第百二十五話 とにかく、今はお前の方が優先だ! 投稿者:兄貴 投稿日:10/11/10-09:04 No.4416
これまでいくつもの戦場を潜り抜けてきた。
それなりの修羅場も潜ってきた。
世に嫌われ、恨まれ、そして恐れられながらも、己の欲望を満たす凶行で日々を過ごしてきた。
そんな自分が味わった痛み。これは何百年と生き続ける自分の、人生最大級の汚点になるだろう。
失った右半身はもはや麻痺して痛みも無い。
自分をそこまで追い詰めたのは、一匹の狗族と年端も行かぬ女子学生たち。
這い蹲る自身の顔でそっと上げてみると、呑気な会話が聞こえてきた。
「ここ・・・小太郎くん・・・愛の・・・力って・・・・」
「あん? だ、だってそうやろ~? 夏美姉ちゃんて俺のこと好きなんやろ?」
「なっ、○×A□B~~~!?」
「って、夏美姉ちゃん、何倒れてんねん!?」
少し照れくさそうにしながら言う小太郎のストレートな言葉に、夏美は全身の湯気が沸騰して爆発した。
「ビ、ビックリしたです・・・不覚にも・・・・少しときめいてしまったです」
「あれは・・・・・・・・・・ちょっと反則です」
小太郎の成長振りに、夕映やベアトリクスも気づかれないようにボソボソと話している。
その様子を朝倉とカモはニヤニヤしながら、新たに荒れるか? と期待しているような目で眺め、さよは「きゃー」と言いながら顔を真っ赤にしていた。
「しししし、まあ確かにお前もちょこっとカッコ良かったけどな。でも、ブータのお陰って言うのも忘れるなよな~」
「ぶみゅううッ!」
「おっ、その通りや! ブータの気合が無かったら、やられとったかもしれん! マジで助かったで!」
サラがメカタマで小太郎に近づき、肩にいるブータの頭を撫でる。
小太郎も影の功労者に精一杯の感謝の気持ちを込めて撫で、ブータも満更ではない様子だった。
しかし・・・
「よっし、じゃあブータ。こっからは私とまた戦おうぜ!」
サラは何食わぬ顔で小太郎の肩からブータを取り上げようとした。
元々シモンの肩にいつも乗っていたブータだが、メカタマとの合体以来、ブータもサラにかなり懐いて、魔法世界では意外とサラと共に行動をしていることが多かった。
ただ今回は敵を倒すということで、ブータと小太郎のペアを組ませただけで、戦いが終わればブータは元々自分の相棒だと言わんばかりに、サラはブータを持って行こうとした。
だが・・・
「ま、・・・待てや、サラ姉ぇ」
「・・・・ん?」
「ぶみゅ?」
サラの手を小太郎がつかんだ。
そしてニコニコ笑いながら、ブータを離そうとする。
「ブータは今日から俺と一緒に戦うんや」
「・・・・あん? あんだと?」
「いや~、俺らが協力したらあんだけスゴイことが出来るんや。こら~もう、俺とブータがコンビ組むしかないやろ」
小太郎はブータを手放そうとしなかった。
だが、サラとてプチンと来たのか、怒りながら小太郎に詰め寄った。
まあ、ブータが居たからこそのパワーアップだ。螺旋力という存在に触れた二人にとっては、ブータは手放したくない存在となったのだろう。
「あん? おめ~、何言ってんだよ! ブータはな~、シモンから受け継がれた私の相棒なんだよ!」
「ぶ、ぶみゅ!?」
「何言うとんのや。そもそもシモン兄ちゃんの遺志を継ぐからには、相応の魂持っとる奴が必要やろ? ブータも女と組むなんて嫌やろ? 今日から俺とバディー組んで一緒に熱い戦いをしようやないか!」
「ぶ、ぶぶ~みゅ(シモン死んでない)!?」
「テ、テメ~、流行語使えば良いってもんじゃねえんだぞ~!」
「あん、やるか~!」
ブータ争奪戦が幕を開けた。
「こここ・・・・小太郎君・・・そそその~・・・わ、私その・・・・こ、こた・・ろう君のこと・・・すす・・・好き・・かか・・・かも・・・」
「ドンマイ夏美ちゃん。もう小太郎君聞いてないから」
「もしもっといっぱい女が居たら100パーセント惚れるほどかっこよかったが、ブータっちに全部持ってかれたな」
笑い合うその子たちは誰がどう見ても10代の少年少女たち。ただの学生にしか見えない。
しかしそのただの学生が今、歴史も世界も塗り替える力を見せたのだ。
「大したものだよ・・・本当に・・・やっぱり僕もそろそろ引退だね」
意識を取り戻した瀬田は、この光景を眺めながら微笑ましく感じた。それはハルカも同じだ。
「お互い何の役にも立たなかったからな。次から次へと新しい風が吹いている」
「うん、そうやって歴史が作られていくんだ」
ユウサという男の狂気に触れただけでも大人の自分たちですら震えが止まらなかった。
その恐れを気合に変えて、目の前の少年少女は乗り越えた。
自分たちの役目がどんどん無くなっていることを実感し、それがうれしくも感じた。
「瀬田さんたち大丈夫ですか?」
「ああ、夕映ちゃんたちの魔法のお陰で何とか・・・でも・・・この様子じゃリタイアかもね・・・・・」
「だが、足手まといにはならない。まだ・・・終わってないからね」
木乃香と違って夕映とベアトリクスの治癒魔法では応急処置や手当てにはなっても、完全治療というわけにはいかなかった。
傷も深く、瀬田たちも自分たちがこれ以上戦うことは無理だろうと判断した。
だが、自分たち以外の連中も命懸けで戦っているのだ。何よりも世界と歴史の転換期を見逃すなどはしたくない。
瀬田たちも足手まといにならぬよう覚悟して、再び立ち上がった。
「そうだよ・・・こうしてる場合じゃないよ。早く・・・行かなくちゃ・・・・」
救出されたアーニャは少し俯きながら、どこか緊迫した表情を浮かべていた。
何故なら・・・
「せや・・・それが気になっとった・・・アーニャの嬢ちゃんおるのに、何でアスナの姉ちゃんはおらんのや?」
アーニャと共に囚われていたはずのアスナがここには居ない。
ブータの争奪戦をピタリと止め、小太郎が尋ねた。
「どうやら一歩遅かったみたい。アーニャちゃん曰く、もう敵に連れてかれたみたい」
朝倉が少し気まずそうに答えた。
「ちっ、フェイトかい」
「うん、ただ連れて行ったのはフェイトとかいう奴じゃなくて、フード被ってる奴だったけど」
「フード・・・多分ゲートポートにおった奴やな・・・・まだ強敵はおるっちゅうことやな」
アーニャもみすみすアスナを連れて行かれたことに負い目を感じているようだ。
だが、ここでウジウジしていても何も始まらない。
「みんなも今頃先に進んでるはず。私たちの役目は人質救出だけだけど、こうなったら行く?」
「そやな。このまんま帰るんはワリに合わん。いっちょ行ったるか」
全員異議なしだ。
「「「「「オオオオォォォォーーーーーッ!!」」」」」
この一つの脅威を乗り越えたことが、大きな自信を身につけたのかもしれない。
まだまだ命の危機が続くというのに、どこか全員逞しい表情をしていた。
そんなキラキラとした子達が・・・この男には何より気にくわなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・ひはははは・・・・・」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
もう二度と聞きたくないその声に、皆が心臓を鷲摑みにされたかのように体を跳ね上がらせ、振り返る。
「テ、テメエまだ・・・・」
「い、いや・・・・うっ・・・!?」
「こいつ・・・・こんなんでまだ生きてんのかよ!?」
ユウサは立ち上がった。
右半身が螺旋で抉られて失っているというのに、左足一本で立ち、左手を壁につけて立ち上がっていた。
少々刺激が強いグロテスクな風貌に、夏美たちは口元を押さえて目をそらした。
ユウサはその不快な笑みは絶やさず、ただいつもより少し顔を俯かせていたのが、何とも不気味に感じた。
「腕が千切れたから拍手は出来ねえが、素直に褒めてやるよ。長生きしすぎて新たな風の風力を見余った。多少のズルはあったが特に小太郎君・・・さっきの一撃は紛れもなくネギ君を超えていた・・・あの子は精神不安定だから尚のことな・・・・」
それは素直な賛辞だったのだろう。
だが、この男のこれまでの非道を目の当たりにしている小太郎たちにとっては、それすらも罠であるのかもしれないと、警戒心を絶やさずにユウサの言葉を聞き流していた。
そして小太郎は選択に迫られていた。
この男を、ここで殺すべきかどうかを。
いや、殺したほうがいいに決まっている。
だが・・・
「ひはははは、戦いは好きだが・・・君・・・誰かを殺したことは無いな。ぶっ倒すという意思は見られたが、殺してやろうという意思は無かった。戦いの結果相手が死ぬのなら仕方ない・・・・だが、もはや戦闘不能な相手の止めを刺すのは躊躇うか・・・・子供だね」
見抜かれていた。
もはや戦闘不能の者を、ただ殺すということに躊躇している自分の心を見透かされていた。
「ひははは、シモン君にも言ったが、命ってのはもっと簡単なものだ。これまで俺も何百何千と殺してきたが、そのうちの一人だと思えばいい。物事はそういうものだ。まあ、たまに特別なものも存在することは確かだがな・・・・」
「だ、・・・・・黙れや・・・・・・お前から学ぶことは何もない」
小太郎は躊躇いながらも手刀を作り出す。
「こ、小太郎君!?」
「ちょっと・・・目えつぶっといてくれや・・・夏美姉ちゃん」
「そ、そんな!? もういいじゃん! この人も懲りたでしょ? もう戦えないじゃん。何も殺すことは・・・・」
甘い。
「おいおいおいおい、お嬢ちゃん。それが戦争やってる奴らの言うことかい? 君が学校でこれまで勉強してきた歴史上でしか知らない戦争を、今君もしているんだからな」
「なっ・・・・何で・・・・あなたにそんなこと言われなくちゃ・・・・・大体あなたは何なんですか!?」
「よせて、夏美姉ちゃん」
反吐が出るとユウサは聞きながら思っていた。
「俺は何・・・か・・・・強いて言うならば・・・・人の理性を取っ払った・・・・ある意味この世でもっとも人間らしい人間か・・・・・」
「黙れ言うとるやろが! もう、お前の声はこれ以上聞きたない! テメエはここで終わりや!」
瀬田たちは何も言えないで居る。当然だ、いくら死に掛けの相手とはいえ、ユウサの息の根を止める力は残っていない。
この場の選択は全て小太郎に握られている。
そして小太郎は覚悟した。
この男は間違いなく殺しておかなければならない奴だと。
「覚悟せえよ・・・・・」
夏美が涙を流しながらどうすればいいかと仲間を見るが、仲間たちも答えを出せないで居る。
ただ確実なのは、小太郎のやろうとしていることを、誰も間違っているとは言えないことだった。
小太郎は迷いながらもユウサに近づいていく。
「ふふ・・・・・・ひははははは」
だが、その心の葛藤をユウサは笑った。
「な、何がおかしいんや?」
ユウサはその顔を上げて、そして人の心に恐怖を与えるような笑みを浮かべていた。
「覚悟するのは・・・君のほうだ・・・・」
「ん?」
「いいか・・・今後何があっても・・・どのような状況に陥ろうとも・・・・・・・・俺は絶対に君を殺さない」
「・・・・はっ?」
「何百何千と殺してきた命・・・・しかし今日から君の命は俺にとっては特別になった。だから殺さない」
それは小太郎を絶対に殺さないという宣言だった。
だが、その意味がまったく分からない。
分からない・・・が・・・
「・・・な、なんや・・・・」
殺さないと言われたことが、何よりも恐ろしく感じた。
「どれだけ懇願してもダメだ。頼む、やるなら俺をやれ、俺を殺せと叫んでも絶対に殺さない。楽にしてくれと言ってもダメだ。気を失っても夢の中でも追い続ける。自殺だってさせない。今後何があろうとも・・・君の命が自然に無くなるその時まで、俺は君を狂わせ続ける」
「なっ・・・・テメエ!」
「ひはははははは、またな、ダチ公ッ!!!!」
震えた心と体が反応を遅らせた。
後一歩というところで、ユウサは煙の中に消えた。
後に残されたのは一枚のお札。
「しもた・・・・転移の呪符かい・・・あんな奴を逃がしてもうた・・・・」
小太郎は己の失態に我慢できずに床を殴る。
少女たちも、せっかく勝ったというのに死に掛けた鬼の最後の言葉がどうしても心に残ってしまった。
「こ、・・・小太郎君・・・・」
夏美はまた恐ろしくなって腰を抜かしてしまった。
「大丈夫や・・・この先・・・何年掛かろうとも・・・夏美姉ちゃんは俺が絶対に守る!」
自分たちは勝った。
しかしこの嫌な胸騒ぎは何だ?
この勝利したはずの空間に残された恐怖は何だ。
消えた鬼の言葉に不安を抱きながら、しばらく小太郎たちは勝利に浸ることもなくその場に立ち尽くしていたのだった。
消えたユウサ。
彼はどこへ消えたのか?
あの状態のまま、一体何を企んでいるというのか?
それは・・・
「ゲンバープレスじゃァ!!」
「ぬううう、この程度の拘束なんぞ・・・・」
「今じゃァ!! ワシごとやれいッ!!」
「ぬっ!?」
「マジェスティック・ビッグチョッパー!!」
「メガロ正拳!!」
「完全なる世界大幹部、デュナミス覚悟じゃ!」
アムグにきっちりと拘束されて身動きとれぬデュナミスに、魔法世界最高位のものたちの攻撃が降り注ぐ。
「ぬううう、・・・・ッ!?」
その強靭な肉体、最強戦闘形態へと変身したデュナミスだが、多勢に無勢だ。
造物主の掟を使えればこんなことにはならなかっただろうが、それもディーネに奪われて素の力だけで戦わなければならない。
しかし死にゆく運命から抗おうとする者たちの想いも力もどこまでも強い。
「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・ええ加減にしてほしいですなァ、この木偶どもッ!!」
「そうはさせんさ。あの大戦からの過ごしてきた20年に賭けて!」
「ホンマにもう、ウザいですわァ!!」
魔に飲み込まれた月詠の剣と堂々と渡り合うクルトの剣技に、月詠も楽しさ半分、苛立ち半分といったところだ。
「神鳴流・斬魔剣・弐の太刀・百花繚乱!!」
「ちい、・・・・!?」
魔を切り裂く神鳴流の奥義は、魔に飲み込まれた月詠にはうってつけの技。
密度の濃いどす黒い魔のオーラが、月詠から剥がされていく。
「うりゃああああああああああああ、太陽面爆発だァァァァァァァ!!」
「ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ直伝・七条大槍無音拳!!」
幹部チームのガチンコバトルから目を離せばチコ☆タンとタカミチの二人が競うように召喚魔たちを蹴散らしていた。
「がはははははははは! 一万は消えたぞ!」
「僕だって総数はそれぐらいいったさ」
「けっ、吹かしこいてんじゃねえ。ガトウなんて老兵の技を後生大事にしてる奴なんかにこれ以上いけるかよ」
「試してみるかい?」
「上等だァ! 狩り勝負だ!」
こんな光景を魔法世界の誰が予想できただろうか。
紅き翼と悪名高き魔人の共同戦線。それはもはや奇妙を通り越して、とてつもない頼もしさを感じた。
「すげえ、・・・つうかあのタカミチ氏と爆乱のチコ☆タンが並んで戦うなんて、なんつう展開だよ」
「お、俺あの二人が敵だったら味方が四十万居ても逃げる」
「こら、俺らも負けてられねえ!」
「そうだそうだ! 今日は税金の無駄使いなんて気にせず、撃って撃って撃ちまくれェ!!」
「隊長や総督たちの周りを警護しろ!」
「ぎゃははははは、まだまだ暴れたりねえ!」
「今日はどんだけ暴れても罪にはならねえんだろ? だったらまだまだやらしてもらうぜ!」
頼もしさを感じると、自身の気持ちも高ぶっていく。
この戦場に集った戦士も囚人も亜人も魔族も魔法使いも人間も、敵は同じ。英雄と魔人の背中を追いかけながら、集団の力を存分に発揮した。
「ぬう・・・バカな・・・造物主の掟持ちの召喚魔はチコ☆タンとタカミチが消しているとはいえ・・・・何故だ・・・・何故これほど我々が劣勢なのだ!」
自身も敵の激しい猛攻を受けながらも、デュナミスはこの戦場がどうしてこうなったのか、まるで理解できずに居た。
「20年経っても分からんかったかのう? 人を木偶だの幻などと吐き捨てておるが、貴様らこそ主の夢想のためだけに動く操り人形にすぎん。意思なき力に明日は掴めんということじゃ」
「なっ、テオドラ皇女。貴様がそれを言うか!」
「妾は・・・・ネギたちに明日を見た・・・ゆえに、意思を持った。そしてこの場に集った者たちは、ほとんどのものが己の意思で戦っておる。デュナミスよ・・・貴様の召喚魔がいくら圧倒的数量とはいえ、所詮は心持たぬ人形に過ぎんということじゃ」
自分たちは人形なんかではない。
この世界を守りたいという意思がある。それぞれ自分の守りたいものがある。
その気持ちは決して作られたものではなく、ましてや幻でもない。
「はあ・・・はあ・・・・はあ・・・・心・・・ええですなァ・・・そうゆう素直なのはウチ大好きですわ」
「月詠!? 無事だったか・・・しかし随分とボロボロだな」
「ええ、一応まだ生きとります。せやけどデュナミスはん、こら計算違いでしたな~。本来ならネギ君たちと真っ向から戦っているところ、こないなその他大勢に手こずるとは、ウチもまだまだですわ」
舐めていたのは自分たちのほうだった。
二人はまだ戦うだけの力は残っている。しかし立ちはだかる、迷いの一切無いテオドラやクルトたち、更には獣人四天王を前にしてみると、戦う前はあれだけいきり立っていたというのに、今では相手を全滅させられる気がしなくなっていた。
個々の力ならば自分たちが上だろう。
しかしこれが同じ想いを秘めて戦う集団の力なのだと認識させられた。
「くっ・・・・・・・・・サウザンドマスターの息子どころか貴様らにここまで追い詰められるとはな・・・・・・我が主の夢想もここまでか・・・・・」
デュナミスは観念したのか、どこか力が抜けたようなため息をついた。
「おやおや情けないですなァ。ウチはまだまだ大丈夫ですえ?」
デュナミスの態度に月詠は少し不機嫌そうになりながらも、剣を離さない。
「観念しろ、神鳴流の女剣士。そしてその剣を離せ」
「ええ、その剣は危険よ。あなたもこれ以上の抵抗はやめて」
クルトたちはもはやこの宮殿外の戦いの勝敗は決したと確信し、月詠に降伏するよう告げる。
しかし・・・
「はん、つまらんことを言いますな~。それにこの剣がそんなに嫌ですかえ?」
月詠は引き下がらない。
「そんなに嫌なら、ウチの腕ごと切り落としてみたらどうですか~?」
妖刀ひなを決して手放さず、どれほど傷つき、そして血を流そうとも、命ある限りその戦いを終わらせない。
「さあ、まだまだこれからですえ!」
また、彼女の体を魔が乗っ取ろうとする。
しかしこれ以上戦いを伸ばしては居られない。
この女は危険だ。
ネギたちに何を言われるか分からないが、この女だけは早急に始末する必要があるとクルトは判断する。
周りを見渡しても、そのことに異論はなく、皆が無言で頷いた。
だが・・・・
「ひははは・・・そうかい・・・・・・・だったら・・・・・・」
「!?」
「そうさせてもらう」
「「「「「なっ!?」」」」」
その時、月詠の腕が切断され、刀を握った状態のまま右腕が宙を舞った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へっ?」
「言われた通り、腕ごと切り落とさせてもらったぜ。ひははははははははははははははははははは!!」
一瞬ボケっとして、自分の腕が無くなったことを自覚できなかった月詠。
しかしやがて、切断面から血が大量に噴き出し、その瞬間月詠は倒れ、同時に言葉にならぬほどの叫び声を上げる。
「ぎ・・・・ぎやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
痛みを自覚し、のたうち回る月詠。
その瞬間、クルト達も正気を取り戻し、突如現れた存在に目を向ける。
月詠の腕を斬り落としたのは、右半身が消失しているが紛れもなくあの男。
「く、狂い笑いのユウサ!?」
「テメエ・・・・・・・」
「ヌシ・・・なんじゃ・・・その姿は」
理解できない。
いきなり現われたユウサ。
いきなり月詠の右腕を切断したユウサ。
既に重症のユウサ。
分かっていることは、ユウサがここに居るということだけだ。
「ひははは、ちっとばかしヘマしてな・・・・・・・・こいつを返してもらうことにした。お前さんは天ヶ崎のカス娘よりは使えたが・・・・・見ていてもう飽きた」
「ァ゛ア゛・・・アウ・・・・ヒュ・・・ヒュ・・・ュウ・・・ァザマ・・・・」
「ひはははは、この世は面白いもので溢れている。時代錯誤な真剣勝負の中でしか生き甲斐を見出せない女にはそこが限界だ・・・俺の時代にはもう要らん」
ユウサは右足一本でバランスを取りながら、切断された月詠の右腕が今なお握っているものを拾い上げる。
それは・・・
「・・・・妖刀ひな・・・・・・・・・まずいッ!?」
クルトたちの目の色が変わった。
「さあ、ひな・・・お帰り。テメエの主が分かるか?」
刀に語りかけるユウサ。
すると月詠の時と同様、妖刀のどす黒いオーラがユウサを飲み込もうとする。
しかし・・・
「ふふふふふふ、俺を魔で取り込もうとするか? バカ野郎、それは元々誰の魔だと思ってんだ? 今一度想いだしな!」
ユウサは魔に飲み込まれない。
「妖刀の魔が・・・・漲っている・・・・」
それどころか妖刀から溢れる禍々しいオーラを凝縮し漲らせている。
「ひは・・・ひははははははははははははははははは! 戻ったぞ・・・漲ってきたぞ・・・魔の力がな!」
それは、最悪な者が最悪な力を手にした瞬間だった。
「狂い笑い!!」
「ア゛ア゛? 何だよ・・・・え~っとデュナ何だっけ?」
「デュナミスだ」
妖刀を手にしたユウサの前に、デュナミスが立つ。その気迫は、今すぐにでも飛び掛りそうな形相だった。
しかし・・・
「いくら金で繋がった同胞とはいえ、味方は味方。月詠の落とし前は・・・・ッ!?」
一閃。
「うるさい」
刃がデュナミスの薄皮を傷つけた。
「つう・・・貴様・・・・ッ!!」
「バランス取るのがしんどいんだ。話しは後にしろい。出来たらの・・・話しだがな」
ユウサはデュナミスの言葉を遮るように、問答無用に剣で切りつけた。
(な、なんだ・・・ただの剣とは・・・違う・・・・この傷・・・・)
幸いユウサの肉体の状況とデュナミスのレベルゆえに、深手には至らず、デュナミスの肉体の薄皮を切る程度だった。しかしデュナミスはその傷口に違和感を覚えた。
「さて・・・じゃあ・・・やるか・・・・・」
その間に、ユウサは周りを見渡す。その視界には未だ無数に存在する召喚魔たち。
ユウサはそのうちの一体に狙いを定めて、術を発動する。
「鬼芽羅の術!!」
それは吐き気がするような光景だった。
「ちょっ、なんなんじゃ!?」
「テオドラ殿下は初めて見るか? あれが禁術・鬼芽羅の術じゃ。生命の構造そのものを変えてしまう外法じゃ」
「おい・・・あの召喚魔の形が・・・・」
骨が砕ける音や肉が潰れる音がする。
「も、文字通り・・・ユ、ユウサの手足になりやがった・・・」
元の形が何だったのか分からぬほど変形させられた召喚魔は、その巨大な質量を極限まで圧縮し、ユウサの右半身にくっついた。
「まあ、しばらくはこの腕と足で我慢しとくか」
戦いで失った自分の手足を、他の生命の姿形を変形させて補う。
召喚魔に対して情も何も無いが、見ているだけで腹がムカムカしてくる。
「貴様ァ・・・覚悟は出来ているんだろうな」
デュナミスは僅かに切られた傷口の血を拭いながら、最強形態のままユウサの前に立つ。
完全にデュナミスはやる気のようだ。月詠の敵討ちかは知らぬが、敵をユウサに定めた。
だが、ユウサはニヤニヤした笑みを崩さない。
「貴様・・・何がおかしい」
するとユウサは盛大に笑った。
「ひははははははははは! 鈍感だぜ・・・え~っと誰だか忘れたが、テメエは自分の変化に気づかないのかい?」
「何!?」
「俺が斬った傷口を見ろ」
ユウサは先ほどデュナミスを斬った傷口を指差す。それは一見何の変哲も無い斬り傷にしか見えない。
だがそれは徐々に・・・
「な、なんだ・・・・」
デュナミスの様子が変わった。
「傷口から・・・・何かが流れ込んでいく」
そう、デュナミスの傷口に、血ではなく禍々しい黒い瘴気のようなものが漂っているのである。
それは・・・
「俺の魔さ」
「何!?」
「そしてこれが妖怪ひなの本当の使い方。月詠も神鳴流も勘違いしているが、これは使い手を魔で飲み込み、力を与えて暴走させる剣ではない。こいつの本当の使い方・・・・それは・・・」
ユウサが語る恐ろしき妖刀の真の力とは。
「所持者ではなく、斬った相手を魔で飲み込んで狂わせることさ。それが分かったからこそ素子ちゃんもこの剣を使うのをやめた・・・・だが、おかげで月詠を経て俺の手に戻ってきたわけだが」
「ッ!?」
「かつての所持者である俺の残留した魔が、使い手を逆に飲み込んでいたんだろうが、俺が使えばこのように本来の力を行使できる」
「ぐっ・・・ぐぬううう・・・・ぐおおおおおおおおおおおおおお!!??」
デュナミスは傷口から進入してくる魔に抗えず、頭を抱えて呻き出した。
「ひははははははは、魔に飲み込まれて狂っちまいな。そんで本能に任せて暴れまくれ!」
一部始終を見ていたクルトやアムグはあまりにも突然のことで手も口も出せなかった。
だが、誰も止めるものが居ないことをいい事に、鬼の暴走はとまらない。
「・・・・・・・・・さて・・・・・憂さ晴らしをして、さっさと地球に帰るか」
ユウサは再び上空の召喚魔たちを眺め、その総数を大体で数えている。
そしてクルトたちに向かって告げる。
「約30万ってところか・・・十分だ。とっておきを見せてやる。いつかはこうして星を破壊したかったものだ。まさかこんな形で叶うとはな。・・・究極の鬼芽羅の術を見せてやる」
「な・・・・なんだとッ!?」
「さあ、冥府魔道の怪物よ! 滅び行くこの世界に最初で最後の冥獄の地獄を見せてやれ!」
最終更新:2011年05月13日 21:44