第百十八話 今日は合体乱舞だ! 投稿者:兄貴 投稿日:10/08/18-10:42 No.4397
もしこの戦場を敵と味方だけに区別したとしても、この瞬間思ったことは誰もが同じだった。
「「「「「「「「「「何なんだこいつらはッ!?」」」」」」」」」」
その答えは、大グレン団の穴掘りシモン。そしてシモンが引き連れて来た荒くれる戦士たちに、この世界でも希少な超弩級艦。
いや、見ればそれぐらいは分かる。
しかし分かったところでこの状況を理解できるものなど居るはずもなかった。
「な、超弩級要塞型戦艦・ケルベロス!?」
「そ、それに・・・・お、おい・・・見ろあの怪物! あれ、チコ☆タンじゃないか!?」
「そ、それだけじゃねえぞ! 何なんだよあの面子は!? 穴掘りシモンを筆頭にとんでもない奴らばかりだぞ!?」
正に総力戦と呼ぶに相応しき規模で集った各国の戦士たち。
しかし彼らは突如現われた新たな勢力の存在に目を奪われ、誰もがモニターに釘付けになりながら度肝を抜かれていた。
ケルベロス・・・即ち魔道大グレンの舳先に立つシモンを筆頭に、甲板に次々と現われる瞳をギラつかせている戦士たち。
現われた戦士たちの総数は、恐らく数百人というところだろう。
立ちふさがる何十万の敵の前には居ても居なくても変わらぬ人数かもしれない。
しかしこの戦場においてその存在感は、万の敵をも遥かに凌駕しているとも言えた。
その姿に驚いたのは、かつて紅き翼という規格外の英雄たちと共に戦ってきた者達ですら同じだった。
『ミ、・・・ミルフ!? それにドウカツまで!? おいおいしかもミルフ隊とドウカツ隊の奴らも・・・・何でシモンの野郎と一緒に居るんだ!?』
メガロメセンブリア元老院議員のリカードも・・・
『マ、マンドラじゃ!? しかも妾ら帝国軍の神速部隊まで!?』
ヘラス帝国皇女のテオドラも・・・
『ディ・・・・・ディーネ・・・・・・何故ここに・・・』
アリアドネーのセラスも・・・
「どういうことだ!? シモン君やミルフ隊長たちだけでなく・・・幽閉されていたはずの冒険王一家まで!? おまけにチコ☆タンだとッ!?」
「ネギ君たちも驚いている様だ。ということはシモン君の独断? いや、しかしいくらシモン君でもこの面子を連れてくるのは不可能だ!」
かつて紅き翼のメンバーだったクルトとタカミチですら同じ反応をせざるを得なかった。
どういうことだ? という言葉が何度も頭の中で行き交うが、その答えは誰にも分からない。
攻撃する手すら止まってしまうほど、誰もが動揺していた頃、集った各国の戦艦に魔道大グレンからの通信が入った。
有無を言わさず全戦艦のモニターに、魔道大グレンからの通信者の映像が映し出される。
『ぐわははははははは、久しぶりじゃのう。若造共?』
皆が首を上げて目を見開くと、そこには煙管を拭かせた一匹のアルマジロがニヤニヤと品のない笑みを浮かべていた。
『『『『『不動のアムグ!?』』』』』
『でかくなった・・・とう言うよりどいつもこいつも老けたのう。ぐわははははは』
各国の首脳たちの反応に満足がいったのか、盛大に笑うアムグの声が全戦艦に響き渡る。
『アムグさん・・・お、お久しぶりです。タカミチです。しかし・・・これは・・・・』
『バカな・・・貴方が何故・・・』
『久しぶりだと言いてえが・・・テメエ左遷されたんじゃ・・・・』
『ええ・・・たしか・・・・首都大監獄の署長になったはずよね?』
『・・・む? 大監獄の署長じゃと? ・・・・・・・・あっ・・・』
そしてこの瞬間、クルトたちは全てを理解した。
『『『『お前の仕業かジジイーーーーッ!!!!』』』』
どういう経緯があったかは知らないが、各国の主力とも言える部隊のみではなく、幽閉されていたはずの荒くれ者たちを引きずり出したのはこの男に違いない。
一体どういうつもりなのかと身を乗り出してクルトたちが問いただそうとするが、他の兵士たちにとっては違う。
むしろこの戦況にアムグまでもが登場したことの驚きのほうが高い。
「何で不動のアムグまで居るんだよ!?」
「ま、待てよ・・・不動のアムグに怒涛のミルフ、神速のマンドラに流麗のディーネ・・・・嘘だろ!? あの伝説の獣人四天王が全員揃ってんじゃねえか!?」
その事実を知ったどよめきが、各国共通で全艦隊に響き渡っていた。
「シモン、チコ☆タン、冒険王一家に獣人四天王!?」
「ちょっ、ちょっと待て、他にもドウカツ隊にミルフ隊、神速部隊に加えて、拳闘大会で名の知れた拳闘家や政府機関に出入りしている賞金稼ぎやら、どいつもこいつも見たことある奴らばかりだぞ」
「なんなんだよあの面子は!?」
先頭を走る白き翼たちの隣に出現したその異常な大勢力に、本来なら声も届かぬほど離れているというのに、驚愕の声が聞こえてきた気がした。
色々あったが、ここまで驚いてくれているのなら悪い気分ではない。
シモンも魔道大グレンから見下ろして、顔を引きつらせたネギたちや美空たちを見て満足そうに笑った。
「ネギ! みんな! ボケッとするな! ボケッとしていると先に俺が行っちまうぞ!!」
「ッ、シモンさん」
まるでネギを鼓舞するように叫ぶシモン。
そう。そうなのだ。
どうして? 何故? こんな状況になっている経緯や理由を求めても今問いただすことは出来ない。
何より単純に、「シモンだから」そういう答えでも、もはやこの男なら納得できる。
ネギは、そして共に戦う白き翼の面々や新生大グレン団の仲間たちも拳を握り締めて笑みを零した。
これだ。これこそがシモンだと、皆が改めて思った。
「けけけけけ、リーダーさんよ、そろそろやらせてもらうぜ?」
「ではリーダー、号令を!」
そしてシモンは腕を上げ、天に広がる無量大数の敵めがけて一気に振り下ろす。
「さあ、みんな! 女子供に後れを取るな!」
「「「「「「「「「「オオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!!!!」」」」」」」」」」
シモンの叫びと共に、巨大な緑色の光が魔道大グレンに広がり始めた。
確率変動場だ。
これにより、いかに敵が魔法世界人の攻撃を無効化しようと、その能力をも無効化して攻撃を可能にする。
攻撃が届けばこちらのものだ。
『ぐわはははは、確率変動場展開確認!! さあ、大馬鹿者共、好きにせい!!』
アムグの声がスピーカーから響き、準備完了だ。
「ミルフ隊、準備は良いな!!」
「神速部隊!!」
「ハナタレ共!!」
「ドウカツ隊!!」
荒ぶる戦士たちは水を得た魚の如く、魂を胸に、武器を手に、雄叫びを上げて傀儡たちへと攻撃を始めた。
「「「「「「「「「「さあ、俺たちの力を見せてやれええーーーーッ!!!!」」」」」」」」」」
世界の果てに轟く豪傑たちの咆哮。
「かかかか、とにかく手当たり次第にぶちのめしてやらァ!!」
「力も武器も思う存分使っていいなんて最高じゃねえの!!」
「さあ、今こそ我ら騎士団の力を示すときだァ!」
「監獄の中で体が鈍ってウズウズしていたところだ!」
呪文、武器、格闘、各々戦闘のスタイルはバラバラだが、その動きに乱れは無い。
「パイオツゥ、援護射撃だ」
「リーダーの置き土産の確率変動弾、準備完了!」
「ウム、では一斉砲撃ネ! くらえくらえくらえヨ!」
全員共通の敵に向かって嬉々としながら立ち向かっていく。
「おらァ! どけどけどけーッ!」
「道を空けやがれーーッ!」
そのために、彼らはネギたちの存在に構うことなく、あれだけ大量に居て手を焼いていた傀儡たちを次々と破壊していく。
「すごい・・・まるで気合だけで倒しているみたいだ」
呆れたように笑うネギ。
そのネギの気持ちは、この場に居る彼女たちもよく理解できた。
同時に胸の奥底から湧き上がるものがあった。
「かかかかか、兄ちゃんたち・・・燃えるやないかい。とんでもない助っ人や! こらァ、ボヤボヤしてるとマジで置いてかれるで!!」
小太郎の唇の端に笑みが零れた。
それに頷くように楓や古、龍宮ですら戦場に居ながら心が弾んだ。
「ふふふ・・・まったくでござる」
「負けないアルよ」
「おもしろい! 張り合わせてもらおうか!!」
自分たちもこのまま黙って置いていかれるものかと、武器を掲げて再び彼女たちも飛び出した。
小太郎や楓たちが再び戦いだして、いつまでもボケッとしているわけにはいかない。
「だ~~~っ、くっそ~、私たちの知らないところでとんでもないことしてんじゃん、兄貴!」
「兄貴はヤッパリ兄貴!」
「私たち家族の知らないところで、あの人はまたとんでもないのを引き連れて・・・・」
「だははははは、リーダーが新入りを大量に連れてきたことだし、俺たちも後輩に負けてられねえぞ!!」
「「「「「「おうッ!!」」」」」
美空たち新生大グレン団も、さきほどまでの僅かな弱音は、もうとっくに忘れたと言わんばかりの闘志を前面に出し、襲い掛かる敵を次々と蹴散らし始めた。
「ア゛ア゛・・・どいつもこいつもはしゃぎやがって・・・・俺様をそっちのけでいい度胸じゃねえか」
軽く舌打ちしながら、戦いを開始させた連中を見上げるチコ☆タン。
そして彼は未だ動かぬネギに尋ねる。
「どうした、テメエは動かねえのか?」
「・・・動かない?」
「アン?」
するとネギはフルフルと震えながら、興奮を抑えきれぬ笑みをチコ☆タンに向けた。
「そんなはず・・・・あるわけないじゃないですか!!」
気づけばネギの身に纏う雷天の勢いが増していくように見える。まるでネギの今の気持ちに呼応しているかのようだ。
その姿を見てチコ☆タンも笑みを返した。
「上等だ~このクソガキがァ!! だが、せいぜいこの俺様の爆炎に飲み込まれないようにするんだなァ!!」
「負けずに、むしろ僕が飲み込むぐらいの気合を出します!!」
その瞬間、グレートパル様号から二つの光が飛び出した。
「「いくぞ(ます)ッ!!」」
天に向かって駆け上るのは英雄の息子とその英雄がかつて倒した魔人。
奇妙な時代の縁により、その二人が共通の壁をぶっとばすために肩を並べて飛び出した。
「雷天突破ァ!!」
「超魔爆炎覇ァ!!」
天が弾けて、まばゆい光が戦場を包み込む。
二人が繰り出した技の余波だけでも、飛行船に乗って戦うものたちの足場を揺らすほどの衝撃だった。
二人の気合の篭った必殺技は、心を持たぬ傀儡の群れなど次々と爆発に飲み込み、破壊していった。
「うわーーーもーー、とにかくスゲー以外の言葉が思いつかねええええ!?」
「でも、もうこれ私たちが少しでも手伝うとかのレベルじゃないよ~」
裕奈やまき絵にとっては、もはやこれは現実ではなく、超スリリングなSF映画だと思えるような光景だった。
言葉が思いつかずに「スゲー」としか思うことができず、しかしそれでも何度も同じ言葉を自然と呟いていた。
「アレが・・・シモンさんなんやね・・・・」
「やっぱりシモンさんのあの映画・・・・本当だったんだ」
亜子やアキラたちもだ。手を出せないまでも、目の前に起こっている出来事が尋常でないことぐらいは理解できた。
拳闘大会で見たシモンの映画であったことと同じような展開。「大グレン団の気合は伝染する」それをこれ以上ないほど理解することが出来た。
「うっひょ~~、ネギ君だけじゃなく、小太郎君や、あの龍宮さんまでうれしそうに戦ってるよ~。く~~、私も燃えてきた~!」
「いや~、瀬田さんたちも居るようですし、正に超総力戦ですね~」
「ちっ・・・あのドリル野郎・・・、言葉がねえよ・・・・・って、おいロボ娘?」
操縦席でこの光景にニヤニヤするハルナやハカセたち。
すると、同じように操縦席に居た茶々丸が急に立ち上がり、外に出ようとしているのを千雨が気づいた。
何事かとハルナたちが振り返ると、そこにはウズウズとしている茶々丸が居た。
「茶々丸?」
「・・・ハカセ・・・ハルナさん、操縦はお二人にお任せします。千雨さんは二人のサポートを」
「お、おい・・・ロボ娘、お前は!?」
こんな時にどこに行くのかというような口調で千雨が言うと、ロボットである茶々丸が小さく笑みを浮かべて振り返った。
ネギに見せるような、恋する乙女の笑顔ではない。
まるで負けられない相手の登場に興奮したかのような、自然に零れた笑み。
「私が行くのは・・・私の気合と魂を示せる場所です」
本来命令に従う機械が、命令でもなく、さらには自身を抑えることも出来ずに勝手に飛び出した。
そう、もはやこの場で誰もが自分を抑えることが出来ない。
自分も自分もと、誰もが前へ前へと、誰もが高く高くへと飛び出したのだった。
「まったく、これこそ俺らしいな」
世界の命運をかけた戦いが、今目の前に繰り広げられているというのに、シモンはワクワクしている気持ちを抑え切れなかった。
やはり小難しい理論や理屈や倫理をいくら並べたって分かりはしない。
とにかく壁があるなら一度ぶつかってみる。こういう荒っぽいのが自分らしい。
だからこそ、そんな自分に同調した連中がここまで大暴れしているのを見ていて、不謹慎だが気分が良かった。
だが、シモンとて戦場に居るのだ。
ましてや確率変動場という戦況を大きく左右させる能力を発動しているシモンを、敵だっていつまでも放っておくわけではない。
「とんでもないものを引き出してきたではないか、穴掘り師よ!」
「!?」
その男は、この飛び交う大乱戦に関係なく、魔道大グレンの影の中から姿を見せ、舳先に立つシモンを背後から襲いかかった。
「あれは大監獄に現われた魔術師!?」
「シモンの野郎を狙ったぞ!!」
登場し、即座に背後からシモンを狙いに現われたのはデュナミスだ。
何と月詠に続いてデュナミスまでネギやシモンたちが墓守人の宮殿に侵入するまで待たずに、奇襲を掛けてきた。
だが、シモンは動じない。むしろかすかに笑みを浮かべていた。
何故なら、宙に浮かんでいる大量の傀儡たちの頭を踏みつけ、それを足場に猛烈な速度で自分の下へ走る少女の存在が目に入ったからだ。
「うりゃあああ、私を誰だと思ってやがるんだキーーック!!」
「ぬっ!?」
背後からシモンを襲おうとしたデュナミス目掛けて猛烈な加速をつけた美空の飛び蹴りが、シモンの真横を通り過ぎながら炸裂した。
「うらあああ、グレン団はここにもいるんすからね!!」
「美空!」
「しししししし、兄貴や新入りに負けてらんないってね♪」
飛び蹴りを食らって、シモンから距離をとらされたデュミナスは、美空の言葉に舌打ちをした。
「ふん・・・・小娘めが・・・調子に乗るな」
「ん?」
「百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンブラエ)!!」
デュナミスが足元から美空目掛けて、槍のように突き出した影を無数に繰り出し、美空を襲う。
高速に迫る無数の槍。だが、美空は逃げない。
むしろこれまでみっともないところばかりを見せてしまっていた兄に対して、ようやく学園祭で別れて以来の自分の成長した姿を見せられるとウズウズしていた。
「デイライト!!」
「なにッ!?」
「美空ッ!」
美空をこの攻撃で仕留められると思っていたデュナミスは動揺した。
束になって繰り出された攻撃に対して、美空はソコしかないと言えるほど完璧なルートを通り、攻撃を避けながら逃げずに前へと走り出し、デュナミスに接近しているのだ。
「残念! 私には見えてるんすよ! 走る通路が光り輝いて!」
今の美空には迫りくる障害物を避けながら、デュナミスというゴールへの最短の道程が光の道となって見えていた。
当たらぬ力に震えることなど無い。
美空は攻撃をかいくぐり、見事にデュナミスの懐へと潜り込んだ。
そしてそのまま加速した勢いをプラスして、その場で竜巻のように一回転して威力を込めた美空の回し蹴りが繰り出される。
「グレンライトハリケーン・キック!!」
手ごたえあり。
速度と勢いと気合を込めた美空の回し蹴りをデュナミスの腹部に叩き込んだ。
ローブ越しだが、確実に当てたと美空も確信した。
さらに・・・
「家族連携、後は頼んだーーッ!!」
デュナミスを蹴り飛ばし、美空はその場でガッツポーズをしながら叫んだ。
すると蹴り飛ばされたデュナミスの上空には、美空と同じ礼服を身に纏ったシスターが祈りを捧げていた。
シャークティとココネだ。
「いきますよ、ココネ!」
「兄貴をイジメルのダメ!」
数百と連なる大量のロザリオを二人は魔力で宙に浮かべ、ココネは横一列に。そしてシャークティはそれを交差させるように縦一列に大量のロザリオを綺麗に並べ、天空に巨大な十字架が完成した。
魔力を帯びて神々しく光る巨大なロザリオを、二人は同時にデュナミス目掛けて振り下ろした。
「「南十字星(サザンクロス)!!」」
「よっしゃァ、シスターシャクティとココネの合体呪文! これは決まったァ!」
十字星と呼ばれた巨大な十字架がデュナミスに襲い掛かる。
しかし相手もまた歴戦の猛者。
「驕るな」
「「!?」」
「影布七重対物障壁(ウンブラエ・セプテンクレクス・バリエース・アンティコルポラーリス)」
デュナミスが手を翳し、巨大な十字架を防ぐために無数の影を重ねた盾を作り出し、シャークティとココネの呪文は四散した。
「か~っ、おっし~い!」
「やはり強敵ですね」
「でもココネ怖クナイ」
しかし攻撃が通じずとも三人の手ごたえはバッチリだった。
何よりも、こうしてまた戦場で全員揃ったのだ。
三人はうれしそうに後ろを振り返りシモンに頷いた。
「まったく・・・俺の仲間も友達も家族も・・・そして敵も・・・みんなすごい奴らばかりだな!」
頼もしい家族の存在にシモンも笑顔で頷き返した。
だが、脅威はまだ去っていない。
「な~に、どや顔してはるんですかえ~!」
「お前は!?」
「さっきは驚いて置いてきぼりされましたが、ようやく追いつきましたえ!」
今度は舳先に立つシモンの真下から月詠が刃を光らせて現われた。
「あ、兄貴ーーーーーッ!?」
「遅いですえ! その首・・・・もらっ―――」
シモンの首を両断しようと、月詠が何の躊躇いもなく刀を振るが、その刃はまた新たに出現した者によって弾かれた。
金属音を響かせて、シモンを守ったのは・・・・
「貴様の相手は私だと言ったはずだ、月詠!」
刹那だ。
「うおお~~、刹那さんナイス登場!」
「刹那!」
「ぬぬぬぬぬ、センパイ~・・・あくまでその男を庇うんですかえ?」
「ああ・・・貴様が切り捨ててもいいものなど、この世界に何もない! ましてや、この方を切ろうというのなら尚更だ!」
憎むべき相手を庇う想い人を前に、月詠は不快感を露にした表情で唇をかみ締める。
だが、そんな月詠の歪んだ想いを軽く跳ねのけられるほど、今の刹那もこの戦場に感化されて気合が入っていた。
シモンはまだ一歩も動いていないというのに、これだけの戦いを繰り広げるのだ。その頼もしさは、まるでかつての仲間たちを彷彿させた。
「ワシらも・・・負けてはおれんわい!」
「ぐわはははははは、神速部隊よ、敵を殲滅するぞ!」
「こんな気迫もないゴーレムどもに命を差し出すんじゃないよ!」
「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」」」」」」」
獣人四天王も・・・
「僕たちも墓守人の宮殿を目指すんだ!」
「ネギたちも援護しつつ、何とか行かないとね!」
「へっ、上等だっての!」
冒険王一家も・・・・
「俺らは前へ進みながら、この飛行船を死守や! こんだけの援護射撃をもらって行けませんでしたなんてことになったら、俺ら白き翼は世界中の笑いものやで!!」
「うむ、だが熱くなりすぎて冷静さを欠いてはならぬぞ!」
「楓、無理アルよ! これで燃えねば戦士として失格アル!!」
「ふっ、反対したいところだが、今回ばかりは私もそれに乗らせてもらおう」
「龍宮さんがとても楽しそうに・・・初めて見ました・・・では、私も! ガトリング一斉射撃!」
「怪我してもウチが治したるえ~!!」
先頭を走る白き翼たちも・・・
そして・・・
「とんでもない事になったね、クルト」
後方でこの光景見ながらタカミチは苦笑した。
当初は敵の数と、造物主の掟の力の存在に尻込みしていた自分たちだが、自分たちの前では敵の能力や強さや数が何だろうと知ったこっちゃねえという感じで暴れまわっている者達が居る。
政府側が用意していた当初の作戦や想定など、最早どこにも無かった。
だが、想いがどんどん伝わってくる。
「クルト、僕たちも」
「ああ。全艦隊に告ぐ!! 各国の艦長を中心に陣形の再編成! 白き翼たちの直接援護に当たる! 我らも世界を守る者たちというプライドを持って戦うのです!」
クルトの言葉には、ネギたちに対しての姦計や事態に右往左往していた切迫感とは違う、戦う意思が込められていた。
その言葉を聞いて各国の戦士たちも思う。
『そうだ・・・俺たちが逃げてばっかじゃいられねえ』
悔しくないのか?
『うむ・・・妾らが・・・戦う意志を失ってはならん』
情けなくないのか?
『そうね・・・そうでなければ20年前の大戦期から今日に至るまで戦い、犠牲となった戦士たちは無駄死によ』
女子供や見ず知らずの連中、世界の問題児たちですら戦っているのに、後方の安全圏にて援護しているだけの自分たちは何なのだと。
クルトの言葉を聞いた瞬間、階級や役職をも忘れ、己の心の奥底に湧き上がる感情のままに、各国の戦士たちは叫んだ。
「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」」」」」
今正に、世界滅亡への人類の大反逆が始まった。
「すごい・・・すごい! 父さんたちの戦いとは少し違うかもしれないけど・・・分かる! 今、世界の人たちの気持ちが一つになっている!!」
ラカンが言っていた。
20年前の世界の危機を救ったのは、自分たちの力だけではない。正にみんなの力で救ったのだと彼は言った。
「フェイト・・・君は見ているはずだ、この光景を! この人たちを! 一人一々の想いの熱さを!! これがこの世界の答えだ!!」
ネギは眼前に迫る墓守人の宮殿にて待ち構えているであろうフェイトに向かって叫ぶ。
本物であれ、造りものであれ、今あるこの光景こそが現実だ。
この世界は真実なのだと、うれしそうに叫んだのだった。
「偽りの天を・・・本物に変えるか・・・・彼らの意思はもはや天よりも高い・・・ということか」
彼は今、どんな気持ちでこの光景を眺めているのかは分からない。
フェイトは相変わらず感情の読み取れぬ表情でこの一部始終を墓守人の宮殿にて眺めていた。
「フェイト様、どうするんです!? グレンラガンは無いみたいですけど、ネギ・スプリングフィールドだけでなく穴掘りシモンは非情に厄介です! デュナミス様まで動いていますが、それでも奴らは倒せていません」
フェイトとは対照的に、暦はこの事態に頭を抱えてどうするべきなのかと唸っていた。
それは暦だけではない。
「くっ、ガンメンが居ないのはありがたいが・・・・本当に居ないのか? どこかにキングキタンなどが隠れて待機しているのではないのか?」
「本当に居ないですか? ダヤッカイザーとかツインボークンも?」
「分かりません。ですが例えグレンラガンのギガドリルブレイクが炸裂しても、この宮殿を覆う魔力障壁は突き破れません。ですので、彼らがここまでたどり着くことはありえません。しかしテッペリン攻略時の彼を考えると・・・・」
外の光景や、モニターに映し出されている映像と睨めっこしながら、フェイトの従者である焔、環、調は落ち着かない様子だった。
(・・・・やけにシモンに詳しくなってるな・・・)
シモンの映画にのめり込んでいただけに、それなりにシモンの事が詳しく、本当はグレンラガンなどを生で見たいのではないかとフェイトは少女たちに感じたが、そのことに対しては深くツッコミは入れなかった。
むしろツッコミを入れたのは・・・
「調・・・一つ言っておく」
「フェ、フェイト様!?」
「・・・彼らは来る。ありえないことなんて・・・・ありえないのだからね」
少女たちはポカンとしてしまった。
言い終わった後で、フェイトは軽く舌打ちをした。
(やれやれ・・・これではこの子達のことも言えないな。これでは僕の方が彼らに期待しているようじゃないか・・・)
いや、それは期待を上回る確信に近かった。
仮に何十万の傀儡や超強力な魔法障壁が阻もうと、ネギやシモンは必ず自分の喉元まで辿り着くとフェイトは確信していた。
それを悪くは無いと感じている自分も居たのだった。
するとその時・・・
「ひははははは、チコちゃん連れてきたときはどうなるかと思ったがな」
「「「「ッ!?」」」」
心の底から不愉快に感じる笑い声と、笑みを浮かべた男が、無断でこの空間に現われた。
「・・・また君か・・・・」
「フェ、フェイト様、下がってください!」
「あなた・・・どうやってここに!!」
現われた男はユウサ。
暦たちは完全なる敵意を込めた目でユウサを睨む。
「くくくく、睨むなよ猫ちゃん。どうやって? 簡単だ。俺が昔この遺跡で宝探しをしていたとき、いちいちオスティアから来るのが面倒だったんで、ゲートの札を貼っておいたのさ。空間の移動に対してはどうやらご大層なバリヤーも無力だったようだな」
「うっ・・・・」
「安心しな。テメエらともテメエらの王子様とも戦いに来たわけじゃねえ。あっ・・・一人ネギ君のところに紛れてた娘にチロッと手を出したが・・・まあ、死んでねえだろう」
「・・・まさか・・・栞!? 貴様、栞に何をした!?」
「だから睨むなっての、マジで今は戦いを仕掛けに来たわけじゃねえんだからよ。あんまりうるさいと解体して臓腑を喰うぞ?」
ケラケラと挑発するような口調でありながらも、どうやらユウサに悪意はあっても殺気が感じられない。
信用は出来ないが、本当に戦いに来たわけではないようである。
「じゃあ・・・何しに来たんだい? 悪いが君に構っているほど暇じゃない。ただの見物かい? 手を一切出さないというのなら、別に構わないが」
「ん? まあ最初はそのつもりだったんだが・・・・予定がちょっと変わってな」
「なんのことだ?」
「ひはははは、落ち着けっての。俺はただお願いをしに来ただけだ」
フェイトも敵意を持ってユウサを睨む。
だがユウサは笑いながら、どうどうと、フェイトたちを宥めるように振舞った。
「・・・お願い・・・君が?」
「ああ」
そしてその直後、思いもよらぬ言葉を口に出した。
「ひはははは・・・・ちょいとここで匿って欲しい」
「「「「!?」」」」
「これだけの面子の中に居れば・・・まあ、そう簡単には襲われねえし、あの子の動きも把握できるからな」
「「「「はああああああーーーーー!?」」」」
ユウサが言った言葉を、フェイトも少女たちも聞き間違えかと疑った。
「か、匿う!? あなた何かを!?」
「ふざけるな、今すぐここから出て行け!!」
少女たちは完全拒否の態勢でユウサを拒絶する。
だが、拒絶する少女たちを手で制して、フェイトが前へ出た。
「どういうことだい? ・・・あの子・・・だと? 君が言う子とは、シモンやネギ君ではないね?」
ユウサの言葉が気になりだし、フェイトが興味を示すと、ユウサはいつものようにニタ~ッと笑った。
「ああ。ひははは、いや~、色々と俺がハシャいじまったせいで、この墓守人の宮殿にとんでもねえ奴が入り込んできた。まあ、別に戦っても良いんだが、いざ戦うとなると片手間に出来る相手じゃなくてね。今はネギ君たちの観戦に集中したくてな~」
ネギやシモンたちが目指す墓守人の宮殿。
(ひははは、そして・・・シモン君・・・あの子と会って・・・君はどうなるのかも興味があるな・・・ひははははは)
そこに待ち受けているのはフェイトたちだけではない。
ユウサの思わせぶりな言葉に宮殿内部も僅かに揺れ始めていたのだった。
だが、そのことをまだ知らず、ネギもシモンも、そして世界各国の戦士たちは、未だ空を舞台に大暴れしていた。
「いつまでも偽りを大事に抗うとは・・・・人は野蛮なものだ」
ため息をつきながら呟くデュナミス。
そんな態度に腹を立てた美空が身を乗り出した。
「ふざけんじゃねえっての!! 本屋から聞いて知ってんだからね。アンタがオスティアで皆を消したっていうのを!!」
「ふん・・・・所詮は人形だ・・・」
「こ、この!!」
最終更新:2011年05月13日 21:19