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120-3

ジェノムの前に立ち、ガードするゼンゴたち。

この場に近づいてくる気配を感じ、警戒心を高め、意識を全体に向けた。

すると吹き抜けとなっている天井から、大きな翼を羽ばたかせた巨大な影が、ゼンゴたちの前に現われた。

現われたのは巨大なドラゴン。


「おわ、竜!? 何でこんなところにいるだすか!?」


「ほう・・・・門番というわけか・・・健気なものよ」


現われたドラゴンは、これ以上先には行かせぬよう扉の前に降り立ち、ジェノムたちを威嚇するように吼えた。


「グルゥ・・・・ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


台風が直撃したかのようなドラゴンの咆哮に、ジェノムの部下たちは吹き飛ばされそうになった。

彼らにとってひょっとしたら初めて見たのかもしれないドラゴンだった。

ジェノムをガードしているようで、完全に怯えたように震えていた。

そんな兵士たちにゼンゴは軽くため息をつき、やれやれと言いながら前へ出た。


「あ~、涎垂らして怒ってるだすね~。メンドクサッと言いたいだすが、仕方ない。ボスは下がっててくださいだす」


指の関節を鳴らしながら、ゼンゴはドラゴンに歩み寄っていく。

いつの間にか両手にはクナイが握られ、雰囲気が先ほどまでの様子とまったく違っていた。

だが、その行く手をジェノムの逞しい手で遮られた。


「よせ・・・・・・通り過ぎるぞ」


「・・・・へあッ?」


シリアスな雰囲気から一気に再びお茶らけたゼンゴに戻ってしまった。


「いやいやボス・・・・通り過ぎるって・・・」


「相手が誰であれ、極力ワシらから先に手を出したということだけは避けたい。こんな下等生物に一々構うな」


「ちょちょちょちょーーーッ!? 下等生物って神秘のドラゴンだすよーーッ!?」


ジェノムはゼンゴや部下たちを無視して、一人でドラゴンに構わず真っ直ぐ扉を目指す。

だが、その行く手にはドラゴンが道を塞いでいる。

ゼンゴや部下たちが慌ててジェノムを止めようとするが、ジェノムは足を止めない。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


ドラゴンはジェノムを見下ろしながら口を大きく開けた。

食べようとしているのか、殺そうとしているのかは分からない。

だが、ドラゴンは吼えながら翼を広げ、その大きさを更に大きく見せた。

もはや人間などいとも容易く踏み潰せるように見える。

だが・・・・


「・・・・・・・・どけい・・・・・」



「ゴアッ・・・・・・・?」



「どけい」



「ッ!?」



この光景を見ていた者たちは、この時の光景をこう表現した。

ジェノムはでかくなったと。巨人が現われたのだと。


「グルゥ!?」


紅く輝く光が全身を包み込んだかと思えば、その光はやがて密度を増して膨張し、ドラゴンどころか空にまで届きそうなほどの光を天まで放ち、その光はやがて巨大な人の形となってドラゴンを見下ろしていた。

自分よりも巨大な生命は恐らくドラゴンも見たことは無かったのだろう。

しかし今、巨大な光る人間が、自分を遥か上から見下ろした。

まるで人間が犬猫を撫でるかのように、その光る巨人はドラゴンの頭を軽く撫でた。

その瞬間、ドラゴンは体を激しく震え上がらせた。

言葉も何も伝わらぬドラゴンだが、本能で察したのかもしれない。



「生物の・・・・・・・・格が違うのだ・・・・下がっておれ」



気づけばドラゴンは道を空けていた。


逃げるかのようにその場から飛びのいていた。


すると気づけば巨大な光る巨人は既にそこにはおらず、ドラゴンより遥かに小さい人間が堂々と今ドラゴンが空けた道を歩いていたのだった。


置いていかれぬように後をあせって追いかけるゼンゴたち。


そして全員が扉の前に立ち、彼らはその閉ざされた扉を無断で開けたのだった。


それにしても、一体今彼らはどこに居るのだ?


薄暗い地下道を抜け、ドラゴンまで現われるようなこの場所はどこだ?


その答えは、麻帆良学園の図書館島最下部。


そう、ジェノムたちは麻帆良学園に居たのだった。


魔法世界の危機は地球の麻帆良学園にまで届いていた。


ゲートで両世界を途絶えさせたために情報が完全に封鎖されていたはずなのだが、魔法世界の危機は情報としてではなく現象として現われた。


麻帆良学園の世界樹の発光。


本来22年に一度の周期で起こる麻帆良の世界樹の大発光が、今このときに起こったのである。


魔法世界で起こっている膨大な魔力溜まりをこの現象から麻帆良学園は感づいたのだった。


しかしジェノムたちは何故ここに訪れたのか?


その答えは・・・・











「戯言を・・・・・・・ネギ君・・・・・・・君の発言は・・・僕を酷く不快にさせた!」



ネギが口にした、この世界を救う方法があるという発言。

その言葉にフェイト陣営は明らかに動揺していた。

明らかな怒りを滲み出し、画面に映るネギを睨みつけるフェイト。

その横では、初めて見せるフェイトの憤怒に怯えながら、少女たちは恐る恐る今のネギの言葉をもう一度思い出す。


「ま、魔法世界を止めるプラン・・・? まさかそんな夢物語のような話など・・・」


やはりありえない。

調も環も暦も焔も、動揺しているためにフェイトのような怒りは見せないものの、それでもフェイトと同じようにそんなものはありえないと感じていた。

だが、画面に映るネギはこちらの会話を聞いているかのように言葉を続ける。


「僕は冗談なんかでこんなことは言わない。君が簡単に信じないことは分かっている。だから・・・必ず信じさせてやる。僕はそのために君に会いに来たんだ!!」


「ッ!?」


床板が、粉々に踏み潰された。

それはフェイトの足元にある床だ。


「フェ・・・・フェイト様・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふざけるな・・・・・・・ネギ君」


空気がチリチリと痛い。

最早少女たちにとって、ネギの発言よりも、今のフェイトの様子で頭がいっぱいだった。

これほど感情を表に出すのは、彼女たちにとっても初めてだったからだ。


「ひははは、ご機嫌斜めだね~」


フェイトに怯えてしまい、言葉を発せられなくなった少女たちに代わり、ユウサがからかう様に前へ出た。

だが、フェイトは相手にもしない。

画面に映るネギから決して目を離すことは無かった。


「・・・・・いや・・・先生・・・そのよ~・・・それはいくらなんでも凄過ぎるだろ・・・・マジなのか?」


そんな中、画面上の千雨も呆けた顔をしながらネギの爆弾発言に対して真偽を確かめる。

だが、ネギは決して冗談や嘘を言っている表情ではなかった。


「はい。理論的にはほぼ完璧。予備的な実証実験も済ませました」


「じっ!? そんなのいつ!?」


「勿論今の段階ではただのアイディアです。皆に協力してもらわなければとても無理でしょう。そうですね・・・・麻帆良学園に帰ったら・・・・もしかしたら委員長さんも力になってくれるかもしれません」


「はあああああああああああああああッ!?」


画面の中で自信満々に語るネギは確かに嘘を言っている様には見えない。それは確かに分かった。

だが、その様子を見ているだけで、フェイトにはただ不快にしか感じていなかった。


「ひはははは、話ぐらい聞いてやれよ。面白そうだからよ」


「黙っていろ・・・僕は今、非情に機嫌が悪いんだ」


「お~っ。コエ~コエ~ 、ひは・・・・・ひはははは・・・・・くははははは・・・・・・」


ユウサですら乱暴な口調で煙たがるフェイト。

よく見れば画面に映るザジ姉も似たように不機嫌そうにしている。

まあ、そうなのかもしれない。

これまで幾多の時間と労力をかけても見つけられなかった世界を救う方法を、10年しか生きていない子供が考えて、それを自分たちに信じろと言っているのだ。

フェイトたちのこれまでの覚悟や決意が重かったのだとしたら、それは耐え難い侮辱だったのかもしれない。

だがその様子を・・・・


「・・・・ぷっ・・・・・くくく・・・・・・・・」


ユウサは手で口元を完全に覆いながら、少し肩を震わせていた。

その手の下には、これ以上ないほどつり上がった笑みがあった。


「くく・・・・ひははは・・・・・理論的には完璧か・・・・・・・理論だけじゃなく、論理も整っていればいいんだがな~」


ボソッと小さく呟いたユウサ。

フェイトはこちらに見向きもしていない。ただの独り言のようだ。

だが、その不気味な独り言が気になった暦が、勇気を出してユウサに問い詰めた。


「あ、あの・・・・・な、なんです・・・それ・・・・どういう意味なんですか?」


「こ、暦、そんな者と口を利くな!」


ユウサに恐る恐る質問する暦を慌てて焔は止めようとする。

だが、フェイトとは対照的に非常に機嫌よさそうなユウサは、軽い口調で答えていく。


「くく、まあまあ、猫ちゃんにファイヤー嬢ちゃんも落ち着きな。俺が言いたいのは、ネギ君の理論が完璧に思えても・・・・・・ウザいと思う連中は居るってことよ。そんな奴らに突き付けられる論理がなければ意味はねえ」


「えっ・・・えっ? わ・・・・あの~・・・もうちょっと分かる言葉で教えてください!」


「ひはははは。まあ、要するにだ、世界を救う手だてがあっても妨げになるのはいつだって人間という生き物だってことだよ」


「・・・・・ぜ・・・・全然分からない・・・・焔~」


「だっ、だからそんな者の話は聞くなと!」


「焔も分からないなら分からないって言ってよ!」


「ふ、二人とも・・・今はそれどころでは・・・・・」


ギャーギャー、ニャーニャー言い合っている二人はもうユウサの話は聞いてなかった。

というより、最早誰もがユウサの存在を忘れてそれぞれの想いを曝け出していた。

だが、ユウサはその事に対して決して不快に感じてなど居なかった。

むしろ機嫌はすこぶる良かった。

ユウサの口元を押さえている手が更に強くなり、爪が頬にめり込んでいく。

ニヤけそうな口元を強引に抑えているように見える。

だが、ネギしか見ていないフェイトや目の前で口論している少女たちには、そんなユウサの様子も思惑も気づいていなかった。


(最高だ・・・・・ネギ君・・・・君はやはり最高だ・・・・・まさかこうも・・・・こうも俺にとって望ましい展開になるとはな! これをもって・・・・・・)


そう、ネギの出した答えを何より望んでいたのは・・・・



(これをもって、俺の脚本が完成した!!!!)



この展開を一番望んでいたのはこの男だったのかもしれないのだ。


(ひははは、魔法世界の崩壊の回避? くくく、ネギ君、ぶっちゃけた話そんなもんどうでもいいんだよ。何故なら回避できる方法は確かに色々と存在するからだ。しかしそれが出来ない。いや、やらない理由は地球の守護者様が全ての方法をねじ伏せているからだ。地球はな、望んでいないんだよ。解決方法が云々じゃない。現在の地球の事情を考えると、もう魔法の存在は世界から厄介者なんだよ)


フェイトたちから少し離れるように距離を取りながら、ユウサは笑いを堪えながら画面のネギをチラッと見る。


(そうさ、問題の本質はそこじゃねえ!)


その瞬間、また笑いそうになった。


(君は言った・・・理論も実証も完ぺきだと。なるほど、確かに実践可能なら世界や協会に堂々と突きつけられるだろう。だが、ジェノムは受け入れない。何故なら君は言ってしまった。麻帆良学園に帰って皆の協力が必要だと・・・・皆の協力・・・それは地球側も含まれているということだ。ならばダメだ。この世界をスムーズに救いたければ、この世界に居てこの世界の中で自力で解決しなければならなかった。救済方法に地球が絡んだ時点でジェノムは絶対にねじ伏せる。もう魔法の秘匿も限界に来てるからな。既に上がっている現案・・・仮に君の考えが、誰もが思いついていない新案だったとしても、地球が絡むのなら意味無しなんだよ)


それこそがクロニアも口にしていたこと。

既に崩れかけている魔法と世界の均衡。

魔法と世界は決して交わらないということ。

だからこそ・・・・


(だからこそ・・・だからこそ、ネギ君・・・君はジェノムと戦わなければならない! 自分の道を貫き通したいならな! しかしジェノムとは正に世界そのもの。君は魔法世界を救うために世界と戦わなければならない。だが安心しな。君もまた世界の希望そのもの。一人じゃない。君にも多くの味方がつく。ならばそんな二つの勢力がぶつかれば・・・・・・・・その大きさは紛れも無く戦争に匹敵するはずだ!! ひははははは、考えただけでもゾクゾクするぜ)


だからこそ、始まってしまうかもしれないのである。


(更に勢力は2つじゃない。騒ぎに乗じて乗り出そうという連中がゴロゴロ世界に燻っている。そうなったらもう何がどうなるかは俺にも予想できねえ。ひははは、俺が残らず全員舞台に引きずり出してやる)


魔法世界ではなく、今度は地球を舞台にした世界を救うための世界を賭けた戦いが。

それがジェノムにとってもクロニアにとっても恐れていたものだったのかもしれない。

そしてユウサが心から望んでいた世界。


(さあ、ネギ君。今すぐ来い! そして邪魔なアーウェルンクスどもをさっさと片付けろ! その瞬間、ジェノムを筆頭に世界が動く! くくく、モルモル王国にも魔法世界の情報を流しといて正解だったな。更に俺の存在をクロニアちゃんが感じ取っていたということは、あの二人も・・・ひなたちゃんや鶴子ちゃんたちまで動くかも知れねえ。テンジョウ・・・浦島・・・青山・・・・・・雪広はどう動くかはまだ分からないが、日ノ本だけでも既にこれだけの駒が居る。後はこの俺が最高の演出で舞台を盛り上げてやるよ! シモン君を使ってな! ひははははははははははははははは!!)


それに至るまでの道筋が見えたと思った瞬間、ユウサは口に出さぬが、心の中で誰よりも強く、そして大きくネギに向かって叫んだのだった。


(さあ、運命よ! 因縁よ! 希望よ! 絶望よ! 全てよ集え! 間もなく、地球史上最大の大戦が始まるのさ! 笑えるぜ、人類を守るんだ、世界守るんだ、地球を守るんだ、魔法世界を守るんだ、・・・・・・何かを守ろうという心が滅びの世界を始めるんだ! ひはははははははははは!)


興奮で笑う鬼。


こうなることを知っていたのか、望んでいたのか、その心の内は誰にも分からない。


そして、最後に笑うのは誰の掴む未来なのかは、まだ誰にも分からない。


しかしユウサの思いはどうあれ、地球にもとうとう動き出たのである。










「ふん・・・しかし図書館島の地下にあったゲートは廃棄されていたと思ったのだが、相変わらずいい加減だな、ジジイ」


「廃棄されたのは本当じゃ。しかし破壊はされていなかったがのう」


「同じことだ」


ソファーの上に胡坐でふんぞり返っているエヴァがつまらなそうな顔をしていた。


「それで、この私に頼みごとというわけか?」


「うむ、事態は相当やばそうなのでな。婿殿も居てくれることは心強い。この通りじゃ」


エヴァ、詠春、アルビレオの三人に向かって深々と頭を下げる学園長。

ここは、アルビレオ・イマの隠れ家。図書館島の深部。

魔法世界から伝わった緊急事態に対し、学園長である近衛近右衛門は早急に魔法先生、魔法生徒を召集し事態への対応に迫られていた。

そして彼は、アルの招待で招かれてお茶会をしていた三人の元へこの報告を持ち込んできたのだった。


「そんな、お顔をお上げください」


「しかし、その様子・・・どうやら相当の事態ということですね」


エヴァを除いて、詠春もアルも学園長の普段とは違う姿に、事態の深刻さを感じ取った。

それだけで二人とも神妙な顔で学園長に事態の説明を伺う。


「うむ・・・・実はのう・・・アスナ姫が敵の手に落ちた可能性がある」


やらねばならないことは誰にでもあった。

それはネギたちだけではない。

こうして魔法世界と離れた麻帆良学園内でも、この事態に対して出来ることをするために大勢のものが動いていたのだった。


「「お聞きしましょう」」


詠春とアルが即答で身を乗り出した。

学園長のその言葉だけで、彼らが即座に返事を返すあたり、この事態の深刻さが伺える。


「ふん・・・・・・」


最初は面倒に思っていたエヴァも、何だかんだで腰を下ろして話を聞く体勢である。

それは甘さか、それともクラスメートを心配に想うことから出てきた態度かは分からない。

だが、学園全体の魔法先生・生徒たちがこの緊急事態に動き出している中で、この三人も動くのであった。

確かに学園長の言うとおり、事態や予想できる敵を考えれば、非常に心強い助っ人だろう。

だが、予想できない事態というのは、こういう時には重なって訪れるものなのだった。


「ん?」


「・・・・む・・・」


「これは・・・・」


「・・・・・・・・・おい・・・・アル・・・・」


四人の表情が変わった。

そして四人とも、この空間に入るための扉に全員視線を移した。


「アル・・・ここは・・・・」


「ええ。一部のものにしか教えていません。ですから・・・ここに来る人は限られているのですが・・・・」


詠春の言葉にアルが頷く。


「この気配・・・一人二人ではないぞ」


「どういうことじゃ。ネギ君たち以外の魔法先生や生徒たちには教えておらんのじゃぞ?」


そう、四人が表情を変えた理由、それはただならぬ気配を感じ取ったからだ。

ここは図書館島の深部。

アルも言っていた通り、限られたもの以外には知られていない秘密の場所。

そんな場所に決して迷子で来たとは思えないような気配を感じ取ったのだ。

警戒するなというのが無理な話だった。


「・・・何者じゃ・・・」


「何者かが・・・この場にたどり着いたようですね」


巨大な扉がゆっくりと開かれる。

するとその扉の向こうから・・・・


「なっ!?」


「何だ貴様らは!?」


フルフェイスのヘルメットを被り、完全防備の装備を装着した兵士たちが続々と侵入し四人を包囲した。

あまりにも突然で予想外の客人に、四人は動くどころか声を発する間もなく、しばらく呆然としてしまった。

ズカズカと乱暴に進入してきた兵士たちの数は10人程度。

そして兵士たちは全員自動小銃を構え、エヴァたちに銃口を向けたのだった。


「・・・・・・お主ら・・・何者じゃ?」


突然武装した兵士たちが侵入してきたことは、あまりにも予想外の出来事で、少々四人は事態を把握できなかった。

だが、そこはこの四人。魔法の世界では知らぬものなしの強者ゆえ、たかが銃を突きつけられた程度では微塵も動揺していなかった。

むしろ少し不快な態度を見せるだけだった。


「ふん、・・・杖ではなく銃を向けるか・・・だが・・・誰に向けているか理解しているのか? 人間共よ」


エヴァが静かに、しかし明らかな不快な思いを殺気に込めて、兵士たちを睨みつける。

本来は幼女の姿なのだが、現在は幻術を使い大人の姿のために、その殺気から感じる威圧感は尋常ではなかった。

フルフェイスのヘルメットで顔を隠しているとはいえ、銃を向けている兵士たちはこれだけで明らかな尻込みを見せた。


「まあまあ、それ以上は可愛そうですよ、キティ・・・・と言いたいところですが・・・・」


アルが微かに笑いながらエヴァを宥めようとするが・・・


「確かに、いきなり無礼な方たちですね。一体何をしにここにいらっしゃったのでしょうか?」


表情はあくまで笑顔。しかしその笑顔の下から言いようの無い迫力を感じ取った兵士たちは、更に半歩後退した。

だが、それでも兵士たちは無言。

ただ四人を包囲して銃を向けているだけ。流石にこれではエヴァたちにも状況が分かるはずが無い。

するとその時だった。



「・・・・主な顔ぶれは揃っているな・・・・」



扉の向こうから新たな声がした。



「「「「ッ!?」」」」



その声を聴いた瞬間、四人の肩が大きく揺れた。


「門番のドラゴンはもう少し躾けた方が良いぞ。ワシが一睨みしたら縮こまってしまったわ」


足音を響かせ、ゆっくりとこちらに近づいてくる者。


「・・・な・・・・き、貴様は・・・」


この真夏日にもスーツを着用し、長髪が靡いている。見るからに暑そうだ。

だが、そんなことは正直どうでも良かった。

エヴァも詠春もアルも、そして学園長ですら、この招かざる客人に頬を引きつらせた。


「ふん・・・エヴァンジェリン・・・アルビレオ・イマ・・・・近衛詠春・・・近衛近右衛門・・・久しいな。そして突然の無礼を詫びよう。敵地ゆえに威嚇させてもらった」


扉の奥から現われたのは、ジェノム。


「ジェ・・・・・・」


「ジェノ・・・ム・・・・・」


「ジェノム・テンジョウ!? 何故あなたがここに?」


その姿に彼らは驚愕の表情を浮かべた。

中でも・・・


「キ、キ・・・サマ・・・」


ギュッとスカートの裾を握りしめながらブツブツ呟いて俯くエヴァ。

その時初めてジェノムは、エヴァが幼女の姿ではなく、幻術で大人の姿をしているのに気づいた。

そして、彼女の姿と様子に対してジェノムは火に油を注ぐ言葉を浴びせる。


「ふん、その姿は幻術か? 魔に落ちた化け物も色気づくとは笑わせる。だが、存在の程度の方は昔から何も変わらんな。闇の福音よ」


「ッ!?」


「なんだその目は。貴様の賞金を解除してやったのを誰だと思っている? 本来ならサウザンドマスターが貴様を捕えた時点で、貴様は処刑される予定だったのだぞ?」 


「ダマ・・・・レ」


喰いしばった唇から血が滲み出る。


「少しは恩を感じたらどうだ。醜い化物風情が」


「――ッ!?」


その容赦ない罵倒に耐えられるエヴァではない。


「キサマァァァ!!」


「い、いかん!?」


「やめるのです、キティ!!」


激昂したエヴァは、相手が誰であろうと構わず牙を剥けてジェノムに飛びかかる。


「恩を感じろだと? フザケルナァ!! 貴様らこの私に何をして来たと思っているのだァ!!」


「ふん、・・・人間社会において脅威の排除は当然のことよ」


「こ、・・・・この思い上がった人間風情がァ!!」


詠春たちが慌てて止めようとするが、幸か不幸か魔法世界の影響により世界樹に魔力が満ちている今の学園内なら、エヴァもある程度の魔力が使えた。


「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック・来たれ氷精(ウェニアント・スピーリトゥス)・闇の精(グラキアーレス・オブスクーランテース)・闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)・ 吹雪け(フレット・テンペスタース)・ 常夜の氷雪(ニウァーリス)」


詠春たちの制止を振り切ってエヴァは形振り構わず呪文を唱えて、ジェノムに攻撃を仕掛ける。


「くたばれ! 自惚れた管理者気取りめ! 闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」


闇を纏った黒い吹雪が、ジェノムに襲いかかる。

だが、エヴァの放った上位呪文に対してジェノムは身動き一つせず、溜息をつくだけだった。


「ふん・・・・夏とはいえ、少々これは寒そうだな・・・ゼンゴよ」


「だす!」


ジェノムが呟いた瞬間、エヴァの呪文とジェノムの間に割って入り、一人の男がエヴァの呪文を正面から受けた。

その者は、たった一人でエヴァの上位呪文をジェノムの盾となって防いだ。


「忍法・影分身肉壁の術!!」


「!?」


いや、正確には一人ではなった。

エヴァの呪文を受ける寸前に、その男は何十人にも分身し、隙間なく全員で密集して分厚い人壁を作ってエヴァの呪文を防いだ。

吹雪が止み終わると同時に、氷漬けになった分身たちも同時に姿を消し、その壁の向こうでは無傷の忍が悠然とジェノムの前で立ち構えていた。


「残念、いきなり大将の首はあげられないだすよ~」


「ぬう!? 千人力のゼンゴ!?」


「お久し振りだす。ウチの楓は元気だすか?」


何事もなかったように喋り始めるゼンゴ。だが、その存在にエヴァたちは明らかにうろたえさせた。


予期せぬ事態と予期せぬ来客。果たして事態はどうなってしまうのかと、誰も想像することができなかった。


ネギたちと麻帆良学園。


世界の行方はこの2つが鍵を握っているのかもしれない。


それを感じ取った者たちが、魔法世界の終結を待たずに続々と麻帆良に集結しているのだった。










「アレの行方が?」


「うむ・・・気づいたら無くなっておったわい。ワシが世界中を飛び回っている間にな」


「・・・・・・・ほ・・・・・・おほほほほ・・・・・そんなこと信じられまへんな~」


向かい合う一人の女と老婆。

だだっ広い部屋に畳を敷き詰めた和室。今この場に居るのは二人だけ。

本来ならここでお茶でも飲んで気を落ち着かせ、風流でも満喫するのだろうが、今はそれど頃ではない。

その証拠に二人とも目の前にあるお茶に一切手を触れていないからである。


「ひなたはん・・・・・・以前アレの封印が解けたとき、ウチの妹が調伏させた後、しばらくは妹の愛刀として使われとりましたが、道場を継いだ後は浦島家にちゃんと返しましたえ?」


明らかなる動揺を見せながらも、それを必死に誤魔化そうと青山鶴子はようやく目の前にある湯飲みに手を掛けるが、次に発せられた老婆の言葉を聞いて、思わず湯飲みを落としてしまった。


「うむ・・・・・・それは知っておる。孫からも報告を受けておる。しかしな・・・つい最近あの化物の目撃情報を聞いた後、嫌な予感がしてアレを調べに行ったら無くなっておった。鶴子よ・・・これをどう判断する?」


「ッ・・・・・・・・うっ・・・・・・・・・」


老婆・・・浦島ひなたの言葉に青山鶴子は絶句し下唇を噛んだ。

目を泳がせ、口元に手を置き、浦島ひなたの言葉を頭の中で何度も反芻させる。


「まさか・・・・・・」


浦島ひなたは肯定も否定もしない。しかしそれは青山鶴子の頭によぎった事を、より強い確信にさせた。


「ひなたはんは・・・・・アレを・・・妖刀ひなを・・・・・・・奴が盗んだと?」


恐る恐る尋ねる鶴子に対して、ひなたは小さく頷いた。


「可能性の話じゃ・・・そして・・・・・・もしそうだとしたらとんでもないことになる。8年も黙っておったが、・・・・・・ついに動き出したのかもしれん。誰が盗んだにせよ、もしアレがあの化物の手に戻ってしもうたら・・・・・・・・・」


「ええ・・・・その恐ろしさはウチにも分かっとりますえ」


鶴子は自身の身を力強く抱き、震える体を必死に抑えながら引きつった笑みを浮かべた。


「ふふ・・・何世代も昔から・・・・・・アレを・・・あの刀を使い・・・数多の神鳴流剣士を惨殺し続け、スクナや鬼夜行を従えて京都を・・・日本を・・・世界を震撼させた外道・・・・・ふふ・・・忘れたくとも忘れられまへんえ・・・・・・ひなたはんがここに来る理由は奴絡みやと予想はしとりましたが、まさかホンマにそうだとは思いもよりまへんでした」


力強く握った拳で鶴子は畳を叩いた。

表情こそ笑顔に見えるが、そこに込められた感情は果てしないほど深い怒り。


「そうじゃのう・・・・・・。因みに奴の最近の目撃情報は・・・あの、もう一つの世界への入り口じゃった。しかしヌシも知っての通り、あの世界は最近になりゲートが全て破壊された。犯人は誰だかは知らんがな。・・・・・・だが、奴は必ず戻ってくる。ならばどうする? 奴はどうやって・・・・いや、どうやって帰るしかない?」


「・・・・・・・それは・・・・・・・あの学園の地下に眠るゲート・・・・」


「うむ・・・・奴は必ずそこを使うはずじゃ。ならばそこを・・・・・・」


ぱちんと指を鳴らした後、まさにその通りだと言わんばかりに、ひなたはウインクした。

それが全てを物語っていた。


「なるほど・・・・ひなたはんは・・・・・・・そこで奴を始末するべきと?」


「そうじゃ。長年続いた奴との因縁を断つのは今しかない。仮にアレを・・・あの刀を持ち出したのが誰であれ、もし奴の手に戻ってしまえばとんでもないことになる。じゃが、それが今の時期でまだよかったわい。魔法協会と呪術協会の仲違いが収まりつつある今なら、魔法協会や呪術協会に協力も要請できる。あの学園に行けば近右衛門の力も借りれるじゃろう。最高戦力を持って、奴を始末するのじゃ! ・・・・もっとも・・・・かつての戦いはワシらが組んでも奴から刀を奪うだけしか出来んかったがのう・・・・」


関東魔法協会と関西呪術協会の長年のわだかまり。

根本となった原因を調べるには随分と昔へと遡らねばならないが、しかしその長年続いたといういがみ合いも、今では割りと収まってきているのである。

その理由としては、魔法協会の使者が友好を結ぶために呪術協会に訪問したことにある。

その時、とある事件が起こり呪術協会の本山が壊滅寸前に追い込まれたが、それを救ったのが魔法協会の使者たちだった。

その使者というのがネギであり、共に戦ったシモンやアスナたちのことである。


「分かりました。ほなウチも久々の実戦おすが、参戦させてもらいますえ。一秒でも早く断ちたい奴との因縁・・・・・・今こそ斬らせてもらいますえ!!」


その甲斐あってか、本来絡むことのなかったはずの人物が、今回参戦することになる。

そしてそれは、海を越えた先でも起こっていた。






「王女・・・・・・ようやく使われていない幻のゲートと思わしき場所を発見しました」


南国の太陽が降り注ぐ国、モルモル王国。

その国の国王が住まう王宮の王座の間にて、一人のドレッドでスーツ姿の色黒の女性が膝を付いてこの国の王女、カオラ・スウに謁見していた。


「おお~~~! それどこなん? そろそろ迎えに行かな、サラたちが困っとるやろからな~」


カオラは王女とは思えぬ軽口で、王座であぐらを掻きながら女の報告に身を乗り出した。


「日本の・・・・・麻帆良学園です」


「日本!? しかもその学園ってロボット開発でウチらと共同研究したとこや~ん。これとんでもない偶然やな!」


うれしそうに手を叩くカオラ。一見してみれば豪華な服には身を包んでいても威厳も欠片も無い、ただの娘。しかしこんな姿でも彼女がこの国の王女であることは紛れもない事実である。

この国からの魔法世界の調査員として派遣された瀬田一家とは公私を問わずに仲が良い。特にサラはこのカオラにとっては親友も同然の仲である。

だからこそ魔法世界唯一の玄関とも言えるゲートが破壊されたときは、真剣に驚いていた。だが、まだ破壊されていない幻のゲートが一つあるという情報を聞きつけた彼女は、その権力を思う存分使い、魔法の情報が一切入ってこない独立国家でありながら、ついに最後のゲートの存在にたどり着いたのである。

そして思い立ったら彼女は早い。

王座からアッサリと立ち上がり、衛兵全員に向けて号令を掛ける。


「ふふ~ん、ほな、ウチらの友達を迎えに行くで! 当然日本政府の許可は取っとらんから、内緒で飛ぶで! レーダーには反応せん、世界最高速度を誇る飛行船、ステルスアマランカオランで今すぐ日本の麻帆良学園にレッツゴーや! 素子にも連絡頼むで~!!」


こんな公私混同の姫の我侭に誰が付き合うのか?

しかしこの我侭によろこんで従うのがこの国である。


「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」


そう、ついにこの国まで動いてしまった。


「そや、麻帆良に着いたらあの自分のこと火星人とか言っとったオモロイ子にも会えるかもしれんな~。何かウチワクワクしてきたで~!」


地球の至る所に散らばっていた点が糸に絡まり、全てが麻帆良学園に引き寄せられていく。

あるものは己に課せられた使命のため。

あるものは昔からの因縁を断ち切るため。

あるものはただの私事のために。

一見バラバラで繋がりのない目的のようで、全ての者たちが同じ場所で、同じことに関わろうとしていた。

これは偶然。しかしただの偶然ではない。

世界の動きを無意識の内に感じ取っていたのかもしれないのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:28
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