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39-アイツは新生グレン団を名乗る女だぜ.

第三十九話 アイツは新生グレン団を名乗る女だぜ 投稿者:兄貴 投稿日:08/11/09-20:08 No.3729
ヨーコの行動により一時荒れた空気になったが、それでも選手控え室に戻ると惜しみない拍手がネギに送られた。


「いや~すっかりネギ君も有名人になっちゃったね~」


「まったく無茶ばかりして・・・・高畑先生の怪我は・・・」


「いやいや鍛え方が違うから大丈夫さ、それより大人気なく本気になってしまってアスナ君にも心配をかけたね・・・」


「いえ・・その私は別に・・・」


高畑を前にして先程の勇猛ぶりも吹っ飛び一気に乙女に戻ったアスナは顔を真っ赤にする。

ネギもあれから目が覚めて今はエヴァにクドクドと説教を受けている。しかし叱られていながらもネギは自分の試合での手ごたえに満足しているようだった。


「ふふふ、まったく末恐ろしい少年ですね」


クウネルがエヴァに踏みつけられているネギを見ながら呟く。


「・・・・・・一つに気になっていたんだが・・・・なぜあなたがここに?」


高畑がタバコを咥えながらクウネルを見る。その言葉を聞いてエヴァも思い出したかのように詰め寄る。


「そうだキサマ!約束どおりぼーやが勝ったんだから全て教えろ!!」


「ええ・・・まあ、あなたが死んだなんてこれっぽっちも思っていませんでしたが・・・これでも心配していたんですよ」


二人の様子にネギも体を起こし、クウネルを見る。


「あの・・・クウネルさん・・・ですよね?タカミチやマスターの知り合いなんですか?」


「ふん、知ってるも何もこの男は・・・「コホン」」


エヴァの言葉にクウネルが口を挟む。


「まあ、私にも色々ありました、しかしその話はまた今度ゆっくりということで・・・・・、とりあえず私の目的ですが・・・アスナさんの成長と・・」


「えっ私!?」


タカミチはその意味を知っているのか、少し肩を動かした。クウネルはアスナの次にネギを見てニッコリと笑う。


「ネギ君、君の成長にはとても満足です」


「えっ・・ありがとうございます」


「ふふ、もし決勝まで勝ち残れたら・・・そちらの女性に負けないご褒美をあげましょう・・・」


クウネルは一度ヨーコを見た後もう一度ネギを見る、そして少し屈んで


「俺と戦わせてやる」


「「「「「えっ!?」」」」」


その声はクウネルの声ではなかった、それはこの場にいる全員が感じ取ったことである。そして今のクウネルの言葉にネギ、そしてエヴァとタカミチが大きな動揺を見せる。


「えっ・・・い・・・今の!?・・・ウソ・・・だって・・・」


今のクウネルの声に聞き覚えがあったのか、ネギは信じられない様な瞳でクウネルを覗く、しかしフードの下に隠れているクウネルの顔は、いつのまにか元に戻っていた。


「そうか・・・キサマ・・・・それが目的だったのか・・・・」


「アル・・・・あなたは彼との約束を・・・・」


エヴァとタカミチは確信した。アスナたちは未だにクウネルの目的どころか正体も分からないが、この二人は分かったようである。するとクウネルは人差し指を口元へ持っていき、二人には内緒にするような態度を見せる。


「あの・・・ク・・・クウネルさん!あなたは・・・・」


ネギは自分の中で思っていることが上手く言えないほど動揺していた。しかしその時賑やかな声が場に入ってきた。



「ネギく~ん!スゴかったよさっきの試合!」


「ネギ君、怪我大丈夫やった~?」


観客席にいたハルナたちが控え室まで入ってきた。


「ちょっとアンタたちここは関係者以外・・・」


「いいじゃんアスナ!それよりすごかったね~ネギ君!」


クウネルの行動により一瞬固まった空気が彼女たちの登場により一気に溶けた。ハルナやのどか、夕映や木乃香にもみくちゃにされ、空気が一気に和んでしまった。そして


「ヨーコ、随分とご褒美奮発してたな?」


「あらシモン、ひょっとして・・・羨ましかった?」


――ピクッ!?

「いや~・・・そんなわけ・・・ない・・(羨ましかったです・・)」


ヨーコが少し意地の悪い笑みを浮かべた。その言葉を聞いてネギやのどかも思い出し、急に顔が真っ赤になり、そのことを皆にからかわれていた。シモンはシモンで否定はしたが、内心では違っていた。


「まあ、その話は置いといて、高畑さんも惜しかったですね」


「いや~、でも僕は大満足さ、君と戦えなくなったのは残念だけどね」


「はは、あんなの食らったら死んじゃいますって」


高畑と話すのは久しぶりである。当初不審者として警戒されたままの出会いだったが、今日は特になんのわだかまりも無く、普通に話すことが出来、内心安心した。


するとシモンは一つの視線を感じた。その気配の方向に振り向くとフードを被った男がシモンをジッと見ていた。


「あの・・・・・」


シモンが男に声を掛けると向こうから近づいてきて手を差し出した。


「初めまして、クウネル・サンダースと言います。よろしくお願いします」


「あっどうも、俺はシモンって言います」


差し出された手に少し戸惑いながら応じてシモンは握手をした。しかしその後はお互いに一言も口を開かない。お互い無言のまま何かを探り合っているような感じだった。

シモンの勘が言っていた。目の前の男は少し普通と違うということを。そしてそれはクウネルも同じなのかもしれない、ジッとシモンの目を見て、何も話そうとはしない。

その理由にタカミチとエヴァは気づいた。ひょっとしたらクウネルもシモンから何かを感じ取ったのかもしれないと。そしてそれは自分たちと同じ印象なのかもしれないと思った。


「ふふ、あなたとは・・・いずれまた・・・・」


するとクウネルは何も言わず軽く会釈だけしてシモンに背を向けアスナの下へ歩み寄る。


「ではアスナさん次はあなたの試合ですね・・」


「えっ・・はい・・・そうですけど・・・」


「心を無にして戦いなさい、そうすればアナタならきっと勝てますよ」


特に明確なアドバイスとは言えなかった、しかしその言葉は何故かアスナの頭の中に残った。しかしその言葉を聞き逃せないものがいた。


「そいつはどうかな?」


「シモンさん?」


「アスナのことは認めるけど、対戦相手を誰だと思ってるんだ?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・美空ちゃんよね・・・・」


シモンの自信満々の笑みに対してアスナたちは微妙な表情を浮かべる。


「いや・・・美空殿では・・・・・」


「う~む刹那ならまだしも美空じゃアスナに勝てないアルよ」


「この謎のシスター(春日美空)ってなっていて私たちも驚いたけど・・・・やっぱアスナでしょ~」


「まあ・・・今回ばかりはコイツらの言うとおりだな」


美空はどうやら相当過小評価されているようで、修行を始めてまだ2ヶ月足らずのアスナの勝ちだと皆予想していた。しかしシモンは違う。


「ナメんなよ?俺の妹で・・・アイツは新生グレン団を名乗る女だぜ?」















「―――とシモンさんは言っていますが・・・・大丈夫ですか?」


「ふふ、あの人は本当に、・・それでどうなんだ?」


刹那と龍宮はシモンたちの話を別の場所で聞いていた。そして彼女たちが見下ろす視線の先には一人のシスターが落ち込んでいた。


「兄貴~、プレッシャ~だっつうの~、ああ、逃げちゃおっかな~」


シモンの自信とは裏腹に当事者はまったくと言っていいほどやる気が無かった。どのようにしてこの場をやり過ごすか、美空の頭の中にはそれしかなかった。


「むっ・・・ヨーコさんも何か言っているようだ・・・何々?・・・あの子は・・・シモンが認めた子なのよ!・・・だそうだ・・・」


「だ~~~!ヨ~コさんまで~、あ~~~ど~うするっすかね~」


「まあまあ、美空さんも落ち着いてください」



「その通りです美空、情けない!」


「「「!?」」」


そこにはシャークティとココネがいた。


「美空・・・・気合を入レロ」


「ネギ先生の試合を見てあなたも何かを感じたはずです、それにあなたも・・・・その場の雰囲気でグレン団を名乗っているわけではないでしょう?」


的確な注意に美空はさらに難しい顔になった。やはり最初はその場のノリでグレン団を名乗っていた気がしないでもなかった、しかし徐々にそれを許されなくなってきた。すると美空のプレッシャーを感じてかシャークティがあるものを取り出した。それは・・・


「シスターシャークティ・・・・それ・・・」


「はい、シモンさんに言われて作っておきました。これを背中に貼り付けて戦いなさい」


シャークティが持ってきたもの、それはサングラスを掛けた紅蓮のドクロのマーク、グレン団のアップリケだった。


「こ・・・・こんなの夜なべして・・・・作ったんすか?」


「ココネも付けテル」


ココネはクルッと背を向けた、すると美空より一回り小さいグレン団のマークが黒衣の服に張り付いていた。これには刹那と龍宮も噴出して笑ってしまった。ちなみにシャークティは恥ずかしいので小さなワッペンにして胸に張っていて、普通にしていれば気づかないような大きさだった。この状況に美空は頭をポリポリ掻きながら、観念したかのようにシャークティからマークを受け取った。


「やるしか・・・ないっすね・・・」


「ええ、やるしかないです。大丈夫です、あなたを信じる私たちを信じなさい」


その言葉を聞いて先程まで逃げ腰だった美空の表情が変わった。美空は何も言わずに頷いて、親指を突き上げた。いつもの美空と違うその表情に感心した刹那たち、彼女たちも内心はアスナが勝利すると思っていたが美空の健闘を祈ろうと声を掛けようとした・・・すると龍宮が何かに気づいた。


「むっ・・・・控え室でシモンさんがモメてるな・・・何々?」















「残念ながら勝つのはアスナさんですよ・・・シモンさん・・」


「そんなこと・・・アンタが決めることじゃないぜ・・」


未だに一歩も引かないクウネルとシモン、二人とも互いの意見を曲げない。エヴァたちも本当はアスナが勝つと思っているが、シモンの性格も知っているために口を挟めずにいた。するとこのままでは埒が明かないと思ったクウネルは。


「では賭けをしましょうかシモンさん?」


「えっ?賭け?」


突然の提案にシモンは首を傾げる、するとクウネルは怪しい笑みを浮かべて・・・


「はい、当然私はアスナさんに賭けます、もしアスナさんが負けるようなことがあれば・・・・・皆さんにサウザンドマスターの情報でもプレゼントしましょう・・・」


「!?」


「な・・・なんだとキサマ!」


「お父さんの!?」


「アル・・・あなたは・・・」


その発言に全員が過剰に反応する、しかしシモンにとっては微妙な対象ではあったため取りやめようとしたら、エヴァとネギが詰め寄った。


「別に俺が知っても・・・・・」


「なに言ってるんだシモン!あのバカの情報だぞ!こうなったら是が非でも美空を勝たせろ!」


「そうですよ!こうなったら美空さんに・・・・「アホーーー!」」


思わず美空を応援してしまいそうになったネギだったが当事者のアスナに思いっきりぶん殴られてしまった。その様子をやれやれという感じでシモンも見ていたが、エヴァたちの気持ちも分からなくも無かったので了承した。どちらにせよシモンは美空が勝つと信じているからである。するとクウネルはニヤリと笑い


「そのかわり、あなたの妹さんが負けたときは・・・・・・ふふ」


邪悪な笑みを浮かべるクウネルはエヴァをチラッと見て、


「では会場のど真ん中でエヴァンジェリンにディープキスでもしてもらいましょうか?」


「・・・・・・・・・・・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・!?」


「・・・・・・・・えっ!?」


「「「「はああああああ!?」」」」


クウネルのとんでもない条件に一瞬石になってしまったシモンたちだが全員噴火したかのように声を上げる。


「ふふ、そこまで自信があるならこれぐらい簡単でしょう?ふふ・・・もし負けたら予選であれほどの漢を見せ感動を生み出したあなたも一気に・・・ふふふ」


「ちょっと待て!?勝っても負けても俺に全然得が無いじゃないか!!」


「どちらにせよ美空さんという方が勝つと思っているのでしょう?」


あくまで笑みを崩さないクウネル、どうやら相当性格が悪いようだ。すると賭けをする当事者や戦うアスナたちの意思を無視して他のものが盛り上がった。


「はあ・・・はあ・・・・神楽坂アスナ!」


「は・・・はい!」


エヴァンジェリンが息を切らしながらも強烈な殺気を放ちアスナの両肩を掴んだ。その迫力にガタガタと足を震わすアスナ、どちらが勝ってもエヴァにはおいしい展開である、しかしこの場は


「いいか・・・・・死んでも勝て!!負けたら・・・・殺す!・・・いいか、・・相手を殺すつもりでいけ!・美空は少し足が速いだけだ、キサマなら勝てる!」


「ぜぜ・・・・全力を尽くします・・・」


さらには、


「ごめんな~アスナ、・・・・・今日は・・・・美空ちゃん応援してくるわ~」


「あっ!?木乃香~~~~!?」


木乃香は親友を裏切り背を向け、美空を応援すべく探しに行った。ネギはネギで父の情報を知りたいがアスナも応援したいという葛藤の中で迷っていた。のどかと夕映は仲の良いアスナを応援、ハルナに関しては面白い方を、つまりアスナの勝利を顔をニヤけさせながら願っていた。タカミチや楓はあくまで中立な立場、ヨーコはヨーコでこの状況にくだらなさを感じため息をついた。


「おやおや、予想通り相当影響力がありますね・・・シモンさん?」


クウネルは一人不気味に笑っていた。


そしてこの裏側では。真剣な表情をした刹那が美空に何かを語りかけている。


「美空さん・・・アスナさんは私が剣を教えてまだ2ヶ月足らずです・・」


「はい・・・」


「とても熱心で才能もあります、しかしこのままトントンと成長してもいずれ壁にぶつかります、その挫折は早いほうがいいです」


クドクドと回りくどく言っているが刹那の言いたいことは一つだけである。刹那は美空の肩を力強く掴み


「いいですか?絶対に負けてはダメです!エヴァンジェリンさんにいい思い・・・ではなくアスナさんの今後の成長のために!」


「が・・・・がんばります・・・」


刹那は美空の応援組みになった。その真意を知る龍宮は必死に笑いを堪えていた。シャークティも当然美空応援組み、そしてクウネルの賭けを聞いた今はより一層美空にプレッシャーを掛けていた。そして


「あ~、ここにおったん?美空ちゃん」


「あっ、木乃香・・・」


「美空ちゃん、次の試合がんばっ・・・・・せっちゃん・・・」


美空の激励に来た木乃香は刹那の姿を見て固まった。両者の間に気まずい雰囲気が流れる、シャークティと龍宮はお互いを見合いどうなっているのかと首を傾げあっていた。少し躊躇いがちに木乃香が口を開く。


「美空ちゃん負けたらシモンさんが・・・・せやから美空ちゃんの応援来たんやけど・・・・せっちゃんも?」


「いえ・・・私はただアスナさんの剣の師匠として今後の成長を願って・・・」


刹那の言葉を聞いた木乃香は突然悲しい顔をした。


「なんで・・・なんでまたウソつくん?」


「ウソでは・・・」


「ウソや!!」


木乃香の声が響き渡る、その声は控え室にいるアスナたちにも聞こえていた。しかし木乃香は気にしない、そして


「せっちゃんはウチの一番の友達や・・・一番大切な友達って思とる・・・なのに・・・なんでウソばっか・・・せっちゃんはウチのことなんとも思ってないん?」


「そんなことありません!私もお嬢様を・・・・ですがシモンさんのことは・・・・・」


「そのことやない!ウチそのことで怒っとるんやない!せっちゃんがウチにウソばっか言うんが嫌なん!誤魔化したりするんが嫌なん!」


木乃香の気持ち、シャークティと龍宮にはようやく二人の間のわだかまりの正体に気づいた。


「修学旅行でせっちゃんの秘密知ったけど・・・これでようやくせっちゃんと昔みたいに戻れたと思っとった。せやから学校もいつもより楽しくなった・・・せやけどまだせっちゃんは一歩引いとる・・・ウソついたり誤魔化したり・・・今だってそうや・・せっちゃんはウチを信用しとらん・・・」


昨晩、木乃香は刹那の想いを知った、しかしあの場では怖い顔をしていたが怒る気など無かった、ただどうして今まで黙っていたのか、自分に遠慮していたのか?それを問いただしたかったのである。しかし刹那は本心を語ろうとせずに頑なに拒もうとした。昨晩もそれが言い合いの発端となり二人の間に気まずい雰囲気を作り出してしまった。そして今も刹那は誤魔化している、親友だと思っていたのにいつも本音を語ろうとしない、それが木乃香には耐えられなかった。

刹那のずっと隠していた背中の翼、そのことにどれほど刹那が苦しんでいたか木乃香は知らない、木乃香に嫌われると思ってずっと隠していたものだ、木乃香に嫌われないような行動を常にとろうとしていたが、それが逆に木乃香を傷つけるハメになった。


冷たい空気が流れる、刹那は木乃香に何も言うことが出来なかった。シャークティたちもそうである。その時、ようやくアナウンスが聞こえた。


『さ~て会場の準備が整いました!それでは次の試合の選手の方お願いします!』


朝倉の声が響き渡る、控え室にいるアスナやこの場にいる美空に、ようやく集合が掛けられた。気まずい雰囲気の刹那と木乃香、すると美空がグレン団のマークを背に二人に後ろ向きのまま語りかけた。


「わずかな勇気が本当の魔法・・・ネギ君そう言ってたね・・・・刹那さん・・、あのさ・・・兄貴にも同じ様なこと言われたこと無い?」」


「・・・・・はい・・・あります・・・」


修学旅行のときに刹那はシモンに諭されて少し前へ進むことが出来た、そしてその時に彼女はシモンを意識しだした。


「今の刹那さんさ・・・・なんつうか・・・かっこわり~っすよ・・・」


「!?」


言われなくても刹那は分かっていた。のどかや先程のネギの姿を思い出すと自分が恥ずかしく感じた。しかしイキナリ性格を変えることも出来ない、ましてや何年も嫌われたくないと思い続けていた相手なのだ、だから刹那が木乃香に対して一歩遠慮してしまうのは仕方が無かった。自分に背中の翼がある限りどうしようも出来ないと彼女は思っていた。しかし


「勇気を出せば私だって変われる、それが本当の魔法!私が見せてやるっすよ、踏み出した勇気と気合が無限の力となるグレン団の女意地!春日美空を見届けろ!」


美空はその場に背を向けリングへ向かった。その背中には彼女が生まれて初めて手にした誇りのマークが揺れていた。


「美空・・・ようやく・・・ようやくあなたも・・・」


シャークティは目頭が熱くなった。いつもやる気がなくメンドクサイなどと言って、争いごとにも我関せずだった教え子がようやく自分の意思で前へ進む決意をしたからである。修行も不真面目でイタズラ好きの劣等生、しかしシモンと出会い大きく成長した後姿を見せていた。その姿に感激していた。


「美空・・・・ガンバッテ・・・」


ココネも同じだった、いつも一緒にいる自分のパートナーが初めて見せる頼もしい姿を誇らしく感じた。


「見届けるよ・・・がんばってくるんだね」


特に親しいわけではない、そしてアスナたちと比べると龍宮にとってそれほど美空は印象深いクラスメートではない、正直言われるまで魔法関係者だとは気づかなかった、しかし今初めて春日美空という女を龍宮は認めた。


「踏み出した勇気がどれだけ人を変えられるか・・・・・見せてもらいます・・・美空さん!」


「美空ちゃん、がんばってな!」


美空はその言葉に振り返らずにただ拳を高らかに上げて応えた。その姿にシャークティたちは微笑を浮かべてリングサイドへ彼女の勇気を見届けるために向かった・・・。


しかし・・・当の本人は・・・・


完全に焦っていた。



(だああ~~~~!?どうすりゃいいんだ~~~!?兄貴の真似してカッコつけたのはいいけど、私が勝てるわけ無いじゃんか~~!?そりゃあさ~ああ言ってみたものの、ちょっと考えれば分かることじゃないっすか~、大体アスナは修学旅行の時点で既に私より強かったんすよ~?つうかシスターシャークティ涙流してたし・・・・どうすりゃいいんすか~~!?)


ちょっとカッコつけただけで「な~んてな、兄貴ならそう言うんじゃない?」で終わらそうかと思っていたがシャークティを始め彼女たちは真剣に感動してしまったようで今更撤回することは出来なかった。


(・・・・瞬殺されたら・・・どうしよ・・・・)


人は変われるが・・・・・そう簡単にはいかなかった・・・。





『さあ続いての試合を開始します!中等部きってのバカレンジャー、しかしその運動能力は桁違い!神楽坂明日菜!対するはいよいよベールを脱ぐ謎のシスター、クラスでも影が薄い彼女がいよいよ表舞台に現れた!春日美空!下馬評では神楽坂選手有利ですがはたして・・・・・」



「正体隠してたのに・・・・・」


完全に名前を公表した朝倉を涙目で睨み、美空は諦めて顔のマスクを捨てて構えた。


<神楽坂選手が人気を集めていますが豪徳寺さんはどう見ますか?>


<はい・・実は気になることが・・・・春日選手の背中のマーク・・・シスター服には変なマークですが・・あれは・・・>



美空のことを、ほとんどの者が知らない、そのため実名を公表されようとも素顔を晒そうともそれほど観客に大きな反応はなかった・・・・背中のマークを除いて・・・



素顔を出し観念した美空を見るアスナ


「いくわよ美空ちゃん!(悪いけど本気で行くよ・・・・アイツを守るために・・・・ここで負けるわけにいかない!)


「だあ~!もう破れかぶれだ!来いアスナ~~~~!」


リングサイドで見守るネギをチラッと見てアスナは美空に向けてアーティファクトのハリセンを構える。それに対して美空もアーティファクトの靴を纏い両者の準備が整った。


(いいですか、明日菜さん? 自分を無にするのですよ?)


「うわ!?」


身構えていたアスナは急に自分の頭の中に響いたクウネルの声にビックリする。


「(左手に世界を、右手に自分を。世界とあなたは一つです。自分自身をただの窓だと思えば……)」


「いきなり話しかけないでよ!! そんな難しいことを言われてもわかんないわよ!!」


「(ま、要するにぼうっとしろってことですね)」


「そ、それなら得意だけど……」


クウネルの意図は分からなかった、しかしアスナは言われたとおりにしてみた。すると自分の体が急に軽くなっていくことに気づいた。



『それではFight!!』


開始の合図が告げられる。


「しゃあ!先手必っ!?」


美空がアスナに開始直後に攻めようとした瞬間、美空の目が大きく見開いた。なんと自分が間合いを詰めようと思った瞬間にすでにアスナが目の前にいてハリセンが勢いよく振り下ろされる寸前だったからである。

反射的にバックステップで交わした、すると自分がいた場所がアスナのハリセンで陥没した。しかし驚いている暇は無い、アスナは美空が交わしたのに気づいた瞬間一歩大きく前へ踏み出し横からなぎ払う形でハリセンを振る。


「ちょっ・・・ちょっと待ったーー!?」


追撃の手に驚いた美空はなりふり構わずアスナに背を向けその場から駆け出した。


(まてまてまてまて!そりゃあアスナが凄いのは分かってたけどありえなくねえ!?)


「美空ちゃん!逃がさないわよ!」


「!?」


駆け出した美空の横にはアスナがピッタリと横に張り付いていた、アーティファクトを使っている美空のスピードにアスナがついていく、これにはネギやエヴァたちも目を見開いた。


「アスナ!?(ま・・・まじ?)」


(ウソ・・・体が軽い・・・それにこの感じ・・いけるかもしんない!)


急激にアップした力にアスナ自身も戸惑っていた。しかし刹那仕込みの剣術にさらにアップした自身の身体能力が徐々にアスナに自信をもたらす。


アスナのハリセンは逃げる美空の体を何度も掠めていく、アスナの攻撃から美空は逃げ回ることしか出来なかった。




「な、何故だッ!? 何故神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力がッ!? ただの体力馬鹿では説明が付かんッ!」


アスナ応援組みだが目の前の光景に納得できずにエヴァは叫ぶ、それはこの場にいるネギやシモン、師匠の刹那も驚いていた。


「スゴイ!私との鍛錬の時よりも遥かに優れた動きをしている・・・一体何が・・・」


「アスナって・・・・あんなに強かったのか?」


「ええ、あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」


笑みを浮かべてシモンの背後に立つクウネル、


「賭け・・・・・忘れてませんよね?」


「むっ!?そうだ・・・・このまま神楽坂明日菜が勝てば・・・いける!さっさとキメロ!!」


「あっ・・・・アカン!美空ちゃん!・・・う~でもアスナにもがんばってほしいし~う~」


「アスナさんがこれほどとは・・・・美空さんでは荷が重いかもしれませんね・・・・それにしてもアスナさんのあの力はまさか高畑先生と同じ・・・・」


完全なアスナペースの戦い、しかし今はなぜアスナがこれほど強いのか?それがネギたちは気になっていた。しかしクウネル以外にアスナの力を知る人物がもう一人いた、タカミチは目の前で急激な成長を見せるアスナをうれしいと同時に、少し寂しそうな目で見ていた。


『攻める神楽坂選手!春日選手イキナリ大ピンチです!』


(やば・・・・やっぱり・・・これ『咸卦法』!やべえ・・・・つうかなんでアスナが?こんなの喰らったらマズイって!?)


(いける!分かる・・・体からどんどん力が溢れてくる!これなら・・・・あいつの力になれる!)


皮一枚、紙一重、一撃ではなく鋭い連激でアスナの攻撃が繰り出される、今の自分に更に自信を持ったアスナは試合中でありながら立ち止まりクルット体を観客席のネギに向けて指をさした。


「いいネギ!ちゃんと私がアンタのパートナーとして守ってやれるってところを見せてやるわ!」


「えっ!?」


突如告げられたその言葉にネギは真っ赤になってしまった。隣にいるのどかは慌て、ハルナの目はいやらしく光、シモンたちはあっけに取られてしまった。


『おお~と、試合中に告白です!やります神楽坂選手!先程の試合での励ましといいどうやらラブラブです!いや~アスナやるね~~』


「・・・・・・・・・あっ・・・・ち・・・・・違がああああああああああう!」


アスナは慌てて自分の仕出かしたことに急に顔を真っ赤にして否定しようとしたが冷やかしとブーイングの入り混じった声が上がる。


「また子供先生かよ!?」


「なぜだ・・・・年下がそんなにいいのか!?」


「ヒューヒュー!」



「ああ~もう違うって!そうじゃないのよ~~」



「アスナ・・・なんか私はもう眼中にないっつう感じだね~」


一人試合中でありながら置いてきぼりを食らった美空は呆れたように呟く。


「なっ!?そんなことないって!?・・・・と・・いけないけない、今ので乱れてる・・・え~と・・たしか左手に魔力で・・・・右手に気・・・」


取り乱しながらも冷静に立て直そうとするアスナはクウネルのアドバイスを思い出し集中する、するとアスナの体が目で見えるほどの光に包まれる。


「あっ・・・できた・・・・」


「いや・・・・出来たってそれ・・・・やっぱ咸卦法じゃんかよ~~!?」






「何があったんやあのねーちゃん!?」


「うん、スゴイですアスナさん!」


「バカな!タカミチでも習得に数年かかったんだぞ!?」


「ハハ、アスナ君はもっと前から出来ていたよ・・・」


タカミチの言葉の意味は分からなかった、しかしネギたちはアスナの力を目の当たりにしとても興奮し声援を送っていた。舞台では再びアスナの激しい攻撃が繰り出されている、もはや決着は時間の問題だと・・・・一部の人間を除き思っていた。


「美空・・・、逃げんな、逃げてるだけじゃ勝てないぜ・・・・」


「おやシモンさん・・・まだ諦めて無いようですね?」


両手を握り締め逃げ惑う美空にハラハラしているシモンにクウネルはいつもの笑みを浮かべて尋ねる、シモンは美空が勝つと試合前に言ってみたものの、アスナの予想外の実力に不安になっていた。


「ああ~、そうそうアスナが勝ったらシモンさんマジでエヴァンジェリンさんに・・・くう~、見に来てよかった~!アスナ~、がんばれ~!」


「ふ・・・ふふ・・もう少しだ・・・この試合が終われば・・・・くくく・・・」


ハルナとエヴァンジェリンは賭けを思い出し顔をニヤつかせ、よだれを垂らしていた。エヴァは試合が終わる瞬間を今か今かと体をクネクネさせながら待っている、その姿に木乃香は必死で美空を応援するが効果は期待できそうも無い。


「まずいわね・・・・あの子が負けたらシモン・・・アンタ・・・」


ヨーコが顔を引きつらせながらシモンと息の荒いエヴァを交互に見る、その先は・・・・考えるのを止めた。


「やばい・・・・このままじゃあ・・・・俺・・・・」


「ふふふ、濃厚なのをしてあげてくださいね♪」


「ハーッハハハ!キサマも稀にいいことを言うではないか!早く終わらせろ神楽坂アスナ!」


シモンとヨーコもさすがに美空の勝利に不安を感じていた・・・美空が逃げ回っている以上勝ち目は無い・・・・そう思っていた・・・しかし


「まだ・・・試合は終わっていませんよ・・・」


リングを黙って見続けていたシャークティの言葉に皆が注目する。しかしその言葉はもはやそれほど意味は無いと思っていた。


「シャークティ先生、さすがに今のアスナ君には美空君では・・・・」


美空では勝てない・・・・・しかしその言葉をシャークティは肯定しなかった。


「高畑先生は美空の元担任でしたが・・・・どうやらあの子の力に気づいていないようですね?」


「なに!?」


「美空の・・・・力?」


「シャークティ・・・美空の力って・・・足の速さ?」


現担任のネギやシモンもヨーコも分からなかった、しかし彼らより一番付き合いの長いシャークティの発言は決して嘘には感じなかった。するとシャークティは一歩前出て一つ「コホン」と咳きをついて美空に向かって叫ぶ。


「少し失礼・・・・ふうっ~~、美空!!背を向けずに前を向きなさい!」


珍しく大きな声で叫ぶシャークティに少し皆驚き、言われた美空は急にビクっと肩を震わせ後ろを振り返る、この時アスナも驚き思わず攻撃の手を止めてしまった。


「美空!思い出しなさい!背中のマークは飾りですか?もしそうなら今すぐ脱ぎ捨てなさい!しかしそうでないのなら・・・・・今目の前にある壁から逃げずに立ち向かいなさい!」


「つっ!?」


美空の表情が少し変わった、それを見てシャークティは後ろに下がった。


「シャークティ先生・・・今のは?」


「気づいていませんでしたか皆さん?たしかに神楽坂さんの力には驚きましたが・・・・・一撃でも・・・・ただの一撃でも美空に入りましたか?」


「「「「「!?」」」」」


「あの子の力は逃げるためのものではありません、あの子にわずかな勇気と気合があれば・・・・・あの子も開花するはずです!」




『・・え~、どうも今大会試合中に叫ぶことが流行っていますが~、春日選手は果たして応えられるのか?』


シャークティにシンボルは飾りかと言われて少しガラにもなく美空は悔しそうに顔を歪めた。ネギやアスナに比べて今の自分の行動に後悔していた。


「美空ちゃん・・・悪いけど私は負けられない、・・・だから・・・・いくよ!」


アスナは再び高速で美空との間合いを詰める。


『神楽坂選手動いた!これは勝負に出たか!?』


すると美空は顔を上げて目の前を睨みつける。


「くっそ~~、・・・・・・・やってやるよ・・・・だって・・私は・・・・・グレン団なんだ!!」



叫ぶ美空は初めて逃げずにアスナを迎え撃つ、しかしアスナはもう目の前にいる、だが美空は逃げない。



(かっ~、もう目の前にいるよ!?アスナやっぱ強え~な~、あ~あ~せっかくやる気だしたのに結果はこれか~)


振り下ろされるハリセン、リングサイドではシモンとヨーコが必死になって叫んでいる。


(グレン団・・・・兄貴に入れてもらった時スゲ~うれしかったけど・・・私じゃ無理すぎたか~、まぁ元々熱血キャラじゃなかったけど・・・兄貴たち私にガッカリするかな~、シスターシャークティも今度ばかりは呆れるかもな~)


刹那と木乃香も叫んでいる。


(あっ・・・そういえば試合前に変にかっこつけて・・・私が見せてやる的なこと言っちゃったんだっけ?あ~あ、こりゃあ刹那さんたちにも顔向けできねえわ・・・)


エヴァがガッツポーズしている。


(そっか・・あのクウネルとかいう奴と兄貴は賭けしてたんだっけ?・・・私が負けたらエヴァンジェリンさんとキスか~、兄貴スマン!・・・)


もう一度シモンを見る、するとそこには未だに美空に向け何かを叫んでいた。


(何で私なんかを信じたんだろう兄貴は・・・・家族だから?それともグレン団だから?・・・・でも私は・・負け・・・!?・)


その瞬間美空はハッとした。


(賭けとかそんなの関係ないじゃん!?私が負けたら私は・・・・・私を信じてくれた兄貴を裏切る・・・・・兄貴を・・・口だけの男にしちゃう!?そんなの・・・・絶対だめだ!私が周りにどんだけ失望されようと・・・・裏切っちゃダメだ!そして兄貴を口だけになんて・・・・絶対にしちゃダメなんだ!だって私は・・・・兄貴の家族なんだから!)


美空は込み上げてくる悔しさと涙を交え賢明に抗おうとする、アスナのハリセンが一発当たれば敗北は必至、しかし自分の背負ったものに気づいた美空は懸命に前を向く。


そしてあることに気づいた。


(・・・つうか・・・さっきから私どんだけ心の中で独り言を言ってるんだ?これってあれか?死ぬ前に時間がゆっくり見えるっつう奴か?それよりアスナの奴まだ攻撃してねえよ・・・)


アスナは既に目の前にいる、ハリセンも振り下ろしている、しかしそれが一向に落ちてくる感じがしない。この事態に美空も異変に気づいた。


(なんか止まって見えるような・・・・つうか攻撃できないか?・・・えっ・・・していいのかな・・?・・・・)


美空は戸惑いながらも右手を伸ばしアスナのハリセンを持ち振り下ろす両手首を腕を伸ばし掴み取った。


「「「「「!?」」」」」


そしてそのままがら空きになっているアスナの腹部に膝蹴りを入れる。



―――ドスン!!!!


「うぐッ!?・・・えっ?・・・なん・・・で・・あっ・・・・うっ・・・・あっ・・・」


「えっ?・・・あれ・・・入った・・・」


両者何が起こったのかは分からなかった、攻撃を当てた美空自身も驚いている。しかしアスナはそれ以上である、自分の勝利をほぼ確信した瞬間に突然腹部に強烈な痛みが襲い掛かっていた。一瞬息が止まり胃液が逆流するほどの衝撃を感じた。どうなったかは分からない、しかしアスナは襲い掛かる衝撃に耐えられずその場に倒れた。


「なっ・・・今・・・美空さんは・・・何を・・・」


「おい・・どういうことだ!?・・なぜ・・・春日美空が・・・・」


会場中が静まり返った、九分九厘勝敗の見えた試合で突如相手が倒れた、そのことにタカミチやクウネルすら顔色を変えていた。しかしシャークティだけは違った。


「おい・・・シャークティ・・・」


「皆さん驚いているようですけど・・・・・あれがあの子の力です」








『え~・・・・何があったか・・・・え~と・・・とにかく春日選手の一撃により神楽坂選手ダウン!カウントを始め「まっ・・・・待って!」』


朝倉の声を必死に遮るアスナ、彼女は激痛に顔を歪めながらヨロヨロと立ち上がった。気分は最悪に悪い、今でも呼吸がままならない、しかしそれでもアスナは意地で立ち上がった。その姿に観客から拍手が送られるが、今のアスナにそれを気にする余裕は無い。


(なにがあったの・・・・美空ちゃんがイキナリ・・・・・やばい・・・凄くきつい・・でも・・・負けてられない!)


アスナは再び体中に覚えたばかりの気を流した。戦う意志を消さずに再び武器を構える。しかし美空は心ここにあらずといった感じで呆然としていた、彼女は彼女で今の出来事にまだ整理がついていないでいた。


「美空ちゃん!はあ・・はあ・・・くっ、余所見は命取りよ!」


「あっ・・・」


歯を食いしばりアスナは戸惑う美空にハリセンを振り下ろす。アスナの声に気づいた美空はチラッとアスナを見て紙一重のところでアスナの攻撃を避ける。


「まだまだーー!!」


一歩踏み込んで突きを美空に打ち込む、しかしまたもや美空は当たる寸前に真横に回避する。


「くっ!?やるわね~、でも横!」


真横に回避されてもアスナは体制を崩さずハリセンをそのまま真横になぎ払う、だがその攻撃も美空はその場に屈んでやり過ごした。


「ウソッ!?・・・・くう~~!?」


しかしそれでも当たらぬ美空にアスナは顔を顰め、ついには刹那に習った剣道の動きを忘れブンブンと無闇に剣を振るう。


(だんだんアスナの動きが単調に・・・これは振り下ろして横になぎ払うだけ・・・・・あれっ・・・アスナって・・・もっと速くなかったっけ?・・・)


(ウソッ・・・なんで?・・・・なんで一回も当たらないの?・・・)


『繰り広げられる神楽坂選手の連激!上下左右に一瞬の間も無く繰り出される高速の剣!しかし・・・・しかし・・・」


振り下ろす、振り上げる、なぎ払う、突く、ありとあらゆる乱れた剣、しかしそれを美空は皮一枚、紙一重、ギリギリのところで交わしていく。この光景にさすがの観客も異変に気づいていた。そして戸惑いながらも少し落ち着いてきた美空も、


(反撃・・・してみようかな・・・・)


雑になったアスナは更に守りの手がおろそかになり隙だらけである、そのため美空は足を踏み出す。


「えっ!?消えた!?」


その瞬間アスナ目の前から美空が消えた、しかし次の瞬間自分のわき腹に衝撃が走る。


「うぐっ!?」


衝撃にアスナは耐えられずにわき腹を押さえながらその場を飛びのく、すると自分の真後ろにミドルキックの体勢で美空が固まっているのを見た。その時自分の受けたダメージが美空によるものだということに気づいた。


「美空ちゃん・・・・・なんで・・(ウソ・・・見失った!?・・・なんで?さっきも一回も当てられなかったけど・・・・・さっきとは全然違う!・・・)・」


急にレベルアップしたかのような美空に手も足も出ないアスナ、ただ呆然と美空を見ることしかできなかった。そして美空は今の一撃で確信した。


(これがアスナのスピード・・・・やばい・・・・止まって見える!)


今度は美空がアスナに急接近する、アスナもハリセンを掴み直線的に来る美空をなぎ払おうとするが、その瞬間再び美空が消えた。先程と同じだと思いアスナは慌てて後ろを振り返るがそこにもいない。アスナがキョロキョロ辺りを見渡すと


「上だよ・・・・アスナ!」


「えっ!?」


「流星脚!!(思いつき)」


アスナが上を向いた瞬間そこには美空の足があった。美空はアスナの攻撃を上空に交わし、そのまま反撃の足を出していた。気づいたときにはもう遅い、避けることなど出来るはずもなくアスナは顔面を蹴り飛ばされ、リングの上を激しく転がった。


『なんだ~~!?なんと春日選手が急にレベルアップ?見違える動きで神楽坂選手の攻撃を交わし追い詰めました!』


「すげえ!なんだあのシスターの姉ちゃん?さっきから一発も当たってねえ!」


「あのハリセンの姉ちゃんもスゲエ速いのについて行けてねえ!」


「速すぎだぞ!あのシスターはまるで板○学じゃねえか!?」


「いやあの驚異的なカットはアイシー○ド21だ!是非アメフト部に!」


<解説の豪徳寺さん、この事態をどう思われますか?>


<はい・・・急に春日選手の動きが優れてきました・・・そして分かるのは春日選手と神楽坂選手がお互いに体感しているスピード、言い換えれば体感している時間が違っているように見えます>


解説席から茶々丸と豪徳寺が意味不明な会話を始めた、しかし


「当たってます」


「「「「「「はあ!?」」」」」」


なんとシャークティが豪徳寺の解説を肯定した。


「美空のアーティファクト・・・足を速くするだけの地味なものにしか見えないですがとんでもありません!あの力があるからこそ・・・美空は我々でも目にも止まらぬ高速の世界を常に体感しています」


「こ・・・高速の世界?」


「はい、本来なら加速した自分の動きに自分の目がついていけません、しかしあの子はそれを苦もなく使うことにより優れた動体視力を手に入れました」


シャークティの解説に皆がゴクリと唾を飲み込む、そしてその解説の意味が分かったものたちは口を開いてくる。


「拙者らが全力のスピードを出すのは戦闘中のほんの一瞬だけでござる、攻撃を交わすか当てるか、回り込むかだけ・・・・・しかし美空殿は日常生活で多くの時間に使用している・・・ということでござるか?」


「アスナの攻撃をギリギリで交わしているわけではない、アイツはアスナの攻撃を必要最低限の動きで交わしている・・・ということかい?」


長瀬と龍宮は冷や汗をかいていた、美空の力は彼女たちにとってそれほど衝撃に感じていた。


「あの~どういうことですか?」


「普通戦いでは相手の動きを読み取ることが重要アル、相手の視線や僅かな肩の動きなどを予測すること、しかし美空は予測しないで攻撃を見てから交わしているアル、つまり・・・・アスナのあの攻撃を完全に見切ってるアルヨ・・・・」


古の解説にシャークティは頷く。


「あの子は戦闘経験が乏しい上に元々好戦的な性格ではありません、そのため戦いでは相手を見ずに逃げることばかり考えていました」


「・・・・なるほど、しかし今シャークティ先生の激により、対戦相手のアスナさんに集中した美空さんはようやく自分の力に気づいたと?」


「はい、あの子も戸惑っていたようですけどようやく自分の高速の世界に気づいたようです」


「ちょっと待てや!たしかにあの姉ちゃんも速いが遠目から見たら消えたなんて思うほどやないで?瞬動の方が速いで!」


しかし小太郎の疑問をタカミチが否定する。


「瞬動は走るというよりも前へ跳ぶというイメージだ、そのため急な方向転換は不可能という弱点をネギ君との試合で言ったね?しかし美空君は本当に走ってる・・・・つまり常に大地を蹴っている・・・ということになる」


「?」


「つまりタカミチ君の言いたいことは常に大地に触れている彼女には急な方向転換が可能。スポーツで言うカットやフェイントなどをあのスピードで目の前で織り交ぜられたら本当に消えたように感じる・・・ということですよ・・・」


「走るだけの能力・・・しかし言い換えればその能力に特化したものと言える・・・それを逃げるためでなく戦闘に使用されれば手がつけられなくなる・・その上その動きに本人がついていけるだけの目も備わっている・・・バカな・・あの小娘にそんな力が・・・・」


相手が攻撃をしても簡単に見切り回避できる、自身も簡単に相手の裏へ回りこみ攻撃をすることが出来る、単純計算でキックはパンチのおよそ四倍、さらに高速で大地を蹴り、本人の気づかぬうちに鍛えられあげた美空の脚力をスピードに乗せて蹴れば威力は絶大、体を強化したアスナが生身の美空の攻撃に大ダメージを受けたのはそれが理由である。


「決してネギ先生や神楽坂さんのように向上心や努力をしてあの子は強くなったわけではありません・・・大した努力や志を持たずに、たった一つの出会いと勇気を持つキッカケだけで、あの子は才能を開花させてしまった」


シャークティはネギを、そしてシモンを見る。そして衝撃の一言を。



「ネギ先生のような全ての才能に優れたオールラウンダーの天才とは違うタイプ、・・・それは高畑先生のような技を磨いた達人とも別のタイプ・・・・」


「まさか・・・美空は・・・・・」


「はい・・・・・、その分野のみなら天才を上回るスペシャリスト!・・・・それがあの子の正体です」


「「「「えええええ!?」」」」


ついにベールを脱いだ本人も知らなかった美空の正体、驚愕の事実を知った彼らの目に入ったのは、走りに迷いが無くなった美空の軽快な動きだった。


(やべえ・・・アスナの動きが手に取るように分かる・・・なんでも出来る気がする!)


美空はアスナの周囲をサークル上に回り囲む、瞬動と違い目で視認できるため、自然とアスナは目で美空を追ってしまう。しかし徐々に自分の周囲で加速する美空の動きについていけず、挙句の果てには美空が複数見えるようになってきた。円の動きで風を発生させる美空、頃合を見計らい徐々に円を小さくしてアスナに迫り、そして


「疾風の竜巻撃!!(思いつき)」


モーションの小さい蹴りを前後左右ほぼ同時に当てる美空、どんな攻撃を受けたかは分からず、ただジワジワとあらゆる場所から同時に襲い掛かる痛みに耐え切れずアスナは倒れこむ。そして倒れこむアスナの腹部を美空は屈んで一気に蹴り上げる。


「ラストーー!昇竜天元脚!!(思いつき)」


ドスンと鈍い音を響かす衝撃、もはや咸卦法など関係なしにアスナにダメージが伝わっていく。


「ごほっ!?・・・うっ・・・・つ・・・つよ・・・」


蹴り上げられたアスナは宙に舞い地面に叩きつけられる。一瞬の静寂を置いて天に向かって蹴り上げる美空の姿に会場が歓声を上げる。


『なんと神楽坂選手ダウン!一見地味なキャラかと思いきや豪快な高速の技を繰り出す春日選手に歯が立ちません!神速の美空ここに参上!!』


「やべえ・・・私・・・超かっこよくね?」


蹴り上げた体勢を崩さずに美空は自分の姿に感心してしまった。しかし誰もそのことに異論を挟めずに開花した美空の姿を見ていた。開いた口が塞がらないとはまさにこのこと、シモンもヨーコも美空の驚異的なアビリティに唖然としていた。




倒れこんだアスナは徐々に意識が遠のいく、たとえ起き上がったとしても勝てる気がしなかった、


しかしそんな時彼女の頭の中に一つの映像が流れた。


『よぉ、タカミチ。火ぃ、くれねぇか? 最後の一服、って奴だぜ』


 フゥ、と白い煙がその人の口から噴出す。小さく笑い「うめぇ」と、呟いた。


『さぁ、いけや。此処は、ここは俺が何とかする』


その男は死の間際にいた、おびただしく流れる血の量がそれを物語っていた。そばにいる青年が体を震わして涙を堪えている。しかしその場にいる幼い少女の目からは大粒の涙がこぼれていた。
 

『………なんだよ、嬢ちゃん。泣いてんのかい? 涙を見せるのは、初めてだな』


その人物が誰かは知らない、見覚えがあるが思い出せない、しかしアスナの夢の中の少女は懸命に男の名を叫んでいた。
最終更新:2011年05月10日 14:56
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