128-俺たちに限界なんてない

第百二十八話 俺たちに限界なんてない 投稿者:兄貴 投稿日:11/07/31-14:46 No.4449
世界崩壊が目前とした異界の地。


滅亡の淵に現れたのは、光の渦を纏った超絶弩級ガンメン。



「異なる銀河を飛び越えて!!」




ギミーが叫ぶ。




「新たな絆が歴史を変える!!」




ダリーが叫ぶ。




「「怒涛合体!! 魔道大グレンラガァァァン!!」」



終わりを迎える世界に現れたのは、新時代を担う希望の渦だった。



「グレン・・・ラガン・・・すごい・・・凄すぎる」



魔法使いとは戦いにおいて砲台の役割を果たす。即ち火力が全てだ。



砲台の強度と中に込める火力の量で魔法の威力は決まる。



鍛え上げれば辺り一面を更地に変えられるほどの可能性も秘めている。



だが、忘れてはいけないのは、魔法使いも人間だということだ。限度というものは存在する。



だが、今のこの状況を見れば、限界だとか限度だとか考えるのもアホらしくなる。



どんなに鍛え上げ、超人だとか最強クラスだとか騒がれても、コレを前にすれば自分も小さな人間に過ぎないと思わずにはいられない。



「こんなことが・・・・」



魔法の世界では最強クラスと騒がれていたタカミチも、タバコをポロッと口から落として呆れていた。


これまで世界を舞台に伝説とまで言われる戦争を潜り抜けたタカミチですら、こんなとてつもない変型合体を見せられては呆れるしかなかった。


自分たちの助っ人に現われたグレンラガンが、全長何千メートルはあろうかという巨大戦艦と合体し、一瞬にして人型の巨大ガンメンに変わった。


グレンラガンよりも更に猛々しい顔つきの、世界の絶対的希望、その名は魔道大グレンラガン。



「敵わぬのう・・・これが・・・これが無理も道理もブチ抜く力なのじゃな」



テオドラは震えている。いや、テオドラだけではない。今日この場に集った者たちは皆が震えている。


「ちくしょう・・・すげえ!! すげえぞ、コンチクショウ!!」


「もう何でもかんでも持っていきやがれ! 許す! 大グレン団め、何でもやりやがれ!」


「俺たちゃ、地獄の底だろうとついてくぜ! むしろ本望だ!」


体がではない。


震えているのは心だ。


理屈ではない。


超弩級の気合と魂の覚醒に誰もが気持ちを大きく揺さぶられたのだった。



「さあ、皆さん。今すぐ魔道大グレンラガンの後方に下がってくれないですか!」



その時、魔道大グレンラガンからギミーの通信が入った。



「何故です? 今こそ全軍突撃ではないのですか?」



尋ねたのはクルトだ。それに続いてリカードやセラスも続く。


「おいおい、こんなスゲーもんを前にして今更下がるのかよ?」


「皆興奮しすぎて気持ちが前に行ってるわ。それなのに下がれというの?」


こんな凄い戦いは一生のうちにもう二度とないかもしれない。少しでも傍に居たいと興奮した全兵士たちも頷く。



「いいんですか? 今から俺たちは地平どころか、大陸・・・いや、星の形が変わるほどの戦いをするんですよ? 巻き込まれても知らないですよ?」



「「「「「「「「「「「全艦隊後方で待機――――ッ!!!!」」」」」」」」」」



今度はギミーが冗談交じりで通信すると、大グレン団の台詞だけに誰もが冗談に聞こえず、全軍が顔を青褪めて急いで後方へ退避していく。



「ふふ、それにしてもこの世界の人たちノリがいいね。シモンさんが気に入るのも分かるね」



「そうだな、ダリー。そんじゃあ、俺たちもシモンさんの後輩として・・・意思を受け継ぐものとして!」



「うん、世界の期待に応えようね!」



味方が全員退避したのを確認すると、魔道大グレンラガンが首をコキコキと動かして軽いストレッチを始めた。



「俺の・・・」



「私たちの!」



ついに動き出す。



「「世界の命の力を見せてやる!!」」



この超弩級の人型ガンメンは何を繰り出すのかと世界が見守る中、魔道大グレンラガンは体中の砲門を開け、全てをT(テラ)鬼神に向けて光の槍を放つ。



「「くらえ! マジック・ボルテックスキャノンマキシマム!!!!」」



ギガドリルマキシマムのビーム版。



「ひははは・・・もう・・・・避けるのもアホらしい・・・」



圧倒的力を前にした者は、抗う心すらへし折られてしまう。


何をやっても逆効果になってしまうような気がしたユウサは、もはやT・鬼神を動かす気にもなれず、鬼神の頭の上で腕を組んで仁王立ちしたままだった。


魔道大グレンラガンから放たれる幾多の極太ビームは、T・鬼神の肉体を容赦なく削り取り、直径何百メートルもの風穴を開けた。


もはやうろたえる気にもならない。聞こえてくる連合艦隊の大歓声に苦笑を浮かべながらユウサは天を仰いだ。



「禁術・・・妖刀ひな・・・鬼神・・・ここまではっちゃけたが、それでも俺は新たな時代の流れに飲み込まれるか・・・抗いようの無い時代の流れは、とうとう傍観気取りのこの俺様まで飲み込むか・・・まあ、少し前に出すぎたが、こんな展開は思ってもみなかった」



幾多のレーザービームが鬼神を貫き、ユウサの直ぐ傍を通過していく。



「地獄を知らねえガキどもが・・・」



だが今のユウサはまるで当たっても当たらなくてももはやどうでもいいという、投げやりに見えた。



「ひはははははははははははは、ジェノム、いつまでも時代の王座にふんぞり返っていると、テメエも飲み込まれるぜ! 覚悟しとくんだな!」



その時、ようやくユウサはT・鬼神を前へと走らせた。



「さあ、たった一度の人生だ! どんな時でも派手にやらせてもらおうか! コケるなら、派手にいくぜ!」



振りかぶるは巨大な拳。



「絶望の淵に現れた希望? 魂? 絆? まったくのコケだ! 悍ましいぜ! んなもんはお断りだァ!! んなもん現実の前にはカス同然だ! そんな曖昧なもので、この俺を飲み込めるかよ! ひはははははは!」



放つのは極大の術。


まるでカタストロフィーだ。


だが・・・



「無駄だ!」



ギミーは叫ぶ。



「そして覚えておけよ、くそったれ野郎!! 確かに、絆とか魂とか気合だとか、そんなもんは現実の前には嘘くさい存在と思うときがあるかもしれない! でも・・・」



「でも、なんだァ!?」



「でも・・・この世には・・・・本物だって存在する!! それが俺たちなんだよォ!!」




魔道大グレンラガンは全ての攻撃を弾き返す。



「あばばば・・・凄い・・・ビクともしないよ・・・」



「へへ・・・たまんねえな・・・こんなスゲーもんの中に居れるなんてな・・・」



「もふふ、私たちも出来る限りの協力をするネ」



身に纏う螺旋シールドと魔法障壁の融合により生み出された防御力は、何者にも貫くことなどできなかった。


だが、結果など見なくても、そんなことは誰にでも分かっていることだった。


魔道大グレンラガンの性能ではない。


理屈抜きに、魔道大グレンラガンという存在がやられるなど、誰一人思っていなかった。


まだ何も知らぬ子供が。その子供の手をつなぐ母親が。


大人になって心が冷めてしまった人たち。


全世界同時中継されている巨大スクリーンを、誰もが目を輝かせてみている。


ギミーとダリーには、そんな一人一人の顔や目まで見ることはできない。


しかし、自分たちが何を期待されているかは、当然感じ取っていた。



「いくぜ! 天と地と、明日へ続く道を創る力!」



「これが私たちの、時空列断!」



拳を振りかぶる魔道大グレンラガン。


明るく輝く螺旋と魔力の融合した渦が拳に蓄積される。



「明日へと……」



ギミーが叫ぶ。



「ふっ飛べェ!!」



ダリーが叫ぶ。



「「マジカルバーストスピニング!!」」



二人が叫ぶ。



「「「「「「「「「「パァァァァァァァァァァンチッッッ!!」」」」」」」」」」



「「「「パーーーーンチッ!」」」」



「「「「パンチだァァァ!!」」」」



そして、乗組員たちも・・・そしてテオドラやリカードたちどころか、映像を見ている世界中の者たちが至る所で、魔道大グレンラガンと一緒にパンチの動作をしながら叫んでいた。



「ひははははって、笑えねえよ!?」



拳に乗せた螺旋型の渦に巻き込まれ、T・鬼神が遥か彼方へと吹き飛ばされる。



飛ばされる速度も高速スピード。



あまりの速さにユウサも周りの景色が分からず飛ばされていた。



「な、なんちゅう威力!?」



そして飛ばされている先に何かが目に映る。



「くっ、止まらねえ!? どこまでぶっ飛ばされれば・・・ん? な、なんだアリャ!? 山・・・?」



それは巨大な山より大きな存在。



気づいたところで成すすべないT・鬼神はそのまま巨大な何かに衝突した。



「な・・・なにっ!?」



巨大な何かにぶつかって、ようやく停止したT・鬼神の頭上からユウサは驚いた。


何とぶつかったのは、自分たちを殴り飛ばした魔道大グレンラガンだったからだ。



「バカな! あれだけ高速で飛ばされたのに、先回りされていたってことかい? ひはははははは! その図体でスピードも弩級かよ!」



ユウサは一人呆れて笑った。


だが、その言葉に対してギミーは否定する。



「違う。俺たちはお前を殴り飛ばしてからここを一歩も動いていない」



「・・・なに?」



「殴り飛ばされたお前が飛んできて俺たちにぶつかったんだ」



「?」



しばらくユウサの思考は停止した。



「なぜ・・・グレンラガンが殴り飛ばした反対方向からあの鬼が?」



クルトたちは唇を震わせながら疑問を口にする。だが、彼らは答えを分かっている。


しかしそれがあまりにもありえないことゆえに、誰もが認めたくなかった。



「クルト・・・やっぱりこれは・・・」



「言うな、タカミチ! それを認めてしまえば、何もかもがアホらしくなる!」



震える連合軍。


ユウサもようやく気付いた。




「まさか・・・まさか! 魔法世界一周!?」




答えは簡単。殴り飛ばされて世界一周したユウサが元の場所に戻ってきただけのこと。




「「「「「「「「「「って、んなアホなああああああああああああああああああああああ!!??」」」」」」」」」




世界同時に放たれる言葉。しかし、グレンラガンならあり得るかもしれない。


っていうか、むしろ納得? そんな様子で互いに見合っては呆れて笑い合う魔法世界の住民たち。


もはや世界は完全に魔道大グレンラガンのペースに染まっていた。



「って、明日へ続くってそういうことか!? 魔法世界の日が沈んで上る光景を世界一周で見せることか? どこの番長だ!?」



ユウサももはやツッコみ以外に抵抗できるものは無かった。



「どこの番長? 違うぜ。俺たちは、大グレン団だ!!!!」



ギミーの口から洩れたその言葉。


大グレン団。


その名がどれだけうれしいことか。


魔法世界の者たちにとって、そのギミーが荒々しく答えたその名前が、うれしくて仕方なかった。



「ひはははは・・・そりゃー、そうだったな」



この状況に自身でも満足したギミーとダリーは、みるみると湧き上がる螺旋の本能に突き動かされ、ついにアレをやる。



「さあ、遊びもこれまでだ! そろそろいくぞ、ダリー!」



「うん、最後の決め技は、やっぱりアレだよね!」



さあ、敵も気は済んだだろう。そろそろ終わらせるとしよう。



「まだまだ終わらせるんじゃねえよ。楽しいところだろうがよ!」



「終わらせるさ。グレンラガンのドリルが現れた時、それが終わりと新たなる道を創りだす瞬間なんだ!」



魔道大グレンラガンが右手を天に掲げると、右手が渦を巻いて回転し、巨大なエネルギードリルを生み出した。


アレだ。ギガドリルブレイクだ。


しかもただのギガドリルブレイクではない。


世界が知るギガドリルブレイクを遥かに凌駕した超弩級のドリル。


それをぶつけようというのだ。


世界が揺れる。


心が揺れる。


早く見せてくれと興奮が誰もが収まらない。



「喰らえええええええええええええッ!!」



ギミーの雄たけびと共に魔道大グレンラガンはドリル掲げて突っ込んだ。




「「超魔道ギガドリルブレイクゥゥゥゥゥ!!!!」」




その瞬間、突風までもが世界を一周した。


その渦巻くドリルの巻き起こす風が、魔道大グレンラガンの後方に控えているはずの連合艦隊の後方から吹かれた。



「な、何で我々の後ろから風が!?」



「気合・・・じゃないかな?」



「やめろタカミチ! 殴った相手どころか、技の波動まで世界一周するなんて理不尽な力は考えたくない!?」



理論も道理も無視した力。


星も銀河も飲み込む力が、魔法世界に吹き荒れた瞬間だった。



「ひはははは、世界をオモチャにする野郎と言われたことがあるが、笑わせんな。お前らなんか、宇宙をオモチャにしてんだろうが!」



ユウサは星を一周するほどの技の威力を正面から受け止めた。


だが、結果は誰の目にも明らか。


輝く光の渦の中で、ユウサは口元に笑みを浮かべる。



「ひはははは、俺もこれまでか・・・まあ、そこそこ楽しい人生だったな・・・だが・・・」




T・鬼神は、いとも簡単に巨大な風穴が開けられた。


いや、風穴だけではすまない。


そう、圧倒的な力がT・鬼神という強大な力を跡形もなく粉微塵にした。


閃光に包まれる戦場。その、存在そのものまでもが量子分解される渦の中で、ユウサは呟く。



「すまないね・・・超鈴音・・・どうやらこの世界はお前の未来へとは・・・ひは・・・ひはははははははははははははは!!!! 見て見たかったな、地球の未来を!!!!」



ユウサが消滅するまでの刹那の時。


黒い影が、ユウサを掴みとった。



















「終わった・・・・・・・」



まるで嵐の後の静けさの中で、ギミーの口から言葉が漏れた。


先ほどまでとは打って変わって、今度は誰もが制止し、一瞬の沈黙が流れた。


世界規模のハリケーンが通り抜けたオスティア上空。


いつまで続くのかと思われた沈黙を破ったのはギミーだった。



「見てくれたか? ・・・先輩たち・・・」



魔道大グレンラガンのドリルを天に掲げ、ギミーはコクピットの中で涙を流した。



「これが・・・先輩たちの意思を・・・魂を受け継いだ・・・新時代のドリルだ!」



シモンから、大グレン団から、偉大なる先人たちから受け継いできたドリル。


その力を存分に発揮することができたギミーは、改めて心に誓う。




「俺たちは、先輩たちの創った道を行く。スパイラルネメシスだって、止めてみせる。だから・・・だから!」




今日の日の勝利を、先人たちに捧げる。




「ありがとう、そして安らかに眠ってください!」




そして、これからも戦い続けることを、ギミーは誓った。




「あとは、俺たちが引き受けます!」




天に誓ったギミー。


そして今度は、世界に叫ぶ。


今なお、叫びたいのを必死にこらえている世界中に向かって、高らかに宣言した。



「俺たちの・・・・・・勝ちだァ!」



ギミーにとってもダリーにとっても、この世界のことは正直何もわかっていない。


ただ、この世界はグレンラガンを知っている。


グレンラガンにこの世界の人たちは、目を輝かせた。それだけだった。


だが、それで十分だった。



「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」」」」」」



世界が叫んだ。


つい数分前までは絶望に包まれていた世界が、興奮の喝采で星を揺らしている。


彼らの瞳に映るのはグレンラガン。


そしてそのグレンラガンを操るのは、シモンではない。


ギミーとダリー。



「はは、シモンさんも・・・こんな気分だったのかな」



「うん、きっとそうだよ」



若き二人の螺旋戦士も、この歓声を聞いて、ようやく偉大な先人たちに少しは追いついたかもしれないなと、ハニカミながらグレンラガンの指を天に向かって力強く突き刺したのだった。



「勝った・・・生きている・・・我々は・・・生き残ったのか?」



戦艦のブリッジで呆然とするクルト。その肩にタカミチが手を置いた。



「そうだ、僕たちは勝った!」



勝った喜び、生きている喜びが、連合艦隊の戦士たちにも波及して、全員がハイタッチをしたり、抱き合って雄たけびを上げている。



「ったくよ~、敵わねえな~」



「やれやれ、結局、妾らもまた生き残ったの~」



「ふふふ、最後まで希望を捨ててはいけないということね」



世界の首脳、リカード、テオドラ、セラスも強烈なプレッシャーから解放され、ホッと胸をなで下ろした。


当然、魔道大グレンラガンの中にいる各国の戦士や囚人たち、怪我人も含めて、とてもむさくるしい歓声が聞こえてくる。



「やっほーい! 見たかってんんだよ! くそ鬼!」



「ふっ、完全なる世界であろうと、狂い笑いであろうと、この世界を好き勝手にはさせんさ!」



「だーはっはっはっは! 魔法世界(ムンドゥス・マギクス)とグレンラガンは最強だ! 永久に不滅だぜ!」



結局最後を決めたのはグレンラガン。


しかし、彼らも戦っていた。


体を張って、命と魂をかけて戦っていた。


だからこそ、この勝利を心の底から全員が誇っていたのだった。





しかし、その時だった



「ムッ、・・・ちょっ、アレを見るネ!」



スピーカーから、突然パイオツゥの声が聞こえた。


「なんだ?」


その声を聞いて、ギミーはコクピットのモニターで前方をアップして映す。

するとそこには・・・


「あれは・・・げっ!」


ギミーは、顔を青ざめさせた。


「い、いやァ!」


ダリーが目をそむけて叫んだ。


「な、アレは・・・一体なんだ!」


連合軍の歓声が、どよめきに変わった。

それは前方に映し出されている奇妙な光景が原因だった。


「うっ・・・あれは・・・狂い笑い?」


口元を抑えながら、目を細めるタカミチ。


そう、ユウサだ。


T・鬼神というデカブツは消えた。


だが、ユウサは生きている。


しかも・・・


「ひははは・・・こんな無様な姿を世界に晒すとは・・・だが・・・なぜ・・・なぜ俺を生かした!?」


ユウサは、首だけだった。


「な、生首で・・・生きておる・・・どういう構造なんじゃ?」


スクリーンに映し出されたユウサは、首だけで生きていた。

しかもただ生きているのではない。


「いや・・・あの鬼もそうだが・・・まず気になんのは・・・」


首だけになったユウサの髪の毛を片手で掴む、謎の人影が傍に居た。


「だ、誰だ! 誰なんだよアイツは! あの化け物の仲間か?」


ユウサが首だけになっても生きているのも驚いたが、真に驚いたのは、ユウサを助けた謎の人物。

ギミーも、いつでも飛び出せるように操縦桿を握る手に力を入れる。

すると・・・


「ど・・・どうなって・・・やがる・・・なぜ・・・」


虫の息だが、誰かが呟いた。


「た、隊長!? 寝てなくちゃダメっすよ!」


深刻なダメージを受けて重体だったチコ☆タンが目を覚まし、スクリーンに映るユウサをつかんでいる人物を見て呟いた。


「おい、あんた何か知ってるのか?」


ギミーが通信回線を使って、チコ☆タンに尋ねる。


ギミーの開いた通信回線は、連合艦隊にも聞こえるようになっている。


誰もがわからぬ疑問。


突如現れた人影は何者なのか? なぜ、ユウサのようなものを助けたのか? その謎を解く言葉を、チコタンが呟いた。




「・・・・・・・・・・・・社長・・・」




「「「「「「「「「「社長!!??」」」」」」」」」」




それは、意外な人物だった。


「な、・・・それは本当ですか、チコ☆タン!」


「あれが、黒い猟犬(カニス・ニゲル)の社長じゃと!?」


「どういうこと!? これまでその素性も素顔も存在すべてが謎に包まれていた者が、何故今になって!?」


「首都の調査隊が、シルチス亜大陸に何度も調査に行っても空振りだったが・・・まさか今になって現れやがるとは・・・」


動揺を見せたのは、クルトを初めとする世界の首脳たちだ。


「おいおい、結局誰なんだよ?」


「さあ・・・私たちにはさっぱりだよ」


ギミーとダリーは首を傾げているだけで、皆が何に驚いているのかは分からないが、普通ではない何かが起こっていることだけは分かった。


「げはははは・・・これは・・・意外な展開じゃな・・・」


「アムグ!? 生きてたのかい、ジジイ!」


目を丸くする獣人四天王たちのところへ、アムグがヨタヨタと歩きながら、スクリーンに映る光景を見上げる。


「チコ☆タンよ・・・あの黒ずくめの人影が・・・貴様らの社長じゃと?」


アムグがチコ☆タンに尋ねた。

そう、現れた人影は、全身全てが黒で覆われ、顔も黒い目だし帽を被っている、とても珍妙な姿をしていた。

そんな姿で墓守り人の宮殿前の空にプカプカと浮き、首だけのユウサを抱えている。

そのような不気味な存在が、巨大組織のトップなど冗談にしか思えなかった。

だが、チコ☆タンは頷いた。


「ああ・・・間違いねえ。俺を含めた隊長以上の幹部は、あの姿の社長と会ったことがある・・・」


チコ☆タンの言葉に、同じ組織のパイオツウたちはもう一度モニターを見る。


「では隊長・・・あれが・・・私たちの組織の社長。・・・コードネームは・・・・」


ただ静かに、その名だけが世界に知れ渡ったのだった。
















「堀田社長・・・・・・」













魔法世界の空域で何かが起こった。


その女は魔力の渦で覆われている墓守り人の宮殿内部から外を見る。



「この気配・・・・・・・一つの温かく巨大なエネルギーに邪悪な魔が飲み込まれ・・・しかし・・・」



しかし魔力の渦の密度が濃すぎて外で何が起こっているか分からないままだった。


「また新たに何かが現れた・・・・一体外はどうなっているというのですか?」


本来なら、すぐにでも移動して事実確認をしたいところだった。


だが、目の前のことを放り出して、彼女はその場から離れられなかった。



「本当は確認に行きたいところですが・・・・・・それでも私は・・・・」



見届けなければならない。


彼女はそのような表情で、ただジッと目の前で未だに続く二人の喧嘩から目を離さずに、その場にとどまった。



「アーウェルンクス・・・・そして・・・・・・・・・・シモン」



もう一体、どれぐらい二人は戦っているのだろうか。


恐らく実質的な時間はそれほど経っていないのかもしれない。


ただ、それでももういいではないかと彼女が思っても、二人はまだまだだとばかりに己の傷ついた体に鞭打って、互いを傷つけあっていた。



「フェイトォ!!!!」



ただその身に、想いを、魂を、気合を、そして絆を全てねじ込んだ天元突破の螺旋の炎を身に纏うシモン。




「シモンッ!!!!」




己自身を人形と皮肉りながらも、どんな人形にも人間にも決して出来ないような鋼の意思で、シモンの全てに全身全霊を持って応えるフェイト。



「見届けましょう・・・最後まで」



気づいたらシモンとフェイトの立会人のような立ち位置で見届けるクロニアという名の女。


この場はこの三人以外の誰にも、いや、シモンとフェイトの戦い以外は全てが入り込めない空間と化していた。


墓守り人の宮殿内部の各エリアで起きている過酷な戦い。


世界崩壊の兆候。


そして墓守り人の宮殿外の空域で起きている戦争。


だが、それらに目もくれず、ただシモンとフェイトは己の目の前に居る人物だけを見ていた。



「天元突破バーストスピニング!!!!」



「千刃黒耀剣!!!!」



互いにまともに受ければ完全消滅してもおかしくないほどの威力を纏った技を次々と繰り出している。


だが、それほどの技を出しながらも、互いの決め手に欠けていた。



「ちっ、いい加減に――」



「――往生することを知らないのかい?」



二人の技が交錯しあい、衝撃波が弾け飛んだ。


だが、両者の技が相殺した寸前に二人は既に動いていた。


衝撃波の中を突き進み、握りしめた拳で互いを殴る。


その繰り返し・・・


だがそれでも二人は飽くことなく戦い、立会人のクロニアは決着の時までその場で見届けていたのだった。



(外で何かが起こっている。焔たちは・・・ネギ君たちはどうなっている? 儀式は? だが、今はそんなところまで気を回せない)



フェイトもクロニア同様に異変を感じ取った。だが、それを確かめることはできない。


気づけば目前と迫るシモンのドリルが、フェイトを阻む。



(一瞬でも・・・シモンから目をそらせばすぐに穴あきだ)



紙一重、皮一枚でシモンのドリルを躱すフェイト。



(まったく、派手な技だけでなく、一撃一撃が重すぎる・・・さらにかつての大グレン団たちの魂を一身に受け、その力に己を見失うことない異常なまでの精神力・・・シモン・・・)



一見するとこの戦い、両者一歩も譲らぬ攻防に見える。


だが、戦っている本人にとっては違う。


少なくともフェイトはそう思っていなかった。



(こういう状況にも慣れているようだね。まったく・・・こうやって君はいつもいつも乗り越えてきたんだな・・・・自分の・・・)



どれだけの魔法を繰り出しても堪えることのないシモンに対し、天元突破という人智を超えた力と対峙しているうちに、徐々にフェイトの体に鈍い痛みが押し寄せてくる。


そして、それはほんの僅かな揺らぎだった。


今までシモンたちと戦っていた者は、一気に大炎と化したシモンの勢いにそのまま飲み込まれて敗れていった。


だが、フェイトだけは正面から相対しつつも、鋼のような冷静な心と、柔軟な技と経験で対処していっていた。


しかしこの瞬間、他の状況に一瞬だけ気を取られたこと、身に感じるダメージ、そしてシモンを改めて認めるという心のゆるみがフェイトに生じた。



「自分の・・・限界を・・・」



それは正に刹那の出来事だった。


隙とは決して言い難い僅かなゆるみ。



「オアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」



「ッ!!??」



しかしシモンはその一瞬を、決して逃しはしなかった。



「これは!?」



天元突破モードにより大グレン団の仲間たちがかつて使ったガンメンの技や武器を具現化できるシモン。


そしてこの状況で、シモンがフェイトに対して使った武器は、大グレン団のシンボルマークにも映っている、グレンブーメランだった。



「シモ・・・ン」



手ごたえあり。



(しまった・・・こんなことで・・・・)



クロニアの目に映るのは、シモンの天元突破グレンブーメランにより肩から斜め一直線に深々と斬られたフェイトの姿だった。



(まずい、核に傷が!? 終わる? 負ける? 僕が・・・・・・このまま・・・・ッ!!)



しかし・・・



「まだだ・・・!」



崩れそうになる身体を踏ん張って止めるフェイト。すでに力の入らぬ拳で殴り返す。



「・・・フェイト・・・」



手ごたえをハッキリと感じ取ってもなお反撃されたシモンは、目を見開く。



「君がいつだって超えてきたんだ・・・だったら僕もまた・・・超えてみせる!」



そこには、歯を噛みしめながら、それでも倒れぬフェイトがまだ拳を握っていた。



「自分の限界を! 僕はまだ・・・君に何も・・・応えられていないのだからね! 僕は・・・負けられない!」



まだ終われない。


フェイトもまた、譲れぬ意思でここに立っている。


だからこそ、まだ動けるというのなら、たとえ首だけになっても戦って見せる。


そんな意思をシモンも感じ取った。


強い・・・



「フェイトォ・・・」



しかもただ強いだけではない。


この不屈の気迫は自分たちとまるで遜色ない。


だからこそシモンも応える。




「限界なんて・・・超える必要なんてないさ。フェイト」



「なに?」



威力無くともフェイトの拳から意思がシモンに伝わった。


だからこそ、シモンは頷いた。



「俺たちに限界なんてものは最初から無いんだからな」



「ッ・・・まったく君は・・・」



自然と両者の口元に笑みが浮かび上がる。



「とことんやるぞ。フェイト!」



「当たり前だ!」



この後のことなど何も考えていない。ただ、全てを出し切りたい。そんな両者の想いは同じだった。



「まだ満たされぬと言うことですか、この二人は。しかしそれでも・・・・・・アーウェルンクスの動きが極端に鈍くなっている・・・」



しかしついに・・・



「長かった・・・しかし、もう間もなくというわけですね・・・シモン・・・アーウェルンクス・・・」



シモンとフェイトの最後の決着がつく。





後書き


久しぶり・・・実はそうでない人の方が多いかもしれませんが、とりあえず言っておきます。

更新再開するに当たり手こずったのは、本来勢いでそのまま書いていくはずのところからスタートしなければならないという所でしたね。

なんちゅーところで更新停止しとんじゃい!? みたいな感じです。

某理想郷ではフェイトはシモンにゾッコンラブなのですが、なぜこの小説ではこんなにいがみ合っているのか・・・まあ、これも一つのラブですけど。

多分あの作品は、この小説では描けない「IF」を描いて、フェイトに幸せになってもらいたかったのかもしれません。

注・この作品に某綾波さんは登場しません。
最終更新:2011年08月13日 23:21
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