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127-お前に負けたくないからだよ

第百二十七話 お前に負けたくないからだよ 投稿者:兄貴 投稿日:10/11/21-23:48 No.4418
シモンの記憶映像。


それは些細な手違いから放映されてしまったものだが、その手違いが人々に知られざる伝説を教えてしまった。


それがこの世界に住む人々の心にどれほど響いたのか、この光景を見れば一目瞭然である。


本来この世界にはあるはずのない伝説。


しかし伝説が現実になった時、世界の心は絶望の冷たい海から一気に燃え上がる赤いマグマのような熱気に包まれた。



「さあ、いくぜ! 受け継がれた新生グレンラガンのデビュー戦だ。しっかりやれよ、ダリ―!」



「ギミーこそね!」



ギミーとダリーの気合が螺旋波動となり、強い風を巻き起こす。グレンラガンの右手には巨大なギガドリル。その姿だけでも世界のワクワクが収まらない。


「あれは・・・一体・・・・」


「何じゃクルト、知らんのか? アレが一体何なのかをのう」


「シモンの・・・・大グレン団のシンボルじゃねえか!!」


現れたグレンラガンを知らないのは、クルト、そして意外なことにアムグを除く新生大グレン団のメンバーたちだ。


「私たちも知らないヨ。リーダーの仲間みたいだが・・・」


「あばばばば、すんごーい! 目玉が飛びでそー!」


当然パイオツウたちも知らない。シモンの記憶映像が放映されていた時、丁度チコ☆タンの空中喧嘩祭りに駆り出されていたゆえに、一番知らなくてはいけない奴らが知らなかった。

しかし同じ様に駆り出されていたが、この男は知っていた。


「ひは・・・・ひはははは・・・この状況は・・・まさか俺がグレンラガンと戦わなくちゃいけないとはな・・・・」


ユウサは笑いながらも小さく汗をかいた。


「ギミーとダリー・・・あの双子か・・・ひはっ、グラパールとかいうのじゃなく、グレンラガンでくるとはな・・・まあ、シモン君の記憶ではコアドリルと共に託されていたが・・・ひはははは、こりゃ~ね~だろ~?」


シモンの記憶映像と、火星に訪れた1000年前の螺旋族の顔神遺跡のラガン。それを入手した時、超鈴音が告げた未来には自分が関わっていると思っていた。

しかし、今この瞬間、別の予感がユウサの頭の中によぎった。


「あの超鈴音の未来でねじ曲がった物語・・・それを捻じ曲げたのは俺かと思っていたが・・・・まさか俺が大グレン団とグレンラガンブームの踏み台になるなんてことは・・・ね~よな~?」


引きつった笑みで、ありえなくもない可能性にユウサも自嘲した。


「映像は映像・・・伝説の真偽が分からなければ、シモン君の物語はこの世界では所詮は映画と同じ扱いだ。地球ではそれを避けるために、俺は顔神遺跡のラガンをパクッたんだが、まさか本物自らがこの世界にくるとは思わなかった。これでグレンラガンと大グレン団の伝説は全て真実だと、世界が知っちまった・・・」


そしてその予感の正体はここであきらかになる。T・鬼神(テラ・キシン)に構えるグレンラガン。

風穴開けられるのか、道を閉ざすか、これで明らかになるのだ。


「ふん・・・おもしれえ・・・未来はこの手で確かめてやる。来な!!」


ユウサと共にT・鬼神が猛る。でかい図体に魔力のオーラを纏わせ、完全に戦闘態勢に入る。

対するギミーとダリーはモニターに映るT・鬼神の大きさに少し呆れていた。

だが、二人の表情には、どこか余裕を感じた。


「へっ、デビュー戦にしてはとんでもない奴みたいだが、関係ないさ」


「うん。だって私たちは、もっと大きい・・・無限の銀河に風穴を開けた人たちを見て来たんだから!」


普通は誰もが臆するのだろう。いかにグレンラガンとはいえ、T・鬼神との大きさの差は100倍以上だ。


「無理を通して道理を蹴っ飛ばす。だが、これぐらいで無理なんて言ってたら、シモンさんにも大グレン団の皆にも、グレンラガンにも笑われちまう!」


「行こう、ギミー。私たちの気合と魂で、あのデカブツに風穴を開けよう!!」


グレンラガンは自信に満ちて威風堂々としている。コクピットのギミーとダリーも同じだ。

そう、負ける気がしないのだ。


「いくぜ、先手必勝だ!!」


「うん!」


グレンウイングが火を噴き、高速でグレンラガンが高度を増して、T・鬼神に向かっていく。


「へっ、侮るなよな。敵の予想を常に上回るのがグレンラガン。しかしシモン君の記憶映像から、テメエらのネタは全て俺には筒抜けなんだよ!」


T・鬼神は正面から迎え撃つ。冷静に対処すれば問題ない。ユウサはグレンラガンのすべてを知り尽くしているからだ。


「いけ、T・鬼神! 十指から繰り出す、十種の地獄! 十連地獄!!」


T・鬼神が向かってくるグレンラガンに向かって、10本の極太のレーザー光線を放つ。


「へっ、そんなクソったれビームなん・・・」


ビームに対して、ギミーはコクピットの中で軽く唇を舐めて操縦桿を持つ手に力を入れた。


「オラオラオラーーッ!そんなの当たらねえよ!」


「おおッ!」


グレンラガンはスピードを一切緩めることも無く、ビームの束をひらりとかわしていく。


「操縦テクニックなら、シモンさんを始めとする先輩たちにも負けないぜ!」


幼いころからグラパールを中心に、操縦テクニックを磨いていたギミーとダリーは、機体の性能さえ関係無ければ、我流と気合でガンメンを操縦する大グレン団の猛者たちを上回る技術を持っている。

なにより、螺旋王からの地上奪還後も、反政府軍のゲリラやテロリスト、さらにはアンチスパイラルとの戦争においては、銀河を舞台に無量対数の敵と戦ってなおも生き抜いたのだ。

いかに強烈な攻撃だろうと、指で数えられる程度の攻撃を回避するなど、朝飯前だった。


「ちい、ガキが・・・電撃地獄玉!!」


T・鬼神のレーザー砲を掻い潜ってくるグレンラガンに対して、ユウサはレーザーに紛れてユウサ自身の電撃攻撃を織り交ぜて放った。

極太レーザーばかりに気を取られているギミーは気づかず、電撃玉の接近を許してしまう。

だが・・・


「螺旋弾!」


「なにッ!?」


なんとグレンラガンが小銃を取りだして、電撃玉を撃ち抜いた。シモンが操縦していた時には付いていなかった装備だ。


「ギミー、油断しない!」


「流石、ダリー! 相変わらずの射撃の腕前だ!」


果敢に攻めるギミーに対してダリーが冷静にサポートする。そしてダリーはこの状況を分析する。


「このデカブツを動かしているのは、多分頭頂部に居るあの男よ。どういう原理かは分からないけど多分これがヨーコさんが以前言っていた魔法っていう奴なのかも」


「ってことは、あいつをぶっ飛ばせばいいんだな!」


やるべきことが決まれば、後は何をするかなど打ち合わせ必要もない。ドリル掲げて突き進むだけだ。


「ちい、アンチスパイラル戦以降にあの双子に合わせた装備も付けたのか? そいつは結構厄介だぜ」


グレンラガンを詳しいと言っても、裏を返せば恐ろしさも知っているということだ。

いかに操縦しているのはシモンではないとはいえ、この圧倒的有利な状況もほんの僅かな事で覆る。

それだけは絶対に避けねばならない。


「俺はまだまだ世界に必要とされているからな!!」


T・鬼神の規格外の張り手がグレンラガンの前に立ちはだかる。

張り手の大きさは世界が一瞬で暗くなるほど大きい。ユウサのお得意のネチネチした攻撃ではなく、珍しくパワーで一気に相手を圧倒するつもりだ。

一方で、グレンラガンは世界を覆う天井のような張り手に対してあの技で立ち向かう。


「出たァ!!」


「アレだァ!!」


その技は伝説を創り、新たな道を創り、天と地と明日を貫いたドリル。



「「必殺! ギガドリルブレイク!!」」



戦場が、そして世界が一気に興奮の渦に巻き込まれる。

敵は巨大。超巨大だ。

だが、グレンラガンが繰り出すギガドリルとて、色々な物が詰まっている。

ギガドリルを掲げて突っ込むグレンラガンを見て、期待するなというのが無理な話だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ひはああああああああああああ!!」


一歩も引く気が無い。互いが互いを打ち滅ぼそうとぶつかり合う。だが、質量差はやはりそのままパワー差につながる。


「ぬっ!?」


「ギミー、押されちゃダメ!」


T・鬼神の表皮は思ったよりも硬い。ドリルの先端が少し埋め込まれるが、それ以上先に進むことが出来ない。


「おい、見ろよ! グレンラガンが!?」


「う、うそだろ!?」


「そ、そんな!?」


「あの最強のギガドリルブレイクで掘り抜けない!?」


ギガドリルブレイクで貫けぬT・鬼神に人々が顔を青ざめさせる。この光景に笑みを浮かべたのはユウサだけだ。


「ひは・・・ひはははははは、シモン君みたいにはいかなかったな!」


そしてそのままT・鬼神の力を最大限に発揮させ、どんどんグレンラガンを押し潰そうとする。

多くの者たちが嘘だと叫びたかったが、現実は変わらず、大地を揺るがす巨大な音と共にT・鬼神の手のひらがグレンラガンごと大地を押し潰した。


「や、やべえ!?」


「グ、グレンラガンが!? 助けに行かねえと!」


「いかん!? クルト、僕に飛行船を貸してくれ。今すぐ助けに行かないと」


「ダ、ダメだ。一人で行って何が出来るんだ、タカミチ」


「このまま黙って見てなどいられない」


T・鬼神の圧倒的な体重を全て乗せ、ユウサは上からギガドリルで粘るグレンラガンをそのまま大地に押し潰した。

地の底へと押し潰されたグレンラガンの姿に世界が再び慌てふためく

だが、やはりまだ誰も分かっていない。


「・・・・ん?」


いち早く気づいたのはユウサ。大地に手を置くT・鬼神の腕に、とてつもない音が聞こえたからだ。


「こ、こいつは・・・・・・まさか!?」


そのまさかだ。T・鬼神の手の平が下から持ち上げられた。

その下にはギガドリルで未だにT・鬼神の手の平にドリルを埋め込んで突き進もうとしているグレンラガンが居た。

だが、何故大地と密着するようにしてT・鬼神が叩き潰したのに、グレンラガンの機体が無事なのか? 

簡単だ、大地の中に穴を掘ったからだ。

ギミーとダリーは瞬時に腕のギガドリルをT・鬼神に向けたまま、足のドリルで地面を掘ったのだ。


「ありがとよ、上から押し潰してくれて。お陰でドリルがだいぶめり込んだ」


そして今の衝撃でドリルの先端がT・鬼神の手の平に埋め込まれた。


「このまま一気に持ち上げるよ、ギミー!!」


グレンラガンは敗れてなどいない。

それどころか少しずつ少しずつだが、どんどんT・鬼神の手の平にドリルを埋め込ませている。その回転は止まるどころかさらに加速している。

そうだ、これだ。

困難であればあるほど何とかするのが、大グレン団のやり方であり、それを可能にするのがグレンラガンなのだと、世界が目を輝かせた。



「「はあああああああああああああああああああああああ!!」」



「ぐっ・・・この・・・ガキどもがァ!!」



そしてついに光り輝く緑色の光がT・鬼神の手の平に大きな穴を開けた。

世界の滅亡に現れた絶望の怪物に、僅かであるが穴を開けた。それはすなわち、絶望に穴を開けたと言っても過言ではない。


「へっ、どうだ! 俺たちを誰だと思っている!」


「・・・・ひはははは・・・・ガキが・・・」


どんなもんだとコクピットの中で胸を張るギミー。沸きあがる歓声。

一方でダリーはテンションに身を流されず、冷静に今の状況を分析していく。


「でも、ギミー。今見たとおり、パワーの差は大きいよ。それに穴を開けたと言ってもあの巨大な体のほんの一部。多分ピアスの穴を開けたぐらいにしか感じてないと思う」


「何ィ~? でも、それでもやるしかないんだろ! 俺たちがやらなきゃ誰がやるってんだ」


「分かってるよ。だから今、とっておきのアイデアを思いついたの」


「アイデア?」


コクピットの中でダリーはほほ笑み、無線機能を使う。無線の相手は・・・・



「・・・・・へっ?」



『こんにちは。私の名前はダリー。大グレン団のメンバーです』



「う・・・うむ・・・私は~、この魔道大グレンのクルーヨ。艦長は今リタイヤしているから、出られないが、一体何の用ネ?」



魔道大グレンのモニターに映し出された桃色の髪の可愛らしい少女。パイオツウもまさか自分たちに通信が来るとは思わず、少し焦った。


『そこに、シモンさんは・・・・・・いえ、あなたたちはシモンさんの仲間ですか?』


「シモン? ああ、リーダーの名前ネ。そうか、あなたたちリーダーの仲間カ。リーダーは今、あの巨大な建物の中で戦っている」


『リーダー!? シモンさんが? 分かりました。その言葉が聞ければ十分です! 私たちと一緒に戦いましょう!』


「・・・・・・へっ?」


大グレン団の旗を掲げている、魔道大グレンという艦に乗っていたクルーが、シモンをリーダーだと言った。それだけでダリーは十分だった。


(まったく、シモンさんは本当に驚かせてくれる。だから・・・今度は私たちの番。見ていてください、シモンさん!)


ダリーはこれから自分たちがやろうとしていることを想像し、武者震いが止まらない。


「さあ、ギミー! アレをやるよ!」


「ああ、そういうことだな!!」


ギミーもダリーが何を思いついたのか、言葉を交わさずに理解した。

そしてソレにまったく異議などなかった。

むしろ望むところだと頷いた。


「何をするつもりじゃ?」


テオドラが思わず呟いた。


「あの妙な機体が何かをしようとしています」


クルトも呟く。

突如妙な動きを始めたグレンラガン。下半身をドリルにし、そのまま魔道大グレンに向かって飛んで行った。


「ひはははは、・・・・何を・・・・・・・って、まさかァ!?」


ユウサは理解した。ソレが意味することを。


「ちょちょちょちょ・・・・来たよヨーーーッ!?」


突然ドリルで突っ込んでくるグレンラガンにビックリして魔道大グレンから悲鳴が飛び交う。

そしてグレンラガンは魔道大グレンの艦首に突き刺さり、その瞬間螺旋力を魔道大グレン全体に行き渡らせた。

ここまで来れば、この戦いの観戦者たちも理解できた。ソレが何を意味するのか。そして今から何が起こるのか。

そして自分たちの思った通り、魔道大グレンが変形していく。



「「「「「「「「「「あれは、・・・まさかァ!?」」」」」」」」」」



変形した魔道大グレンは突き刺さったグレンラガンを機体の中に取り込んだ。

取り込まれたグレンラガンは超弩級艦魔道大グレンの艦内中央部へと飛んだ。グレンラガンがたどり着いた先は巨大コクピット。



「すごい・・・相性はいいと思ってたけど・・・これ・・・ひょっとして・・・ガンメン?」



「おいおい、この世界に来た螺旋族はシモンさんだけなんだろ? それは違うって。でも、この際細かいことは気にしないで、さっさと動いてもらうぞ!」



あまりに機体の相性が良すぎると思ったダリーは、魔道大グレンがガンメンなのではないかと疑うが、ギミーはどうでも良いと笑い飛ばした。

操縦席に着いたグレンラガンの目の前には超巨大な螺旋メーターと大きな穴が開いていた。



「いくぜ、ギガドリル・スピンオン!!」



その大きな穴にギガドリルを捻じ込んだ。

いつもグレンラガンを起動させるときにコアドリルを捻じ込むのと同じ要領だ。

その瞬間、コクピット内に光が漏れ、巨大モニターが展開し、それと連動するように魔道大グレンの機体が人型に代わっていく。

もうそこに、世界が知っているグレンラガンはいない。

更に進化した超巨大グレンラガンが出現した。


「こ・・・・・・こんなことが・・・・」


タカミチは手の震えがとまらない。

大戦期からこれまで多くのものを見てきた彼だが、これほど胸を熱くさせるものなど滅多になかっただろう。

新たな右拳を天に掲げ、二人の新時代を担う螺旋族の声が、螺旋波動に乗って響き渡る。




「異なる銀河を飛び越えて!!」




ギミーが叫ぶ。




「新たな絆が歴史を変える!!」




ダリーが叫ぶ。




「「怒涛合体!! 魔道グレンラガァァァン!!」」




シモンたちにすらできなかった、異なる銀河を越えてのグレンラガンの合体。

もはやユウサが知っているシモンの記憶映像など何の意味もなさない。

過去に前例のない新時代の力が今ここに生まれたのだった。














「下がっていろ、小娘ども!!」


これほど巨大な剣捌きを生で見るのは初めてだ。

ガンメンクラスの巨大な化け物は見たことあるが、武器を持ち、二刀流で相手を切り刻むなど前代未聞。

さらにはそのような巨大な体で、速く、強く、洗練された戦士のような動きを見せるなど反則もいいところだ。

だが、ヴィラルは容赦しない。

敵の巨大召喚魔たちを、次々と両断していく。


「す・・・すごい・・・」


「あ、・・・・ありがとうございます!」


ヴィラルの背後で呆然と眺める裕奈たちに、ヴィラルはコクピットの中で小さく笑い、再び吠える。


「ふっ、人類の恐怖と畏怖の象徴であったこの俺が、礼を言われる世界があるとは宇宙も広い。見てみるものだな・・・まだ見ぬ明日とやらもなァ!!」


いかに巨大召喚魔たちが巨大で強大な力を持っていても、所詮は傀儡。

意思があり、気合があり、誇りを持った孤高の戦士、獣人ヴィラルとエンキドゥドゥ・改に敵う道理はない。



「全員まとめてぶっとばしてやるわよ!」



ヴィラルに負けじと、装着されている巨大な砲台から次々と螺旋の大砲を放ち、敵を撃ち滅ぼすのはヨーコ。



「ふん、所詮は烏合の衆。心も気合も魂も感じさせぬ者どもに、この俺様が後れを取ると思うなよ!!」



「そういうことよ! 大グレン団の心と気合と魂! 思い知らせてやるわ!」



まるで張り合うように、しかしその意気は見事に合い、ヴィラルとヨーコは先ほどまでネギや木乃香たちが押し潰されそうになった絶望を軽々と蹴り飛ばした。


「す、・・・すごい・・・ヨーコさんも・・・あのヴィラルっていう人も・・・」


「でも、ちょっと待って! あのヴィラルって、シモンさんの敵でしょ? カミナさんを殺した奴らの仲間でしょ?」


そうだ、ヴィラルはカミナを殺し、人類を地下に押し込めた螺旋王の部下の獣人だ。

大グレン団の前に何度も立ちはだかっていた、因縁の敵。

しかし、目の前のヴィラルは何だ?


「しかしあれは・・・記憶映像に映っていた・・・螺旋王の部下の獣人というよりまるで・・・」


「せや、シモンさんと同じ大グレン団そのものやん!」


そうだ、今のヴィラルはシモンとヨーコと同じ大グレン団そのものに見える。

シモンとヴィラルの間柄を知らぬ少女たちには分からぬことだった。


「ヨーコさん・・・・・・僕は・・・・・・」


ネギは少し俯きながら、自分たちの代わりに戦うヨーコ達を見て、顔を下ろす。


「僕は・・・・・・何を・・・」


ネギはショックだった。

ヨーコにほのかな想いを寄せていたネギは、学園祭での彼女との別れの際に自分が成長することを約束した。

だが、先ほど再会した時、ヨーコの自分を見たときの瞳はどうだった? 成長した自分を褒めている目か? それとも、がっかりしたような目か? 

その時を思い出そうとすると胸が痛くなる。自分の心が情けなくて仕方ない。

ネギは黙って自分の頬をさする。それは、ユウサと戦ったときに魔と憎しみに飲み込まれた自分を偽アスナがぶん殴った所だ。

道に迷った自分を、仮初のアスナの姿でありながら、彼女は自分を助けてくれた。

だが、本物の彼女は今ここにいない。

自分はその本物の彼女を救い出すために戦っていたのに、この様は何だ?


(でも・・・ここで僕が落ち込もうと・・・何も変わらない・・・そんな僕にヨーコさんは・・・もっとがっかりする・・・)


ならばどうする? このグルグルと渦巻く感情は?



「だああああああああああああああ!!!!」



全員が思わず驚いて振り返ると天に向かって叫ぶネギがいた。



(とにかく動くんだ。嫌な思いは全部吐き出して・・・)



すると、開き直ったのかスッキリとした表情を見せるネギがいた。とにかく今は前を見ろと決意した表情だ。



立て直します! 楓さんと美空さんの治療を木乃香さん!」



「は、はいな!」



「いいですか! 心強い援軍が来た以上、力技で無理やり突き進む必要は無くなりました! それにこの召喚魔たちを召喚しているデュナミスさん、どういうわけか造物主の掟を所持していません! つまり際限なく召喚されているこの化物たちの数にも限界があります!! これ程の召喚魔を広範囲に、しかもこれだけの数を召喚している以上、デュナミスさんの魔力は恐らくもう少しで底を尽くはずです! つまりこの場を切り抜けるのではなく、この場で粘り続ければ僕たちの勝利です!!」



デュナミスは外の戦いで造物主の掟を奪われているのだが、ネギたちはそのようなことは知らず、ネギも今気づいた。

だが、気づいた以上それを最大限に利用する。

仮にデュナミスが自分や木乃香以上の魔力を所持しているとしたら、彼の戦闘スタイルはもっと別のものになっているはずである。だからこそ、ネギはデュナミスの魔力容量が自分たちよりも少なく、それがもう少しで空になると睨んだ。

冷静に指揮を取るねぎの姿に、生徒たちも気持ちが湧き上がる。


「へっ、やってられねーなー、別に殴ったわけでも怒鳴ったわけでもねえのに、あの人が来た瞬間に、先生がよみがえるなんてな。私たちの苦労や心配は何だったんだか・・・」


千雨はヨーコが現われた瞬間、自力で立ち直ったネギを見て、思わず苦笑した。


「でも・・・あれがヨーコさん・・・私たちの目標ですから」


のどかも少し嫉妬しながらも、仕方ないなと思わず笑ってしまった。


「・・・この場の守護はシャークティ先生や新生大グレン団の方にお任せします・・・」


「刹那さん・・・あなたはどこに?」


刹那は刀を手に取り、ゆっくりと前へ進みながら、ほほ笑んだ。


「私にとっても目標の方が来てくださったのです。ならば・・・負けていられません」


今の自分をヨーコにも見てもらう。何故なら、刹那にとってもヨーコとは絶対に超えなければならない壁だからだ。


「僕も見てもらいます。あんな姿じゃない・・・今の僕を」


ネギも動く。

戦場で好き放題暴れまくるヨーコとヴィラルだけでなく、自分たちもここに居る、そしてこれが今の自分たちだと証明するために、再び戦場へと舞い戻る。



「なんや・・・おもろいことになっとるやないか」



そして・・・



「私たちも混ぜろよなーーーッ!!」



更なる仲間たちがここに駆けつけた。



「小太郎君!?」



「ネギ、とりあえずアーニャの嬢ちゃんは救ったで!」



「ネギーーーーーーーー!!」



「アーニャ!!」



無事だ。全員無事だ。

小太郎たちの格好から見て、何か激しい戦闘があったのではないかと感じられるが、それでも彼らが無事な姿で居てくれた。

それだけでもう満足だ。


「へっ、ネギぃ~、シモンの兄ちゃんおらんが、大グレン団に押されっぱなしやないかい」


「うん・・・気を抜いたら本当に一瞬で飲み込まれそうだよ」


「んで? 飲み込まれるんかい?」


「・・・まさか・・・」


ネギは小太郎に笑う。小太郎もネギに笑う。



「「まだまだこれから!!」」



そうだ、自分たちはまだ何も成し遂げては居ない。

このまま置いていかれるものかと、大グレン団に対抗意識を燃やす。



「雷天大装・2!!」



「超獣進化!!」



自分たちが何をなすのか、今こそ見せてやると、ネギと小太郎は共に飛んだ。












「障壁突破『石の槍』(ト・テイコス・ディエルクサストー ドリュ・ペトラス)!!」


「超銀河ソニックジャマー!!」


鋭い岩が大地から伸び、シモンを貫通させようとするが、シモンが放った音波攻撃により空間全体が揺らぎ、その振動がフェイトの攻撃を砕き、フェイト自身の表情を歪める。


「ぐっ・・・音・・・ッ!?」


あらゆる物理攻撃をも防ぐ強力な障壁も、防げないものはある。それが音。

シモンはその事を知って使ったのかは分からないが、超音波による耳鳴りがフェイトを襲い、今ならば攻撃を叩き込むチャンス。

シモンは両腕に濃密な螺旋力の炎を凝縮させ、一気に爆発させてフェイトの腹部に叩き込む。



「超銀河大宇宙大爆裂双拳破ァ!!!!」



銀河を揺るがす大爆拳が轟き、フェイトに叩き込まれる。

だが・・・


「甘いよ」


「なっ・・・がっッ!?」


拳はフェイトには届かない。その拳の軌道を見切り、フェイトはシモンの強烈な破壊力を込めたパンチを利用したカウンターパンチをシモンに叩き込む。


「ぐっ・・・なんて一撃だ・・・天元突破の炎が揺らいだ!?」


「ふん、自分のパンチで自滅したようだね。不思議だ。これだけ気持ちは高揚しているのに、頭の中は驚くほど冷静だ」


シモンは自分自身の破壊力を利用されたカウンターに天元突破の炎が乱され、ダメージで少し足が震えた。

それを回復するには数秒かかりそうだが、フェイトは数秒もまたない。

駆け出して右ストレートをシモンの顔面に放つ。


「そう簡単に・・・いかせるかァ!!」


対してシモンは避けられぬと判断し、真っ向から迎え撃つ。

先ほどのカウンターのお返しとばかりに、フェイトの右ストレートにタイミングを合わせて、かぶせるように左のパンチを放つ。


「クロスカウンター・・・!」


クロニアがぼそっと呟き、そしてシモンのクロスカウンターがフェイトを捉えたと確信した。

しかし、その瞬間フェイトは右ストレートの延ばしたひじを曲げて、シモンのカウンターパンチの軌道を逸らした。


「ッ!?」


「言っただろ・・・頭の中は驚くほど冷静だと」


フェイトはそのままがら空きになったシモンの顎目掛けて拳を打ち抜く。

何とカウンターに対するカウンター技を放った。


「ク・・・クリスクロス・・・これほどの魔力や火力の中でそれほどの高等技術まで・・・やはり火力はシモンのほうが上ですが、技はアーウェルンクスが上・・・」


シモンの破壊力を逆に利用した二発の攻撃は、紛れもなく無敵であるはずの天元突破モードのシモンにダメージを刻んでいる。


「シモン・・・僕は君のような敵は嫌いだ・・・でも、君という人間はそれほど嫌いじゃないよ」


「フェ・・・・イト・・・がはっ・・・ぐっ・・・」


ダメージがまだ回復していないシモンにフェイトが呟く。


「出会いが違えば・・・出会いがもし違えば・・・もっと・・・僕たちは互いを高められる関係になれたのかもしれない・・・」


「フェ・・・フェイ・・・・ッ!?」


その瞬間、フェイトの中段突きがシモンにめり込む。


「だが・・・僕たちの出会いも立場も、そして今も、もう変わらない。だから・・・これで終わ・・・ッ!?」


今度はシモンのアッパーがフェイトの顎を跳ね上げた。


「つっ・・・少しは回復したか」


「つっ・・・・・・しぶといね!」


「当たり前だ!」


互いが互いに向けて拳を繰り出す。シモンが拳でフェイトを殴れば、フェイトも引かずに殴り返す。


「流石だね。君を突き動かすもの、心、気合、魂。そんな曖昧なものでそこまで戦えるとはね」


シモンはここに至るまで、いくつもの戦闘を乗り越えてきた。

いかに天元突破の力を身に纏おうと、精神的な疲れはピークに達しているかもしれない。

連日の戦闘、ユウサ、アムグ、監獄、召喚魔、クロニア、マジン・ガン、そこで消費された力は簡単にあらわすことはできないだろう。

だがそれでもシモンは倒れない。それは今フェイトが言ったことと、さらに・・・



「曖昧なんかじゃない。それに・・・今は・・・それだけじゃない」



「それだけじゃない? ならば他に何があるんだい?」


シモンを支えているもの。それは・・・



「決まってるだろ? お前に負けたくないからだよ」



「・・・・なるほどね!」



二人の拳は同時に互いの顔面を捉えた。



「フェイト、今更言っても仕方の無いことだ! 俺たちは京都で敵として出会った。お前の大義と俺の信念は相容れないと互いに知ってしまった。確かにお前の言うとおりそんなもの全てをチャラに出来たら・・・きっと俺たちはいい相棒になれたかもしれない・・・でも、・・・そんなもしもに惑わされない! だから俺は負けられないんだよ!」



「それは僕も同じだよ、シモン! 負けられないことは同じ! 何故なら大義をなすことこそが僕の存在理由だからだ!」


シモンもフェイトも同じ。ただ、負けられない。

世界を書けた戦いの中で二人を支えているのは、負けたくないという意思だった。
最終更新:2011年05月13日 21:48
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