千草かと思って攻撃を仕掛けたら、何と式紙の偽者だった。
偽者の式紙であれほどの攻撃術を使うあたり、確かに千草も以前とは違う。
しかしなら本物はどこだ?
ネギが札を握りつぶし、辺りを見渡した瞬間、ネギと先ほど退けた二匹の大鬼を囲むように四方が輝き、直径数百メートルほどの結界が浮かび上がった。
「無間方処の呪法!!」
「し、しまっ!?」
いつの間にか、もしくは予め仕掛けられていたのか、四方の床に張られた結界が作動し、ネギと二匹の大鬼を閉じ込める。
「ま、まずい、無間方処の呪法だ!? ネギ先生を結界内に閉じ込めた!?」
「刹那・・・それは確か・・・」
「うむ、結界だ。先生を中心にして、半径数百メートルほどの半球状の結界だ。前後左右上下、どの方向に行こうとも、結界を越えようとすると最初の場所へ戻されてしまう。つまり・・・」
「じゃ、じゃあネギ坊主は閉じ込められたってことアルか!?」
「う、うそ・・・マジ!?」
「おいおいおいおい、何とか坊主を出せねえのかよ!?」
全ては千草の仕掛けた硬骨な罠。
ネギを挑発し、更に強力な術で攻撃することによって力ずくで飛び込んでくるように誘い込み、そこを捕獲する。
「くっ、こんな結界今なら・・・・」
今なら力ずくでこんな結界は打ち破れるはずだと、ネギは前方に手を翳し、結界を破る強力な呪文を唱える。
しかし・・・・
「雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!! ・・・・・っ、ぐわああああああああ!!」
「ネギ先生ッ!?」
「ひははははははははは、間抜けやなァ!!」
何とネギが前方に向かって撃ったはずの雷の暴風が、ネギの真後ろから飛んできたのである。
雷の暴風を直撃し、ネギは思わず叫んでしまった。
「ぐぐ・・・そんな・・・・」
「ふふふふふ、諦めるんやな! 力ずくで結界を越えようとも届かない。無限ループの繰り返しやァ!」
「っ・・・・・・・いや、そうだ! 京都で同じ術に掛かったとき、確か結界内の札を破壊すれば!」
「それもさせん! 前鬼! 後鬼! 今こそあんた等をあの方ほどではないが、最強の鬼の力を与えたる!!」
脱出方法を思い出し、実行しようとするネギに対して、結界の外から千草がネギと同じように結界内に閉じ込められている二体の鬼に術を唱える。
二匹の大鬼は意識を既に失っているが、千草の術により無理やり浮かび上がり、そして二匹は引き寄せられ、一つになる。
「鬼芽羅(キメラ)の術!!!!」
月詠が先ほど使ったのと同じ禁術。月詠はこの術で八俣大竜という怪物を生み出した。
対して千草は二匹の大鬼を使い・・・
「合体! 暴れ狂いなはれ! 超鬼!!」
大鬼を超える最上級の鬼を生み出した。
その大きさ、二つの顔、四本の腕、は京都のスクナを髣髴させた。
「お、大きい!? こんなのまるでスクナじゃないか!」
「ひはははは、いくらあんたでもそいつを瞬殺してそこから脱出するんは難しいやろ! そこで、自分の大切なものを蹂躙される様子をよう眺めとき!!」
「なっ、千草さん!!」
ネギと超鬼を結界内に閉じ込めた千草はネギをあざ笑いながら振り返り、未だ鬼たちと格闘する刹那や美空たちを見る。
「くくくく、流石に神鳴流の娘たちには、中級・低級の鬼どもじゃ束になっても中々敵わんか・・・せやけど・・・こうしらたどうなるん?」
そして彼女はあるものを取り出し、鬼たちと格闘する一人、楓に向ける。
それはフェイトたちの持っていた、「造物主の掟」の杖。
「さあ、隠れとらんで全員出て来ィ!!」
造物主の掟を向けられた瞬間、楓のアーティファクトが光り輝いた。
「し、しまっ・・・・」
「あ・・・天ヶ崎千草!? 貴様ァァァーーーーッ!!」
造物主の掟によるアーティファクトの強制干渉。
これにより、楓の能力は解除された。
「えっ!?」
「ふぇっ!?」
「やっ、やべえぞ!? どうやら無理やり出されたみたいだ!?」
何も知らぬ少女たち、木乃香も、偽アスナも、千雨ものどかもアキラも裕奈も亜子も気を失っているシャークティーも皆この戦場に出されてしまった。
「ふふふふ、さあ、坊や! そこから見えるかい? あんたの大事な生徒たちや! さっさと超鬼を倒して結界も破らんと、この子達がどうなっても知らんえ?」
「み、みなさん!? 千草さん! 彼女たちの中には戦えない人たちが居るんですよ!?」
「ひはははははは、知るかい! 戦争は不条理に起きる! 相手の事情や覚悟を一々待ってはくれんのや! 覚えとき! ひはははははははははははは!」
全ては千草の異常なまでの復讐心がこの状況を作り出した。
フェイトたちの計画の実行や、ネギの足止めなどをするためだけなら、ここまでする必要が無い。
彼女はネギを足止め、封じ込めることにより、ネギの目の前で生徒たちを痛めつけ、殺すことを選んだ。
そして今の彼女は躊躇わない。
(何てことだ・・・術のキレも以前僕たちと戦ったときと明らかに違う・・・・何故?)
腑に落ちないネギを見て、千草はニタ~ッと笑った。
「どうしたんや、坊や。顔が引きつっとるえ?」
「千草さん・・・あなたに一体何が?」
「ふふふ、坊や。才能の無い人間はある程度までは努力で伸ばすことが出来るが、才能の量を増やすことは出来ん。坊やに魔力という才能があっても穴掘りとしての才能がないというのと同じ。なら、無い才能を得るにはどうすればええ? 努力か? それは違う。何故なら才能ない奴の努力は、才能ある奴が努力したら死んで勝てん。つまり答えは簡単や、死んで生まれ変わればええ」
「えっ?」
死んで生まれ変わる? 千草が何を言っているのか、もはやネギには理解不能だった。
「ベタな話だと死の淵から蘇ると以前より強くなるゆうが、あながち間違ってへん。坊やたちに敗れ・・・あの方からの罰を受け・・・ウチは死を超越する地獄を味わい、乗り越えた。ふふふふふ、溢れ出てくるんや・・・こう・・・・・・・今まで持ってへんかった何かがな!」
この場に居るものには理解できない、もはや千草だけにしか分からぬ話と言葉だった。
だが、現実に生まれ変わった彼女によって、こうして追い詰められている。
自分だけで手一杯の刹那に楓に古、美空、豪徳寺たち。
彼らに非戦闘員たちまで守る余裕など無い。
「よくやった、新入り」
「すごいです」
「今からは我々も動くです」
そしてこの最悪な状況の中、焔、暦、環の三人まで現われた。
「どどどど、どうしよーーーッ!?」
「フェ、フェイトガールズまで現われやがった!」
「まじいぞ! 俺らだけで戦えねえ嬢ちゃんたち守りながら、この鬼とあの女どもまで相手にすんのかよ!」
「これって・・・・」
「ひょっとして超ピンチ?」
千草の罠に嵌ったネギたち。
(そ、そんな!? ここに来て、彼女たちまで出てくるなんて・・・・しまった・・・僕の判断ミスだ・・・こんなことになるなんて・・・)
ネギのいない状態で、更には木乃香やのどか、亜子たちなどの戦えない生徒たちをこの戦場に強制参加させられ、対峙するのは百を超える鬼たちに、炎の精霊となる焔、獣化する暦、竜化する環に、まだまだ底を見せない千草。
ネギという、常に先頭を駆け抜けた頼もしき仲間が今囚われている。
つまり自分たちでこの状況を何とかしなければならない。
「鬼に囲まれ蹂躙され、引き裂かれ、血と涙と悲鳴で溢れる空間! 正に地獄や! ウチが味わってきた地獄の何十分の一の苦しみでも多く味わうんやなァ!! さあ、容赦も遠慮も要らん! 今すぐ全員ズタズタにせえ!!」
この状況を・・・
ネギも・・・シモンも・・・・抜きで?
それは正直無謀・・・
「さっきっからべちゃくちゃと・・・・・・」
かに思えた次の瞬間・・・
「知ったことかァァァーーーーーッ!!」
美空が飛び出した。
「はっ!?」
「美空ちゃん!?」
「おお!!」
鬼の頭上をジャンプ一番で飛び越えて、駆け出した美空は高らかに笑う千草の顔面をサッカーボールキックで容赦なく蹴り飛ばした。
「ぶほっ!? こ・・・・・・こ・・・・・・こんガキーーーッ!!!!」
「「「「「蹴り飛ばしたァァァァ!!」」」」」
油断ゆえの一撃に千草は鼻血を噴出すが、それほどダメージは深くないのか、すぐに起き上がって美空に向かって叫ぶ。
だが、美空も蹴り倒した千草を見下ろしながら堂々と叫ぶ。
「へん、上等じゃないっすか! ネギ君が閉じ込められたからどうした!! ネチネチと捻くれたおばさんなんかに好き勝手されるほど、こっちも甘くないんすよ!!」
不安と絶望で押しつぶされそうになった仲間たちの中、一人先陣切って飛び出した美空が己を奮い立たせながら、味方をも鼓舞する。
「・・・美空さん・・・・・・」
結界内でその言葉を聞いたネギの心がすうっとなった。
ネギだけではない。
状況は何も変わっていない。
ネギが結界から脱出したわけでも、敵が弱くなったわけでも、自分たちが強くなったわけでもない。
しかし、美空の声に皆の心が高ぶった。
その言葉に刺激を受け、戦えぬ少女たちも顔を見合わせる。
「美空ちゃん・・・・・・そ、そうだよ・・・・裕奈・・・・・・・こうなったら私たちも」
「う、・・・うん・・・仕方ないよね、ついてきたのは私たちのほうだし。足手まといなんて言われてらんないよ」
裕奈とまき絵は互いに頷きあい、アーティファクトを取り出した。
「シャークティー先生はウチに任せとき」
「はい、ご安心を。誰もお嬢様には指一本触れさせません」
木乃香を守護するように立つ刹那。
「裕奈、まき絵、大河内殿、亜子殿、千雨殿は木乃香殿と共に後方支援を・・・アスナ殿も無理せず木乃香殿たちを守ることに専念を。のどか殿はアーティファクトで敵の手を読んで欲しいでござる。古は拙者らと大暴れだ」
「は、はい」
「うむ、あきらめるわけにはいかないアルね」
仲間たちに指示を出し、陣形を整える楓。
「ったく・・・敵わねえな、本当に」
結局押しつぶされずに抗うのかと、呆れつつも満更ではない千雨。
「へへ、嬢ちゃんたちが戦うなら、ビビッてられねえな」
「ああ、良いとこ見せねえとな!」
「ココネ・・・・怖くナイ」
そんな女子中学生の姿を見せられて、燃えないわけにはいかない。新生大グレン団たちも腹をくくる。
「こんの・・・・クソガキ共が・・・・・・」
「ふん、貴様らのような雑魚はさっさと灰にしてくれる」
「ネギ・スプリングフィールドどころか、冒険王も穴掘りシモンも居ないあなたたちに何が出来るんですか!」
「無理。諦めるです。ひとかけらの勝ち目もないです」
立ちふさがるのは強靭な鬼族と強力な敵幹部。
焔たちの言うことはその通りだった。
だが、美空を筆頭に皆は抗う。
「がたがた知らねえっすよ! 負けないんすよッ!」
強がりだ。しかしその強がりはただの大口には見えない、確固たる意思がその瞳には宿っている。
「その通りでござる! ネギ坊主が、シモン殿が、仲間と信じてくれた拙者たちは、このようなところで負けるわけにはいかぬ!」
「その通りだ! リーダーが信じる俺たちは! 俺たちが信じる俺たちは! テメエらなんかに絶対に負けねえんだよォ!!」
美空に続き、楓も豪徳寺も皆同じ瞳で目の前の敵を睨みつけ、武器を手に、拳を握り、覚悟を決める。
「千草さん・・・計算が狂いましたね」
「ぬう、坊や!?」
「怯える皆を傷つけて僕に復讐するつもりのようでしたが、そうはいかない。僕は仲間を信じています。あなたの思い通りにはなりません」
「はっ、何が信じるや! 笑わせたらあきまへんえ!」
「冗談なんかではありません。無理を通して道理を引っ込めた人にあなたは以前敗れたんですから」
「ッ!?」
ネギも慌てふためいて不安に飲まれるのはやめた。
「相手になります、超鬼」
「ウガウ・・・・お前ら・・・ちょっとカッコいい」
「ありがとうございます。ですが、・・・申し訳ありませんが・・・一瞬で終わらせます」
自分のミスで起こったこの状況をいち早く解決するには、結界の中から千草に懇願することではない。
今すぐ目の前の超鬼を倒して結界を破ることだけである。
ネギは前を向く。
「ふん、正気か貴様ら・・・貴様らごときで我らを相手に生きていられると思っているのか?」
「「「「「「「「「「望むところだァァァァ!!!!」」」」」」」」」」
一致した。
気持ちが全員ズレることなく一つになった。
こうなった時は捨てたものではない。
「「「「「「「「「「私(俺)たちを、誰だと思ってやがる!!!!」」」」」」」」」」
ネギにもシモンにも頼るばかりではなく、自分たちの選んだ道を自分たちの手で力ずくでも掴むために、彼らは気合を込めて敵に、そして自分自身に向けて叫んだ。
輝く獣は駆け抜けて、憎き敵を容赦なく嬲る。
その鋭い爪は全てを引き裂き、その鋭い牙は全てを噛み砕く。
「超獣黒狼螺旋牙!!」
体を超強力回転させることで威力・貫通力を最大限に高めた体当たり。
敵はその常人を遥かに超えた力を持って、直撃こそ避けるが、覚醒した獣の強烈な超回転は、周囲に真空の渦を生み出し、直接触れずとも敵を切り裂く。
「ゴアアアアッ!? う、腕が捻切られる・・・なんつう威力だ・・・・・」
真空の渦に飲まれた左腕が切り刻まれ、力なくダランと垂れ下がる。
体勢を立て直す必要がある。いったん距離を取るべきだと敵は下がろうとする。
だが、どこにも逃げる場所など無い。
獲物に狙いを定めた獣は狩人としてどこまでも獲物を追いかけ、逃さない。その爪を、その牙を突き立てる。
「逃すかい!」
感じる。
どこに居ようとも、これからどんな行動を起こそうとも、全てを感じ取ることが出来る。
発達した耳で、発達した鼻で。
元々人間とは比べ物にならないほどの五感の能力が、ここに来て更に向上した。
もはやどんなに鍛えようとも、ネギやシモン、あのサウザンドマスターやラカンですら決してたどり着けぬ五感の境地に犬上小太郎は達していた。
「ちい、・・・これが獣特有の能力かい・・・」
「どうしたんや? 得意なニヤケヅラが、引きつってるで?」
「ひはは・・・・確かに」
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
小太郎は殴った。
鍛え上げたその拳で相手の顔面を思いっきり殴った。
(動きが変則的過ぎらァ・・・読めねえ・・・)
殴られたユウサはもはや何かを考えるのはやめた。
避けようと努力するのもやめた。最低限、首と心臓だけをガードして、ただ耐えていた。
何故なら顔を殴られたと同時に蹴られた衝撃が足に来た。蹴られた衝撃と共に、腹部を爪で引き裂かれた。
(あ~あ・・・殴られたり蹴られたり裂かれたり、全部同時にアッチコッチに攻撃来るからもはやワケが分からねえ)
ユウサの周りを縦横無尽に駆けては自由奔放に相手を嬲っていく。
「狗音噛鹿尖超乱撃!!」
恐らく自分の力が抜けた瞬間に急所にとどめの一撃を食らわすのだろう。
その決定的な一打だけを避けるために、全ての攻撃を捨てたために、ユウサはその強靭な鬼の肉体を好き放題傷つけられ、痣と血で肉体が無残なものへと化していた。
「ええか、クソ鬼! 俺はテメエのそのふざけたツラに、ムカつく心に、脳に、記憶に、全てに、お前がやってきたことの痛みの何分の一でも多く刻み込んでやらァ!!」
ユウサは堪える。
そのために決定的な急所への一撃を叩き込むことは出来ない。
だが、小太郎はもはや構わない。
「ちい、・・・またあの技か!?」
その技を避ける術は無い。
どこに避けようとも、小太郎の鼻でどこまでも追いかけ、直撃を避けようともその真空の渦で相手をズタズタにする。
「超獣黒狼螺旋牙!!」
「調子に乗んなよ、犬! 確かに直撃すればバラバラだが、こいつならどうだ!」
「ッ!?」
「羅生門!!」
小太郎の前に立ちはだかるのは、シモンの一撃をも防いだ強固な門。
轟音と激しい振動を響かせるものの、その扉を開けるには至らず、小太郎の攻撃は完全に防がれた。
が・・・・
「惜しかったな」
少なくともこの一瞬はそう思った。
「そうかいな?」
「なッ!? いつの間に!?」
まったく気づかなかった。
小太郎は自分の背後に既に居た。
いや、小太郎は門の向こう側で攻撃を失敗したはず。なのに何故自分の後ろに居る?
「あれは・・・・・まさか!?」
「いつまでもニヤけとらんで・・・・」
「影分身か!?」
ユウサが防いだと思った小太郎の攻撃は囮。
本命はこちらだ。
「テメエも少しは歯ァ食いしばらんかい!!」
咄嗟に左腕を首に巻き、右腕で心臓を庇うユウサ。
だが、相手がガードしてようと、守りに徹していようとも、その全てを叩き潰すかのようにその一撃に力を込めて叩き込む。
その握った拳の一撃は、ユウサの顔面を強打し、殴り飛ばしたユウサを壁にめり込ませた。
「す、すごい・・・・・小太郎君」
「あの人・・・あんなに強かったですか?」
終始圧倒し続けた小太郎に少女たちは唖然とするばかりだった。
ユウサもまた、受け続けた攻撃の痛みを節々に感じながら、口を開いた
「・・・ごほっ・・・・・ひはははは・・・・これ程とはな・・・状態2でも敵わねえか・・・・」
その笑いは余裕か、はたまた苦笑か、壁際で腰を下ろすユウサは、目の前の輝く獣を見て呟いた。
「はあ・・・はあ・・・どうやクソ鬼~、ちっとは反省したか?」
少し息は荒いが、目に見える外傷は無い。それが今の小太郎。
対して、異形の鬼の腕をダラリとしながら、顔面、胴体、両足を、手当たり次第に獣の爪で引き裂かれたかのように血だらけの男。それが今のユウサ。
圧倒的な正に獣の蹂躙に、鬼は成す術が無かった。
「すっ・・・すげ~ぞ、コタの奴・・・・こんな裏技隠してやがったのか! 兄貴も驚くぞ?」
小太郎の力に歓喜の震えが止まらないカモ。
そして同じように恐怖から一転して、希望に満ちた表情の少女たちも頷いた。
「うん・・・強いよ・・・私たち助かるよ!」
当初は瀬田もハルカもやられ、自分たちは死を恐れた。
だが、覚醒した小太郎の力は、自分たちを襲った恐怖を返り討ちにした。
助かる。大丈夫だ。
その希望に少女たちは満ちていた。
「くっ、・・・ひは・・・はは・・・スピード、パワー、反応速度などの身体能力の向上。魔法使いによる精霊化・・・様々なパワーアップがこの世にはあるが、身体能力と同時に嗅覚、視覚などの五感がここまで向上するのは獣以外にはない・・・まさにテメエら以外に出来ねえ変化だな・・・」
笑いながらも息を乱し、そして大きな血の塊を吐き出すユウサ。
その血の塊を自分で眺めながらため息をつく。
「どんな罠をもその卓越した何よりも利く鼻で嗅ぎ分けられ・・・その発達した聴覚は相手の筋肉の軋みや心音すら読み取り、常に相手を把握し・・・さらに獣の勘ともいうべき第六感は、人間の比じゃねえ・・・・これが超獣進化・・・・単純な格闘戦においては獣が最強だ」
遥か昔から恐れられ、その名を轟かせていた鬼を持ってしても最強と呼ばれる小太郎。
これまでの評価を全て覆すかのごとく力に、小太郎の胸も高鳴っていく。
「へっ、いつかネギを倒すために隠しといた、とっておきや。それぐらいのレベルには行ってもらわな困る」
小太郎に自信が満ちている。
元々強気な性格の小太郎だが、今の小太郎にはその裏づけとなる実力が伴っている。
その結果、その強気な態度が小太郎を更に一回りも二回りも大きく見せた。
まともなやり方では結果は見えている。
この状況をどうすべきか、ユウサは少し状況を見て考える。
すると、口元に小さな笑みが浮かんだ。
(さて・・・感卦法の弱点は魔力と気を同時に失うことだが、この様子じゃガス欠は望めねえ。この俺様に至っても、シモン君やネギ君との戦いの傷もある以上、まともなやり方じゃ勝てねえ・・・・・まともじゃ・・・な!)
ユウサの口元の小さな笑みを、瞬時に小太郎は感じ取った。
「ッ!? みんな、気をつけえ! こいつ何か企んどるで!!」
その洞察力で良からぬ事を嗅ぎつけた小太郎。
「えっ? ・・・・えっ?」
だが、小太郎が反応したからといって、夏美たちがその通りに直ぐに対応できるわけではない。
「遅い! 泥沼大地獄!!」
「こ、こいつまだ!?」
両腕を床に置き、術を唱えるユウサ。
その途端、大理石のような床はドロドロに変形し、底なし沼のように足が埋まっていく。
「ちィ!?」
「ななな、足が埋まっちゃうよ!?」
「小太郎君助けて!」
見渡す限りを沼に変えていく技に、少女たちや意識の無い瀬田たちも巻き込まれていく。
「んの~~・・・楓姉ちゃん直伝、影分身!! 俺の分身! 夏美姉ちゃんたちを奥まで連れてくんや! 姉ちゃんたち、俺も直ぐ行くからなァ!!」
「小太郎君!?」
戦えぬ少女たちを巻き添えにしないためにも影分身で少女たちを安全地帯まで運ぶ。
だが、その隙を逃すユウサではない。
「ひははは、隙みっけ!」
「ぬっ!?」
「才能も性能も伸ばすことは出来ても、これだけはどれほど強化しても補えねえ!!」
自身の血で染まった傷だらけの鬼の爪、それを今度は小太郎の血で染めようとユウサは小太郎の腹部を貫こうとする。
「経験!! これは結構大事だぜ!」
戦闘能力は強化できる。
精神力は鍛錬や実戦で身につけられる。
だが、経験だけは積み重ねる以外に方法はない。
ユウサが唯一圧倒的に上回る戦闘経験。小太郎の弱点と性格を見極め、それがどれほど非道なことであろうと容赦なく実践する。
その差が決定的な一打となり、小太郎を貫いた。
「が、・・・・がはっ・・・・・」
血飛沫が飛び散る。
肉を貫かれた嫌な感触が痛みとなって襲い掛かる。
「テ、テメエ・・・・」
「獣に心はねえ。涙もねえ。テメエの敗因は獣になりきれなかった半端さだ!」
最終更新:2011年05月13日 21:39