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125-2

妖刀ひなから月詠の時とは比べ物にならないほどの巨大な黒い瘴気が溢れ、その瘴気がこの戦場に集う億鬼夜行たちを飲み込んでいく。



「極・鬼芽羅の術!!!!」



瘴気に当てられた億鬼たちは、鬼芽羅の術の発動により、強制的に収束されていく。



「ひははははは、合体!!」



この様子にはこれまで戦っていた戦士たちも思わずポカンとしてしまった。



「合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体! 合体!」



それが最悪の怪物を超えた怪物を生みだすための光景だとは思いもよらなかった。




「ひははははははははははははははははははははははははははははは!! さあ、現われよ! そして歴史どころか神話に名を刻め! 天空を漆黒の闇で覆い、世界を喰らい、この世を現実の火星と同じ岩の塊にしてしまえ!」




超、超、超。それは遥かなる超。

強き獲物を喰らい、力を得る怪物。

何十万と群がっていた巨大な化物たちを収束し、それを養分として新たなる化物が生み出された。




「T・鬼神(テラ・キシン)!!!!」




かつてないほど強大で、この星を蹂躙する魔法世界史上最大の怪物が滅亡する世界に産声を上げた。


















「もう許さん! お札さんお札さん・・・」


「させるかァ!!」


「あっ、裕奈さん! そのお札は爆符です! 撃ち抜いちゃダメです!」


のどかが千草のフェイントを読み取るが、既に遅かった。

裕奈は既に千草の札を撃ち抜いてしまった。攻撃と見せかけた札は、実はウソで本当は起爆の札。

裕奈に撃ちぬかれた札は爆発を起こして、千草の姿を爆煙で見失う。


「げげ、やっちった!?」


「はは、やはり戦闘経験の無いガキ共ですなァ!!」


姿の見えなくなった千草。裕奈たちは千草の位置が分からずに戸惑いを隠せない。


「お札さんお札さん・・・ウチを分身させておくれやす」


煙の中から聞こえた千草の声。

すると煙が晴れ、千草の姿が露になったかと思えば、中から千草の姿をした分身体が何十人も現われた。


「ひはははははは、これまでや!」


これでは本物が分からない。

全部確かめる術など無い。

更に分身体全員が札を取り出して自分たちを攻撃しようとしている。

裕奈もどれを撃ち抜けばいいか分からず混乱している。

このままではやられる。

しかし・・・


「光の精霊(セブテントリーギンタ)97柱(スピーリトゥス・ルーキス)!! 集い来たりて(コエウンテース) 敵を射て(サギテント・イニミクム)魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス)・光の97矢(ルーキス)!!」


木乃香がその巨大な魔力を行使し、何十もの光の矢を放って、分身体全てを撃ち抜いた。


「なっ、・・・こ、こんの・・・ッ!?」


「うおおおおおお、木乃香スゲー!」


分身体同様に千草本体も撃ち抜かれ、千草が傷を抑えながらよろめいた。

本物が出現し、手傷を負っている。

今ならいけると確信した。


「アデアット! 力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)!!」


千雨のアーティファクトの電子精霊群。正直戦闘能力は皆無。しかし、物理的な接触は可能。


「お前ら! あの女から・・・アレを奪って来い!!」


千雨が指を指したのは千草の手にある造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメーカー)である。


「なっ、させるかいッ!!」


傷ついた千草から鍵を奪おうと群がる電子精霊たち。それを千草は鍵を振り回してなぎ払っていく。

だが、咄嗟に鍵を振り回してしまったのが災いした。


「今だ! 自在なリボン(リベルム・レム二クス)!!」


「なァ!?」


まき絵には複数のアイテムがある。先ほどの棍棒、そして今手にしているのはどこまでも伸びるリボンだ。

まき絵は千草が電子精霊に気を取られている隙に、リボンで千草の手から造物主の掟を奪い取った。


「こ・・・・こんガキーーーーーーーーーーーッ!!」


「ひっ!?」


「あ、危ない!?」


鍵を奪われて怒り心頭の千草はまき絵に向かって爆符を投げつける。

幸いまき絵に直撃こそしなかったものの、まき絵の直ぐ傍で爆発が起き、まき絵が巻き込まれた。


「まき絵ッ!?」


「うう、痛い・・・痛いよォ・・・!!」


爆発で軽い火傷と傷を負っている。床の破片も飛び散り、肌を数箇所切っている。

比較的軽症だが、まき絵は耐え切れずに泣きながら痛みを訴える。


「はん、火遊びもほどほどにせんからそうなるんやァ!!」


爆発により手からリボンを離してしまったまき絵。


「こ、こんの~~」


「邪魔やァ!!」


「!?」


よくもまき絵をと睨もうとした瞬間、裕奈は千草の裏拳で頬を強打し、床を二転三転した。


「裕奈ッ!? 千草はん! 女の子の顔に・・・・」


「う・・・うう・・・・い・・・った~~」


「ひははははは、女がどうした!? ウチは女やろうが乳飲子やろうが、容赦なくしばいたる! それが歴史でも認められてきた戦争やろうがァ!」


遠距離攻撃できる裕奈を殴り、千草は即座に上空を見上げる。そこには爆風に煽られた造物主の掟が宙を舞っており、千草はジャンプしてキャッチしようとする。

だが・・・


「うわああああああああああああああああ!!」


「は、はあァ!?」


千草と同じタイミングで、しかし千草より高く飛び上がった亜子がそこにいた。


「え、えーーーい、ジャ・・・ジャンピングボレーシュートやァ!!」


「ちょっ、んなアホなァ!?」


サッカー部のマネージャーでそこそこの運動神経を持っている亜子が、ジャンピングボレーで造物主の掟を蹴り飛ばし、千草に取らせない。

そして亜子に蹴られた造物主の掟は絶妙に、のどかの手へと渡った。


「オオーーッ! 亜子、ナイスシュートや!」


「本屋ァ! 頼んだーッ!」


「はいっ!」


手に渡った造物主の掟を手に持ち、目を瞑るのどか。


(大丈夫・・・使い方はデュナミスさんの持っていたのと同じ・・・)


この中で唯一造物主の掟を使用したことのあるのどかは、使い方まで網羅している。ある意味、先ほど手にしたばかりの千草よりも扱いなれている。


「お札さんお札さん・・・奴らを凍え死なせておくれやす!!」


空中から千草がのどかに向けて術を放つ。

しかし・・・


「効きません!」


「ッ!?」


のどかはその攻撃を造物主の掟でかき消した。


「これでもうあなたの術は効きません! 鬼たちをこれ以上召喚することも出来ません!」


千草の表情が変わった。


「しもた。それが狙いやったんか!? せやけど・・・これ以上鬼を召喚できなくてももう十分や!」


確かに千草の言うとおり、これ以上召喚できなくても既に十分すぎるほどの兵力がこの場に居るのだ。

だから今更鍵を奪われても大丈夫だと思った。


「もう、殺すだけでは勘弁ならんわァ! 考え付く限りの苦痛で永久に苦しませたるわァ!」


怒り狂った千草の形相に少女たちは思わず体を震わせてしまった。


「なに・・・さっきからずっとそんなことばっか・・・・いつつ・・・何がそんなに気に入らないんだよ!」


「全部や! 西洋魔術師も、この世界も、そしてそれに味方するアンタら全員気に入らん! ウチの憎しみはもう収まらん!」


裕奈は傷ついた頬を押さえながら、千草の憎悪に震えて立ち上がることが出来ない。

しかし・・・


「自在なリボン(リベルム・レム二クス)!!」


次の瞬間、千草の体をリボンでぐるぐる巻きにされた。


「へへ、油断大敵。これでもう手も使えないからお札も使えないよね!」


「なあッ!? アンタはさっき爆発で・・・・・・・・ちい、お嬢様かい!?」


先ほど傷ついたはずのまき絵が、リボンを使って千草を拘束した。

しかし傷は浅いとはいえこんなに早くに立ち上がれるのかと思ったが、まき絵の後ろに木乃香がいた。

木乃香は千草を悲しい眼差しで見ていた。


「千草はん。ウチもお父様に千草はんのこと少し聞いた。両親を戦争で無くしたて。その苦しみをウチは分かってやれん。でもな・・・」


「ア゛ア゛?」


「ウチらはそれでも負けられん!! ウチらも譲れんのや!!」


「ア゛~~ッ? この温室育ちのお嬢様が何をほざいとんのやァ!? そもそも呪術協会の次期頭首ともなるべきアンタや現頭首のアンタの親父が、憎むべき西洋魔術師どもと日和って仲良しゴッコしとるからやろが! 長でありながらあんたたちは組織よりも自分の私情を取った! サウザンドマスターやその息子がそうや!」


「そんなことない! 誰かと仲良うして何がアカンのや!」


結果的に鍵を奪われ、手足の自由を奪われた千草。


「へっ、そういうことさ! 何よりモロ私怨のアンタがそれを言うんじゃねえ。さあ、仕上げは任せたぞ!」


千雨が叫ぶ。

するとその声に頷いて、偽アスナが前へ出た。


「了解」


偽アスナは身動きの取れぬ千草へ向かって走り出した。


「見事です、皆さん。結局あなたたちはやり遂げました」


そして偽アスナの姿が変わっていく。


「ごめん、焔・・・暦・・・環・・・調・・・フェイト様・・・」


その姿は元の栞の姿。


「私はこの人たちを・・・信じてみます」


そして彼女は身動きの取れぬ千草に、自分の唇を重ねた。


「むぐっ!?」


ジタバタして逃れようとする千草。だが、栞はさせない。

そしてこの瞬間、栞の能力が発動した。

煙に包まれ、その姿を変貌させ、何と栞は千草の姿になった。


「なるほど・・・・こうやって神楽坂に化けたわけか」


「はい、アスナ姫の場合はこれに自己暗示を加えたものです」


栞の能力は究極の変装術。外見は勿論、スイッチを入れれば自己暗示によって本人そっくりとなる。


「・・・・こんガキ・・・どういうつもりや!?」


「自己暗示のスイッチを押すとあなたそのものになってしまうので、今回は変装だけ。しかしこれだけで十分なのです」


「なんやと?」


「ええ~っと、あなたには独特な訛りがありますけど・・・大丈夫ですね」


千草となった栞が振り返り、そして息を大きく吸い込んで叫ぶ。



「鬼共ォーーーッ! それまでやァ!! それ以上戦ったらアカン、さっさと帰りィーーーッ!!」



「「「「「「「「「「エエエエえっ!!??」」」」」」」」」」



それは召喚主からの突然の退却命令。

鬼たちもピタリと止まって、どういうことだと振り返った。


「ちょちょちょ、どういうことやねん?」


「今いい所ぞ!?」


「もうちょいでこいつら倒せるんやぞ?」


鬼たちもブーブーと突然の千草の命令に戸惑っているようだ。

しかし・・・・



「ガタガタヌかすなや! ウチが戻れ言うたら戻ればええねん!!」



「「「「「「「「「「エエエエっ!!??」」」」」」」」」」



有無を言わせぬ命令だった。


「ど、どうする?」


「仕方ないやん。帰れ言われたら帰るしかないやん」


「は~っ、せっかくいいところやったんやけど」


召喚主に用が無いと言われたら、それまでである。


「ななな、んなアホな!? 鬼ども・・うぐモゴモゴモゴ」


「あっ、ちょっと口閉じさせてもらうね」


まき絵のリボンが千草の口に巻きついて、本物の千草の声が届かない。

ゆえに、偽千草の栞の言葉を本物と勘違いし、何百何千と居る鬼たちは、ぶつくさ言いながら姿を消していく。


「おっ・・・おお・・・・」


「ついにやりましたか」


消えていく鬼たちの姿を見て、美空たちも腰を下ろした。


「バ、バカな・・・あんな雑魚どもであの女を倒したというのか!?」


「ふふ、こちらの粘り勝ちでござるな」


あれだけ大量に居た鬼たちが次々と消えていけば、途端にこの宮殿内もものすごく広く感じる。

あとに残されたのは、白き翼の面々、新生大グレン団の面々、そして千草に化けている栞に、焔、環、暦、そして拘束されている千草。

さらに・・・・


「はあ・・・はあ・・・・すごいです・・・みなさん・・・・」


「ネギ君!?」


超鬼を倒し、ボロボロになりながらも結界からの脱出に成功したネギが皆の前まで現われた。


「ネギ君、今怪我治すからな!」


「はい、ありがとうございます。何とか・・・・新技で乗り越えられましたから・・・・」


木乃香が急いでネギに治癒呪文をかけ、そして周りを見渡す。


「良かった・・・ほんまに良かったえ。皆無事で」


そこには刹那や楓、美空をはじめとする、仲間たちがボロボロでありながらも一人も死なずに生きていた。


「お嬢様!」


「せっちゃん!」


「無事で・・・無事で良かった・・・良く・・・やってくださいました」


「えへへ~、せっちゃんたちも無事で良かったわ」


泣きそうなのは木乃香だけではない。

刹那が涙ながらに抱きついてあちらこちらを触って怪我が無いかを確認してくる。少しくすぐったかったが、木乃香もほほ笑んだままされるがままになった。


「ええーーーん、良かったよーーッ!」


「ううう、安心したら腰抜けた・・・・つつ・・・うわ~、殴られたところ腫れてるよ・・・鼻血も出てるし・・・」


「へっ、それは勲章だぜ、裕奈キッド。それにしても、ちうちゃんも、やっぱやってくれたな・・・」


「あんたたちも随分ボロボロだな・・・でもま・・・・無事で良かった」


安心した途端、まき絵や裕奈も腰を抜かして泣きそうになりながら笑っていた。

アキラやシャークティ、楓たちもハイタッチをして喜び合っていた。

自分たちはやった。

自分たちは勝ったのだと、呟いていた。


「バカな・・・・お前は・・・お前は・・・・」


そしてこの状況を唖然としながら眺めていた焔たちだが、あることに気づいた。

それは千草が二人居ることだ。

ぐるぐる巻きに拘束されているのが本物の千草。

ならば鬼たちを退かせた偽者の正体は?

それが分かった瞬間、怒りが浮かび上がり、焔は叫んだ。


「栞! 貴様これは一体どういうことだッ!!」


「焔・・・・」


「裏切ったのか貴様ァ!」


千草に化けた栞が、本当の姿を見せる。

焔だけではない、暦も環も、栞の取った行動に怒りの形相を浮かべて掴みかかろうとする。

攫ったアスナの替え玉として、そしてスパイとして潜り込んだ栞。

だが、その彼女が彼女の意思で焔たちの邪魔をしたのだ。

怒らずにいられなかった。


「焔・・・話を聞いて・・・私はネギさんたちと話をしてみて、この人たちのことを信じてみようと思ったんです」


「何!?」


「焔たちも聞いていたはずです。ネギさんが仰っていた、魔法世界の崩壊を止める手立てがあると」


「だ、だからどうした! そんな話を真に受けるというのか! それに仮に本当だとしても結局この世界は何一つ改善されないままではないか!」


焔たちは栞の言葉を一切聞き入れない。

栞を裏切り者と罵り、ふざけるなと叫ぶ。

栞は何とか話を聞いてもらおうと焔たちを宥めるが、彼女たちは言うことを聞かない。

すると・・・


「ふん、・・・滅びたらええねん」


「ッ、・・・・あなた・・・・」


「全員死んだらええねん」


リボンで拘束されたままの千草が口元のリボンを噛み千切り、冷たい声で呟いた。


「千草さん・・・・・」


「何や坊や。何か言いたいことがあるんか?」


千草の冷たい言葉にネギは哀れんだ瞳を浮かべた。それが千草を更に不快にさせた。


「何やその目は!? 哀れみか? 安っぽい同情かい? んなもんクソ喰らえや! そうや、その目や! あん時からそれが気に食わん! 自分たちはどんな壁をも乗り越えてきましたよ、絶望しませんゆう目が気に食わんのや!」


「ちょっ、ちょっとそんな言い方ないんじゃない!」


「そ、そうだよ・・・ネギ君は本気で心配を・・・」


「アアン? こんな神様に愛されたような人生送っとる餓鬼が、ウチの何が分かるゆうんや!」


一気にまくし立てる千草を裕奈たちが怒ろうとするが、ネギが手で制し、千草の目の前まで歩み寄った。


「・・・千草さん。・・・そんなに・・・西洋魔術師が許せませんか?」


千草の恨みの原因はネギたちも多少は知っていた。


「あん? 当たり前や! ウチの地獄の日々は全てがあんたら西洋魔術師から始まった! 家族を失い、路頭に迷い、才能も無く、助けてくれるものも無く、そんなウチはしがみ付けるもんには何でもしがみ付いた! 例えそれが、地獄の鬼やったとしてもや! しかしアンタらの所為でその方からも見放された!」


一つ一つの恨みをちゃんと聞きながら、ネギも丁寧に語っていく。


「僕も両親の温もりを知りません。大切な人を失う悲しみも知っているつもりです。ですが、そのことで言い訳したことは一度もありません」


「アン? ・・・・ふん・・・言いますな~・・・せやけど・・・」


すると、ネギの言葉に、千草は苦笑しながらネギに尋ねる。


「・・・・なあ、坊や。確かにアンタは不幸な過去があったかもしれん。だが、一人やったか?」


「・・・えっ?」


「助けてくれた人はおらんか? 気にかけてくれた人はおらんか? 傍に居てくれた人はおらんか?」


「・・・・・・・それは・・・」


ネギは自分の過去を思い返す。

両親の居ない日々、目の前で悪魔によって石にされた村の人々。

失うことと悲しみを経験してきた。

だが、自分は一人ではなかった。

姉が居た、幼馴染が居た、今では迷うことなく信じられる仲間が居る。

だが、千草には何も無い。


「ふふふ、ウチは無い。両親が死に・・・一人になったウチを助けてくれる人はおらんかった・・・失ったことが地獄なんやない。失ってから過ごしてきた日々こそが地獄なんや」


ただ、惨めな日々と憎しみだけが積み重なった。


「運命は神のみぞ知る。運命のいたずら。運命は天が定めしもの。人は皆・・・平等・・・ふん、もしそないなことを真顔でほざく奴がおるんやったら・・・天も神もぶち殺してやりたいもんやな!」


大勢は決まり、千草自身もこうして拘束している。

しかしこのやり切れなさは一体何だ?

前へと進もうとするネギたちの後ろ髪を引っ張る千草に、ネギたちも表情が曇っていく。

千草は多少屈折しているかもしれないが、焔や暦たちも戦争孤児として似たような境遇なのだろう。

違いはフェイトが居たかどうかぐらいだろう。

失い、痛みを知り、そして覚悟を決めてこのような行動を起こす敵。


「そうやそうや! ひははははははははははははは! 死んだらええねん! 死んだらええねん! 滅んだらええねん! 全部無くなればええねん! ひはははははははははははははははは!!」


痛みを知らぬものには何も言えないのかもしれない。

しかし・・・


「なんか・・・・なんか嫌だな・・・・それ・・・」


納得できない。


「アン?」


そんな口調で彼女は呟いた。


「美空さん?」


「そりゃ~、好き嫌いはその人の問題だろうけどさ・・・そういうの・・・何か卑怯じゃない?」


「ア゛ア゛?」


美空は口元をとがらせながら、どこか納得のいかないような表情で千草に言う。


「私はさ、戦争も知らないし、両親居るし、友達もいるし、信頼できる姉貴分や妹分・・・兄貴も居る。特に何か不幸があるわけじゃないよ。でもさ、だからって痛みも苦しみも知らない奴は何も口出しするなって言われて、強引に友達とか殺されそうになるのを黙って見ているなんて出来るわけないじゃんか。こうやって戦ってるのに、負けそうになった途端にそーゆうこと言うのは卑怯だよ」


「なっ・・・・・」


「つうかさ~、あんたたちって心開くのや友達とか作るの限定しすぎじゃない? スゲー威張ってるけど、自分と同じ苦しみや痛みを知っている人からしか理解されない生き方とか、そ~ゆうの疲れない?」


それは魔法使いでありながら、普通の生活、普通の娯楽、普通の友人、恵まれた生活をしてきた普通の女子中学生が感じたことだ。


「まあさ、地球でも至る所で戦争起きてるし、不幸な人もたくさんいることに比べたら、私はスゲー恵まれてるし幸せなんだけど・・・あんたたちって言い方悪いけど人を下から見下しているような気がして嫌なんだよね」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」


「うわお・・・・美空ちゃん・・・」


「言っちゃった・・・」


なんとも実も蓋も無いことをサラッと言うものだと皆内心ビクビクだったが、美空のその素直に感じたままの言葉は、中々彼女たちには効いたようだ。


「な、なんやと~・・・このガキがァ! ウチがいつ下から見下したんや! 何も知らんくせに適当なこと言うなや!」


「あっ! ほらまた言った! 何も知らんくせにとか! だからそういう言い方が卑怯なんだってば! 散々好き放題暴れて私たち殺そうとしたくせに、負けた瞬間そういうこと言うんだからさァ!」


「あん? そらホンマにあんたが何も知らんと好き放題言うからや! 全てを破壊し全てを無にする。あんたらのようなヘラヘラした学生どもに邪魔されてたまるかい!」


「そんなに何も知らないのが嫌なら話せばいいじゃん! そしたら少しぐらい分かるかもしんないよ? ほら、聞いてあげるからさっさと言いなよ。悩み事聞くのも教会の仕事なんだからさ!」


「ああん? 誰があんたみたいなクソガキに言わなあかんのや!」


「だったらそのクソガキ共に負けたいい大人が子供相手にムキにならなきゃいいじゃないっすか!!」


「なんやとォ!?」


「やるかァ!」


美空と千草は何故かとっくみ合いを始めてしまった。


「・・・み・・・美空?」


「あの~・・・美空さん」


「はあ~~~、世界の真実や憎しみの連鎖の話からいきなり、何とも幼稚な言い合いに・・・・」


二人は何も聞いていない。

ただ目の前の両者が許せず、両者は滅茶苦茶な言葉を投げ捨てながら口論になった。


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」


ポカンと口を開けて置いてきぼりを食らった一同。

栞も焔たちもいつの間にか罵り合いが中断し、深々とため息をついた。


「「「「「もう・・・・・・・・・勝手にやってればいい」」」」」


ある意味一番の薬なのかもしれない。

積もり積もった魔や憎しみは思いっきりぶちまけて発散させるのが一番手っ取り早く収まるのかもしれない。

半端な慰めや、救いの手を差し伸べるよりも、こうしてぶつかりあっていく方が、何か理解できるような気がした。


「大体京都の件以来にも、ウチがどんな苦しみを味わったか分かるかい? 精神的苦痛、肉体の痛み、負の連鎖、抜け出せぬ闇、・・・精神が壊れるかと思ったで・・・せやけど憎しみがウチを支えてこうして生きとんのや! つまりそれだけ恨みが強いっちゅうことや!」


「あ~ん? こっちだってここ来る前にエヴァちゃんが無理やり私の義理の姉を名乗って、地獄の特訓されて地獄を見たんだからな~!」


「アホかい! んな、なんちゃって地獄でえばんなや! 失い、傷つき、蔑まれ、疎まれ、血反吐を吐き、そんな人生を送ったウチに比べたら・・・」


「良い大人が不幸自慢してんじゃないさ!」


口論は激しいのだが、次第にどこか普通の女の喧嘩っぽくなっていた。

美空が千草の両頬をつねって、身動き取れぬ千草は唾を飛ばす。なんだか幼稚な喧嘩に、皆も呆れてため息をついた。

だが美空の言葉も滅茶苦茶なようで・・・


「さっきはアンタネギ君のことを文句言ってたけど、何でネギ君はこんなに真っ直ぐで、これだけ多くの仲間に慕われていると思う? ネギ君はさ、親が居ないとか不幸な過去を言い訳に不貞腐れたりしないからさ!」


「あん?」


「辛いからって下ばっかり見ないで上を向いてるからだよ!」


「「「「「「「ッ!?」」」」」」」


「たった一人で見知らぬ国に修行のために行かされて・・・周りは誰も知らない人たちばかりで、10歳の子供が年上の学生を受け持って・・・子供だから色んな人にチヤホヤされるぶん、舐められたり、生徒が問題起こしたり・・・大人たちのイザコザに巻き込まれたり・・・それでも投げ出したり不貞腐れたりしないで、今こうして堂々としてるんだよッ! そうやって皆からの信頼を掴み取ったから、皆こうして傍に居るんじゃないか! 恵まれてたんじゃ無くて、ちゃんと努力して掴んだんだよ!」


どこか的を得ていたのかもしれない。


「そして・・・・・兄貴も同じだよ」


「兄貴? あのシモンとかいうクソドリル男かい」
最終更新:2011年05月13日 21:45
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