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119-2

顔には出さぬ怒りの感情が、螺旋力のオーラとなって表れた。

紅く紅く染まった輝きが、クロニアから勢いよく溢れ出した。


「あなたの説得は不可能・・・例え力ずくでも・・・さらに、狂い笑いとの戦いにも備え、力も温存しなければならない。なら・・・」


「・・・どうするんだ?」


「あなたには・・・事が終わるまで夢の中に居てもらいます・・・全てが終わった後に、全てを話し合いましょう」


「なにっ!?」


クロニアがまた姿を消した。

テレポートだ。だが慌てることは無い。クロニアの存在だけを感知し続ければいい。

だが・・・


「あ・・・あれ?」


「無駄です」


「ッ!?」


螺旋銃と呼ばれたレーザー光線が、シモンの足を貫いた。

クロニアの存在を感知できるかと思えば、感知することが出来ずに攻撃を被弾した。

螺旋力のフィールドで威力は殺しているものの、クロニアの攻撃がヒットしたのである。


「な、なんで・・・感知できない!?」


超螺旋索敵によって網を張っているにもかかわらず、クロニアのワープが感知できず、突然出現した攻撃に反応できなかった。


「知らないのですか?」


「ッ!?」


クロニアの声だけが聞こえた。


「螺旋の力を使うのは我々だけ・・・しかしテレポートや感知能力を使う者はこの世にも多く存在します。これは対彼ら専用の技」


「なにっ!?」


「その名も、ランダムシュレーディンガーワープ」


その言葉にシモンは見えないクロニアに向けて悲鳴を上げた。


「な、なんだそれは!? 分かる言葉で教えろ!」


「多次元確率変動を制御し、時間軸の中を揺れながら動くため、誰にも感知されずにテレポートすることが出来る・・・」


「そ、そういえば昔リーロンかロージェノムヘッドがそんな事を・・・・」


アンチスパイラルとの戦いのときに、そのような会話があったなとシモンは思い出そうとするが、ただでさえ分からない内容を、今更覚えてなどいない。

ただ、あの時はどうやったのか・・・・


「螺旋連銃(らせんれんがん)」


考える間もなく、何も無い空間から出現したレーザービームの連弾に、シモンのわき腹、肩、両足の皮が焼かれていく。

ソルバーニアの超反応で決定打は避けるものの、ジワジワと湧き上がる痛みにシモンが苦痛の表情を浮かべた。


「まずは深い眠りに落ちるため・・・動けぬように痛めつけ・・・・」


「ちっ・・・このおォ!」


感知も出来ないショートワープを多用した連続攻撃でシモンを痛めつけながら足を止め・・・


「その膨大なエネルギーを封じておきましょう・・・」


「ッ!?」


レーザー砲の連続で痛みに顔を歪めていたシモンの眼前に、今度は突然巨大な龍が出現し、シモンの体に巻きついた。


「な、なんだこの技は!?」


その龍は、長い体でシモンを締め付け、鉤針のような鱗をシモンの体に食い込ませ、そこから衝撃波を放つ。


「意思を喰らう龍。反螺旋鈎化鱗砲。あなたの力を封じさせてもらいます」


シモンの体に激痛が走る。途端にみるみるうちに螺旋力が減っていくように感じた。


「何だ・・・この攻撃は・・・」


「生命体に衝撃を与えて意思を封じることによって力の発現を止める技・・・」


「ぐわああああああああああああああああああ!!」


体に巻きついた龍は引き剥がせない。

それどころかシモンの膨大な螺旋力に反応したのか、余計に食い込み、神経が焼かれるような激痛が走った。


「魔法使いや術士の力を抑えて封じるための力でしたが・・・どうやら同族にも有功だったようですね」


龍が吼えてシモンを締め上げる。

気力と気合で振り払おうとするシモンだが、両腕も両足も押さえられ、足掻くことすら出来ない。

ミシミシと食い込む龍の鱗に、螺旋の力を奪われ、全身の力を奪われ、シモンはやがて声を発することも出来なくなる。


「ここまですれば深い夢の中へと行けるはず・・・どうか・・・幸せな夢を満喫するのです」


ぐったりとしているシモンの姿を前に、ようやくクロニアが姿を現した。

そして彼女が指をパチンと軽く鳴らした瞬間、シモンの体に巻きついていた龍が消え、シモンがクロニアに向かって倒れてきた。

その体を、少々重いがクロニアは正面からしっかりと抱きとめた。


「ぐっ・・・お・・・前・・・・」


手も足も出ず圧倒されたシモンがクロニアの肩に顔を置きながら、何とか立ち上がろうとするが、ダメージが抜けない。


(くそっ、油断しすぎた・・・・って・・・最近なんだか色々なやつにやられてばっかだな・・・・)


すると、未だ足掻こうとするシモンの耳元にそっとクロニアが手を置き、口を寄せた。


「少し移動します・・・・」


「何?」


その瞬間、クロニアとシモンの体に光が包み込んだ。

シモンにはそれが何のための光か分かった。ワープのための力だ。

一体この状態の自分をどこに連れて行くのだと叫ぼうとしたが、口がうまく動かない。

空気が揺れ、空間に僅かな亀裂を生み出し、二人はこの空間から姿を消した。

当然一部始終を見ていたフェイトたちも、二人の行方を慌てて追いかけようとした。

だが、それほど慌てる必要などは無かった。

何故ならワープを使ったものの、二人はまだこの宮殿内にいたのだ。

そう、シモンが連れて行かれた先・・・




「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・えっ?」」」」」」」」」」




そこには見たことのある飛行船と少年少女たちが居た。



「・・・・あれ? こ・・・ここは・・・・」



連れて行かれた空間の先にいた人物たち。

彼らも突然現われた自分たちに驚いた顔で固まっていた。だが、それも次の瞬間、喜びの顔へと変わっていた。

シモンも目が点になった。

涙目でこちらを見ているのは間違いなく・・・・



「ア、・・・ア・・・・・兄貴ぃーーーーーーーーーーッ!」



「リーーーーーーーーーダーーーーーーーーー!」



「シモンさん!!」



美空やココネにシャークティ、そしてグレン団の仲間たちに、ネギや木乃香たちだった。


「お、・・・・お前たち・・・・何で・・・」


キョロキョロと辺りを見渡すが、宮殿内であることは変わらない。どうやらクロニアは宮殿内に進入したばかりのネギや美空たちの下へ自分を連れてきたようだ。

      • 何のために?


「シモンさんや~~~! ・・・って・・・・・シモンさんが見知らぬ女の人に抱きしめられとるうううううう!?」


木乃香が空気を読まずに慌てたように叫んだ。


「あんたはまたですか!?」


「リーダー! いくらなんでも自重しねえとフォローできねえぞ!」


豪徳寺たちも木乃香の言葉にハッとなり、シモンの怪我などを気にせずに非難してきた。


「ま、待て・・・ここは・・・それに・・・ネギたち・・・どういうことだ?」


「でも良かった。先に行かれて僕も少し心配だったんですけど、シモンさんも無事でよかったです!」


非難轟々だが、それどころではないために、シモンは何とか宥めようとする。

するとそのシモンの傍に居るクロニアを見て、数人の少女たちが首をかしげた。


「ね、ねえ・・・誰あの人? アキラ~」


「裕奈・・・私が知っているはずないよ。でも・・・敵なのかな? すごく綺麗な人だけど・・・・・」


シモンの登場にも驚いたが、初めて見る女性は誰なのだとクロニアに視線を集めていた。


「あの人・・・ま、まさか・・・テ・・・テンジョウさん? 何で・・・・ここに・・・シモンさんと?」


皆が分からぬ中、シャークティだけがクロニアを知っていた。


「シャ、シャークティ先生! 知っているんですか?」


ネギが初めて聞く名に振り返る。


「ええ・・・ですが・・・どういうことですか?」


だが、シャークティ自身もこの事態の説明が出来ることはなく、一体何が起きているのかと頭を抱えだした。

誰かこの事態を説明してくれ。

誰もがそう思っていた。それゆえ、誰もが口を開けなかった。

そんな疑問によって生み出された沈黙を、とボケた口調の少女が打ち破った。



「おやおやポヨヨ。話し合いでは無かったポヨか? せっかく二人きりにしたのに」



その少女は、シモンがまったく知らない少女だった。


「えっ・・・・あれ?」


いや、顔はどこかで見たことがある。ただ話したことは無い。

そう、あれは確か修学旅行だ。

ネギのクラスの生徒たちと京都へ行ったとき、確かあのクラスの生徒の中に居た・・・


「はい。今は悠長な時間が無いと思い、後回しにしました。とりあえず彼には余計なことをされぬよう動きを封じ、後は寝ていてもらうことにしました」


クロニアが少女の言葉に答えた。どうやら顔見知りのようだ。

そのやり取りを見ていたネギが、溜まらずに少女に向かって叫んだ。



「ザジさん・・・これもあなたの仕業ですか!?」



ネギの言葉でようやく思い出した。

そう、名前はザジ。ザジ・レイニーデイ。ネギのクラスの生徒の一人だ。


「・・・って・・・俺も全然知らない子だけど・・・ネギの生徒なんだろ? あの子もお前たち側の子なのか? 魔法世界に来てたのか?」


「いえ・・・私たちがゲートの切れる寸前にこの世界に来たとき・・・確かに彼女は麻帆良学園に居ました・・・だから・・・ありえるはずはないのですが・・・」


意外な人物の存在に首をかしげたのはシモンも同じ。そしてその隣でシャークティが呟いたことにより、余計に疑問が深まった。


「そうだ、シモンさん。シャークティ先生の言うとおり、こんなことはありえない。現在世界観の移動は不可能。これは罠だ。ネギ先生も動揺するな」


「確かに全ゲートが途絶えた以上、彼女がここにいるはずが無い」


龍宮と刹那がシモンたちの前に現われ、動揺するなと叫んだ。

もっともシモン自身、ザジのことを良く知っているわけではないのでどう反応していいのか分からないが、ネギの生徒たちにとっては違うようである。


「もうどういうこと!? ザジさんが居るし、シモンさんが知らない人と現われて、しかもザジさんの仲間っぽいし!?」


「ダメだ~~~、もう混乱して何がなんだか分からん!」


「・・・ザジさんも気になるんやけど・・・・あの女の人もなんか気になるえ・・・・」


千雨たちの反応が普通なのだろう。

クラスメートの女性が何故か目の前に現われ、シモンと共に現われた女性と知り合いのようなやり取りを見せ、明らかに敵として自分たちの前に立ちはだかっているのだ。


「おいおい、結局あの二人は敵ってことでいいのかよ?」


「いや・・・リーダーやシャークティ先生も、子供先生も分からない様子だから・・・・」


豪徳寺たちも、敵を前にしながらも誰も戦おうとしないこの状況をどうすればいいのかと迷っている。

だが、シモンもネギも何も言ってやることは出来ないで居た。


「・・・その子を連れてきたのは・・・クロニア・・・お前か? お前ならゲートが無くても出来るはずだ」


ゲートが閉じているから、目の前のザジはザジではない。それが刹那や龍宮の言い分だ。

しかしシモンは知っている。自分と同じ螺旋族のクロニアなら、ワープの力を使えばゲートが無くても魔法世界と地球を行き来できるのだ。

しかしその考えはアッサリと否定された。


「いいえ。私たちは確かに知り合いですが、そもそもここで会ったのはただの偶然。私は先ほども言ったように、狂い笑いを始末するために来た。ですが、あなた方を止めなくてはならないという考えは同じでしたので、こうして並んでいるのです」


「・・・・・・・それじゃあ、その子もお前と同じ考えっていうことか?」


シモンがザジを睨みつけると、クールな表情をしている少女からは実にふざけた口調で言葉が返ってきた。


「クロニアさんが何と言ったかは分からないが、多分そうポヨ」


これまた変な女が出てきたものだ。だが、ふざけているようでもその瞳は真剣だった。


「穴掘りシモン。先ほどネギ先生にも言ったが、恐らくあなたたちの進もうとする未来は、あの超鈴音が止めようとした未来に繋がっているポヨ」


「!?」


「今回の件で一躍有名人になってしまったあなたも無関係ではない」


そうなのだろうとは、思っていた。

ネギや美空たちの様子を伺うと、小さく頷いていた。恐らく自分がいない間にそんなやり取りがあったのだろう。


「クロニアの話を聞いてそうなんだとは思っていた・・・そうなんだろうな・・・魔法世界に俺の記憶映像が流れて皆がグレンラガンを知って・・・ユウサが現われ・・・超が言っていた未来を想像した」


「そうポヨ。それなのにあなたも足掻くというポヨか?」


あなたも・・・再びネギを見ると、ネギはまた頷いた。

そう、ネギも足掻くのだ。それでも前へ進む意思を示したのだ。

その想いの根源は違うかもしれないが、気持ちは同じ。


「多分・・・超も俺にそれを望んでいるはずだ」


シモンはネギと同じようにザジに向かって頷いた。


「確かに話にならないポヨ」


ザジもシモンの返答にそれほど驚いてはいないようだが、それでも呆れた言葉が返ってきた。


「ならば仕方ない・・・あなたもまとめて・・・」


その言葉と共にザジが何かを取り出した。

それは見覚えのあるカードのようなもの・・・


「アーティファクトカード! みんな、気をつけろ!」


龍宮が誰よりも早くに察知して、皆に警戒を呼びかける。

だが遅い・・・




「アーティファクト『幻灯のサーカス』」




未知なる力が光だし、白き翼とグレン団たちは飲み込まれていく。



誰かが叫ぶが、その叫びすらも飲み込まれる。



姿だけではない、声だけではない、意識すらも飲み込まれていく。



知性や心がある限り、決して逃れることの出来ない、永遠の園、無垢なる楽園・・・



「おやすみなさい・・・・・」



完全なる世界に意識を食われたのだった。












眩しい光が瞼の裏からも感じた・・・












天の光は全て星。



螺旋の友が住む星々だった。



あの戦いからどれだけの月日が経っただろう。全銀河の存亡を賭けた戦い。アンチスパイラルと大グレン団の戦いだ。



あの戦いの後、シモンたちの勝利と共に他銀河の螺旋族たちが、喜びの声を一斉に地球に届けてきた。



アンチスパイラルによって封じ込められていた様々な惑星の螺旋族たちが一斉に解放されたのだ。



自分たちの戦いは時空転移バイパスにより他惑星にも伝わっていたのだ。銀河にはこれほど多くの友がいたのだと、うれしい気持ちになった。



もっとも、そのお陰で自分を始め、ロシウたちと共に毎日が復興と外交に忙殺されていた。



派手に戦っていたほうが楽だと思いたくなるほどの書類の束をどれだけ見てきたかは分からない。



一度眠りに着けば死んだように眠り続け、起きればまた政務がある。



戦いが終わったというのに、厄介な敵が意外とまだ残っていたのだなと、毎日思わずにいられなかった。



そんな日々が数年たってもまだ続いていた・・・




「―――きて・・・お―――て・・・ねえ~・・・お~き~る~」




声が聞こえた。



幼い女の子の声だ。



ゆさゆさと起き上がれぬ自分の体を揺らし耳元で何かを叫んでいる。




「う~ん・・・・もう少し・・・・」




だが自分は起きれない。



起きれない上に起きたくない。疲れきった体と心が拒否したのだ。



すると諦めたのか、声の主は黙り、自分を揺らす動作も無くなった。



これ幸いと再び眠りに着こうとしたのだが・・・




「む~~~~」




少女は急に唸りだし、立ち上がったかと思えば・・・・




「お~き~る~!!」




「ぐわああああああああ」




寝ている自分の腹の上にダイブしたのだった。



「うう・・・いつつ・・・な、なんだよ一体?」



眠い眼を擦り、大きくあくびをして体を起こす。

すると起き上がった自分の腹の上には、頬をむくれさせ怒った顔をした幼い女の子が腕を組んで座っていた。



「パーパ、起ーきーるーのー! お休みの日に寝てるの、めーなの!」



                    • 沈黙が流れた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」



状況を把握するのに何秒も掛かった。


「ぶ~、パーパ今日お休みだから遊ぶって約束した! 前からずっとした! 何で寝てるの? つまんない!」


「・・・・・俺は・・・・・」


寝ぼけているのか、少女に何も言ってやれない。

目の前にいるのは4・5歳ぐらいの女の子。自分を父と呼ぶこの子は・・・・



「こら、ダメなのです」



「あっ、マーマ」



「シモンは疲れているのです。とっても、とっても疲れているのです。だから優しく起こさないといけません」



寝室にやわらかい声が響いた。

その声におなかの上に乗っていた子供が飛び起きて、その声の人物まで駆け寄り、足元にしがみついた。



「でもマーマ・・・最近パーパはロシウたちと一緒・・・全然構ってくれないもん・・・・」



涙目で拗ねる少女。

そんな少女を優しく抱き上げ、女性はニッコリと微笑んだ。



「大丈夫。シモンは構っていなくてもいつも心の中であなたのことを思っているのです。どんなに離れていても、お父様はちゃんとあなたの事を思っているのです」



「・・・ほんと~?」



「ほんとうです」



抱っこされながらこちらを見てくる少女・・・


そして少女を抱き上げている女性は・・・



「だからシモンもいい加減に起きるのです。疲れているのは分かりますが、娘を悲しませては・・・そうです、父親失格です! 早く気合で起きるのです!!」



ビシッと指差しながら自力で起きるように諭される。



「わ、分かったって・・・う~ん・・・今起きるよ・・・ふわあ~~~あ」



自分は寝ぼけているのかもしれない。


頭の中が支離滅裂である。


ただ分かっているのは・・・・



「ほら、お父様は大丈夫なのです。キチンと自分の力で起きられるのです!」



「まったく・・・何なんだよ朝から・・・・」



「ふふ、おはよう、シモン。ごきげんよう」



目の前にいる女性は自分の最愛の人であり・・・



「ああ、ごきげんよう、ニア」



そして・・・



「パ~パ~、やっと起きたの~」



「ああ・・・・ごめんよ・・・おはよう・・・・・・・・」



うれしそうに再び自分の胸に飛びついてきた少女は・・・




「おはよう、・・・・・・ソラ」



自分の娘だということだけだ。



「うん、パーパ、ごきげんよう! ソラ許す! パーパ起きたから許す!」



この世界に天井は無い。


これからも、この天井の無い空を子供たちが見ていられるような世界にしたいと願って付けた名前。


そうだ、自分はアンチスパイラルの戦いの後、ニアと結婚し、そして子供が・・・・ソラが生まれた・・・



「どうしたのです、シモン。頭がボーっとしているのですか?」



眼が覚めても頭が覚めない自分の顔を覗き込むニア。



「パーパ、ねぼすけ~?」



「ネ・・・ボス・・・ケ? まあ、それは一体どこのボスなのですか?」



「分かんない。でもおじちゃんが言ってた。パ~パはたまに、ねぼすけだって」



「まあ、アニキさんが! それならきっとそうなのです。シモンはねぼすけなのです!」



他愛も無い母娘のやり取りを眺めながら、シモンは何とかベッドから立ち上がろうとする。


その際、おなかに乗っている娘を抱きかかえて立ち上がろうとしたら・・・




「お天道様が昇ったからには、気持ちも昇らにゃ顔向けできねえ! 男は朝から天を仰いでお日様掴め!」




壊れたのではないかというほど勢いよく寝室の扉が蹴破られ、朝っぱらからよく響く声で男が乱入してきた。



「おう、シモン! な~に寝ぼけてやがる! さっさと起きやがれ!」



カミナだ。


朝から無断で人の家に侵入してきたカミナだが、もうこれには慣れた。


驚くとカミナを喜ばせるだけなので、シモンも返事だけ返して軽く手を上げた。



「おじちゃん! いらっしゃい! ごきげんよう!」



「へい、ソラ~。俺はまだおじちゃんなんて年じゃねえって言ってるだろ? アニキって呼べよ!」



「でもアンネちゃんはアンネちゃんのお母さんのお兄ちゃんのキタンおじちゃんをおじちゃんって言ってるよ~。パーパのアニキはソラのおじちゃんだよ~?」



「バカやろう。言葉の理屈や意味も要らねえ。必要なのはその呼び名に熱が込められているかどうかだ! おじちゃんじゃあ、熱さを感じねえだろ~?」



カミナが来たのがうれしいのか、シモンのお腹の上から飛び降りて、ソラはとことことカミナの下まで行ってしまう。



「でもおじちゃんがアニキならおじちゃんはソラと兄妹になっちゃうよ~?」



「まあ、それは大変です。それではアニキさんは私の息子になってしまいます」



「な~に、細けえことは気にするな! 人は皆星より生まれて、人類は皆兄弟だ! 会ったこともねえ大昔の人間が作った言葉の法則に惑わされることはねえ!」



朝からこの三人は何の話をしているのかと頭を抱えるが、いつものことだ。

会話になっていない会話を繰り広げるのは日常茶飯事、今更驚くことは無い。



「おう、シモン。さっさと起きろ。今日は大グレン団総出で花見をするんだろうが! 今からそんなんで耐えられるのか~?」


「お花見? お花見! ホント!? やりたいやりたい!」



「ほ~ら、娘は気合十分だ! 子供の気合は親譲りと相場が決まってる、その親が負けてどうするんだ? 子はいつか親を超えるというが、まだまだそれは早えだろ? 何ぐずぐずしてやがる。お前は自分を誰だと思ってやがる!」



「うん、思ってやがる~。パーパはソラのパーパ!」



天に向かって指差し叫ぶカミナを真似して、ソラも楽しそうにぴょんぴょん跳ねながら指を天に向かって叫ぶ。

やれやれと、ここまでされたら起きないわけにもいかない。シモンも仕方なさそうにしながらもようやく起き上がった。



「まったく朝から皆して・・・とりあえずアニキもおはよう。ひょっとして皆もう集合してるのか?」



「おう。それに聞いて驚くなよな。でこ助が気を利かせて、今日はなんとあのツルピカ親父頭まで連れてきてるらしいからな」



「ロシウが気を利かせて? ・・・それってまさか・・・・ロージェノムヘッドのことか?」



「まあ、お父様まで来てくださるのですね。ソラ、良かったですね。おじい様も来るそうですよ?」



「やたーーッ! 顔だけジージも来てくれる~!」



アンチスパイラルとの戦いの後、ロシウがロージェノムヘッドに蓄積された知識の数々をこれからも役立てようと政府の相談役としての役目を与えている。

ソラが生まれたとき、あれが本当に螺旋王ロージェノムを元に作られたクローンなのかと疑うぐらいの溺愛っぷりで、デレデレしていたのには正直引いた。

ソラもソラで、流石はシモンとニアの娘なのか、自分の祖父が首だけしかないというのに細かいことは気にせずに、ロージェノムヘッドを「ジージ」と呼んで慕っている。

もっとも赤ん坊の頃は怖くて泣き出していて、ロージェノムヘッドもショックを受けていた記憶もまだ新しい。



「じゃあ今日は本当に久々全員集合だな。最後に本当に全員で集まったのは・・・あの戦いを経て、全員無事で生還して以来かな?」



「ああ、アンスパ野郎共との戦い以来だな」



そう、アンチスパイラルとの戦いに挑み、自分たちは命懸けの戦いを経て、何と全員無事という大勝利を手にしたのだ。

ニアもカミナも、そしてヨーコやキタンたち大グレン団の仲間たちも、この新たに開放された世界で毎日を生きている。

これが自分たちの望んだ世界。そしてこれが自分たちの掴んだ明日だ。


「でもよ~、シモン。今日はいつも以上にぐっすり寝てたみたいじゃねえか。何か夢でも見たのか?」


「うん・・・まあ・・・変な夢だけどね」


「まあ! シモンはどんな夢を見たのですか?」


いつもよりのんびりしていた自分にカミナとニアが顔を覗き込んで尋ねてくる。

そう、カミナの言うとおりだ。

鮮明には思い出せないが、何か長い夢を見ていた記憶だ。



「なんかさ・・・俺が一人でこの国を離れて世界中を旅して・・・出会った先の子達にアニキって呼ばれたり、ちょっと可愛い女の子に好きだって告白されたり、一緒にすごい奴らと戦う夢なんだ・・・それに俺がグレン団のリーダーになってたり・・・」



口に出しても変な夢だ。

そしてその夢の内容に対して、カミナもニアもソラも怒った顔をしてシモンに詰め寄った。



「ああ~? 何でお前がこの俺様を差し置いてアニキと呼ばれてリーダーになるんだ、相棒! 俺がアニキでお前が弟分! この魂の理は死ぬまで変わらねえだろうが! そして俺は死ぬまでグレン団の鬼リーダーだ! これがこの広い銀河でも覆せねえ、俺たちの法則だろうが!」



「そうです。それにシモンを好きなのは私なのです。シモンが好きなのは私とソラではないのですか?」



「パーパ浮気はめーーーッ! それにソラとマーマ置いていったらやだーーー! どこにも行っちゃやーー!」



そうだ、ありえない。

シモンの胸に顔をうずめてブンブン首を横に振る娘を見て、苦笑した。



「大丈夫。夢だって。俺がアニキなんて呼ばれるはずないし、グレン団のリーダーになることもないし、ニアやソラ以外を愛することも、皆を置いて一人だけ旅をするなんて絶対にありえないよ。だからソラも泣くなよ」



「う~~約束だよ~」



カミナがいるのに、何故自分がアニキと呼ばれるのだ? 何故自分がグレン団のリーダーになるのだ?

ニアが居て、ソラが居て、何故他の誰かに愛されることがあるのだ?

何故二人が居るのに一人で旅をしなくてはいけないのだ? 

だから夢だ。そう、夢なのだ。

この温もりこそが現実なのだと、シモンはソラを抱っこして寝室から出る。

広いリビングには、強い日差しが指し、今日が晴天であることが直ぐに分かった。

今日は正にお花見日和。



「今日は・・・・楽しい一日になりそうだな」



大きな戦いと忙しい日々を経て、ようやく訪れた安息の一時を愛おしい者たちと共に過ごす。何と贅沢で幸せな日々だろうか。

シモンはその幸せをかみ締め、そしてニアもお弁当の準備をはじめ、いざ皆が待つ場所へと出発するのだった。












「満たされぬ想いが多ければ多いほど・・・心の穴が大きければ大きいほど・・・この甘美な夢からは逃れられない・・・知性や心がある限り、決して逃れることの出来ない、永遠の園、無垢なる楽園・・・それが『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』・・・」
最終更新:2011年05月13日 21:25
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