その1
シングラ
「き、君?ま、まさか…僕が見えるのか!?君には、僕の存在が見えている…そうなのか!?」
キトゥン
「え!?見えてますけど…それが何か…?なんですか?まるで自分のこと幽霊みたいに…」
シングラ
「やっと…やっと!今、僕を認識出来る人間に出会えた…!長い間、さまよい続けて今やっと…!君は一体、何者なんだ!」
キトゥン
「何者…?えっと、とりあえずキトゥンって名前で生きてますが…」
シングラ
「キトゥンくんか、そう、まさに僕は幽霊だったんだ!君に会うまでは!僕という存在を誰も見ることは無かった!」
「…すまない、何を言っているのかわからないだろうな。」
キトゥン
「はい…まったく、さっぱり、ちっとも何を言われてるのか…」
シングラ
「順を追って説明させてくれ、僕の名はシングラ、科学者だ。僕が実験の最中に起こしてしまった事故…それがすべての原因なんだ。」
「事故のすさまじい衝撃で、僕と…そして多分、僕の妻も本来の時空間から少しズレた別の空間へとはじき飛ばされてしまったようなんだ。」
「僕は別の時空間にいて、君達を見つめることしかできない…元々この世界は、強い重力場の影響を受けていて場所によって時間の流れが違うということ…も 関係 が」
キトゥン
「わっ!ちょ、ちょっと!」
シングラ
「ん?どうかしたかい?」
キトゥン
「あ、あの、ごめんなさい!シングラさん!今、一瞬、シングラさんが消えたような気がして… 私の目の錯覚…?」
シングラ
「今、君と僕は、別々の時空が偶然にも… 重…なっ た 不安 定な」
キトゥン
「あっ!やっぱり消えた…」
その2
シングラ
「今、君と僕は、別々の時空が偶然にも重なった不安定な状態を共有している...それだけに、どんな不思議なことが起こってもおかしくない。」
キトゥン
「え?ええと、シングラさん、また、お会いできて良かった...です。」
シングラ
「ん?何を言ってるんだ?さっき出会ったばかりじゃないか。それから君はずっと僕の目の前にいて話を…」
キトゥン
「…わたしはずっとシングラさんの前にいたってことですか?でも、わたしの目の前でシングラさん消えちゃったんですよ?それで、今、また会えただけで…」
シングラ
「ううむ…そうか、僕がずっと君を見ているつもりだがあくまでそれは僕の時空からみた状態で実は、僕の知らない時空を君は生きているというわけか…」
キトゥン
「それって、わたしの方が時空をいっぱい使えるってこと??」
シングラ
「ううむ…君が、自由自在にそちらの時空と僕の今いる時空を行き来できるならば、それも可能だが…そういうわけではないだろう。」
「こうしている間にも、実は君は僕の…目の…前か ら」
キトゥン
「あ…また消えた!…でも、シングラさんから見るとわたしはまだシングラさんの目の前にいる…ってこと??」
その3
シングラ
「こうしている間にも、実は君は僕の目の前から去り別の場所に移動し、別の時空をすごしているのだな…」
キテゥン
「実は今も、わたしからすると久しぶりのシングラさんだったりするんですが…」
シングラ
「おお?そうなのか…!僕の意識から、その現象を知覚することはできないが君の意識からすると、ずいぶんと僕は奇妙な存在だろうな。」
キトゥン
「ほんとそうですよ!突然、消えたかと思うと、また突然、現れて…それも予測もつかない、そんでもないところで再会だし…」
シングラ
「ううむ、人工的に重力エネルギーを発生させ高密度の重力場を生み出す…という僕の実験がこのように空間を歪ませる原因になって…い…る のは 確か」
キトゥン
「人工的に重力エネルギー?空間が歪む?なんかとんでもない実験…」
その4
シングラ
「このように空間を歪ませる原因になっているのは確かだ。なんとか妻を見つけ出し、元に戻る方法を探させねば…」
「あの事故と同じ状態を再現さえできれば良いんだがこれがなかなか難しい…すべての機材は事故で失ってしまったからな…」
キトゥン
(また、わたしがずっと目の前にいたことになってる…?)
「うーん、大変ですね…」
シングラ
「しかし、こうして誰か…キトゥンくん、君と出会えたことで僕は希望を見出した気分だよ!こうした偶然を僕はただの偶然と…は 思わ な」
キトゥン
「あ…そう言えば妻って…もしかして…!あれ?何だろうこの感じ…思い出せるような思い出せないような…」
その5
キトゥン
「あ、あの、シングラさん!」
シングラ
「どうした、キトゥンくん?もしかして、今の君は、しばらくぶりの君なのか?」
キトゥン
「そう、そうなんです!で…、今度、お会いできたら聞こうと思ってたんですが…会ったはずの人を忘れたり、会ってないはずの人を思い出す…」
「 …そういうことってないですか?わたし、シングラさんとお会いしてから何だか記憶がグルグルしてきてヘンな感じになることが…」
「わたし、シングラさんの奥さんらしき人にあった記憶が…でも、本当は会ってないかもしれなくて…あぁ〜うまく説明できない!」
シングラ
「なに!?妻に会った!?どんな様子だった?元気なのか?」
キトゥン
「元気だった気がします…何回か見かけた気もするし、一回だけだった気も…でもそれが本当に体験したことかよくわからなくて…」
シングラ
「ううむ…君が僕や妻と接触することで、なんらかの障害が発生し、時間の連続性が崩れているのかもしれないな…」
「常に未来に向けて時間が流れている…世の中ではそう思われているかもしれないが例えば、Aの次はB、そしてC…と連続す…るは ず が」
キトゥン
「するはずがーー……しなかったり、しちゃう…とか…そういうこと!?う〜ん、またシングラさんを捜すしかないか…」
その6
「例えば、Aの次はB、そしてCと連続するはずがBを飛ばしてCへ行ったり、また、Aへ戻ったり…そのようにして連続性が壊れてしまった場合」
キトゥン
「…壊れてしまった場合?」
シングラ
「未来の記憶が君の脳内に残っていたりまだ来ていない過去という時間帯が存在したりと君が今、体験している混乱が生じる可能性はある。」
「君はどこかで僕の妻と出会っている…また出会うのか…と言うことは、妻は生きている!僕と同じように時空を…さまよっ…て い る」
キトゥン
「…ううん?よくわからないけど、そういうこと?何だか時間ってもっとちゃんとしたものだと思ってたけど…」
その7
「僕と同じように時空をさまよっているのか…妻も…孤独に耐えられていれば良いが…僕は妻を研究の巻き添えにしてしまったんだ…」
「村の人間が皆、僕の考えを理解せず、あざ笑っていた時妻だけはずっと見守ってくれた…そしてそれを当然だと思い込んでいたんだ、僕は…」
キトゥン
「人工的に重力エネルギーを作って、空間が歪んじゃうような研究ですもんね、それは周りの人も普通は理解してくれなさそう…」
シングラ
「何も知らない者は笑うかもしれないが…そもそも、僕が重力の研究をはじめたのはいつか訪れる災厄から世界を…救う た め」
キトゥン
「災厄って…重力嵐やネヴィ…のこと…?それとも…?」
その8(終)
「いつか訪れる災厄から世界を救うためだったんだ…!この世界は長い時間をかけて沈んでいる!」
「濃密な重力エネルギーに…充ち満ちた……がすべてを……しま う。逃れ…る術を今は 誰も 知らない。」
「……!? キトゥンくん! まただ! またアレが来たぞ!」
キトゥン
「え!? アレって?」
シングラ
「あの事故の時と同じ、また別の時空へのジャンプだーー キトゥンくん! いつかまた 会える そ の時 妻に 頼…む あい し て」
キトゥン
「シングラさん!」
「…妻に頼む、愛してる…だよね…? またいつか…シングラさんに会える…のかな?」
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