティファクト。

グレートパル様号の船内にて窓を開けて恐る恐る狙いを定めて放った一発が見事的に命中して敵を倒した。


「よっしゃ、この調子でどんどん撃っちゃうよん!!」


コツを掴んだのか、裕奈も窓を大きく開けて弾丸を撃ちまくり、見事に敵を片付けていく。

当初は素人でもあり、非戦闘員として船内に身を隠していた裕奈、まき絵、亜子、夏美、アキラ。

しかしあまりに居すぎる敵に、奮闘する仲間たちに居ても立ってもいられずに、彼女も微力ながら勇気を振り絞って引き金を引いた。

それが功をそうしたのか、自分たちもただの足手まといにはならないのではないかと少女たちの表情から不安が消えていく。


「すごいよ裕奈・・・本当に・・・」


「何言ってんのさ、和泉。こんなもん気合だっての!」


グッと親指を上げてハニカム裕奈。しかしそこに裕奈のセンスや強さを感じた。

聞けば裕奈の両親は、二人とも魔法使いだと最近判明した。言うなれば裕奈は魔法使いのサラブレッド。

亜子は少し複雑そうに裕奈を、そして自分と同じ境遇の仲間を見る。

まき絵は運動神経もよく、天真爛漫で可愛らしい少女。

アキラは水泳部のエースもあり、そしていつも冷静でしっかりとした物腰。

夏美には夏美の王子様とも言うべき小太郎が居る。

なら自分はと考えた。亜子には何があるのかと。

一応仮契約をしたものの、恋も何もかもが中途半端。マイナスのことばかり考えると、亜子は徐々に暗い表情になっていく。


「へへ・・・って・・・あっ、ネギ君だ!!」


「ほんとだ、おーーい、がんばれーー!!」


窓から外を見るとネギが大量の敵を引き付けて次々と打ち倒していく。

まき絵たちもその姿に興奮してエールを送る。


「えっ、・・・ネギ君? ど、どこ?」


「ほら、あそこって・・・・和泉、そんなに乗り出したら危ないよ!」


ハッとなった亜子がネギの名前を聞いて、顔を暗くしたまま窓から身を乗り出してその姿を探す。

幻想とはいえ好きになった少年を亜子は探す。

だがその時・・・


「えっ・・・・」


「ちょっ・・・・・・・」


その時、飛行船の真下からの爆風に煽られ、機体が大きく揺れた。

そして・・・


「あっ・・・・」


「・・・えっ・・・・」


「あ・・・・・亜子・・・・・」


身を乗り出していた亜子が、運悪く機体の外へと放り出されてしまったのだった。



「あっ・・・あっ・・・・亜子―――ッ!?」



投げ出された亜子の体はゆっくりと、地上へ落下していく。


まるでスローモーションだ。


届きもしない手を必死に伸ばす裕奈。


動転していて反応が遅れたが、懸命にアーティファクトのリボンを伸ばす、まき絵。


涙をうかべて必死に叫ぶアキラ。


ネギに知らせようとネギの名を呼ぶ夏美。しかし悲しいことにその声は大乱戦の中では聞こえない。


友の動作や表情が、この時の亜子には全てスローモーションに見えた。


そして思考も冷静だ。



(あっ・・・・・ウチ・・・・・落ちてる・・・)



上下左右全ての方角に見える化物の群れ。


遠ざかる友。



(ダメや・・・ネギ君も気づいてへん・・・・ウチ・・・・このまま・・・・)



なぜ、冷静で居られたのか?



(このまま・・・・ウチは・・・・死ぬ・・・そっか・・・ウチは・・・死ぬんや)



死への恐怖は、人を震え上がらせる。


だが、あまりにも確実すぎる死を前に、亜子の恐れようとする心すら完全に折れ、死ぬことを許容してしまったのだ。


だから、恐怖が無かった。



(なんもかんも中途半端で・・・・ネギ君に迷惑かけるだけやなく・・・・トサカさんも助けられないなんて・・・・ウチ・・・ほんまどうしようもない)



そして自分自身の不甲斐なさ、無様さが、頭を駆け巡った。



(ウチは脇役どころか・・・・そんな役すらなんもないんや・・・・・居ても居なくてもかわらん・・・そんな存在・・・・)



恐怖ではない、悔しさでもない、ただあまりにも無様な自分に涙が溢れた。


だが、流れる涙は下に落ちず、落下の勢いで全て上空にかき消されてしまう。



爆音が下からも聞こえてくる。



このままでは地上に落ちる前に敵や爆発に巻き込まれて、地上に落下して死ぬことが出来るかどうかも怪しくなってきた。



もう何も出来ない絶対的な死を前に、亜子は目を閉じて、全てをあきらめてしまった。



「ごめんなネギ君・・・・ごめんなさい、トサカさん。・・・・ウチ・・・主役どころか脇役すらなれんかった・・・・・・」



ただ、消えていくだけの存在だと、自分に絶望した。



「ああ・・・・・こんなとき・・・・ウチがヒロインやったら・・・・・・白馬に乗った王子様が助けに来てくれるんやけど・・・・・」



主役でもヒロインでもない自分には・・・・・・・・・




王子様は助けに来ない・・・・・・・・・




はず・・・・・・・・・・・




なのだが・・・・・・・・・・・






その時、亜子の体は、逞しい両腕に抱きとめられた!



「えっ?」



地面に落ちた衝撃ではない!



受け止められた衝撃だ!



目を瞑っていても、それぐらい分かる。



(えっ? どういうこと?)
最終更新:2011年05月13日 21:17
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