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125-3

シモン・・・その名を聞いて焔たちも顔を上げた。

それは彼女たちにとっての憎むべき宿敵。しかしその一方でシモンの生き方や大グレン団とグレンラガンの戦いに心を熱くさせたのもまた事実。

その男の話は、何故か彼女たちも聞き流せなかった。


「そうさ・・・兄貴も両親が死んだ・・・・世界一信頼できるカミナの兄貴も戦争で殺された・・・そして・・・ニアさんも・・・まだこれから・・・これからが最高の幸せだって時に・・・」


「・・・・・な・・・だから・・・なんなんや」


「でも、兄貴は誰かを恨んだりして戦っていたわけじゃない。憎しみで戦っていたわけじゃない。カミナさんもそうだったように、私にとっての兄貴もどんなに大変な目にあったって、最後は笑うんだ! そんな兄貴だから私たちは好きなんだ!」


「ぬ・・・あ、あんなアホドリル男と一緒にするなや・・・」


「うるさいな。要するにどうせ威張るんだったら、痛みとか苦しみ知ってるあんたたちが、滅ぼすんじゃなくて現実を救ってみせろってことだよ!! そんなスゲーことしたんだったら、威張ったって誰も文句なんか言わないさ! むしろ皆がアンタを尊敬するよ!」


再び皆が口を開きポカンとしていた。


「「「「「・・・・・・・・・・・」」」」」


「なな、なんだよ・・・・この空気は・・・そんなに変なこと言った?」


それは先ほどの呆れたような感じとは違った。


「自分で言った言葉にうろたえないように」


「シスターシャークティ。でも・・・」


「まあ、あなたにしては上出来かもしれませんね」


シャークティはポンと軽く美空の頭に手を置いた。美空は皆の様子が気になって、少しうろたえていた。


「ん・・・・うう・・・こ、こんガキは・・・だから何も知らんと偉そうに・・・こんな風に過ごしてきたウチらがそんな綺麗事で簡単に変われるかい!」


「そんなもん・・・自分の気持ち・・・次第じゃないか。私だってちょっとは変わった。兄貴と出会ってね。そりゃ~、あんたたちの人生の過酷さとは比べられないよ。でも・・・あんたは変わろうとしたの? 変わりたいって努力したことあんの?」


「・・・・こ、こんガキ・・・ウチのような札付きのお尋ね者のような女にはもう手遅れなんや!」


「それじゃあ、あんたを誰も知らないような遠い遠い世界の果てまで逃げて、その力使って誰かを助けてあげたり、力になってあげたらいいじゃないか! そしたら誰もあんたのこと悪党だなんて思わないし、たちまち皆の人気者じゃないか!」


「うっ・・・・うぐう・・・・」


千草もぶつくさ言っているが、先ほどのように噛み付いてこない。

納得がいかない、しかし何故か言い返せない、そんな風に見えた。


「・・・・・・・しかし・・・・・しかし・・・・」


焔たちも今の美空の言葉を聞いてどこか複雑そうな顔を浮かべていた。

決して折れぬ信念と覚悟を元に、死すら恐れぬ心で大義を成そうとしていた自分たちの心に突き刺さった。


「千草はん・・・・それに焔ちゃんたちも」


「お、・・・お嬢様・・・・」


「・・・近衛木乃香・・・」


そんな彼女たちに優しく微笑みながら、木乃香が焔の肩に手を置いた。


「ウチも美空ちゃんと同じで、戦争の苦しさや辛さは知らん。でもな、ウチ・・・そんな苦しみや辛さ・・・憎しみをぶっ飛ばす方法を知っとるよ」


「な、何? どういうことだ、近衛木乃香!?」


憎しみや辛い過去、それを消し去る方法がある。それは彼女たちにとっては決して信じられぬ言葉だった。


「おいおい・・・あのバカ・・・」


「・・・う~む、木乃香殿もしや・・・」


「お嬢様・・・」


しかし焔たちとは対照的に千雨たちはどこか嫌な予感がしていた。

この天然女はこの期に及んで何を言う気だと、心の中で呟いていた。

そして木乃香の告げた方法・・・・それは・・・


「愛や。憎しみもぶっ飛ぶぐらいに誰かを好きになることや。愛は宇宙を救うゆうからな!」


「「「「・・・・・・・・・・はっ?」」」」


「「「「「・・・・・・やっぱり」」」」」


木乃香はニコッと笑っているが、マジだ。

しかしそれは焔たちの逆鱗に触れた。


「ふ・・・ふざけるなァーーーーッ! 何を言い出すのかと思えば、何が愛だ! 貴様らのような気楽な学生と一緒にするな!」


「マ、マジでぶっ殺されたいんですかえ、お嬢様?」


まあ、当然の反応だろうと千雨たちは頷いていた。

だが、木乃香はやはりマジ。それには根拠があった。

それは・・・


「ふざけてへんよ。だって焔ちゃんたち、フェイトが好きやからがんばるんやろ?」


「「「なっ!?」」」


「過ごしてきた環境は違うかも知れんけど、やっぱ同じ女の子やから分かる。恋する気持ちは理屈や無いからな」


フェイトを好きだからがんばる?


「以前暦ちゃんと環ちゃんが、フェイトがシモンさんのことばかり考えてるゆうて、シモンさんに嫉妬したことがあったやん。それでウチはピーンときたんよ。ほれ、シモンさんとラカンさんと瀬田さんの三人に二人が泣かされたときの話や」


「「うぐっ・・・」」


千雨たちには「何アホなこと言っているんだ?」というような発言だったが、顔を真っ赤にしながら慌てふためく彼女たちを見ていると、意外と的外れでもないように感じてきた。


「ななななななな、何を言っている! 我らを愚弄する気か! 我々は確かにフェイト様に大恩がある。しかし、フェイト様と共に戦うのは、我らの望みがフェイト様の目指す物の先にあるからだ! 愛だの恋だのそんなくだらんものと一緒にするな!」


「くだらくなんかないで。恋と愛は女の子にとっては一大事や。ほなら、焔ちゃんたちはフェイトのことを好きでもなんでもないん?」


「なっ、そ・・・それは・・・いや、しかしだからフェイト様の目指すものと我々の望みが同じだから・・・」


「そ・・・その通りです」


「にゃにゃ・・・そ、そう・・・フェイト様と共に居るのは私たちの大義のため」


顔を真っ赤にしながら否定する焔、環、暦。

しかし木乃香はニコッとした笑みから、途端に真剣な表情で三人に詰め寄った。


「ほなら・・・そのために命を賭けるん?」


「ああ、そうだ! 我らの崇高な目的のためならば、フェイト様に命じられればこの命、いくらでも投げ出してみせる!」


三人は当然だと頷いた。

しかし・・・


「じゃあフェイトがネギ君を信じるゆうたらどうするん?」 


「「「・・・・・・・・・・えっ・・・・」」」


その瞬間、三人は固まってしまった。


「フェイトが計画を止めるゆうたらどうするん?」 


「えっ・・・」


「にゃ・・・にゃにゃ・・・」


「それは・・・・・・」


「焔ちゃんたちはフェイトと戦ってまで自分の道を貫くん?」 


仮にフェイトがネギの言葉を信じたら自分たちはどうする?

それを夢想だと言って、フェイトと戦うのか?


(フェイト様と・・・・・戦う?)


フェイトと戦う? そんなこと一秒たりとも思ったことなど無かった。


「だ、・・・・だから・・・ネギ・スプリングフィールドを信じても、それではこの世界の問題は何も解決しないと・・・・・」


歯切れの悪い言葉で誤魔化そうとする焔。

しかし木乃香は食いつく。


「それでも夢やのうて現実でフェイトが抗うゆうたら焔ちゃんたちはどうするん!」


「ぐっ・・・・そ・・・・それは・・・その・・・こ、・・・暦?」


「にゃにゃ!? た・・・・・環!?」


「むむむむ・・・・・むう・・・・」


これほど強い口調で誰かに迫る木乃香は初めてかもしれない。自分がそれほど強い恋をしているからだろうか、他人の恋にも鋭かった。


「焔ちゃん! 暦ちゃん! 環ちゃん!」


「「「・・・・ッ!?」」」


三人の名を呼び、誤魔化さずに本音を引き出そうとする木乃香。

木乃香が聞きたいのは、大義や信念がどうとかではなく、どうしたいのか、どうしたくないのかだ。


「うっ・・・・ううう・・・・」


いつの間にか木乃香に気圧されて後ずさりする焔。


「わ、私は・・・・・私は・・・・・」


唇を噛み、焔の目じりには徐々に涙が浮かんでくる。


「わ、私は・・・私も戦争孤児だ・・・・大戦が終わってもなお、紛争の耐えぬ地域で・・・両親も・・・村の人も失い・・・・一人になった・・・そんな私のような弱き者がこの世界には溢れている・・・そう・・・狂っているのだ・・・永遠に止まぬ争い・・・負の連鎖・・・それを断ち切るには・・・こうするしかないのだ・・・戦争を知らぬ・・・痛みも知らぬ貴様らに何と言われようとも・・・・だから・・・・」


精一杯自分を保とうとする焔。

これ以上はダメだ。

これ以上木乃香と話していたら自分を保てなくなりそうだと思い、精一杯誤魔化そうとする。

だが・・・


「じゃあ、焔ちゃんは大義のためにフェイトと一緒におるんやな」


「ッ!? ~~~~~~ッ!!」


もう限界だった。


「ひ、卑怯だぞ貴様・・・そんな言い方・・・これでは・・・何も言えないではないか」


俯いた焔。

しかしその数秒後・・・


「・・・ああ、そうだ! フェイト様がそう望むのであれば私も従うさ! フェイト様がネギ・スプリングフィールドを信じるようなことがあれば私も信じるさ! 終わりなき争い。しかしそれでも諦めずに少しずつでも弱き者を現実の世界で救っていこうと仰れば、生涯をかけてフェイト様のお傍でこの世界の不幸と戦い続けるさ! どうだ、言ったぞ!  これでいいのだろう! これを言わせたかったのだろう! どうだこれで満足か!」


焔は真っ赤になりながら、やけくそとばかりに諦めて叫んだ。


「ぎゃ、逆切れしやがった・・・」


「し~っ、千雨ちゃん、今良いところだから」


押さえていた自分の感情が全て出てしまった。


「当然憎んださ・・・争いを・・・痛みを・・・100年経っても改善できぬこの世を・・・しかし・・・私は・・・フェイト様が居たから・・・私は・・・」


言い終わった後、焔は力をなくしたようにペタンと床に腰を下ろした。


「フェイト様は私や暦たち以外にも戦争孤児を拾っては面倒を見、学校にも通わせている。当然私たちも勧められたさ・・・しかし私たちは・・・フェイト様から離れたくは無かった・・・最後まで・・・ただ・・・一緒に居たかった・・・・・・・そうだ・・・・フェイト様さえ居てくださればそれで私は何も要らない・・・・・」


焔と同様に暦と環も涙を浮かべて俯いてしまった。

信念と大義、そして覚悟を決めて、後悔なき選択をした。

しかし、木乃香に突きつけられた言葉で、ものの見事に心を揺れ動かされてしまった。

悔しさも怒りも無い。ただ、いつの間にか自分たちの戦う意思が揺れ動いてしまったのだった。


「はん、アホクサ。何やアンタら・・・大きな口叩いて、結局惚れた腫れたで戦っとっただけかい」


千草は何だかバカらしくなり、肩から力が抜けて大きくため息をついた。


「ちっ・・・どいつもこいつも・・・・ヤボなんはウチだけ言いたいんかい。なめくさって・・・戦争をなんやと思っとるんや」


この戦いは何だったのだと、呆れて首を横に振った。


「それは違います、千草さん」


「あん?」


だが、何もかもがバカらしくなった千草に、今まで黙っていたネギが口を開いた。


「美空さんも木乃香さんも人は変われると言いたいんです。どんなに憎しみや悲しい過去に囚われようとも・・・きっかけがあれば人は必ず変われるんです」


人は変われる。

人は成長していく生き物である。どれほど過去に耐えがたい苦痛や恨みがあったとしても、きっかけさえあれば人は変われる。

そのことは痛みや苦しみを知らぬネギや少女たちでも分かることだった。


「僕も変われました。日本に来て麻帆良学園に来て・・・色々な人に出会えて、僕は変わることが出来ました。そうです、千草さん・・・あなただって変われるはずです」


ネギも・・・


「天ヶ崎千草。私はかつて人外の狭間で何年も苦しんだ・・・幼いときは迫害も受けた・・・お嬢様に恐れられるのではないかと避けてきた・・・しかし私も変われた。・・・天ヶ崎千草・・・中々いいものだぞ・・・誰かを愛するということは。たったそれだけで私も救われた」


刹那も・・・


「私も規律や規範をもっとも重視し、その枠組みの中で生きてきました。しかしたった一人の男性との出会いで、時には臨機応変に、時には無茶で無謀でバカげた行動も取ってきました。若い彼女たちだけではなく、私も変われたと思いますね」


シャークティも・・・


「わ、私も・・・ただ毎日を楽しく生きて、好きなことをやっていればそれで満足だったけど、ネギ君に会ってしっかりとした目標に向かってがんばることはすごいって気づいて、以前よりずっと部活も頑張ろうって思えるようになったし・・・」


まき絵も・・・


「わ、私も・・・本ばっかり読んで、いつもウジウジして臆病だったけど、す、好きな人が出来て・・・前よりも勇気を持てたと思います」


のどかも・・・


「・・・・私は・・・・生活そのものがもはや変わっちまったな・・・」


千雨も・・・

みな少し前の自分と比べて、自分たちがどう変わってきたのかを振り返る。


「信じられんくらい過酷な人生を送ってきたエヴァちゃんでも、今は恋して可愛いくなったからな~、昔は闇がどうとか最凶最悪の魔法使いとかだったらしいんやけど、ウチの知っとる今のエヴァちゃんは全然ちゃう」


そして改めて、きっかけさえあれば人は変われるのだと思うことができた。


「千草さんもそれぐらい好きな人を見つけてみい。そしたらその人とおる世界がすごく好きになると思うえ。そんな熱くなれることを見つけたほうが、復讐する人生よりすごく楽しくなると思うんよ」


一切の照れもなく、ほほ笑みながら言う木乃香に、もはや千草は完全に毒気が抜かれてしまった。


「・・・うう・・・・」


「「「「トドメだな(ですね)(でござるな)」」」」


するとどうだろう。復讐とか憎しみとか、世界の破壊だとか、何だか考えるのももう千草もバカらしくなってきた。

いや、そもそもそれほど元から深い憎しみではなかった。

前回の京都でのことも、きっかけは自分の過去の生い立ちから来たのかもしれないが、本来の目的は関西呪術協会を乗っ取り、自分の思い通りにすること。

それに失敗し、陰ながら協力してくれたユウサに失望されて痛い目を見た。

その腹いせに全てを恨む以外に自分を保つことはできなかったのだ。

しかし、目の前で自分よりも遥かに年下の子供に、ここまでバカらしいことを真剣な顔して言われていると、ムカつくを通り越して、何だか大人の自分がムキになっているのがバカみたいになった。

千草の恨みが絶対的に譲れない信念となっていたら、その憎しみは大きな力になっていたかもしれない。

しかしユウサの苦痛から自分を保つためだけに増大された人工的に培養された憎しみでは、これが限界。それは大きな力とはならなかった。


「はあ~~~~、もうええ・・・・好きにせえ・・・・あの方に捕まらないようウチもとっととトンずらするわ。ほら、もう先行ってええから、はよう消え」


瞳や表情から陰りが消え、本来の千草の表情がそこにあった。

前回に引き続き、完全に自分はやられてしまったのだと、あきれ果てた。しかし、どこかスッキリしたような気分にもなれた。


「フェイトは必ず説得してみせます。それでいいですか、焔さん?」


千草にうれしそうに頷き、今度は焔たちにネギは尋ねる。


「・・・・・・忘れるな。私の意思はあくまでフェイト様と共にある。もしフェイト様があなたの話を全て聞き、それでも納得しないのであれば、その時点で私たちは即座にここに居る全員を殺すつもりで攻撃する。フェイト様が話を聞く気が無くても同じだ。・・・いいな?」


「はい、僕の意見を考えてくれる・・・・・それだけで今は十分です」


こちらも一時休戦の目処がついた。

もはや戦う気が萎えてしまった以上、全ての決断をネギとフェイトに委ねることにした。

フェイトがネギを受け入れれば、焔たちも受け入れる。しかし拒否すれば再び戦う。

分かりやすい構図になった。


「しかし・・・あの方たちはどうするでしょう?」


「あの方たち?」


ネギと焔の会話に暦が口を挟んだ。


「はい、フェイト様だけでなく、完全なる世界の幹部はまだ居ます。一人はかつての大戦期を生き延びたデュナミス様。そしてもう一人は・・・・・・ッ!?」


暦が説明していた丁度その時、広場の空間が歪んだ。


「なんだッ!?」


「皆さん、気をつけてください! 何か・・・来ます!」


「いや、この影を使った移動術・・・まさか・・・」


その歪みに皆が警戒態勢となり即座に構える。

すると歪んだ空間から出てきたのは・・・・


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、・・・はあ・・・はあ・・・・」


刀で斬られたような手傷を負い、その傷口から流れる血を手で押さえている者が出現した。

焔たちはその姿を見て、ハッとなる。



「「「デュナミス様!?」」」



「「「「「「えっ、デュナミス!?」」」」」」



現れたのはデュナミス。ネギたちも驚いた顔をしている。

それは、デュナミスはこれまで魔術師のローブを纏ったありきたりな魔術師の姿だったのだが、今目の前に居るデュナミスは筋肉モリモリのガタイで妙な面を付けているので、すぐにデュナミスだとは分からなかった。

しかし焔たちが言うのであれば、この男は紛れもなくデュナミスなのだろう。

宮殿外で戦っていたはずのデュナミスが、消耗した状態で出現した。

妙な胸騒ぎを感じずには居られなかった。


「デュナミス様、大丈夫ですか!? 傷が・・・」


焔たちが慌ててデュナミスにかけよるが、デュナミスは激しく肩で息をし、片膝をついた状態で俯いたままである。

しかし徐々に呼吸が収まっていくと、俯いたままデュナミスが呟いた。


「・・・・・逃げろ・・・・」


「えっ? ・・・・デュナミス様?」


ハッキリとデュナミスは逃げろと言った。


「はあ、はあ・・・儀式は既に始まっている。あと数時間で全てが終わる・・・・・・だが・・・この世界は儀式を待たずに滅ぶやもしれん。死に方を選びたいのであれば今すぐ逃げろ」


「デュナミス様! き、傷が・・・それに一体どうされたのですか?」


「はあ、はあ・・・月詠は・・・・・・おそらくもう助からんだろう。私も転移魔法でここまで逃げるのが精一杯だった・・・もう、どこにも逃げられんだろうが・・・あえて言う・・・逃げよ」


「デュナミス様!?」


「ちょっ、こいつどうしたんだよ!?」


「外で何があったんだよ!?」


デュナミスのあまりにも奇妙な言動に、焔たちだけではなく皆が耐えきれずに問い詰めだした。

しかしデュナミスは明確なことはハッキリと言わず、ただ徐々に・・・


「ふふ・・ふふふふふふ・・・・・ワハハハハハハハハハハハハハハ!」


狂いだした。


「ワハハハハハハハ、何と言うことだ! 偽りでも幻想でもなくアレほどの力が現実に存在するとはな! これが現実か! ワハハハハハ、逃げろ逃げろ! ニゲ・・・ロ・・・ニゲ・・・ロ・・・」


「デュナミス様!?」


「どうしたアルか!?」


「こ、これは・・・デュナミスの傷口からどす黒い魔が溢れている!」


「ワハハハハハハハハ!! ニゲロ! モウ、ダレモタスカラン!!」


背筋が凍るような笑い。思わずゾクリと誰もが鳥肌を立てた。


「ちょっ、・・・・狂った・・・・」


「暴走している・・・」


そして暴走したのはデュナミスの心だけではない。


「ワハハハハハハハ! 終ワリダ! 滅ビダ! 何モカモガ無二ナル! 何ガ楽園ダ! アレコソ・・・・地獄!! 現実コソ地獄! 消エヨ! 一片ノ欠片モ残サズ消エサッテシマエ!」


精神が異常になったデュナミスは、ところ構わず無尽蔵に巨大召喚魔たちを召喚していく。


「ちょちょちょちょッ!? せっかく終わったと思ったのに、またァ!?」


「しかもさっきの奴らより何倍もデケえ!?」


「もう、このおっさんいきなりなんなのさァ!?」


もう何もかもがどうでもいい。

全てがやけになったかのように、デュナミスは暴走していた。


「この黒い瘴気は・・・・」


デュナミスの突然の変化に千草はハッとなる。

すると盛大に笑った。


「まさか・・・・・ふはははははははははははははははははははは、甘かったな、坊やたち!」


「なっ、どういうことです!?」


「何があったかは知らんが・・・・・どうやらあの方は・・・・ご立腹のようや」


「あの方?」


「確かに人は変われるかもしれん。せやけど・・・本能は変えられん・・・・過去に何があったとか、出会いがどうとか、そんなんちゃう。・・・あの方があの刀の真の力を解放し・・・・・・・更にアレをやったとしか考えられん・・・もう・・・この世は終わりや」


これから始まる地獄の姿を、千草だけが知っていたのだった。





そんな、地獄の闇が押し寄せているとは知らずに、決着をつけたいというただそれだけの理由で戦う二人が居た。




燃える拳、それは比喩ではない、実際に燃えているのだ。


「さて・・・」


心も、魂も、全てを纏った天元突破の炎はここに来て、更に大きく燃え盛る。

しかしシモンのその姿を、フェイトは脅威に思うどころか、むしろ美しいとすら感じていた。

天元突破の螺旋の炎と化したシモンが右拳を正面からフェイト目掛けて叩き込む。

策も何もない真っ向勝負だ。


「やはり一度くらいはしておかないとね・・・・」


対してフェイトは、避けようとも魔法で迎撃することもしない。


「興味があったよ・・・・・・力勝負」


戦い開始直後の一撃は互いの拳のぶつかり合い。力対力の正面衝突だった。

しかし軍配が上がったのはシモン。


「ッ!? こ・・・・これは・・・」


こうなることは半ば予想できただろう。


(押し切られる!?)


天元突破を纏ったシモンの馬力もパワーもスピードも、グレンラガンで言う螺旋メーターが限界点を遥かに超えた状態なのだ。


(腕力ならジャック・ラカン・・・速度ならネギ君が上・・・なら何故・・・これほど押し負ける!?)


しかしこの重さは・・・


(腕力じゃない・・・・速度じゃない・・・この・・・重さは・・・)


直接拳と拳を合わせてこそわかる事。


(これは・・・密度!)


ぶつかり合った右こぶしを無理やり押し切られ、フェイトは後方へと弾かれた。


「・・・・・!」


予想できた結果とはいえ、実際に体感してみるのとではわけが違う。フェイトの頬に冷や汗が流れた。

だが、何故かは分からない。

意味のないこの力比べ。

しかし敗れてなお、悔しがることもなく、フェイトの表情は穏やかで、むしろ少し笑っているようにも見えた。


「なるほど・・・・・・力比べでは分が悪いね・・・」


「どうした、フェイト。今日はよくしゃべるじゃないか」


シモンもいつものフェイトとどこか違うように感じた。

いつも無表情でこちらのことを見下すかのように軽やかにいなしていくフェイトではない。しかしそのことで妙な気を張り巡らしたりはしない。

罠や策などこの勝負には無意味だと、シモンも分かっていたからだ。


「力では敵いそうにないから・・・・・・こうさせてもらおう」


「ッ!?」


それは石柱。

ただの石柱ではない、視界に納まりきらぬほどの巨大な石柱だ。

しかしシモンは今更動じない。フェイトが何度も見せてきた技だ。


「天元突破モーショーグン・超銀河ギャラクシー斬り!!」


石柱をまるでチーズを切るかのように高速でスライスしていく。


「速いな・・・」


ブースターのついた刀の高速切りは、たちまち巨大な石柱を小さな破片へと変えた。


「今更こんな技きかねえ。何回同じ技をくらったと思ってる」


「勿論・・・思ってないよ」


「何?」


かつては押しつぶされそうになった巨大な魔法を難なく切る抜けたシモンだが、一々フェイトも驚きはしない。


「気づくのが遅いよ。今・・・少し大変なことになっているから」


「な、・・・・・・ッ!?」


シモンが切り刻んだ石柱の破片が砕け、シモンの周りに砂塵が舞う。

しかもそれはただの砂ではない。まるで砂が自分の意思を持っているかのようにシモンの周りを囲み始めた。


「砂?」


フェイトが間合いの外から呪文を詠唱したわけでもなく、ただ指を動かしただ。しかしそれだけで砂は集まり、流動し、密度を増していく。


「魔力で固めた特別な砂だ・・・砂は切れないだろ?」


巨大な石柱分ほどの大量の砂がシモンの右手に絡みつく。


「これは・・・ッ!?」


「そして魔力で練られた砂は僕の意思に従い・・・こんなこともできる」


「ッ!?」


絡まった砂が圧力を掛けてシモンの右腕を粉砕する。

思わず耳を塞がずにはいられないほど、凄惨な骨が砕けて潰される音が響いた。

絡みついた砂がそのまま崩れ、中からシモンの右腕だった部分がダラリと垂れ下がる。


「いきなりやってくれるじゃないか・・・・」


「強力な力を身につけた分、慎重さが無くなったね。まあ、それも君らしさなんだろうけど」


シモンは少し苦笑いを浮かべるものの、見た目ほどダメージを感じているようには見えない。


「俺らしさか・・・もっと存分に見せてやるさ」


シモンが右腕に螺旋の炎を凝縮させていく。


「復元?」


すると潰された右腕が見る見るうちに元に修復されていく。


「へえ・・・螺旋エネルギーで右腕を具現化させたか・・・やはりね・・・今の君は生身の肉体ではない・・・螺旋のエネルギーそのもの・・・つまり魂の塊」


修復した手を閉じたり開いたりして、確認しているシモンを、フェイトは冷静に分析した。


「ふっ、しかしただ戻っただけ。体力まで戻るわけでもない。君は右腕一本分の螺旋エネルギーを消費したんだ。その証拠に、少しオーラが少なくなっているよ?」


「ああ。ネギみたいに攻撃は受け流せないみたいだけどな・・・でも、たった一回で良く見ているじゃないか。まあ、俺にも良く分からないけど多分そうなんだろう・・・・な!」


会話を途中でさえぎるように、再びシモンは正面から向かっていく。


「天元突破ソルバーニア!!」


その手には輝きを更に増したソルバーニア。超速戦闘が可能なソルバーニアの能力、そして天元突破で向上したシモンのアビリティは、ただフェイトの首を狙って飛び掛る。

しかし・・・


「決着を付けるとは言ったが、・・・そう簡単には終わらないさ」


駆け抜けるシモンの足元目掛けて、フェイトが指を指す。その瞬間、シモンが蹴った宮殿の大理石の床が砂に変わり、シモンの足が落とし穴にはまったかのように沈んでしまった。


「!?」


「君が床に立っているように僕も立っている。足元から魔力を通して、床を粉々に砕いて砂へ変質させることぐらい造作もないよ」


今度は右腕だけではない。シモンの足元から這うように上ってくる砂がシモンを一気に包み込む。


「今度は体一つ分の螺旋エネルギーを砕かせてもらおうか」


完全にとらわれたシモン。

このままでは瞳や口まで隙間なく埋め尽くされた砂がフェイトの指先一つでシモンを完全にペシャンコに押しつぶすだろう。

しかし・・・


「うおおおおおおおおおおお!!」


「ほう・・・」


「だあああああああああ!」


砂からシモンの右足が出て、前へ踏み込んだ。

次の瞬間左足まで力ずくで飛び出して、両足が出た。


両足の次には手。次は腕。そして胴体と続き、最後にはとうとう、砂から力ずくで脱出した。

前へ前へと進もうとするシモンの馬力が、砂の拘束を無理やり破った。


「大したものだね」


「決着を付けるとは言ったが、・・・そう簡単には終われねえさ」


さっき言われたことのお返しだ。

無理やり砂から飛び出したシモンは、今度は床を一回強く蹴っただけで一気にフェイトへの間合いを詰める。


「ああ、そうだね。そうでなければ困るさ」


シモンはフェイトにソルバーニを突き刺した。

しかし突かれたフェイトは全身にヒビが入り、そのまま崩れ落ちた。


「石・・・・・・砂と石・・・これがお前の力か」


これは偽者だ。

突いたと思ったフェイトは石造の身代わり。恐らくシモンが砂に包まれた時に入れ替わったのだろう。

なら本物はどこだ?


(どこだ・・・・どこから来る)


シモンは前後左右上下、あらゆる可能性を考えて全方向に警戒心を向けて、どこから来ても迎撃できるように備える。

しかし・・・


「正解だけど、完全正解ではないね」


このフロアからの声ではない。まるで壁越しから聞こえてくるような声が上から聞こえた。

シモンが声のした上を向くと自分とクロニアが落下してきた巨大な天井の穴がある。恐らくフェイトは上へと移動したのだろう。

しかし次の瞬間、四方八方、シモンがいるフロアの床も壁も天井も全て砂となり、崩れた。


「なっ!?」


「・・・まずいですね・・・」


同じようにこのフロアに居たクロニアも危険を察知し、マジン・ガンを操縦してこのエリアから即座に退避する。

それは容易いことだった。何故ならこの空間内にある床・壁・天井の砂全てがシモンただ一人目掛けて襲い掛かるからだ。


「これはデカイ!?」


巨大な空間全てを多い尽くすほど大量の流砂はまるで津波のような勢いで一斉に襲い掛かり、あっという間にシモンを丸呑みしてしまう。

床が崩れて巨大な砂の塊はそのまま更に下のフロアに大きな音を響かせて落下する。

そして落下した砂の塊をフェイトは再び指先一つで再び変質させ、シモンを飲み込んだ砂山をあっという間に頑強な石に変えて閉じ込めてしまった。


「シモンッ!?」


完全に相手が一枚上だ。シモンが敗れてしまったと、思わずクロニアはシモンの名を叫んでしまった。

その声を聞きながら、フェイトは巨大な石の塊を見下ろしながら呟く。


「僕は地のアーウェルンクス。砂も石も僕にとっては能力の一つに過ぎないさ」


シモンの負けだ。クロニアはそう思った。

しかしどういうわけか、勝利をしたにもかかわらず、フェイトはまるで何かを待っているかのような表情だった。

そう、シモンが負けたと思っているのはクロニアだけ。

フェイトはこれほどの状況を作り出したにもかかわらず、実は微塵も自分の勝ちだなどとは思っていなかった。

何故なら・・・


「超銀河フルドリライズッ!!!!」


巨大な石の塊が内部から粉々に砕け散り、緑色に輝く強い光が燃え上がった。

シモンだ。

怒涛のフェイトの攻撃をも力ずくで乗り越えた。

だが、完全に無傷というわけではない。明らかに息は上がっている。だが、それでもシモンは笑った。余裕でもなんでもなく、ただうれしそうに笑った。


「俺は穴掘りシモンだ。天も地も掘りぬけることが最大の武器だ」


シモンは生きていた。無事であった。戦いもまだ終わらない。

しかしどういうことか、この状況に驚いているのはクロニアただ一人。


(ど、・・・どういうことなのですか・・・この二人・・・殺しあっているのではないのですか?)


クロニアには不可解に写ったであろう。

恐らく生まれたときから、このように体と体でぶつかり合い、お互いを理解するという生活にいなかったのだろう。


(始末するのなら早くすればいい・・・計画の時間はそれほど無いはず・・・にもかかわらず、このお二人は、早く終わらせたいようで終わらないことを期待し・・・相手に反発する一方で相手を認めて・・・何故・・・楽しそうに見えるのです? あなたたちの戦いは世界の消滅か存続かが賭けられているのではないのですか?)


クロニアには理解できぬこと。それは言葉では説明できない、シモンとフェイトにしか分からない思い。


「しかし地のアーウェルンクスとは、随分と大きな名前だな・・・」


「ふん、穴掘りシモン・・・か・・・今更だけど・・・・」


いがみ合いながらも互いを認めるが・・・


「やっぱりお前とは・・・」


「やはり君とは・・・」


馴れ合うことは無い。



「「相性がいい(悪い)!!」」



恐らく二人の間柄を言葉で説明するというのなら、きっとこういうのだろう。


「地の底まで再び落ちるがいい!」


「なめんじゃねえ! その地を掘りぬけるために、俺が居るんだよ!」


好敵手と。

だが・・・



「「ッ!?」」



「!?」



空気の読めない無粋な輩というものは、いつの時代でも世界でも居るものだ。

シモンとフェイト、そしてクロニアは同時に体を震わせて、全員同じように視線を外へ移した。

時間が経つにつれて濃密になる魔力溜りの渦が視界を遮り、宮殿の外に居る世界連合軍の戦いが見えない。

だが、三人は確かに感じた。


「・・・・・なんだ・・・・この・・・圧迫感は・・・・」


シモンが呟くと、フェイトとクロニアも同じように口を開いていく。


「まるで・・・世界が怯えているかのようだ」


フェイトたちの手によって、世界は滅びに向かっている。それは分かっている。

だが、この緊迫感はフェイトにもどういうことなのか分からない。


「世界が闇に・・・・・これは崩壊の前兆ということなのですか?」


外の景色が分からない。

ただでさえ濃密な魔力の渦が邪魔になっているというのに、今世界が暗闇に包まれていたからだ。


「こうゆうものなのか、フェイト?」


「さあ、そうなんじゃないかい? だが、どちらにせよ・・・・」


シモンもフェイトもクロニアも、これは世界崩壊の前兆なのかと感じていた。

しかし、実際はそうではない。

彼らが外の世界が薄暗く感じていたのは、天候の所為ではない、これは巨大な影の所為なのである。

天に浮かぶ巨大な墓守人の宮殿にも匹敵する巨大な生物の影が、世界を闇で覆っていたからだ。


だが・・・




「「とにかく、今はお前(君)の方が優先だ!」」




「・・・・えっ?」




二人は気にせず、再び戦い始めたのだった。
最終更新:2011年05月13日 21:45
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