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124-2

道が塞がれ、それでも力押しで強引に真っ直ぐ突っ込むかと思われた美空たちだが、途中から左右に分かれたのである。

右に刹那と楓と古。

左に美空、ココネ、豪徳寺、達也、慶一、ポチ、そしてシャークティをおんぶするアキラ。


「二手に分かれたでーーッ!?」


「ちょっ、どうするんでい?」


「バ、バカ焦るな・・・って・・・うおおおお!?」


予想していなかった動きに焦りだした鬼たちは、左右に分かれた白き翼とグレン団に蹴散らされていく。


「二手に分かれた? 戦力を分けてどうするにゃ!」


「いや、鬼たちを動揺させるのならばアリか・・・集団戦法を使うものたちは、敵の予想外の行動で誰かが狂うと、それが波及してしまう」


焔の言うとおり、気迫溢れる二つのグループの突進に鬼たちも多少怯んでいる様子である。

だが、それもいつまでも続くものでもない。


「なにやっとんのや、この阿呆どもが! 敵が二手に分かれたんなら、お前らも二手に分かれて囲めやァ!! 神鳴流の娘や主力級の奴らには気をつけい!」


そうだ、美空や刹那たちが通っているのは敵の腹の中だ。

美空たちがどれほど進もうと、四方は常に囲まれている状態なのである。


「おうおう、言われたとおりに動け!」


「後ろも囲め!」


「ぐわはははは、まあ、ちょいとワシらが動けばこんなもんじゃい」


そして千草の指示を受けた鬼たちは、文字通り二手に別れ、両グループを円で囲むようにグレン団と白き翼を包囲して封じ込めたのだった。

するとどうだ?

迷い無く真っ直ぐ進んでいた美空たちだが、ものの数秒足らずでその突破が完全に停止してしまった。


「ふふん、まっ、こんなもんやろ」


両グループを包囲したことに、千草は満足そうに頷いた。


「よしっ、上出来だ。グレン団の奴らはドーピングでパワーアップしているとはいえ、切れれば雑魚だ。ならばあと警戒すべきは神鳴流剣士と糸目の忍者たちだ」


「うん、完全な包囲ですが、万一があるとしたらあの三人。私たちはそっちに行きます」


「ああ、勝手にせい。ほなウチは、ここでガキ共の断末魔を聞かせてもらいますえ」


広い宮殿内の広場に作られた二つの巨大な円状の包囲網。


「ふふふ、どや・・・ユウサ様・・・ちょいと本気出せばこんなもんや」


一つはグレン団を囲む包囲。

一つは白き翼の刹那と楓と古を囲む包囲。


「西洋魔術師も神鳴流もけったいな連中もウチの前では話にならん。ただのガキ共や」


焔たちはネギが居ない以上、もっとも危険な刹那たちの包囲網のほうに、万が一に備えて向かった。


「ガキ共。恐いかい? 苦しいかい? 死にたないかい? でも残念やな。普通の生き方を選べばこないなことにならなかったんやけどな」


千草はようやく一息つけると造物主の掟を持ちながら、壁に寄りかかろうとした。

だが・・・


「ん?」


その時、あることに気づいた。


「3人?」


暦の言葉が引っかかった。

そう、確かに特攻したグループは二手に分かれた。だが、刹那たちが3人しかいないのはどう考えてもおかしい。

特攻してきた連中の気迫や派手な技ばかりに気を取られていたが、どう考えても人数が少ないことに今気づいた。



「そうや・・・・・・・・・・・・・・・・木乃香お嬢様たちがおらん」



そう、刹那が常に傍に仕えているはずの木乃香が、刹那の傍に居ない。

他の連中も居ない。

てっきり全員でやぶれかぶれの特攻をしてきたのかと思えば、実際は違う。

なら、足りない連中はどこに?


「いや・・・糸目の姉ちゃんのアーティファクトの中に隠れたか?」


楓のアーティファクトに避難したのかもしれないと、千草が楓たちの方を見ようとした。

しかしその時だった。



「プラクテ ビギ・ナル 光の精霊三柱(トレース・スピリトゥス・ルーキス)・集い来りて(コエウンテース) 敵を射て(サギテント・イニミクム)・魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の三矢(セリエス・ルーキス)!!」



「なっ!?」



千草に迫る光の矢が目の前まで迫っていた。


「ちい、造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメーカー)!!」


それは咄嗟のことだった。

あまりにも突然で、避けられぬと感じて思わず千草は使ってしまった。

自分を攻撃してきた光の矢。

唱えたのは、何と木乃香だった。


「お嬢様・・・・・・・・まさかあんたが・・・・」


まさか木乃香が前線に出てくるなど思っても居なかったために、千草も驚きで戸惑ってしまった。

だが、それも狙い。


「七色の銃(イリス・トルメントゥム)」


「ッ!?」


「木乃香だけじゃないよ! 私も居るんだからね!」


裕奈がアーティファクトの銃で千草を撃つ。

驚きの硬直ゆえに反応が遅れたが、千草は床を転がりながらも回避していく。

そして起き上がった彼女は即座に顔を上げる。



「なあ!? あんたらどうやって!?」



「へっ、集団で動く鬼たちはあんたの指示で動く。こっちが二手に分かれたら、鬼たちも絶対二手に分かれると信じていた。更に桜咲たちばかりに注意して、私らには警戒が薄くなるってな」



するとそこには、木乃香、裕奈、まき絵、のどか、千雨、偽アスナが武器を手に構えていたのだ。

それを見て、全てを理解した千草は苦虫を潰したように顔をしかめる。



「そうかあんたら・・・・・・グループを二つやのうて三つに分けたんやな!」



まず始めに特攻組が突っ込む。

グレン団や刹那たちが、やぶれかぶれでまとめて襲い掛かる以上、皆が最後の最後に特攻してきたと思うだろう。

だがその時、木乃香たちは特攻せずに後方で待機していたのだ。

しかし意識を特攻組に向けていた鬼や千草や焔たちは気づかなかった。

更に特攻組が二手に分かれたことにより意識が分散され、鬼たちも二グループに分かれて特攻組を囲むよう千草は指示を出してしまった。

しかしそれが真の狙い。その狙い通り、宮殿内の広場には鬼たちが刹那たちを囲む巨大な円の包囲網が二つ並んでいる。

その瞬間、待機していた木乃香たちは左右に並んでいる二つの円の真ん中を通り、何の浪費も無く千草までたどり着いたのだ。



「あんたら・・・主力を囮にしてウチまで辿りついたんやな!?」



そう、強い者たちが全員で特攻すれば、敵は皆そちらへ意識を集中させる。

その隙を突いて木乃香たちは今ここに居るのである。



「ふふ、お嬢様たちが、こないな作戦取るとは思いもしませんでしたえ~・・・ふふ・・・せやけど・・・」



しかしそれに最初は驚いたものの、千草はおかしくて笑ってしまった。



「くくく、アハハハハハハハハ、アホかい! 神鳴流剣士がおればまだ分からんが、お嬢様やあんたらに何が出来る! まあ、戦える連中が足りんかったら途中で気づいたがな。あんたらの存在を少しでも薄くするために、こんな作戦を考えたわけかい」



そうだ、千草までたどり着いたからといって何が出来るのか。


「しっかしまあ、仲間を囮にするとは、案外エグイことするやないかい!」


言われた瞬間、千雨が舌打ちした。


「そうさ、だから無理だっつたんだよ。皆を囮にして、戦闘では役に立たない私たちだけであんたと戦うんだからな」


千草を倒すのなら、刹那や楓のような実力者で無ければならない。

しかし鬼たちの意識を逸らすには、刹那たちのような実力者が囮にならなければ意味がない。

刹那たち実力者の誰かが欠けていたら、特攻の破壊力は薄く、敵も気づいてしまうからだ。

ここに居るのは、木乃香、裕奈、まき絵、千雨、のどか、そして偽アスナ。

強力な呪文や技、常人離れした身体能力の持ち主でもない。

そんな、彼女たちだけで千草を倒さなければならないのである。

だが、弱音を吐くわけには行かない。


「・・・でもな・・・やるしか・・・ねえんだよ。なんつ~か、信じられちまったからな」


皆の命が懸かっているのだ。

一秒でも早く千草を倒して、鬼たちを消さねば皆が敵の大群に押しつぶされてしまう。


「なめないでよ! ネギ君たちだけじゃ無いんだからね!!」


「ウチらで何とかするんや!」


「覚悟しなよ、おばさん!」


無茶で無謀でも、それしかないのならやるしかなかった。


「おっ、おばっ!? は・・・はん、ガキ共が。アンタらだけでウチを? なめとるんはそっちやろ! 全員ズタズタにしたるえ!」


千草はゾクリとする笑みを浮かべて、札を取り出した。

千草は本気だ。

容赦なく戦闘能力の無い自分たちをズタズタにする気だと目を見ただけで分かった。

しかし・・・


「天ヶ崎千草さん!」


「あん?」


「この大量の鬼を消すにはどうすればいいんですか!」


のどかが千草に向かって叫んだ。


「アホかい。んなこと教えるわけ・・・・」


「やっぱり! 鬼を戻すには術者である千草さんの力の源である気が空になるか、千草さんの口から直接鬼たちに戻るように命令することです!」


「ッ!?」


のどかを相手に偽証も沈黙も無意味。

千草ものどかの能力を思い出してハッとする。


「こんガキーッ! もう許さん! お札さんお札さん・・・」


「千草さんの攻撃の術は、お札を使ってから発動します! その前に!」


「了解本屋!!」 


お札を何枚も取り出して術を発動させようとする千草。

しかしその手元にある札目掛けて、裕奈が銃で撃ちぬいた。


「なっ!?」


「すげーじゃん、亜子のドーピング! 相手の動きがハッキリ分かるよん!」


お札に穴を開けられて術が発動せず、不発に終わってしまった。

その隙を狙い、ドーピングで同じくパワーアップした偽アスナとまき絵が背後に回り、千草に剣と棍棒で襲い掛かる。


「どりゃあああ!!」


「粉砕する棍棒(フランゴ・スティべス)!!」


「のあッ!?」


背後に回られた攻撃を間一髪でかわすものの、偽アスナとまき絵の攻撃は、少女の細腕からは考えられぬ破壊力で床に大きな亀裂を入れて砕いた。


「なっ、なんちゅ~破壊力や!? ドーピングとアーティファクトの二つだけでこないな力を得られるんかい!?」


砕かれた床にゾッとする千草。

その思考をのどかは読み取った。


「皆さん! 千草さんは接近戦が苦手です!」


「イッ!?」


千草は陰陽術士。相手と距離をとって戦うスタイルだ。

術を唱える間は、自分の召喚した鬼で自分を守るのだが、召喚した鬼は特攻組に。自分が本来使役している鬼はネギと戦っている。

つまり今の千草は裸も同然。

術を唱えさせなければ勝機はある。


「ネギ先生! 私たちは・・・私たちは勝ってみせます! だから・・・だから先生も・・・・勝ってください!!」


超鬼に貫かれて床に倒れるネギに向かって、のどかは叫ぶ。

自分たちは大丈夫だ。

だからネギも勝ってくれと叫んだ。

その声はネギにちゃんと届いている。


「うぐっ・・・ぐう・・・・・・はあ・・・はあ・・・・」


貫かれたネギは体を何度もビクンっと跳ね上がらせ、痙攣している。

それは己の窮地に闇の力が目覚めようとしているのだ。

だが・・・


「のどかさん・・・・・・・みんな・・・・」


ネギは闇に抗う。

飲まれぬように意識を保つ。

ユウサの手によって一度は完全に落ちた闇。

しかしそれは仲間たちの手によって自分は救われたのだ。


「そうだ・・・・・・いつまでも・・・・」


何度も心配かけるわけにはいかない。

総督府でクルトの手によって闇に侵食されそうになったときも、ネギは自力で意識を取り戻した。

千雨が言ったのだ。自分の闇なら自分の力だけで晴らせと。 


「ウガウ? 死んでない?」


ネギは立ち上がる。

闇に飲み込まれずに、ネギはネギのまま戦うために立ち上がった。


「今すぐ・・・決着をつけますよ、超鬼さん」


一人で全てを解決するなど出来ない。

しかし各々が自分のやるべきことさえしっかりと成せれば、意外とうまくいくようにこの世は出来ている。


「はあ・・・はあ・・・ドーピングが切れてきやがった・・・アバラも何本かイッたな・・・」


「山ちゃん、どうだ?」


「腕と膝をやられた・・・・」


「俺は血で前が見えん」


周囲を鬼たちに囲まれている、囮となった豪徳寺たち。


「はあ・・・はあ、悪いねアキラ・・・つき合わせて」


「大丈夫だ春日。それに私が向こうに行っても役に立たない。せめて、一人ぐらい背負って走るぐらいはしないと」


「本当に申し訳ありませんね・・・アキラさん・・・・」


力を使い果たしたシャークティを背負うアキラに申し訳なさそうに笑う美空。

アキラは恐怖で震えながらも、気にするなと無理に笑った。


「ココネ・・・マダ大丈夫」


「おう、俺もまだ何とかな。木乃香ちゃんたちがやってくれるまで、まだまだ耐えられる」


「じゃあ、もう少し足掻きますかァ!!」


囮となった自分たちは、鬼たちの意識を自分たちに集中させること。


「貴様ら・・・・最初からそのつもりで・・・」


「そ、そんな簡単にいかないにゃッ!!」


「ふっ、ノコノコ幹部のオヌシたちが拙者らのところに来てくれてよかった。向こうの決着がつくまで、ここで足止めを受けてもらうぞ」


「絶対に行かせんぞ! 神鳴流・決戦奥義! 真・雷光剣!!」


「・・・・・ッ!?」


たった三人で鬼たちとフェイトガールズの三人を足止めする楓、刹那、古。


「隙ありにゃ! って・・・にゃにゃ!? 分身!?」


暦が引き裂いた楓はただの分身体。


「甘いでござる」


「にゃっ!?」


背後に回りこんだ楓が、暦に十字の軌跡を描いて攻撃を叩き込む。


「楓忍法・四つ身分身朧十字!!」


密度の濃い影分身3体使い、暦の左右前後から同時に掌底をすれ違いに様に叩きこむ。


「暦!?」


「油断するな!!」


「ぬっ!?」


「神鳴流・斬空閃!!」


炎化した焔の体を、空気の刃が切り裂いた。


(強い!? やはり白き翼の主力の戦闘能力は私たちより上だ!)


焔のレベル自身が常人より遥かに上だからこそ、相手の力も読み取ることが出来る。

焔を含め、暦も環も、楓や刹那や古よりも力が劣っていると瞬時に認めた。

刹那自身もそのことを感じ取っている。


(・・・お嬢様・・・信じています。その代わり、鬼もこやつらの一人たりともそちらへやりません!)


敵の主力をこの場で足止めし、木乃香たちの戦いの邪魔をさせぬことを第一に考え、焔たちから決して離れない。

全てはこの状況を何とかするために、皆が命懸けでがんばっている。



「ほないくで、千草はん。決着つけよか。心の底までキッチリとや」



「このクソガキがァ!!」 



だからこそ、木乃香たちは恐怖を感じながらも、少しでも早くに目的を成し遂げるしかないのだった。





そうやって少女たちが胸に熱い思いを秘めて戦っている頃・・・





木乃香たちとは対照的に、胸にポッカリと大きな穴が開いたように抜け殻となって呆然としている女が居た。


「私が人間・・・・・・・ただの・・・・人間・・・・」


クロニアはただ、震える自分の両手を見ながら、シモンから告げられた言葉を繰り返し呟いていた。


「生まれたときから運命を決められ・・・受け入れ・・・励み・・・背負い・・・受け継がれてきた意思を継ぎ・・・そして後世へ伝えていく・・・それが私の役目・・・宿命・・・・その私が・・・・・ただの・・・人間」


これまで自分が信じ、そして歩んできた道、そして積み重ねてきたもの。

シモンの言葉は、クロニアにとってはこの世に生を受けてからずっと築き上げてきたものを、根底から全て覆したといってもいいほど衝撃だった。


「・・・違います・・・・私は・・・・・・私は・・・・」


認めたくない。

認めてしまえば自分が自分で無くなってしまう。

例え力で負けようとも、自身の存在をも否定するようなことだけは認めたくは無かった。

クロニアは両手で頭を押さえ、首を何度も横に振る。


「違う・・・違うのです・・・私は・・・・私は・・・」


嫌だ。

認めてなるものか。


「もし私がただの人間なのだとしたら・・・・・・何故私はこれまで・・・・・」


彼女もまた、その宿命ゆえに多くのものを背負い、代わりに犠牲にしてきた。


(ただ己を高めるために日々学び・・・鍛え上げ・・・敵をつくり・・・友も・・・愛も・・・何も築かず・・・これまで過ごしてきた私の日々は・・・)


ただの人間として生きていけたならば、手に入れられたもの。

ささやかな夢、ささやかな日常、ささやかな平穏、ささやかな希望、彼女はその全てを最初から選択することすら出来ずに諦め、今日までを過ごしてきた。


「・・・お、・・・お父・・・様・・・私は・・・」


もし自分がただの人間なのだとしたら、自分は一体何のために今日まで生きてきたのか。

自然と彼女の虚無であった瞳に涙が浮かび上がりそうになった。

そしてその時、マジンガンのコクピットがクロニアの操縦無しに勝手に開いた。


「背負ったり、守ったり、お前は本当に大変だったな。でもな、それだけじゃダメなんだよ」


コクピットを開けたのは、マジンガンのコントロールを奪ったシモンだ。

狭い暗闇に閉じこもっていたクロニアには、外の光と共に顔を出したシモンが眩しく見えた。


「シモン・・・・・ならば・・・・いつ・・・どこで・・・何を・・・どのように私は間違えたというのですか?」


弱々しいその瞳は、先ほどまでのような感情なき瞳ではない。

抑えていたものが溢れ出てきたような、そんな瞳だ。

答えが分からない。

ただ、すがる様に混乱していた。

でも、その瞳が物語っていた。苦しかったのだと。つらかったのだと。



「クロニア・・・・俺・・・ずっと気になっていたんだけど・・・」



だからこそ、シモンは確信した。



「お前はそれほど・・・・世界や人間が好きじゃないだろ?」



「・・・・・・・・・・えっ?」



それは、根本的なこと。


「お前の理屈や信条は分かった。責任が重いっていうことも分かった。でも、肝心のお前自身はそれほど人間や地球を好きじゃないだろ?」 


「そ・・・それは・・・」


「友達とか・・・仲間とか・・・好きな奴とか・・・絶対に失いたくないものとか・・・夢とか・・・そういうものを守りたいっていう気持ちを何も感じなかった」


人間も世界もそれほど愛していない。

言われた瞬間、言葉が詰まるほどハッとなってしまったが、それが一体何の意味があるのだとクロニアは疑問に思う。


「我が一族は人類の守護者です。何か一つのものに執着し、情に流されたりなどすれば大局を見失います。私たちは常に上から地球を、人類を見守り続けなければならないのです」


そうだ、私情に流されれば全てを失う。

そのようなことは、彼女たちにとって決して許されぬ事である。

今のネギやシモンのように、大局を見ようとせずに情に流されるような生き方など、出来るはずはないのだ。

だがシモンは、だからこそだと言う。


「だから分からないんだ・・・・」


「・・・・・・・どういうことです?」


「お前たちは世界を高いところから見すぎている。その結果、とてつもない命の数や世界の大きさを誰よりも知っている。でもな、だから分からないこともあるんだ。一人一々の命が・・・温かさが・・・。上にばかりいないで、もっと下も歩いてみたらどうだ? 上ばかり見ないで色々な方向から見てみれば、もっと知らなかったことが分かるはずだ」


自分は歩いてきた。

閉鎖された地下世界から飛び出し、地上を歩き、駆け抜け、そして出会い、別れ、そしてまた出会った。

その一つ一つの出来事が、人や世界に対する想いを育んだ。


「俺が地球や銀河を守るために戦っていたときは、そんなんじゃなかった。感情を抑えられるはずなんて無かった。だって俺は、みんなと一緒に皆と明日を過ごす世界を手にしたかったからだ。でもお前は違う。義務や先祖からの言葉の言いなりになって、ただ戦っていただけだ。お前が背負っていたのは地球じゃない。お前が背負ったと勘違いしていたのは、お前自身の使命へのプレッシャーだったんだ」


「ッ!?」


「理屈じゃないんだ。守りたいっていう想いはな。失いたくない・・・こんな風にもっと単純なものなんだ。でも、そんな風に単純な想いだからこそ多くの人たちが同調し、共に戦ってくれる。そしてそれがやがて大きな力となって、壁に穴を開ける。グレン団っていうのは、そういう想いが伝染した奴らの集まりなんだ」


宇宙に飛び出したとき。

アンチスパイラルと銀河の命運を賭けて戦ったとき、自分たちは小難しい理屈を考えて戦っていたわけではない。

そうだ、理屈じゃない。完全な私情だ。だが、そんな想いが募り募ったものが、宇宙の運命すら変える力となったのだ。


「この世界に俺が来て、まだ僅か数ヶ月・・・たったそれだけだ。でもな、それでも俺はもうこの世界が好きなんだ。エミリィやコレット、ベアトリクスやトサカに奴隷長にバルガスにエマにミルフにマンドラに、ディーネ、アムグ、チコ☆タン・・・そしてラカン・・・みんなと出会って過ごし、共に戦って笑ったこの世界が好きだ」


この魔法世界が好きだ。


「地球だって同じだ。家族に出会えた。友に出会えた。仲間に出会えた。こんな俺を・・・好きだと言ってくれる子にも会えた。だから地球も好きだ。どっちも好きだ。だからどっちも守りたい。それだけだ」


そしてこの宇宙の地球も好きだ。

どっちも好きだ。

だからどっちも守る。簡単なことだ。



「俺をバカだろうと身勝手だろうと無責任だろうと言われたって否定は出来ない。でもな、好きでもない世界のために戦って滅ぼそうなんて思っている奴には・・・・俺たちは絶対にこの道を・・・世界を・・・明日を譲りたくない」



クロニアは何故シモンが揺らがないのかが、ようやく理解できた気がした。


(そうか・・・・・この方は・・・・・とても単純な想いだからこそ・・・どこまでも深い・・・・・)


使命を口にして義務で戦っていた自分。

自らの意志で戦っていたシモン。

違うのだ。


(同じ能力・・・同じ螺旋・・・同じ種族・・・しかし・・・・根っこが・・・・想いが・・・この方と私は違う・・・)


そうこれが・・・


「それが・・・・あなたのドリルということですか・・・・」


掘るものが違う。

ドリルに込めた想いが違う。

とてもあやふやで曖昧なもののようで、それが決定的な差となったのだと、クロニアは思わずにはいられなかった。

だが・・・


「しかし現実に・・・・・・根本的な解決は何もありません。大切な仲間というものと共に足掻いた結果・・・自分を信じた結果・・・・それは本当に前へと進んでいるのですか?」


シモンの想いは分かった。

自分が勝てない理由も理屈では説明できないが、分かった気がした。

だが、だからどうするのだ?

例え自分に勝ったからといって何かが変わるわけではない。

そうだ、結局シモンは今ばかりを見つめて遠い未来を見ようとしていないのだ。

すると・・・





「滅ぶか・・・前へ進むか・・・それを信じて見守り続けるのも、君たちの役目なんじゃないかい?」





「「!?」」





「君たちは守護者を名乗るには人の世に関わり過ぎている。反発されるのは仕方のないことだ」





一体いつからそこに居たのだろう。



「とにかく下がりたまえ、テンジョウ家の娘。この場は君の負けだ。ここから先は僕の時間だ」



シモンもクロニアも気づかなかった。

だが、本来はこの戦のラスボスとも言うべき人物が、最後のステージで待たずに自ら出迎えに来たのである。



「フェイト・・・お前・・・」



「約束を果たしに来たよ、シモン」



二人の螺旋族の会合に、フェイトが待ち切れずに割って入ったのだった。


予想もしていなかった人物の登場に少し戸惑い気味のシモンとクロニア。


「アーウェルンクス・・・・何故あなたがここに?」


「元々彼と先に約束をしていたのは僕なんだ。君が勝手に割り込んできただけだ」


「そうではありません。何故、私を止めるのです? 立場は違いますが我々の利害は一致しているはずです」


何のつもりだと、クロニアはフェイトを睨む。

そう、立場は違うが、フェイトもクロニアも魔法世界を封じるという互いの考えは同じである。

そのクロニアを、この騒動の黒幕が止めるなど、真意が分からなかった。

だが、フェイトは涼しい顔でクロニアに告げる。



「でも君は勝てなかった。たとえどれほど論理が整って相手を論破しようとも、武力に手を出して敗れた以上、何を言っても説得力はないさ。信念を通す力の無いものにはね」



「なっ・・・・」



「ましてや君はシモンと戦い、己が何なのかを答えられなかった。自分が誰かも分からぬうちに、その男の前に立ちはだかるのは最初から無理なんだ」



どこかが今までのフェイトと違うような気が、シモンにはした。

表情や姿形も自分の知るフェイトなのだが、どこか開き直ったように感じた。

クロニアも何も言い返さない。フェイトの言葉に反論することもなく、ただ唇を少し噛みしめながら、歩み寄るフェイトの前から退いてしまった。

そしてフェイトは立つ。シモンの前に。



「フェイト・・・・」



「・・・・シモン」



向かい合う二人。これで何度目かは分からない。

しかしこんな風に立つのは随分懐かしい気がした。



「何度かこの世界でも会っていたけど、こうしてお前と戦うのは・・・・京都で会って以来・・・・数か月ぶりだな」



「そうだね。僅か数か月ぶりだよ・・・・・・でも・・・・永かった」



僅か数ヶ月。

しかし今日この日を迎えるのに、何年も掛ったように二人は感じていた。


「君と初めて戦った時、君は正直話にならなかった。あの時に君を消していれば、こんなことにはならなかったのかもね」


だからだろう。


「良かったじゃないか。あの時にそうしなかったおかげで、お前はこんなことを味わえるんだから」


こうして対峙し、何気ない会話をしている最中でも・・・


「相変わらずだね」


心の高揚が収まらない。むしろまだまだ高鳴っていく。


「当たり前だ。俺を誰だと思っている」


初めてシモンとフェイトが戦った時、シモンはフェイトに手も足も出なかった。

しかしあの時に見せたシモンのドリルがフェイトの記憶に刻まれ、いつしかそれが因縁となり、二人は決着の約束をすることになった。

三度目の勝負に決着をつける。

今になって、フェイトもシモンもその時のことを思い返す。


「これで・・・・」


「・・・・ああ・・・三度目だ」


昔話に花を咲かせて殊勝な気分になるためにフェイトもわざわざここに来たわけではない。

もう、二人とも待つのはいい加減飽きたのだ。


「もう・・・・・・・言葉は要らないね」


そうだ、言葉は要らない。


「ああ、今更理屈や想いや・・・ましてやどっちが正しいのかなんて言う気は無い。安心しろ、気の済むまで俺もここに居る。今から始まるのは・・・」


魔法世界、地球の行く末、この戦いの勝敗はそれらを左右することになるかもしれない。


「「ただの喧嘩だからな(ね)」」


しかし不謹慎だが、そういったゴチャゴチャした事情を二人は争うために決着の約束をしたわけではない。


「そうか・・・・礼を言う。僕に疑念もない・・・心も必要ない・・・・けど・・・君との約束を果たさなければ・・・君との決着をつけなければ、・・・何も終われない」


「ああ、俺に文句はないさ」


こいつはただの喧嘩だ。


「まだネギ君が後に控えている。彼とは長い話になりそうだからね。さっさと君との約束も因縁も終わらせに来た」


「ふっ、そうか・・・」


「でも、だからといって出し惜しみはしない」


「当たり前だ」


こいつは世界最大級の大げんかだ。


「いくぞ・・・・・・・フェイトッ!!」


「望むところだ、シモン」


天元突破の炎を燃やすシモン。

巨大な石柱を出現させ、既に戦闘準備万端のフェイト。



「今こそ!」



シモンが叫ぶ



「ふっ・・・・・決着を!」



フェイトも叫ぶ。

二人の大バカ者が今約束を果たす。




「「つけてやる!!」」




シモンとフェイト、四度目は無い。

二人の最後の戦いが始まったのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:43
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