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118-3

チコ☆タンには「戦わせてやるから言うことを聞け」とシモンが言っているように聞こえた。

不満気に睨むチコ☆タン。

だが、シモンはフッと笑った。


「命令じゃない。提案だ。どうせやるなら一発ぶち込むだけじゃなく、でっかい風穴開けてやれば良いじゃないか」


不愉快極まりなかった。

だが、それ以上にシモンの言葉に興味を持った。

確かに頭に来る話だが、今のチコ☆タンの力のみで八俣大竜を葬るのは難しいかもしれない。


「・・・・・・・・チッ・・・・・・・・・・・・聞かせてみろ」


シモンの言葉は下らぬ戯言ともいつもなら邪険にするのだが、何故か言葉に説得力を感じ、思わずチコ☆タンも興味を持ってしまった。

それゆえ・・・・


「なんじゃ・・・結局、シモンの奴はどうしたんじゃい?」


アムグが事態がどうなったのかと気になり出して、コクピットで呟く。

するとモニターを眺めていたパイオツウが驚きの声を上げた。


「な、なァ!?」


「どうしたのじゃ?」


「たたたた、隊長がリーダーを肩車してあの化物に向かっていくヨ!!」


その言葉を聞いて、アムグたち、そしてその光景を見ていた全戦士たちは呆気に取られた。





「「「「「「「「「「・・・・・・・・はっ?」」」」」」」」」」





あまりにもシュールな光景。

巨大なドリルを掲げた男を肩車して飛ぶ魔人。

何のギャグなのかと、全員が言葉を失った。


「ウルアアアアアアアアアアアア!! これで本当に大丈夫なんだろうなァ!?」


怒りを前面に出し、爆音響かせて飛び立つチコ☆タンはシモンに叫ぶ。


「当たり前だ。今日は合体乱舞だ! あんなデカブツなんか目じゃない!!」


「チ~~、何で俺がこんな見っともねえことを・・・・・・」


「ガタガタ言わずに、さっさとぶちのめしてやろうぜ!!」


「命令すんじゃねえええ!! だが、もうヤケクソァァァァァァ!!」


チコ☆タンと共に飛び立つシモン。


「シモンさん・・・」


「ちょっ・・・あの人・・・・」


「・・・・何をする気だ!?」


ネギも、白き翼も、新生大グレン団も、クルトやタカミチを始めとする各国の戦士たち、そしてフェイトたちも注目している。

シモンとチコ☆タンは勢いよく回転し、化物も世界も運命をも風穴を開けんと唸り始めた。

巨大なドリル音を響かせて、シモンは叫んだ。



「馬鹿はやめろと止められようと、意地で貫き通すが男意気!!」



チコ☆タンもやけくそ気味に叫んだ。



「借りは常に万倍返しで、殺して、甚振り、ねじ伏せる!!」



茶々丸に続いて、シモンの合体技が再び世界が注目する中で開放された。




「「憤怒のうねりで爆発起こす!! 爆熱合体!! 超魔ギガドリル爆炎覇ァァ!!!!!」」




熱気が爆発したギガドリルが爆炎を包み込んで八俣大竜に突っ込む。

火だるまのドリルは、まるで自らの意志があるかのように、その業火の熱は止まることなく上昇していく。

熱を帯びたドリルが爆発的な速度と威力を兼ね備え、八俣大竜の胴体に改心の一撃とも言える巨大な風穴を開けた。


「なっ、ウチの大竜ちゃんが!?」


「ふっ・・・・面白い・・・・血の滾りが止まらぬ。精気滾る者たちだ!」


月詠とデュナミスにとっては、ある意味切り札とも言うべきデカブツをこうも簡単に倒されては、驚きよりもむしろ戦いに生きるものとしての興奮が上回った。

その眼光でシモンを、そしてネギたちを睨みつけ、湧き上がる想いを抑えることなく、再び自ら戦場へと飛び出していく。

だが、この瞬間、勝利へ向けての連合軍の一斉作戦が開始された。



「さすがです! さあ、今です、クルトさん!」



ネギが叫ぶ。

戦士たちが雄叫びを上げる。



『了解! 全艦主砲一斉射出!!』



「「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」」」」」」



するとそれに応えるように後方の連合艦隊の砲台が一気に光だし、各艦隊の主砲が一斉に発射され、無数の傀儡たちを消し去り、バリヤーの隙間までの綺麗な通り道が出来た。

この時を待っていた。


「おおお、道が開けた! 入り口まで一直線じゃん!!」


「よ~っし、行きましょーーーーーーーーう!!」


綺麗に空いた道を見て、ハルナとハカセは飛行船の出力を全開にして、最大最高速度で一気に入り口まで飛んだ。

世界が作った道を前へ前へと進む白き翼と新生大グレン団の姿に、世界の戦士たちはガッツポーズをする。


「なななな、ネギ君たちも行ってまいましたえ!?」


「まさか・・・隙間から入れるのを奴らは知っているのか? ・・・・まずい!」


慌ててデュナミスと月詠も後を追うべく駆け出した。だが、最高速度で飛ぶ飛行船に追いつける道理は無い。

それでも浮遊石を足場に追いかける。

だが・・・


「断罪の焔(コンデム・ブレイズ)!!」


「マジェスティック・ビッグ・チョッパー!!」


「ぬっ!?」


「あら」


二人の前に、炎と巨大なノコギリが立ちはだかった。

ミルフとマンドラだ。


「貴様ら・・・・」


「ここは通さぬぞ!」


巨大な浮遊石の上で、月詠とデュナミスの行く手を遮った。


「おのれ・・・木偶風情が・・・そうまでして消えたいか? 抗わねば、何も知らぬまま理想郷へと行けたものを」


声を荒げるデュナミス。だが、ミルフたちも一歩も引かない。


「お断りじゃわい! その理想のためにワシらは抗うのじゃ!! 元より世界のためなら命などくれてやるハラじゃい!」


「そのために散るのならば、それはまた本望!」


その瞬間、デュナミスと月詠は造物主の掟の鍵を二人に向ける。


「ならば、消えろ! リライト!」


「ほな、さよなら」


輝く鍵が二人を包み、二人を消滅させようとした正にその寸前・・・・


「させるかっての!」


「ぬっ!?」


「あらら」


「ディーネ!」


ディーネの鞭がデュナミスと月詠の鍵に絡みつき、何と奪い取ったのだ。


「考え無しにもほどがあんだよアホ共! だが、これで攻撃が通じるね!」


「でかしたぞい、ディーネ!」


「ならば、・・・・・デモリッション・ブルー!!」


鍵さえ奪えば怖くなど無い。

前へと進むネギたちの邪魔をさせないと、デュナミスと月詠の前に立ちはだかる。


「ぬう、愚かな・・・・あんな小僧や考え無しの男に未来を託すか? 偽りとはいえかつては豪傑を名乗った者達が、何という無様」


鍵を奪われ、怒りとイラつきが増すデュナミス。


「我らはあの者たちに明日を見た!」


「ぬっ・・・」


「あら~、また邪魔な木偶が増えましたえ・・・・・」


「ドウカツ!?」


その場にドウカツ、そしてドウカツ隊やミルフ隊、神速部隊までもが巨大な浮遊石の上に現われた。


「時代の先を行く者たちの・・・・」


「道を作ってやるのが我らの使命!」


「妨げさせんぞ、完全なる世界(コズモエンテレケイア)!!」


ネギたちの道を守るために、体を張って立ちはだかる戦士たち。


「よかろう、貴様らごとき素の力で十分だ」


「正々堂々、皆殺しにさせてもらいますえ♪」


デュナミス、そして月詠はその壁を排除せんと、容赦なく彼らに凶刃を振るった。


誰もが戦っているのだ。


誰もが抗っているのだ。


「よっし、チコ☆タン! ついでだ。このままあの分厚い壁も突き破ってやろうぜ!! 俺たちに賭けた奴らの想いに応えるために!!」


「ァ・・・ア゛ア゛ア゛!?」


想いを無駄にしないためにも、デカブツを貫いたシモンはチコ☆タンと共にそのまま真っ直ぐ突き進み、巨大なバリヤー目掛けて特攻していく。


「おおおい、クソ人間! あのバリヤーは流石にぶっ壊せねえぞ!」


「そんなもん知ったことかァ!! このドリルに貫けねえもんはねえ! チコ☆タン、特等席でそれを証明してやるよ!!」


バリヤーの隙間目掛けて一気に駆けるネギたちとは少し違い、シモンはチコ☆タンとの合体技で八俣大竜を貫いたと思ったら、そのまま敵の本拠地に向けて、バリヤーに構わず突っ込む気である。


「ア゛ア゛? バカかテメエは! つうか、特等席ってなんのだよ!? バカの結末を見届けるためのか!?」


「いや、運命を切り開くための、だ!」


シモンは止まらない。

チコ☆タンも止まれない。

誰の目から見ても常識を遥かに上回る魔法障壁を前に、構わず特攻していく。

これまでの戦いを見る限り、恐らくこのバリヤーは連合艦隊の主砲や茶々丸のアーティファクトでも破壊できないのだろう。

だが、元々計算どおりに動かぬシモンに、計算をしないチコ☆タン。


「ウガアアア、もう勝手にしやがれええええ!!」


前へと進むネギたちとは違う場所で、シモンとチコ☆タンの魂の特攻が始まる。


「ちょっ、シモンさん・・・・何を!?」


「兄貴!?」


「シモンさん!?」


同時に前へと進むネギたちもシモンたちの異変に気づいた。

そして気づいたときには、すでにシモンが掲げた超巨大なドリルが、バリヤー目掛けて突っ込んでた。



「「超魔ギガドリル爆炎覇ァァァ!!!!」」



再び唸る二人の合体技。

巨大な爆音とドリルの音を響かせた特攻が、戦場に響き渡る。

だが・・・


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」


「ウガアアアアアア、・・・ぐぬぬ・・・か、硬え!」


八俣大竜をも貫いた二人の合体技だが、超巨大な魔力障壁に阻まれ貫くに至らなかった。


「ダメじゃねえかよ、このハッタリ野郎!!」


二人の合体技は、そのドリルの先端すらバリヤーに弾かれ貫けないでいた。

魔力障壁にぶつけたドリルから激しく火花が飛び散り、魔力が削られているのか、ドリルが削られているのかが判別できない。

だが、それでもシモンはあきらめていなかった。


「まだだ! 俺たちグレン団のドリルはこんなものじゃない!!」


シモンは信じていた。ドリルを、自分を、魂を。


(世界の想いに・・・応えろ、俺の螺旋力!!)


コアドリルが輝きだした。

シモンの意思にドリルが応えた気がした。











「もう・・・止まらない。あれが・・・・・・・・・・・彼の螺旋の力・・・・・・やはり彼は危険・・・」




その呟きは誰にも聞こえなかった。


墓守人の宮殿内部から、フェイトたちにもその存在を知られること無く進入した者が、この光景を眺めながら思わず呟いた言葉だ。


そしてその呟きの通り、止まらぬドリルの先端がバリヤーの内部に入った。


ほんの僅かかもしれないが、確かに入った。


そう、確かにこのバリヤーは強固かもしれない。


しかし全体ではなく、僅か一点にだけ集中して全力を注ぎ込めば、例えバリヤーそのものが砕けなくても、ほんの僅かな穴は出来るはず。


その小さな穴を広げていく。


それがドリルだ。


「もう・・・ちょい・・・ぐぬぬぬぬぬ」


ネギたちと同じルートを辿ればこんな面倒なことにはならなかっただろう。


「「行ける!!!!」」


しかし、絶対に壊せぬ壁を前にして、シモンの穴掘り人としての血が黙っていなかった。

壁があったら殴って壊す。道が無ければこの手で創る。


「グラアアアアアアアアア!!」


チコ☆タンも全魔力を放出するかのように後押しする。徐々にだが、確実にドリルが内部へと進行する。

そしてその穴は、ほんの一瞬・・・ほんの一瞬だけだが、人一人だけ通れる穴を作った。


「グラアアアアアアアアアア、行って・・・・来やがれええええええええええええ!!」


その一瞬を逃さず、肩車していたシモンをチコ☆タンはバリヤーの内部へと思いっきり投げた。

一瞬で穴は塞がり、チコ☆タンは内部へと入ることは出来なかった。

しかし、シモン一人は確実にバリヤーの中に進入することが出来たのだった。



「な、・・・・・」



「なんと!?」



「お、・・・おおおおおお!?」



再び戦場がどよめきに包まれる。



「「「「「「「「「「バリヤーの中入っちゃったーーーーーーッ!!??」」」」」」」」」」



絶対破れぬバリヤーの内部へ侵入するために、唯一ある隙間目掛けて皆が協力し合ったというのに、シモンはチコ☆タンの力を借りて正面からバリヤーを突き破って中へと進入したのだ。



「「「「「「「「「「って・・・道作った意味無かったァァァァァァァ!!??」」」」」」」」」」



結局後からネギたちを追いかけるといったシモンが、何だかんだで一番最初に墓守人の宮殿への侵入に成功した。


「か~、なんやねん、そんなんありかい、兄ちゃん!?」


「はは・・・結局僕たちは・・・あの人を追いかけるしかないんだね」


「うは~・・・兄貴・・・そらねえって・・・」


安全ルートで引きつった笑みでシモンの背中を眺めるネギたち。

ああ、そうだ。あの背中をずっと追いかけてきたんだと、改めて思った。

父とは違う、現実に目の前に存在する目標。その背中を決して見失わぬように、ネギは仲間たちに振り返って叫ぶ。



「さあ、あの背中においていかれぬように、僕たちも全力で追いかけましょう!!」



「「「「「「「「オオオオオオオオオオーーーーーーーーッ!!!!」」」」」」」」」」



多くのものの協力を経て、ようやく辿り着いた最終目標地。

一番乗りに墓守人の宮殿内部へと侵入したシモンの背中を追いかけながら突き進むと、ネギの視界には宮殿からこちらを睨んでいるフェイト、そしてその傍に居るアスナとアーニャを見つけた。

臨むべきもの、救うべき人、倒すべき者、全てが揃っている場所だ。


(さあ、決着を付けよう!!)


改めて心に決意し、彼らは最終目標地へと侵入したのだった。





濃霧のように前の見えない魔力のバリヤーの一歩内側に入れば、宮殿全体をハッキリと認識することが出来る。


「ここか・・・そしてこれがラストダンジョンって奴か! 雰囲気がすごい漂っているな」


そのどれもがシモンの世界には無い文明であり建造物である。

魔法世界に来て瀬田と共にそれなりに遺跡を見て回ってきたシモンだが、この圧倒的なスケールはまるでガンメンのように巨大に感じた。



「ふう・・・・しかし・・・・結局一人で来ちまったな・・・ネギたちを待つか・・・・それとも先へ行くか・・・・」



両の足で降り、音一つ無い宮殿内にポツンと一人で立ち、どうするべきかと辺りを見渡しながら考えふけるシモン。

改めて宮殿を見上げると、非常に不気味だった。



「ここがかつてネギの親父さんたちが戦った場所か・・・・・まったく、俺はどこまで行くんだか・・・」



つい先ほど何十万という敵を相手に戦っていただけに、いきなり一人になり、敵が来る気配もないとそれはそれで不気味だった。

だが、これまでの戦いから敵の人数も限られている。恐らく10人にも満たないだろう。ならばこの状況も頷ける。

先に一人で暴れるか、それとももうすぐ来るであろうネギたちを待つか・・・



「さてどうするか・・・・ネギたちもそろそろ来ると思うけど・・・」



だが、そんなのんびりと考えていたシモンの空気を壊すかのように、一つの足音が聞こえた。


「ん?」


音のする方向へシモンが振り向く。

敵の本拠地だ。

気を抜いている場合ではなかったと、緊張感を高めて、その手にソルバーニアを構えた。



「さっそくおでましか?」



そして次第に足音が近づいてくる。

音からして恐らく一人だろう。

フェイトの従者、あるいは未だ見ぬ敵、もしくはフェイト本人かもしれない。

ゴクリと息を呑み待ち受けると、宮殿内部から姿を見せたのは、仮面を被った不思議な人物だった。



「・・・いつか合間見えると思っていましたが・・・・」



西洋騎士が付けるような仮面で表情を隠し、その手には銀色の槍を携えた者。声から女性であることをシモンは察した。

仮面の下からは仮面の中には納まりきらない、ふわふわとした長い髪がはみ出ている。珍しい色の髪だ。

そして、その仮面の下から漏れる声が少し気になった。

まるで昔の茶々丸やフェイトのように機械的で感情の篭らぬ抑揚の無い声。



「・・・・このような形で会うとは思いませんでした。狂い笑いを始末するためにこの世界に来たつもりがこうなるとは。心から人の巡りあわせは解析不可能と言えるでしょう」



身体はデュナミスのような、ふわっとした黒色のローブに包まれていた。



「・・・お前は・・・誰だ?」



シモンの心臓が高鳴った。

どうしてかは分からない。だが、本能が告げていた。

ラカンやフェイト、ユウサたちと対峙したときとは違う。恐れでも緊張でもなんでもない。

だが、女性の姿にシモンは何故か落ち着かなかった。

すると女性は相変わらず抑揚の無い声で、再び口を開く。



「その質問・・・あなたという存在を知り、今日に至るまで私が何度思った事か・・・・」



「何?」



「私も知らねばならない。あなたが何者なのか」



「・・・・・・はァ?」



会話になっていなかった。

いや、なのに・・・・



「あなたはどなた?」



「いや、どなたって・・・そんな立派なもんじゃないけど・・・それに質問はこっちがしてるんだ」



妙な胸騒ぎが止まらなかった。

たった今初めて会ったはずの女性に対して、シモンはどうしても心が落ち着かなかった。

だが、次の瞬間女性は姿を消した。



「えっ!? き・・・消え・・・・」



断じて言う。シモンは油断などしていない。

瞬きをしてもいないのに、女性の姿が気配も無く完全に消えた。

だが、そう思った矢先にシモンは背後にほんの僅かな空気の乱れを感じた。

そして・・・



「何故あなたは・・・・私と同じ?」



「えッ!?」



「その・・・秘めた力・・・」



背後から女性の声がした。

一瞬で回りこまれたのだ。

いや、回り込まれたなどというレベルではない。シモンですらまったく気づかなかったのだ。

ネギやラカンクラスと互角に戦ってきた自分が、たった一人の女性に後ろを取られたのだ。



(ど、どうやって!? 移動した気配なんてまるで無かった! まるで存在が一瞬消えたかと思えば、いきなり現われた・・・・・・瞬間移動か!?)



シモンが慌てて振り返り、後ろに飛んで距離をとろうとする。

だが、シモンが後方へ飛ぼうとする寸前に・・・



「シモン・・・それがあなたの名」



「ッ!?」



女性はシモンの頬に手を伸ばし、触れた。

咄嗟のことで、思わず距離をとることが出来なかった。

そして女性はシモンをじーっと見つめる。



「・・・・・・知ってるんじゃないか、俺の名前。だったら何が知りたいんだ? それにお前のほうこそ誰なんだよ!」



「私はあなたを知らない。名前は知っている。でも、どれだけ調べてもあなたを知ることが出来ない」



「・・・・何?」



不思議な感覚だった。

つい先ほどまで好き勝手に大暴れしていた自分の闘志が消えていくような感覚だった。



「何なんだよ・・・・・何なんだっていうだよ一体!!」



シモンは女性の手を払いのけて無理やり距離をとる。

そして相手の戦意が無いことを知りつつも、ソルバーニアを構え、先端のドリルを回転させ、螺旋力も解放した。


「俺はシモンだ。新生大グレン団のリーダー、穴掘りシモンだ! それ以上何を答えれば良いって言うんだ!!」


何に怯えているんだ? 戦意どころか殺意や敵意の欠片も感じさせぬこの女性に何を自分は恐れているのだ。

だが、シモンは落ち着かない。あらゆる意味で底が分からぬ、いや、心が知れぬ者を前に、シモンの心が乱された。


「答えて欲しいことは数え切れない・・・・」


「な、何?」


「あなたが何者か。あなたがどこから来たのか。あなたが何を求めるのか。あなたが何を目指すのか。あなたが何故その力を持つのか。あなたが何故その力を己の欲望のままに使うのか・・・」


「な・・・なんなんだ・・・」


「私はあなたが分からない」


それはこちらのセリフだとシモンは叫びながら、気づいた瞬間駆け出していた。

分からない。敵意も示さぬ女性にシモンから襲い掛かるなど、生まれて初めてのことかもしれない。

だが、シモンは己を止めることが出来なかった。


「一体お前は何なんだ! 俺の何が知りたいんだ!」


シモンの乱暴に叩きつけるように振り下ろされた槍を、女性は丁寧に無駄な動き一切無く、軽やかに受け流した。


「己の本能のままに、この力を使うのがあなたの意志なのだとしたら、私はあなたの存在を消さねばならない」


「ッ、だから・・・お前は一体何者なんだ!」


シモンは無我夢中でソルバーニアを振るう。その動きに型も何もあったものではない。

心が乱されているゆえに思うように体も動かず、思うように螺旋力も練られない。

そんなシモンの攻撃を、女性は片手にある槍で軽くいなしていく。

だが、それはおかしい。いくらなんでも女性の細腕でそんな簡単に出来るはずが無い。

しかしその答えは、女性の体を覆う光が答えだった。


「それは・・・魔力・・・気・・・違う・・・・その色は・・・・」


シモンが乱戦の中、目を凝らして気づいた女性の体に流れる力。

その光の色は、シモンと同じ緑色の光。


「ま、まさか、螺旋力!?」


「・・・・・・・・・・・・・」


「何で・・・・なんで螺旋力を!?」


何と、女性の体に流れる力を、自分と同じ螺旋族の象徴である螺旋力だとシモンは本能で感じ取った。

あまりにもありえない事態にシモンの動揺は更に高まった。

だが、そんな動揺したシモンの攻撃を、螺旋力によって強化された自身の槍で軽やかに女性はいなしていく。

まるで凶暴な闘牛を交わしていく闘牛士のようだ。

だが・・・・


「うおおおおおおおお!!」


「・・・・・・ッ・・・」


無我夢中でもソルバーニアの能力により、シモンの攻撃の速度が徐々に上がり、威力も増していく。

いかに乱されたシモンとはいえ、女性が片手でいつまでもいなせるほど甘いものではない。

そして女性の槍はとうとうソルバーニアの重さに耐え切れずに弾かれる。

その瞬間シモンは女性の表情を覆う仮面に狙いを定めて弾いた。


「正体を見せろ!!」


「・・・・・・・・・・・」


弾かれた仮面が宙を舞う。

その瞬間女性の仮面の下の顔が明かされ・・・




「・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・」




シモンの手が止まった。


仮面の下の女性の素顔に思わず手を止め、そしてその口が自然と動いた。




「・・・・・ニ・・・・・・・・・・・・・・・・・ニア・・・・・・」




「?」




シモンが呟いた言葉に女性は思わず首をかしげた。

だが、その直後に隙だらけで呆然とするシモンの腹部に己の槍の逆突きを叩き込んだ。



「ッ、ガハァ!?」



腹部に強烈な一撃をモロに叩き込まれ、シモンは思わず床に倒れた。

胃液が逆流し、呼吸がうまくできない。


「ニア? それは、私のことですか?」


そして這い蹲るシモンを冷たい瞳で見下ろしながら、女性は告げる。



「私はクロニア。麻帆良大学4年、クロニア・テンジョウです」



「・・・クロニア・・・テン・・・ジョウ?」



懸命に首を上げて、シモンは今一度女性の・・・クロニアの顔を見上げる。


(違う・・・似ていない・・・ニアはこんな冷たい表情をしない・・・・なのに何故俺はこの子を・・・)


もう一度見てみると、最初の印象がガラリと変わった。

何故自分はこの女性を見た瞬間に、自分の最愛の人の名を呟いてしまったのだと思った。

だが・・・


(この瞳・・・この表情は・・・ニアじゃない・・・でも・・・でも・・・この声・・・この顔・・・この瞳・・・見たことがある・・・・そうだ・・・あれは・・・)


虚無の瞳。


無機的な表情。


無機的な声。


何一つニアと似つかぬものなのだが、シモンはあることを思い出した。


(そうだ・・・似てるんだ・・・あの時の・・・・)


全てを拒否し、全てを閉ざした姿は・・・



――地球人類に告げる。我々反螺旋族アンチスパイラルは、地球人類が螺旋力危険レベル第二段に達したと判断。これより人類殲滅システムを発動します



かつてアンチスパイラルのメッセンジャーとして世界に絶望の鐘を鳴らしたあの時のニアと目の前の女性が重なったのだった。



(あの時の・・・ニアに・・・面影が・・・)



そしてシモンは彼女を知る。



そして彼女もシモンを知る。



これは、それぞれ違う世界に生まれ、違う世界で育った螺旋の男と螺旋の女の出会いだった。
最終更新:2011年05月13日 21:19
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