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133-何でそこまでこだわり続けたんだ?

第百三十三話 何でそこまでこだわり続けたんだ? 投稿者:兄貴 投稿日:11/12/25-00:02 No.4469


ジェノムのネギに対して沸き上がる怒りの全てを込めたかのような拳。


だが・・・



「ぬっ!?」



「「「「「「「「「「ああああああッ!!!???」」」」」」」」」」



即座に『雷天』状態となったネギの拳が、



「ク・・・」



「クロ・・・・」



ジェノムの猛々しい腕と十字に交差して・・・



「「「「「「「「「「ネギ(くん)(先生)のクロスカウンターだアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」」」」」」」」」」



ジェノムの顔面にめり込ませていたのだった。


「ちょちょちょちょッ!? ネギ君がとんでもないことを!?」


「やるアル!」


「ネギ先生、お見事です!」


「馬鹿な!? お父様の拳に恐れず飛び込んで、それどころかカウンターをッ!?」


身長・筋力・体格の全てが半分以下の10歳の少年の拳が、堂々と世界の頂点に君臨する覇王に渾身の一撃を打ち込んだ。

その重さでジェノムの両足は僅かに地面にめり込んでいる。



(こっ・・・このワシの拳を利用して!?)



顔面から始まり、激痛がジェノムの全身に伝わった。

カウンターは相手の力を利用して威力を何倍にもして相手に返す技。

ジェノムの人間の肉体を粉々に粉砕するかのような拳の威力が何倍にもなってジェノム本人に返ってきたのだ。



「ぐぬ・・・・こ、こぞ~~~う!!!!」



ジェノムの鼻が陥没したかのように潰れる。

あまりの痛々しさに、女生徒たちは思わず顔を背けそうになる。

ジェノムは辛うじて痛みをそれほど顔には出さないように表情を保っているが、内心では激痛と動揺が激しく駆け巡っていた。



「くっ・・・・うっ・・・ふふ・・・やっぱりすごいものですね・・・」



「なに!?」



「今の一撃で・・・僕の拳の骨も砕けました・・・それだけあなたの拳が強かったということですね・・・」



対するネギは、ジェノムの拳の威力を利用したカウンターの衝撃で拳が大きく腫れ上がっていた。

それどころか、自身の握り締めた拳からは血が溢れ、食いしばった歯からも流血する。

だがそれでも、ネギはどこか余裕の笑みを浮かべていた。



「世界を背負っている人の拳は・・・重いんですね・・・でも・・・おかしいですね。その拳で・・・僕を潰せやしない・・・なぜなら――」



「ほざけェ!!」



今度は左の拳。

ジェノムは激痛を振り切りながら、もう一つの左をネギにぶつける。



「はあああああああああああああああああ!!!!!」



「!?」



しかしそれをもネギは防いだ。


ジェノムと同じように左の拳を突き出して、ジェノムの拳にぶつけて堪えきった。



「何故ならその拳に、誰の想いも詰まっていないから!!」



「ぐぬッ!?」



いや、ネギは防ぐどころか押し返した。

明らかな質量差すらネギは覆した。

ネギの拳が、ジェノムの拳を弾き返したのだった。



「お父様!?」



「ネギくん・・・・・・きみは・・・」



「うおおおお、ネギ君すげー!!」



「やるではないか、あの小僧!!」



「ええ、覚えておくのね、ヴィラル。あれがシモンの認めた子よ」



この場にいた者たちは、つい先程まで感じていた歓喜から落とされた感覚から再び歓喜した。

そして対するジェノムは拳に感じる痛みを受けながら、己の想定を大きく覆したネギの力に目を見開いた。



(ぬ・・・。これは驚いたぞ・・・、想定していたよりも何まわりかは強いぞ、この小僧・・・口だけかと思いきや、度胸もある・・・)



少し侮りすぎていた。

ただの身内びいきで褒められていたわけではなく、ネギはネギでそれなりに鍛錬も実戦も場数も修羅場も超えてきた。

今の拳の打ち合いだけで、ネギからそれだけのものを感じさせるのもがあったとジェノムは悟った。



(ふっ、この年齢でワリに合わぬ人生と理屈ではない力を手にしているか・・・だが・・・!!)



ジェノムが再び猛る。



「だが、ワシを誰だと思っておる!!」



その身に先程まで以上の赤く輝く光を帯びていく。



「クロニアァーッ! ワシにアレを渡せェ!!」



「お父様・・・しかし!!」



「これで見定める! 言葉でぶれぬのであれば、力でこの小僧を見定める!!」



「ッ・・・・・・・・」



見定める。


それはネギを叩き伏せるためではない。


ジェノムはネギを見定めるために力を振るう。


最初は自分の目でネギを見るためにジェノムは麻帆良からここに来た。


次は実際会ってみて、戯言を言うネギを説き伏せるために怒鳴ろうとしたが、既にネギは言葉でぶれることはなかった。


ならばと戯言を言う子供の目を覚まさせるために殴ろうとした。しかしその子供は自分の拳を見事に押し返した。


ならば次は? ネギの全てを見定める。


そのためには力で語り合うのが一番手っ取り早かった。



「お父様・・・」



「うむ」



幾度と躊躇いながらも、クロニアはあるモノをジェノムに向かって投げる。

それは、コアドリル。



「何っ!? コアドリルまであるというのか!?」



「ちょっと・・・この世界では一体何がどうなっているの!?」



ジェノムがクロニアから受け取ったコアドリルを見て、まさかそんなものまであるなどとは思わなかったヴィラルとヨーコは驚愕した。

一方でジェノムはコアドリルを握り締めながら、纏った紅い光の出力を更に上げていく。

その波動で墓守人の宮殿全体が揺れた。



「小僧・・・理屈にならぬ力を秘めているな。だが、ワシの辿った人生も激戦も、そしてワシ自身の力も理屈では語れぬぞ!!」



「床が・・・揺れて・・・」



「そして! 受け継がれたテンジョウ家の1000年の歴史と使命から生まれる力は更に理屈ではない!!」



ジェノムの体が変化していく。



「理屈ではない・・・力・・・あなたが、ですか?」



「ふん、その眼で然と受け止めよ! 世界の名だたる英傑たちを退けてきた覇王の力をな!!」



猛るジェノムの身に纏う光が強く溢れ出ていく。


だが、どういうわけか、どれだけの重圧や威圧を受けようと、何故かネギだけは顔色一つ変えずに涼しい顔をしていた。




「で、でででで!?」




「で・・・デカ!?」




「「「「「「「「「「デカくなったーーーーーーッ!!??」」」」」」」」」」




そう、デカくなった。


ジェノムから溢れる光が天井まで届きそうになると、その高さまでジェノムの肉体が巨大化した。


それはヴィラルやヨーコのガンメンと同じぐらいのサイズの巨体に・・・




「そうじゃ! これぞワシの能力、『螺旋進化』。動物が環境の変化によって様々な進化を経たように、ワシも―――」




「ハァァァァァァァァッ!!!!!!」




「ぬっ!? チィ!!」




ガンメンを遥かに上回り、誰もが見上げる巨体のジェノムの目の前には、今のジェノムの指一本分の大きさにも満たないネギが既にいた。


ネギの放つ拳にすかさずジェノムも反応して、再び両者の拳が混じり合う。



(速い! 雷化の動きを予想しておきながら、直前までワシも気づかんかったわ・・・)



雷の速度で動くネギを一瞬見失ったジェノムだが、こうして再び拳を合わせた。そうなれば結果は目に見えている。


先ほどですら互角だったのだ。


何倍もの体の大きさと力を手にしたジェノムが圧倒的に優勢・・・




「ぬっ!?」




「ハアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




ジェノムの優勢のはずが・・・



「ぬ、ぬおっ!?」



「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」



押し返されるのはジェノムの方だった。



(バ・・・バカな!? ・・・これほどの質量と出力の差で・・・10歳足らずの小僧が・・・こんな力・・・出力が上がっている!?)



ジェノムの背中に冷たい汗が流れる。



「まさか、まだマギアエレベアの作用で力が上がっているというのか!? あんなカス吸血鬼が編み出した魔法ぐらいで・・・このワシの螺旋の力に対抗しうるほどの!?」



ジェノムの表情が驚愕に変わる。



「マスターがカス? 父さんが愚か者? そんなことはない! マスターの編み出した魔法が僕をここまで高ぶらせ、父さんの意思を継ぐだけで僕はいくらでも溢れ出る! 魂が!!!!」



「――――ッ!?」



ジェノムの力が・・・



「こ、小僧・・・・・・貴様いったい何者―――」



「ハアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!」



「ッッッッッ!!!!????」



ジェノムの拳の骨が粉砕し、その勢いを残したまま、ネギの拳が何十倍もの巨体を誇るジェノムを殴り飛ばした。




「「「「「「「「「「なななな、殴り飛ばしたアアアアアアアアアアアア!!!!!?????」」」」」」」」」」




この光景には、ヴィラルもヨーコも腰を抜かしそうになった。


僅か10歳の少年が、世界の王とも呼ばれ、その名に恥じぬであろう力も能力も誇っていたはずの男を、力づくで殴り飛ばしたのだ。



「ちょちょちょちょ、ネギ君すげえええ!!」



「ネギ・・・先生・・・」



「ど、どうなってんの!? ネギ君、全然強いじゃん! ひょっとしてあのおじさんってそんなに強くないの!?」



「バカな!? どういうことだ、テルティウムよ! ジェノムは歴とした人類最強の部類! 紅き翼にも劣らない、ましてやあのエヴァンジェリンやユウサや千人力のゼンゴですらこの男には敵わないはずだ!」



「分からないよ、デュナミス。しかしこの宮殿に来た時点ではまだネギ君の力はラカンたちと同レベルだった・・・それが何故ここに来て急に・・・」



「なな、なんやネギ! お、おま、いつの間にまたそんな強くなったんや!?」



「パパーッ!? なに!? あいつって、あんな強いの!? 下手したらシモンより強いんじゃね!?」



「こ、小僧・・・」



「ネギ・・・すごすぎるじゃない・・・あんた・・・」



いつもネギのそばにいる仲間ですらこの驚きようだ。


殴り飛ばされ、倒れ、元のサイズに戻ったジェノムには到底理解できぬ表情だ。


むしろ・・・



「バカな・・・お、お父様が・・・手も足も・・・出ない?」



そう、ジェノムをまったく問題にしないこのネギの強さは何だ?


どこからこの力は出る?


そもそもこの力の差は何だ?


ジェノムを知る者たちからは驚愕。


ネギを知る者たちからも驚愕される。



「ぐ・・・ぬお・・・バ、バカな・・・何故だ・・・このワシがたった一撃でこれほどの・・・」



違う・・・何かが違う。その感情でジェノムは動揺を隠しきれなかった。



(何故だ・・・狂い笑いほど残虐でも無ければ・・・闇の福音のように魔の深遠に踏み込んでいるわけでもない・・・千の刃のラカンほどの無双でもないのだぞ!? いや、仮に奴らと互角の領域にこの小僧がいたとしても、ワシがやられるわけは・・・)



ならばこの状況をどう説明すればいいのだ?


殴られた頬と砕けた拳の痛みを感じながら、ジェノムの精神は揺らいでいた。


そう、これまで何十年も世界の頂点に君臨し、多くの最強クラスの戦士達をも力と共に退けてきた、絶対不落のはずの男が10歳の少年にその全てをアッサリと崩された瞬間であった。



「ジェノムさん。あなたが色々なものを背負い込んで、道を進み、戦い、多くの激戦を超えてきたことは出会った瞬間に分かりました」



「ぬ、ぬう?」



「ですが、それはあなたが『スゴイ人』というだけで・・・僕が目指す『偉大な人』とは明らかに違ったからです」



片膝付いたジェノムを見下ろしながら、雷天状態のネギが告げる。



「社会・・・人間の性質・・・現実の問題・・・魔法世界の救済にはあらゆる難解が付きまといますが、それでも手段が無いわけではないんです。しかしあなたはそれを全て退けてきました」



当初はジェノムがネギを見定めるはずが、今のネギは逆にジェノムを既に見透かしている瞳をしていた。



「ッ・・・それがどうした! 我らテンジョウ家は1000年にも及ぶ歴史と共に人類と世界を守護し続けてきたわ! そのワシが魔法世界を存続させることによって起こる危機を放っておくはずが無かろう!!」



「はい、その通りです。それは中には立場上の苦渋の決断もあったでしょう・・・背負いすぎている故に時には非情に・・・そしてあなた自身が押しつぶされそうになったときもあるでしょう。しかしそれは言い換えてしまえば!! 言い換えてしまえば・・・」



崩れる。


この世の誰もが揺るがしたことのなかった、ジェノムという男の無敵の力と心を。



「まだ見ぬ明日に怯えて今を後悔するやり方・・・・・・そう、あなたは・・・無理を通さず道理に従う人・・・壁を突き破らない人なんです!!」



「ッ!?」



「ならば僕は負けません! いつだってあなたと真逆の生き方をして、いつだって真逆の結果を生み出してきた偉大な人を僕は、僕たちは知っているからです! あなたのドリルはシモンさんに、大グレン団に遥かに劣るんです!!」



その場にいた者たちはハッキリとその意味を知った。



「そんなあなたが舵を取る・・・最初から何もかもを諦めた人が示す世界の進路を、僕たちは辿りません!! 僕たちは僕たちのやり方を通します!!」



ネギの言葉、それはジェノムがシモンに劣る。だからこそ負けないのだと。


まだ見ぬ明日に怯えて今を後悔しない生き方。無理を通して道理を蹴っ飛ばす男。それがシモン。


その生き方は、例えジェノムが螺旋の力を操ろうともまったく違う生き方なのだ。



「だからこそ奴の扱う螺旋力は偽物にすぎんというわけか。シモンもまた14の小僧で螺旋王を倒した。アンチスパイラルに敗れて全てを諦めて倦怠の海に沈んだ男を、文字通り突き破った。分かっているではないか! よくぞ言った、小僧! 気に入ったぞ!」



「そう、そんな生き方と心の持ち主が扱う螺旋の力は底が知れるってことかしら?」



「最強クラスという区切りをソロソロ改めたほうが良いかも知れぬな・・・テルティウムよ・・・少なくともこの小僧・・・既に・・・」



「その通りだ、デュナミス。狂い笑いやジャック・ラカンよりも・・・ネギくん・・・君は既に彼らよりも遥かに上の領域に踏み込んでいたようだね」




だが、彼らはまだ知らない。





ネギの圧倒的な心と才を見せつけたこの戦いだが、これで終わることなどは無かった。




むしろこれからが本当の始まりである。




絶対不落のジェノムという巨大な城が崩れたところには、真の戦いが詰まっていたことに、この時点では超鈴音以外は知らなかったのだった。















「ふ・・・ふざけたことを! 武勇だけで世界を動かせると思うな! 聞こえの良い言葉ばかりを並べるだけで人がいつまでも賛同し続けると思うな! 貴様に何の責任が取れる!!!!」



「だから見捨てる。だから消す。だから諦める。12億人だろうと6000万人だろうとも、手を差しのばさずに静観するあなたの示す世界なんか認められません! そんなあなたの何が王ですか!!」



たとえ心が揺らごうとも、ネギの言葉に頷くわけもなく、ジェノムとネギの話は平行線から一向に交わらない。



「ワシには60億を超える地球人類を守る義務がある! 火星の民を助ける義理がどこにある! そのしわ寄せを受けるのは魔法の存在も知らぬ日常に生きる者たちなのだぞ!」



「だからこそ事情を知る僕やあなたたちが誰よりも率先しなくちゃいけないんじゃないですか!!」



互いが互いに言葉をぶつけるも、互いを自分の考えに引き込むのは困難である。

当たり前だ。ネギはもう既に決意しているからだ。

ジェノムもこれまで何度同じ論争をしてきたのかは分からない。

こんな時、力ある者は力で語る。

勝った者が正しいというわけではない。しかし勝ったものが正義となり、世界は勝者に流されていく。

そう、だからこそ今回もその方式を当てはめるのならば・・・



「ふざけおって・・・小僧・・・貴様に世界を託すわけには・・・ぐっう!?」



立ち上がろうとするジェノムだが、突如表情を苦痛に歪めた。

激しい痛みが全身を駆けめぐった。その痛みを与えたのはネギだ。



(くっ・・・体が言うことをきかぬ・・・なんという小僧だ・・・)



そう、もし勝った者に世界が委ねられるとしたら、この戦いは既に終結しているのかも知れない。

何故ジェノムがこれまでありとあらゆる魔法世界救済という案を却下することが出来たのか。

それは、勝ち続けたからだ。

しかし今回は違う。戦い、そして敗れてしまったのならば、ジェノムがどれだけ自分の正当性を叫ぼうと、負け犬の遠吠えになる。

勿論この議題に関しての正解を戦いの中だけで求めるのは、よろしくないことだろう。

だが、少なくともこの場では・・・



「ジェノム・テンジョウ・・・・・・なにも世界の責任をネギ君だけが請け負う訳じゃない・・・」



「フェイト・アーウェルンクスッ!?」



「少なくともこの場に置いては、君たち一族以外は皆がネギ君側に立っていると思うよ」



未だに考えを変える調光すら見せずに頑なジェノムにフェイトが告げる。


「な、なに~っ!?」


言われてジェノムがこの場を見渡すと、皆がジェノムとは相対するような瞳で立っていた。

フェイト、デュナミス、そしてフェイトに従う5人の少女たち。

ネギと共に駆ける白き翼。

新生大グレン団。

そして・・・


「見苦しいぞ、井の中の王よ」


「そーいうことよ。今この場で野暮なのは、あんたの方なのよ」


事情をよく知らないが、それでもジェノムの叫んだやり方に賛同するわけがないヴィラルとヨーコ。


「おのれ・・・」


そう、この場にはネギに賛同する者や話を聞いてみようと歩み寄る者たちはいるが、ジェノムに従ったり歩み寄ろうとする者たちは居なかった。



「勘違いしないでくれたまえ。僕たちもただ戦いで負けたからという理由でネギ君の話を聞いてみようと思ったわけではない。第一僕はネギ君には負けていないからね。ただ・・・」



重要なのは勝ち負けだけではなかった。シモンと戦ったフェイトはそれを十分思い知った。



「正しい正しくない、出来る出来ないではなく、そこに本気の思いがあるのなら聞いてみてもいいと思っただけだ」



敗者が勝者の言うことを聞くのではない。敗者の方から歩み寄る。それがこの戦いで選んだフェイトの答えだった。

ジェノムの言うことはもっともだとフェイトとて本当は分かっている。

しかし何とかする。何とか出来るかも知れない。

シモンもネギも何とかしようとする。

ならば、戦いに負けた自分が負けてもなお全てを拒絶するのではなく、少し歩み寄ってみようとフェイトは思ったのだった。



「言っても分からぬバカばかりめ! なぜ分からぬ! ただ魔法世界がどうのではない! 人類が火星の・・・いや、異星間に関する問題に手を出すにはまだ早すぎるというのに!」



だが、それでもジェノムは頑なに全部を否定しようとする。

ただそこに、ネギたちは今、妙な言葉を聞き取った



「え・・・?」



それは感情的に漏らしたジェノムの言葉の中から聞き取れた、妙な単語。



「・・・まだ・・・・・・早い?」



ネギは聞き逃さなかった。

ジェノムはこれまで可能や不可能。もしくは迷惑と怒鳴り散らした。

しかしここで「まだ早い」という言葉が出てきた。



「まだ・・・早い・・・? 地球がこの問題に手を出すのが早いとか・・・何で分かるんですか?」



そう、「手を出すのは早い」というのは、「まだ技術的に出来ない」「まだ社会的に無理だ」などと違って、時間さえあればいずれは手を出せる問題ということになる。

ならば早いか遅いかの違いでしかない。「早い」というだけではネギの意見を却下する理由には成り得ないはず。

なのになぜジェノムは「早い」という言葉を使ったのか。



「どうもこうもない! 人類が正しく成長するには正しい段階を踏まねばならぬ。戦争の問題や環境の問題などの順序を踏まずに宇宙問題に踏み込むのは100年以上早い!」



今のネギたちの心境は正直なところ、「こいつは・・・何を言っているんだ」と。



「ふざけないでください! どうしてあなたにそんな早いとか遅いとか決める権利があるんですか!?」



「当たり前だ! ワシには、いや、テンジョウ家には分かるのだ! 祖先から伝わるこれからの未来における人類の過ちや痛み、そしてそこから辿り、乗り越えていく方法や仮定をな!」



「えっ・・・」



「そうやって今の地球人類は今日を生きておる! 時には戦争で世界が滅びかけたこともあるであろう! しかしそれもまた成長のための必要な痛み! ワシはその成長のための場や技術、そして道標を示し、世界が完全に崩壊せぬように調整する!」



これは話が脇道にそれているのか? ジェノムの先ほどから言っていることがネギたちにはよく分からなかった。


だってそうだろう。


現在の社会や世界の情勢を判断しての言葉ではない。


まるで自分が王というよりも神になったかのような思い上がった言葉だ。



「ジェノムさん・・・なにが・・・なにが一体あなたをそこまで・・・」



何がジェノムをそこまで思い上がった人間にしてしまったのだろうか。


まるでテンジョウ家が昔も今もこれからも、人類の全てを握っているかのような発言だ。



「あなただって・・・どんなに凄い権力を持っていようとも・・・一人の人間じゃないですか」



そうだ。ジェノムとて一人の人間だ。


言うなれば権力を持った人間だ。


だが、それだけで人類の全てを握ったなどと思い上がるのは論外だ。


そんなものは人間や王を超えた神のような・・・




「ワシが人間? ワシは人類の守護者だ!! ただそのためだけに生きてきた! そしてワシは人類の道標となる者の――――・・・・ぬっ!?」




その時だった。




「ぬ・・・ぬっ!? ぬぬぬぬッ!?」




ジェノムの胸元のコアドリルが・・・




「な、なんじゃこれは!?」




コアドリルが輝き出し・・・



「ジェ、ジェノムさん!?」



「な、なにがッ!?」



「お父様!?」



ジェノムを光が飲み込んだ。




「ここ、これはもしや!? な、なぜじゃ!? なぜここで!?」




光に飲まれるジェノムは自身ではどうしようもないのか、動揺を隠せずにただ驚愕した。



一体この光は何か?



ジェノムに一体何が起こったのか?



ただ分かっているのは、これまでクロニアやジェノムが発していた螺旋力は紅く輝いていたのに、今ジェノムのコアドリルから発せられた光は・・・




「こ、わ、ワシを乗っ取るつもりか!? 何故ここで出てこられるのですか!?」




シモンと同じ、力強い緑色の光であった。




「ジェノムさん!?」




光がジェノムを飲み込んだと思ったがすぐに収まった。


一体何が起こったのかとネギたちが様子を伺おうとしたが、その時ジェノムはニタリと笑った。














「・・・・・・ぬはははは・・・・ジェノムよ・・・そこから先は禁句じゃ・・・そういう道標的な存在が居ると気づかれてはならん。ワシの存在を世界は知らずに、世界はあたかも自分たちの力で成長していると思わせねば意味がないぞ」











いや、ジェノムではない。


その表情は明らかに先ほどまでの仏頂面をしていたジェノムとは違った。


ジェノムの娘でもあるクロニアですらその表情に動揺が見られる。




「と言いつつ出てくるワシもワシだがな! ぐわはははははははは! まあよろしい!」




突如笑う男。


その声はジェノムのものではなかった。



「お父様!?」



「ジェノムさん!?」



その笑いは明らかにジェノムではない別の誰か。


ネギたちはゾクリとした。


今、一体何が起きようとしているのかを。


すると、目の前の男は急に顔を上げて、これまでのジェノムからは想像も出来ないぐらい機嫌良さそうな笑みをネギたちに見せた。




「がっはっはっは! こんな形で登場する気は無かったが、とりあえず驚かれて何よりじゃ。誰かに驚いてもらうことは螺旋の民にとっては最高の喜びじゃからな」




それは先ほどのような厳しく威厳のある覇王のジェノムではない。どこか陽気さと豪快さを兼ね備えた男であった。


ジェノムの人が変わったというよりも、ジェノムがまったくの別人になったという表現の方が近いかもしれない。




「お、お父様・・・」




「がはははは、すまぬクロニアよ。今のワシの器はジェノムじゃが、こうしてしゃべっているワシはジェノムではない」




「なっ!?」




そして彼はハッキリとそう言った。


自分はジェノムではないと。


ならば、・・・



「お父様では・・・ない・・・?」



「ジェノムさんでないのならあなたは・・・あなたは一体何者なんですか!?」



「っていうか、どうしたの? 急に性格が変わったみたいに、あのおっさんは!?」



「しかしこの肌に感じる空気・・・明らかにジェノム殿ではない・・・しかし・・・」



しかしならば誰だ?


ジェノムの体を使い、今ジェノムの中に居るのは。




「クロニアと話すのも初めてじゃな。こうして絶対的に揺らぐ事なきジェノムに心の隙が出ない限りワシが表に出ることは無かった。そう考えると、ネギといったか。なかなか大したもんじゃ」




「・・・なにを・・・」




「そしてクロニアよ。察しのよい貴様なら、ワシが何者かは既に感づいているじゃろう?」




「ッ!? ま・・・まさか・・・!?」




クールなクロニアがガタガタと震えている。


その姿はまるでか弱い女性そのもの。


それは恐怖か、それとも信じられない事態への驚愕か、目の前の男の正体を察したと思われるクロニアは蒼白した。


そして男もニタリと笑みを浮かべる。




「そう、ワシはテンジョウ家の遺伝子とコアドリルに封じ込まれた、始祖の思念そのもの」




「し、始祖の思念!? ・・・まさか・・・では、あなたは・・・いえ・・・あなた様は!?」




そう。目の前にいるのはジェノムではなく、ジェノムやクロニアの根元とも言える存在。





「そう・・・ワシは・・・1000年前の平安時代の地球に舞い降りた螺旋族・・・ジェノバ・テンジョウ!!!!」





この存在と遺志こそが彼女たちの歩む人生を生まれる前から定めさせた・・・




「「「「「「「「「「えええええええええーーーーッ!!!!????」」」」」」」」」」




「し、・・・始祖様・・・」




「バカな、テンジョウ家の始祖だって!?」




「ちょ、どういうことなのーッ!? 1000年前の人って・・・えええッ!?」




「1000年前の人間と言うことは、肉体は既に死滅しているはず・・・あのコアドリルとかいうものと子孫の遺伝子に自分の精神を残すなんて・・・そんなこと・・・」




常に世界を守護し続けてきたと豪語するテンジョウ家を創り、その遺志を1000年以上も子孫に受け継がせ続けた男。


今の世界の流れはテンジョウ家が握っていると言っても過言ではない。


ならばこの男こそ、今の世界の流れの全ての元凶とも言えた。


そしてその衝撃の事実に驚愕するのは、ネギやクロニアたちだけではない。


最初はこの世界と何の関わりのなかったこの二人にも決して聞き流せぬことであった。




「バカな!? 1000年前の螺旋族だと!? 肉体が死しても、コアドリルに残留思念を残して生きながらえていたというのか!?」




ヴィラルも・・・




「ッ・・・あんた・・・まさか本当に私たちと同じ・・・」




ヨーコも同じだ。




「ほほう。多少の改造を受けているようだが、見たことのあるガンメンじゃな。獣人・・・クローンか? それと・・・ほう、そちらの胸とケツのデカイ女は・・・ワシと同じ純正の螺旋族じゃな!!」




純正の螺旋族。


それは、ジェノムやクロニアのように、この宇宙の地球の者たちと混じり合った混血の螺旋族ではなく・・・




「じゃあ、あんたは!?」




「おう、そうじゃ! がっはっはっは、なら対アンチスパイラル用のガンメンを操縦するキサマらにはこう自己紹介した方が分かりやすいか?」




「なっ!? アンチスパイラル!? き、貴様は・・・」




ヨーコやヴィラルとまったく同じ世界からやってきた・・・





「1000年前の異なる宇宙で銀河を守るために戦った銀河螺旋戦士の一人・・・・銀河螺旋軍総司令補佐・・・結婚して名を変えたが、旧姓は・・・ジェノバ・テッペリン!!!!」





「「ッ!!!!!????」」





「あっ・・・つってもこの名前が有名なのは1000年前じゃし、キサマらは知らんか! すまんすまん! がははははははははははははは!」





シモンやヨーコと同じ純粋な螺旋族であり・・・




「テ、テッペリンですって!?」




「まさか・・・貴様・・・螺旋王の・・・ロージェノム様の・・・」




ジェノバが口にした「テッペリン」。この名をヴィラルとヨーコが知らないはずがない。


いや、もはやシモンの記憶映像が流れたこの魔法世界に置いては知らない者はその記憶映像を見ていない者たちぐらいだろう。




「ぬ!? がーはっはっはっはっは! その名を知っておるか! 若造共!!」




そう、あの男の名だ。


かつてシモンやヨーコたち人類を地下へ押し込めたかつての敵。


そしてヴィラルがかつて仕えた男。




「これはうれしい限りじゃ。そう、ワシは銀河螺旋軍総司令官・ロージェノム・テッペリンの右腕であり・・・」




その名を口にした瞬間、ジェノバはうれしそうに豪快に笑った。





「双子の弟じゃァ!!!!」





全ての始まりと黒幕が目の前に現れたのだった。



「な、なんだと!?」



「ロージェノムの双子の弟ですって!?」



「ちょっ、ロージェノムって確かシモンさんの映画に出てきた!?」



「ふふふ、双子!? いや、そりゃーたしかに似ていると思ったけどよ!?」



「ちょっと待てー! シモンのその記憶映像見てない私たちには何が何だかサッパリだぞー!?」



「一体どういうことなんだい!?」



それは本来異なり何の関係性もなかった次元の異なる銀河が・・・・




「がははははははは! 1000年前から会っとらんアニキを知っておるか! これはうれしくて涙が出るわい!」




シモンやヨーコやヴィラルたちが居た地球と、この宇宙のネギたちが存在する地球が繋がった瞬間だった。



「バカな・・・バカな! ロージェノム様の弟が、何故この次元の異なる宇宙に存在する!?」



「ぬはは、1000年前にアンチスパイラルと戦い、宇宙崩壊の真実を知った我がアニキの暴走により軍は解体。何とかその悲劇から逃れるべく無我夢中で螺旋界認識転移システムで逃れたのが、この次元の宇宙に存在する地球。当時は平安時代であったか」



「アンチスパイラルとの戦いですって!?」



「この宇宙に逃れた当時は肉体の破損に加えてガンメンもぶっ壊れて帰ることも出来なかった。しばらく生活しているウチに平安時代の人間と結ばれて子を残したが、結局ワシは銀河大戦で負った怪我が悪化して死亡」



「し、死んだなら何故!?」



「そう、確かに死んだ。肉体はな」



「に、肉体・・・は・・・だと?」



「そう。じゃが死ぬ前にコアドリルにワシの記憶ごと魂と精神を封じ込めることにより、肉体こそ無いがワシはこうして1000年間生き永らえておる!」



今こそ証される歴史の真実。



「まあ、細かいことはよーわからんが、こうして生き残っとるワシは不滅の男ということじゃ!! ヌハハハハハハハハハ!!」



その事実にこの場にいた全ての者は言葉を失ってしまった。


だが、これで謎が解けた。


クロニアとジェノムに関することだ。



「そうか! そこのクロニアという女がニア姫様と似ていた理由は、ただの他人のそら似ではない!」



「ええ、ロージェノムの娘であるニア。そのロージェノムの双子の弟であるジェノバの子孫であるクロニア。二人が似ているのもこれで納得できるわね」



ジェノムとクロニアの祖先はあのロージェノムの弟。


なるほど。ならば二人がロージェノムとニアと似ているのも納得だった。


すると二人の言葉にジェノバは興味深そうに顎をさする。




「ほほう、アニキの娘か。興味があるな。ここには来ておらんのか?」




ニア・・・


ヨーコはニアを思い浮かべながら寂しそうな表情で返す。




「あの子は・・・死んだわ」




「なんと。では兄は?」




ロージェノム・・・


ヴィラルが複雑な思いを抱きながらも、誇らしげに言う。




「千年という長い倦怠の海から起き、我らに明日へと続く道を残して逝かれた」




「なに!? 死んだじゃと!? あの・・・アニキがッ!? ・・・っつ~~~」




ロージェノムは死んだ。その言葉を聞いたジェノバは右手で顔を覆い、上を見上げる。


その全身は僅かに震えているようにも見えた。



「あのアニキが死ぬとはの。倒したのは誰じゃ?」



「かつて地上を支配した螺旋王を倒した男の名は・・・シモン!」



「シモン? あ~・・・ジェノムが少し気にしておったな。そして、クロニアと戦った男か。コアドリルの中で見ておった。なるほど、あれもワシの故郷の地球の民か・・・」



「それだけじゃないわ。ロージェノムの娘と宇宙で最も互いに愛し合い、ロージェノムが命と魂全てを託した男よ。そして何よりも・・・」



「・・・?」



そう何よりも・・・


ロージェノムを倒し・・・


ニアが愛し・・・


そして・・・




「お前たち千年前の螺旋族が敗れた、アンチスパイラルを打ち倒した我ら大グレン団を率いたリーダーだ!!!!」




そう・・・




「ッ!? な・・・ア、・・・アンチスパイラルを打ち倒したじゃと!? 貴様らが!?」




かつてロージェノム、そして今目の前にいるジェノバたち銀河螺旋軍、そしてそれよりも何十億年も遥か昔から続いていた螺旋族とアンチスパイラルの闘争の歴史に終止符を打ったのがシモンであり、大グレン団なのだ。



「えっ・・・あの・・・ヨーコさん・・・ア、アンチスパイラルって・・・なんですか?」



「ちょっとーッ!? 私たちも知らないんすけどォ!?」



「だからシモンの記憶映像を見ていない私やパパはもうさっぱりなんだよォー!?」



ここにきて、アンチスパイラルを知らないネギたちには、彼らが何を話しているのかはまったく分からない。

シモンたちの戦いが地上を支配する螺旋王を打倒するまでだと思っているネギたちには仕方のないことだ。



「そう言えばシモンが呟いていたよ・・・」



「フェイト!?」



「アンチスパイラル・・・あのロージェノムが地上を支配した理由・・・シモンたち大グレン団の真の敵の話・・・そうか・・・君たちはシモンからは聞かされていないのかい?」



「「「「「「「「「「聞いてないッ!!!!????」」」」」」」」」」



これにはネギたちも「なんてこった!?」という表情をしていた。



「シモンさんの真の敵!?」



「ちょっ、私たち新生大グレン団は何も聞いてないっすよー!?」



「シモンさん・・・そんな重要なことを私たちにまだ教えていなかったとは・・」



「アニキ・・・」



「う~~、シモンさんは意地悪やーッ!!」



「フェイト様だけずるい!? 気になります!」



「ってちょっと待て! それじゃあ、あの熱血バカの記憶映像・・・あれには何かまだ続き・・・っつうかメインの戦いがまだ続いてんのか!?」



「そういえば超さんが学園祭でボソっとつぶやいていたような・・・」



確かに記憶を思い返せば、ロージェノムはシモンとの戦いに敗れて遺言のような言葉を残していた。




――100万匹の猿が地上に満ちたとき、月が地獄の使者となりて螺旋の星を滅ぼす




拳闘大会で流された映像だ。

しかしあの時は、その直後にシモンの登場という劇的な状況であっただけに皆が流されていたが、確かにそんな言葉をロージェノムは言っていた。



「い、今にして思えば・・・どう考えても更にスゴイ敵がまだ居ることを示す言葉です・・・」



「だあああああ!? その記憶映像はどこにあるっすかッ!? メッチャ見たい!!」



「見たい! 記憶映像! ってか、この様子だとヴィラルさんが大グレン団のメンバーになるような流れ・・・ぬおおおおおお、見たい!」 



「かつて仇敵だったヴィラルさんが大グレン団の仲間になって戦うシーンをすごく見たい!! 仲間になる瞬間だけでもいいから!! 絶対激熱だって!!」



「あ~ん、ウチは相変わらずシモンさんのことを知らんことだらけや~!」



「って、まずい! ロージェノムを倒すまでの映像で魔法世界中がスーパーヒートアップしたってのに、それを超える戦いなんか見ちまったらヤバイだろ! もはや興奮の嵐で!」



「見たい! すごく見たいです!」



そう、ロージェノムを打倒するまでで十分に物語として纏まっていた。シモンが紛れもない異世界の英雄であることを誰もが疑わなかった。

しかしあれで終りではなかった。

まだ続きどころか、シモンたち大グレン団の真の戦いがあるというのだ。見たいと思って当然である。

何よりも・・・



「アンチスパイラルを貴様らが倒したじゃと~」



何よりもロージェノムの双子の弟と名乗っている人物がこれほどまでに全身を震わせているのだ。

一体、シモンたちが倒したアンチスパイラルとはどれほどの力の持ち主なのか想像もつかなかった。



「・・・・・・・なんと・・・つーか、アレって倒せるもんなんじゃな・・・知らんかったわ」



ジェノバはヴィラルとヨーコの言葉に狼狽え、動揺し、そしてようやく少し落ち着いてきたと思ったら、苦笑しながら呟いた。

その言葉に、ヴィラルもニタリと笑を返した。



「ああ。知らない奴らに語り始めたら日が暮れるほどに濃く壮大な戦いであったぞ」



「ぬははははは! そうかそうか、そこらへんの話はワシもよく聞きたいもんじゃわい」



ジェノバは笑った。

何かに開放されたかのように豪快に笑った。




「ぬははははは、千年も生きて・・・ましてや誰もワシやアニキや仲間も知らん所で生きてきてこの不意打ちじゃ、涙が出るほどにうれしいぞ。よくぞここまで来て報告してくれたな、獣人よ」




その瞳の端には薄く涙が見えていた。



「ふっ・・・心中察するぞ・・・古の螺旋戦士よ」



「うむ」



そこに偽りがあったとは思えなかった。

ある意味ではロージェノムと同じ千年の孤独。しかもロージェノムと違い、この宇宙はジェノバの故郷とは違う世界。

誰も自分を知る者がいない悠久の孤独。

どれだけ心が寂しかったであろうか。

ヴィラルとヨーコという二人。例え時代は違えども話題を共有できる相手が目の前に現れた。

ジェノバの心がどれほどうれしかったかは、きっと誰にもわからないだろう。



「がっはっはっは・・・・・・じゃが・・・まあ、アンチスパイラルを倒したと言っても・・・・」



「なんだ?」



「ふふん・・・『スパイラルネメシス』の問題は解決したとも思えんがの」



「むっ・・・」



やはりジェノバも真実を知っていた。ヴィラルとヨーコの表情が強ばった。



「やはり貴様も知っていたか。まあ、・・・解決に向けて努力をしていると言ったところだが・・・」



「そうね。私たちの代だけでは無理だろうけど、その思いを次の世代に、そしてまた次の世代へと受け継いでいくこと・・・今はそれが精一杯ね」



スパイラルネメシス。

進化と螺旋の力が銀河を生み出し、過剰に増える銀河が互いに食いつぶしあい、やがて宇宙全てを飲み込む現象。

それがスパイラルネメシス・・・そして・・・



「不思議なものじゃ。かつては星や仲間をいくつも滅ぼした死ぬほど憎らしい最大の敵でありながら、アンチスパイラルが敗れたと聞いたとき、どこか『友』を失った感覚もするわい」



それを阻止するために螺旋族を滅ぼそうとした種族が居た。それがアンチスパイラル。



「戦争中に知ったが、なんでもあやつらも元はワシらと同じ螺旋族。しかしスパイラルネメシスという真実を知ったからこそ、己を捨て、心を捨て、覚悟を胸にワシらと幾戦も交わった。その覚悟には尊意すら抱いてしまうな」



そのアンチスパイラルとの戦いで、かつて全てを失ったジェノバ。

だが、アンチスパイラルが敗れたと聞いて彼は喜びの笑いと共に、どこか涙も溢れた。



「だからこそじゃ。ただアンチスパイラルを倒しただけではないじゃろうな? ちゃんと貴様らはスパイラルネメシスについても考えておるんじゃろうな」



ニタリと笑みを浮かべてヴィラルとヨーコに、虚偽を一切許さぬ本気の視線をぶつけるジェノバ。

その問いかけに、ヴィラルもヨーコも少し複雑そうにしながらも、ハッキリと頷いた。



「ふん、痛いところをつくな。だが、それでも何とかするのが大グレン団であり、そしてアンチスパイラルと俺たちとの約束だ」



「そして、あの戦いで散った仲間たちのためにも・・・ロージェノムもニアも含めてね!」



「ふっ・・・ガーハッハッハッハッハ!! アンチスパイラルと約束? なんともデカイ奴らじゃ気に入った!!」



そこに明確な答えはなかったが、同じ世界で生まれた者同士なのか、ヨーコとヴィラルの言葉だけで全てを納得したのか、ジェノバは再び豪快に笑ったのだった。




「さて・・・まあ、おぬしらは勝手にせい。アニキやアンチスパイラルの時代に終止符を討った宇宙はもはや貴様らのものじゃ。だが・・・」




だが・・・


ジェノムはそう言って再び厳しい瞳を見せる。


その瞳を向ける先は、ネギたちだ。



「だが、ボーズども・・・この宇宙の地球はそういうわけにはいかんな~」



「ッ!?」



「仮りにも千年も関わった世界じゃ。そう簡単にはくれてやれんのう」



ジェノバたちの居た宇宙はもはやシモンたちが切り開いた時代。


例えスパイラルネメシスという解決不可能な難解がこの先に押し寄せようとも、アンチスパイラルを倒した以上はヴィラルやヨーコたちの自由である。


だからこそジェノバは特にそれについては細かいことを口に出すことはしなかった。


だが、この世界は別だとハッキリと告げたのだった。


流石にこれにはネギも反論せずにはいられない。



「つっ・・・な、なんなんですか、その・・・僕たちにはそのアンチスパイラルがどうとかはよく分かりませんけど、何故僕たちはダメなんですか?」



「当たり前じゃ。例え生まれは違えど、千年も居て世界の流れに常に関わってきたのなら既にこの世界はワシのものじゃ。そのワシがやめろと言っておるのだから、言うことを聞けい!」



ネギたちは知らなかった。



「な、なんですかその滅茶苦茶な理論は!? ジェノムさんよりも酷い理論です!」



「か~! くだらん! 理論なんぞクソくらえじゃい! 理論なんぞより、ワシの抱いた想いが重い!」



「えっ・・・ええええええッ!?」



この男は、ジェノムとは違い、実はさらに厄介な性格を持った男であるということを。





「理論より、ワシの『明日』に対する思いこそ全てだ! そのための『順序』を守ってもらわねば困るわい!!」





ジェノバの真実。



それを知る者が、もう一人いた。



「そのジェノバって奴は、何でこの宇宙の地球にそこまでこだわり続けたんだ?」



「恐らくは、彼が見ることのできなかった未だ見ぬ明日の先を見るためネ」



シモンに肩を貸しながら、宮殿内をゆっくりと進んでいく超鈴音。

彼女もまたジェノバという人物の全てを知る者であり、たった今その全てをシモンに告げたのだった。

全てを知ったシモンも当然驚いた。まさかロージェノムに弟がいて、その弟の魂が1000年間もテンジョウ家に宿り、この宇宙の地球を影で支配していたのだ。

何とも気の遠くなりそうな物語に、シモンも呆れると同時に、なぜそこまでするのかと疑問に思った。

その疑問に対しての超の答えは、「まだ見ぬ明日の先を見るため」であった。



「ジェノバもこの世界をすぐに多次元宇宙のどこかにある地球や火星であり、自分たち螺旋族がいた宇宙とは違うと気づいた。だがそれは同時に、この宇宙にアンチスパイラルが手を出さないことにも気づいた」



「何が違うんだ?」



「大きく違うネ。この世界には螺旋族が居ないからこそ、アンチスパイラルによって脅威と判断されて攻撃をされた彼らの世界より先まで辿り着けるということヨ」



先までたどり着ける。シモンはそれを聞いてようやく気づいた。

ロージェノムは1000年もの間、螺旋の力を封じて、人類や文明の進化を止めた。それはその先にある滅びを知っていたからだ。

どう足掻いてもアンチスパイラルがいる以上、1000年前にロージェノムたちがいた人類のレベルまではたどり着けないと知っていたのだ。

しかしもし、アンチスパイラルがいなければ・・・・



「そうか・・・スパイラルネメシスは螺旋力によって引き起こる・・・でも、この世界の人たちに螺旋力はない。だからこそアンチスパイラルは来ない・・・そういうことか?」



「そうネ。もしアンチスパイラルさえ攻撃してこなければ・・・戦いがなければ・・・いや、そもそもアンチスパイラルさえいなければ・・・自分たちの世界はどこまで成長していたのか・・・どんな世界になっていたのか・・・ジェノバが知りたいのはただそれだけヨ」



自分たちの住んでいた世界がどうなっていたのか・・・

世界はどんな進化と変化を遂げるのか・・・

人類はどのように・・・



「なんてことだ・・・それじゃあ、ジェノバってやつは・・・」



「そうネ。何千年、何万年もかけていつの日か、この世界を、地球を、宇宙を、自分たちが居たレベルにまで引き上げてその先の未来を見る・・・ただそれだけが目的・・・いや、望みヨ」



それはかつてのロージェノムやアンチスパイラルと少し似ているようで、まったく違う生き方。

彼らにはまだ大義があった。

ロージェノムは最低限の人類を守るため・・・

アンチスパイラルは宇宙の崩壊を防ぐため・・・

しかしジェノバは?



「ちょっと待て・・・それなら、クロニアが言っていたのは・・・」



「守護者という大義名分を与えられていたに過ぎないネ。千年も続いた世界最強のテンジョウ家など、ジェノバという歴史の道標を隠すためのものであり、もっともらしい大義を与えて子孫を思い通りに動かして、彼は世界を着実に自分の知る地球に近づけていったネ」



ジェノバはロージェノムともアンチスパイラルとも違う。

彼はただ、己の望みのために動いている。

ただ、「見てみたい」という思いだけで、千年以上もこの世界にとどまり続け、これからも続けようとしている。




「それがジェノバの千年続いた・・・そしてこれからも続けようとした、計画の全て・・・かつての友たちの無念と共に、自分たちが見れたであろう進化の先を見ることネ・・・・」







後書き

はい、とうとう禁断でやろうかやらないか迷っていたことをやってしまいました。
一年ぐらい前から悩んでいましたが、まあ、もはやあまり気にせずやることにしました。

今回登場のジェノバ。
実は名前だけなら、第120話に出てきていました。

はい、そこ! 封神演義の女禍かよっ! とか言わないで! まんまそのつもりですから!
ARMSのキース・ホワイトの登場シーンでも良い!
最終更新:2012年01月10日 14:07
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