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123-友を見捨てるなとは言わなかったのかよ!!

第百二十三話 友を見捨てるなとは言わなかったのかよ!! 投稿者:兄貴 投稿日:10/10/26-16:16 No.4413
「行きます、シモン」



ゆったりとした構えでシモンを見下ろすマジンガンから、クロニアの声が聞こえた。


自らを人類の守護者の一族と呼んだ女。


目の前のガンメンを守護神と呼んだ女。


魔法世界、地球、人間社会、未来、彼女がどれだけ多くのものを背負っているのかは分からない。


しかし、彼女の振るう螺旋の力、そしてガンメンは、螺旋族の希望だ。


達観し、見切りをつけ、切り捨てようとする者が使っていい力ではない。


話しても分からないなら、力ずくで分からせる。



「ああ、来い!」



緑色に輝く螺旋の力と、紅く輝く螺旋の力が今ぶつかり合う。



「先手はいただきます」



先に動き出したのはマジンガン。


「ッ、この動き・・・・ますますグレンラガンタイプで間違いないな・・・・」


巨体な体でありながら、決して重さを感じさせずに木の葉のように軽やかに駆け抜ける。

スピードだけではない、その巨体を生かし、螺旋の力で増幅されたパワーも圧倒的だ。

振りぬいた拳だけで宮殿の壁に、床に、巨大な亀裂が走っていた。

このスピードにしてこのパワー、そして精錬された達人のような動き。それはかつてのラゼンガンを髣髴とさせるものだった。


「流石グレンラガンタイプのガンメン・・・生身で戦うなんて昔では考えられなかったな」


学園祭のときに戦ったグレンラガンモドキとは違う。

正真正銘螺旋の力で起動する、螺旋族のガンメンだ。

螺旋の力に目覚めたものが扱うガンメンの強さは、全宇宙でシモンが一番理解していた。

相手の様子を見るように攻撃を回避しつつ、反撃を待つシモン。

しかし相手のリーチと間合いの広さを把握しきれず、マジンガンの拳で壁に打ち付けられ、そのまま両手で押さえつけられた。


「平安の時代より始祖が現われて約1000年・・・始祖の予言どおり人類は大きな進化を辿りました」


「何?」


壁にシモンを押し付けながら、クロニアが言う。


「技術の発達により人類は栄え、同時に争い、高め合い、その止まることのない思いは闇雲に天を目指す。言葉や理性でそれを抑えることは決して不可能だと・・・力ずくで抑えようとしても必ず人類は抗う。そしてそれがこの星の滅亡へと繋がると」


「何が言いたいんだよ・・・さっきから」


壁に押さえつけられながら、マジンガンの頭部のコクピットに居るクロニアにシモンは叫ぶ。


「生誕から何十億と続く地球の命は、ほんの僅かな人類の歴史で滅ぼうとしています。争い、搾取、人口増加、環境破壊、より高みへと目指そうとした人類の歴史です」


「だから人類は・・・愚かだと言いたいのか?」


「いいえ、始祖はこう言い残しました。それでもこの星と人間を守れと。1000年も前の時点で既にマジンガンや螺旋の力という飛びぬけた力、知識、技術、全てを所有していながら始祖は遥か先の未来を憂いました。私には、その血が流れているのです」


「だから切り捨てるのか・・・魔法世界を・・・地球人類の脅威となるものを」


「この世界の存続は間違いなく地球人類の大きな脅威となります。これまでは我々もこの世界や魔法使い、さらには魔族や亜人などの異形の存在に対しても様々な譲歩をしてきましたが、もはや限界なのです」


マジンガンはシモンを左手で押さえつけたまま、右手を思いっきり振りかぶる。その拳からはドリルが突き出し、シモンを串刺しにするつもりだ。


「例えどれほど人類が愚かな歴史や進歩を繰り返していたとしても、我々は地球人類を見捨てるわけにはいかないのです。だからこそ守らねばならないのです」


ドリルが回転し、シモンへと振り下ろされる。

だが、今のシモンはただのシモンじゃない。

天元突破だ。



「天元突破ツインボークン!!」



シモンの両腕の螺旋の炎は密度を増して膨張し、巨大な炎の腕となってラゼンガンの拘束を力づくに剥がし、振り下ろされるドリルの拳を片手で掴み取った。


「テメエの先祖は言わなかったのかよ?」


「なッ!? こんな力がまだ・・・・」


「友を見捨てるなとは言わなかったのかよ!!」


シモンは螺旋の炎を纏ったその熱き拳で自身の何倍もの質量のあるマジンガンを殴り飛ばした。

そしてシモンも埋め込まれた壁から飛び出して、マジンガンへ追撃する。

その巨大な二つの炎の拳を同時に撃ちだし、敵を貫く。



「超銀河大宇宙大爆裂双拳破ァ!!!!」



まるでチコ☆タンが殴ったのかと思えるぐらいの大爆発。

あの何よりもとにかく大きなものが好きだったジョーガンとバリンボーの技だ。


「天の光は全て星・・・・俺たちの友が住む星々だ。魔法使いだろうと何だろうと、俺たちと同じ人類じゃないか。何も変わらない。テメエらの都合で勝手に線引きしてんじゃねえ!!」


シモンの技を受けて二転三転転がりながら打ち付けられたマジンガン。


「くっ・・・つ・・・・・・無責任なことを好き勝手に・・・・」


スピーカーからクロニアが体をコクピット内で激しく打ち付けた声が漏れた。

だが彼女は直ぐにマジンガンを起こしてシモンに向かって走り出す。


「もはやネギ・スプリングフィールド同様、あなたとの話し合いはこれ以上無意味。早急に終わらせましょう」


「ああ・・・・そうだな・・・・終わらせよう」


駆け出したマジンガンはしゃがみ、水面蹴りを放つ。

シモンはジャンプで回避すると、宙に浮いたシモンに対してマジンガンの伸ばしたドリルが迫っていた。

一本だけではない。数十本のドリルが同時にシモンに向けて伸ばされた。

捉えたとクロニアはコクピット内で思った。

しかしシモンはクロニアの未だ知らない螺旋の力を惜しみなく出す。



「天元突破ソーゾーシン!! 超銀河ソニックジャマー!!」



シモンはゾーシーの愛機、ソーゾーシンがかつて使った特殊波長ビームをマジンガンに向けて放つ。


「こ、これは・・・・うっ、・・・ぐう・・・超音波!?」


ビームに含まれた音波攻撃により、強烈な耳鳴りのようなものがコクピット内のクロニアを襲い、思わず操縦桿から手を離して両耳を塞いだ。

それにより、伸ばされたはずのドリルはシモンに届くことなく止まった。

シモンはその隙に懐かしいV字型のブーメランを具現化し、投げた。

勢いよく回転して飛ぶブーメランはマジンガンから伸びるドリルを全て切断しながら進み、やがて真っ二つに分かれてマジンガンを壁に張り付けにした。

気づけば手足の自由を失い操縦不能となったマジンガン。

音波攻撃が止み、慌てて操縦桿を握りマジンガンを動かそうとするが、ブーメランが強く手足の自由を奪って張り付けにされているため動かなかった。



「さあ、今こそ見せてやるぜ、ドリルが俺たちの魂だってことをなァ!!」



そしてシモンは右腕を天に掲げ、その腕に螺旋の炎を集わせて巨大なドリルを創り出した。

それは紛れも無くあの技だ。


「とっ、・・・・・とんでもないエネルギー量・・・・・あれは・・・・まずいですね。絶対に受けては・・・・」


シモンの巨大な螺旋の力を前にして何とか拘束から逃れなければと必死に機体を動かそうとする。

しかしその時、クロニアはハッとなった。


「・・・逃げる? この私が・・・・・・」


正面から堂々と戦いを挑んでくるものに対して、人類の守護者の一族と名乗る自分が逃げるのか?

守護者とは守護するもの。その守護者が逃げ出せば、誰が守護すべき者たちを守るのか・・・

唇をかみ締め、今一度強く操縦桿を握る。


「逃げません。・・・・・断じて!!」


シモンが向かってくる。

掲げた超巨大なドリルごと回転しながら向かってくる。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


シモンと共に叫ぶ大グレン団たちの魂の咆哮。

直撃すればマジンガンの敗北は必死。

だが、クロニアは覚悟を決めて正面から受けてたつことを決める。

その覚悟はマジンガンの操縦席に付けられた螺旋ゲージを満タンにさせ、紅く輝く螺旋の光が漏れ出し、マジンガンは力ずくでブーメランの拘束を撥ね退けた。

自由を取り戻したマジンガンからは見る見るうちに螺旋の光が溢れ、その光が渦を巻いてマジンガンを包み、やがてマジンガン自体が超巨大なドリルへと変形した。



「私は全力であなたの道を叩き潰します! 想いも、心も、魂すら消し飛びなさい!」



「消し飛ぶだと? 勝手なことヌかしてんじゃねえ!!」



回転して向き合う二つのドリルはぶつかり合い、どちらも相手を貫こうとしていた。


ドリルの先端のぶつかり合い。


その衝撃は両者の体に直接伝わっていく。


衝撃だけではない、両者の想いも心に伝わる。


互いの汗も、息遣いも、全てがドリルを通して感じ取れる。


互いにぶつかり合うというのは、こういう事なのかもしれない。


だからこそ分かる。


たった一人で戦うクロニアに、大グレン団全員で戦うシモンに勝つことなど出来ない。



「何故・・・・・・」



クロニアが呟いた瞬間、シモンのドリルが勢いを増し、紅く輝くマジンガンのドリルを砕いた。



「・・・・・・これでも・・・・これでも勝てないというのですか?」



ドリルを失ったマジンガンの胴体に、シモンのドリルが深々と突き刺さる。


突き刺さったドリルからは紅く輝く光を覆うように、マジンガンに緑色に輝く光が流されていく。


クロニアはもはや最後の足掻きとして、懐に飛び込んだシモンをなぎ払おうとする。


だが、その時異変が起きた。



「なっ・・・・操縦が・・・」



なんとマジンガンのコントロールが利かなくなったのだ。


いや、破損は激しいがまだ動けるはずである。エネルギーの残量はまだ残っている。


しかしどれだけ操縦桿を動かしても、マジンガンは起動しない。



「どういうことです・・・シモン、何をしたのです?」



マジンガンの胴体に右腕のドリルを突き刺したまま止まるシモン。

するとシモンは小さく呟いた。



「シモン・・・・インパクト・・・・」



「な・・・・」



次の瞬間クロニアは目を疑った。


何とコクピット内に輝く紅いモニターが次々と塗りつぶされるように緑色に輝きだし、全てのパネルがサングラスを掛けた炎のドクロマーク一色になったからだ。



「こ、これは・・・・・」



シモンが身に着けているマーク。即ち大グレン団のマークだ。

状況が何も分からないクロニア。

当然だ、彼女は今日初めてガンメンで戦ったのだ。

螺旋力にこんな使い方があったなど予想もしていなかったのだ。



「テメエのメカのコントロールを乗っ取った!」



「なっ!?」



「これはもう俺の言うことしか聞かない。クロニア、お前の負けだ!」



合体したメカのコントロールを奪う。


ガンメンとの戦いにおいては恐らく最強の力。


ガンメン同士で戦ったことの無いクロニアにそのような力の存在を知っているはずも無かった。


クロニアの震えが止まらない。


一族に伝わる究極兵器を持ってしてもシモンに敵わない。


認めたくはないとばかりにクロニアは必死で操縦桿を動かす。


だが・・・



「クロニア。俺もお前もお前の父親も・・・そしてお前の先祖も・・・・神でもなんでもない。同じただの人間なんだよ。本当はみんなと何も変わらないんだ」



「ッ!?」



ただの人間。


その言葉は、生まれてから今日に至るまでのクロニアの価値観を全てひっくり返すような言葉だった。


全身の力が抜け、自然と操縦桿から手が降りて、クロニアの心に大きな穴が空いた。



「クロニア。確かに人間は間違いを犯す。当たり前だ、人間なんだ。だから俺だって間違うときもある。でもな・・・・」



幼い頃から今日に至るまで、多くの戦いを乗り超え、多くの人と出会い、失い、結ばれ、育み、そして歩んできた自分が思ったこと。



「人間はそこまで愚かじゃない。それが銀河の果てで命を賭けて戦い、悩み、そして導き出し、命を賭けて信じた俺の答えだ」












黒い怨念のような瘴気が、その女からは漏れていた。



「西洋魔術師・・・裏切りの神鳴流剣士・・・・・・僅かな間で随分と逞しゅうなって」



聞こえるか聞こえないかギリギリの小さな声でブツブツとその女は呟きながら、ゆっくりと前へと出る。


召喚された鬼たちも、彼女の歩みと同時に攻撃を止め、鬼たちは左右に分かれて女の通る道を造った。


鬼たちの間をゆっくりと通るあの女は、本当に自分たちの知っているあの女なのか?


この、言いようの無い禍々しいものは何なのだ?


ネギたちの拳は気づけば汗で濡れていた。



「つうか・・・・・誰だよ・・・・」



「そこそこキレーな姉ちゃんだが、見覚えないな」



「ココネ知らない・・・シスターシャークティー?」



「・・・・私も知りませんが・・・・」



彼女を知らない豪徳寺たちは、ポカンとしながら首を傾げた。



「ウム、あの女は以前拙者らが京都の修学旅行で戦った陰陽術士でござる」



「まあ、私もあんまよく知らないんすけど、刹那さんとネギ君のほうが詳しいんじゃね?」



皆がネギと刹那に振り返る。

すると刹那は少し俯きながら、彼女のことを語りだす。



「彼女の名は天ヶ崎千草。関西呪術協会所属の陰陽術士です」



もう二度と会うことは無いと思っていた。


しかし再び、こうして再会してしまった。


だが、何故こうなったのかは分からない。


ネギも刹那もただ彼女を見つめていると、千草はゆっくりとネギたちを見渡し、小さくため息をついた。



「ふふ・・・良かった・・・坊やたち無事そうで何よりや」



「「「「「はっ?」」」」」



千草の口から出てきたのは意外な言葉。



「事の成り行きはある程度は聞きましたえ。ほんに苦しゅう目におうたみたいやな~」



千草の口から出たのはため息ではない。安堵だ。

それが意味するものは・・・



「あの白髪の少年が首謀者みたいやけど、ふふふ、どうやら前回はこっちが頭のつもりやったが、手の平で踊っとったのはウチの方やった。これだから西洋魔術師は忌々しゅうて敵わん」



ネギたちの無事を労いながら微笑みかける千草。


しかしその笑顔は普通ではない。


見ているだけでゾワゾワと鳥肌が立つ。



「まあ、この世界がどうなろうと・・・ウチとしては滅んでくれたほうがありがたいんやが、それに抗うために命を賭ける。その年でかっこええな~。・・・・しかし・・・・」



そして、突然千草の目つきが変わった。



「何でやろ・・・カッコええあんたたちにどれだけ微笑もうとも、ウチはどす黒い感情しか浮かび上がらん。ガキ共が・・・・ってなァ!!」



「ッ!?」



溜め込んで、溜め込んで、募り募った黒い瘴気が爆発した。


これまでそれなりに多くの敵と戦ってきた。


いい奴も悪い奴も含めて、多くのプレッシャーや殺意を味わってきた。


しかしこれほどの、空間を覆いつくすほどに溢れる憎悪の感情は、ネギたちにとっては初めての事だった。



「ふざけるな、天ヶ崎千草! 貴様の場合は全て自業自得ではないか! 貴様から勝手に仕掛けてきたことだ!!」



向けられる憎悪を理不尽だと刹那は言う。だが、今の千草が冷静に物事を聞く耳など無い。



「こんな・・・こんな世界のためにウチは全てを無くした! 両親を・・・家を・・・日常を!! だからこそウチは復讐を選んだ!! それが貴様らの所為であの方にも見放され、ウチは地獄の血の海を啜るハメになった!!」



「ふざけんなァ! 逆恨みもいいとこじゃんかよォ!! 何なんだよあのおばさんは!」



「ア゛ァ゛? 知るかい! 気に食わんのや!」



千草が囚われているのは、この世で最も厄介な怪物だった。


それは、復讐という名の怪物。



「憎い・・・」



その怪物は、見る見るうちに大きくなり。



「憎・・・い・・・」



言葉や理性で抑えることも出来ず。



「憎い・・・ッ」



ただ、本能のままに牙をむき、暴れ狂う。



「殺してたる・・・殺したるっ・・・・・殺したるッ!!」



気? 魔力? 千草から漏れ出す瘴気はどちらとも取れぬドス黒いもの。

ただの憎悪だけでは生み出されない。

まるで呪いのように感じる。



「ひはははははははははははははははははははははははははは!!」



イカれている。

大の大人がここまで狂うなど、ネギたちにとっては未知の経験。

そしてのような事態において、イカれた復讐者がどのような行動を起こすのかもまったく予想がつかなかった。



「七つの星に裁かれよ・・・・」



だからこそ、ネギたちが千草に対して躊躇いや情が生まれる前にケリをつける必要がある。



「ア゛?」



「ちょっ、シスターシャークティー!?」



「ま、待ってくださいシャークティー先生!?」



シャークティーは先手とばかりに詠唱を唱え、そして最大級の大呪文を鬼たちの中心に居る千草に向けて叩き落す。



「七星剣(グランシャリオ)!!」



彗星の如く降り注ぐ光の柱が大量の鬼たちごと千草を飲み込んだ。

宮殿内の床板をも軽く貫く、シャークティーの最大呪文を、まともに喰らえば一たまりも無いはずである。



「が~~っ、西洋魔術師!?」



「これだから西洋魔術師は、わびさびが無くてアカンのや!」



「ビックリした~」



攻撃の範囲外に居た他の鬼たちは汗ダラダラにしながらシャークティーの呪文に腰を抜かしそうになっていた。


「ちょっ、シャークティー先生! 何でいきなり! これでは千草さんが・・・」


「甘えを捨てなさい、ネギ先生。あれはもはやただの精神異常者です。フェイトたちと違い、子供だろうと女性だろうと容赦なく殺す者です」


「でも!」


「ネギ先生! 我々は多くの者の未来を背負い、・・・戦争をしているんですよ?」


狂った千草を前にして、有無を言わさず攻撃を仕掛けたシャークティーに納得できないネギ。

しかしシャークティーは自分が間違っているとは認めない。

ネギたちは確かに強い。

だが、あのような人間と正面から向き合うことや、ましてや安い同情などではなく相手を理解し救うことが出来るほどの大人ではない。

だからこそ、自身の生徒が苦しみ、ましてや命の危機に晒される前に、シャークティーは自分の手を汚すことを選んだのだ。

だが、一つ誤算があるとすれば・・・・




「そうや・・・ウチらは戦争しとるんや・・・・」




「・・・・・えっ?」



シャークティーは背中に生暖かいものを感じた。

振り返るとそこには、自分の背中に呪札を幾重にも重ねて作られた剣が突き刺さり、血が滴り落ちていた。


「シ・・・シスター・・・・」


「シャ・・・シャークティーせんせ・・・い」


爆煙の中から千草の声が聞こえる。

だが、そんなことはどうでもいい。

今は目の前のことだ。

札で作られた剣を刺されたシャークティーは、そのことに気づいた瞬間痛みが走り、方膝をつき、口から血を吐き出した。



「「「「シャークティーの姐さーーーーーーーーーーん!!??」」」」



木霊す生徒たちの悲鳴。


「そ、そんな、シスター!? シスター!」


「美空さん、落ち着いてください! 楓! 急いでお嬢様を!」


「ウ、ウム!」


「この野郎・・・・・」


「よくも姐さんをやりやがったなーーーーッ!!」


その悲鳴や怒り聞いて、愉快そうに女は笑った。



「ひはははははははは! 憎いんか? 殺したいんか? 恨みたいんか? ウチの両親もこうして死んだ! 殺された! ちっとは痛みを知ったかい!! でもまだや! この20年間のウチの苦しみはこないなもんやない! 何も知らずに平和に生きて、挙句の果てによく知りもしない癖にこないな世界を救うなどとほざくクソガキ共は、臓物引き出して、皮膚をはいで、見る影も無くズタズタにしてやるえ!!」



「こ、この・・・・・ッ・・・・」



「世界を救うそうやな坊や? アホ抜かせ! 底辺を知らぬ西洋魔術師が誰から何を救うんや? 死を知らぬ、理不尽を知らぬ、報われぬ世界を知らぬ坊やたちに何が出来るんや! そしてそんなガキ共に負けた自分が何よりも許せん! 許せん! 許せんのやァァァァァ!!」



ネギは千草の言葉に無意識に殴りかかりそうになった。しかしその感情を無理やり抑える。



(ダ、ダメだ・・・怒り任せでは闇に飲まれる・・・彼女のように。大丈夫だ・・・落ち着け・・・シャークティー先生は助かる。シャークティー先生の分も、先生の僕がしっかりしなければ・・・・)



ネギは堪える。

湧き上がる自身の心の闇と必死に戦い、それを押さえ込もうとする。

ネギが闇と戦う間、生徒たちもそれぞれの判断で動く。

楓のマントのアーティファクトから、木乃香が一人だけ飛び出し、シャークティーに駆け寄る。


「シャークティー先生! 今ウチが治したる!」


彼女を見た瞬間、再び千草の目の色が変わった。


「ほ~、お嬢様・・・久しぶりですな~。そないなところに隠れてたんですかえ?」


「あ・・・・あんたは・・・・・」


木乃香も目の前の人物の声を聴いて鳥肌を立てる。

かつて自分を浚い、仲間を傷つけた目の前の女に良い感情を持っているはずは無い。


「木乃香殿、今一度シャークティー先生を連れて中へ。こやつらは拙者らが相手をいたす」


「ああ、この女は俺らがボコボコにするから姐さんを頼む」


「女性とはいえ、シャークティーさんを傷つけるような者は許さん」


「覚悟しろよあんた・・・私たちがフルボッコにしてやるからな」


怒りと涙を浮かべて駆け出す美空たち。

木乃香はシャークティーを連れて再び楓のアーティファクトの中へ避難した。これでとりあえずは心配の種は無くなった。

彼女と深い絆で結ばれた新生大グレン団たちは千草に対する怒りを前面に出して拳を握る。



「ふん、忌々しい小僧どもや・・・・なら・・・・・・・皆殺しやアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」



千草も動く。そして彼女の叫びと同時に生き残った鬼たちが武器を手に向かってくる。

その数は百を軽く超えている。


「ネギ先生・・・シャークティー先生の魔法は直撃したはず。何故あの女は大してダメージを受けていないのでしょう」


「簡単です。恐らく、造物主の掟の力でしょう。フェイトたちが彼女に渡したんだと思います」


「くっ、ではこちらの攻撃の威力も半分以下になるのだと思うしかないですね」


シャークティーが起こした粉塵がようやく晴れ、千草の姿が露になる。

多少の怪我で頭や手足に血を流しているが、一切気にしていない。その瞳に何の変化は無い。

そして姿が見えた彼女の手には、フェイトたちと同じ造物主の掟が握られていた。

これでシャークティーの呪文を防いだのだろう。

しかも千草が持っているのは、召喚魔たちが持っているような簡易版ではなく、デュナミスたち幹部が持っている強力な鍵だ。

その本当の力をネギたちはまだ知らない。


「千草さんは僕が!」


「気をつけてください、ネギ先生! 彼女は明らかに前回とは違います!」


刹那の忠告を受けて、術者の千草に真っ先に向かうネギ。


「ふん、舐められたもんや! 前鬼! 後鬼!」


「ウガ、了解」


「ガウ、承知」


二匹の大鬼は、そのデカイ図体からは思えぬ俊敏さで左右から挟み、真正面から特攻してくるネギを棘のついた金棒で上から叩き落す。


「ぼ、坊主!?」


「ネギ先生!?」


喰らえばひとたまりも無いであろう強烈な一撃に、床が激しく揺れる。

だが・・・・


「ウガ・・・当たってない」


「ガウ・・・受け流された・・・精霊化?」


手ごたえの無い事に、鬼たちが首を傾げた。

そう、雷化したネギならば、多少の物理攻撃など簡単に受け流してしまう。

鬼たちがそのことに気づいた瞬間、ネギは既に左右に立つ大鬼たちの顔の目の前に居た。

そしてネギは両腕を左右に伸ばし、同時にその両腕から雷電を放出し、鬼たちを左右に吹き飛ばした。


「W雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」


左右片手ずつから放たれる雷の暴風。かつて千草と初めて戦った時は、この呪文を一度唱えただけで全ての力を使いきる最強の呪文だった。


「侮らないでください、千草さん。僕はもう、あの時の僕ではありません!」


しかし今は違う。

あの時とは比べることも出来ぬほどの成長をネギは遂げているのだ。

いかに相手が巨躯の大鬼とはいえ足止めにもならない。

だが・・・・


「ふふ、うらやましいな~、坊や。一度目の人生でそれほどの才能を得られるやなんて」


「えっ?」


千草は微塵も動じていない。

以前なら巨大な魔法を放たれるたびに慌てふためいていた彼女がだ。


「お札さんお札さん・・・・」


そして彼女は一枚の札を取り出し、術を唱える。


「あの子をびしょ濡れにさせておくれやす」


札からは津波を思わせる大量の水が溢れ出し、鉄砲水のように強烈な勢いをつけてネギに襲い掛かる。


「水・・・でも、貫き通す!!」


ネギは鉄砲水を恐れずに拳を握り、千草まで一気に飛ぼうとする。

だが、千草はニタリと笑みを浮かべて勢いを増して鉄砲水を撥ね退けるネギを両腕広げて迎え入れる。


(な、なんだ・・・何を企んでいる?)


確かに千草は前回よりは強くなっている。しかし自分たちの成長速度とは比べ物にならない。

大鬼も今の術に至っても、確かに強力だが今のネギの足止めにもならない。

ならば何を企んでいる?

何をしようとしている?

罠の匂いがする。

ならば退くか? いや、自身の生徒が命を危険に晒して鬼たちと戦っているのだ。ここで時間を取られるわけにはいかない。

ならば特攻だ。



「雷速瞬動!!」



シモンならきっとそうするだろうと、ネギは雷の密度とスピードを増して千草に体当たりを噛ます。



「ふふ、水で感電するどころか最初から何も無いかのように貫くとは・・・せやけど・・・」



だが・・・



「かかったァ!!」



「ッ!?」



体当たりでぶつかると、何と千草が音と共に煙に包まれ、小さな札と変わった。



「み、身代わり!?」
最終更新:2011年05月13日 21:38
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