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120-掘るものが無いからさ

第百二十話 掘るものが無いからさ 投稿者:兄貴 投稿日:10/10/13-20:25 No.4406

「このクソトカゲがアアアアア!!」



世界や時代の流れなど何も知らず、それどころか知ったことではないというような気迫で今を戦う者たちが居た。


そう、彼らにとってはこれから先がどうなるかなどどうでもいい。


何故なら彼らの戦うべきときは今だからである。今戦わねば未来もクソも無い。


魔法世界の存続が引き起こす問題や自分たちの世界の真実が何であろうと、この世界に生き続け、存在し続けるための権利を勝ち取るための戦いが、墓守人の宮殿の外で繰り広げられていた。



「ウガアアアアアアアアアアアア!!」



「グルウウウウウウウウウウ!!」



宮殿外の上空にて、八俣の大竜という規格外の怪物を相手にチコ☆タンは己の全力の攻撃をぶつけていた。

先ほどシモンとの合体技で、八俣大竜の胴体に巨大な風穴を開けたのだが、この怪物が消滅するまでには至らなかった。

月詠の禁術により創り出された怪物は、他の召喚魔のレベルを遥かに凌駕していた。

シモンとチコ☆タンの合体技で深手は負ったものの、その表皮の硬さはチコ☆タンの拳を耐え切り、その攻撃力はチコ☆タンに大ダメージを与えたほどの破壊力だ。

その怪物をチコ☆タン一人が請負、上空で巨大な火力を秘めた二匹の怪獣大決戦が繰り広げられていた。


「ダメネ! 隊長はあのデカブツで手一杯ヨ! 神速部隊! 今すぐ隊長の周りの援護ネ! リーダー特製確率変動弾の装備を忘れてはいけないヨ!」


「あばば・・・でも隊長抜きだと、あの何十万の召喚魔たちに勝てない~!! ええ~~い、ケルベロス全砲開放!」


圧倒的な敵の戦力。更にこちらの攻撃を無効化する力を秘めた化物も混ざっている。

いかに世界の連合艦隊と共に戦っていたとしても、戦況は明らかに押され気味だった。


「ち~~、他の奴らは!? 獣人四天王たちはどうなった!?」


ケルベロスの操舵室ではこの状況に動揺が走っていた。

劣勢状態を覆すには、こちらも戦力を立て直すしかない。

しかし肝心の主力となる戦士たちも、敵の幹部を相手に手一杯だった。


「ゲンバープレス!!」


「舐めるな!!」


巨大化したアムグの渾身の圧殺技を受けるデュナミス。

しかし逃げる術も無い強靭なアムグの腕力に対して、デュナミスは黒い影をその身に幾重も纏い、身に着けた黒いローブを突き破るほどの巨大な姿となり、力ずくで逃れた。


「ふん、流石にやりおるわい。いよいよ悪の大幹部戦闘形態発動というところかのう? じゃが・・・」


「そちらこそな。傀儡とはいえ腐っても英雄。20年前に戻った気分だ。だが・・・・」


互いのガタイの大きさはほぼ同じ。


「「消えるのは貴様だ!!」」


互いの拳がぶつかり合い、衝撃が弾け飛ぶ。

パワーも互角。

戦闘経験もほぼ互角。

勝敗を分けるとしたら・・・・


「くけええええええええええ! その首、貰い受ける!」


「ぬっ! させぬわァ!」


連携攻撃だろう。

二人の攻防にマンドラが上空から急落下しデュナミスの首を狙う。だが、デュナミスとて簡単にはやられない。

マンドラの鋭い刃を、即座に造り出した影の傀儡を盾にして攻撃を回避する。


「おのれ・・・しぶとい奴め」


「ふん。伊達に追っ手から逃れて20年も生きながらえてはいない。この20年を思えば、そう簡単にこの首はやれんな!」


実質2対一。だが、デュナミスは時折影を使った傀儡兵を戦いの中に入れるため、数的優位を活かすことが出来ず、中々互いに決定打に欠けていた。

だが、デュナミスもマンドラもアムグもこの終わりの見えぬ戦いをどこか楽しんでいた。

宮殿内での戦い、それどころかこの空中の攻防戦の戦況すら見向きもせず、目の前の旧知との戦いに夢中だった。

ゆえにアムグとマンドラもチコ☆タン同様に連合軍に加勢が出来る状況ではない。

そしてそれはミルフもディーネも同じだった。


「アルカイド・ブレイブ!!」


「死にやがれ小娘ェ!!」


二人の獣人が繰り出す技に対し、二刀を駆使して正面から斬り返すのは月詠。


「神鳴流奥義・千花繚乱!!」


互いの獲物から繰り出された技の相殺が続き、こちらも決着が見えなかった。


「ぬう・・・・流石は近衛詠春と同じ流派ということか・・・・」


「へん、だからどうしたってんだい。裏技さえ使われなければ、こんな小娘に負けるわけがないんだよ!」


デュナミスと月詠の隙を突いて、二人から造物主の掟の鍵を奪った彼らは、その名に恥じぬ力で十分に月詠と互角に戦っていた。


「ふふん、言ってくれはりますな~。造り物の木偶にこれほどの力が備わっとるんわ予想外でしたえ」


当初はネギたち以外に興味を示さなかった月詠だが、そのバトルマニアの心を獣人四天王たちの力は十分に刺激させた。

今では彼女自身もこの戦場の空気に当てられ、トロンとした表情で彼らと刃を交えていた。

これはネギたちにとっては有利な展開だった。クロニアやザジ姉というイレギュラーはあるものの、完全なる世界の主力とも言えるデュナミスと月詠を宮殿外で引き止めることが出来たのだ。

だが、連合軍全体からすれば、チコ☆タンや獣人四天王という貴重な戦力を削がれている事は大きなリスクでもあった。


「ち~~、敵の数が多すぎるぜ!? おまけに俺らの大戦力も敵の主力に捕まってやがる!」


「マズイぞマズイぞ! 攻撃が効かねえ敵もまだ何十万も居るのに、俺たちだけじゃ持ちこたえられねえ!!」


後方で待機して援護射撃をしている連合艦隊とは違い、空中に浮遊する岩島を足場にして、最前線で戦うメガロメセンブリアの大監獄の戦士たちは徐々にこの劣勢に押されて後退していく。

ドウカツ部隊、神速部隊、ミルフ隊などの戦士たちも勢いが衰えている。


「怯むなァ!! ここで死する運命など受け入れるな! 勇んで抗ってみよ!! 我らの世界を守るのだァ!!」


ドウカツも懸命に激を送り、戦士たちの戦意を保とうとするが、それでも当初の荒ぶる勢いは消えうせ、今では皆が敵の攻撃から逃れることで手一杯だった。


「くっそ~、・・・・押せえ! 押しまくれえ! 雑魚共を誰一人ここから先に行かせるなァ!!」


「うりゃああ、ぶち殺せえ!! 撃ちまくれえ!!」


その戦力も徐々に減り、ついに最前線の壁が敵の兵力を前に崩れ始めた。


「ダ、ダメだ! 数が違いすぎる! おまけに変な鍵持ってる化物共が邪魔だァ!」


「ヤベエ! 押し切られるううううううう!!」


「畜生、これまでかよォ!!」


戦士たちの悲鳴が響き渡る。

確実に迫り来る消滅を前に、戦士たちは縮こまり、押しつぶされそうになっていた。

だが、その時消滅を覚悟した戦士たちの横を、力強い風が通り抜け、数多の傀儡たちを吹き飛ばした。


「まだだ!」


目を開けたら戦士たちの背後には一人の男が立っていた。


「そう簡単にあきらめたら、前を走る子供たちに笑われちゃうよ?」


タバコを吹かし、ポケットに手を入れながら姿を見せたのはタカミチだった。


「なっ!?」


「ア、・・・・アンタは!?」


囚人も政府の兵士たちも知らぬものは居ない、魔法世界の英雄タカミチ。獣人四天王にすら劣らぬ名声と力を持つ者だった。


「神鳴流・雷鳴剣!!」


今度は別の場所から雷が鳴り響いた。


「ふっ・・・・、我々だけ安全地帯で見守っているだけというわけにもいかない。文字通り体も張らないといけませんからね」


続いて現われたのはクルトだ。

いや、クルトだけではない。


「オラオラ! 消滅が何だってんだ!!」


「戦争で命を賭けるのは当然のことぞ! 童たちばかりに重荷を背負わせぬ!」


「だから全軍・・・・・・・上を向いて戦いなさい!」


メガロメセンブリアのリカード、ヘラスのテオドラ、アリアドネーのセラスまでもが、数多の傀儡たちと交戦しながら、この戦場の最前線に現われた。


「うおおおおおおおお!! とんでもねえ助っ人じゃねえか!」


「マジかよ! 世界最高戦力じゃねえか!」


消滅を恐れず単体で現われた豪華すぎる助っ人。

更にその姿に置いていかれぬように、敵わぬと知りながらも後方に待機し続けた全軍が前へと進んだ。


「ほう。懐かしい援軍ではないか。久々命を賭けに来たか」


その状況に、前線の戦士たちの士気も再び高まっていく。


「ぬっ!? タカミチィ! ゲーテル! 貴様らァ!」


彼らの登場にデュナミスは怒りに満ちた声で彼らに叫んだ。


「また会ったね・・・・完全なる世界の残党・・・・・」


「ふん、まだしぶとく生き延びていたか・・・・だが・・・それもここまで! 術者であるあなた方を葬れば、この化物たちも消える」


かつては紅き翼と完全なる世界として戦ったこの三人。その時の生き残りとして大戦後も幾度もその因縁は消えることはなかった。


「うふふふふふふふふ、予想外に盛り上がってますな~。ほなウチも・・・センパイ用にとっておきたかったんやけど・・・・これを使わせてもらいますえ!!」


巨大な岩島を足場に相対する戦士たち。

正面に向かい合う敵とは火花を散らしつつも、ほんの僅かだが、共に並ぶ戦友と懐かしい再会をタカミチたちは交わした。


「ふん、久しぶりじゃのう。タカミチ、クルト、リカード。貴様らまで出てきおったか」


「タカミチ・・・・久しいな」


「お久しぶりです、アムグさん。ミルフさんも」


「左遷された元将軍が、大それた事をしてくれましたね」


「へっ、ハシャイでるじゃねえかよ、ジジイ」


「ディーネ・・・・・元気そうね」


「けっ、老けたじゃねえかよセラス。テメエを見ると相変わらずムカつくねえ」


「姫様。前線に来るなど、大臣が叱るではありませんか」


「ふふん、マンドラよ。戦の勝ち負けが大将首を取ることならば、今の妾は大将でも何でも無い。この戦の行く末はネギたちの首にかかっておる。ならば今の妾はこの世界を守る一人の兵士と同じじゃ」


所々で憎まれ口が聞こえるが、それは互いが互いを深く知っているからこそ出てくる言葉。

かつての戦場で紡いだ縁が、20年経った今、再び結ばれたのである。

その姿は圧巻。

彼らの名を知るものたちから見れば、その姿は頼もしく、希望が胸の底から湧き上がってくる。

だが、そんな彼らを前にしてもデュナミスは強気な姿勢を崩さない。


「ふっ、面白い。そうそうたる顔ぶれだな。だが惜しむべきはどいつもこいつも既に過去の遺物ということだ。子供に世界の行く末を託すしかない無能な恥知らず共め」


再会の談笑を止め、全員がムッとしてデュナミスを睨む。


「ふははははははははは! 大人しく政府の要人として椅子に座ってふんぞり返っていればよいものを、間抜けにもノコノコと現われおって。将自らが前線に赴くなど、平和ボケして戦を忘れたか! だが丁度良い! 貴様らへの恨みを思えば、黄昏の姫巫女の力で存在を消滅させるなどでは気が治まらぬ。全員まとめて生身で正面から相手をしてくれよう!!」


デュナミスはこの時、己の使命や宮殿内部での戦いも頭に無かった。

過去からの因縁との決着をつけるべく、この場に留まり力を振るう。


「ほなウチも・・・・・・使わせてもらいますえ!!」


この集った戦士たちの力を感じ取ったからこそ月詠もこの場に留まる。


「さあ・・・・・・来るがよい! 世界と共にかつての歴史も消し去ってくれる! 最強形態で一気に叩き潰してやろう!」


「ふふふ・・・相手に不足なし。行きますえ」


月詠が一振りの刀を取り出した。柄から刃先に至るまで真っ黒に染まった不気味な刀。刀身から黒い瘴気が漏れ出ている。

その刀を見た瞬間、クルトが声を上げる。


「ぬっ!? この感じ・・・まさかその刀は妖刀!?」


月詠はニタリと笑みを返し、刃から発する黒い瘴気を体に飲み込んでいく。


「ふふ、『妖刀ひな』おす。なんでもその昔、この刀を使ったあの方によって、神鳴流は全滅に追い込まれたほどの曰くつきの刀ですえ。あの方の妖気と悪意を纏ったこの剣を開放したなら、所有者をたちまち魔に飲み込むと・・・・・・・ふふふふふふ!!」


「ふん、神鳴流が魔に飲み込まれるとは・・・・・ならば私の剣であなたを調伏してみせよう」


「おもろい・・・・・出来るものなら!!」


前へと進むネギたち。

動き出した時代。


「来る・・・だが僕たち大人世代も、ネギ君たちばかりに負けていられないからね」


「かかか、オッサン世代はオッサン世代でやらせてもらうぜ!」


「妾はまだまだ若いぞ!」


その時同じくして、ついにオールド世代も命を賭けて動き出した。


「さあ、覚悟を決めますよ! 杖を持った悪魔傀儡たちには真正の人間で対処します! 全軍反撃開始!! ここが最前線にて最終防衛線だと思うのです!」


終わりが見えず、更に激化する戦いが、まだまだ続くのであった。





しかしシモンは未だ・・・・・・・・夢の中に居るのだった・・・・・











分かっている奴は分かっていない奴に対して偉そうに言う。現実はそんなに甘くはないと。


しかし、本当にそうだろうか? 甘い現実というのは本当に無いのだろうか。


自分が心から望み、一見都合がいいように見えるかもしれないが、ひょっとしたらありえたかもしれない世界というのは確かに存在する。


例え自分では気づかなくとも、心のどこかで思ってしまった、もしもの世界。


それが満たされている世界であればあるほど、幸せだと感じるのかもしれない。




「あれ?」




「どうしたの、シモン?」




丘の上を見渡し、シモンは違和感を感じた。


「ここ・・・誰かの墓がなかったっけ?」


「墓~? シモン、あんた何言ってんのよ。そもそも墓なんて言ったって、誰の墓よ?」


ヨーコに言われて確かにと納得した。

ここは山がよく見下ろせる丘の頂上だった。

以前ここで大きな戦いがあった。それは大グレン団が大グレンを獣人たちから奪ったときのことだ。

あの時は、山から火山が噴出し大地が燃えるような光景だった。

しかし今この場には綺麗な花畑が広がっていた。

それはニアが行ったことだった。

ニアの夢は世界を花で一杯に包み込むこと。そのために、この草木が無い丘の上を今では綺麗な花畑にまでしたのだ。

丘の上にたどり着いたら、いつの間にか皆がシートと弁当と酒を取り出し、開始の合図も無いまま次々と騒がしくなっていく。

そうだ、こうして皆仲間がちゃんと揃っているのに、墓なんてあるはずがない。

シモンは自分の変な考えを直ぐに捨てた。


「どんどん飯持って来い!」


「おう、胃袋のでかさなら負けねえぞ!」


ジョーガンもバリンボーも・・・


「か~ッ!! こうして、仕事忘れて飲むのはたまんねんな!」


「おう!」


「まあ、たまには羽目を外すのも悪くは無いな」


「当然だな!」


ゾーシイもマッケンもアイラックもキッドも・・・


「よう、顔だけ親父よ。テメエも飲めよ!」


「うむ、だがカミナよ、まずは私をこの装置の中から出してもらわんと飲むことは出来んぞ」


カミナもロージェノムも居る。


「どうしたの、シモン?」


「パーパ?」


ニアも娘も居る。

何も疑うことの無い幸せに満ちた光景に他ならない。


「いや、なんでもないよ」


しかし何故だろう。

幸せな世界にどうしても違和感を感じ、酒を飲もうとする手が止まってしまった。

そんな自分を心配そうに覗き込んでくるニア、そしてソラ。

そしてそれ以外の者たちは、そんな自分に構わず良く食べ、良く飲み、バカ騒ぎを続けていた。


「ほ~、テメエにも弟が居たのかよ、ハゲ親父」


「うむ、1000年も前の話だがな。あいつは結婚して姓が変わったが、共に銀河螺旋戦士として全銀河に存在する螺旋族と共に戦った。名は・・・ジェノバ・テンジョウ・・・」


「何々? 面白そうな話をしてるじゃない」


「あらん、私も混ぜて欲しいわねん」


「ここ、僕も良いですか?」


カミナと酒盛りを始めるロージェノムヘッド。

その会話に関心を持ち、ヨーコやリーロンにロシウまでもが乗り出し、あちら此方で宴会が盛り上がっていた。


「でもまあ、あんたに兄弟ぐらい居てもおかしくはないけど・・・そっか・・・昔は地球だけじゃなくって、他の銀河の螺旋族も一緒の仲間だったのね」


「1000年前は当たり前だった交流。それが1000年間途絶えていたけど、私たちがその壁をこじ開けたってことよね~、何かロマンを感じるわ~。ねえねえ、他の星の螺旋族って、カミナやシモンみたいに良い男は居・た・の~? 特にどこの星の螺旋族が良かったの~?」


「そうですね。ロージェノムヘッド、僕たち地球以外の螺旋族はどのような感じだったのですか?」


「別に対して変わらん。姿形も多少なりとも違いはあるが、類似点の方が多い。まあ、一番地球と交流があったのは火星軍だったか? 特にその火星の代表戦士とはワシも気が合い、友好の証として例のコアマシンを送ったぐらいだ」


遠くを見つめながら、自身の遺伝子に刻まれている記憶を呼び覚ますロージェノムヘッド。

それは、グレン団が生まれるよりも遥か昔の物語。


「コアマシンってラガンのことよねん?」


「そうだ、火星で唯一のグレンラガンタイプのガンメンを操り、ワシやジェノバと共に銀河螺旋軍の中核となっていたな」


「ふ~ん・・・な~んか、話だけ聞いてると、私たちってよく私たちだけで勝てたわね」


ロージェノムヘッドの話を聞きながら、改めて数年前に起こった戦いを思い出してヨーコは呟く。

その呟きを聞いて、他のバカ騒ぎを続けていた仲間たちもいつの間にか静まり返り、皆は懐かしそうに少し前を思い出す。


「まあ、確かにそうかもしれねえな。だがよう、そうでもねえかもしれねえ。俺たちは運よく勝てたわけじゃねえ。むしろ俺たちだからこそ勝てたんじゃねえのか?」


少し、しんみりとした空気を壊すように、キタンが誇らしげに笑った。


「おっ、分かってるじゃねえか。その通りだよ! 俺たち大グレン団だから勝てたんだよ! 何故なら俺たち大グレン団は、銀河も驚くほど半端なくハンパねえからだ!」


キタンに続いてカミナも立ち上がり、全員に向かって両腕を広げて叫んだ。


「まったくだ!」


「おう、ハンパなさなら誰にも負けないぞ!」


ジョーガンにバリンボー。そして彼らだけでなく、仲間全員がキタンとカミナの言葉に頷いた。



「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」」



そう、自分たちだからこそ勝てたのだと、自分たちを誇らしげに誇りながら笑い出した。

結局しんみりしたのはほんの一瞬。後は再び大盛り上がりでバカ騒ぎの大宴会。

体力の続く限りに皆で騒ぎつくしていく。

そんな中、日ごろの疲れからかいつまでもハイテンションを保っておけなかったシモンが一休みもかねて、コッソリと宴会の場から抜け出した。


「まったく・・・皆ももういい年なのに、変わらないな~」


カミナを中心に、皆は出会った頃のままだった。

ギミーやダリー、ロシウなどは当然昔から成長して逞しくなっているのだが、それ以外の古参のメンバーたちのノリは昔と何も変わらずに、バカらしく、だけど頼もしく、見ているだけで元気になった。

だから何故かはわからない。

これほど幸せな光景を目にしているというのに、どうしてもシモンには切なく、そして気を抜けば涙が出そうになった。


「どうしたの、シモン。もう降参なの?」


遠巻きに皆を眺めていた自分に、同じように輪から離れてニアが自分の元まで歩み寄ってきた。


「ニア・・・いや、別に、・・・ただ皆変わらないなって思っただけだよ。お前も含めてな」


「そう? でも、シモンが言うならきっとそうなのね」


何年経っても相変わらずな仲間たちだとシモンが眺めていると、ニアが寂しそうに微笑んだ。


「でも・・・シモン・・・それならあなたはどうなの?」


「えっ?」


「結婚して、子供が生まれて、戦うことも無くなってしまった今のあなたはどう? 何か変わったと思わない?」


ニアに言われてシモンは自己を見つめなおす。


「穴を掘らなくなって・・・あなたはどう?」


そう、確かに皆に比べたら自分は変わったかもしれない。

穴を掘るかグレンラガンに乗るしか脳の無い自分が、今ではまったくその2つをすることもなく、妻と子と共に日々を過ごしている。


「・・・掘るものが無いからさ・・・もう壁も天井も無いんだ。空にも宇宙にもな。だから・・・穴掘りシモンが穴を掘ることはもう無いんだよ・・・」


戦いが終わり、グレンラガンに乗ることもなくなった。

平和の象徴として、今では動くこともなく大層に新政府に管理されている。

もう自分が大空を駆け巡り、穴を掘ることもなくなった。それを改めて実感した。


「本当に・・・そう?」


「ニア?」


「それが・・・あなたの掴んだ明日なの?」


しかしニアはどこか納得のいっていないような疑り深い目でシモンを覗き込む。

本当にもうシモンは穴を掘ることが無いのか? と追求しているような眼だ。

でも、どれだけ追求されても変わらない。

穴掘りシモンの役目は終わった。


「パーパ!」


花畑に腰を下ろすシモンの膝の上にソラが飛び込んできた。


「きゃっほーう! 何のおはなし~?」


見上げてくる我が子の頭を撫でながら、シモンは微笑んだ。


「ううん、なんでもないよ」


「ほんと~」


「うん。ただ、パパもママも、お前が居てくれて幸せだって話をしてたんだよ」


そうだ、これ以上望むものなどあるのか?

穴を掘らなくなったから何だ? 戦わなくなったから何だ? いいことではないか。

もう戦う必要など無いのだ。

最愛の女が居て、その間に最愛の子が居て、仲間が居て、皆が居て、これから先の未来を築いていく。

それの何が悪いのだ? 

これほど幸福な世界に何を自分はこれ以上のものを求めているのだと、この幸福な世界を受け入れようとしたのだった。

だが、どうしてもどこか腑に落ちない。

ただ不意に、何も無い胸元に手をやる。

すると落ち着かなかった。

そうだ、何かが足りないと感じた。

落ち着かない。

何も無いのが落ち着かない。

ニアに言われるまで何も気にしていなかったのにだ。

穴を掘ることの無いシモンは、もうドリルを持つことも無い。

もう、大きな壁をぶち破ることも無い。

そんな自分は、一体何を無くしたのか・・・・








「・・・シモンさん・・・・」




その光景を上空から切なそうに眺めている者が居た。

それはネギだ。そしてその後ろにはもう一人居た。



「ご覧頂けましたか? これが完全なる世界です」



ネギと同じように切なそうにシモンを見ながら語るのは、ザジ。

ザジ本人だった。


「これが・・・完全なる世界・・・シモンさんにとっての・・・」


眼下に広がる幸せそうで、満たされていて、しかし悲しく見える光景を目に焼き付けながら、ネギはザジに尋ねた。


「そうです。願い焦がれて夢見続けた至福の世界を具現化する・・・見方によってはもう一つの現実とも言えますが・・・それでもホンモノではありません」


至福の一ページを外目線で眺めながら呟くネギの背後には、ザジが儚い笑みを浮かべていた。


「しかし、ネギ先生。あなたは本当に大したものです。今ご覧になったように、彼ですら逃れられなかった甘美な夢・・・あなたは直ぐにこのカラクリに気づいてしまった。本来ならあなたも彼のように満たされた世界からは逃れられなかったはずなのですが・・・」


微笑みながらザジはパチンと指を鳴らす。

するとシモンや大グレン団たちが丘の上で繰り広げている大宴会の光景が一瞬で変わり、周りの風景がネギにとっては見慣れた麻帆良の世界樹の広場に変わった。


「これが先ほどまで先生が見ていた夢・・・・・・」


そしてその広場を見て、ネギはまた切なそうな顔を浮かべた。

何故ならそこには、ネギにとっての甘い夢があったからだ。


「どこで気づいたのです? 先生のこの夢もシモンさん同様、かけがえの無いものだったはずです。どれほどの努力をしても・・・もう二度と手に入らない光景・・・なのに何故、気づくことが出来たのですか?」


ザジの視線の先にはネギ、そしてその後ろには時が止まったかのように停止しているナギとアリカの二人が居た。

ネギの父と母。

ネギがずっと追いかけていた二人だ。

この世界こそ、ネギが先ほどまで見ていた夢の世界だった。

ナギとアリカ。

二人はつい先ほどまでネギと共に居た。

両親に挟まれ、ネギはアリカに手を引かれて三人並んで歩いていた。

確かなぬくもりでネギの手を掴み、そして微笑みかけてくれていた。

だが、ネギが夢のカラクリに気づいた瞬間、ザジが現われ、世界の時が止まった。この世界が本物ではないと証明しているかのように。

ネギのありえたかもしれない世界。

それはフェイトたちがもし全滅していたらの世界だ。

そうすれば、ナギも、アリカも、そして自分自身も今と同じ光景の日常を送っていた。

今ネギが見ていたのは、そんなもしもの世界。

だからこそ、ザジは疑問に感じていた。

そんな甘い夢に囚われずに、この世界のカラクリにネギが気づいた事を。


「・・・無かったからです・・・」


「えっ?」


するとネギは、やわらかく微笑みながら口を開く。


「確かにこの世界の僕は幸せですけど・・・・でも・・・・その代わり、無いものもたくさんあったからです」


そう言ってネギは時が止まった自分のもしもの世界をもう一度見下ろした。


「・・・この満たされた世界に足りないものがあると?」


「贅沢な話ですけど・・・無いものがありすぎました。今の僕には絶対に欠かせないはずのものが」


20年前にもしもフェイトたちが全滅していたらの世界。


「もしフェイトたちが全滅していたら、お父さんが無事なことでマスターが僕を襲うことも・・・フェイトの画策による修学旅行での事件・・・ヘルマンさんの襲撃・・・超さんの学園祭の事件も延期されていました・・・そして何より、魔法世界に来ることもありませんでした」


「そうです。先生にとっての敵、戦い、それらが無い。清明で温かな善意に満ちた争い無き世界です。それの何が問題だったのですか?」


「それが実は大有りだったんです」


ネギはザジにハニカんだ。

問題なき世界での問題。その問題が大きかったからこそ、ネギはこの世界が本物でないと気づいてしまったのだ。


「マスターが僕を襲う事件・・・あれが無ければ僕はマスターと関わることは出来ませんでした。そして何より、シモンさんとは他人のままでした」


「・・・あっ・・・確かにそれは・・・なるほど・・・・」


もしもの世界とネギ自身が現実に送ってきた世界。その二つには大きなギャップがあった。


「刹那さんと木乃香さんも修学旅行のことが無ければ疎遠のままでした。ヘルマンさんの襲撃が無ければ僕はヨーコさんと会うこともありませんでした。超さんの事だって同じです・・・この世界には無いんです・・・お父さんとお母さんは居るのに・・・せっかく手にしたはずの物や出会いがこの世界には無かったんです」


「そういうことでしたか・・・・」


ザジは納得して頷いた。


「意外でした。ネギ先生にとっての幸せだったはずの世界は、逆に先生にとってのこれまでの大事なものや掴んだものが無い世界でもあったのですね」


『もしも』があれば過ごせたかもしれない幸せ。

しかし『もしも』が無かったからこそ出会えた人、大きくなれたこと、掴めたことがネギにはたくさんあった。

それが自分にとってはとても大きな出来事であったゆえに、ネギは気づくことが出来たのだった。


「ザジさん。これが僕の場合・・・そして先ほどのが・・・」


「そうです。先ほどのがシモンさんの、もしもの世界・・・そして他には・・・」
最終更新:2011年05月13日 21:27
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