[279]たかあき@クロスオーバー
「」は日本語
『』は英語で話してると思って下さい
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これは、俺の昔の話だ。
片方は違う親に連れられて、海外に来ている。所謂新婚旅行で、もう帰る1日前くらいだ。
今日は自由に時間を使っていいということで、まだ寝ている母親を残してホテルを出た。
なんとなくぶらりと散歩していた。
長い距離を歩いて疲れた。持ってきたペットボトルのお茶も、もう底をついている。
少々嫌だが仕方ない。財布から金を出して、自販機を探して辺りを見回したら、妙にでかい影が俺を隠した。
「Hey,kid.」
銀髪に、青い瞳。当たり前だが外人だ。しかも英語。
風変わりな真っ赤なコートを着るその姿がごたごたした背景に妙に合っていた。
綺麗に整った唇が開く。
『ここらで飲み物売ってる場所知ってるか?仕事で遠征していて、この辺りに何があるかわからん』
『俺も探してるんだけど。というか、俺簡単な英語しか話せないよ。他の人に聞いたら?』
『いや、あんたで構わんさ。案内してくれるかい?』
そう言って、銀髪さんは俺の頭を撫でた。
やけにでかくて、ゴツゴツした手だ。
『俺の名前はダンテだ。坊やは?』
『坊やは止めて。俺は貴彰だよ』
目も見ずに吐き捨てた。
こんな面倒なことになるなら散歩なんてしなきゃ良かった。
「この辺りだと、自販機じゃなくてスーパーのほうが近いかもな…」
「What?」
「…Nothing.」
とりあえず、歩きはじめる。後ろからは大きな影がついて来る。
始終背中に視線が注がれる気がして気持ち悪い。
低い声がつたなく俺の名前を呼んだ。
『貴彰』
『なんですかダンテさん』
『…いや、なんでもない』
『そうですか』
変なの、と思えば、またぼそぼそとダンテさんは言う。
『…昔を思い出すな、こんなにガキっぽい顔はしてなかったが』
『…なにか?』
ガキ、という言葉は理解できた。
しかめっ面になれば、銀髪のおっさんは喉の奥で笑った。そして、『なんでもないさ』と言って俺から視線を外した。
そのあとは、何回か話すものの、理解できなかったり、英語が間違ってると指摘されたりもした。
だから、赤いコートは暑苦しいとだけ言い返しておいた。
けれども、俺でも理解できるように話してくれている、そんな風に単語を選んでくれたり、早口で言わなかったりと、気遣ってくれていた。なんだかすまない気持ちになる。
スーパーとは少し離れていただけだったから、すぐ目的地に着いた。
買い物を済ませば、彼は何かを投げてきた。
『貴彰、アイスやるよ。お礼だ』
『あ、ありがとう』
赤とピンクの包装の冷たいそれ。
ダンテさんは飲み物だけでなく、アイスも買っていたらしい。
「苺アイス…」
『嫌いか?』
『いや、好きだよ。ありがとう』
じっと見つめていたら問われた。
立って包装を破こうとしたら、おっさんは既に袋を開けてアイスにかじりついていた。
髭のある顎に少し溶けたのが垂れていたのも器用に掬い、口に運ぶ。
『ピザも食べたいな…』なんて言葉も漏らしていたような気がする。
『…ダンテさん、これからどうするんですか?』
『さあ、どうだろうな』
『そうですか……ごちそうさま、と』
全てたいらげて、ごみ箱にいらなくなった包み紙を捨てる。
ダンテさんは既に食べ終わっていた。
『じゃあな』
『はい、さよなら』
彼は俺の髪を撫でてから、そっと離れて行った。
口の中にはまだ苺アイスの味と痺れた冷たさが残っていた。
「…まずい、明らかにまずい」
裏路地に入り込みすぎた。
何だか異臭もする。まるで、何かが腐ったような。
靄もかかってきている。人気もない。何か起こらないうちに、早く戻らなければ。
「…っ、一本道だったよな」
急いで帰ればそうするほど、道がわからなくなっていくような感じがする。
頭を冷やさなければと思っても、冷たく嫌な汗が流れるだけで恐怖感ばかりが増す。
「はっ、っ、…――!?」
ずどん、と大きな音と砂埃をあげて、それは突然やってきた。
案山子にも似た風貌と、気持ち悪い四肢。そして鎌。
まるで、怪物みたいだ。
「ひっ…」
その刃が振り上げられる。
逃げろ、逃げろと体に命令しても、すくんで何も動けない。
段々と恐怖に侵されて、そして、
――本当に、こんなことなら散歩になんて
「助けて蒼斗…っ!」
反射的に目をつぶる。
ごしゃり、という音と、銃声がやけに耳に残った。
骨が砕けて死んだ、そう思った。
痛みもない。死ぬのは本当は痛くないのだろうか。
そっと瞼を開けてみた。
「…あ、れ」
「Kid , are you all right?」
そこには、赤いコートを着た銀髪のでかい人が、俺の前に立っていた。
「ダンテ…さん?」
彼のすぐ側には、さっきの奴の鎌が土をえぐるように刺さっていた。さっきの音はこれか。
怪物みたいな奴は、俺の目の前で破裂したようにして消えた。
『な、なんであんたがここに?さっきのあれはなんなんだよ』
『これが、俺の仕事ってやつでね』
『…あんた、一体何者なんだ』
『貴彰が知るにはまだ早いさ』
そういって、唇に指を押し当てて、内緒って仕種をされた。
もう片方の手には、銀色に光る銃が握られている。
馬鹿にされたみたいだったが、しょうがないことだと頭の中では冷静に処理をしていた。
『…それと』
すらり、と金属の音がした。
ダンテさんは、何も持っていないほうの手に、もう一つ黒い銃を握って構えた。
はっとなって回りを見渡せば、先程ダンテさんに倒された奴がうじゃうじゃと湧いたようにそこら中にいた。
『俺から離れるなよ』
いきなり強く抱き寄せられたと思えば、俺の踵の真後ろに鎌の先端が刺さった。
振り返れば、さっきと似た奴の空っぽの双眸と目が合った。
そしてダンテさんは間髪入れずそいつに銃を突き付けて、撃った。
薬莢が落ちてカラカラと音が鳴る。
ダンテさんは器用に両手の銀と黒で、敵を倒していった。
途中、cartridge caseに触るなって言われたけど、その単語がなんだかわからなかった。
ぐしゃぐしゃと敵が歪んで死んでいくのは気分が悪かったが、ダンテさんは反対に鼻歌なんて歌っていた。彼にとってこいつらはそんな程度なんだろう。
いきなり、疲労感が襲う。瞼が重い。気が付けば体中から力がなくなっていって、それで。
薄れてく意識の中で、最後に残ったのは、化け物の声と遠くで聞こえるダンテさんの声だった。
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目が覚めたときには、見慣れた天井があった。
横を見てみれば、母さんの顔。
「かあ、さん…?」
「よかった、目が覚めたのね」
とても心配そうな顔をしていた母さんは、ほっとしたような笑顔を見せた。
「そうだ、ダンテさんは?銀髪のおじさん。俺、気絶して、それで…」
「ああ、その人なら、もう帰ったわよ」
「え…」
「あなたの財布に、ここのホテルの住所を書いたメモを入れておいて良かったわ。それで送り届けてきてくれたみたい」
そうだったのか。この土地は初めてって言ってたから、苦労したんじゃないのか。
それに、助けてもらっておいてお礼もなにもしていない。
「ね、ねえ、あの人、どこに住んでるとか言わなかった?」
「言ってなかったわ。お礼がしたい、って言ったら、ピザ一枚買えるだけの金があれば十分だって。だから、お金渡そうとして財布取りに行ったら、もういなかったの」
「…そっか」
がっかりした。そう俯くと、肩に一本の髪の毛。銀色のそれは、あきらかに彼のものだった。
急に、なんだかあの時の苺アイスの味を思い出しては泣きそうになった。
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今現在、母親が他界した後。
あれがきっかけなのか、お化けという類のものが怖く感じるようになった。
あんな化け物、幻覚かもしれない。そう思っても、あの時の髪は俺のお守りの袋の中に入っているのだ。
貴彰のお化けが怖くなったお話でした
クロスオーバーは難しいです
最終更新:2010年09月14日 18:41