「…………」
流石の神乃木も、目を丸くして千尋の言葉を受け止めていた。だが、やがて柔らかな溜息を吐く。
「クッ…………」
軽く笑ってから、コーヒーカップに手を付ける。
「流石のオレも、熱烈恋愛中の女を口説く事は出来ねえな」
「………」
「………」
二人はしばし、黙りこくる。
(ど、どう思ったかしら……)
別に、試した訳ではない。
千尋は、心からこの目の前に居る男性を好いている事に気付いたのだ。それを、素直に伝えただけだ。返事が
どうであろうと、千尋は自分の想いは伝えようと思っていた。
「………クッ」
かろうじて神乃木はそれだけ笑って、手に取ったコーヒーカップを口に持って行き、それを一口飲む。
きっと、苦い思いをしているのだろう。コーヒーの苦味と同じくらい、いやもしかすると、それ以上の苦味を感じて
いるのかもしれない。
「神乃木さん……わたしは…神乃木さんが、好きです」
まるで、恋愛漫画の告白のように、拙いような、でも魅力的な告白。
千尋はもう一度、自分の想いを神乃木に伝えた。
もしかしたら、彼女が既に居るかも知れない、と言う考えを捨てた訳ではなかった。居るであろうと言う事も考えて、
千尋は告白したのである。
それがどれだけ互いに辛いかも分かっている。でも、千尋は自分の想いに向き合い、受身で終えようと思っていた心を
打ち負かす事が出来た。自分で立ち上がり、自分で伝える勇気を手に入れた。
だから、伝えられる。
「………………」
長い事神乃木は黙って何度もコーヒーを口に含んでいた。そして時々、溜息を吐く。
「……千尋」
「何ですか」
答えがどうであれ、千尋は受け止めようと思った。
「……その男の、何処が好きになった?」
「……」
「まさか協力してもらったって言う情にほだされて、それを好きと勘違いしてるんじゃないのか?」
「そ、そんな事ありません!」
千尋は甲高い声になって、思わず机を叩く。
「そんな事、ないですけど……でも…」
「でも、何だ?」
「でも、人を好きになるのって、理屈抜きだと思いません?」
「…………夢見るような返答だな。オレは何処が好きになったか聞いているんだ。理屈じゃねえ」
「……何処、と言われても…」
流石の千尋も困惑する。
何処が好きになったかなんて一概に言える物ではない。
言い切れないほど、千尋は神乃木の事を……
「神乃木さんだからです」
「……理由になっちゃいねえな」
「いいえ!」
千尋は机をばしん、と強く叩いてから立ち上がる。その形相に、思わず神乃木もごくりと生唾を飲んだ。
「これがわたしの言える、『神乃木さんの何処を好きになったのか』です!」
その強気な発言に、神乃木は持っているコーヒーカップを動かす事すら出来ずにいた。そんな神乃木の様子をちらりと
見ながらも、千尋は胸の鼓動を抑える事が出来なかった。
「フォローを入れてくれる時、わたしの事をからかっている時…『神乃木 荘龍』さんの全てが好きなんです!」
何処が好きかと言われると、とても困る。
それは、千尋にとって神乃木が何よりも愛しい者で。
そう、全てが愛しいから。
それが、千尋の答え。
(想いは伝えた、何処が好きなのかも……)
そう思いながら、千尋は顔を下げ、ゆっくりとまた座る。
断わられても良い。
そう考えられるのは、自分の想いをきちんと言葉に出来たから。
(そりゃあ…断わられたらショックだけど……神乃木さんの事だもの、真剣に言えば偽り無く答えを見せてくれる)
それは、今まで彼と共に過ごした時間が証明している。
「……………」
神乃木は先程からずっと黙ったままだった。言葉を探しあぐねているようにも見えたし、ただ時間を費やしているだけの
ようにも見えた。つまり、それだけ神乃木は千尋の言葉に対する受け止めを見せているという訳だ。
だから、待つ。
「……いたずらなコネコには世話をする奴が必要だろ」
「え」
「目を離すと何をするか分からないような…そんなコネコが居たら、アンタだって世話係を付けたいと思うはずだ」
「……………」
普段の、少し見当の付かない例え話。
その例え話を聞いてから、千尋は何を伝えたがっているのか、考え付こうとした。
「勿論世話係だってそのコネコを世話しようとするだろう。被害をこうむるかもしれないし、コネコが自分のした悪戯で
逆に被害をこうむるかもしれないからな」
「…そう、ですね」
「最初は誰だってそうさ。ほんの小さな切欠、下らない接点。それだけが行動を作り出す」
「……」
「オレも……最初はそうだった。アンタの『教育』をするために、わざわざ一緒に居た」
「!」
神乃木の言っている事は、何を伝えようとしているのか。
僅かながらに見えた答えに、千尋は動揺を隠せない。
「先輩だから、新米の後輩の面倒を見る事は、ごく自然な事だった。アンタに対して何の後ろめたさも、下心も無しに
触れてやろうと思ってたのさ」
後ろめたさも、下心も無く。
その言葉は、明らかに千尋の発言に対して、マイナスの表面を持っていた。
「……なのに、アンタはひょいひょいとオレの手をすり抜け、腕をすり抜け……遂には心に入り込んじまった」
「それは……って、え?」
心に、入り込む。
「分かるか。アンタはやっちまったんだ。オレの心に、じゃんじゃん踏み込んで、忘れさせなくしちまった」
神乃木が何を言っているのか、千尋には瞬時には理解出来なかった。それは今までの話の流れに含まれていたマイナスの
表面が一気に取り払われてしまったからかもしれない。
ただ、何となく分かったのは、彼もまた、心からの何かの告白をしようとしていると言う事。
「…………一方的に告白、何て言うのはオレのルール違反、だぜ」
神乃木が、千尋の目を見据えながら唇の端を持ち上げる。
「アンタが『神乃木 荘龍』の事が好きなように…オレも『綾里 千尋』が好きになっちまったのさ」
「え………」
「勿論、何とか流何たら何かじゃねえ、『弁護士』の綾里 千尋の事が、好きになっちまったわけだ」
目の前の男性は、何を言っているのだろう。
千尋の思考が、ゆっくりと目の前にいる神乃木の……『弁護士』神乃木 荘龍の言葉を加味し、それを『理解する』と言う形に
まで練り上げて行く。
好きになった。
『弁護士』の綾里 千尋の事が。
「好きだぜ、千尋」
『弁護士』神乃木 荘竜が。
千尋の事を、好きだと。
まるで、恋愛漫画の告白のように、魅力的な告白。
彼女が思っていた男性は、彼女の事を思っていて。
つまるところ、お互いに想い合っていたと言う事。
「先輩…………………」
かろうじて、千尋は小声で、かすれた声で、神乃木の事を呼ぶ。それは、『見合い相手』の神乃木に対してではなく、同じ職場の
先輩でもあり、想い人でもある神乃木の事だ。
つ、と涙が千尋の目尻から頬を伝い、零れ落ちる。
それは、決して哀しみなどではなかった。
神乃木の指先が、千尋の頬を伝ってこぼれ落ちた涙の後をなぞる。神乃木の指にぬぐわれた涙の跡は、神乃木の指先にかすかな湿り気を帯びさせる。
そのまま神乃木の手が、千尋の頬に添えられた。その瞬間、千尋は自然とまぶたを閉じた。
どちらからこうしようと言ったわけでもないのに、自然と二人は口付けを交わし合う。互いの唇は柔らかく、温かかった。
ただの、触れあう程度のキスだが、それでもすでに千尋の気持ちは高ぶっていた。
何せ、憧れの大先輩であり、ずっと一緒に居た神乃木と想いを交わしあい、その想いは交わっていたと言うのが分かったのだから。
それだけでもかなり感情を抑えきれないのに、その上自然とキスにまで繋がる。
(先輩の唇、温かくて優しい感じがする……)
今まで仕事の方に根を注いでいて、男関係など見向きもしなかった。そうする暇が無いほど、新米の千尋には今の生活が少し慌ただしく、
そしてそんな中で『母の仇』を見つけ出さなければならなかったのだ。
けれど、そんな周りが見えなくなりそうな生活の中にも、神乃木はずっと傍らにあった。気付けば、からかいも支えも全てしていた。
この目の前の男性が。
千尋は神乃木の首に腕を回し、まるで離れないようにと言わんばかりにしっかりと抱きついた。
その反応に、神乃木の方も千尋の事を抱きしめてくる。
千尋の唇に、神乃木の舌先が押し付けられた。
「ん…………」
千尋にとっては何もかもが始めての事で。
こうしたキスがある事は、まあ何となくは分かっていた。だが、まさか実践する事になるとはこれっぽっちも昔の千尋は思っていなかった。
閉ざされた千尋の視界では、相手の温もりが全てだ。そしてその温もりは千尋の事を抱きしめ、そして千尋を感じようとしている。
千尋の唇は、おずおずと開かれた。そこをすかさず、神乃木の舌が滑り込む。
形の良い、硬質の物体の形をなぞりながら、神乃木の舌が千尋の口内中央へと進んでくる。その舌が千尋の歯を優しく撫でるたび、
千尋の口内を千尋の唾液と神乃木の唾液が混ざり合い、本人達の肉体よりもいち早く一つとなる。
「ふ、ぅうっん……」
まだ少しも経っていないのに、こんなにも息苦しく思えるのは、それだけ気持ちが急いているからであろうか。千尋の唇の隙間から、吐息と声が漏れ出る。
そんな隙間すら与えるのも惜しく思えた神乃木は、更に自分の唇を押し当て、なおかつ千尋の頭を引き寄せる。
やがて、神乃木の舌は千尋の歯をなぞる弄びを止め、千尋の温かくぬめった舌へと己の舌をすり付けた。
「んううっ……!!」
いきなりやや硬めの軟体物が己の舌にすり付けられ、千尋はそれに驚いて声を上げようとする。
だがすでに千尋の唇は神乃木の唇に覆われ、その響きすら飲みこまれている。
慣れない大人の口付け。当然千尋は戸惑ったが、しかし神乃木の優しい愛撫に、千尋は緊張を解く。
緊張しきった肩を何とかして撫で下ろし、力を抜いて神乃木の腕にそっと身体を預ける。
千尋自身は知らなくても、千尋の中の『雌』はこの行為に対する己の行為を知っているのであろうか。口内に訪れた神乃木の舌に千尋も
自身の舌をすり付け、唾液を混じり合わせ、舌を交わらせる。
それは、手を繋ぐよりもっと密着した行為。
(クッ……こいつはナカナカ……スジがいいじゃねえか…)
知識がないから結構苦戦するかと思っていた神乃木は内心、千尋の感度の良さと技術に文字通り舌を巻いていた。だがそれ以上に彼は
千尋との口付けだけですでに欲を高ぶらせつつある。
「んん、う、ふっぅ………」
千尋の苦しげな、くぐもった声が響く。二人はそれくらい長く、口付けをしあっていた。
だが、互いが感じる時間はそう感じただけで、実際はもっと短かったのかもしれない。
ゆっくりと、神乃木と千尋の顔が離れる。恍惚とした表情で、千尋は神乃木の事を見詰める。それは職場で見るような、
ある意味純粋な表情ではなく、もはや立派な『女性』の顔であった。
そんな『女性』の面に、神乃木は不意打ちを食らう。胸の高まりが顔に現れてしまっているかもしれないぜ、と神乃木自身は思った。
実際は彼のポーカーフェイスによって、何とか素の自分が隠されていたわけだが。
「千尋……」
「は、はい……? 神乃木さん?」
ポーカーフェイスで上手く感情が隠れる神乃木とはうってかわり、自分の感情を素直に表している千尋の顔は、すでに水あめのように
甘くとろけた表情であった。その、戸惑いの中にある妖艶な表情に、神乃木はやはり千尋の事を愛しく思えた。
「クッ……こんな時くらいは、名前で呼んじゃくれねえか、千尋」
「っ……」
千尋の栗色の髪を撫でながら、神乃木は千尋の目を覗き込み、言う。
実に何でもないようなことを言っているはずなのに、千尋にはそのささやきこそが官能を刺激する言葉に思えた。
名前を、呼ぶ。
今現在名字で呼んでいることさえ、緊張して仕方が無い事なのに、この上更に名前で呼び合うなどと、まるで恋人同士ではないか。
(あ、私達、両想い、なんだっけ……?)
よくよく考えてみるとそう言う事になる。互いに想い合っていると言う事は、恋人だと見て取れる。そこに考えが思い至ると、
千尋は今の状況が嬉しく、そしてかつ息苦しくなるほど幸せに思えた。
「千尋…………」
神乃木が千尋の事を更に抱き寄せる。密着した肌がすでに熱い。
「荘……龍…さん」
かろうじてそれだけ言って、千尋は目を伏せる。だが、神乃木は少々残念そうだ。
「クッ…呼び捨てで良かったんだが……まあ、コネコちゃんがいつかしなやかなネコに変わるまでお預けされちゃってやるぜ」
「荘龍さん、それってわたしがまだ大人じゃないって言うんですか? 成人までしてるのに…」
神乃木の言葉に、不満を隠せずに千尋が尋ねる。だが、神乃木はそれを「クッ……」と笑ってやり過ごした。
千尋は今、心が追い付いていないだけだ。ならばこれからどんどん高まらせ、仕込んでしまえば良い。
その順序すら楽しめそうだ、と神乃木は不純ながらもそんな事を思った。
「じゃあ千尋、さっきの続き、だぜ」
「え?」
さっき? と千尋が眉をひそめる。さっきの続き、と言うと……
かあぁ、と千尋の顔が赤く染まる。
「え、えとえと、ええっと……さっきの続き、と言うのは…その、キ、キ、キ……」
「クッ……勿論、お見合いの続き、だぜ」
口付けをかわす以前の事を言われ、千尋は一瞬取り残された感がした。だがお見合い…確かお見合いの練習自体では、神乃木の事を断ったはずだが……
「コーヒーはいつ煎れても香りを提供してくれるのさ。例えコーヒー豆が変わろうが、それで香りが無くなる事は無い…絶対にな」
「は、はぁ………? つまり、どう言う事ですか?」
「つまり……オレは今まで振られる前提のお見合い相手をやっていた。けど、今度は振られる前提じゃないお見合いをしようって言うのさ」
「じゃあ初めからそう言えば…って、ええっ!?」
千尋が目を白黒させる間に、神乃木は千尋のうなじを人差し指で軽く撫でる。意表を突かれた千尋は「ふ、ぁんっ!」と嬌声を上げる。
「クッ…千尋はどこが一番感じやすいんだ?」
「そ、そんな事、お見合いと関係ありませんっ!」
恥ずかしい問いに答えまいと、千尋は首を振りながらそう訴えた。
「違うな、千尋。お見合いって言うのは互いを知るためのセレモニー。それ無くして互いの事を分かる気になるのは、安いコーヒー豆を
そのまま食べちゃうくらいお門違いなのさ」
「そんな奇抜な人は居ませ……はぁ、うっ!!」
神乃木の指がそのままうなじをなぞり、千尋の鎖骨へと辿りつく。夏だがマフラーくらいしておくのだった、と千尋は思った。そうすれば、
多少なりとも時間を稼ぐ事が出来、自分の不満を言い終わる事も可能だっただろう、と。
「千尋はオレの事が好きなんだろ? だったらやっぱりお互いの事を知りあうのは当然の事、だぜ」
「っ……」
そこでそれを引き合いに出してくるか、と千尋は正直思った。自分の想いを引き合いに出されたら、何も反論出来なくなってしまうではないか。
そんな千尋の心中を察しているのかいないのか、神乃木はニヤニヤ笑いながら千尋の表情が変わる様を楽しんでいるように見える。
神乃木の指が鎖骨を撫で、そしてそのまま豊満な胸の谷間へとその指を進もうとするのを、千尋は何とか手を添えてそれを遮る。
異性の誰にも触らせる事の無かった、自分の肌。
それを、目の前の男はすんなりと触れて来る。そして千尋もそんな神乃木の指を、肌を嫌とは思わなかった。ただ、初めての事に千尋は戸惑っているだけである。
(クッ…一から教えてるんじゃあさすがに日が暮れちゃうぜ…)
内心神乃木は時間の無い事に恨み事を思ったが、それでもそれを不満には思わなかった。
千尋は初めての割に感度が良く、スジも良い。何も知らない彼女に、それでも彼女に備わる『雌の記憶』を呼び起こす事は彼にとって少なからず歓喜なる物事と思えた。
神乃木は添えられ、邪魔をしてくる千尋の手を、ゆっくりと傍らにどかせた。少し肌の露出の比率が高い彼女のブラジャーを外そうとするのを、千尋が止める。
「そ、荘龍さん! わ、わたし……」
「クッ…どうした、千尋? 怖じ気付いちまったのか?」
神乃木の言葉に千尋は「ち、違います!」と言い、首を横に振る。
「そうじゃなくて……わたし…自分で、その、脱ぎますから……」
おいおい、と神乃木は思った。おそらく、見合いの続行の決め手となった『受身な自分は嫌だ』的な意地があるのだろう。だが、彼女のこうした何気ない意地が、
神乃木の官能に触れ、ますます彼女を物にしたくなる。
「……ああ、分かった。やってみな」
神乃木はうなずくと、千尋が脱ぐさまをじっと見詰める。
見詰められている事に、「あんまり見ないで下さい…」と恥じらっていた千尋だったが、視線を反らそうとしない神乃木の反応に諦め、千尋はゆっくりと自身の衣服を脱いでいく。
視姦。
徐々に千尋の中から恥じらい以上に、見られていると言う事に対する、ある意味での悦びが生まれ始め、『雌』の記憶はその悦びを貪った。
その悦びは千尋の太股の間をじわり、と熱くさせる。
やがて、本当にゆっくりと千尋の胸が露呈した。千尋は更に下の方の衣服にも手を掛けた。だがそれを神乃木が制した。これ以上待たされては生き地獄だ。
「荘龍さん……?」
「千尋…」
もう一度神乃木は千尋の事を抱き寄せると、そのまま口付けをした。
まだ何分も経っていないはずなのに、千尋に何時間も触れていなかったような、そんな感じがする。その愛しさと性急さに、神乃木は内心苦笑する。
(何てこった……オレが千尋に振り回されちまってるぜ)
だが悪くない。
恋は乞い求めるから恋と言うのだ。
唇をゆっくりと離した後、阻むものも無くなった胸へと神乃木は無粋に触れ、揉みしだく。千尋の柔らかで豊かな胸は、神乃木の指の弄ぶままに形を変え、
灘(なだ)らかな丘から凹凸を生み出す。
「んっ……!」
少し強めに揉まれ、千尋は苦しさのうめき声を上げる。吸い付くようにぴったりと触れている神乃木の指は、千尋の性欲を刺激する。
「さあ、どこが一番感じやすいんだ? 言ってみな、聞いてやるぜ」
その神乃木の声も、言葉も官能に触れる。
「う……くふんっ!」
「まさか胸が一番感じやすいとか言うんじゃないだろうな、千尋。だったらこの先、もっと大変な感覚が襲っちまうぜ?」
普段のからかうような声で、神乃木は千尋の事を徐々に快楽の渦へと追い詰める。
「で、もっ……そ、そんな事…言える訳が……はぅんっ!!」
神乃木の指が、千尋の柔らかな丘にある桃色の先端の、その窪みをなぞる。きゅっとその窪みが硬くなり、しこりとなる。
「千尋は、自分の身体の構造は分かってるか?」
「えっ…そ、んな…あはぁっ!」
面食らったような声とあえぎ声が千尋の唇から出される。
「わ、たし……んんっ…」
「たとえば、自慰行為はした事があるか?」
「っ……!!」
かあぁ、と千尋の顔が赤くなる。さすがに直球で聞きすぎたか、とは思ったが、こうしたいじめによって千尋の感度が高くなるのは明らかだった。
一方の千尋は、余りに羞恥心を起こすような質問に、身体が熱くなるのを感じた。
(そ、そりゃあ…した事は無いわけじゃないけれど……)
けれど、怖かった。
一度『そこ』に触れただけで、身体に緊張が走ったし、己の指先が生みかけた快楽に恐怖を抱き、すぐに断念したのだ。
だから、自慰経験が無いわけでも、また有るわけでもない。そんな曖昧な快楽の経験しかなかった。
「………あ、の…」
言いよどむ千尋。そんな千尋を見て、神乃木は苦笑する。
神乃木は千尋の事を引き寄せ、寝床に座り込ませる。白く一矢もまとわぬ彼女の身体の全貌が一瞬見え、神乃木は息をのんだが、
気を取りなおすと彼女の柔らかな太股を掴み、秘部が良く見えるように広げさせた。
白い千尋の肌とは一変して、その園は薄紅色に染まり、外気に触れている。
「やっ……何をいきなり……」
羞恥心が芽生え、千尋はくしゃっと顔を歪めて神乃木に訴える。
それは、間違い無く『女』の顔だ。
赤面し、口をぱくぱくさせる千尋を取りあえず放っておき、神乃木はその部分に自分の指を向け、そっと触れた。
……熱い。
「ひぅっ……!」
急に指を当てられ、官能に触れる微かな刺激に、千尋は思わず甘く鳴く。
神乃木は黙って指先を凹凸の激しく、入り組んだ聖地へと潜り込ませ、窪みをなぞる。
まだ入り口に触れてさえいないと言うのに、千尋のそこはひくんっ、と震えた。
「っあ……ふ…」
目を細め、頬を更に上気させて千尋が喘ぐ。
「ここは…感じねえか?」
「あっ、あんっ……ひゃっ…」
神乃木は人差し指で何度も軽く窪みを行き来し、徐々に核心へと近付いて行く。核心へと近付けば近付くほど、千尋の細い身体が震え、
その口からは甘い声を紡ぎ出す。その途中経過を、神乃木は悦しむ。
「けどな、千尋。これよりももっと感じる瞬間って言うのが有るんだぜ? こんな所で感じきってたら、身体が引きちぎれるような快楽に参っちまうぜ?」
「そ、その形容詞…なんと、なく…現実味を感じるので…あ、ふくっ…止め…ひゃんっ!」
異論を入れようとする間も、神乃木は指を動かし、窪みの熱を感じながら、徐々に千尋の一部分一部分を知って行く。
遂に、その入り口に触れた。
「う、くっ……あぅっ…」
ひくひく震え、千尋は神乃木の腕を止めようとすがる。
だが、神乃木はそれに答えず、千尋の中へとゆっくり指を進め始めた。
「あ、う…い、やぁんっ!! は、っあああっ」
ゆっくりと入れると千尋は非常に感度が高いらしく、悲鳴にも近い喘ぎを放つ。ふるふると首を振ると、彼女の髪がゆらゆらと白い肌に流れる。
「やっ……だめ…」
涙を目に浮かべ、懇願する千尋。神乃木は人差し指を中へ、中へと入れていきながら、親指では別の個所をさすり始めた。
それは窪みから、やがて充血し、ひときわ赤くなっている突起物に触れた。千尋の背筋に、電流にも似た快楽が走り巡る。
「ああ、あ、あああっ!」
紡ぐ言葉も分からず、千尋はこみ上げる悲鳴をそのまま口にし、背筋をピンと伸ばして退け反る。瞬時にして、人差し指へと吸い付く
肉壁の締めが激しくなり、じわり、じわりと指に絡み付く粘液を感じた。
「ひゃぅ、荘龍……さぁんっ! だ、め…おかし、い…ぁんっ!!」
表面上は拒絶の言葉も、神乃木の親指からの刺激に、震えて溶けて行く。
神乃木の人差し指は、千尋の秘部から溢れる蜜に濡れ、更に奥へと突き進ませる事を可能にしていた。当然、
神乃木は留まる理由も無く、奥へ、奥へと指を入れて行く。
「んっ…そ…の辺り、ダメ…です……ふぅっ…」
「クッ。ココがダメなのか、千尋」
遂に漏らした千尋の言葉に、神乃木はにやりと笑う。
秘部に暖かな血が集まり、そこの熱を更に帯びさせるのが分かる。
肉壁は締めつけながらも、中へと誘う膣液がその壁面をぬめらせ、卑猥な音を立てさせる。
「ひ、あっ、ああんっ!」
神乃木が指を更に激しく動かす。びちゃり、と言う粘液質の音を立てて指はずぶぶと第二関節まで入ってしまった。
気の遠くなりそうな快楽。
千尋は頭をぼうっとさせながら、神乃木の声を聞き、鳴く。
神乃木の親指が、しこりにこすれるたびに、堪えがたい刺激が身体中に走り回る。
「あぁっ、い、ゃぁ……うっ…うく、ひぃんっ!!」
身体を襲う快楽がとても怖い。
それは未知に対する恐怖、と言うのではなく、このまま溺れてしまうのではないかと錯覚する危惧心の為であっただろうか。
白くしなやかな肢体が、ひくひくと揺れ動いているのが分かる。千尋は何度も身体を振るわせ、絶頂を何度も迎えていた。
「んくっ、はあっ、ああぁぁっ!!」
潤んだ目はいつしか神乃木しか映さなくなり、とろりと溶けた彼女の思考に、神乃木の言葉が何度も何度も潜り込む。
意識を犯している事にも、意識を犯されている事にも互いに気付かない。
最終更新:2006年12月12日 22:24