第百二十一話 俺の出した答えは、やっぱり俺たちらしかった 投稿者:兄貴 投稿日:10/10/19-01:08 No.4407
「狂い笑いの・・・・・高笑いが聞こえてくるようです・・・・・本当の危険はシモンではなかった。・・・・・・・・あなたの方でした」
静まり返った宮殿内。
クロニアはため息をつきながら、頭を抱えた。
「クロニアさん・・・・・少年が解決策を思いついたことを信じるポヨか?」
「・・・・・・さあ・・・・どうでしょう。ただ問題の本質はそこではなく・・・・・・」
「?」
ザジ姉はネギの言葉を戯言だとまるっきり信じている様子はない。
だが、クロニアは違った。
それどころか、ネギの言葉によって引き起こされるかもしれない事態をどうするべきかと頭の中で巡らしていた。
(さて・・・この少年を・・・完全に自分たちなら出来ると信じているこの子をどうするべきか・・・・・・・話だけでも聞くべきでしょうか・・・・少なくともシモンよりは実のある会話が出来るかもしれない・・・もし私やお父様でも思いつかない方法なら・・・・・・・・いえ・・・・しかしそれでもお父様や世界は・・・・)
思わぬ事態にクロニアが葛藤している。
ネギの発言の、世界を救う手立てがある。その言葉だけで多くのものに様々な影響を与えていたのだった。
「テンジョウさん・・・どうしました? 何をそんなに恐れているんですか?」
「ッ、恐れている? この私が? 生意気なことを言うのもいい加減にしなさい。あなたの戯言に一々構ってなどいられません」
「いえ、恐れています。まだ起こってもいない未来をあなたたちは恐れています」
「!?」
クロニアの肩が大きく揺れた。
それは図星を突かれたからなのかは分からない。だが、クールに装っていたクロニアの瞳は明らかに揺れていた。
「ネギ・スプリングフィールド。あなたは分かっていない・・・・・・世界は・・・・・」
「世界はそんなに甘くはない・・・・・・・・ですか?」
「ッ・・・・・・そうです・・・・・・あなたは世界や・・・人を・・・・人間社会を知らな過ぎます」
クロニアは言った。
救う方法があるかどうかが問題なのではない。実行してしまったらどうなるのかが問題なのだ。
「テンジョウさん。国の危機や苦しみに手を差し伸べるのは、地球でも良くあることです。支援や協力・・・・・・そうやって人と人とが寄り添う社会もあるんじゃないですか?」
「それは・・・・・・国益が絡めばの話です。個人間の支援や草の根の協力ならまだ分かります。しかしそれが世界規模なら・・・見返りのないものに大きな組織や国は動きません。呪文を詠唱しただけで世界を滅ぼせるような者たちの住む世界を救うことにメリットはありますか? それによって今後引き起こされるかもしれない争いに、あなたは責任を持てますか?」
「何故・・・・・・争いが起こることが前提なのでしょうか?」
「それが人だからです。社会だからです。あなたが出会った人たちはそういう人たちで無いというのなら、それはただ出会いに恵まれていただけです。本来の人とは弱く臆病です。他人を傷つけることでしか自分の存在意義を見いだせない生き物です。世界の歴史がそれを証明しています。だから戦争は絶えません。だからこそ・・・・・・・誰かが守り、管理しなければなりません。世界を・・・いえ・・・地球を守るために」
握った拳と同様、クロニアの言葉に力が入る。それこそがクロニアの想い。
「あのユウサという男も・・・そんなようなことを言っていました。しかし・・・・・・・・本当にそうでしょうか?」
「・・・・なんです?」
「僕は・・・・誰かが管理しなければならないほど、人はそこまで弱いものではないと思います」
だが、ネギの想いも妥協ない。
「それはあなたに力があるからです。巻き込まれるのはいつだって力のない者たちです。確かに地球人類全てがあなたのようであれば、何も問題はなかったのかもしれません。しかし、それは無理です。何故なら現に私とあなたは分かり合えていない。永久に分かり合うことは出来ないでしょう。ならば世界も同じだとは思いませんか? 人類はまだ・・・・・・未熟なのです」
ネギもクロニアも互いの意見を曲げずにぶつけ合っていた。
だが、話は平行線から交わることは無い。
「どうやら・・・・・・・お互い引きそうにないポヨ・・・クロニアさん、もうそろそろポヨ」
終わり見えない二人の口論に口を挟み、ザジ姉は動き出した。
「待ちなさい。話はまだ・・・・・・・・」
「時間が無いから待てないポヨ。それにあなたは元々少年を抑えるためでなく、狂い笑いを始末するために来たのでは? ドサクサに紛れて逃げられるポヨ?」
「むっ・・・・・・・・・・・・・」
「ここは私に任せてもらえればいいポヨ」
そう、二人の主張がどうあれ現実的な時間が無い。
こうしている間にフェイトの手によって魔法世界は消滅への道を辿っているのだ。
「・・・・・確かに・・・・・・・そうかもしれませんね・・・・・・」
ネギを見て少し迷いが見られたがクロニアはザジ姉の言葉に大人しく従うことにした。
「テンジョウさん!?」
踵を返してこの場を立ち去ろうとするクロニアを慌てて止めようとするネギ。
「ネギ・スプリングフィールド・・・・・・・あなたの主張は20年・・・いえ、せめて11年前なら聞いてみてもよかったかもしれませんね」
「テンジョウさん!?」
「今度は地球で会いましょう」
クロニアは振り返らない。ネギが伸ばそうとする手が触れることもなく、言葉を受け止めることもなく、その場から姿を消そうとした。
話はまだ終わっていない。
伝えねばならないことはまだたくさんある。
クロニアをここで逃してしまえば二度と捕まえられないような気がする。
フェイトだけではない。ザジ姉だけではない。彼女も納得させなければ前へは進まないような気がした。
だからネギはクロニアを必死で止めようとした。
だが手を伸ばそうとしたネギの前には・・・・
「させないポヨ」
「ッ!?」
濃密な魔の力が立ちはだかった。
「ポヨさん!?」
「そうポヨ」
いや、魔力だけではない。
「いくら地球の守護者の一族が居るからといって、いつまでも無視はひどいポヨ。私も生命としての格なら、それなりに高位な存在ポヨヨ」
「ま、・・・・・・・・・魔族!?」
人の姿を捨て、形態変化で魔族の姿へと変貌したザジ姉が、ついにその正体を明かした。
「ええーーーッ!? ザ、ザジさん!? 魔族ってあのたまに居る!?」
「完全にラスボスじゃねえかーーーッ!? お前、魔王だったのかッ!?」
「力も偉さもそれぐらいポヨ」
口調はポヨポヨと変わらぬが、今まで抑えられていた底知れぬモノがようやく開放されたかのように、ザジ姉は魔力を発散していく。
それだけで千雨もまき絵も再び引きつった顔を浮かべている。
ザジ姉という存在によって完全にこの場は飲み込まれていた。
形態変化・・・
人型の姿から異形の姿へと変貌させ、その力や内在する魔力を増幅させてパワーアップする変身タイプの化物は珍しくは無い。
だが、今目の前にいる化け物は、その開放された魔の姿から感じられる威圧感は、そこら辺に居るようなただの化物とは格の位置づけが違うことは明らかだった。
「出るものが出ましたか・・・・・・・この姿は私も初めてみましたが・・・・・・」
振り返りながら魔族の姿を顕著するザジ姉を眺めるクロニア。
その冷たい瞳には、開放状態のザジと、彼女に睨まれるネギ、そして千雨にまき絵。そしてその傍らでシモンにしがみ付くようにして爆睡している美空とココネが居た。
「完全なる世界に囚われるのではなく、自らの意志で脱出するとは素晴らしい意志の強さ。だが・・・・・・・」
ザジの背後に巨大な召喚魔のようなものが浮かび上がる。
巨大な腕と昆虫のような胴体に羽根。そして不気味にも人型の顔が埋め込まれていた。
「待ってください、ポヨさん! クロニアさんも!」
「待つのは嫌ポヨ」
召喚魔に埋め込まれた顔の口に、巨大な魔力が収束されていく。
ネギは話をすべくザジ姉とクロニアを止めようとするが、ザジ姉の攻撃は止まらない。
魔力を収束させたレーザー砲のような砲撃が、ネギたちに向かって容赦なく発射される。
ネギ一人なら避けるなら容易い。しかし未だに眠る仲間や千雨たちが居る以上、避けることは出来ない。
ネギは魔力を高めて正面から受けきろうとする。
しかし、その脅威はネギたちまで届くことは無かった。
何故なら、先ほどネギが唱えた『わずかな勇気(アウダー・キア・バウラ)』という言葉。
ネギが甘美な夢から脱出するために唱えたキーワード。
その言葉は今正にこの瞬間、前へと進もうとする者たちの心の中に浸透し、この場に変化を起こすことになったからだ。
「ッ!? ・・・・・・・・ウチは・・・・・」
台所でぼ~っと突っ立っている木乃香。包丁を動かした手が止まったままだ。正直かなり危ない。
しかし料理が得意な自分が、たった今頭の中に過ぎった何かによって呆然とさせられてしまったのだ。
すると、そんな木乃香を心配そうにして、台所に男が顔を出した。
「木乃香、どうしたんだ?」
「・・・・・・・・シモンさん・・・・・」
「ん? どうしたんだよいきなり、何か変だぞ」
「ううん、何でもあらへん。ちょっとぼ~っとしてもうて・・・」
「そうか? よく分からないけど無理するなよ。体に障ったら大変だからな」
「大丈~夫やて! もう~、シモンさんはせっちゃんみたいに心配性やな~。ちょっとぐらい体動かしたほうがええてお医者様に言われたんやから」
自分が住む家に当たり前のように居るシモン。先ほどまではそれに何の違和感も無かった。何故なら自分とシモンは・・・・
「あっ、そういえば、刹那は道場の指導で遅れるから先に食べてくれってさ」
「あっ、そうなん? なら今日はシモンさんと二人きりなんやな~。せっちゃんに悪いけど役得や」
「はは、そんなこと言っていつも抜け駆けしないのがお前だけどな」
「むっ・・・ん~~・・・シモンさんウチのことよう分かっとるんやな~」
「当たり前だろ? 俺を誰だと思ってる」
「はは、そらそか」
テーブルに二人分の食事を並べ、キッチンでは一人分の料理にラップを包んで取っておく。
そして二人は向かい合っていただきますの挨拶。
随分と慣れてしまった。
しかし、慣れてしまったはずの行為を、ようやく間違いだと気づいた木乃香は食事をする手を止め、切なそうにシモンを見た。
「シモンさん・・・」
「ん?」
「シモンさんは・・・・幸せ?」
問われたシモンは、頭に「?」を浮かべて首を傾げてしまった。
しかし木乃香の雰囲気がどこか真剣さを感じたので、シモンは少し照れくさそうにして答えようとした・・・
「俺は・・・・」
「・・・・やっぱええわ!」
答えようとしたシモンの唇に人差し指を置いて、木乃香はそれ以上先をシモンに言わせなかった。
「木乃香?」
何がなんだか分からないシモンも食事の手を止めてしまった。
すると木乃香はどこか切なそうに、しかしそれでも精一杯の笑みで微笑んだ。
「何の努力もまだしてへんのに、こんなズルしてもしゃーないからな~・・・・・・ここから先は・・・・ウチがホンマにシモンさんに勝ってから言わせたる」
これはこれで幸せだろう。しかし達成感が何もない。木乃香は分かっている、今目の前にある光景がどれほど困難な道の先にあるかということを。
「そんな簡単やない・・・・シモンさんを振りむかすんはそんな簡単や無い・・・・・・そんなん・・・・ウチが一番知っとる。せやから・・・・もうお終いや。こんなところにいつまでもいるようじゃ、いつまでたってもシモンさんの心にも・・・ニアさんにも・・・ヨーコさんにも・・・美空ちゃんたちや超さんにも敵わんからな!」
この男の想いを痛いほど、そして悔しいほど知っているからこそ、いつまでもここに囚われているようでは一生届かない。
正面から自分は想いをぶつけ続けると誓ったのにこれでは、顔向けが出来ない。そう、シモン本人にも、そのシモンと深く強い絆で結ばれているものたちともだ。
だから彼女は行く。
部屋の窓の外から光が見える。木乃香はその光に向かって手を伸ばし・・・・
「絶対この夢・・・・ウチは叶えてみせる!」
木乃香は夢の中から飛び立った。
その光は夢の中に囚われている他の仲間たちへと確かに浸透していた。
「ゼンゴ先輩・・・・・・・・・・・・」
「楓はやっぱり天才だす! もう、敵わないだす! これで楓も一人前だす!」
お手上げのポーズをとる全身真っ黒の服を着た忍者。
「・・・・・かたじけない・・・・先輩」
クナイに手裏剣と己の武器を地面に落としながら楓は一礼した。
そして何か達観したような表情で空を見上げた。
「死んだジジババが居て・・・・そして、先輩を超える忍になる・・・・それが拙者の夢でござった。だがどこかで諦めていたでござる。自分はまだ未熟者だからと・・・・・それがまさかこのような形で見れるとは・・・・しかし・・・・」
しかしこれは夢。現実ではない。
いつの間にか夢を夢だと認識した楓は苦笑しながら、時が止まったように停止する目の前の男に向かって言葉を掛ける。
夢だと認識してしまった瞬間、夢の中の登場人物たちは皆動かなくなってしまった。だから言葉を掛けても仕方ないかもしれない。
だが、楓は告げる。
夢と決別して現実へと戻るために。
「先輩・・・拙者・・・先輩にも負けぬ主を見つけたでござる。世界を変えられるほどの・・・・だから・・・・・拙者は行く出ござる。主の下へ」
後ろへ振り返って天を見上げる楓。もう夢を振り返らない。
彼女も前へと進むと決め、夢の世界から飛び出した。
「ジュリア・・・・・・・・もう時間だ・・・・・僕はもう行くよ。サラが・・・ハルカが・・・待っているからね」
今は亡き愛しい者との夢から旅立つ瀬田。
「私は・・・・・・ジュリア・・・・あんたと正々堂々と決着付けたかったよ」
友に別れを告げるハルカ。
「見てろよ~・・・・ケータロよりいい男見つけて、なるより幸せになってやるからなア!」
かつての自分と決別するサラ。
「随分と甘い夢を見たな・・・・私も・・・・・・・・・だが、ありがとう・・・・・・私はこの時を忘れない。だから・・・・・・行ってくるよ」
優しく微笑む青年に微笑み返す龍宮。
そしてグレン団も、白き翼たちも、皆が同じ時間、同じように、自身の意思で夢から覚めることを選んでいた。
彼女たちの止まらぬ意思。そしてネギのお陰で歪みが出来た夢の世界。
その二つが要因となり、誰もが皆甘い夢の中での一時に背を向け、自らの意志で現実へ戻る覚悟を決めた。
愛しむべき世界を砕き、皆は光となった。
「させないさ」
颯爽と登場した男のとび蹴りが化け物の顔面を捕え、砲撃が逸れた。
「むっ!?」
「アッ!?」
「・・・あなたは・・・・」
逸れた砲撃が宮殿の壁を突き破り、辺りに粉塵が舞う。
その粉塵の中に蹴りを放った男は着地し、即座にこちらに構えた。
「いや~、ごめんごめん。死んだ友と冒険している楽しい夢に夢中で、遅くなっちゃったよ」
白衣を纏い、眼鏡をキラリと光らせる男。それは瀬田だ。
「冒険王瀬田ポヨか!?」
そして瀬田に続いて、メカタマに乗ったサラが、ハルカが、シャークティーが、豪徳寺たちが起き上がり、一斉攻撃をザジ姉に向けて放つ。
「パパだけじゃねえよ」
「俺たちも忘れるんじゃねえッ!!」
まるで合図を待っていたかのごとく、彼らは一斉に起き上がってザジ姉に向けて集中攻撃を仕掛ける。
「エンキ・サン・アタック」
「メカタマミサイル!」
「極・漢魂!!」
レーザ砲が、ミサイルが、遠当てが。全員寝ていると思い込んでいたために、油断したザジ姉に容赦ない攻撃が降り注ぐ。
「ポ、ポヨヨ!? ちょっと卑怯ポヨ! 寝た振りしてたポヨか!」
「うるせえ! 畜生! つうかおかしいとは思ってたんだ! ヨーコさんとデートできるなんて・・・・出来るなんて・・・・ド畜生がア!!」
甘い夢から現実に戻った男たちは、何故か血の涙を流しながら雄叫びを上げる。
「くっ・・・・・・・・・ならば寝ていればよかったポヨ」
あまりにも理不尽な怒号に、少々ザジ姉も不機嫌気味だ。
「・・・・・手伝いましょうか?」
「結構ポニョ・・・・・・いや、ポヨ!」
冷めた目で眺めながら、立ち去ろうとする足を止めたクロニアが呟くが、ザジ姉は拒否。
「オラオラオラァ!! けちらしてやるぞ!!」
「ちっくしょ~、あんなもの見せやがって!!」
「そうだそうだ! 何で私に関しては・・・・・あんな・・・・ケータロとあんな風に・・・・・うう~~~、このオ!!」
完全なる世界に囚われ、夢が夢だと気づかされたショックからか、逆切れした豪徳寺たちがザジ姉に一切の恐れも見せずに果敢に向かう。
「むっ・・・少しやり過ぎポヨ・・・・・・・・・・」
「ッ、みさなん、避けてください!」
「遅い! 吹き飛ぶポヨ!」
ムッとしたザジ姉は、サラたち目掛けて先ほどと同じ魔法光線を放つ。
極太のレーザービームが一直線に突き進み、サラたちを吹き飛ばそうとする。
だが、再び示し合わせたかのように、寝ていたものたちが一斉に起き上がり、光線の直線状に立ち、魔力で、気で、札で、剣で、ザジ姉の攻撃をかき消した。
「ぬぬぬポヨ」
「・・・・・結局みな起きましたか・・・・・」
やれやれとため息をつくクロニア。
完全に夢の中に囚われたと思っていた一同は、ネギを皮切りに、グレン団、白き翼と、結局全員現実世界へ戻ってきたのだった。
「皆さん!」
「あいや~、遅れてスマヌ、ネギ坊主。里で先輩と修行に明け暮れる夢を見てしまったでござる」
のほほんとした笑みで、いつもと変わらぬ表情を見せてくれる楓。
「油断した・・・・あんな甘美な夢を見せられるとはな・・・恐ろしい・・・・・・」
「しかし良い夢でした。確かに歪みが生じなければ戻ってこれなかったでしょうね」
「ちょっと恥ずかしい夢だったアルが・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちっ、もうあんな・・・・・幻なんかに左右されるほど若くは無いと思っていたんだがな~」
アッサリと敵の術に掛かってしまい面目なさそうな龍宮、甘美な夢の恐ろしさを知ったシャークティー、夢を思い出して顔を赤らめている古、なんともいえない複雑そうな表情のハルカ。
「やれやれ、大人も含めて皆目が覚めてしまったポヨか・・・・・どうやらネギ先生の所為で術式が緩くなってしまったようポヨ」
ネギが初めに自力で脱出したのが功を奏したのか、一定の間を置いて皆も自力で夢から戻ってくることが出来たようだ。
それぞれ見ていたのは、その人がもっとも幸せだと感じる世界。
しかし緩んだ術式が、夢の中に居る皆に夢だと気づかせてしまったために、皆が強い意志を持って帰還することが出来たのだった。
これには素直に感心するクロニアとザジ姉。
最も中には、夢から戻ってきたものの名残惜しそうにしている者も居るようだ・・・・・
「・・・・・刹那? ・・・・・・どうしたんだ俯いて」
起きたものの、未だ一言も発さぬ刹那。
様子がおかしいと龍宮が振り向くと、ず~んと黒い影を落としながらブツブツと何かを呟いている刹那が居た。
「夢・・・・そうだ・・・・ぶつぶつ・・・・あんなの夢に決まっている。あの人がそう簡単に我々を受け入れてくれるはずがない・・・・・・」
明らかに不気味だ。
「おい・・・・どうしたんだ? このデコちゃん」
「さ、さあ・・・・・何か変な夢でも見たのでは?」
ハルカもシャークティーも、何やら落ち着きの無い刹那の様子に小声で話し合うが、誰も答えが分からない。
恐らく完全なる世界の影響なのかもしれない。
「刹那・・・・」
「・・・何でも無い・・・少し淫らな夢を見ただけだ・・・・」
「・・・ん?・・・・・・・・・・あれは・・・・、甘い夢では無かったのか?」
「えっ? ・・・あっ・・・いや、なんでもない! とにかく・・・・今はここを切り抜けることが先決だ!」
ちょっと涙目だった。
だが、とりあえず嫌な予感がしたので、刹那は何も無かったことにして少しほうっておこうと無言で龍宮たちは合図しあい、スルーすることにした。
だが、様子がおかしいのは刹那だけではなかった。
「う・・・・う~ん・・・・」
「うにゅ・・・・・・・世界征服・・・・・ってアレ?」
「ノーベル賞・・・・・・・・」
寝ぼけながら、偽アスナやハルナにハカセまでもが起き始める。
寝ている間に見た夢は千差万別。一々何を見たのか呑気に談笑していられる状況ではない。
だが・・・
「・・・・・・・・・う~~ん ・・・・・・」
同じように目を擦りながら目を覚ました木乃香。
すると彼女は一度思いっきり伸びをした後、ゆっくりと立ち上がり、辺りをキョロキョロ見渡した。
「・・・・・木乃香?」
そこにいるのは、明らかに戦闘中の仲間たちに、異形の姿のザジ姉。だが、彼女はそのことに対して何も言わず、無言のまま下を向いた。
「・・・・・・は~~~、やっぱ~、少し惜しかったな~」
そして木乃香は一人俯いて、残念そうに自分のお腹を擦りながら、ボソッと呟いた。
「もう少しで・・・・・・生まれるところやったし・・・・」
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」
何が? とは、意地でもみんなツッコまなかった。
その問題発言に誰もが押し黙り、少し気まずい空気が流れたのだが、その少し気の抜けた間を我慢できなくなったザジ姉がうなった。
「ぬうううう、いつまでやってるポヨかァ!!」
「ポ、ポヨがキレやがった!?」
魔力の突風が吹き荒れネギたちを襲う。
「なるほど。レプリカとはいえ完全なる世界を脱出するとは大した精神力。だが、それでもまだ・・・認められないポヨーーーーーッ!!」
変な語尾でありながら、魔力の波動によって起こされる突風は強烈だ。
たまらず誰もが吹き飛ばされないように足に力を入れ、中には巻き上がる突風に肌を切られて血が滲み出るものまで現われた。
「ポヨさん!? 皆さん、気をつけてください!」
「何と強烈な魔力!?」
「化物クラス・・・・・」
逃げようにも足が動かない。刹那や龍宮たちならまだしも、千雨やまき絵たちは気力が違う。
仲間が皆起きたというのに、目の前の圧倒的な脅威に恐怖で震え上がる。
「所詮はこれから始まる世界のうねりに飲み込まれるだけの小さな存在! その思い上がりは、今ここでねじ伏せるポヨ!!」
力ずく。シンプルゆえにもっとも厄介な手段。
ザジ姉にとっては、完全なる世界という精神攻撃はまだ慈悲があったのだろう。
だが、その攻撃を跳ね除けて脱出し、尚も抗おうとするものたちに情けもクソも無い。
「やばいね。例のフェイトとか言う奴より厄介なんじゃないかい? 少なくともあいつは女に優しそうなんだろ?」
ハルカが言う。
少し冗談めいているが、彼女の言っていることはあながち冗談でもなかった。
ネギたちも目の前に居る存在は未知数であり、ひょっとしたらフェイトたち以上の強敵かもしれないという可能性を感じていた。
だが、逃げるわけにはいかない。
何故なら・・・・
「ま、まずいです! まだ美空とココネとシモンさんが!」
シャークティーが叫び、皆が気づく。
ザジ姉の足元で未だ夢の中に居る三人を。
そしてザジ姉も気づく。
「ふむふむ、これがあなたたちの心のよりどころポヨね。ならばまずこの存在から、更に深い、真の完全なる世界に落とすポヨ!」
「し、しまった!」
龍宮がライフルでザジ姉を撃ちぬこうとするが、見えない障壁に阻まれて届かない。
「まずい! 彼女を止めろ!」
珍しく瀬田が声を荒げる。
それを聴いた瞬間、ネギたちだけでなく豪徳寺たちも一斉にザジ姉に飛び掛る。
だが、油断さえしていなければやられるザジ姉ではない。
「邪魔ポヨ!」
彼女の背後に立つ巨大な召喚魔の打撃が仲間たちを皆吹き飛ばした。
一部の者たちを除いて、ザジ姉との圧倒的な実力差がこの瞬間にハッキリとなった。
吹き飛ばされた仲間たち。そして未だに起きないシモンたち。
ザジ姉が腕を軽く上げ、その手を振り下ろそうとする。
何が起こるかは分からない。しかしザジ姉のやろうとしていることをこのままにしてはまずいというのは皆が理解できていた。
しかしシモンを助けようにも間に合わない。
距離がありすぎる。
その距離をどうすればいい?
それは、声だけだった。
「シモンさん、起きィーーーーーーッ!!!!」
人生で一番大きく叫んだかもしれない。木乃香は懸命に大きな声でシモンに呼びかける。
ザジ姉は無駄なことだと鼻であしらい、無情にも手を止めようとしない。
だが、ザジ姉は分かっていなかった。
無駄なことなど無かったのだ。
なぜならシモンを想って必死に叫んだその声は、ネギのお陰で緩んでしまった夢の中にまで、ちゃんと届いているのだから。
最終更新:2011年05月13日 21:31