【どうして?】
視界が歪み、数瞬の後に頬に強い痛みが広がる。律はその場に崩れ落ちた。
「な、なんで……?」
殴られた。何故、自分がこんなことをされるのか。律の心が恐怖に満たされる。
「りっちゃんをボコボコにするのが夢だったんだ」
醜悪な笑みを浮かべながら、その人は言った。
抵抗する気は起きなかった。敵愾心よりも恐怖心が勝っていた。喉が乾き、足は震える。目元に涙が溜まる。
「ああ、たまらないよ。その表情、すごく良い……」
恍惚とした顔。
「次はりっちゃんサッカーだ。ボールはりっちゃんの頭だよ」
「や、やめ……うぐっ!?」
顔面を重い一撃が襲う。温かいものが噴き出す。
「わあ、りっちゃんの鼻血だ。ペロペロしてあげるね」
「ごめっ……ごめんなさい……」
顔を這う舌の感触を感じながら、律は必死に謝罪する。こんなことをされているのは、きっと自分が悪いからなのだ、そう思っていた。
「どうして謝るの?」
「え……」
「りっちゃんは悪くないよ。『ボコボコにされる対象』、ただそれだけなんだよ。理由は無い、殴って蹴って虐めたい。そのためだけの田井中律であり、それ以上でもそれ以下でもないんだ」
「…………」
地獄が、始まった。
完
最終更新:2010年11月25日 13:42