【罠と粛正と仮面】
れいむは幸せだった。番いは群れで一番狩りの上手なまりさ、子供はかわいいれいむ種が一匹。
広くて快適なおうちに、たくさんの食料。
輝く未来、いつまでもゆっくりできる日常があると思っていた。
とある日、子供の赤れいむが一輪の花をプレゼントしてくれた。
「おきゃあしゃん、いつもありがちょう! れいみゅからおきゃあしゃんに、かんしゃのぷれじぇんとだよ!」
れいむは涙をこぼして喜んだ。どういたしまして、これからもゆっくりしようね、そう言い交わした。
―――――
またある日、番いのまりさがおいしいお野菜さんをプレゼントしてくれた。
「まりさについてきてくれてありがとうなのぜ。まりさは、れいむのことがずっとずっとだいすきなのぜ」
れいむとまりさは、互いの愛を確認した。赤れいむは、仲睦まじい両親を見て微笑んでいた。
―――――
そんなことがあって、後日。
「ゆっくりのひー♪ まったりのひー♪ おいしいごはんにぽかぽかたいようさん……ゆっ!? じしんさんがきたよ!」
それは、地震などではなかった。
「あっ、やっぱりこんなところに住み着いてるよ」
人間がそこにいた。人間の踏み鳴らす足音が響いたのだ。
「ここはおらん家の納屋なんだが」
ここは、人間の所有物である納屋の一つだった。
だが、ゆっくりにそんなことは関係ない。雨風は防げるし、しかも温かな藁が敷かれているのだ。これほどの優良物件を手放すはずがない。
「しらないのぜ! ここはまりさたちのおうちなんだぜ! ばかなにんげんはさっさとでていくんだぜ!」
「そうだよ! れいむたちはかぞくなんだよ! やさしくしなきゃだめだよ!」
「ばきゃなにんげんはれいみゅにあまあましゃんもってきちぇね!」
これは別に、ゆっくりたちが増長しているわけではない。彼らの感覚からすれば、自分たちに不都合なものは全て
「ゆっくりできない」ものになるのだ。
だから、よほど性根が純粋で生れつき性質の良いゆっくりでないと、人間と共存などできるわけがない。
見つけたものが勝ち。先にいるほうが勝ち。そんな子供の理屈が通るほど、人間の世界は甘くない。
が、この人間は比較的穏やかな性格の持ち主だった。
人語を解すゆっくりを殺すのは、どことなく憚られる。そんなことを呟きながら、ゆっくりを外へ放り出そうとした、そのとき。
あるものが、人間の眼に止まる。それはぐしゃぐしゃになって乾いた花であり、食い散らかされた野菜のゴミであった。
「……一応聞くが、おらの畑を荒らしたのはおめえらか?」
「ゆゆっ! おやさいさんはかってにはえてくるんだぜ! だからまりさたちがたべてあげたのぜ!」
「おはなしゃんはれいみゅがおきゃあしゃんにぷれじぇんとしちゃよ!」
「……すまんが、今からおめえらを殺す」
そう宣言して、納屋の扉を固く閉めた。
―――――
れいむの眼の前には、物言わぬ死骸と成り果てた二つの饅頭があった。
「ばりざ……おぢびぢゃん……じんじゃいやぁぁぁ……」
「これが最後の質問だ」
「ゆっ……?」
「野菜とおめえの家族、どちらが大切だと思う?」
れいむは迷った。もちろん、そんなものは家族に決まっている。だが、まりさと赤ちゃんは
「家族」と答えて殺された。ならば。
「ゆっ! おやさいさんのほうがたいせつだよ!」
人間は、にっこりと笑った。助けてもらえる、そう思った。
「んなわきゃねえだろうがぁぁぁ!」
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? どぼぢでぇぇぇ!?」
「おめえは家族よりも野菜のが大切なのか! こいつら二匹は家族のほうが大切だと言って死んだのに! 貫くなら最後まで我が儘を貫き通せやぁぁぁ!」
れいむは鍬でめった刺しにされて死んだ。
「はぁー、すっきりした。またぞろ、その辺にクズ野菜撒いて造化立てて、アホなゆっくりどもを釣ろうかな」
その人間は、多面的には穏やかな性格に見えた。
ある一方では凶変する、その性格の裏側の汚れた部分などは、死んだゆっくりにしかわからぬことであった。
完
最終更新:2010年10月21日 20:48