【そして世界は】
牢獄。
私は、罪を犯して牢獄に容れられた。憎き敵を、思いのままに撲殺した結果だった。
後悔はなかった。むしろ、清々しささえある。殺したことに後悔はないが、懸念はある。唯一の肉親である一人娘。彼女は今頃、私のことで世間の冷たい目に曝されているはずだ。
妻に先立たれた私にとって、彼女は、私の生きる理由の一つであった。大切に慈しみ、育てなければならない彼女を不幸にしたのは、紛れも無い私だ。
……会いたい。会って、話がしたい。
私は間違ったことをしたのだろうか、と問いたかった。
―――――
「ゆっくり愛護法」。
悪法だ。どう考えても悪法であり、失政である。
「テレビの前の皆さん、ご覧ください! ここは国内最大手のゆっくりペットショップで、千を超すゆっくりが飼育、販売されています。かわいいですねえ」
けたたましい声に顔をしかめながらテレビを見る。映されたゆっくりペットショップは、壮美を極めていた。磨かれた床、細緻な彫刻のされた装飾。暖かみのある光に照らされたゆっくりたちは、例外なくゆっくりしていた。
溜め息を一つ。 こんな奴らに、父は殺されたのだ。
ゆっくりを愛し、保護したい政治家がおおぜいいた。いわゆる愛で派と言われる彼らは、国民をだまくらかして、ゆっくりたちを特定愛護動物とした。
ゆっくりに危害を加えたものは、即時逮捕、牢獄行きだ。反対がなかったわけではない。だが、反対派の筆頭だった父は、ゆっくりを殺して投獄され、処刑された。あからさまなみせしめだった。
父は、間違ってなどいない。増長したゆっくりは、様々な害を引き起こしていた。
復讐だ。父を殺したゆっくりに、人間に、世界に復讐するのだ。
―――――
「どぼぢでごんなごとずるのぉぉぉ……」
「さあ、ね。強いていえば、生きていること自体が殺す理由かしら」
「ぞんな……みんなゆっぐりじでだのに……」
「そう。なら、死ね」
何百回も聞いた音。皮が破ける音。餡子が飛び出す音。
「次、行くわよ」
わたしは各地のゆっくり愛護施設を潰してまわっていた。笑顔を壊し、ゆっくりした命を蹴散らすわたしは、すでに修羅となっている。もう、戻れないところまできている。
この世界に生きる、全てのゆっくりを殺す。
そして、世界は――――。
完
最終更新:2010年11月23日 19:42