第百十九話 そう思うかどうかが俺の基準なんだよ 投稿者:兄貴 投稿日:10/09/04-09:29 No.4400
――求めるのは絶対的絶望、そのための手段は全て講じてあります
今目の前に居る少女のような瞳で、表情で、かつて自分の愛する女は言った。
アンチスパイラルのメッセンジャーとしてその身を変えられ、人類に絶望を告げる役割となった。
皮肉なものだ。
もう二度と自分は愛する女と会うことは出来ないというのに、まさかよりのもよってもう一度あの時のニアの面影を持った女性に、こうして自分の道を阻まれるとは思わなかった。
「クロニア・・・テンジョウ・・・お前は・・・一体・・・」
腹部の一撃の痛みが少し引いてきた。シモンは自分の身に起こった現状を整理していきながら呟いた。
「質問はこちらかしているのです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何か?」
目の前の女性、クロニアは相変わらずの無表情。冷たい目で自分を見つめている。
彼女に対して心乱されたシモンは、直ぐに返答出来なかった。
そんなシモンの動揺を見透かしたかのように、クロニアは表情を変えぬまま口を開く。
「どうしました? 私がそれほど誰かに似ているのですか?」
「ッ!?」
一瞬心臓が鷲摑みにされたのではないかというぐらいに、シモンの体は反応してしまった。
似てなどいないのにだ。
しかしシモンの態度はまるで肯定しているかのように、言葉を詰まらせてしまった。
「そうですか・・・ですがあなたの事情は私には関係ない。あなたはまず私の問いに答えてください」
だが、戸惑い言葉を詰まらせるシモンに何の関心も持たずにクロニアは言葉を続けた。
「いや・・・・」
「?」
「似てなんか・・・・似てなんかいないよ。少し驚いただけだ。テンジョウ・・・お前がユウサの言っていた者だな」
シモンは苦笑しながら首を横に振った。
そうだ、似てなどいない。心を乱してはいけない。
目の前の女性はニアではない。
シモンは腹部を押さえながらもようやく立ち上がり、クロニアと向き合った。
「俺はシモン。新生大グレン団のリーダー、穴掘りシモンだ。お前の持つ力が螺旋力なのだとしたら、俺はお前と同じ、螺旋族だ」
シモンの言葉にクロニアも僅かながらの反応を見せる。
「・・・螺旋族・・・」
「これがその証だ」
そう言ってシモンがクロニアに向けて見せたもの。それこそ螺旋族の証でもあるコアドリルだ。
「・・・・・・やはり・・・それは本物でしたか」
胸元をはだけさせて見せたコアドリルに一瞬クロニアは眼を見開き、そして視線を再びシモンの顔へと戻した。
「学園祭の映像でもあなたを見ました・・・・・・たしかに、あなたは私やお父様と同じなのですね・・・ありえない話ですが」
シモンをジッと観察するように見ながら、ゆっくりと口を動かす。
「ああ・・・本当はこの世界にも・・・旧世界と呼ばれる地球にも存在するはずのない力だ」
「・・・螺旋力と螺旋族という言葉・・・証の宝具の所持・・・どうやらあなたは本物のようですね」
シモンの言葉に、あくまで表情を変えぬもののクロニアは言う。
「どういうことだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そして・・・・そしてお前は俺から何を聞きたいんだ?」
シモンに尋ねられてクロニアは目をそっと閉じた。
まるで何かを考えているかのように。
だが、その何かがまったく読めない。その虚無の表情から何かを読み取ることは出来なかった。
「・・・それは私もまだ考えていませんでした」
「何?」
そして返ってきた言葉は意外なものだった。
「あなたと会うことを優先するあまり、まだ自身を整理していませんでした。どこから・・・何から・・・何を・・・その全てを得るにはまだ時間が掛かるでしょう・・・」
「お、おいおい・・・」
ニアとは違うが、これはこれで掴みづらい女だとシモンは認識した。
何事にも感情をあらわにして、心を隠すことなくいつも曝け出していたニア。しかし純粋すぎて、更に世間の常識とズレて育ったがゆえに時折掴みづらい側面があった。
「さて・・・どうしたものでしょうか・・・始まりの新人類・・・テンジョウ家の歴史・・・螺旋力・・・螺旋族・・・始祖の遺言・・・私から話すこともあれば、あなたから聞き出したいこともある・・・しかし・・・」
対してクロニアは全てを閉ざしている。どこまで本当か分からない。どこまで本気なのか分からない。とぼけているのか、真剣なのか、何を考えているかを読めない。だからこそ、掴みづらい。
「しかし・・・やはり・・・ここは・・・・」
「?」
そして数秒後にクロニアは目をゆっくりと開いた。考えがまとまったのだ。
「やはり時間があまり無い以上・・・まずは私情に走らずに役目を優先させるべきなのかもしれません・・・」
「役目?」
「狂い笑いの始末もそうですが・・・シモン・・・そしてサウザンドマスターの息子のネギ・スプリングフィールド・・・・まずはあなた方を止めることから始めるべきなのでしょう」
「ッ!?」
冷たい瞳がシモンを射抜いた。
途端にシモンは思わずクロニアから距離を取ってしまった。
空気に乱れもなく、クロニアからは敵意も殺気も感じない。
しかしクロニアの内から徐々に溢れる何かの力からシモンは逃げた。
「俺たちを・・・止める?」
「はい」
赤く輝く・・・
「単刀直入に言います、シモン。あなた方がアーウェルンクスに抗おうというのなら・・・あなた方は間違っています」
螺旋力だ。
気づけばクロニアの手には先ほど弾いた槍とは違う武器が握られていた。
銀色に輝く三叉の・・・
「それは・・・ドリル?」
三叉のドリル。
「トライデント・スパイラル・・・これが私の螺旋の力です・・・・・」
三叉の槍の先端がドリルとなった、線の細い女性には決して似つかわしくない仰々しい武器だ。
気づけばシモンもその手にソルバーニアを構えていた。
(・・・こんなことになるなんて・・・まるで予想していなかったよ・・・)
クロニアの螺旋の力を前に、自然と自分も螺旋の力を前面に出していた。
似ていないと頭の中で思い続ければ思い続けるほど、今自分が戦おうとしている女と、かつての思い出がよみがえってくる。
思い出すだけでもつらく切ない思い出。
アンチスパイラルにより変えられてしまった最愛の人。
どうしても重ねずにいられなかった。
「なるほど・・・先ほどの動揺していた時とは違い、心の回転軸がブレていない・・・美しい輝きです・・・しかし理想には届かない・・・だから私にも届かない」
シモンに流れる螺旋力に僅かな関心を見せるも、クロニアは直ぐに首を横に振った。
これではダメだと、シモンをまるで見限ったような眼だった。
その眼を見るとシモンは悲しくなった。
ああ、この子は一体何を諦めているのだろうと、不意に思ってしまった。
しかしそのシモンの油断を突き、彼女は再び・・・
「ッ!?」
音も姿も感じさせずに姿を消し・・・・
「き、消え・・・・ッ!?」
消えたはずの人が音も立てずに背後から槍を突いた。
「直撃を避けましたか・・・・反応は上々ですね・・・しかし・・・」
衣服を貫き、シモンのわき腹が微かに抉られて血が滲み出した。
もっとも痛みよりも驚きのほうが強い。
昔を懐かしみ油断していた。心の中で何度も振り払おうとしていたのにだ。それは不覚だった。
だが、シモンが攻撃を喰らってしまったのは、ただの油断だけではない。
(まただ・・・またこいつの動きが分からなかった)
少々油断していたとはいえ、戦闘体勢に入っていたにも関わらず、クロニアの動きが分からなかった。
まるで本当に存在が消えてしまったかのように姿を消し・・・
「・・・荒い・・・」
「なっ!?」
また姿を現し・・・
「遅い・・・」
「ッ!?」
再び姿を消す・・・
「そして・・・・・脆い・・・」
その姿を決してシモンに捕まえさせずに、自らの攻撃だけをシモンに残していった。
どれだけ目を凝らしても姿は見えず、どれだけ辺りに注意を払ってもクロニアの出現と攻撃を読み取ることは出来ない。
(やはり・・・これはスピードじゃない! これは・・・)
そしてシモンは再び背後を取られた。
「・・・・・・ッ・・・・お前・・・・・」
首筋に冷たい矛を当てられ、思わず全身が硬直した。
冷たい汗が頬を伝った。
「私は・・・いつでもあなたを葬ることが出来るのです」
正に成すすべなく、シモンは命を握られた。
息一つ乱すことなく。
心乱すことなく。
その表情すら乱すことも無い。
「お・・・お前・・・・・」
気品を損なうことも無く。
悠然とした態度で、彼女はシモンを圧倒したのだった。
その表情は、悲しいことにかつて見た最愛の人が見せた希望の篭らぬ表情。
最早シモンも言葉が出なかった。
「つ、強いです!? 一体誰なんでしょう、この女性はッ!?」
「み、見覚えが無い・・・・」
画面に映し出される光景に、フェイトガールズたちは度肝を抜かれていた。
墓守人の宮殿内に侵入したシモンを監視映像で確認したところ、正体不明の女性が現われ、シモンと一戦交えて圧倒しているのだ。
シモンを知る彼女たちからすれば異常事態に他ならない。
「はっ!? まさか、フェイト様が私たちに内緒で拾った孤児でしょうか!? それともフェイト様が用意した謎の助っ人ですか!?」
暦がフェイトの仕業なのかと振り向くが、フェイトは画面を見つめながら首を横に振る。
「いや・・・違うよ・・・何者かは知っているけどね。でも、どうしてここに居るのか・・・君の所為かい?」
画面のクロニアを見た後に、フェイトは後ろでニヤニヤとしているユウサに振り返った。
「ひはははは、お嬢様もワザワザ地球からご苦労なこった。まあ、そのお陰で運命の男に会えたんだ。そのキューピッドとなった俺様には感謝して欲しいがな。ひははははははははは」
「・・・彼女・・・やはりテンジョウ家とシモンは何か関係が?」
「ひははは、んなこた~お前さんが知る必要のねえこった。まあ、あの二人は放っておきな。その方が面白そうだからな♪ お前さんは、もう直ぐ来る坊やの方に集中したらいいんじゃねえのかい?」
ユウサは多くを語らず、あくまで傍観を決め込んだ。
ただ楽しそうに、螺旋の男と女の会合が、何を起こし、何を生み出し、事態をどのように導くかを、興奮しながら眺めていた。
「フェ・・・フェイト様・・・やはりこの男を置くのは危険では?」
ユウサに寒気を感じながら、焔が小声でフェイトに耳打ちをする。
「問題ないよ。だから奴に構うな。構ったら意味も無く嫌がらせをして来るだけだ。それにテンジョウ家に追われているこの状況で、余計なことをするほど馬鹿でもない」
そう、ヘラヘラとしているが、ユウサもこの状況は想定外だったのだろう。
今は楽しそうにしているが、クロニアに追われる状況はユウサにとっては望むものではないのである。つまり言い換えればクロニアの力をそれほど脅威だと感じているのだ。
ならば今目立つことや余計なことはしないだろう。
ましてやネギやシモンと戦う前に余計な力を裂くのはフェイトとしても望まない。
だからこそ、フェイトもユウサに一々口出しはせず、再び画面に眼を向ける。
「でもこの女・・・気に入らないね・・・」
何度もフェイトの思惑を狂わせてきたシモンを、涼しい顔で御するクロニア。
自分が敵と認識した男を、何事も無いかのように押さえつける姿が、少々フェイトの癇に障った。
すると・・・
「案ずるな。あの家が我らの邪魔をすることはない。我らの計画は奴ら側にとっても悪くない話であるからな」
フェイトたちの集まっている部屋に、一人のローブを羽織った謎の人物が現われた。
「お~! ・・・ひはは、これはこれは・・・」
「あっ!?」
「・・・あなたか・・・」
その者の出現に、それぞれ意外な反応を示した。
ユウサも画面のクロニアとシモンのやり取りから目を離したくらいだ。
「クロニアちゃんといい・・・面白い奴がゾロゾロと来るね~」
ローブの人物にユウサが話しかけると、ローブの人物は途端に鼻で笑った。
「ふん・・・狂い笑いよ・・・ならばテンジョウ家以外にも、もう一人面白いものがおるぞ? 私が呼んだ者が一人な・・・貴様も知っている者じゃ」
「アン? 俺の知っている? おいおい・・・まさかあのゲジョウ君じゃね~だろうな~?」
「いや・・・だが・・・惜しいというべきか」
「なに~?」
ローブの人物の言葉にユウサも笑みが消えた。
何かを考える仕草を見せて、少し口を閉ざした。
「フェイト様! ネギ・スプリングフィールド一行、宮殿内に進入しました!!」
調が慌てた声でフェイトに知らせ、全員の視線が再び画面に移る。
「来たか・・・ネギ君・・・」
ようやく役者が揃ったと、フェイトのポケットの中の拳が自然と握り締められた。
まるでこの状況を望んでいたかのように。
しかし・・・
「はあああああああああああ!!」
勢いよく振り返り、振り向きざまの槍の一閃でクロニアから距離を取った。
ニアのことを考えないよう、頭の中を切り替えようと必死だった。
しかし距離を取ったと思えば、その視線の先にクロニアは存在せず、気づけばまた自分の背後で先ほどと同じようにシモンの首筋に矛を当てていた。
「シモン・・・あなたは何も見えずに、そして分かっていない」
「な、なに?」
「何が正しいかではない・・・どちらの方がまだマシなのか・・・そういった選択肢しかないのです。それを分かっていないからこそ、あなたは間違っている」
シモンの首筋に矛を当てながら、背後からクロニアは淡々と口を動かす。
「ふざけるな! 納得できないやり方に納得することが、間違っていないことだとでも言いたいのか!!」
クロニアを振り払うように、シモンは再び振り向いて突きの連打を放つ。
外から見ればシモンとて超速。
並みの使い手では手も足も出ないはず。
しかし・・・
「なるほど・・・真っ直ぐで・・・純粋で己を疑うことが無い。それはとても尊いものであり、脅威でもある。無知というものは恐ろしい・・・」
届かない。
消えてはシモンの背後に回りこみ、振り返ったらそこには既に存在せず、何度も背後に立たれた。
いつでもシモンを殺すことが出来るのだと、無言で伝えているかのように。
「くっ、・・・・俺が間違っているなら・・・なら、フェイトの進もうとしている未来にお前は賛成するのか?」
気圧されぬよう、シモンも螺旋力と気迫を込める。
苦笑しながらも、首筋にある凶器に構わず、シモンは背後にいるクロニアに振り返らずに尋ねる。
「賛成反対というよりも・・・悪い話ではない・・・というところです」
だが、クロニアはあくまで淡々とする。
「何も無い・・・消滅した未来がか?」
「しかしあなた方の場合でも破滅への道・・・いえ、さらに多くの血を流す未来へと繋がっています」
「何故分かる?」
「分かるからです」
「何?」
「大局の見えないあなた方とは違い・・・・そう、あなたたちは何も分かっていない」
クロニアがシモンに告げた言葉。「何も分かっていない」果たしてこの言葉を自分の人生において何度言われたことか。
そう、敵にも、友にも言われたことのある言葉だ。
「俺の頭が悪いのは分かってる。でも、分かっていないからこそ、俺は分かろうとこうして前へ進んでるんだ!」
分からないなりに見っともなくても足掻いて答えを見つける。
それがシモンのやり方だ。
しかしクロニアは首を横に振った。
「いえ、そうではありません」
「なに?」
「私が分かっていないと言ったのは、そういう意味ではありません。私が分かっていないと言ったのは、地球側から考えた場合、この世界の滅亡は都合がいいということです」
「なっ!?」
それは残酷な上に衝撃的な言葉だった。
世界の消滅を涼しい顔で都合が良いなどと言われたのだから。
「もう既に知っているかもしれませんが、地球側の代表は移民を受け入れる気はゼロです。それは60億人以上が住む地球に余裕がないだけでなく、科学の力を使わずに、人一人の力でも世界を滅ぼす力を持つ魔法使いの存在は好ましく思われていないからです。よって、その魔法世界の住人を何万人も移民させることはありえません。魔法使いと一般人類の僅かな亀裂が、世界を巻き込む大惨事に繋がる可能性もありえます」
ユウサやアムグや瀬田とも似たような話をした。
そう、魔法と世界は交わることはないと。
「何故今日まで魔法使いと一般人類の間に大規模な争いがなかったのか・・・それは魔法の存在を秘匿としたからです。魔法使い側も掟を重んじ、世界の均衡のためにその存在を表舞台に立たせませんでした」
「待てよ・・・今まで大丈夫だったんならこれからも大丈夫なんじゃないのか?」
「はい。ですがここ数年になり、その均衡が崩れだしたのです」
「なに?」
「現在地球側で魔法の存在を明かされていない国・・・例えばモルモル王国などは独自の力で魔法の存在、そしてこの世界の存在までたどり着きました。それはどういうことか? 簡単です。表舞台では秘匿とされていた魔法の存在に、とうとう世界中が気づき始めているのです。爆発的な人類の人口の増加と文明の進化が、これまで知られてはならなかった世界の裏側までたどり着いてしまったのです」
シモンは口には出さない。しかしクロニアの言っていることは、恐らく瀬田たちのことだろう。
そう、彼らの国は魔法の存在を知らされていなかった。科学の力だけでのし上がった国だ。
そしてその国は、自らの力で魔法の存在にまでたどり着いたのだ。
「そう、今の時点でも既に均衡が崩れている中、魔法世界に住む民が地球に移民しようとしたらどう思われるでしょうか? もろ手を挙げて歓迎されると思いますか? 違います。一般人類はこの世界の民や魔法使いの存在を自分たちの生活を脅かす勢力と見なすでしょう。それゆえ、必ず亀裂を生み出します。自分が魔法も何も使えないただの人間だった場合、その人間は手から雷や炎を自在に出す異形の存在を受け入れられるはずがありません。必ずその存在を恐れ、排除しようとします。それだけで戦争は始まってしまいます」
「・・・それは・・・・・・」
「だから、その前にこの世界を封じるのです」
最初は僅かな食い違いが理由。それが大きくなって争いが起こる。
それが更に大きくなって戦いが起こる。
そしてお互い妥協することが出来ず、周りを巻き込み、最終的には戦争を生み出す。
「仮にあなたがアーウェルンクスを止めたとしても、どちらにせよこの世界はいずれ滅びます。その際、魔法世界人のほとんどが死に絶え、僅かな生き残りも生存を賭けて地球人類との戦いを起こす未来が濃厚です。私は魔法使いでも魔法世界人でもありませんが、地球の守護者の一族として、危機が地球に及ぶのであればその災厄を防がねばなりません」
「戦い・・・・・」
「魔法世界の消滅により魔法使いの人数は激減します。魔法使い側と一般人類とのパワーバランスも大きく崩れ、人類の敗北は無いとは思いますが、それでも魔法使い側が本気となった場合の被害は尋常ではないでしょう。ならばその争いの種を事前に・・・魔法世界人ごと例外なくメガロメセンブリアの民も封じてくれるのであれば、我々側からすれば悪い話ではない」
あくまで魔法世界とこの世界の人間を切り捨てようとする非情なクロニアの言葉。
地球人類を守るために決断した、上に立つものとしての考えだった。
だが、その言葉から大体のことが見えてきた。
「・・・地球側の心配の種がまとめて消えるから、この騒ぎに便乗して世界から魔法使いそのものを消そうってことか?」
「勿論世界を封じた後、現在地球に残る魔法使いまで殲滅することはありません。しかし世界が気づき始めている以上、これからも隠し続けるには今以上の制約や管理下に魔法使いをおく必要があります。しかし激減した魔法使いたち相手ならば難しい話ではない。だからこそ、この騒ぎに便乗して魔法使い側と一般人類側の関係を拗らせて盛り上げようとする恐れのある狂い笑いを、今のうちに始末しようと私が動いているのです」
「なるほど・・・世界が魔法の存在に気づき始めて・・・残された魔法使いたちや人類の戦争・・・・それを盛り上げるユウサか・・・だんだん見えてきたな」
「そうです。世界の均衡のため魔法の存在はこれからも秘匿し続けねばなりません。ですが今ならまだ、魔法世界そのものを封じてしまえば大きなことは誤魔化すことが出来ます。そして・・・今回の件で激減した魔法使いたちは、時を経て更に減少し・・・やがて・・・」
「・・・やがて? やがてどうなる?」
その続きは分かっている。だが、確認せずにはいられなかった。
そして彼女は最後の言葉を告げる。
「世界から魔法は消滅します。それで終わりです。それが世界の本来あるべき姿・・・魔法など・・・進歩と進化を経た今の人類には必要ないのです」
地球側にとって、魔法というのはクリーンなイメージばかりではない。
ナギやラカンたちのように、その気になればたった一人で世界を滅ぼす力をも持っている。
意思のある核兵器と共生することは可能だろうか? 個人間なら可能かもしれない。しかしそれが種レベルの話だと、そうもいかない。
瀬田も言っていた。世界は未だに宗教や人種の壁すら乗り越えられないのだ。
魔法の存在も秘匿とされていたからこそ、これまでうまく一般人類と共生できた。彼らの力を見えないところで役立てることで世界にも貢献してきた。
しかし、その秘匿が限界になり、魔法そのものが世間に知られてしまえば世界は混乱する。関係に亀裂が走り、戦争すら起こりうる。
そこに今回のフェイトたちの魔法世界そのものを魔法世界人やそこに住む人間ごと封じるというのだ。それは地球の一般人類からすれば確かに悪い話ではなかった。
魔法世界を地球に知られる前に、何千万人と存在する魔法使いの存在共々封じることにより、これから起こりうる災厄を未然に防ぐことになるのである。
そのために、クロニアはここに居るのである。
障害となるシモンを止めようと、立ちはだかるのである。
「まるで・・・あの時と同じだな・・・・」
「?」
シモンは不意に口に出した。
まるでかつてアンチスパイラルが襲来した時と同じだ。
思い出さないように、重ねないようにと思っていたが、どうしても当時のことを思い出してしまい、切なくなった。
しかし同時に一通りの話を聞いてシモンは・・・
「でも・・・そうか・・・やっぱりな・・・」
「どうしました?」
何故か口元に笑みを浮かべていた。
「ユウサの話で何となく分かっていたんだが、こうして違う奴からの話を聞いていてようやく分かった」
「・・・何がです?」
「俺の進もうとしている未来は・・・・あいつの未来へと続いているんだって・・・・」
「あいつ?」
そう、クロニアが止めようとしている未来は、恐らくだが繋がっているのだろう。
超鈴音のいた未来。
彼女が人生を賭けてまで避けようとした未来だ。
だが・・・
「お前こそ分かっていない。その未来に・・・その未来に生きる奴が・・・俺と約束してくれたんだ」
「・・・・・?」
そう、予想や予測で話を進めるクロニアとは違う。
正にその未来で生きていた少女が、歪んだ夢を殴って戻し、自分に誓ってくれたのだ。
「逃げずに立ち向かうと俺に約束した。曲がって歪んで捻じれた想いを気合で戻し、真っ直ぐな眼で俺に誓ってくれたんだ」
「誰のことです?」
「俺の・・・・・ダチだ」
超鈴音・・・たとえ二度と会うことがないかもしれなくとも、彼女との誓いはシモンの中でいつまでも息づいている。
「だから俺も・・・最後まで足掻く」
彼女は今でも未来で戦っているはずだ。
かつては失望したグレン団のマークを背中に背負い、その未来で戦っているはずだ。
「私の話を聞いていましたか? 結局は多くの血が流れるかもしれない未来のためにあなたは足掻くのですか?」
「お前には初めてだが、俺は人に言われるたびにこう言ってきた! だから何度でも言ってやる! まだ見ぬ明日に怯えて、今を後悔したくはねえ! それが俺の・・・俺たちグレン団のやり方だ!!」
だから今をとにかく抗うのだ。最初から決まっている。
「だから守ってみせる! 地球も! 火星も! 人類も! 全部まとめてな!」
それがシモンのブレることの無い心のドリルの回転軸。
そしてその回転は速くなればなるほど重力から解き放たれて天を目指す。
そうなったシモンは止まらない。
「戯言を・・・まるで話にならない」
「!?」
「その身勝手な思想の犠牲となるのは・・・あなたではありません・・・あなたに何が出来る。真実や現実を夢想で誤魔化すのは、私がもっとも嫌悪する事です」
瞬間、クロニアの姿が消えた。
完全にこの空間から存在を消した。
だが・・・・
「はあああああ!!」
「なッ!?」
シモンは何も無い空間に向けてソルバーニアを一閃した。
すると丁度その瞬間、シモンの背後にあったその空間の亀裂から、クロニアがシモンに向けてトライデント・スパイラルを振り下ろす寸前だった。
「・・・・・ッ・・・何故・・・・・・・・」
まさか防がれるとは思わず、クロニアは両目を見開き、声には出さないが驚いている様子だった。
先ほどまではこの動きでシモンを翻弄していたというのに、その動きをいきなり攻略されてしまったのだ。
「この技・・・スピードじゃない・・・螺旋界認識転移システム・・・ワープだろ? お前はこの近距離でショートワープを使うことで相手に認識できない速さで接近してたんだ」
何度も彼女はシモンに認知できないほどの速さで背後まで接近した。
それはスピードではない。近距離のワープだったのだ。
螺旋界認識転移システムを螺旋力により自在にコントロールしているのだろう。
「だけど俺には分かる・・・一度認識してしまえば、俺の超螺旋索敵能力なら全て分かる」
笑みを浮かべるシモン。
そう、螺旋索敵の力なら例え相手がワープを使って接近しようとも、一度クロニアの存在を認知してしまえばシモンには感知できるのである。
気配や空気の流れなどを読む必要は無い。存在しようが消えようが、最初からクロニアだけを感じ取っていれば良かったのだ。
得意げなシモンに対してクロニアは、納得がいったのか軽くため息をついた。
「テレポートに感知能力・・・この力も知っていましたか・・・しかし螺旋界認識転移システムや螺旋索敵など、まるでメカのような名前ですね」
「メカか・・・まあ、間違ってはいないけどな・・・」
シモンも自分と同じ力を使う。それを改めて認識したクロニアは、一つの疑問が浮かんだ。
「・・・解せません・・・」
「えっ?」
「テレポーションの力も知っているのなら、あなたも使えるのですか?」
「ああ。俺なら地球だろうと銀河の果てだろうと、多元宇宙だろうと跳べるけどな」
「・・・・・ならば何故、ネギ・スプリングフィールドや他の生徒たちを地球に帰さないのです? それであなた方の旅の問題をほとんど解決できたはず」
勿論それはクロニアの言うとおりだろう。もっとも記憶喪失やゴタゴタが多く重なって中々全員揃わなかったため出来なかったのもある。
だが、理由はそれだけではない。
「あいつらにもやるべきことがあったからさ。自分で決めた、命懸けの道がな」
父や母のこと、世界の秘密、世界を救う、世話になった人たちを助ける、理由は様々だが向かうべき場所は同じ。
その道を前に進まずに、ネギたちも自分たちも、地球に帰る選択肢はなかったのだ。
「くだらない・・・」
「なんだと?」
「命や信念・・・その重みを賭けられるほどの子達でしょうか? その意味を知る子達でしょうか? 言葉に酔っているだけなのでは? まだ10歳と中学生の少女たちです」
確かにそうかもしれない。
「そのような者たちや・・・そしてそのようなあなたに世界も未来も託すことなどは出来ない」
特にネギの生徒の少女たちはどこか物事を楽観視している面があるかもしれない。
「俺だって14歳の時には多くのものを背負っていた。何も分かっていなくても、分かっていないからこそ分かるまで前へと進んだ。だからいいんだ。出来るかどうかや分かっているかどうかじゃない。そう思うかどうかが俺の基準なんだよ」
だが、シモンはそれで構わなかった。
「そう・・・思うかどうか?」
「だから俺にはそれで十分なんだよ。言葉の重さや深さは別にして、気持ちはあいつらも本物なんだよ」
言葉と思いさえあれば十分なんだと、シモンは笑った。
「それに子供子供ってあんまりあいつらを甘く見るなよな。世界を造るのは大人の役目だけど、世界を変えていくのは子供たちなんだからな」
その笑みがどこか眩しく、そしてクロニアには・・・
「暴言・・・を・・・・」
「螺旋銃(らせんがん)」
「ッ!?」
そして次の瞬間、クロニアは右手の指をピストルの形にしてシモンに向ける。
するとクロニアの指先からレーザー光線の様なものが螺旋を描きながら、シモンの真横を通りすぎだ。
シモンが使ったことの無い螺旋力の使い方だ。
「思うだけでいいと・・・ならば覚悟も道理もなく進むあなた方はやはり危険・・・あなたは私と同じ・・・しかし私たちは違う。あなたと私は違う。本能の赴くままに己の欲望のためにこの力を使うあなたは、やはり私とは違う」
少し様子が変わった。
「何だ・・・そんな風に怒れるんだな」
最終更新:2011年05月13日 21:25